くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ある少女にまつわる殺人の告白」佐藤青南

2015-02-28 09:09:41 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 非常に、おもしろかった。
 これ、佐藤青南氏のデビュー作です。「ある少女にまつわる殺人の告白」(宝島文庫)。楯岡絵麻シリーズが好みだったので、本屋で発見して即買いました。
 児童相談所の所長隈部の語りと、長峰亜紀という少女に関わりがあった人々の語りが交互に出てきます。読み終えて思うに、この物語を聞き取っている男性が、隈部の話を聞きながらそれまで話を聞いてきた人の話を思い出しているということなのでしょう。
 亜紀は、周囲の人を巧妙に操っていることが、読んでいるうちにわかってきます。幼なじみの少年、養護施設の少年、ホームで知り合った少女、と亜紀の願いを汲み取って動いてくれた人がいる。
 施設の職員からも可愛がられ、やがて自分の思うように生きていく亜紀。
 この男性は、なぜ彼女のことを調べているのか。
 ライターかと思われた彼は、最後に隈部に自分のことを告白します。
 でも、隈部がほっとしたのも束の間、その理由がわかったとき、読者の前にある事実が浮かび上がるのです。
 子猫を殺したのも。彼が息子を実家に預けるのも。
 章題の「連鎖」の意味が浮かび上がるときの戦慄が、この作品の真価だと思います。

「たったひとつの『真実』なんてない」森達也

2015-02-24 20:40:45 | 社会科学・教育
 メディアの授業の前には関連書籍を読むことにしています。
 今年はこれ。森達也「たったひとつの『真実』なんてない メディアは何を伝えているのか?」(ちくまプリマー新書)。
 メディアは「事実と嘘の境界線の上にある」。そのリテラシーを身につけてほしいと語ります。森さんが若い人たちに向けて書き下ろした一冊。
 まずは、森さんが北朝鮮を訪れたときのこと。テレビが伝えるイメージと、実際に町を歩いて感じたことにはかなり差異がある。
 同じように、日中関係が悪化したとき、旅行中だった学生さんは、親から帰国するように言われたけれど、反日デモなんて見たことがなかったといいます。
 デモが行われたとき、近くを通りかかった人は、カメラを通した映像が自分の見た状況とかなり違っていたことに気づいたそうです。
 これはフレーミングのためですね。どういう場面をどう切り取るか。デモを冷めた目で見ている人の姿が映ったりしたら、また違う。
 「何かを撮る」のは、「何かを隠す」行為と同じだと森さんは言います。袴田事件、松本サリン事件などの冤罪を具体例としながら、メディアが伝えてきたことの間違いも紹介します。
 メディアが映し出すのは、現実の一部にすぎないと意識するだけでも、ものの見方は変わるはずです。
 わたしも、中学生たちにそれを知らせていくことが必要だと思っています。何もかもを鵜呑みにしていてはいけない。
 森さんはふとしたエッセイからもものの見方を考えさせてくれる方ですが、こういった若い人向けの本を皆さんに読んでいただきたいと思うわけです。
 実は途中までちょこちょこ読んで完読してない本も何冊かあるのです。読まないと、ね……。

「探偵少女アリサの事件簿」東川篤哉

2015-02-22 08:59:55 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 カバーイラストがスカイエマさんなんです。
 エプロンドレスの女の子の後ろを、憂鬱そうについていく男。ボロボロのジーパンはいています。ハンプテイダンプテイを彷彿とさせる中年男性と、メガネに手をかけて歩くスーツ姿の刑事。
 「探偵少女アリサの事件簿」(幻冬舎)。
 この四人が主要登場人物です。
 綾羅木有紗、十歳。私立衿糸小学校の四年生というから、うちの娘と同じ年だわー。
 両親ともに有名な探偵で(どちらかといえば母が有名)、有紗自身も自分を名探偵だと名乗っています。
 「俺」こと橘良太は、有紗の子守を依頼された便利屋。彼女と一緒にいると様々な事件に遭遇するのです。
 お使いに出れば最寄り駅で突然死する女性がおり、草野球のメンバーとして出場すれば監督がマウンドで亡くなっています。
 良太には刑事の友人もおり、回が進むにつれて頼りにされることが多くなるんですよ。それはもちろん、有紗の実力によるものですね。
 
 物語を読んでいると、東川さんて結構、都市小説の傾向が強いとかんじます。警察の所轄の関係でしょうか? 「謎解きはディナーのあとで」は国立、「純喫茶一服堂」は鎌倉あたりがメインでしたよね。あ、烏賊川市シリーズもあったか。
 今回は武蔵溝ノ口周辺が舞台です。
 南武線も頻繁に出てきます。アリサは電車好きみたいだし。
 
