くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「チェンジング」吉富多美 その1

2010-05-31 05:54:11 | YA・児童書
えーと。
「トオルは、GPSっていうの、持たされているんだよ。通学路を外れたら、速攻でお母さんから連絡が入るんだ」
と「軍団」の一人は言います。つまり、トオルには「通学路を外れる自由もない」(255ページ)のです。
でも、冒頭では主人公のタイム(森河大夢)のあとを軍団とともに追ってくるし、新たなターゲット勇人のことも一人になるまで待って声をかけてきます。これは何? 三人とも同じ方向に住んでいるの? でも、タイムは逃げながら、「とりでに着かなければ」と思っているし、その場所が自分の住んでいるグリーンハイツであることも明かしています。ここもトオルの通学途中にあるのでしょうか。矛盾している。「作るべくして作られた小説」なのでしょうね。
もしかして、吉富さんは「通学路」をその校区の全児童対象だと思ってます? 学校の誰かがその道を通るならOKってことでしょうか。でも、それなら寄り道し放題だよね。わたしは「通学路」は一人ひとり違う(勿論共通している部分もある)と思っていたのですが。
吉富多美「チェンジング」(金の星社)です。
かつて、青木和雄先生の名前で出版されていた「ハッピーバースデー」(金の星社)は課題図書に選ばれました。声をなくした少女あすかの物語。その後青木先生の本は続けて何冊か読んだのですが、いつの頃からか、共著として吉富さんのお名前が併記されるようになっていまして。
どういうこと? 「ハードル」も「ハートボイス」もそうなの?
今回は一人での著者名であることを考えると、実質的な執筆は「吉富多美」であるということなのでしょうね。タッチの面からいっても、これまでと開きがあるようには思わないし。

この本を読んで、もやもやもやもや、憂鬱な気持ちでいます。何がどう、というのかはっきり言えないのですが。
吉富さんの描く世界、子供にとっては感動的だと思います。過酷な現実。それを打ち壊し、大団円を迎える。カタルシスと感動がある。でも、何か割り切れない。
いじめの標的だったタイムが、料理の先生香奈子と転校生ユウナとの出会いで変わっていく。周囲も少しずつ変わっていき、学校が楽しくなってくる。アンナマリー(架空の作家です)の「チェンジングワールド」を読んで励まされ、険悪だった父親とも関係が築けるようになってきます。
いい話なんです。ちょっと盛り込みすぎかな、とか、視点が急にほかの人物に移るのはどうなの、とか思わないでもないですが。
でも多分、わたしにもやもやした気分を与えるのは、周囲の無理解に見える大人の描写だと思うのです。
香奈子と和也はかなり理想的な「大人」として描かれ、野菜を分けてくれるおじさんたちもいいと思います。でも、父親とか隣のクラスの先生方とか、なんか単細胞だよね? 言葉を表面的にしか捉えない。
トオルのことも救わなければ、と何度も出てくるけど、そのわりに最後まで動き出す様子はない。結果としてトオルは勇人に謝罪したようですが、それは読みようによっては最後の策も尽きたから、と思えないこともないではないですか。だって、密告者を暴露してクラスをさらに険悪にしようとたくらんだこともばれちゃったわけだし。
もしかすると、密告自体も彼がお金を渡してやらせたことなのかもしれませんが。
そんなトオルの心境の変化が全く見えてこない。
それから、ラストの和也が体験した戦争の話。テーマに関わってくるのでしょうが、なんだかとってつけたような感じ。もっと前に伏線をはってほしい。
……どうも長くなりそうなので続きます。

