くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「黒沼」香月日輪

2012-11-28 05:36:58 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 これ、読み聞かせしたら怖いだろうなーと思いながら読みました。特に前半に収録されている話は怖い。「ランドセルの中」とか「たたずむ少女」とか。図書室に引き込まれてしまう「扉の向こうがわ」も、なんか身につまされると言いましょうか。
 「黒沼 香月日輪のこわい話」(新潮文庫)。発売してすぐ買ったのですが、朝読書にちまちま読んでやっと終わりました。「黒沼」に出てくる桜太が主人公の「桜太の不思議の森」も半分読んだので、背景が分かりやすい。
 森の中にひっそりとある黒沼。辺りの美しい風景をいかしてキャンプ場にしてはどうかとの話が持ち上がります。桜太の父はその計画のリーダーになるのですが、母親(桜太のおばあさん)が大反対。いつもは穏やかで優しいのに、この問題には頑として首を縦に振りません。
 黒沼を埋め立てたり森を伐採したりすることはしてはならない。
 桜太は病弱ですが、人には見えないものも見えます。このところ、毎晩のようにお囃子が聞こえてくるのですが……。
 香月さんって、暮らしの根っこみたいなものを大切にしたい人なのではないかと思います。禁忌のある地には足を踏み入れない。神の宿る場所は崇める。現代文明に感化されてもそのことを忘れてはならないのです。
 「鬼車」が怖い。江戸怪談話をそのまま語るような乾いた怖さ。杉浦日向子の「百物語」みたいです。死んだはずの妻が未練を残しているのか幽霊として現れる。念仏も甲斐なく、日に日に家に近づいてくるのです。我が子の誕生とひきかえに命を失った妻は、何を望んでいるのか。自分も母親として、ちょっと寒気がします。
 「ねこ屋」のほのぼのとした感じが好き。この町は「師匠」がいるところじゃないかな?
 そんな訳で香月さんの世界観がほの見える感じがします。ちょっと怖いもの見たさから入って、他の作品も読んでほしい。
 書店で「妖怪アパート」のブックレットをもらったので、ひもをつけて吊しておきました。じわじわと広まるといいんですが。

「桜舞う」あさのあつこ

2012-11-27 05:37:26 | 時代小説
 一度借りたんですが、読まないうちに返却期間が終わってしまい、今回再びトライ。でも、また初めの方だけ読んでほうっていました。後半スピードアップして読み終えました。
 「桜舞う おいち不思議がたり」(PHP)。前作の謎が解けてすっきり。父松庵が何故出世を棒に振ったのか。おいちの出生の秘密とは。
 途中であまりにも見え見えの伏線があってどうかと思わないでもなかったのと、十斗と新吉への思いの違いを読者に交錯させてしまうことに疑問を感じましたが、物語はわかりやすくエキサイティングです。ならず者に捕まったり、悪者の屋敷に忍び込んだりと、さすがはおきゃんなおいち。親友が亡くなったりおばさんが倒れたりで、医術の道を見つめ直す部分もあります。
 父の跡を継いで医者になりたいと願うおいちですが、正月を迎えれば十七歳。あとひとつ年をとればもう「娘」ではないと、おばさんからも近所の人からも言われます。嫁に行かずに自分の道を究めようとする女は、世間から受け入れてもらえない。それを心配しているということに、初めて気づくのでした。
 幼なじみのおふねが急死し、その治療にあたる医師の弟子・十斗と知り合います。彼はならず者に捕まったおいちと友人のおまつを助けてくれる。しかし、その後再会した十斗は、松庵は自分のかたきなのだというのです。
 いや、それは逆恨みだろう、と思わないでもないのですが。
 あれこれあります。でも、まあ、落ち着くところに落ち着いた感じですね。続編がなくとも、おいちと新吉の行く末が感じられます。
 