 お屋敷の奥様が、夫の浮気を疑って調査を依頼しにきます。良太は、ちゃんとした探偵に頼むように言ったのですが、言いくるめられてその日お屋敷に泊まり込むことに。そして、なぜかアリサまで一緒に行くことになるのです。
 ん? この「一服堂」でもあったような?
 案の定、見張っていたはずなのに、旦那さんは亡くなって……。
 同じような設定でも謎解きは変化があって、楽しめました。
 
 ところで今、カバー折り返しにもう一人、手をポケットに突っ込んで歩く短髪の男性がいることに気づいたのですが、これは誰?
 入眠前に読んでいたから、読み飛ばしたのかしら?

「わが子が驚くほど『勉強好き』になる本」福嶋隆史

2015-02-18 05:28:07 | 社会科学・教育
 福嶋先生、わたしちょっと困っています。
 いままで授業にはそれなりに自信があったんですけど、どうも空回りしているといいますか。
 うまく展開できない毎日です。少しは落ち着いてきましたが、気にかかることが多すぎて、いろいろと悩みます。
 「わが子が驚くほど『勉強好き』になる本」(大和出版)。
 福嶋先生が提唱する「言いかえる力」「くらべる力」「たどる力」が、理科や算数にも応用できることに気づかされます。観察とは、「くらべる力」であり、概数をイメージすることで予測ができるようになる。
 ちなみに、「勉強好き」にするには、勉強を「ゲーム化」することが必要です。評価の観点を具体的に数値化して、ポイントを競わせる。
 目標、方法、評価を限定する。
 例えば作文。「始まりから終わりまでが30秒以内の場面をとらえ、それを原稿用紙(400字詰め)一枚を超える長さで書く」これが、目標。
 方法は、最も盛り上がる場面に絞り、評価は場面と字数の条件が守れているか。
 わたしも、ゲームを取り入れて授業を行ってきたのですが、なんだかルールを守れない子が目立ってきていて、それか憂鬱なのでした。
 チーム力をつけたいので、グループ学習も大切にしてきたのですが、実態に応じて変えていかなければならないのかもしれません。(あ、困っているのは1クラスで、ほかのクラスは大丈夫ですよ)
 評価を明確にするのは、個人の力を高めていくことですね。そこからもう一度やってみたいと思います。
 それから、音読リピート練習のバリエーション、「あえて抑揚をなくして単調に読み、同様にリピートさせます」というロボット読み、おもしろそう!(抑揚強調のバージョンもあります)
 「すきまリピート」も目から鱗! 五秒待たせてから復唱させるそうです。来年、古典でやってみよう。
 基本的に、わたしは「勉強好き」だと思います。うん。

「消しゴムは嘘を消せない」白河三兎

2015-02-17 04:20:01 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 読み終わって、どうして「タマ」が「俺」のマンションにやってきたのかが浮き上がります。
 彼女は、「俺」が離婚したことを知らなかった。
 組合からの逃走で、最も頼りになる人として、近藤加奈子を選んだのでしょう。
 なぜ彼女は、組合から逃げなければならなかったのか。
 その事実がわかったとき、孤独と絶望がくっきりと立ち上がる。でも、そのときにはもう、彼女は妊娠しているので、苦しみのあとにくる希望に救われる。
 彼女が誰なのかは、比較的早く見当がつきますが、だからといっておもしろさが失われるわけではありません。
 
 「俺」こと有田信彦は、この日離婚したばかり。でも、なぜか部屋に人の気配が。
 どうも透明人間がいるらしい。
 超能力で人やものを消すことができる彼女は、組合から逃げてきたのでかくまってほしいと言います。彼女を「タマ」と呼ぶようになった「俺」は、共同生活を始める。
 離婚した妻の加奈子は同僚で、二人の違いを感じながら暮らすことになります。
 「お帰り」を言ってくれるタマ。「お金」と言わず「金」という加奈子。
 息子の悟との関わりや、カウパレード、手づくりのベーコン、組合の追手などのエピソードが積み重ねられていて、おもしろい。
 タマが選んだ道に、思いをはせる「俺」にしみじみとした気持ちになりました。
 一家と彼女が再会する日が来ますように。