「静子の日常」井上荒野

2010-05-30 05:44:19 | 文芸・エンターテイメント
静子さんは、わたしの親と同年代です。
なぜ、小説の登場人物は自分よりも年上に思えるのでしょう。息子夫婦である愛一郎と薫子さんは、よく考えると自分とそう変わらない年齢なのに。
静子さんは七十五歳。フィットネスクラブで水泳をするような元気なおばあちゃんなのですが、実は人知れず周囲をよくしようと活動しています。本人は自覚していないかも知れませんが。でも、自分の品位にそぐわないものに、寄り添いたくはないのです。
静子さんの物語を聞いて、筋の通った人生に背筋を正したくなった人もいるでしょう。
そして、彼女をめぐる二人の男性。亡くなった夫・十三と思い出の人である茗荷谷。静子さんの現在を中心として、今はもう過去でしかない出来事が静かに語られます。
井上荒野「静子の日常」(中央講論新社)。おもしろかった。淡々とした日常なのに、人生は動いていく、ということを感じさせてくれました。
孫のるかと新聞配達の山田暁、「ラブ男」なる名前で出会い系サイトにはまる愛一郎(その後はお取り寄せにはまる)、スイミングクラブの新庄さんの噂話……。
中傷のビラに心を痛めて、カゴを作り続けるところなんかも、非常に愛しい。いい人ですよ静子さん。
そうそう、町内会の旅行に参加した静子さんに一人の男が近づいてきます。彼が有名な女たらしだと聞かされた場面にやられました。
「あれが女たらし。言葉は知っていたけれど、実物を見るのははじめてだわ」
このモノローグ! 素敵ですよね。
「コイノカオリ」に収録された作品がよかったので、井上荒野を手に取ってみました。空気がいいのですよ。地に足がついているように思います。食べるものも存在感があり、大切にしている感じが伝わってくる。ニョッキが食べたい! でも、多分うちで作ってもたべないかも、と思って「いももち」を作ってみました(笑)
それにしても、このうちの台所は「キッチン」なんですね……。これは誰の視点で書かれた言葉なんでしょう。都会では四十代~七十代の人もこういう言葉になるの?
うちの辺りでは、七十代の方は「えもんかけ」とか「魔法瓶」という言葉づかいをまだしているので、ちょっと気になりました。わたしが遅れてるだけですかね。

「わたしはノジュオド、10歳で離婚」

2010-05-28 21:30:05 | 哲学・人生相談
だって十歳ですよ、十歳! それが離婚? 十歳なんていったら、わたしが普段接している中学生よりも幼い訳です。どういうこと? 旦那さんってどんな人なの? 表紙カバーの女の子は、とても印象的な目をしていて、黒いベールを被っている。この子がノジュオドでしょうか。ぺらぺらと何ページか読んでみて、これは、と思いました。
ノジュオド・アリ/デルフィヌ・ミヌイ「わたしはノジュオド、10歳で離婚」(河出書房新社)。訳は鳥取絹子です。
舞台は中東のイエメン。この国では娘たちが十八歳になる前に嫁ぐのが常識とされています。家長である父親から命じられて、三倍も年上の男と結婚することも珍しくありません。中には、五十を過ぎた男のもとへ行く少女もいるそうです。
ノジュオドは、十歳で三十代の男と結婚。しかし、最初から結婚したくなかったうえに、繰り返し暴力を振るわれ、離婚を決意します。
わずか十歳の少女に、「離婚したい」と言われて、裁判官たちは面食ったでしょう。しかし、彼らが味方になってくれたおかげで、ノジュオドは勝訴することができたのです。
裁判を通して、父親からこの結婚の背後にはある「事情」が隠されていたことが明かされます。それは、ある男が娘(ノジュオドの姉・ムナー)をさらったこと。この男! ムナーが乱暴したことをきっかけに、一家は村を追い出され(父親は陰謀だと思っています)首都に移り住むことになったのです。
さらに始末におえないことには、長姉のジャミラまでもたぶらかされていて。
悲劇的なムナーの人生に、溜息が出ます。二人の娘がありながら、一方を義母のもとに渡さなければならず、自分と同じ思いはさせたくないとノジュオドの結婚話にも反対しますが父親に冷たくあしらわれ……。
読んでいる間に思ったのは、これはパラダイムの転換が描かれているのではないかということです。旧弊な風習と、都市における近代化の波、教育を受ける富裕層もあれば、早婚のために退学して文字すら読めない女たちも多い。
西洋的な価値観から見れば、おそらくこの国の人々は未開な部分を多くもっているのでしょう。ただ、それが一概に「悪い」ことではないですし、彼らの視点でいえば、ノジュオドの行動は理解できないものだということもわかります。
けれど、なにも知らない少女が、嵐のような「結婚生活」に巻き込まれて苦しむ暮らしを我慢しなければならないというのは、やはりひどいことだと思うのです。少女らしい夢も奪われ、苦痛にあえぎ、味方になってくれる人は誰もいない。
とくに驚いたのは、法廷で夫である人がこう言ったときです。
「しかし彼女にはやさしくした……気をつけた……ぶってはいない」
ノジュオドがあんなに辛いと思った暴力を否定する男。ごまかすつもりなのか、それとも本当にそう思って(信じて)いるのか。
この本は、カルチャーショックが満載です。これから先、ノジュオドの人生がどうなっていくのかは、誰にもわかりません。弁護士になりたいと学習に励むノジュオド。願わくば、夢が叶いますように。

