くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ソロモンの偽証」1 宮部みゆき

2013-03-30 04:53:51 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 忙しくて本を読む暇が制限されております。十時には眠くなってしまうわたしがいけないんですが。
 とはいえ、読んでいるのがこれなので、なかなか先が見えない感じなんです。
 宮部みゆき「ソロモンの偽証」(新潮社)。今、一巻です。続きを借りに行ったら、リクエストかかっているからなるべく早く返すように言われました。えー、まだ半分くらいですよー、と思ったけどやっと読みました。
 中学校勤務としては身近すぎて胸が痛い。この年頃の子どもたちのことを宮部さんはよく観察しているなぁ、と思いました。
 印象的なのは松子です。おいしいものが大好きで太っている。意地悪な大出たちからはかなり執拗にからかわれます。そこで母親がこう言うのです。
「あんたは、あんた自身のことに限っては、あんたがどうしたいのかをいちばんに考えなくちゃいけない。他人から間違ったことをされて、その間違ったことを基準にして何かを決めちゃいけない」
 彼らの卑しさに気づいた松子は、そこを乗り越えることができる。
 しかし、友人の樹理はそういう考えをすることができません。何もかもうまくいかないのはにきびのせい。体にいい食事を用意してくれない母が悪い。自称画家の父がこんな名前をつけるのがそもそもよくない。
 樹理は間違った方向に突き進んでいきますが、松子はそのために命を落としてしまう。
 この物語には、誰かの犠牲になる人が描かれているように思います。それは、わたしが柏木の兄宏之のことも気になるからでしょうね。腺病質で神経の細い弟が自殺したことで、その存在がさらに際立ってしまう。気の毒でなりません。
 第一部は、まだ柏木の自殺をめぐって、そのあとに続くごたごたが描かれています。樹理が匿名で出した告発状、担任の森内を陥れようとする隣の女、引っ掻き回していくマスコミ。刑事の父をもつ藤野涼子は、自分のクラスメイトが事件に巻き込まれていくのが心配です。
 ところで、学年主任の高木先生の紹介に「先生の国語の授業がちょっと独特で、難しいということもある。そのせいで、一部の父母からは嫌われるどころか、不倶戴天の敵扱いを受けている」とあるんです。
 独特って、どんな授業? 難しいと一言でいっても、高度なのか難解なだけなのかわかんないよ。と、こういうことばかり気になります。成績重視のA組担任になるくらいだから、職員間では信頼されているのかしら。
 ちなみに校長先生も国語教師だそうです。お話がうまいのはうらやましい。

「話し合い指導術」菊池省三

2013-03-29 05:13:51 | 社会科学・教育
 送別会の担当だったんですが。
 同じ教科の先生と話していて、卒業したSくんが「国語はおもしろい」と言っていたということを聞き、嬉しい。今年は国語教師になりたいというEさんもいて、こういうかえってくるものがあるのは励みになります。
 帰り道で買った本、菊池省三の「話し合い指導術」(小学館)。
 小学六年生の学級で、どんな話し合いをしたか、そのことによってどう子どもたちが成長したかを書いています。
 現在国語教育は過渡期にあり、コミュニケーションを重視しつつ自分の考えをどう深めていくかにシフトチェンジしていると考えています。これまでのスタンダードが「正確な答えを着実に探す」だとすれば、その答えを相手に伝えるためにどんな手段を選ぶか、それを聞いた相手からどんな反応を引き出すか、それによって考えを変容させていく。
 それを、国語の題材を使ってどう伝えるのか、というのが昨今のわたしのテーマではあります。
 教科書が新しくなって、今年は一年と三年の授業を担当しました。二年生の分の教材を学んでおこうと、音声CDを車で聞きながら通勤しております。
 「卒業ホームラン」の朗読が石丸謙二郎(デンライナーの!)だったり「走れメロス」は池田秀一(シャア!)だったり、漢詩を寺田農(ミュージアム!)が読んでいたりと、いろいろおもしろいんです。音で聞くと黙読とはまた違うおもしろさがある。
 そのなかで山根基世さんのエッセイをご本人が朗読しているものがあるんですけど、どう授業展開をしようかなと思っていました。
 「呼びごと」という風習がテーマになっています。平家の落人と言われる彼らは山奥に隠遁し、隣の家とも距離がある場所を選んで住み着く。
 だから、用事があるときには渾身の力を絞って大きな声で呼びかけるのだそうです。
 それこそが、伝えるということの根元であるという骨子なのですが、まぁ、具体的に体を使って考えていく方がわかりやすい。
 体育館の壁に向かって声を出し、反響を確かめていくという例があったので、それをやってみようと思います。
 帰り道で立ち読みした塩味のからあげを作ってみました。鶏胸肉で、塩、昆布茶、中華粉末スープ、卵黄、しょうゆ、酒、おろししょうがだったと思います。わたしは卵の白身も混ぜちゃったけど、おいしかった。娘に好評でした。

