くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「アネモネ探偵団 迷宮ホテルへようこそ」近藤史恵

2011-03-31 20:29:43 | YA・児童書
地震後、本屋に行っていません。今ごろあの新刊も出ているかしら。でもまあ、仕方ない。本屋さんの話では、動くのは四月の二週めあたりからだとか。そのころは軌道に乗っているといいのですが。
今日も余震があり、転んで膝を痛打しました……。
もともと二三月はわりと読書量が減るので、買いおきの本を読もうにもいまひとつやる気が出ない。数ページめくってはやめ、めくってはやめ……。
地震の後片付けで、ほかの本の下になっていたこの作品。やはり、好きですね。 近藤史恵「アネモネ探偵団」(メディアファクトリー)。
今回は「迷宮ホテルへようこそ」というタイトルで、主役は西野あけびです。ちっちゃくて乙女チックな服が好きなあけびは、有名な科学者の父と二人暮らし。何年も前に離婚した母をめぐる脅迫状が届いたことで、あけびは久しぶりに母に会うことになりますが……。
それにしても、手帳に子供の誕生日って書きませんかね。わたしは決して忘れないにしても、一応記入しますが。(わたしの今年の手帳は、シーズンオフの特売で50円でした)
双子の姉妹がかわいい。暁さんも再登場でうれしい。中西さんも男前だわ。
あけびの母が経営するホテルが、すごくいい雰囲気。バラ園のある中庭やおいしいケーキでお出迎えの企画。さらには朝食。フレンチトーストもエッグ・べネディクトもとってもおいしそう!
泊まりに行きたい!
しかし、中学生が友達と泊まるには贅沢すぎやしないか、と思わないでもないですが、少女小説は夢の世界。読者をうっとりとさせなくてはね。
今回のあとがきには近藤さんが中学生のときに「クララ白書」「アグネス白書」を愛読していたことが書かれていて、うわー、わたしも好きだった~と共感いたしました。
友人から、近藤さんは三島や寺山のファンだったと聞いていたので、ちょっと驚き。
でもわかります。この本も、それから「あなたに贈る×」も、お嬢様学校の寄宿舎をイメージさせるものがある。
短絡的思考の「勇気」に腹を立てる部分もありましたが、ポップでしんみりして、おもしろかった。
今年度も今日で終わりです。心機一転、来年度も充実した毎日であるといいなーと思っています。
いろいろと震災の余波はありますが、自分のペースで頑張っていきたいですね。

「11人のトラップミス」蒼井上鷹

2011-03-30 05:18:57 | ミステリ・サスペンス・ホラー
すみません、サッカー全く興味ありません。
買ったまま袋に入れっぱなしでした。蒼井上鷹「11人のトラップミス」(双葉ノベルズ)。
正直なところ、蒼井上鷹の当たりハズレに迷ってしまうのです。すごくおもしろいものもあれば、肩透かしを食うものもある。いつも秀作ばかりというわけにはいかないとは思いますが、結構差があるので。
この方、連作短編が素晴らしい。今回はバッチリ決まっていました。ナイスシュート! ってとこですか。
相変わらず伏線がうまくて、ツイストのきいた短編になっているのに、なんとこの本自体にあるしかけが施されている、という大胆な設定。
「トラップミス」「レッドカード」がとくにおもしろかった。
巧妙なつながりに思わずひざを打ちます。
服部という名前もハットトリックからきているのかなー。
細かいあらすじ紹介は、今回はやめておきます。殺人事件あり誘拐あり冤罪ありアリバイあり、多彩なラインナップです。
これまでの短編も、「酒」「嘘」などテーマを決めて書いていたそうですが、実はタイトルも「9文字縛り」なんですって。
双葉社だといきいきするのかな。
「ホームズのいない町」も読みたいです。文庫希望。