「弁当づくりで身につく力」竹下和夫

2012-11-26 05:41:19 | 社会科学・教育
 小学生が自分の力弁当を作る。その試みについては耳にしていました。わたしも毎日夫の弁当作っています。子供が幼稚園のときは二人分だったので、大分楽になりました。でも、高校生になったらまた作ることになるのかなぁ、とも思っています。そういえば、三者面談のときに「学食のある高校に行ってほしい」といったお母さんがいたっけ。
 「弁当づくりで身につく力」(講談社)。竹下和夫さんは校長として勤めた学校で弁当の日を提唱し、今も全国に広げる活動をされています。この本には、活動を通して子供たちが成長していく様子がエピソードとともに語られています。
 全部一人で作った。そういう友達の姿勢に感化されて、次は自分もと意欲を燃やす子。調理を通して苦手な食材を克服できた子。お母さんのやさしさに気づいた子。父子家庭で育った不良めいた少年が担任に卵焼きを見せにきて、すごいと褒められた。学校で褒められたのは初めてだと語る彼に涙するエピソードに、ぐっときました。
 わたしが中学生のころ、月に一回お弁当の日がありました。給食好きだったのであまり嬉しくなかったな。高校生になったら毎日弁当で。ある日、友達に自分で作ったらいいのでは、と言われたのですよね。うちの母は独創的な人なので天ぷらだけとか、よくあったので、文句を言うよりは冷凍食品などを利用して作る方が楽だよと。
 以来ずっと自分で作りますか。学生の頃は毎日食パンにハムとスライスチーズとレタスをはさんで持っていきました。手抜きだけど、家賃以外は三万円の仕送りだったので節約できるところは削ったのです。
 本には卒業生からの思い出作文が寄せられていますが、その中で「一人暮らしだが調理は苦にならない」といっていた男子がいたのです。そうだよね。親として教師として、子供には自分で生活できる力をつけたいのです。目的地に時間通りに行く。その手段。持ち物。段取り。昼食はどうするのか。家での生活。わからないことはどうすればわかるのか。手持ちの予算でやりくりすることはできるのか。機械が動かないときはどうするか。こういうのがすべて「弁当づくり」の中にある。極論ですが。
 というよりも、これが第一歩なのかもしれません。自分で動き出すきっかけのひとつなのでしょう。そのほかの何かがきっかけになる子もいるはず。でも、やっぱり「食」は人を作っていくのだと思わされました。弁当づくり頑張ります。あ、今日はいらないそうなので、また明日から。

「アコギなのかリッパなのか」畠中恵

2012-11-25 06:17:16 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「さくら聖・咲く」を読んだら、前作も読みたくなって。ちょうど本校図書室にあるので(わたしが入れたのですが)、借りてきました。
 時期的に二作の距離はそう離れていないのですね。聖はこちらでも二十一歳です。そういえば、小原さんが都議会議員になって間もないようなことを言ってたかなーと思いました。
 「アコギなのかリッパなのか」(実業之日本社)。思ったよりも加納議員が目立ちまくっている感じじゃなかった。ずいぶん前に読んだので、いろいろ新鮮でした。ただ、続きを読んだばかりなので、伏線がわかりきっている部分もあり、もったいない気も。真木が誰の秘書なのかとか、小原さんは受かるのかとか、あんまりはらはらしません(笑)。でも、聖が走り回る事件についてはすっかり忘れていて……。どちらかというと、物語よりも人物のほうで読んでいるのかなと考えてしまいます。
 ただ、以前読んだときも、政治家の「はたらき」に目をひらかれる思いがしたので、こういう時期だからこそ読み返したくなったのかもしれません。
 聖が大堂に依頼されていく事件としては、猫の毛色が変わると訴えるおばあさんの家、リトグラフを持ったまま新興宗教に入ってしまう秘書のこと、加納議員の地元で展開されていた派閥争い、太った旦那さんは間食をしているのか、という感じ。聖がなんだかんだ言いながらもみんなのことを好きなのがよくわかりますね。
 三連休、ゆっくり過ごしていたので結構読みました。テスト前なので部活もそないしー。(テスト問題も作らないとならないのですがね……)
 今市子さんの泉鏡花シリーズとか「お取り寄せ男子」の二巻、「花咲ける青少年」三巻の「サンクチュアリ」すごくよかった。ノエイが好きなので、切ないです。
 「シャーロッキアン!」というまんがの三巻を買ったのですが、これもおもしろかった。前の巻を探して読みたいな。

