くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「漂うままに島に着き」内澤旬子

2016-10-31 22:20:03 | エッセイ・ルポルタージュ
 視点のしっかりした方の文章って、新生活のことを書いているだけでもすごいおもしろいんだな、と思いました。
 わたしも今年転勤して、これまでとは違う状況に正直戸惑うことが多々あるのですが、こんなふうにフラットに書くことはできないように思います。つらつらと愚痴を語ってしまいそう(笑)。
 内澤旬子「漂うままに島に着き」(朝日新聞出版)。イラストレーターで文筆家の内澤さんが、小豆島に移住した記録です。
 三十代後半に乳癌を患い、離婚を経て、東京から地方に移りたいと考えた彼女。様々な縁があって小豆島に引っ越すことにします。
 しかし、「離島」のために引っ越し業者が見つからない!
 ネットなどで買い物をすると送料が高い!
 手続きのために行き来するのに、飛行機代がものすごい!
 しかも、格安チケットの手続きが難しいし、渋滞に巻き込まれると乗り遅れます。
 
 内澤さんは狩猟や採集をされるそうで、なるだけフードマイレージを短くしたいとおっしゃってました。
 近くの方から野菜をいただいたり、猪を解体したり、地域の生活を楽しんでいます。
 同時期に「南紀の台所」というまんがも読んだのです。こちらも、紀州に移住した若い女性が主人公。久しぶりに出てきた東京に、言いようのない疲労を感じます。自然豊かな地域の姿をクローズアップしているのも、共通しているかな。
 ただ、東京や高松への往来は、内澤さんにとって欠かせないものでもある。
 わたしはずっと地方在住で、仙台にすら年に三回くらいしか行けない。都会に行きたいと思うのは、本屋でじっくり過ごしたいのがメインですね……。
 畑で取れた野菜で家庭料理を作り、実家ではヤギを飼っていたので、自分と近いものを感じます。
 内澤さんは二つ年上だそうなので、移住を決めたのは今のわたしと余り違わない年ですよね。乳癌はさらに前。
 他の本も読んでみたいな。豚を飼った話とか。
 あっ、実家の近所にも豚舎がありましたよ。
 小豆島、心引かれます。四十五を過ぎて、神戸より南に行ったことのないわたし。いつかうどんを食べにいきたいものですが、内澤さんによれば高松の方がおいしいそうです。

 

「ここで土になる」大西暢夫

2016-10-28 20:52:46 | 歴史・地理・伝記
 熊本県五木村。昭和三十年代からダムの建設計画が持ち上がって、住民は次々に転居し、たった二人で村に残った尾方さん夫妻を撮影しています。
 
 かつての村の日常的な風景を写した写真には、茶畑でかくれんぼをしていたような女の子や、友達と遊ぶ小学生、教室の様子などが写されていて、これが本当に「普通」なんです。服装だって半ズボンやTシャツですから、もう日本中のどこかを訪ねたらそこにいるのではないかと思うくらいです。
 わたしの住んでいる町にもこういう風景は、ある。
 一升瓶に詰まった小豆も、大きなイチョウの木も、畑の小石を拾う様子も、ありふれた光景です。
 でも。
 小豆は夫婦二人では食べきれない。年々瓶が残るのだそうです。
 村の人たちは、他にもう誰もいないのです。みんなが引っ越して、お墓も移転したのに、ダムの計画は中止された。
 そのとき、村のシンボルだったイチョウも移植しようと、枝を切り、周りを柵で囲んだために、銀杏をつけなくなってしまい、尾方さんは根元に肥料を入れて世話をしました。
 尾方さんは、受け継ぐ人がいなくなるであろう畑の石を拾います。誰かではなく、自分たちがこの場所で生きるために働いていく。イチョウは年月を経て、銀杏の実りを取り戻します。

 「ここで土になる」(アリス館)。生徒が紹介してくれた一冊です。
 彼の曾祖父さんはダム建設のために転居したのだそうです。集落の名前から「玉山ダム」と呼ばれていたものが、今は地域全体が水底に沈んだために「栗駒ダム」になったのだとか。
 尾方さんの年齢を見ると、わたしの祖父母と同年代かと思います。(うちの方が多少上ですけど)
 すぐ隣にある現実が、写真全体から伝わってきました。
 あっ、ただシカらしき動物を杭にくくりつけて運ぶ男性たちの写真には驚きました。これはやっぱり食用なんですよね? 近くには猟犬もいますよ。さすが自給自足。
 