「江戸のホラー」志村有弘

2011-03-28 20:42:47 | 歴史・地理・伝記
志村有弘さんの本は数種類持っているのですが、ちょこちょこ適当なページから気が向くときに読んでいたので、全部読み通したかどうか自信がありません。
この本もそういう説話ものを集めたのだと思っていましたら、これが一本ものでした。「江戸のホラー 稲生物怪録」(勉誠社)。
わたしは江戸怪談ものが好きで、「百物語怪談集成」なんてのも持ってるんですが(持ってるだけ。やはり完読してない)、この話自体は読んだ覚えがあります。でも、こんなに長くはない。さらっと読んだような?
稲生というのは、事件が起きる家の苗字です。稲生平太郎十六歳。
隣に住む相撲取りあがりの男と肝試しをしたあと、およそ一と月おいて、家中を怪異が襲います。
畳のへりはまくれあがり、女の首はとび、いくつもの手が体をまさぐる。
心配する友人知人は怪異を見れば慌てふためき逃げ帰り、幽霊屋敷と評判を聞いて見に来る人々もいる。
いわばポルターガイストかと思われますが、毎夜毎夜騒動が起こったあとに山ン本五郎左衛門という大男が現れ、これまでの怪異の正体は自分だったと告げる。自分は「魔王のたぐい」であり、平太郎が難儀に合う年月だったから驚かしてきたのだと語ります。
自分と同様の者には神ン野悪五郎しかいない、とも。
はじめ、「やまんもと」かと思ったら「さんもと」と読むんだそうです。
平太郎は、ほかの人々が騒いでもいっこうに動じず、けろりとして屋敷に住み続ける。(さすがに弟は親戚に預けましたが)
自分が何かしなければ、大袈裟なことにはならないと思っているようです。
肝が据わっているのでしょうね。末頼もしい十六歳です。
ただ、ホラーという感じはあまりしませんでした。やっぱり人物が慌てないと、読み手に恐怖感を与えないのかも。

「算法少女」遠藤寛子

2011-03-27 06:24:13 | 歴史・地理・伝記
気になるタイトルです。図書室を整理しているときに見つけて、ちょっと心引かれたのですが、当時はいつかまた読めばいいやと思ったのであまり積極的ではありませんでした。
ところが、今回の震災のあとで、本棚の端っこに残っているこの本を発見したら、この機会に読んでみたいように感じて持ってきたのです。
悪くないです。
というよりも……。この本が発売されたのは昭和四十年代ですから、おそらくわたしが中学生のときにこの図書室にはこの本があったのでしょう。中学生の自分が読んでいたら、きっともっと夢中になって読んだに違いないと思いました。
中学生のわたし。
当然のように図書室を愛する少女だったのですが、この本が母校にあったかどうかは覚えていません。どちらかというと古くさい本を読むタイプでした。
まだ少女小説とかロマンチックSFとかに巡り会っていないわたしだったら、こういう世界が好きだと思います。
遠藤寛子「算法少女」(岩崎書店)。
医者の父から算術を学ぶ「あき」は、算額を奉納しようとした武家の子弟の間違いを発見し、恥をかかせてしまいます。居合わせた侍(東北訛りがある)鈴木彦助から報復を心配されますが、このことが話題になり、さる大名家に仕える気持ちはないかと誘われます。地位には興味がないあきですが、報酬もあると聞いて心が動きます。なにしろ、家賃も払えない状態なのですから。
ところが、上方の流派を学ぶあきと父親のことを気にくわない関家(和算の関孝一の流派)の人々は、同じように算術で名高い娘を対抗馬として送りこもうとします。
そういう策に嫌な思いをしたあきは、ふとしたことから始めた算術の塾に熱を入れますが、そこに足を運ぶようになった山田多聞という侍には何か秘密があるようで……。
この本のタイトル「算法少女」は実在する和算の本で、千葉章子という町娘が父親とともに完成させたのだそうです。
例えばこんな問題。
「ここに商人が三人いる。ひとりは奥州へ行って、十六日めにかえる。ひとりは西国へ行って、二十四日めにかえる。のこるひとりは近国へ行って、五日めにかえる。三人はかえったよく日、またおなじところへ旅だっていく。この三人が一度顔をあわせてから、次にまたあうのは、なん日めか」
「小石を三十まるくならべ、はじめの石を定め、五つめにあたる石をとり、またその次より五つめにあたる石をとりさっていくと、さいごにのこるのは何番めの石か」
なんだかアルゴクラブの問題みたい。
中学生のときは数学が得意だったので、当時なら紙を出してきて計算したかも。
ただちょっと残念なのは、演出次第でもっと盛り上がることは可能だと思うのです。
ありていにいえば、彦助か多聞との間にどうしてロマンスが存在しないのかということなんですが(笑)。
ラストに「最上(さいじょう)流」を提唱する会田安明という人物が現れますが、山形出身なんだそうです。どうしてこういう命名をしたのか。彼にとっては故郷の「もがみ」が大切だからでしょうね。