「ねじれた絆」奥野修司

2013-03-28 05:16:26 | エッセイ・ルポルタージュ
 年度末なので忙しい毎日です。本を読む暇もない……。
 という訳で今回も古いものです。
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『よりぬき読書相談』のシリーズで紹介されていて興味をもった本。沖縄で起きた赤ちゃん取り違え事件のその後を追ったルポルタージュで、その子供が二十三歳になるまでの年月を描いている。読んでみたら以前テレビでこの再現ドラマを見たことを思い出した。だから展開はおぼろげに判ってはいたのだけど、余りにも「濃い」内容に読みふけってしまった。
 時代の描写がなんか昔っぽく感じられたけど、取り違えられた二人の女の子は、昭和四十六年八月生まれだって! 年下じゃないか! でも同時代におきたことなんだな……と考えると、なんかしみじみしてしまった。
 二人の名前は「美津子」と「真知子」。真知子は初め「初子」という名前だったけど、交換の際に改名されている。真知子が実の親に慣れていくのに対して、美津子は育ての親にしかなつかない。ふとしたきっかけから両家は同じ敷地内に暮らし始め、そして……二人の娘が成人を迎える頃には、片方の家とはどちらも疎遠になってしまう。
 その家の母親・夏子にぎょっとさせられる。筆者もこの人に対して冷たいんじゃないか……と思うことも。
 まぁ、女の子を四人も産んでおきながら、育児を放り出して遊びに行ったまま帰ってこないという人なのでそうなっちゃうのか。娘たちは姉に預けっぱなし。仕方なく夫が迎えに行くうちに、この姉と夫は心を通わせてしまう。そして生まれた男の子。
 その事実に嫌悪する美津子も真知子も、この家から離れていく。あてつけのように男を作り、酒に溺れる夏子。ひゃー、スゴイ。
 対してもう一方の母親は、熱心でちゃんとした人として描かれている。むー、「家族をつなぐのは血か情か」というのがテーマなのだろうけど、やっぱり家庭がしっかりしているかどうか、では? と思わされた。
 取り違えた病院の院長はミスに気づかず、一ヶ月健診のときに発育状況が良好なので、夏子を子育て上手とほめたそうだ。誕生日が違っている子供だから、遅いほうの子が小さくて当たり前なのに、もう片方の母親は叱られたという。発覚してからの病院の対応の悪さも後々まであとを引いたようだった。
 夏子とそのまま一緒の家に暮らしていたら、シンナーを吸ったりするような不良娘になっていたかも……と語る真知子が不憫だったよ。
 ブックガイドでは「読書感想文むきの本」として紹介されていたけどこれで感想文を書いてくる生徒がいるなら、読みたい。

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 そういう生徒がいるなら、というのは感想文におすすめというわけではなく、こういう本を読み込んで自分の考えをまとめられるような力があるなら、ということですね。
 ドキュメンタリーは内容にインパクトがあるので、相当練り込まないと難しいと思います。