「マララ」マララ・ユスフザイ

2016-10-27 21:58:55 | 歴史・地理・伝記
 この本を読もうとして数回挫折してきたのですが、今回は娘の通院の待ち時間に八割読んだので、なんとか完読しました。
 「マララ 教育のために立ち上がり、世界を変えた少女」(岩崎書房)。マララ・ユスフザイ、パトリシア・マコーミック、訳者は道傳愛子。
 なんというか……例えがよくないかもしれませんが、朝ドラみたいでした。身辺にひたひたと迫ってくるテロリズム。禁じられる女子の学問。妨害にも負けずに匿名で現状を訴え続ける少女。
 これが、この二十一世紀に、同じ地平にある現実だというのが、ショックです。
 女性の立場が認められていない国が、まだまだたくさんあるのですね。パキスタンの場合は、タリバンが介入してきたことで、それまでの権利が遮られてしまったように思います。
 女子校は閉鎖するように命令され、通っている子が脅迫される。爆破や銃撃、アジテーション。
 マララさんは、この現実に一貫して否と叫び続けます。
 外国のテレビ番組をみれば、髪や肌に制限を受けず、自分でどこにでも行ける同年代の女の子が映るのです。軽装は許されなくなり、黒一色の長いローブ・ブルカを着るように言われます。外出は男性の付き添いが必要。「自由」を感じられない毎日ではないでしょうか。
 なかでもマララさんが驚いたのは、お父さんが娘のために料理をする場面だといいます。
 習慣は民族や国によって違いますが、抑圧された生活はかなり苦しいことだと思うのです。
 マララさんは銃撃を受けて生死の境をさまよいます。
 目が覚めたときは、見知らぬ場所。バーミンガムの病院に搬送されていたのです。
 もう家には戻れない悲痛さが、文章から感じられました。
 マララさんのお父さんが、家族のために料理を作るようになるというところも素敵だと思いました。
 

「ひっぱたけ!」川添枯美

2016-10-26 20:36:44 | YA・児童書
 書店で「異人館画廊」の隣にあった一冊。「ひっぱたけ! 茨城県立利根南高校ソフトテニス部」(集英社オレンジ文庫)。帯には茨城県のゆるキャラねばーるくんが登場しています。
 ソフトテニス全国大会常連中学校から、県下有数の進学高に入学した夏希。全国大会での悔しい思いから、競技をやめるつもりでいたものの、パートナーの花綾とテニスコートを見に行ってしまいます。
 確かこの学校には、女子テニス部はないはず……だったのに、そこにはなんだかヤンキーっぱい裕子先輩と乙女チックな沙織先輩が二人だけで活動していて……。

 スポーツものは好きなので、買ってしまいました。ソフトテニスがモチーフって珍しいですし。
 ただ、続編を意識しているのか、物語はやっとスタートした、という感じです。裕子と沙織の中学時代とか、夏希の母親久美子のエピソードとか。
 久美子の友人として登場するのは、裕子の亡くなった母親なのですが、さすがにそこは伏せられており、なんだかもどかしい。でも、そこがいいのかもしれません根。
 
 ところで、こういうスポーツ小説って、どきどき「無理解な顧問」が登場しません? 今回は久美子が高校の顧問に不満をもっていることが書かれていましたが、このところ部活で週末がつぶれまくっているわたしにはちょっとかんに障ります。
 すみません、個人的な感情で。勤務外百時間超えている……。
 
 結構ソフトテニス部の強い学校に勤めていたので、物語には親しみやすいです。(全中で準優勝したところや、東北大会ベスト4とか)
 教え子たちの顔も思い浮かべながら読みました。クラスにも部員が多いので、学級文庫で置いたら読みますかねぇ。

「よっつ屋根の下」大崎梢

2016-10-25 20:39:04 | 文芸・エンターテイメント
 すごくよかった。一読して涙、読み返してまた涙。切なさが止まりません。
 大崎梢「よっつ屋根の下」(光文社)。
 「海に吠える」「君は青い花」「川と小石」「寄り道タペストリー」「ひとつ空の下」の五編からなる短編連作です。
 この中に表題作があるわけではなく、「ひとつ屋根の下」という言葉を彷彿とさせるフレーズがある感じですね。
 これは、四人の家族がばらばらになりながらも、それぞれの道でやはり家族として生きていく物語なのです。
 平山滋は左遷により白金から銚子に引っ越すことになります。勤務先の病院の不適切な風習を正そうと意見書を出したことから、妻の一族から責め立てられてしまいます。家族四人で一緒に行こうと言ったのに、妻は寝込み、娘は転校を渋り、当時六年生の息子だけがついてきます。
 息子の史彰は、合格の可能性が高かった受験を捨てて銚子に移り住みますが、何度も自分の選択を悔やみます。しかし、犬吠埼の伝説を教えてくれた同級生佐丸や宮本と仲良くなり、次第に地域に溶け込んでいく。
 母や妹と一緒に暮らしたいと願う史彰ですが、母はこの地を自分の住む場所と考えてはいないことを思い知らされて愕然とします。
 五年後、八年後、十年後の暮らしへと続いていく物語は、両親の出会いや家族の変化、とげのように心を刺す秘密をあぶり出していくのです。
 母の華奈を縛る、父親の影響。似ていると告げられた「こじまゆみ」。札幌。祖母のささやき。