「謎のギャラリー」北村薫

2011-03-24 20:37:44 | 書評・ブックガイド
北村さんの本の中で、これがいちばん好きですね。たまに読み返したくなります。今回で四回めかな。
「謎のギャラリー」(新潮文庫)。名作博本館。
北村さんがどのような角度から作品を読み解くかが示されていて、心躍ります。
でも、不思議なことに、作品自体を読むよりも、北村さんの語りそのものの方がわくわくするんですよね。わたしがぽんとその本だけ預けられて、おもしろく感じられるかどうかはまた別問題といいますか。
アンソロジーにあたる「謎の部屋」「こわい部屋」「愛の部屋」も文庫を持ってはいるのですが……。
今回読み返してみて、わたしが翻訳の表現の違いに目を向けるのは、もしかしてこの本の影響なのかもと思いました。具体的に例をあげて紹介されるのはポオの作品と「大きな木」ですね。
チェーホフや阪田寛夫、怪談、リドルストーリー。北村さんの話題は豊富で、自由自在です。
後年、宮部さんがこの本を読み、どうして自分を対談相手に呼んでくれなかったのかと文句を言ったと聞きました。編集者との掛け合いの形式で描かれるこの本、実は北村さんが一人で書いている。架空対談ですね。
それを知ってからの読み直しなので、いろいろと楽屋裏を考えさせられました。
うーん、実際に読むとまた肩透かしを食うかも知れませんが、坂口安吾の「アンゴウ」とマーク・トウェイン「アダムとイヴの日記」大久保博訳を読みたいですね。
宮部さんとの共著「名短編」シリーズも、解説対談のところだけ集めて文庫にしてくれないかしら。

「スコーレNo.4」宮下奈都

2011-03-23 01:27:06 | 文芸・エンターテイメント
なんか光文社の本ばかり読んでいるような気がしますが、宮下奈都「スコーレNo.4」。
宮下さんの本を買わねば、と思いつめていたときに、つい図書室用の本と一緒に買い、しかたないので整備してしまった一冊……。図書室は二月いっぱいで閉館にしたので、やっと読めました。
あー、でも持ってくるのは難しくないので、まあ要するに、読むのがもったいなかっただけです。
ただ、わたしが文庫後ろのあらすじからイメージしていたものと、作品内容は少し違っていました。
もっと妹の七葉がクローズアップされるのかと思ったのですが。
主人公・麻子の自立の物語としてわたしは読みました。仲良しの七葉とぴったり寄り添いながら生きてきた少女が、彼女にコンプレックスを抱きながらも「麻子」として屹立していく。麻の木のように。
混沌と混じり合った姉妹が、自分を見つけ出すのです。手をつないで立つという比喩はそれを示すように感じました。
麻子は非常に自己評価の低い子で、実際のところ、木月くんや槙やそのほかの男の子から想われてもさっぱり気づかないし、常に七葉の愛らしさを意識していて自分を猥少に見てしまうところがある。
でも、そんな麻子に、おそらく読者は「自分」を見出だすのです。
靴屋での活躍がとても快活で、わたしもそんな店に行ってみたいような気になりました。ファッションにはまるで興味がないのですが。
ああ、でも、一度だけ行ったイタリアで非常に可愛い靴に巡り会ってつい買ってしまったのでした。ポリーニの靴です。
麻子がイタリアに買い付けに行くところは、当時の情景を思い出してついにやりと笑ったものです。持って行ったサンダルで靴ずれしたなあ~。
茅野くんの快活さがいい後味になっていて、読後爽やかな気持ちになりました。
ツィッターでプッシュしているチラシも持っているのですが、読めないうちにしわしわになってしまいました。