「空飛ぶ広報室」有川浩

2012-11-24 14:27:11 | 文芸・エンターテイメント
 ブルーインパルスが好きで、毎年航空ショーを見に行くといっていたHくん。東日本大震災のあとで、余りにもご遺体が多くてつらかったというKくん。原発関連の片付けに駆り出され、内部被爆を恐れながらも活動するYくん。中学時代の話をしたあと、ピシッと挨拶していったIくん。教え子たちの顔が、読みながら浮かびます。かつて死を覚悟しながら海外派兵に向かったJくんも、今は転職して会社員をしているそうな。
 有川さんのあとがき、五回くらい読んでしまいました。「空飛ぶ広報室」(幻冬舎)。自衛隊広報の皆さんの活躍を描いています。
 有川さんって、こういうPRものがうまいよね。これまで知らなかったようなことも次々出てきて、ものの見方が変わります。たとえば、震災のときの救援物資は自衛隊では受け取らなかった、とか。自分たちが被災している松島基地も、当然のように救済活動に移ったとか。駐屯地と基地がどう違うのか、というのも興味深い。
 空井大祐は、ブルーインパルスのパイロットを目指しており、その夢が叶う直前に事故に巻き込まれて半月版を損傷。資格を剥奪されます。茫然自失のていで転勤してきた広報室で、空井が引き合わされたのがテレビ局のディレクター稲葉。つんけんとした彼女は自衛隊に嫌悪感があるらしく、広報室では非常に評判が悪い。
 しかし、空井との関わりで稲葉は変わっていきます。また、空井もパイロットではない自分を受け入れていく。もう三十すぎなのに、じれったいほど進展していないことが「あの日の松島」で判明しますが。
 室長の鷺坂さんがいいですよ。ミーハーだけど頼れる上司。広報の仕事を受け継いでいくために昇進を見送る比嘉さんも落ち着いていて素敵です。槙さんが片山より年上なのはびっくり。いや、肩書きみれば三佐と一尉だから予想がつくんでしょうけど。
 CM作りのことを取り上げた「神風、のち、逆風」がおもしろかった。自衛官という職業について、いろいろ考えさせられます。
 わたしはお仕事小説が好きなんですね。テレビ局勤務の稲葉が出てくるのも、似ているようでかなり違うという自衛隊広報の特質を強調して分かりやすい。
 アイデアがありそれを構築していく中での困難やトラブルがある。その解決をどう図っていくか、大切だと思います。
 有川さんの好きな部分が詰まった、いい小説でした。彼女の特性を見極めて声をかけてきた広報室の室長さん、グッジョブ!

「ミステリー通り商店街」室積光

2012-11-21 20:48:44 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 ミステリー、なのかな?
 久しぶりに日付が変わる時間まで読んでしまいました。いつも眠くなる時間に帰ってきたからかもしれませんが。
 室積光「ミステリー通り商店街」(中央公論新社)。「都立水商!」を読んだとき、おもしろかったので、もう少しいろんな話を読んでみたかったのですが。なかなかないんですよね、図書館に。これは古本屋で購入。室積さんはもともとテレビ業界の方なんですね。今回この作品を読んで、ディテールが小説的でないように感じました。
 実家の酒屋を継ぐために退職した鳥越は、以前担当していた作家の三井大和が失踪したことを聞きます。ある書評サイトでけなされたことを気にして、その文章を書いた岩田のもとを訪ねたのではないかと推理し、静竹県温水町に行くことに。岩田はその町で電気屋を営んでいるということですが、「批評文は定期的に発表しているが、自分ではミュージシャンだと思っている」という強烈な自己紹介文を書くんですよ。
 温水の駅を降りたら、煙草屋のおばあさんに「人をお探しかい?」「事件だね?」と聞かれてびっくり。実はこの商店会ではミステリーを町おこしの題材にしていて、おばあさんは誰が来ても同じことを聞くんです。
 会長の松木から宿を世話してもらい、会合にも顔を出した鳥越は否応なしに彼らの迷推理に引っ張り回されることになりますが……。
 「胡桃」という店が出てくるのですが、正反対の姉・麗子と妹・真矢が印象的でした。美人で慎ましい姉の悪い噂を、真矢は吹聴して歩くのです。男と二人になると姉は人が変わる。昨夜鳥越は「胡桃」に泊まっていった。店の料理は調理学校を出た自分が考えたものだ。姉が在学中に結婚すると言い出したから、自分は大学にいかせてもらえなかった、等々。真矢の言うことはみんな嘘だらけだと鳥越は気づくのでした。
 妹は境界線人格障害ではないかと思う、と麗子は言います。
 三井はもう死んでいるのではないか。結局そういう結論に達するのですが、事実を告白させるために、鳥越は「海に面した断崖」で岩田と対峙することにします。そう、二時間ドラマ!
 どんでん返しがあるかな、と思いましたがありませんでした。でも、ハッピーエンド好きな人には安堵感があるラストでしょう。