「戒」小山歩

2013-03-26 04:40:20 | ファンタジー
 また古い日記から。

 気仙沼在住、二十四歳(二〇〇四年)。東北学院大在学時に日本ファンタジーノベル対象に応募した作品のようだ。結果は優秀賞。彼女は現在地元の市役所につとめている。去年は採用されたばかりで仕事を覚えるのに夢中だったとのこと。そういう内容のインタビュー記事を新聞で目にしたのは、少し、前。そのときから読んでみようかなと思っていた。 ひじょうに屈折した主人公・戒の人生を丁寧に描いている。登場人物やエピソードも魅力的。自分が大学生だった頃のことを考えると、この筆力はすごい。濃密で収斂性がある。後半で話が見事にまとまっていく。そのうえでプロローグを読み返してみて欲しい。うそ、これってそういうことなの? 計算され尽くした技巧に、驚嘆すること必至。私も、実は図書館に返す直前に何気なく目を通してびっくりしたのだった。え、こんな当たり前のことに気づいていなかったのは私だけだって?
 母の亡霊に縛られている戒の卑屈さと矛盾に、初めはなじめなかったけど、これもきちんと決着がつけられている。この人の頭の中には相当に長い間、この世界が存在していたのではないだろうか。世界観のリアルさもそうだし、こういうタイプのキャラクターって中学生くらいの時期に生まれ出るような気がする。創作に目覚めた、葛藤と自己顕示の時代に。
 学院では民俗学を専攻していたというのが肯ける構成。現代には負のイメージとして伝えられる「伝説の舞舞い」の理解されなかった実状を描く、という手法。道化者になるしかない苦悩、理解されない卓抜した能力と天才故の孤独。三人の女(母、湖妃、夏雨)への思慕、出生の秘密……これでもかこれでもかともりこまれた内容は、読み応えあり、です。私は湖妃の聡明さが美しいと思った。時間をおいて、またいつか読み返したいと、久しぶりに思った本。

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 筆者の小山さんはその後作品を発表しておらず、「戒」も文庫化していません。
 宮城県図書館の館報「ことばのうみ」によれば、ご結婚されて子育て中とか。(ちなみに今回の館報では荒木飛呂彦さんがコメントしてます)
 いい本なので、また図書館で借りたいと思っています。
 

「オカルト」森達也

2013-03-24 05:59:15 | 哲学・人生相談
 夫が出張に行った日、子どもたちは寝てしまい、久しぶりにこの本の続きを読もうと思ったら、すごい怖い。なかなか次の項に移れずにいます。アップしたってことはもう読んだのでしょうけど、これを書いている今は、今日読むべきではなかったと思っております。
 森達也「オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ」(角川書店)。
 発売したときに見かけて買おうかどうしようか迷ったんですが、わたしときたら買った本ほど読まない。「職業欄はエスパー」も持っているけど読んでません。あ、「放送禁止歌」は読みましたよ。
 そうやって考えると、森さんのリテラシーとかリベラルなものに関する著作ならよいのかと思わないでもないですが、でも、始めの方は結構すらすらと読めたんです。ユニークフェイスの石井さんが、頑として超現象を認めなかったのに、占い師の方を信じたという話題には驚きました。わたしも石井さんの著作は何冊か読んでいるので……。
 それから、スプーン曲げでインチキ呼ばわりされた少年の話は、「ゴーストハント」の産砂先生の元ネタですよね。
 こういう話題を、森さんは信じているような、信じられないような、そんなスタンスで書いていくんです。ビデオだのカメラだので証拠を残そうとすると決して現れない。でも、やはり否定しきれないものがある。
 わたしが怖いと感じたのは、あるお寿司屋さんの自動ドアが一定の時間になると開くというものなんです。先日お昼を食べながら同僚とその話をしていたくらいなので、自分にとってぞっとするような何かがあったわけではないのだと思います。でも、霊感のある人にははっきり見える霊の姿とか、森さんがネットで見た映像の話題とか(木原浩勝さんによればつくりものらしい)、さらには木原さんがサッカー解説の宮沢さんと話しているレコーダーにはっきり入っている女の人の声を、NHKの人がこの世のものではないと断言した話。これが怖かった。
 普段のわたしは、暗いところでも全く平気なんですけど(懐中電灯なしに夜の学校を歩けますよ)、早々に布団に入ることにしました。この感じは「リング」を読んだときのものに似ていますね。(その後、ああいう続編が出てわたしの恐怖感は無意味なものになっちゃいましたが)
 そういえば、木原さんの「新耳袋」は、読んでいると首が痛くなって頭痛がしてきます。熱を出したくないので、もう読まないでしょう。で、木原さんが言うには、話を聞くときに「解釈」をしてしまう人が多いんですって。それはつまり、「演出」しているってことなんだということ。語るって、不思議ですね。
 