「13歳のシーズン」あさのあつこ

2011-03-22 04:18:58 | YA・児童書
ああ、これはいいです。中学生に読んでほしい本に巡り会うとなんだかうれしいですね。
あさのあつこでタイトルが「13歳のシーズン」(光文社)ときたら、そのど真ん中にストレート、という感じがしますが、わたし、どちらかというとあさの作品、苦手なのです。
でも、これはよかった。中学生に寄り添い、勇気づける作品だと思います。
中学一年の茉里、深雪、真吾、千博の四人が、とあるきっかけから親しくなっていく過程を描きます。
罰ゲームの告白。割れた手鏡。夏休みの課題の年表。
長編としても読めますが、一編一編が完成度の高い短編で、これを少しずつ連載で読んでいくのは楽しいだろうと思わされます。
連載は、進研ゼミ中学講座。ほー、と思いながら掲載記録を見てびっくり。2001年、2007年、2008年、2009年という実に息の長い連載だったのです。
ということははじめの四編が初期のものなのでしょうか。ここだけ一人称で気になってはいたのです。
でも、書き下ろしも含めて一冊になったことで、奥行きのある素敵な作品人称なったように思います。自分も四人と同じ空間を共有しているような。
それぞれタイプの違う四人です。茉里はおっとりとして優しい子。押し付けがましいところがなく、ふわっとしています。深雪はボーイッシュで、はっきりした美人。真吾は典型的な「陽」で、箱根駅伝出場を目指すスポーツマン。千博はそつのない秀才ですが、胸に苦痛を抱えています。
彼らは家族のことや恋の悩みがありますが、それを打ち明けて深刻になるということはありません。
ただ、いい距離で付き合うことができる。男子とか女子とか超えたところにある、気の合う友人としての関わりが、うらやましいくらいです。
四人でピクニックに行って、真吾が作ってくれたお弁当を食べるシーンが好きですね。
「これがサンドイッチ、こっちが握り飯、で、これがから揚げにローストビーフ、エビのホイル焼き、卵焼きにブリの照り焼き……」
というメニューに、中一の男の子らしからぬものを感じますが、すごく楽しそうで、ほほえましい。
是非学校図書館に一冊。おすすめします。

「ポリス猫DCの事件簿」「猫島ハウスの騒動」

2011-03-21 15:46:07 | ミステリ・サスペンス・ホラー
あっ、若竹七海の新刊! と思って買った「猫島ハウスの騒動」(カッパノベルズ)をなかなか読まないうちに文庫になってしまい、さらには続編も出て、まずいなーと思っているうちに時が過ぎ去っていました。事情があって読まないわけにはいかなくなったので読んだのですが、どうも背景がよく見えない。
「ポリス猫DCの事件簿」(光文社)。神奈川県の葉崎という町にある猫島。干潮時は地続きになりますが、潮が満ちると船でしか行けません。百匹以上の猫と、三十人ほどの住人で成り立つこの島、夏の観光時期に集客することで財政を維持しているらしい。海水浴やら猫の愛玩やらで観光客が増えることでトラブルも急増。というわけで猫島夏期臨時派出所が設置され、そこに派遣された七瀬晃と、そのプレハブに居着いた猫DCが島のあれこれに関わるという筋立てです。
若竹さんといえば、連作ミステリ。「大道寺圭」(「死んでも直らない」)みたいなのを期待したんですが、冒頭の事件に決着はついたものの、なんとなく小粒な感じが。
ラストで一つにつながるんだろうと思ったんですが、ああいうアクロバティックなものは難しいんですかね。
若竹さんにしては結構ゴシック趣味な事件や、猟奇なものもあります。キャラクターは存在感があるし、納得もできる。でも、なんだかもの足りない。
多分、わたしは猫好きではないからでしょう。近くにいればかわいいと思うんですが、わざわざ猫島まで行って触れ合う気にはならないからなー。
で、「猫島ハウス」の方を読みはじめたのですが、意外とこちらを読んでみると、世界が近しく感じられるのです。七瀬も駒持さんも活躍しています。響子もアカネも、続編よりも存在感がある。成子さんとか神主さんとかゴン太も。なによりもツル子さんの料理がおいしそう。(反対に続の方がいい感じなのは森下哲也です)
修学旅行でガールフレンドの響子と気まずくなった虎鉄。ナンパした女と入江に近づいていくと、そこにはナイフを刺された猫のぬいぐるみが。
話を聞いた七瀬が聞きこみをする中で浮上したのは、覚醒剤取引と十八年前の三億円強奪事件。「ペルシャ」というキーワードに隠されているのは何か?
マリンバイク、スタンガン、ミズチの伝説、発見された死体。盛り沢山ですね。
現在物資が困窮しているためにツル子さんのお料理が眩しかったのですが、後半台風直撃で猫島神社に避難する様子は身につまされました。わたしは避難所には行ってないのですが……。
でも、なんか皆さん、そういう不自由な生活でもあっけらかんとしてるんですよね。こういう島にインフラが戻らないとかなり苦しいと思うんですが。