 妹の麻莉香の物語が、わたしには非常に胸に迫りました。女子高の濃密な友人関係は、どちらかといえば苦手なモチーフなのですが。
 ライバル的存在の少女から父親の行動を非難された麻莉香は、親しくなった野村さんに自分の思いを語ります。一緒に銚子に行くべきだった。私は間違っていた。
 自分はもうひとりいて、その自分は小三であの町に引っ越して……。
 今読み直したら、また泣いてしまいました。
 それから、この作品には犬がちょこちょこ登場します。
 佐丸の飼い犬「春」、教授の家の「マイケル」と「ルーシー」、滋が飼っている「ティンク」と「ちょろ松」。
 犬吠埼の伝説というのは、義経の愛犬「若丸」が置いていかれて七日七晩鳴き続けて岩になったというものだそうです。
 義経伝説、全国にあるなあー。

「夜露姫」みなと菫

2016-10-23 09:20:09 | YA・児童書
や 古典とライトノベルが好きな人にはストライクな児童小説「夜露姫」(講談社)。作者は二十二歳のみなと菫さん。これがデビュー作とのこと。
 氷室冴子の王朝ものとか「落窪」や「宇治中納言」が好きだったわたし。同じテイストを感じました。
 笛の名手として帝から信望のあった父親を失ってから、貧困生活を送る晶子姫。
 当時都を騒がせていた義賊「狭霧丸」が、実は検便遺使の「佐」だと知ったときから、彼の屋敷で働くことになります。
 水干をまとい、雑色として動く彼女は、名前も身分も捨てて、「夜露」として盗賊の仲間に加わるのです。
 夜露と佐のやりとりが、コミカルでいいんですよ。特に正倉院に乗り込むときの伏線にはにやにやしてしまいました。
 若い作家さんの今後も期待したいと思います。
 

「天の前庭」ほしおさなえ

2016-10-11 20:25:39 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 父親と乗っていた車が事故に遭ったことから、病院で意識不明のまま9年間眠り続けた柚乃。
 高校時代に仲がよかった尚、徹、秀人のことを書いた日記を見つけたものの、そこに登場する「ユナ」という女の子のことを誰も知らないといいます。
 ユナは柚乃にそっくりな女の子。双子のようだとまで仲間にいわれた描写もあるのに。
 柚乃の母親は、彼女が幼い時期に失踪しており、その前日にドッペルゲンガーを見たと言っていたと聞いていました。
 父親には、最近親しくしている女性がいるらしく、柚乃は日記でそのことを悩んでいるようでした。
 しかし、目覚めたばかりで記憶が曖昧なため、自分のこととしての実感がありません。
 尚と再会し、自分たちの卒業した高校で白骨が見つかったことや、そこに仲間しか持っていないボールペンがあったことを知ります。父と親密だったらしいツグミさんと一緒に暮らすうちに、日記にあった喫茶店や雑貨屋を見つけて……。

 物語のキーは、随所に出てくる「新興宗教」です。
 いろんなモチーフがありすぎて、わたしの頭はごちゃごちゃしてきましたが、こういう世界観は結構好きです。
 児童文学が好きな、少女時代の柚乃と尚のかかわりがおもしろかった。

「異人館画廊 当世風婚活のすすめ」

2016-10-03 18:19:23 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 発売に半月も気づきませんでした……。
 谷瑞恵「異人館画廊 当世風婚活のすすめ」(集英社オレンジ文庫)。
 いよいよ千景と透磨の仲が近づくのかとどきどきしましたが、今回もほどよい距離でした(笑)。
 
 隠れキリシタンとしての教えを守り、養子を迎えて代々家を存続させてきた成瀬家。伝承されるのは「禁断の絵」。見た者に災いをもたらすらしいと聞いて、千景と透磨はこの家を訪ねます。
 次期当主となるはずの雪江が、絵を持ち出したまま行方不明と聞いて、二人は彼女のことも探すことに。
 しかし、雪江の遺体が見つかったと知らされて……。

 千景が図像学を学ぶきっかけとなったある事件のことも明らかになります。
 謎の組織HFクラブの存在も不気味ですね。喪服の集団と薄絹をまとった男女による「化学の結婚」がミステリアスです。
 千景の思考を透磨が的確に整理していくところ、すごくいいです。
 そして、ついにあの人も登場。キューブが揃いますね。
 続刊楽しみですー。

「少年院で大志を抱け」吉永拓哉

2016-10-02 04:15:13 | エッセイ・ルポルタージュ
 幻冬舎アウトロー文庫の一冊。
 例えば桂才賀さんや大沼えり子さんの慰問ものとか、いわゆる不良まんがとかで、ちょっと覗いてみたいような気になった少年院の生活。いやいや、決して行きたくはありませんが。(というより、わたしは少年って歳じゃないですけどね)
 暴走行為を検挙されて、弁護士までつけてもらったのに少年院に入ることになった彼は、それまでの生活とはまるで違う環境にあぜんとします。
 でも、社会復帰するころにはすっかり感化されて、街を歩くのにも号令なしでいいのかと不安になります。
 久しぶりに友達と遊ぼうと思っても、お互いに接見はやめた方がいいと言われ、会ってもらえません。
 吉永さんにとっては、少年院の教育は日本一なのだそうです。規律正しく、きちんとした生活。挨拶や礼儀も叩き込まれます。
 若いころに「やんちゃ」した人が、当時をおもしろおかしく書いたエッセイですが、若い頃を振り返るのって、なんだか物悲しいなと感じるものがありました。