「にょにょっ記」穂村弘

2015-02-16 05:44:02 | エッセイ・ルポルタージュ
 どうしてこれが「エッセイ」の分類なのか非常に悩みますが、図書館がそう整備しているので仕方がない。
 穂村弘「にょにょっ記」(文春文庫)。相変わらず冴えていますぜ穂村さん!
 穂村さんとこの「天使」が可愛らしい。
「『船長って船が沈むとき最後まで残るんでしょう』と天使が云った。
 『あ、うん、そうらしいね』と私は云った。
 『凄いね』と天使感心したように云った。『あんなにもじゃもじゃのお髭なのにね』
 誰のことなんだろう」
「天使がテレビを指さして『泉ピコン』と云った。
 惜しい」
「真っ白い息を吐きながら、天使が屋根の方を指さした。
 『ほら! 凄いとろろ!』
 うん、凄い……、つららだね」
 
 「新鮮双子」という項目も好きです。
 バスケットの全日本選手で「公輔と譲次」という双子の方がいらっしゃるそうです。二人とも205センチメートル。双子の場合韻を踏んだ名前が多いのに、「見た目も大きさも能力もそっくりなのに、名前は
ばらばら。/新鮮だ」
 なんか、いいでしょう?
 語りがほのぼのしていますよね。おとぼけているというべき?
 巻末には西加奈子さんの「偽ょ偽ょっ記」があります。
 わたしはこれに「チョコレートはガーナが一番おいしいんやで、と言うと、そうなの、と目を丸くしていた」と書いてあったせいか無性にガーナチョコレートを食べたくて買いにいきました。今、赤くないガーナもあるんですね。黒いの食べました。おいしかった。
 西さんの本をネット注文したら、そこらの本屋には山積みになっているのに、入荷予定が立たないためにキャンセルしますと言われたと、ラジオで教え子(アナウンサーです)が言ったました。
 

「サイレント・ヴォイス」佐藤青南

2015-02-15 08:49:17 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 ということで、さっそく「行動心理捜査官・楯岡絵麻」の一冊めを購入いたしました!
佐藤青南さん、わたしはずっとスカイエマさんのカバーの「消防女子!!」シリーズを読みたいと思ってたんだけど、ここの本屋に並んでいた三冊めが、イラスト変わってしまっていてショックです。
 まあ、それはさておいて、楯岡絵麻シリーズ、おもしろかった!
 二冊めとちょっとニュアンスが異なる部分があるようにも思いましたが、楯岡のクールな取り調べが、非常にわくわくします。
 占い師とのやり取りや、それを後半で生かしていく様子、実は好き嫌いの多いところなど楯岡の人間性が出てきて親しみが湧きますね。
 今回は木嶋佳苗事件をモデルにした「綺麗な薔薇は棘だらけ」が印象的でした。容疑者は自称音大生の谷田部香澄。楯岡とコンビを組む西野が合コンで出会った女性です。
 彼女の周囲には男と金と死がありふれていて、香澄と会うと言ったきり姿を消した西岡を探して焦る楯岡は、いつもの自分のペースを取り戻せない。
 西岡は、他の男たちと同じように殺されたのか?
 
 栗原裕子事件も大きな影を落とし、次巻に続いていくのがわかります。
 このあと三冊めが出るのでしょうか? 栗原さんの婚約者が絡んできたりしないのかな?

「ブラック・コール」佐藤青南

2015-02-14 02:23:51 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 これもシリーズ二冊め。「行動心理捜査官・楯岡絵麻 ブラック・コール」(宝島文庫)。
 容疑者を百パーセント落とす「エンマさま」こと楯岡絵麻。自称二十八歳。
 十五年前、恩師栗原裕子を殺害され、その犯人を追うために警察官になりました。
 彼女は、栗原を殺した犯人と言葉を交わしているのです。月日が経つうちに、その容貌もあやふやになっていく。しかし、同じような犯罪をその男は続けているのではないか。
 ある事件で、現場から毛髪が発見されます。栗原のときに見つかった遺留品と同じ人物と判定されて……。
 
 相手の特徴をつかむために、わざとフレンドリーに振る舞う楯岡と、その様子にやきもきする後輩刑事のペアがおもしろい。
 さらに異常な心理下にある犯人や、容疑者たちとのかけひきが読み応えあります。
 ある学園に爆弾が仕掛けられて、それを作った少年と接見するのですが、どうやらもうひとつの爆弾があるらしい。
 彼がターゲットにしたのは?  
 6時には爆発するらしいことを読み取った楯岡の行動が印象的でした。
 この話には、以前マラソンの際に仕掛けられた圧力鍋による爆弾が描かれています。他の話にも時事的なモチーフが見られて、なんだかリアルな感じがしました。同時代的といいますか。少し経つと古くなってしまうのが欠点かもしれませんが。
 楯岡のような計算されたコミュニケーションスキルがほしいなあとちょっと思ったり。
 