「黒いハンカチ」小沼丹

2011-03-20 06:47:12 | ミステリ・サスペンス・ホラー
小沼丹。
作品の解説ページには、この作家の名前を知っている人は少ないだろうと書かれています。
でも、わたしがこの本を買ってみたのは、小沼さんの作品を読んでみたかったから。北村薫の「謎のギャラリー」で二作紹介されてはいますが、そのときも「ああ、小沼さんはこういう文章を書くのだな」と思いながら読んでいました。
小沼丹。わたしにとってはもう二十年来のおなじみともいえる名前です。というのも、三浦さんのエッセイにしょっちゅう登場するから。
早稲田大学で仏文を学んだ三浦さんの恩師として。そして、身近な先輩作家として。(同様の存在に上林暁もいました)
過日「師・井伏鱒二の思い出」を読んだところ、小沼さんがやっぱりよく登場するので、そういえば買ったまま、車に積みっぱなしの本があったことに気づいたのでした。
「黒いハンカチ」(創元推理文庫)。A女学院の英語教師、ニシ・アズマが活躍するシリーズです。
小柄で才気に溢れるニシ・アズマは、身辺で起こる様々な事件に目を向けて、ほかの人が気づかないような解決を見出だします。例えばだまし取られそうになった指輪。著名な画家の描いた絵画作品。犬がくわえていった手首など、猟奇的な事件もあります。
そのいずれにも抜群の切れ味で決着をつけるニシ・アズマは、当時連載されていた雑誌でもきっと愛されていたことでしょう。
昭和初期の色合いを色濃く残すこの作品、漢字やカタカナ残す表記がやはり時代を感じさせます。「ヴェランダ」「キャムプ村」「タアザン」「バア」「サンタ・クロオス」「アパアト」「シェパアド」「カムフラアジュ」、そして登場人物の名前。スズキ・ケイコ、アサミ・イクコ、ワキ・マリコ、マカキ・タカシといったふうにずいぶんバタ臭い感じがします。ヨシオカ女史だの妹のミナミコだのも、いい味出しています。
漢字も大分新字に直したそうですが、かなり古い表記が使われ、「廻」という字の回の口の中が「巳」だったり、「ここ」という字がくさかんむりに糸の上の部分二つだったり。
「獅噛み付く」という場所があって、一瞬困惑しました。同僚にかみついたなんて、一体何が? よく見ると「しがみつく」ですね。なるほどなるほど。
現代の目から見れば、探偵小説としてはちょっと他愛ないかもしれません。でも、雰囲気がとてもいいし、なんとなくこれはありそうだなと思わせるものがある。
わたしが気になるのは、「スクエア・ダンス」です。若い二人の結婚を祝う会に現れ、かいがいしく会を世話する男性。宴もたけなわとなり、恩師の趣味画家スクエア・ダンスだと知るとお膳立てして一堂を誘いますが、本人は足をくじいたと会場に残る。さて、彼のたくらみは……。
驚いたのは、三浦さんの短編にも似た筋のものがあることです。「モーツァルト荘」の一編なんですが。
小沼さんの文体は小洒落ていて、三浦さんとはちょっと違うなとは思うのですが、なんだかやっぱり通じるものがある。
ニシ・アズマが同僚だったら、楽しいでしょうね。でも、勤務中に屋根裏で昼寝なんて今は無理だから、教師になってないかもしれません(笑)。

