くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ふたりの文化祭」藤野恵美

2016-06-30 23:07:16 | YA・児童書
 この企画、おもしろい! 昔、遊園地にヘッドホンだけ置いてあった、音で恐怖を聞かせるアトラクションを思い出しました。
 ただ、二日間一人で朗読を続けるのは大変だと思いますよ。あやちゃん、手伝えばいいのに。
 藤野恵美「ふたりの文化祭」(角川書店)。家庭の境遇のため、保育園では一緒に預かり保育を受けていた潤とあや。高校で再会しますが、あやのことは覚えていないらしい潤。すっかり人気者として振る舞う彼に苛立ちを覚えます。
 ふとしたことから実行委員の仕事を代わることになった潤は、クラスのみんなに仕事を振り分けていきます。
 昔から集団でのイベントが苦手だったあやですが、いつの間にか仲間意識も生まれてきて、潤や友人と本の買い出しに出たりします。
 「黒猫」とか「猿の手」とか、恐怖小説をセレクトするあやですが、川端の「片腕」を変化球として選びます。
 でも、これ、高校の文化祭に読むのもどうかと思うのですが。
 策略をめぐらした田端とか、友人のお兄さんとか、彼女の好きな人とか、なんだかもっと続きそうなシチュエイションで物語は終わります。
 一年生だからね、まだまだ青春は続くということでしょうか。
 

「東京すみっこごはん」成田名璃子

2016-06-28 21:20:47 | 文芸・エンターテイメント
 昨年文庫が発売されたとき、買おうと思ったのですが。
 今回読んでみて、続きが気になってなりません。「東京すみっこごはん」(光文社文庫)。
 学校で無視されていることから、唯一の家族である祖父ともぎくしゃくし始めた楓。友達の家にいくと嘘をついて出てきたもののいくあてもなく。
 なんとなく入った路地にあった「すみっこごはん」に誘われて、シェフの金子さんが作ったクリームコロッケをご馳走になります。
 ここは会員制の共同厨房だと言われて、なんとなく通い始める楓。
 料理を作るのはくじ引き。レシピノートから作りたいものを作る。
 婚活中の会社員奈央や、タイからの留学生ジェップ、洋食が得意なおじさんの早川、口が悪いおやじ柿本(通称「渋柿」)といった会員たちの、食にかかわる連作短編です。
 そして、実はこの「すみっこごはん」とは……。
 偽名を言ったためにずっと「カナ」と呼ばれてきた伏線。楓が、周囲に助けられて成長していく姿がすてきです。
 ついでに、有子さんのブログに一喜一憂する早川さんに納得しました。

「誰にもさがせない」大崎梢

2016-06-27 22:51:56 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 大学生の晶良は、幼なじみの伯斗から急に山歩きに誘われます。かつて夢中になった六川村を探しに行こうと。
 ふたりの祖母はやはり幼なじみで、昔友人から隠れ里の地図を書いてもらった。穴山梅雪の隠した財宝を守るためにひっそりと存在するその村は、誰にも知られないままに廃村になってしまったらしいのです。
 小学生のときに見つけた別の村跡に向かったところ、誰かが入り込んだ形跡があって……。

 大崎さんのサバイバルものです!
 幻の村に眠る埋蔵金を求める人々と、振り込め詐欺のグループとが、山梨県を舞台に交錯するサスペンス。ほとんどが山中でのやり取りなので、映画になってもいいかもしれません。
 「誰にもさがせない」(幻冬舎)。
 タイトルからいっても、この埋蔵金は見つからないのではないかと思います。「一度は見つかる、二度めはない」というようなジンクスも書いてありましたよね。
 見つからないからこそ、ロマンなんじゃないかな、と思ってしまいます。
 わたしは、ちょっとお調子者だけと意外としっかりしている吉井くんが好きですねぇ。(晶良の友達で、山についてくるのです)
 最初に登場したカノコ先輩のお友達(来年度の湖衣姫役)は、もっと重要な役回りかと予想したのですが……。
 わたしも山梨に行ってみたいなあ。
 

「十五歳の課外授業」白河三兎

2016-06-22 05:53:35 | 文芸・エンターテイメント
 この学校の先生方、生徒指導大変そうだな……と思ってしまうわたし。ラストシーンも不登校だの集団無視だの授業中携帯握り締めてると思ったら飛び出していくし。うーん、卓郎がこんな奇怪な行動していたら、歯科医院潰れるんじゃないでしょうか。
 白河三兎「十五歳の課外授業」(集英社文庫)。わたしには純粋には読めませんでした。
 学校一の人気者ユーカと付き合っている卓郎は、教育実習にきた垢抜けない女子大生辻薫子が、昔よく家にきていた「かおるお姉ちゃん」であることに気づきます。
 薫子に憧れる友人「ヨッシー」を応援しようと、同級生オンダの非常識な取引に乗ることにするのですが……。

 思春期のせいなんでしょうか、登場人物全員へんです。(ちょっと遠慮してひらがなにしてみました)
 エキセントリックな作家に肩入れして、ヒロインまがいの行動をとるユーカ。マザコンのヨッシー。卓郎を連れて香川にうどんを食べに行く薫子。大人もなんだか共感できない。
 姉の絢音くらいかな、許せるのは。
 相撲で名を馳せて番長と呼ばれちゃうのとか。十七歳の誕生日に家出しちゃうとか。ユニーク過ぎて反対に許せます。

