くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

まんが寸評 3月

2014-03-30 20:24:28 | コミック
「シャトル・プリンセス」1 咲香里 (講談社)
 「ダ・ヴィンチ」で咲さんのバドミントンまんがの新作の話題があり、勢い込んで買いました! ちょっとお色気シーンが多いのが不満です。
 試合の展開が早くて、バドミントンをやめたいと言った新人の有沢が、実業団チームの西条(主人公)とダブルスを組んだと思ったら、ジャパンオープンで優勝してマスコミに美人ペアとして取り上げられ、一巻ラストでは日本の初メダルを目指してユーバー杯に挑戦です。
 練習シーンが少なくて、試合が次々ある感じ。
 でも、やっぱり咲さんにはバドミントンまんがを描いていてほしいと思いました。

「旭山動物園物語」1~3 本庄敬・森由民(角川書店)
 動物園もの、おもしろいですよね。旭山動物園がどうやって閉園の危機を乗り越えたのか。園長の菅井(モデルは小菅正夫園長。「〈旭山動物園〉革命」読みたいです!)を中心に描きます。
 動物たちと、そこに訪れる人々とのドラマ。猫っぽいサクラちゃんの話がよかった。
 「どうぶつずかん」1(花見沢Q太郎・小学館)も読みましたが、すみません、リアリティが全然違います……。

「アラバスター」1~2 手塚治虫(秋田書店文庫)
 息子が学校で手塚治虫について学んだというので、何か一作読ませようと思って。わたしが子ども時代大好きだった「七色いんこ」が一冊しかないので、二冊で完結する「アラバスター」を借りました。
 ……読ませないで返しちゃいました。小学生が触れる初手塚作品としては刺激が強すぎる。
 祖父の発明によって身体が透明になってしまった亜美と、グロテスクな世界を構築しようとした男の物語です。カニ平が好きだ。

「そばもん」14 山本おさむ(小学館)
 伊勢海老そばと、そばのデザートが出てくるボクシングの話「ファイティングそば」がよかった。この本を読んでいると、おそばを食べたくなります。

「コウノドリ」4 鈴ノ木ユウ
 今回もすごく良かった。前巻で事故にあった妊婦さんのことが気になっていたのですが、この結末以外ないかな、と。メグが亡くなるシーンは涙してしまいました。
 DVの話もつらかった。支配って怖いですね。何か原因があるわけではない、という先生や助産師さんの言葉に考えさせられます。
 そして風疹。防げる障碍というのも納得させられました。学校で集団接種しましたね。

「フィギュアおばかさん」カトリーヌあやこ
 羽生くん目当てに買ったのに、実質三ページくらいで、すごく悲しかった……。真央ちゃんが好きと言っている割に、ページはほとんどジョニー・ウイアーに費やされています。まあ、表紙の似顔絵に該当するものがなかったので、それほど期待はしなかったのですが。
 まあ、カトさんはエンタテイメントなんで、おもしろく読ませてくれるんですけどね。でも、冒頭の選手名鑑にある人をほとんど出さない本編ってどうかと思う。

「エンジェル・ハート」セカンドシーズン8 北条司
 前回の終わり方が気になって仕方なかったので、解決してすっきりしました。
 シティー・ハンターがメインだったら、海坊主たちと「パーティー」で暴れまわる様子を描くのでしょうが、敢えて留守番のエピソードにするところが北条司らしいというのか……。
 
「愛しのローカルごはん旅」もう一杯 たかぎなおこ
 一冊めは前任校に寄贈してきました。もう三年たつのかと不思議な感じ。
 たかぎさんが各地を訪れて地元ならではの食事をします。これがおいしそうで。特に郡山のクリームボックスと九州の白くまは食べてみたいー。台湾のお料理も。
 編集さんや家族と出かけていく姿がとても楽しそう。
 わたしも旅行にいくといろいろ思い出を書きたくなりますが、こういうエンタメ的な表現はできるかな。
 先日も松島に行きましたが、雲に隠れて日の出は見えませんでした……。

