くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「先生と僕」春日ゆら

2011-04-30 21:30:40 | コミック
タイトルからいって、「こころ」に関わる話なのかな? と思ったらその通りでした。
夏目漱石と弟子たちの交流を描くまんが、春日ゆら「先生と僕」(メディアファクトリー)。悔しいことに二巻しか見当たりません。
子規との交流を軸に、様々な文人たちとの関わりを描くこのまんが、わたしにはすごくおもしろくて、いちいち感心しながら読みました。
とくに印象的だったのは、寺田寅彦が勉強の苦しさを嘆く級友たちに、自分も勉強が好きではないので授業だけで覚えようとしている、何度もやっている君たちの方がよっぽど勉強好きだと語る場面。
どこかで聞いたことか……。あっ、「動物のお医者さん」だ! 追試を受けないように勉強するハムテル、実はこのエピソードがモデル?
それから、虚子が漱石に原稿を依頼するあたりのところもおもしろい。考えてみれば、読者にとって漱石は小説家、虚子は俳人な訳です。しかし、ある時点で漱石は英文学者(趣味は俳句)であり、虚子は小説家を目指す編集者であったのですよね。二人をつなぐのは子規であり、虚子は「闘志抱きて丘に立」つ前なのです。
これは国文学に親しむ人にはオススメだわー。
ところで、一関のK書房でようやく一巻を発見。小躍りして購入したわたしに、
「これ、二巻も出てますよー」と言ってくれたレジの方。もしかして、この本を読まれたのでしょうか。
ありがとうございます。そうですね、普通は二巻から買いませんよね……。

「コーラル城の平穏な日々」茅田砂胡

2011-04-28 00:35:21 | YA・児童書
岩手では本が流通している!
四月上旬、宮城では週末まで新刊の入手は無理だと聞いたので、ちょっと足をのばしてみました。そしたら、「ちはやふる」も(西田がカッコイイと思った)「花に染む」も(水野さんの練習は花乃が見たのですねー)新刊が出ていて、「デルフィニア戦記」の外伝まであるではないですか。
うれしい。確か、岩手はガソリン復旧も早かったのですよね。宮城もなんとかなりつつあり、並ばなくとも買えるようになった頃でした。休業している店もありますけどね。
というわけで、今回は茅田砂胡「コーラル城の平穏な日々」(Cノベル)です。「ポーラの休日」「王と王妃の新婚事情」「シェラの日常」の三編収録。とはいえ、真ん中のはわずか数ページですが。
こっちとしては、どうしてもリィは少年だと思って読んでしまう訳で、なんだか奇妙な感じでした。
「ポーラ」は、画集に収録された作品で、だから一回読んでいるのですが、細部を結構忘れているのですよね。改稿してあるそうなのですが、テイストは同じです。コスプレ的な楽しさもあり、表紙や口絵と合わせて見ると魅力倍増です。
「シェラ」はものすごくプライドの高い侍女である人の、多忙な一日を描いていて、やっぱり陰謀なしには生きられないのだなと感じました。王妃の食欲について食品管理人が疑問を抱くエピソードも楽しかった。
でもでも、やっぱり主要な「お約束」を失念していて、もどかしいのです。
リィってどうして狼に育てられたんだっけ? という物語の根底に関わることまで忘れ、騎士団の皆さんの恋愛模様を忘れ、若手の団員の背景(キャリガンの姉?等)もなかなか思い出せず、もう一度読み返したい気持ちになりました。
これは比較的手に入れやすいので、読み返すのは容易かと思いますが、なかなか読む時間が取れない毎日なので、思っただけで終わる可能性大です。
しかし、やっぱりシャーミヤンが好きだなー。
茅田作品は女子が元気だと燃えますねー。「もものき」を好きになれないのは、女子の出番が少ないからかも。