「私と踊って」恩田陸

2013-03-22 04:00:23 | 文芸・エンターテイメント
 恩田さんのノンシリーズ短編集「私と踊って」(新潮社)。トリビュートものは恩田陸を語る上で重要なファクターかと思いますが、今回はかなり顕著でした。
 例えば表題作も、ピナ・バウシュという方をモチーフにしているそうですし、「二人でお茶を」はディヌ・リバッティ、「東京の日記」はリチャード・ブローティガンを設定に考えた話のようです。
 まぁ、モデルから離れても十分に伝わるのですが。
 さらには田部未華子写真集とかNHKスペシャルの企画本とか星新一のトリビュートとか、そういう依頼を受けて書いた作品も多いようです。
 恩田さんの感覚的な部分が突出していると感じました。わたしはもともとストーリー性のある話の方が好きなんですが、こういうカードの切り方ならのめり込んで読めます。いろいろとテーマの断片もあるように思い出ましたが、いちばん見えたのは「プロバガンダの悪意」のようなものですかね。「さいころの七の目」とか「東京の日記」に現れていると思うんですが。
 好きなカラーは、まず「思い違い」です。他の作品と比べてわかりやすい(笑)。たくさん人物が出てきてスラプスティックな展開をするのは「ドミノ」を思い出しますね。ある喫茶店にやってきた二人の女性が、
「同窓会の通知、来た?」
「二歳下の妹には来たんだけどね」
 と語り合っている。エンディングの「バリバリ愛校心の強い同窓生」はナイスです!
 あとは、「火星の運河」。イメージの中の女性の蝶のような存在が、読者にはつかみやすい。「台北小夜曲」と対になっています。
 「二人でお茶を」の展開も、不幸を予測しつつもそれを突き抜けた明るさが支えてくれて、ほっとします。
 あがり症のピアニストの卵。突然憑依したようになって、コンクールを総なめにします。自分の中にいる誰かが、自分を通して練習している。一緒に練習していると、どう弾いていいのかがわかってくる。鮮やかな覚醒のように、曲想へのアプローチも変わる。
 短い中に、憧れのピアニストを内部に宿してしまったらしい男の困惑と喜び、相手を理解していく感謝が感じられるのです。
 装丁とか構成とか、そういうのもおもしろかった。
 わたしは恩田さん、短編の方が好きなんだと思います。

「とんずら屋弥生請負帖」

2013-03-21 05:27:21 | 時代小説
 前回読んだ陰陽師ものもおもしろかったけど、こっちはさらに好みでした。田牧大和「とんずら屋弥生請負帖」(角川書店)。
 さる大名のご落胤(とは言わないか、女子だから)弥生は、お家騒動に巻き込まれた母が東慶寺に逃げたためにそこで育ちます。叔母のお昌がなんとか弥生を逃したいと「とんずら屋」に嫁し、十二の年に江戸に身を寄せました。そのとき一緒に船頭になろうと誓った幼なじみの仙太郎のことが気にかかるのですが、今では船宿「松波屋」の弥吉として働く彼女には詮索することができません。
 弥吉? そう、弥生は男装して腕利きの船頭として評判を取っているのです。
 もうひとりの名物船頭啓治郎ともに、もてはやされています。
 啓治郎は家族が殺されてしまった生き残りで、十五の年にはとんずら屋の後継者としてお昌に認められているほど肝が据わっています。弥生のことを大切にしすぎで、もういつもいいところで救ってくれる。
 もう一人、京の呉服屋の若旦那の触れ込みで松波屋に逗留する進右衛門。実は弥生の父の国の家老の息子なんです。啓治郎が武骨なら彼は軽やかなんですが、このコントラストがいい味になっています。
 気を張って生きている弥生が、ふと女に戻ってしまう独白がなんとも言えませんね。
 いやー、わたしはお昌が好きなんですよ。火のような気性で男衆にはっぱをかけているの、格好いい。浜乃湯のおばあさんも、岡っ引きの伝助親分も、気弱な船大工の源太もいきいきしていてよかった。
 お家騒動はとりあえずの解決をみるのですが、まだまだ問題はあるように思います。母親の八重はどうなるのか。啓治郎や進右衛門のその後は? いやいや、やはり仙太郎でしょう!
 エンディングで、とんずら屋の手口をよく知る者が敵方にいるのではないかと示唆され、弥生は「ひとりしかいない」と考えます。とすると、かつて弥生が商売敵に川に落とされるきっかけを作った兄船頭「宿を追い出され、江戸から出た」と噂されるのは仙太郎ということになるのでしょうか。
 田牧さんの作品は、間口が広いな。続けて借りてあるので、読んでみようと思っています。