「七つの海を照らす星」七河迦南

2014-03-23 19:01:27 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 東京創元社らしい連作短編でした。七河迦南「七つの海を照らす星」。これがデビュー作だそうです。鮎川哲也賞。
 七海という町の児童養護施設で働く「私」(北沢春菜)。中堅といわれる二年めの職員です。(ちなみに、一年めは新人、三年めはベテラン、四年めは退職、というんだそうです……)
 「チャーシューの月」「世界地図の下書き」と、児童養護施設の物語を読んできましたが、この学園の子どもたちが抱えている現実は重い。今回は、七人の少女たちの問題を、「学園七不思議」になぞらえて描かれた作品です。日常の謎系のミステリー。でも、根底には児童虐待の苦悩が色濃く横たわります。

 印象に残っているのは、「滅びの指輪」。戸籍がない少女だった優姫が、「指輪物語」について語る場面です。
「あの指輪は『滅びの指輪』。トールキン自身は否定しているけど、核兵器の象徴とも言われたんだよ。使わずに終わるのがポイントじゃない」
 なるほどー。「指輪物語」読んでいませんが、そういう解釈があるのはおもしろい。
 いやいや、この作品自体も隠された秘密にはっとさせられます。優姫が抱えている苦しみ、そして、「みすず」自身はどう考えているのかも。

 「夏期転住」も心に残ります。卒園した俊樹の初恋の子、直。山荘から消えた彼女はどこへ行ったのか……。
 語り手の春菜には親しい友人佳音がいて、学園のことをいろいろと話します。それから、児童相談所の海王さん。この方が探偵役ですね。
 続編も抜かりなく借りてあります。なんだかどんでん返しがあるという話なので、どきどきしながら読むつもりです。

「学年ビリのギャルが一年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話」

2014-03-20 21:33:09 | 社会科学・教育
 タイトル長いです。これも心理学の見地からかもしれません。「学年ビリのギャルが一年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話」(角川書店)。女性誌で取り上げられていて興味を持ちました。著者は名古屋で塾を経営する坪井信貴氏。心理学に裏付けされた指導をされているそうです。わたしも小学館の「学習まんが少年少女日本の歴史(23冊セット)」を買おうかと思ってしまいました。恐るべし心理学!

 現在二十五歳の「さやかちゃん」を、エスカレーター式の女子校の内部選考すら絶望的だったものを、猛勉強で慶応に受からせた、という夢物語のような話なんですが、先生、とにかくさやかちゃんをその気にさせてしまうんですよね。君みたいな子が慶応に現役合格したら、本になるくらいのインパクトだよ、なんていって。
 さやかちゃんは、福澤諭吉が一万円冊の人という認識しかない。大体「聖徳太子」を正確に読めない。日本地図のアウトラインを描くようにいうと、丸をひとつだけ描く。
 この子は地味な小学校生活を送っていたのですが、母親に一貫校に行けばもう勉強しなくて済むと言われて受験したんだそうです。
 坪井さんはこのお母さん(さやかちゃんの呼び方で「ああちゃん」)を、「悲しい子ども時代の経験から、熱い子育て論を持つお母さん」(帯の紹介文)といいますが、うーん、学校現場から見るとかなり頭をひねってしまいます。
 さやかちゃんはそう言われたせいかちっとも勉強しなくなり、お父さんは弟をプロ野球選手に育てたいとそちらに夢中。さやかちゃんと妹にかかるお金は、頼りたくないからとお母さんが出していたそうです。
 で、まあ、この方が、いわゆる「叱らない育児」を実践されているんですね。最後には、受験勉強で授業中に寝てしまうために保護者召喚されたのに、それならさやかはいつ寝たらいいのかと、先生を説得したのだそうです……。
 わたしの高校時代の先輩に、Z会トップの方がいらしたんですが、授業中寝てばかりで学年順位は二桁(でも東大に行きました)だったという話を思い出しました。
 さやかちゃんは確かにギャルにはなったけど、お母さんが嫌がるようなことはしなかった、煙草のことは隠していた、というようなことが描かれていました。ニュアンスとしては、モンスターペアレントと言われるかもしれないが、お母さんの子育ては正解、という感じ。
 いや、でもね、子どものすることを肯定してばかりいるのも、よくないことをしているのに庇うのも、その子のためにはならないと思うのですよ。一般論かもしれませんが、周囲は迷惑することの方が多い。
 で、表紙には「ダメな人間などいません。ダメな指導者がいるだけなのです」と書いてあります。
 ……自分はダメな指導者ではない、ということですよね。いや、実際に内容も参考になるし、実績のある方なんでしょう。でも、学校の教師をけなす必要があるのでしょうか。
 そういうもやもやがなんとなく消えないのです。