「道警刑事サダの事件簿」菊池貞幸

2012-11-20 04:17:33 | エッセイ・ルポルタージュ
 私服刑事さんがアパートを訪ねて来られたことがあります。近くで強盗事件があったとのこと。どっしりした年配の男性と、小柄で落ち着いた感じの女性。朝早くだったので衝撃的でした。
 警察の方とお話しする場面といえば、防犯講話とか交通安全教室とかがあげられますが、時には余りありがたくない要件でお世話になることも、ありますよね。幸いわたしは直接聞かれたりしたことはありませんが。この本の中にも学校関係の事件が何点か紹介されます。
 まず、男の部屋から帰ってこない女子高生。駐車していた自転車を持ち出して乗るツッパリ。人の自転車を乗り回して故障させた高校生。
 ただ法的な手続きをとるだけでなく、その子の今後のことまで考えてくれる温かさを、菊池貞幸さんの文章から感じました。
 「道警刑事サダの事件簿」(徳間文庫)。警察官として関わった事件を小説風に紹介しています。有名なところでは桶川ストーカー事件とか。でも、事件そのものというよりも、関わりをもった周囲の人たちへの視線が優しいんですよ。
 突発的に殺人を犯し、逃亡した男の母親。酒に酔った父が、運動会の弁当を作っている母を刺してしまったために二人で残された兄妹。高校時代の友人から銃を預かってしまった農夫。菊池さんが憤るのは罪そのものなんでしょうね。何か事件があったとき、当事者以上に誰かが傷ついていることを感じます。
 ときに加害者でありながら、ふてくされて責任をとろうとしない人もいる。しかし、彼と出会って考え方を変える人びとも、間違いなくいるのです。
 様々な出会いは、警察関係者だけではありません。近所に住む韓国人の岩田さん(本名は朴さん)からこれまでの人生を聞いたり。
 印象的だったのは、ある少年を介してやりとりした駐在さんの手紙に描かれる義家弘之の姿です。一発触発状態の喧嘩を体を張って止めたというエピソード。その後の彼の様子を思うと、やっぱり有名になりすぎたんだよなぁ、と思ってしまいます。彼はこの現場で生きていくべきだったのでは。
 交通事故にあった知り合いを、万が一の奇跡に賭けて別の病院へ搬送するかどうか悩む「自分の判断」もよかった。大金をかければ助かるかもしれない。でも、公算は少なくお金に余裕があるとも思えない。結局その選択肢を提示しないままその方は亡くなります。奥さんからはその保険金で家を買うことにしたと連絡が入りますが、後年その場所には見知らぬ家族が住んでいて。
 事件に巻き込まれるやるせなさ、どうにもならない悔しさ。そんな人びとの感情を、菊池さんは書いていきます。彼の心を支える「神様」は、刑事としての信念からきているのでしょう。また、西上心太さんの解説で明らかになるある事件への怒りが、さらりと書いてあるように見えた文脈に光を当てます。
 娘の歯医者に付き添って行って読んだのですが、するすると入ってきておもしろいと思いました。

「さくら聖・咲く」畠中恵

2012-11-19 19:16:04 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 ごめんなさい、ずっと「ひじり」だと思っていました。「せい」だった。前作も読んでいるに記憶していなかったのですね。
 畠中恵「さくら聖・咲く」(実業之日本社)。元大物議員の大堂の個人事務所でアルバイトする佐倉聖。卒業も近づき、就職を考えはじめます。中学生の弟を扶養する立場としては堅実な公務員といきたいところですが、そうなると議員関連の部署に回されそう。まずは、長期アルバイトからの採用が多いらしいD社の面接に行きますが、予想しなかった停電である部屋が開かなくなり……。
 畠中さんの現代もの。海千山千の政治家たちが持ち込んでくる厄介ごとを解決しなければならない聖の苦労と、口ではあれこれ言いながらも手助けしてしまう人のよさが楽しい。地元では王子様と呼ばれるほどの出で立ちながら、結構腹黒い加納議員。美人できっぷがよく、有能なのに恋に落ちてしまうと使い物にならない秘書の真木。ものすごい面倒くさがりなのになんでもお見通しの大堂と、その妻沙夜子議員。弟の拓。彼の作るサンドイッチがおいしそうなんです。聖のキムチチャーハンも!
 紆余曲折でいろいろあって、新しい知り合いも増え、ラストは大団円。現代ものなのに、聖は「若旦那の兄や」みたいな喋り方をすることがあるよなぁ。
 わたしは作田さんが素晴らしいと思うのでした。
 