「放浪の家政婦さん」「ピリ辛の家政婦さん」

2011-04-26 21:27:39 | コミック
かれこれ十年も前、小池田マヤにはまって、コミックスを買いあさったものですよ。「すーぱータムタム」も「上司さま」も「おかえりまーさん」も「すぎなレボリューション」も全巻持ってます。いちばん好きなのは「ときめきまっくん!」。
というわけで、最近のハード路線はちょっと遠慮していたんですが、レシピつきというあおりに乗せられて買ってみました。「ピリ辛の家政婦さん」(祥伝社)。
身長185センチ、美人ではなく口も悪い小田切里。家政婦として派遣され、その家の家族との間にある出来事は……。
なーんて書くと市原悦子ものみたいですが、いやいや、なにしろ小池田マヤですからね。
この里が男にも女にもモテるうえ、家事万端なんですが、とにかくハード。うーん、わたしは仲良くはなれないと思います……。
でも、全然ハートフルじゃないのに、なんか胸に迫るのですよ。漫画家たちの共同生活を描いた話なんかかなりマニアックだし、なにかにつけてこの価値観にはついていけないな、とは思うのですが、あー、このシリーズの前半も読みたいと思い、買ってきました「放浪の家政婦さん」。
第一話は十年前に書かれているので、ちょうどわたしがいれあげていた直後くらいですかね。
「日用の糧」「パースーシュー」がよかった。
結構、人物たちと里にはつながりがあり、断片的にでも背後が浮かび上がるような展開になっております。
それにしても、「ダム」を読んでいて思ったのですが、小池田作品って「踏みにじられた青春」が多いのでは。
でも、屈従しながらも秘めやかに甘い。毒のような。
考えてみれば、小池田さんのまんが、四コマ以外を読んだのは初めてです。

「レディ・ガンナー外伝」茅田砂胡

2011-04-25 23:24:01 | YA・児童書
ああっ、しまったっ、前任校に全部置いてきてしまったー。
茅田砂胡「レディ・ガンナー外伝 そして四人は東へ向かう」(角川スニーカー文庫)。シリーズを読み返したくとも、おいそれとは手に入りません……。
で、「ヘンリー」がどういう人なんだか全く覚えてないのです。ミュリエルはわかるのですが。ダムーじゃなくてもいいの、とすら思ってしまいました。
それ以外に登場するアナザーレイズは、これまでのおなじみキャラだったかしら。チェリーザやモームは以前出てきたんでしたっけ?
でも、今回はわりとストレートなラブコメが多くておもしろかった。
いちばん印象的だったのは、書き下ろしの「モームと真珠のブローチの話」。
水牛のモームは、あるデザイナーと知り合い、彼から自分をモデルにしたブローチをプレゼントされます。自分は冴えない男だと感じていたモームは、変身した姿が人から絶賛されることに驚き、そしてデザイナーが窮地に立たされていることを知り、駆け付けるのです。
男気あふれるモームが恰好いい。このブローチの前にも、祭での力比べで歓声があがる場面があるのですが、トランスフォームする自分の姿を見たことがない彼は、過小評価していたのですね。
アナザーレイズの人々から知恵を拝借したモームの、堂々とした駆け引きがすばらしい。わたしが茅田作品に求めていたのは、これだったのだわ、と感じました。やっぱりすかっとしないとねー。その前の窮地の出し方も理不尽で(笑)、その分痛快です。
今回は、姿が変化する様子を人目にさらすかどうかというのが、随所に出ていたと思うのです。
狼や獅子といった種族はためらいなく変化するのに、鳥は見られるのを嫌う。部分的に姿を変えることも(ハーフトランス)できるのに。そう考えるとダムーの変身は、どちらかといえば恥じらいがある方なのかも。
見かけははかなげな乙女でありながら、実は槍の達人であり、村を束ねる長でもあるチェリーザが、とっても魅力的です。でも、本当は四十くらいなのに十代にしか見えないってー設定は、ジンジャーを連想してちょっとがっかりしてしまうのですが。
茅田さんの魅力は、女の子が「強い」ことだと思うのです。力とか技とか、単純に言えるものではなく、気持ちがしっかりしている。芯があるのですね。
あー、どうやって読み返せばいいでしょう。前任校に忍び込む?