 「何回言ったらわかるの?」は約500回とか、インプットとアウトプット、無駄な繰り返しは脳が嫌がるなど、学習に関わる部分はすごくおもしろい。
 この塾、無制限に来て学習していいコースがあるそうですが、百数十万円を前払いしなければならない。それを、わずか千五百円で分けていただけるので、凡人教師のわたしにはたいへんお得な買い物でした。今後活用しますね。

「超スピード料理」

2014-03-18 21:33:48 | 工業・家庭
 終末の夕食、いつもネタを探しています。
 お惣菜や冷凍食品、レトルトを家人が嫌ううえに、子どもたちは少食。手軽に作れて人気のあるおかずはローテーションになってしまいがち。わたしの場合は、鶏のからあげ、麻婆豆腐、豚肉のチーズ巻き、グラタン、ハンバーグといったところです。
 先週は土曜日が地区会だったので日曜日だけ作ったのですが、八宝菜、タラの柚子胡椒焼き、蓮根のあげもの。あとはきのこの味噌汁とつけものです。
 蓮根はオキアミを薄力粉で溶いてあげ、塩を振りました。いつもはスルーする子どもたちも食べていましたよ。

 この蓮根のあげもの、もともとは桜えびを使ってあげるもので、目玉焼きと丼仕立てにしてレモン汁をふり、ウスターソースで食べるように紹介されています。「あげれんこんと桜えびの目玉焼き丼」紹介者は祐成二葉さん。
 図書館から借りっぱなしでなかなか返せない「とびきりおいしい超スピード料理 コツのコツが満載」(婦人生活社)です。結構好みの料理が多かった。はじめに作ったのは、「なめたけとツナの豆腐サラダ」(小田真規子さん紹介)。
 水切りした豆腐に、なめたけとツナ、貝割れ菜、酢、胡椒をまぜるだけ。
 わたしの場合、材料や家族の好みの問題から、つい自分なりにアレンジしてしまうのですが、参考になる料理も多い。「まぐろときゅうりのおかずサラダ」は、まぐろをアボカドに代えて和風ドレッシングで食べました。あとは平行して読んだ本に載っていたささみのゴマポン酢和えもおいしかったですよ。すりごまにポン酢を加えて、茹でた鶏にからめていきます。あとは焼き魚とか。
 この本で個人的におもしろいのは、ラストのQ&Aです。「本当に時間がないときのおすすめおかずを教えてください」。提案されているのは、「刺身」「盛り合わせの刺身で海鮮丼」「塩こしょうした牛肉を炒めて醤油バター」「シチューやカレーを冷凍しておく」「焼き魚」「ご飯も一人分ずつ冷凍」!
 
 作ってみたいものを二つ書いておきます。村上祥子さんの電子レンジで「ミートローフ」。練りすぎないのがコツだとか。型の底にはベーコンを敷きます。種を入れたらオーブンペーパーをかぶせてゴムでおさえ、レンジ強12分。
 それから、「ツナ豆腐」です。豆腐は半丁ずつに切って、ツナ、しめじ、サラダ油をかけてオーブントースター15分。三ツ葉を散らして、酒、醤油、中華だし。
 いろいろ挑戦したいのですが、しばらく作らないとレシピを忘れてしまうこともあります。池波正太郎や惣一郎さん(「めぞん一刻」)のように、食べたものを日記に書いておくべきでしょうか。
 ちなみに、「ミートソース豆腐」は息子には不評でした。おばあちゃんが鍋焼き風のうどんを作って、すき焼きみたいに食べたものは好評。
 今週は三連休。何を作るか悩みます。

「上流階級」高殿円

2014-03-17 05:31:50 | 文芸・エンターテイメント
 例によって歯医者で女性誌を読んでいたら、この本が紹介されていました。高殿円「上流階級 富久丸百貨店外商部」(光文社)。
 高殿さんの「トッカン」を、一話だけ読んでほうっておいたわたしでしたが、こちらはとても楽しく読みました。
 お仕事小説としてデパートの外商を取り上げようとしたら、どこも取材に応じてくれない! と高殿さんが語ってらして、どんな作品に仕上がっているのか興味津々。主人公鮫島静緒のバイタリティに頷かされ、葉鳥さんのサービスに感嘆しました。

