くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「形」と「松山新介が武将中村新兵衛が事」

2012-06-11 21:03:14 | 〈企画〉
 わたしの生家には槍があって、寝起きする部屋のなげしに差し渡してありました。祖父はそれにハンガーをかけて洋服を吊したり(笑)していたので、わたし自身もそれほど気にしないで暮らしていたんですが、あるとき先端部分が外れることを発見。外してみたらぎらぎらと矛先が見えて、非常に驚いたことがあります。
 東京書籍の教科書に載っている菊池寛の「形」。二十年前には中学二年の教科書で、改定によりなくなって、やがて資料のページに復活したと思ったら、今年から三年生の文学教材です。昔はどんなふうに教えたっけ? 確か棒高跳びのバーを借りて三間の長さを図ったことがあったような。でも、「三間槍」は概念だから実際の長さとは関係ないという同僚もいて、わたしとしては納得がいかない思いをしたものです。
 槍の柄って、一般的には二間だと思うんです。それよりも長い槍を扱って高名を馳せた中村新兵衛は力のある武将だったと思いませんか。
 今回の教科書には、菊池が参考にしたと思われる「常山紀談」の「松山新介が武将中村新兵衛が事」もあわせて載っています。どこが菊池の創作した部分なのか、それが非常に興味深い。
 書き出しは意識して同じにしたものと思われます。しかし、「若い侍」を登場させ、教訓を全てカット。「形」という言葉は原典にはないですし、猩々緋の武者の活躍もありません。それに、「三間槍」も菊池が加えた部分なんですね。(もしかしたら、その前段階に書いてあるのかもしれませんが)
 考えると結構楽しいので、自分で授業したかったのですが、これも実習の方にやってもらいました。
 若い侍を元服間もない少年に設定したことも、たいへん興味深い。
 そういえば、道徳の教科書に採用されていたこともありました。あるテキストではまんが化してあったっけ。道徳教材のおすすめ授業を収録した本も見たのですが、ここでは外国で行われた看守と囚人の役割演技の実験がエスカレートしていくエピソードと重ねて、「形」の重要性を捉えてさせるようなことが書いてありました。
 でも、それは国語の授業ではないなぁ。
 菊池寛が意図した「形」。よく読むと前半の描写も、「新兵衛」ではなく「猩々緋」とか「かぶと」になっていますしね。
 ちなみに書評を書かせてみたら、「風の唄」よりも「形」を選んだ人の方が多かった。引き締まった文体もいいですよね。
 ところで、何人かと話してみると、この終結部分が曖昧だと感じるという意見があるんですよね。実習の方も「このあとどうなるの? という終わり方」と言っていました。
 わたしには戦没したとしか読み取れないんですが(だって脾腹を貫いているし)、そういう人は新兵衛が生き残るように感じるんでしょうか。ううむ……。
 


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