「牡丹さんの不思議な毎日」柏葉幸子

2011-04-23 15:56:00 | YA・児童書
図書室に行ってみたら、柏葉幸子さんの本がありました。「牡丹さんの不思議な毎日」(あかね書房)。柏葉さんが加入している同人誌で連載していたものだそうです。
朝読書に、と借りてきて、朝だけで終わるはずがありません。お弁当食べながら(震災で給食センター稼動しないので)とか、帰りの会が始まる前に、とか思っていたら、読み終わってしまいました。
牡丹さんは、旦那さんと娘の菫、愛犬フレディとともに引越してきます。温泉街の一角にある大きなホテル。ここを住まいにしようというのです。男風呂に犬、女風呂に旦那さんが丹精している盆栽をいれ、では、家族風呂を一家のお風呂として使おうかとしたところへ、なんと湯舟に「幽霊」が現れることが発覚。旦那さんは裸のまま駆け出すし、牡丹さんも娘も困惑。
幽霊は言います。このホテルの湯元はほかのと違って気持ちがよい。久しぶりにお風呂を沸かしてもらって、非常にうれしい。
そして牡丹さんは幽霊にある提案をします。お風呂に入っても構わない。ただし家族が入浴中は姿をあらわさない。そして、一日の終わりにはお風呂の掃除をしてほしい。
幽霊は「ゆきやなぎさん」と呼ばれるようになり、一家と打ち解けて生活します。
早めの迎え火に近づいてくる霊魂や、お父さんになって子供を育てようとする木。久しぶりに故郷に帰ってきた女の人。家族を失い、なにもかもが辛いお医者さん。
パワフルな牡丹さんの活躍もさることながら、周囲の人々の地に足のついた生活ぶりがこのましい一冊でした。
中でも気になるのは、山で遭難しかけた人の魂と取り替えっこを持ち掛ける雪女。旦那さんの同僚が発見されずにいるある日に、初市に出かけた牡丹さんたちは、雪女が町の人たちとこっそり何かを交渉している姿を見ます。その人たちにはある秘密が……。
「自分の家族の命ととりかえてもいいという人間の方が怖いですぅ」
とゆきやなぎさん。借金のある家人、暴走族に入った息子、寝たきりのおじいさん。そういう家族に不満をもつ人を、雪女は嗅ぎ当ててしまうのです。
話しかけられて頷いた人は、その後自分の決断に辛い思いをすることはないのでしょうか。
「とびやさん」という話も好きです。とびやというのは屋号で、そこの跡取り娘の十子さんをめぐる物語。一瞬のきっかけで、まさに矢が放たれるように行動した二人の思いが、胸を打ちます。
こういうホテルに住むことになったら、わたしならどうするでしょうか。
でもまあ、広いおうちは掃除が大変なので選ばないかも。