 もともとは近所のパティスリーで仕事をしていた静緒。店主の雨傘君斗と強い友情で結ばれており、なんとか彼のケーキをみんなに食べてほしいと奮闘するうちに、富久丸百貨店の紅蔵と葉鳥がやってきます。
 そのうちに独創的なアイデアで社長賞をとったり、社内の有望株の男性と結婚したりと、一見順風満帆な人生を送ってきたかのような静緒ですが、妊娠中に浮気されて流産。そのうえの離婚。社内での噂話の的になることも。
 現在は葉鳥さんが急に退職すると言い出し、その顧客を引き継ぐための仕事にてんてこ舞いしています。なにしろ、月のノルマが一千五百万ですからね! ブランド品の時計や食器を持ってお得意さまをまわるのです。
 新規開拓もしなければならない。いつも厳しいことを言うお客様もいる。新しい企画をすれば系列会社にないものは駄目だと言われる。
 静緒のライバルは、色男でお坊ちゃんの桝家。自分自身もお得意さまの子息で、ばんばんノルマをこなしてしまいます。彼に嫌みな態度をとられて怒り心頭の静緒でしたが、葉鳥さんの計らいでものすごい上流住宅地に部屋を貸してもらうことになります。しかし、なぜか桝家と同居するはめに……。
 
 こうやって書くと、なんだか静緒と桝家の間にラブでも起こりそうな予感がしますが、さにあらず。桝家は片思いの相手もいるゲイなのでした。
 こんな感じで、様々なエピソードが重ねられていきます。教師をしていた珠理の話が意外な着地点で驚きました。校門前でタバコを吸っていたジーパンにパーカーの男が、吸い殻を落としていったから拾わせたって、なかなかすごいですよ? 計算すると、当時珠理は二十五歳、御子柴は四十代かと思うんですが……。
 
 しかし、プレミアムですよね、上流階級。自分のチープな生活からみると、夢の世界です。というより、近所に百貨店ないですし。
 以前、宮城の人はジャスコやヨーカ堂をデパートだと思っているという笑い話がありましたが、まあ、そういう感じの庶民生活ですよね。
 百貨店に勤める人は、自らも宝石箱の一員として輝く必要がある。服装もそれなりのものを着ていくという話題も、衝撃でした。デパートに就職した友人の顔を思い浮かべてみたり。
 ところで、静緒がくる前評判と名前から男だと思っていたという桝家の台詞には笑っちゃいました。
 
「教養とは、振る舞いです。手間暇をかけた身なりと、正しい日本語と、落ち着き」
 葉鳥さんの言葉です。サービスとは、「値札のつかない人間の価値」それを作り上げるのは経験であると語る彼に、わたしも尊敬の念を感じてしまいます。
 途中、「マイ・フェアレディ」になぞらえている部分があり、映画ではイライザとビギンズ教授は結婚すると書いてありましたが、女性として自立していくのは原作でしたっけ?
 お得意さまからの無理難題を、悩みながらもクリアしていく静緒。颯爽としていて素敵です。ちょくちょく出てくるスイーツの話題も、魅力的です。わたしも生クリームたっぷりのクロワッサン食べたいよ。
 それにしても、疑問点がひとつあるのですが、341ページ二行目の「私」は? もともと一人称の小説だったということですか? 直し忘れ?

「彼女の家計簿」原田ひ香

2014-03-16 16:37:49 | 文芸・エンターテイメント
 読み終わってたちのぼるのは、母朋子の圧倒的な孤独でした。生後まもなく自分を置いて、男と心中した母親。働かない父。気難しい祖母。「みっともない」を何よりも嫌うのは、この癇性な祖母からの生育の影響ではないかと思うのです。そして、娘の里々に温かく接することができないのも。夫と別れてしまったことも。
 
 加津、朋子、里々、啓。母系の四人を描きます。原田ひ香「彼女の家計簿」(光文社)。ある日、突然送りつけられた古い家計簿。母から転送されてきたようですが、里々は困惑します。だいたいあの母にしてはやることが感情的です。
 そこに描かれていたのは、祖母加津の穏やかな生活。夫を戦争にとられ、義理の母親との暮らしの中、代用教員として小学校で働くことになります。子どもたちは疎開先から苦しみと寂しさを手紙で訴えてくる。胸が潰れる思いで働き続ける加津でした。
 