「十二国紀」4 小野不由美 

2013-03-20 05:39:20 | ファンタジー
「華胥(かしょ)の幽夢(ゆめ)」
 〈十二国記〉番外編。……既刊は、もうない。
 シリーズ中の様々な人物に焦点をあてた短篇集。しかし、それぞれの国でいろんなことが起こっているから、どれがどうなっているのやら……。一度整理してみるかと思って、地図の側に王と麒麟の名前を書き入れてみた。これだけでも、少し頭の中がまとまる気がする。さらに、『十二国記公式アニメガイド』を見ると、話の流れや人物をつかむにはいいかも。
 さて。
 収録されているのは五編。南の漣国を訪れた泰麒の話。祥瓊の父を伐った月渓が王位の代行をするまで。楽俊と陽子の手紙を通しての友情。利広と尚隆の交流。
 そして才国の前王砥尚(ししょう)が禅譲するまでを描いた『華胥』。 私はこれがいちばんおもしろかった。ミステリ仕立てでシリーズの他の巻を読まなくても物語に入っていける。でも、『アニメガイド』をみてはじめて、王の叔母・慎思が現在の采王・黄姑だと判った。えええー、そうなのー?
それで『風の万里 黎明の空』ではあんなおばあさんだったんだ! 読み返したら、ラストで朱夏が慎思に「黄姑」と敬意を表すシーンがあったよ! ううー全然気づかなかったぞ。みんな最初から判ってるの?  この話のあと、彼女が登極するまでにもいろいろあったんだろうなぁ。采麟は最初からこちらを選んでおくことは、できなかったのか。
「私は人を非難することは嫌いです」という台詞は考えさせられる。

 おまけです。
「東亰(とうけい)異聞」
 産前産後ものすごい勢いで読書ができた私には珍しく、三日もかかった。
というのも、前半だらだらと関係なさそうな描写が続いて、やっとおもしろくなったのは二章の途中から。友人がおもしろいとほめていたと聞いたので手に取ったものの、ほんとにぃぃと疑りながら読みすすめていたのが、俄然勢いを増した。もうその後は一気に読んだよ。
 特に四章は、「えっ、そうなの?」、そして「大詰」でやられたッ! びっくりです。そうくるか。前半や各章の冒頭についている浄瑠璃の意味がやっと判った。さらに、「東京のパラレルワールドである東亰」でなくてはならない理由も。
 しかし、本文にもそんなこと一言も書いていないのに、単行本が出たときの読者は、どうしてこの舞台がパラレルワールドであることを知ったのだろう。帯かな? 読んだことのない私でも随分前から知っていたから、周知の事実なのでしょうか。
 名家の長男として生まれながら、何も持っていない直(なおし)と、その弟で呪者の輔(たすく)が好きだ。
 明治の闇のほの暗さとレトロな
、雰囲気もいい。
 あらすじは敢えて紹介しないので、この仕掛けに驚きたいなら読んでみて。ただ、相手のことを思いやりすぎて滅していく直と常(ときわ)の哀れさは美しいけど、そのための手段の細工をしている姿を実際に行っている姿を想像すると何か……うう、もっと別の手段があったのではないのー? と思うのだが。