「災厄」永嶋恵美

2011-04-21 21:00:30 | ミステリ・サスペンス・ホラー
本格的に気に入りました。永嶋恵美。本屋でチェックしております。
今回は「災厄」(講談社文庫)。ちょっといろいろ詰め込みすぎかなと思わないでもないですが、一気に読んじゃいました。
妊婦を狙う連続殺人は少年の犯行だった。ブックデザイナー月隈美沙緒も、事件を知って嫌悪した一人。マタニティスイミングのクラスでは、犯人も許したくないが、そんな奴を庇う弁護士はさらに許せないと語り出す受講生も多く、弁護士の夫をもつ美沙緒はさらに憂鬱になる。
というようなことが、描かれます。
で、読書が予想する通り、夫の尚彦が少年の担当弁護士になってしまい、それを契機に美沙緒の周囲で嫌がらせめいた行動が多発します。
マタニティスイミングの仲間たちの中傷。ネットに流された個人情報。軌道に乗っていた仕事のキャンセル。
また、拘留されている少年・直彦は、弁護士が自分の冤罪をはらそうとする姿をうっとうしいと感じ、会うたびにいらいらしてしまいます。
彼の犯した罪は四件。しかし、警察はもう一つ別の事件の犯人も直彦であると決めつけているのです。
後半、尚彦の真意がわかりますが、その言葉にじわっときてしまいました。彼は犯罪被害者なのです。自分の「罪」に向き合おうとしない直彦に、彼は言います。
「一度、何かを決定的に壊された者は、再び壊されるのではないかという恐怖から逃れることができない。自分の身には何も起きないと、根拠もなくただ楽天的に考えていたころには二度と戻れない」
「君が奪ったのは、被害者の命だけじゃない。その周囲にいる人々から当たり前の生活を奪った。今日と同じ明日が来るという確信と希望を奪った。永久に」
今日と同じ明日。
それは、震災で味わった不安と共通します。うちの辺りは比較的平穏ですが……。それでも、暴力的な力で、日常を奪い取られる恐怖を感じました。
お腹に子供がいる状態で、このような惨劇を味わったら、そう考えると身のすくむような思いがします。
美沙緒が、誰も信じることのできないとき、友人の絵里の裏切りを知ります。
二人は幼なじみなのですが、再会したとき、絵里は月隈尚彦弁護士の秘書を務め、美沙緒はその婚約者だったのです。
報われない恋から逆恨みの思いを募らせる絵里の思いに気づいた美沙緒は、彼女を罵倒するのでした。
読んでいる間、絵里のパートの部分では、これでもかこれでもかと美沙緒への羨望が描かれ、どうせなら美沙緒視点で通して、後から信じていた友人の行為に衝撃を受ける構成のほうがいいのではないかとも思ったのですが、ラストに至ってその理由がわかりました。
美沙緒にとっては突然にふりかかった災難なのでしょう。妊娠していて、連続殺人のニュースを聞いて、そしてたまたま夫が弁護人としてつくことになり、悪意を持った近辺の人物に情報を撒き散らされて。
マタニティスイミングの仲間たちが、美沙緒に怒りを覚えるシーンがありますが、これも彼女の身の上にふりかかった悪意のことを知らないからこそ火に油を注ぐことになったわけです。ネットで携帯番号を知らされてしまったら買い替えるほかないですよね。
美沙緒自身、もしもほかの人の立場だったら、妻が妊娠しているなかでこのような事件の弁護を務める男に対して興味本位の見方をしたのではないかと自省します。
メディアリテラシーを含め、いろいろ考えさせられました。

「ゴーストハント③」小野不由美

2011-04-19 21:37:06 | ミステリ・サスペンス・ホラー
震災の次の日辺りが発売日だったのですよね。どこに行っても見つかりませんでした。先行の巻は平積みしてあるのにな。あちこち探して、やーっと一冊発見。
小野不由美「ゴーストハント③乙女ノ祈リ」(メディアファクトリー)。
この前コミック版を読んでいるので、アレンジの違いが分かっておもしろかった。
まんがには登場しない沢口さん、という女の子が、この小説の味になっているとわたしは思います。超能力バッシングのあおりをうけた友人(笠井さん)を庇って教師の車の鍵を曲げ、その後学校に来なくなって、そのまま家出をしてしまった彼女。
後半で麻衣が笠井さんに対して語る言葉に胸をつかれます。
「笠井さんのせいじゃない。沢口さんが弱虫で狡いだけ。一蓮托生の友達見捨てて逃げた人のために、責任なんか感じる必要ないっ」
友人である沢口さんに対して流した涙のことを、冷静に振り返る笠井さんの気持ちが、なんとも苦しい。
たしかに、沢口さんなしで物語は充分に進行します。それを敢えて描く。そのセンシティブな人間観察に、小野不由美の力を感じました。
さらには超能力を否定し、笠井さんたちを全校の前で吊しあげておきながら、オカルト的現象に怯える教師たちという矛盾を露呈させます。
どのようなことが誰の手によって行われているのか、読み手として分かっているはずなのに、いろいろな背景が見えてきてとてもおもしろい。
こうなってみると、小野さんがどういう部分を改稿したのか、比べてみたいようにも思います。
ぼーさんの本名が「ノリオ」だっていう場面も読んだ覚えがある。(まんがにはないよね?)
この巻でホッとさせられるのは、依頼者の一人でもある高橋優子(タカ)の存在でしょう。人懐こい彼女の性格が、笠井さんの気持ちも慰めてくれたのだと思うのです。
しかし、一場面しか登場しないに関わらず、演劇部の中澤さんは存在感ありますね。挟み込みの「SPR通信」にまで取り上げられている。(表紙カバーにもいます)
ところで、「乙女ノ祈リ」の「乙女」とは、笠井さんのことであり、さらに産砂先生の少女期を示しているように思いました。
価値観って。集団って。ふとしたきっかけで入れ代わる、周囲の人間関係。
次の巻も楽しみです。