 平行して、水商売の女性専用ハローワーク「夕顔ネット」の代表三浦晴美の生活が描かれます。前代表が引き継いだ土地は、そこで定食屋をしていた五十鈴加津から譲られたものでした。彼女は親身になって女性たちの面倒を見たり仕事を教えたりします。晴美は面識はないのですが、前代表や同僚からいろいろと話は聞いていました。
 もともとは加津の住居だった事務所を建て替えることになり、荷物を整理する中でその家計簿を見つけたのでした。
 
 次第に親しくなる晴美と里々。日記に描かれている木藤先生を探すことになります。
 自分のイメージしていた祖母と、日記を書いた加津とのギャップ。
 
 わたしにとって印象的だったのは、もとAV女優のみずきにパソコンを教えてることになった里々が、
「でも、考えてみたらなにも違わないの。ただ、彼女には、なにかがたりないような気がしました」と語るところ。
「なんだろう、ほんの小さなものだけど、別の女性と彼女を大きく隔てているもので、そして、それは……さっきは違うところだなんて言ったけど、たぶん、あたしにもたりないものなんじゃないかしら」
 みずきは、専門学校の学費を稼ぐためのアルバイトとしてAVを始め、もともとの契約内容が完了したために引退したのですが、海外にもファンがいたり、通うようになったパソコン教室の先生にまでストーカーじみたことをされてしまいます。
 考えてみれば、里々たちは幸せな結婚生活からは隔たったところにいます。朋子は離婚、里々はシングルマザーの選択をしています。晴美は、若い頃の恋愛がもたらした悲劇を今でも引きずっている。
 
 読み終わって、結構ジェンダー的な要素も感じました。わたしたちも里々も、加津が求めていた価値観をもつ時代を生きていると思います。
 家計簿を拠り所にしていた彼女。そこに込められた思いも、胸を打ちます。

歯医者さんの本棚

2014-03-12 20:42:44 | 〈企画〉
 わたしの通院している歯医者さん。本棚にマンガとか週刊誌とか置いてあるんですが。結構ラインナップが不思議なんです。以前は「医龍」とか「ドクターコトー診療所」とか、医術関係のものがメインだったのです。
 今回、ジャンルが増えていたんです。「仁」はまだ先のパターンでわかるんですが、「僕等がいた」とか「バクマン。」「荒川アンダー ザ ブリッジ」「ゼルダの伝説」とか。しかも、なぜか六巻までしかないのです。続きは? レンタルしに行けってことですか?(なぜか「ポケモン」はいっぱいあります)

 「君に届け」椎名軽穂
 長い黒髪で表情が暗い黒沼爽子。小学生のころから「貞子」と呼ばれ続けて、高校生に。そこで知り合った諫早くんとお互いを意識し合うように……。
 いやー、諫早くん、いい奴ですよね。今までこういう相手役はいそうでいなかったというか。あんまり少女まんがのヒーローっぽくないというか。
 感じとしては、龍の方が主役より存在感ある気もします。先生も目立ちすぎだ。諫早くんより友達の千鶴たちとの関わりがメインのところまでしか読んでないので、その後謎ですが、比較的新しいコミックの表紙カバーは諫早くんと爽子の父でした。
 あ? イメージとしては「恋愛カタログ」に似ているような気がしてきました。気のせいかな。
 
 「仁」村上もとか
 村上さんらしくぐいぐい読ませてしまう。相変わらず主人公がもてもてで、咲さんとか太夫とか、最終的には誰と結ばれるのか、それともタイムパラドクスで結ばれないのか、気になります。
 江戸時代の医術を、現代の技術で治療していくという展開には、周囲から疑念の声もあがる。
 咲さんが縁談を蹴ってしまうあたりが好き。このあとも気になるのですが、まださわりですよね。うーん。レンタルするべきでしょうか。