「ボックス!」百田尚樹

2011-03-18 21:11:13 | 文芸・エンターテイメント
この話の主人公は誰なんだろうと考えているのですが、鏑矢より木樽の方がそれらしいように思います。
鏑矢は天才的なボクシングセンスの持ち主。フェザー級では無敵で、スタミナはないものの、パンチの鋭さとスピードは折紙つきです。木樽はそんな幼なじみに憧れてボクシングを始めますが、なにしろもともとがいじめられっ子です。成績は奨学金をもらうほどの優等生。部活、しかもボクシングを始めるなんて考えられません。しかし、地道な努力と持ち前の分析力を発揮して、やがて新人戦で優勝を果たすほどの実力をつけるのでした。
物語の視点は、この高校の女性教師高津(ようこというんですが、字が出ません)です。彼女のパートと木樽のパートが交互に展開されます。木樽の視点では、名前で「優紀」という表現されるのですが、どうも作者も混乱するらしく、下巻には「優紀の相手に選んだのは佐川だった。練習前に木樽に凄んだ男だ」という箇所もありました(笑)。
鏑矢がなんと、途中でサッカー部に移るという驚きの展開に、どうなることかと思ったのですが。
ラストまで読んでみると、やっぱりヒーローは鏑矢かなあという感じです。終盤の稲村との対戦は素晴らしい。
木樽のその後にも感心しました。彼らしいですね。
百田尚樹「ボックス!」(太田出版)。文庫本上下巻です。図書室用に買ったので、学級文庫として貸し出していたのですが、あるクラスでちょっと読んでみたら止まらなくなってしまい、継続していたところ、興味をもった生徒が借りていってしまったため、一ヶ月後にやっと読めました。
わたしは沢木監督が好き。稲村もいいですが。こういうたたずまいの人物が好きなのでしょうね。
ボクサーとして頂点を極め、網膜剥離で片目を失いながらも指導者として後輩を率いる。しかし、沢木はただの鬼監督ではありません。心の中に後悔を抱いている。
放任していた彼が、木樽の努力に感化されていく様子がとてもよかった。
そして、作品に彩りを持たせるのは、マネージャーの丸野の存在です。ラストには思わず目頭が熱くなりました。
スポーツものの王道でありながら、どこかしら新機軸を感じさせるのは、やはり鏑矢と木樽というタイプの違う二人が中心になっているせいでしょうか。
ボクシングとはスポーツなのか。このテーマも何度も出てきます。試合シーンの描写って、結構難しいと思うのですが、生き生きとして迫力があります。読んでいるうちに、誰が、ということなくこの作品世界が親しいものになっていく。自分も恵美須高校ボクシング部の一員になったような気にさせられるのです。
前キャプテンの南野くんの実直さ。とても元ヤンキーだったとは思えない飯田くん。なんだか気になる野口くん。井手くん。
さらに他校の選手でも目につく人がいるし。
作中、才能について高津先生と沢木監督が語り合う場面があり、そこも考えさせられました。才能を鉱脈に例えて、「ほとんどの人が、自分の中にすごい鉱脈が眠っているのに気付かんと一生を終えるんやと思います」と語る。
とくにスポーツや器楽にはその傾向が強いかもしれません。
ボクシングについての知識は「はじめの一歩」くらいのわたしですが、非常に楽しく読みました。
読み終わって感じたのは、主人公はどちらか、というよりは、集団としての青春群像の側面を強く感じました。
さらに読み返したら、一章まるまる読み飛ばしていた箇所があることが発覚……。