「誤読日記」斎藤美奈子

2011-04-17 05:23:08 | 書評・ブックガイド
やっぱり斎藤さんの書評がいちばん好き。どうも最近政治寄りなので、こういう造りの本をもっと出してほしい。「本の本」みたいに分厚いと読みにくいので、内容としてもこのへんが妥当ですよね。
斎藤美奈子「誤読日記」(朝日新聞社)。
いやいや全然、誤読なんかじゃないっすよ。まっとう。そして、抜群におもしろい。
「情熱と冷静の間」の装丁は銭湯ののれんみたいだとか、村上春樹のエッセイの照れ具合とか、距離感が絶妙です。(わたしはどっちも読んだことないんですが)
興味あるのは、良純さんが書いた「石原家の人びと」。シンタローの都知事再選にはタイムリーな話題です。でももう売ってないか。
TAKURO「胸懐」も読んでみたくなりました。中高生の副読本になりそうな正統派の青春ノンフィクションだと斎藤さんはおっしゃいます。かつて、GLAYにはまって本もあれこれと読んだので、斎藤さんが引用する部分は非常によくわかる。ただ、こういう流行ものは読みたいと思ってもなかなか入手しにくいですね。
筑摩書店が編集した「二十一世紀に希望を持つための読書案内」に対して、まっとうな意見にたじろいでしまうという意見がありました。高尚すぎるラインナップでは、「若者の読書離れ」を解決することはできないのではないか、と。
わかります。わたしも新聞の読書欄で、知識人の年間ベスト本など見るたびに、こういう本を紹介されても読まないよなあと思ってきました。同じように、もし自分が一冊だけ取り上げるように言われたら何をあげるのか考えてしまいます。
簡単な本ばかり読んでるんだろ、と思われるのが嫌で、見栄をはってしまうかも。
でも、わたしの読書傾向は、YAや教材の補足になるようなものが多いので、余り難解な本は読みません。
ああ、でも斎藤さんがこの書評で俎上に乗せている本を、自分がほとんど読んでいないことに気づきました。でも、読んだ気になるというか(笑)。
連載時に比べて、その後のエピソードがちょこちょこ補足されているのもおもしろい。本って、生物なんだな、と感じさせられます。
書評は好きなジャンルなのでよく読みますが、どの紹介文を読んでもおもしろいというのは稀有なことです。文体模写(モノマネ?)もあり、斎藤さんの「芸」が活かされています。
そう考えると「本の本」はあんまり活かされていないのではないか、と。買ってから本棚のいちばん端に入れてあるのに、なかなか読まない。「誤読日記」や「読者は踊る」「趣味は読書。」は二回三回と読んでいるのに。
文庫では後日談も増えているのでしょうね。そちらも読みたいものです。