 「ソチオリンピック記念グラフ」
 羽生結弦くんが表紙です。中三のときから注目していたので、今回の金メダルは感激! お父さんはわたしと同窓だそうです。(七年ほど先輩)
 地元の浅水地区では「ふるさと応援団」が結成されたとか。おじいちゃんはもう亡くなられたんですね。高校の先生だったそう。
 なんと教え子のお姉さんが羽生くんと同じクラスで、「ゆづって呼んでね!」と初対面のときに言われたとか、担任はソフトテニスのN先生だとか、こちらではローカルな話題で盛り上がっています。

「仙台ルール」
 自分で買おうかと思ったこともありましたが、歯医者さんで発見したのでちまちま読みました。「いきなり」が「突然」のほかに「たいそうな」という意味もあるとか、仙台の人は同意するとき「だからー」というとか、地元でどっぷり過ごしている身としては指摘されるまで気づかないようなことも書かれています。そう、「宮城出身」というより「仙台出身」っていう方が通りがいいんですよね……。
 なぜかここ最近見当たりません……。「楽天あるある」は今ひとつ好みじゃなかった。

 あとは女性誌で料理を覚えてきたり。ゆでたまごをみじん切りしてツナマヨネーズあえ、チーズ焼きにするおかずは、娘には好評でしたが、息子は食べてくれませんでした。
 鶏肉ときのこの鍋(長芋のすったものを最後にかける)やトマトとタラの鍋もおいしそう。
 待ち時間が長いので時間を潰すには充実していますが、今日も新しい虫歯を発見されてしまい、まだ当分通うことになりそうです。

「思い出をレスキューせよ!」堀米薫

2014-03-11 20:57:49 | YA・児童書
 震災から三年。
 堀米薫さんの新刊は、今日にぴったりの一冊です。「思い出をレスキューせよ!」(くもん出版)。
 「『記憶をつなぐ』被災地の紙本・書籍保存修復士」というサブタイトル。大船渡に住む製本家金野聡子さんの活動を紹介しています。堀米さんは角田からバスで取材に通われたとか。
 
 わたしの祖母も岩手県出身で旧姓は金野です。でも、よく見ると読み仮名が違っていました。聡子さんは「きんの」とお読みするそうです。
 聡子さんはロンドンで紙本修復を学びました。地元の和紙を使って修復をなさるのだとか。道具箱の中身も公開されていましたが、メスとかデンタルピックとかご自身で削られた骨へらとか、すごいの一言。わたしも図書室の本を修繕してはいますが、なかなか思うようにはいきません。そうそう、背表紙は傷みやすいんです。

 聡子さんは本の修復や布張りの本づくりを教えていたのですが、震災で泥まみれになってしまった写真を見てなんとかしたいと思われます。写真の汚れを落とす方法。乾かす工夫。持ち主を探して返却。
 想像する以上に難しいはずです。この地域の返却率は九十パーセントを超える。よその地域では、まだ持ち主の分からない写真が多いのではないでしょうか。
 しかも、アルバムをデザインしたり、裏面のメモが見えるような展示をしたり、ただ写真を洗浄するだけにとどまらない活動が素晴らしい。
 本を通して未来に続いていく。聡子さんが「ゴールのないバトルリレー」と語られるのが印象的でした。堀米さんの「命のリレー」とつながる言葉ですよね。
 

「サバイバー」吉井妙子

2014-03-10 16:28:47 | 歴史・地理・伝記
 「サラの鍵」のあと、アウシュビッツに関わる本をもう少し読みたいと思って、本棚から引っ張り出しました。「サバイバー 名将アリー・セリンジャーと日本バレーボールの悲劇」(講談社)。
 セリンジャー監督は、わたしが強烈にバレーファンだった二十年前、ダイエーオレンジアタッカーズを率いていた方。わたしは大学生男子をメインに応援していましたが、知名度は高かったと思います。今回、協会への提言を批判と受け取られていたということが書かれていましたが(サブタイトルはこの部分を受けて「悲劇」といっているのでしょう)、その点はあまり記憶にないといいますか……。ただ松平康隆を怒らせたそうなので、当時その状況ではやりにくかっただろうとは思います。