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 というわけで、「十二国記」をものすごい勢いで読んで、今度は欲求不満状態だったかも。でも、すごく続きが気になります。
 この時期の日記にはまだ本についていろいろ書いてあるので、また時間を見つけて書いてみますね。




「十二国紀」3  小野不由美

2013-03-19 05:14:52 | ファンタジー
 出産当日に書いた文章ですね(笑)。やっぱり文章ってタイムマシンだわー。そのときのことがいろいろと浮かび上がります。

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「図南の翼」 
 十二国のなかでも最年少(十二歳!)の王・珠晶(しゅしょう)が、豪商である家を飛び出して登極するまでの物語。最年少といっても、王侯に関わるものは仙籍を所有するから年を取らないだけで、陽子が景王になったときには、もう彼女は九十年も恭国を治めている。
 これを読み終わったのは、二二時二二分。携帯の画面を見たらぞろ目になっていて、ちょっと笑った。
 実は私、この日第二子を出産するために入院したんだけど、陣痛が遠のいてしまって、ただ泊まりに来ている状態だった。読み終わって、さて寝るか……と思ったら、そのうち再び痛みがやってきて、あれよあれよという間に、早朝、女の子を産みました。
 陣痛というのは、痛みと痛みの間にまるで何でもない時間があるものだが、その間私の頭の中には、まだ珠晶の冒険の余韻が残っていた。白兎を盗まれたときの悔しさ、黄海で迷子になったときの不安。ちょっと生意気でこまっしゃくれた珠晶と、困惑しながらも彼女を助けようとする猟尸師(りょうしし) 頑丘(がんきゅう) 、旅人の利広。妖獣の住む黄海を旅して蓬山に至るまでに、幼い彼女の王としての「器」が示されている。これ、同年代の子が読んだら、ぜったいはまる! 
 なんといっても珠晶の思いきりの良さ、勝ち気な顔の裏にのぞく健気さがいい。
 前作『風の万里 黎明の空』で、恭国の少女王は印象的に登場しているし、文庫裏のあらすじで結末は判っているんだけど、収まるべき所に話が収まっていくのは、安心して読めるものだ。
 実は、入院中読もう! と荷物に準備しておいたのは、二作目の『風の海 迷宮の岸』だった。どうしても我慢しきれなくて次々と手に取って、結局既刊は全部退院前には読み終わってしまった情けない私……。
さらに、かなり前に全巻買ってしまっていたので、この話のあらすじを読んだときには、主人公の身近な人が王に選ばれるのだろうなーと誤読していた。てっきり自分が王になるとばかり思っていた女の子が、それで身の程を知る話なのかと……。だって、こんな書き方では誤解しない? しないか……。 

 何不自由なく豪商の娘として育った少女・珠晶は先王の歿後、荒廃した恭国を憂い自ら王となるため蓬山を目指す。侍女の衣を失敬し家を抜け出したものの騎獣をだましとられ、苦難の末に辿り着いた蓬山には自らを恃む人が溢れていた。だが、最後に麒麟が跪いたのは……。十二国供王誕生への遠大なる旅の物語!!

「黄昏の岸 曉の天(そら) 」
 やっぱり、戴国と驍宗のことは気になるよー。
 なぜ、高里は還ってきたのか。彼の側についているモノは何か。彼が戻るべき場所は何処なのか……。この謎が今回解けたものの、驍宗は果たしてどうなったのか、泰麒はこれからどうしていくのかという新たな謎が出てきてしまった。でも、新刊は出ない。ううう。
 慶国金波宮に突然飛来した騎獣と女。女は戴国将軍劉(李斎)と名乗る。彼女の口から語られたのは、戴国で王を陥れる策があり、王も麒麟も行方が判らないというものだった。景王の陽子は、自分を頼ってきてくれた李斎のために、十二国の麒麟たちに頼んで蓬莱国での泰麒の探索を行う。麒麟としての資質を封じられた泰麒は果たして戻ってくることができるのか。
 前回『魔性の子』を読み返しておいてよかった! 細部まで楽しめた。私は李斎が好きなので、彼女が片腕を失ったときには心が痛んだ。驍宗が誰に陥れられるのか、そう思うとはらはらして一刻でも先に読み進めようと思ってしまう。十二国の他の国の王も姿を現して、この世界の構成をもっと知りたくなってしまう。
 産後なのにえらい勢いで本を読んでいていいのか私! と言いたくなるが、長男を産んだときには、『伊東家の食卓 二〇〇一』と『声に出して読みたい日本語�』を読んでいたっけ……。
 