「竜の涙」柴田よしき

2011-04-11 21:21:46 | ミステリ・サスペンス・ホラー
タイトルだけ見ると、ヒロイックファンタジーか日本むかし話のようで、全然気がつきませんでした。そうかー、「ふたたびの虹」の続編ですか。人に教えられて、早速借りてきました。
柴田よしき「竜の涙 ばんざい屋の夜」(祥伝社) 。
しかし、前作のことをほとんど覚えてない。いや、確か骨董屋の人と最後に思いを交わし合うことと、わたしがイメージしているよりずいぶん若いんだと思ったことは覚えているんですが。(清水さん、三十六だそうです)
「竜の涙」が何を表しているのかは、この物語の謎として機能しているので、明言するのは避けましょう。
今回は、丸ノ内で小料理屋を営む女将と、常連の女性を中心に据えて、連作らしく登場人物が重なっていたり、前の話での出来事に決着がついたりします。
気になったのは、資料室の主的な草間洋子さん。とってもできる人なのに、こんな閑職のような地位にいるのはどうしてなのか。彼女の筋の通った人生が浮かび上がります。
ハーブティーを調合し、各部所の女たちの情報を一手に握るその包容力も、すばらしい。
ばんざい屋の客たちが、大皿から注文して食べる様子が、とてもおいしそうです。
とくに、淡雪寒と黒豆を使ったチーズケーキ風のデザートに心引かれますねぇ。大根の煮たのとかツリーの飾りの「お願いクッキー」とか、柴田さん、よく料理に絡めてこういう小説が書けるなと感心します。
で、「ふたたびの虹」を立ち読みしてみたのですが、もーきれいさっぱり内容を忘れていました。女将さん、美鈴さんていうんですね。
おそらく十年近く前に読んだものと思うのですが、その話の続編を(しかも話の内容的には時間が経っていない状態で)読むのは不思議な感じがしました。
女将さんの新しい店も、雰囲気のいい場所になりますように。

「あなたの恋人強奪します」永嶋恵美

2011-04-10 09:21:59 | ミステリ・サスペンス・ホラー
すっごいおもしろかった! 当たりでした。
でも、同じ作家の本を探したくとも、余震のあとの停電のためどこの本屋もやってません。ううう、落ち着いたら是非っ。
永嶋恵美「あなたの恋人、強奪します。 泥棒猫ヒナコの事件簿」(徳間文庫)です。
タイヤの溝が擦り減ってきたので、交換してもらっている間に、ふらふらと本屋の棚を見つめていたら、この本があったのです。
ちょっと立ち読みしてみて、これは、という感触があったので購入。
その翌日、ガソリンスタンドの給油待ちをしながら車中で読んでいました。
泥棒猫というフレーズやらこの思わせぶりなタイトルからも予想されるように、いわば恋人関係を破綻させる生業を送る女性が登場します。皆実雛子。二十代前半にも、三十代後半にも見える。百パーセントの成功率。
「あなたの恋人、友だちのカレシ、強奪して差し上げます」
こんな奇妙な広告が目に入ったらどうします? 駅の構内で、出会い系サイトで、女性専用伝言板で。もうすっかり恋人にうんざりしている女性なら、思わず電話をしてしまうかもしれません。
相手はストーカー気味だったり、二股をかけていたり、よんどころない事情で別れを告げなければならなかったり。
ヒナコの指示は的確。引き受けた依頼の裏まで考えて指示を出します。
依頼主がつい嫉妬してしまったり(別れたいのに、ですよ)、自分の本心に気づいたり、ああ、わかるわかる、女心ってそうだよなあという場面の連続です。
いちばん納得してしまったのは、
「あなたのためよっていう言葉、実はものすごく神経を逆なでするんです」
という台詞ですねー。非常によくわかる。
さらには依頼人だった梨沙に、ラストでヒナコが見せる表情。「女が男の前では決して見せない種類の微笑」ですよ。やられた!
非常に鮮明に画面が浮かびます。ドラマを見ているみたい。痛快です。
でも、わたしがこの小説をすばらしいと思うのは、テレビドラマとの違いを明確に感じさせられるからなのです。
これが映像だったら、同じようなシーンの連続になってしまうでしょう。依頼人からの視点でありながら、少しずつ変化を織り込む技がいいのだと思います。
さらには、ヒナコにも他の社員たちにも、重厚な過去が潜んでいるのに、それを表出させない。
例えば、まだまだ見習いと語る楓ですが、彼女は敢えて「失敗」を演出するために起用されているようにも思います。元は音大生。事故で指が動かせなくなった。ターゲットの薫の前で語ったことは、おそらく嘘ではないでしょう。
最後に姿を現す陽子にしても、わざわざ彼女を柚奈の送り手として同行させるというところから、「テディベアのペンダント」の持ち主はこの人では? と勘繰りたくなります。
もしかすると、アナザーサイドの物語が書かれているのかしら。
とても気になります。