 彼は二歳から六歳までを収容所で過ごしたホロコーストの生き残りです。母親とともに生き延び、同じ場所にはアンネ・フランクもいた。終戦の間際にまた輸送されそうになり、逃げようとしたときに米軍が現れて救われたのだそうです。
 死と隣り合わせの日常。母親がたったひとつ持ち込んだ羽根布団。パンは何回かに分けて少しずつ食べる。スープは底のほうが野菜にありつく可能性が高い。でも、あんまり遅いとなくなってしまう。
 アリー少年の涙ぐましい努力が胸を打ちます。
 ただ、セリンジャー監督の記憶も、なにしろ曖昧なところが多く、吉井さんの取材と整合性がずれるときもある。彼はサバイバーのためか人を信用しないところもあり、自分が帰国することが新聞にすっぱ抜かれると吉井さんがしゃべったのではないかと疑うこともあったそうです。

 セリンジャー監督の伝記という側面が強いのですが、どうしてもアウシュビッツには足を踏み入れられないので、吉井さん視点のパーツがどうしても多くなります。アンネ・フランクのミュージアムを訪ね、様々な人にインタビューをしています。
 吉原知子さんが全日本を年齢制限という訳の分からない理由で外され、その後監督になった柳本さんからぜひ力を貸してほしいといわれて、悩む場面が印象的でした。(つい、その前の監督が誰なのか検索してしまいました……)
 セリンジャー監督はこれまでイスラエル、アメリカ、オランダのナショナルチームを率いて、徹底的な身体能力の強化を図ってきました。オリンピックのメダルというわかりやすい指標がありながら、日本では彼の指導を採用しなかった。Vリーグ優勝や諸大会の活躍も無視。十五年の日本での生活を、彼は「人生のミス」だったといいます。日本バレーはなんとなく泥臭かったり根性を好んだりするからでしょうか。
 本書を買ってから五年も経ってしまいました。吉井さんが話を聞いてまとめるまでにも三年かかっているそうです。
 その間、バレーボール界も大きく変化しています。セリンジャー監督が育てた選手たちは、その次の世代の選手を育ててくれるのではないでしょうか。
 
 もうひとつ。ホロコーストに関して、二十世紀の世の中で、ユダヤ人の撲滅を本気で企てるようなことがあるはずがないと、当時の人は思っていたと記載されています。
 わたしたちは、歴史の一場面としてこのような事実があったことを知っているわけですが、そういわれてみれば、遠い過去でもない。まだ百年も経っていないのです。
 どのくらい途方もないことだったのか、とため息が出ます。
 本書にも「ホロコーストから六十年」とありました。「サラの鍵」もヴェロドローム・ディヴェールから六十年の物語でした。
 当時、ユダヤ人のパスポートは女性の名前がみんな「サラ」にされてしまったともありました。
 わたしにとっては、非常につながりのあり二冊だったと思います。

「刑事のまなざし」薬丸岳

2014-03-09 11:12:38 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 ひさしぶりに薬丸さんの本を読もうと思ったら、ドラマ化の影響でずっと貸出中でした。「刑事のまなざし」(講談社)。短編連作です。わたしがテレビでちらっと見た回は、この作品には収録されていませんでした。
 もともとは教師を志望していた夏目は、あるきっかけで法務技官になります。少年たちの更生を願う彼でしたが、娘がハンマーで殴られて植物状態になったことをきっかけに刑事に。
 娘の事件の犯人を探しているのではないか。ホームレスになりながらも子どもの復讐をしようと考える老人の話(「ハートレス」)からそんな感じを与えますよね。
 夏目さんは穏やかな人柄なのですが、実は高校時代ボクシング部だったり、八戸付近の出身で「ひっつみ」を作ってくれたり、うさぎのマスコットを入手するためにクレーンゲームをしたりもします。まあ、全部捜査に関わってきますけどね。
 毎日一本ずつ連続ドラマのように読んできたんですが、後半は一気に読みました。「刑事のまなざし」の恭子、印象的です。芯に秘めた激しさといいますか。目的のために手段を選ばないといいますか。
 恭子の妹は、夏目の娘の事件と同じ通り魔に殺害されたのです。彼女は中学時代、札付きだった聖治と結婚していて、彼をつれて同級会に出席。そこにはほぼ引きこもりになっているらしい太田も来ていて……。
 大筋の展開は想像できるのですが、彼らの思いが感じられて、これから先にはつらいこともあるだろうと思いながらもほのぼのとした明るさがあります。
 「黒い履歴」や「プライド」もいいと思います。帯には「薬丸岳だからこそ書けるミステリー」とありますが、納得しました。