 歯並びのいい女性をネット検索するうちに、卓郎は薫子が水商売をしていることを知ってしまいます。
 そこからまたどろどろの展開になっていくのですが、うん、自分探しについて考えるあたりは納得できました。
 でも、歯医者は絢音が継いだ方がいいんじゃないかな。

「さよならクリームソーダ」額賀澪

2016-06-21 20:36:27 | 文芸・エンターテイメント
 登場人物たちが、それまで受け入れることのできなかったことを認める物語だと思いました。
 額賀澪「さよならクリームソーダ」(文藝春秋)。
 舞台は花房美術大学。油絵を学ぶ友親は同じ寮に住む若菜先輩(男)と親しくなります。母親の再婚がらみで仕送りを断っている友親に、彼はかなりの大金を貸してくれます。
 ひょうひょうとしている割りにはクールで秘密主義、モテるけど特定の相手は聞かず、そのくせ好意を利用する若菜先輩。彼のおすすめの喫茶店で白いクリームソーダを見かけ、注文してみるのですが、届いたのは違うもの。
 実はこのクリームソーダ、若菜先輩の思い出が詰まっており、お店で特別に作ってもらっているのだとか。
 先輩のことを探るように強要する女子大生の恭子ちゃん、個性的な先輩方(和尚先輩、バーナビー先輩、小夜子先輩など)、友人の有馬、義理の姉とのエピソードが積み重ねられて、素敵な青春小説になっています。しかも、舞台は寮生活ですからね。
 挿話として語られる「ヨシキ」との日々が、尾崎の曲と重ね合わされて胸に迫ります。わたしは尾崎苦手なんですけどね。でも、若菜先輩が尾崎を口ずさむ理由はすごくわかります。
 若菜先輩の絵のモチーフには、たびたび「ヨシキ」が選ばれますが、彼にとっては「似てるのに、違う気がする」のです。
 おそらくクリームソーダも、ヨシキが作ってくれたものとは「似てるのに、違う気がする」のではないでしょうか。だけど、それを受け入れられるようになる。
 若菜先輩の家族も彼の思いを汲んで自立を許し、友親は母の再婚を肯定します。
 ひりひりとした切なさで描かれる日々が、さわやかで美しいです。

「15歳の短歌・俳句・川柳」その2

2016-06-19 19:23:48 | 詩歌
 文香さんのエッセイには、夏井いつきさんが坪内稔典さんの短歌を一部伏せて授業に用いたエピソードも紹介されています。
   がんばるわなんて言うなよ草の花
 可憐な句ですね。おもしろかったので、文香さんの句集「君に目があり見開かれ」(港の人)を買ってみました。
 でも、解説なしだと自分の読みでいいのかどうか不安を感じます。
 授業ではエピソードとか語句の説明とかはしますが、ニュアンスをうまく伝えられないわたし。
 印象的な句と、「15歳の短歌・俳句・川柳」の解釈とを比べて読み込んでいけば、このもどかしい思いを解消できるでしょうか。

 心に引っかかるものをもう少しあげてみます。
   人殺す我かも知らず飛ぶ蛍  前田普羅
   草の実や女子とふつうに話せない  越智友亮
   非常口の緑の人と森へゆく  なかはられいこ
   折れてくれ折れ線グラフなのだから  凡山進
 しかし、自分の書いた字ながら、時間がたつと解読が難しいところがあります……。
 最後に、ハンセン病の歌人明石海人の短歌を。
   父母のえらび給ひし名をすててこの島の院に棲むべくは来ぬ

「15歳の短歌・俳句・川柳」

2016-06-14 21:47:48 | 詩歌
 図書館にひさしぶりに足を運びました。
 早速「15歳の短歌・俳句・川柳」(ゆまに書房)を三冊セットで借りてみました。
 ①愛と恋 ②生と夢 ③なやみ だったかな……。
 あといつ行けるかもわからないので、すぐ返却できるように車に置いてしまう……。
 とりあえず、②は自分で所有したいと痛切に思います。巻末の佐藤文香さんのエッセイがすごくいい。夏井いつきさんとの出会いから俳句甲子園でのやり取り、解釈をめぐってチームで対策を立てていくのとか、青春小説みたい。
 おもしろかった作品を抜き書きしたら、かなりの量になりました。

   さかみちを全速力でかけおりてうちについたら幕府をひらく  望月裕次郎
   うれいなくたのしく生きよ娘たち熊銀行に鮭をあずけて  雪舟えま
   恋しげく柿の裏葉の夜をかよふ  三橋敏雄
   わたくしの通ったあとのすごい闇  定金冬二
   空のまほらかがやきわたる雲の群千年くらいは待ってみせるさ  山田富士郎

 個性的ですよね。初めて目にしてふと心ひかれるものも結構あります。例えば「おとうとよ忘るるなかれ天翔ける鳥たちおもき内蔵もつを」伊藤一彦さんは若山牧水の研究者で、堺雅人さんの恩師。お二人の共著がすごくおもしろかったのですが、返却期間がきてしまって全部読み終わらないまま……。また借りようと思いました。
 奥村晃作さんの短歌がすごいおもしろい!
 「ボールペンはミツビシがよくミツビシのボールペン買ひに文房具屋に行く」。「ただごと歌」というのを提唱されているのだそうです。思わず検索しましたよ。ああ、聞いたことある、と思う作品が多かった。

語り尽くせないので、続きます。