えーと。
「トオルは、GPSっていうの、持たされているんだよ。通学路を外れたら、速攻でお母さんから連絡が入るんだ」
と「軍団」の一人は言います。つまり、トオルには「通学路を外れる自由もない」(255ページ)のです。
でも、冒頭では主人公のタイム(森河大夢)のあとを軍団とともに追ってくるし、新たなターゲット勇人のことも一人になるまで待って声をかけてきます。これは何? 三人とも同じ方向に住んでいるの? でも、タイムは逃げながら、「とりでに着かなければ」と思っているし、その場所が自分の住んでいるグリーンハイツであることも明かしています。ここもトオルの通学途中にあるのでしょうか。矛盾している。「作るべくして作られた小説」なのでしょうね。
もしかして、吉富さんは「通学路」をその校区の全児童対象だと思ってます? 学校の誰かがその道を通るならOKってことでしょうか。でも、それなら寄り道し放題だよね。わたしは「通学路」は一人ひとり違う(勿論共通している部分もある)と思っていたのですが。
吉富多美「チェンジング」(金の星社)です。
かつて、青木和雄先生の名前で出版されていた「ハッピーバースデー」(金の星社)は課題図書に選ばれました。声をなくした少女あすかの物語。その後青木先生の本は続けて何冊か読んだのですが、いつの頃からか、共著として吉富さんのお名前が併記されるようになっていまして。
どういうこと? 「ハードル」も「ハートボイス」もそうなの?
今回は一人での著者名であることを考えると、実質的な執筆は「吉富多美」であるということなのでしょうね。タッチの面からいっても、これまでと開きがあるようには思わないし。
この本を読んで、もやもやもやもや、憂鬱な気持ちでいます。何がどう、というのかはっきり言えないのですが。
吉富さんの描く世界、子供にとっては感動的だと思います。過酷な現実。それを打ち壊し、大団円を迎える。カタルシスと感動がある。でも、何か割り切れない。
いじめの標的だったタイムが、料理の先生香奈子と転校生ユウナとの出会いで変わっていく。周囲も少しずつ変わっていき、学校が楽しくなってくる。アンナマリー(架空の作家です)の「チェンジングワールド」を読んで励まされ、険悪だった父親とも関係が築けるようになってきます。
いい話なんです。ちょっと盛り込みすぎかな、とか、視点が急にほかの人物に移るのはどうなの、とか思わないでもないですが。
でも多分、わたしにもやもやした気分を与えるのは、周囲の無理解に見える大人の描写だと思うのです。
香奈子と和也はかなり理想的な「大人」として描かれ、野菜を分けてくれるおじさんたちもいいと思います。でも、父親とか隣のクラスの先生方とか、なんか単細胞だよね? 言葉を表面的にしか捉えない。
トオルのことも救わなければ、と何度も出てくるけど、そのわりに最後まで動き出す様子はない。結果としてトオルは勇人に謝罪したようですが、それは読みようによっては最後の策も尽きたから、と思えないこともないではないですか。だって、密告者を暴露してクラスをさらに険悪にしようとたくらんだこともばれちゃったわけだし。
もしかすると、密告自体も彼がお金を渡してやらせたことなのかもしれませんが。
そんなトオルの心境の変化が全く見えてこない。
それから、ラストの和也が体験した戦争の話。テーマに関わってくるのでしょうが、なんだかとってつけたような感じ。もっと前に伏線をはってほしい。
……どうも長くなりそうなので続きます。
「トオルは、GPSっていうの、持たされているんだよ。通学路を外れたら、速攻でお母さんから連絡が入るんだ」
と「軍団」の一人は言います。つまり、トオルには「通学路を外れる自由もない」(255ページ)のです。
でも、冒頭では主人公のタイム(森河大夢)のあとを軍団とともに追ってくるし、新たなターゲット勇人のことも一人になるまで待って声をかけてきます。これは何? 三人とも同じ方向に住んでいるの? でも、タイムは逃げながら、「とりでに着かなければ」と思っているし、その場所が自分の住んでいるグリーンハイツであることも明かしています。ここもトオルの通学途中にあるのでしょうか。矛盾している。「作るべくして作られた小説」なのでしょうね。
もしかして、吉富さんは「通学路」をその校区の全児童対象だと思ってます? 学校の誰かがその道を通るならOKってことでしょうか。でも、それなら寄り道し放題だよね。わたしは「通学路」は一人ひとり違う(勿論共通している部分もある)と思っていたのですが。
吉富多美「チェンジング」(金の星社)です。
かつて、青木和雄先生の名前で出版されていた「ハッピーバースデー」(金の星社)は課題図書に選ばれました。声をなくした少女あすかの物語。その後青木先生の本は続けて何冊か読んだのですが、いつの頃からか、共著として吉富さんのお名前が併記されるようになっていまして。
どういうこと? 「ハードル」も「ハートボイス」もそうなの?
今回は一人での著者名であることを考えると、実質的な執筆は「吉富多美」であるということなのでしょうね。タッチの面からいっても、これまでと開きがあるようには思わないし。
この本を読んで、もやもやもやもや、憂鬱な気持ちでいます。何がどう、というのかはっきり言えないのですが。
吉富さんの描く世界、子供にとっては感動的だと思います。過酷な現実。それを打ち壊し、大団円を迎える。カタルシスと感動がある。でも、何か割り切れない。
いじめの標的だったタイムが、料理の先生香奈子と転校生ユウナとの出会いで変わっていく。周囲も少しずつ変わっていき、学校が楽しくなってくる。アンナマリー(架空の作家です)の「チェンジングワールド」を読んで励まされ、険悪だった父親とも関係が築けるようになってきます。
いい話なんです。ちょっと盛り込みすぎかな、とか、視点が急にほかの人物に移るのはどうなの、とか思わないでもないですが。
でも多分、わたしにもやもやした気分を与えるのは、周囲の無理解に見える大人の描写だと思うのです。
香奈子と和也はかなり理想的な「大人」として描かれ、野菜を分けてくれるおじさんたちもいいと思います。でも、父親とか隣のクラスの先生方とか、なんか単細胞だよね? 言葉を表面的にしか捉えない。
トオルのことも救わなければ、と何度も出てくるけど、そのわりに最後まで動き出す様子はない。結果としてトオルは勇人に謝罪したようですが、それは読みようによっては最後の策も尽きたから、と思えないこともないではないですか。だって、密告者を暴露してクラスをさらに険悪にしようとたくらんだこともばれちゃったわけだし。
もしかすると、密告自体も彼がお金を渡してやらせたことなのかもしれませんが。
そんなトオルの心境の変化が全く見えてこない。
それから、ラストの和也が体験した戦争の話。テーマに関わってくるのでしょうが、なんだかとってつけたような感じ。もっと前に伏線をはってほしい。
……どうも長くなりそうなので続きます。