「キャロリング」有川浩

2015-02-12 05:46:27 | 文芸・エンターテイメント
 NHKでドラマやってましたよね。
 恋愛ものなんだな、子どもがいる同僚女性との話なんだな、と予告VTRを見て勝手に考えていました。
 そしたら、全然違いましたね!
 子ども服の「エンジェル・メーカー」に勤める大和俊介。しかし、会社はクリスマスには廃業することになっています。
 同僚の柊子とは結婚間近で別れており、今後は一緒に働くこともできない。
 俊介の両親はDVで一度離婚しており、その後復縁。それまでのやりとりで二人とは会いたくない彼は、穏やかな家庭で幸せに育ったであろう柊子とは「辞書が違う」という思いから、その選択をしたのでした。
 母親の友人で、社長の英代が、このまま別れてしまってもいいのかと尋ねます。
 不幸の比べっこをしても仕方がないと彼に言ったくれた英代は、俊介の心の支えでした。
 
 不幸の比べっこをしているのは、会社の託児サービスをしている航平と、金融業者の赤木という男です。
 航平の両親も別居しており、その原因は自分にもあるのではないかという悩みから、横浜に住む父に会いにいこうとしますが、どうも父が乗り気でない。お小遣いが電話代で消えてしまうことにも情けない思いをします。
 航平の悩みに気づいた柊子は、いろいろあって横浜までついてきてくれます。その道すがら、柊子から、以前付き合っていた人との思い出を聞いた航平は、宝物のようなその話しぶりに自分も幸せな気持ちになりました。
 けれど、親子の感動の再会なんてまるでなく、父は勤務先の院長坂本冬美(!)先生に惹かれている様子。常連のおじいさんと張り合っています。
 さらに、冬美先生は祖父が残した借金のことで、赤木ファイナンスのチンピラが日参しているために整骨院の経営も危ぶまれているんです。
 
 航平が書く物語が、人間関係を動かしていくのもおもしろいですよ。
 とっつきにくかった彼が俊介を友達だという場面や、無表情なレイが赤木に本名を伝える場面がすてきでした。

「探偵の探偵2」松岡圭祐

2015-02-11 12:59:15 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 お昼にうどんを茹でています。
 出来上がるまでに多少時間があるので、「探偵の探偵2」(講談社文庫)の話などを。
 ところで、わたし、この一冊めを読んでいません。二冊めだけ図書館で借りました。
 シリーズもなら、一冊ずつ完結かなと淡い期待をしていたのですが、このあと「死神」と呼ばれる探偵と決着をつけることになるそうです。発売は来月。
 そもそも一冊めを本屋で見かけで、買おうかなと思ったのですが、松岡作品ならもしかして夫が買ってくるかも? と躊躇したのでした。(カウンセラーシリーズはわたし、鑑定士シリーズは夫が買っていました)
 だって、対探偵専門の探偵。しかも若くて美人。アクション&サスペンスを期待しようというものではないですか。
 
 主人公玲奈は、妹をストーカーに殺された過去があります。
 ストーカーから逃れるために親戚に身を寄せていたものを、探偵に調べあげられて事件につながったようなのです。
 本来であれば、ストーカーやDVの被害者を捜すことは禁じられるものですが、中にはそのようなことを専門にする探偵もいる。
 堤もその一人です。
 対探偵課に所在を突き止められた堤は、逮捕。しかし、彼が調べていた事件から、妹を死に追い込んだ探偵がつながっていきます。
 さらには、その探偵が絡んでいるらしい大規模な誘拐事件。
 前の事件で知り合った警察官窪塚にピンチを救われた玲奈は、彼の母親と娘(小1)の家で、妻が亡くなったことや授業参観での寂しい思いを聞きます。
 DVの被害者たちはどうやって消えたのか。このまま男たちのもとへ行かせていいのか。事件の糸を引く「半グレ」たちとの対決は?

 玲奈、けがばかりしてるんです。
 でも、ピンチはなんとか切り抜けています。
 前に事務所にいた琴葉との関わりや、窪塚の話に出てきた警察とある探偵の癒着、「死神」のこと、途中から読んだので推察するしかない内容がたくさんありますが。
 とにかく死に物狂いで追っていく彼女は、魅力的なんです。
 とはいえ、わたし、玲奈の名前がなかなか思い出せなくて、麺をゆでながらずっと考えこんでしまいました。妹が咲羅なのも、窪塚が悠馬なのも、堤が暢男なのもわかるのに! 娘は柚希で、おばあちゃんは仁美さんですよ。「死神」は澤柳菜々!
 すみません、最近記憶力に自信がなくなってきました。