「十二国紀」2 小野不由美

2013-03-18 05:32:52 | ファンタジー
 続けます。今回も「十二国記」シリーズ。

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「東の海神 西の蒼海」
 今まででいちばん読みづらかったのは、戦略がメインになっているからなのか……。後半は大分慣れてスピーディに読めたけど。
 私は延王尚隆が好きなので、彼の活躍ぶりはいいと思ったよ。でも、この人って割と虚無的なのだな、とも思った。それは六太も同じ。シニカルというかニヒルというか、何かを諦めているような感じ……うまく言えない。
 自分の命をなげうって六太を助けようとする驪媚(りび)が泣かせる。自分の名声のために大義名分を掲げる斡由(あつゆ)も、卑怯な男だけど人間くさいというか……自分の中にもそういう一面はあるのかもしれないと感じた。一歩間違うと時代劇の悪代官だよねー。でも一応善政はしていた訳だし……そのままぼろがでなければ、人民に慕われていたのでは。まぁ、幽閉した父親の件があるから、遅かれ早かれ失脚していたんだろうけど。 それにしてもこのシリーズ、タイトルが似通っていて紛らわしい……私だけかな。慣れれば何ともないのか。今回ホワイトハート版なのは、古本屋で買ったから。こっちには山田章博のイラストがついているから、それを目安に購入できるけど、講談社文庫はこれまた似通った写真のカバーだし。目に付いた時に買っているので、重複しないように後ろの既刊案内を見て順番に選んでいる私……。

「風の万里 迷宮の岸」
 新王としての迷いがある陽子、父が暗殺されても芳国公主としてのプライドが捨てきれない祥瓊(しょうけい) 、日本から流されてきた自分の不幸を嘆き続ける鈴。この三人の娘たちの成長がテーマ。
 しかし、いじわるされる場面を読むと、ほんとにうめぇなぁ小野不由美、と思う。雪の中炭を買いに行かせられる祥瓊にも、ご主人の言うことに逆らえないまま、理不尽さを噛みしめている鈴にしても、辛いのがひしひし伝わってくる。でもその辛さを当たり前のものとして受けとめ、「どうして私だけ……」と思う気持ちを前向きに変えられるようになろう、とこの物語は伝えているように感じた。祥瓊が、先の王の娘であることを知った周囲の人たちが、あからさまな敵意を向けてくるなか、今まで彼女に
敵意を見せ続けていた沍姆(ごぼ)が、早馬をとばして命を救う場面と、鈴に対して清秀が父の死を語る場面が、特に印象深い。
「誰かが誰かより辛いなんて、うそだ。誰だって同じくらい辛いんだ。生きることが辛くないやつがいたらお目にかかってみたいよ、おれは」 今、この台詞を探して本を開いてみたら、見事にはまって読み返してしまった。すごい引力! 
 しかし、私って国家の仕組みとか町並みの描写って目では追っていてもあまり頭の中に入れていないかも。流し読み?
 相変わらず楽俊がいい奴。陽子だけでなく、祥瓊も彼と出会うことで自分を見つめ直していくのだね。自分の「いたらなさ」に気づく三人娘の姿にほっとさせられもする。しかし、後半で自分の出自を名乗って、反乱を妨害しようとした人々を追い払う場面は、なんか「水戸黄門みたい……」と思った。
 タイトルが似ている、と前回の感想に書いたけど、もしかして陽子が中心の話は「そら」とか、泰麒の話は「岸」とか、キーワードになっている? あれ? 「風」は? 私の思い過ごしかな。

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 自分の辛さについて語る少年の場面は、はっとさせられました。今でもこのシリーズの中で最も好きな場面です。自分だけ、と思い込んではいけませんね。