「伏」桜庭一樹

2012-11-18 13:22:10 | 時代小説
 テレビで知ったのですが、アニメ化するんですね。桜庭一樹なのにポップな感じの映像で、どうなのかと読んでみました。「伏 贋作・里見八犬伝」(文藝春秋)。
 思いおこせば小学生の時分、「八犬伝」の感想画で賞をもらいました。伏姫が八房に乗って城から出ていく場面です。今思うと、あんまりその題材で絵を書く子供はいないかな、と。だいたい子供用に書いてあっても、あんまり読まないですよね。それに、普通「八犬伝」だったら信乃をはじめとする剣士たちの活躍の方がメインでしょう。
 でも、わたしには、犬と暮らす悲運の女性のイメージが強かったのです。
 だから、結構堪能しました。安房を治める里見家の姫の破天荒な人生。彼女から生み出された犬人間たち。彼らは野蛮で残酷、そして短命です。
 「伏」たちの非道ぶりに、彼らを狩るものには賞金が払われることになる。山出しの娘浜路は異母兄の道節とともに賞金を稼ぐことに。獣の臭いに敏感な浜路は、伏と行きあったのちに必ず出会う男が、滝沢馬琴の息子・冥土だと知ります。冥土は浜路を恰好のネタとして瓦版を書く。浜路は怒ってその原稿を破り捨てます。
 冥土から話されたのは、伏たちはどのように誕生したのか。因果の「因」にあたるものですね。「果」の方は、後で信乃から語られることになります。
 桜庭さんにしてはたしかにポップ。しかし、絢爛な迷宮のようなこの物語は非常に濃密で狂おしい。わたし、毒気に当てられて、熱を出しそうになりました。寒気が止まらないのです。違う本に替えたら落ち着いたので、やっぱりある種の魔が潜んでいるのではないかと。
 それにしても、江戸城大奥に「貴婦人」はないのでは。
 わたしのイメージでは、桜庭さんは和風より洋風な人。映画どんな感じかちょっとだけ気になります。ところで単行本にちょこちょこ出てくる髑髏の犬は何なのでしょう。読者日記でも話題には何回かでてますけど。
「伏」のような無軌道な若者は現代もいますが、彼らにも彼らなりの大義があるのかな。でも……。
 様々な意味合いで、ぞっとする物語でした。

「大人のアスペルガーを知る本」上野一彦(監修)

2012-11-17 09:05:48 | 自然科学
 特別支援教室に授業に行っています。今年はアスペルガーの子が入ってきました。かつてそう診断された子がクラスにもいましたが、一人一人傾向が違う。例えばかつての教え子は緘黙で、授業でも音読くらいしか声を出さなかったのですが、この子は絶えずしゃべっているとか。わたしも十数年前に特別支援教室の担任をしたので、ある程度の基礎知識はあるものの、もう少し知りたいと思って読んでみました。「大人のアスペルガーを知る本」(アスペクト)。
 するとですね、いろいろと納得できることがあるのです。うーん、確かに食べ物の好き嫌いが激しい、行動が雑、触られるのを嫌がるし、注意されると聞いてないふり(?)をする。
 夏ごろに「旦那(アキラ)さんはアスペルガー」(コスミック出版)というマンガを読んだときにも思ったのですが、結構自分自身の中にも似たような傾向はある。でも、感じ方考え方はやっぱり違うなぁ。
 ただ、この本は大人を対象としているので、生徒とは若干異なる部分もあるかと思います。教師として接するためには、言葉かけを考えていくことが大切だと感じました。
 相手に何かを伝えるために、わたしたちは省略をすることがあります。言葉の背後にあるものを感じとってほしいのですよね。でも、表面的なものしか捉えられない人もいる。何かトラブルがあったときも、自然に改善を促すものです。でも、それで萎縮してしまう人もいる訳です。
 本にあったある会議での場面。
「課長の話が長引いているため昼食時間になったんですけど、会議弁当どこにありますか」
 課長はむっとしています。あとからこのことで同僚から
「ああいうときにくだらないこと言うなよ。課長を怒らせたいのか?」と言われると、
「怒らせたいわけないだろう」「時間が長引いたと言ったんだ。別に間違ったことは言ってない」
 たしかに、何か注意をして的外れな返事がきたら怒ってしまいますね。アスペルガーの人としては、自分の感じたことを率直に言っただけで、何故相手がそんなにヒートアップするのかわからない。
 お互いをかみ合わせるのは難しいですね。
「~しようよ」「~したらどうですか」「~だともっとうまくいくよ」「~はやめたほうがいいですね」「私は~だと思います」というように表現を変え、端的に内容を伝えること、会話のルールを教えることが大切だそうです。
 とはいえ、身内の人にとってはこれもストレスになること、ありますよね。接し方を学ぶことで社会生活を円滑化していくとは非常に有益ですが、いつもそうできるとも限らない。アスペルガーの特性を知らない人にとっては、かなり異質な存在と感じられるでしょう。
 自分の子供は他の子と違うのではないかと疑念をもちながら、どうしたらいいのか悩んでいる人も、意外と多いかもしれないと感じました。