「百鬼夜行抄」今市子

2010-05-26 05:36:42 | コミック
待ってましたーっ! 今市子「百鬼夜行抄」⑪(ソノラマコミック文庫)です。連休に出たらしいけど、先日やっと気づきました。
わたしは、このまんが、文庫サイズがちょうどいいと思っているのです。流麗な絵が、小さくなってもつぶれない。これはすごいですよね。
できるだけ雑誌掲載時に読むようにはしているのですが、今さんのストーリーは繰り返し読むうちに見えてくるものがあるので、結構何度読んでも新鮮です。
今回は、「わたしの知らないわたし」を感じさせる物語が多いように思いました。この作品自体、「変身のわたし」というテーマを内包しているかと思うのですが、自分が化身であることに無自覚な人物も少なくない。「狐使いの跡継ぎ」「雨戸仙人」は、その系統の物語だと思います。
案外、自分では八代さんが好きかもしれません。ちょっと気になって、⑩も読み返してしまいました。
それにしても結城さんのトラブルメーカーぶりはすごい。「見返りの桜」です。律の母親にお茶を習うことにしたのに、花見会当日に欠席。実は違う流派の茶会に出席していたなんて。
桜をテーマにした話はシリーズ中でも多いのではなかったかと思うのですが。
どうもこのシリーズ、読み出すと既刊を総ざらえしてしまわないと気がすまない感じがします。いつ読んでもおもしろいし。
好きな話を五つ選ぶなら、「夏の手鏡」「花貝の使者」「凍える影が夢見るもの」「天上の大将」「野に放たれて」。
あー、やっぱり「病み枝」も捨てがたいです。
短編としての切れ味が、シリーズキャラクターとマッチして、すばらしいですよね。

まんがで読破「病床六尺」「論語」

2010-05-25 07:52:18 | コミック
えーと……。「それだけはキモに命じておけ!」と教頭先生はおっしゃいますが(百ページです)、それ、「銘じる」の間違いですよね? 「論語」なのに、漢字を間違えたままの刊行に驚きを隠せないわたくし。
イースト・プレスの人気シリーズ「まんがで読破」から、「病床六尺」(正岡子規)と「論語」を読んでみました。企画・作画はバラエティ・アートワークス。集団で活動しているんでしょうかね。
「病床六尺」はわりとおもしろくて、夏井いつきの「子規365日」(朝日選書)と併読することで、さらに子規について知ることができたように思います。できれば、虚子と碧梧桐の対立も読みたかったなー。
俳句の授業では、教科書に出ている句をもとに解釈をすることになっているのですが、順番通りに「春」の句からやっても実感がわかないような気がして。今年は年代ごとにやってみました。
トップはもちろん子規。そして虚子の「春風や」に続けます。この句は自由律を唱えた碧梧桐との関わりがわかる方が、実感しやすいでしょう。
子規の、病床にありながらも意欲的に俳句に取り組む姿が感じられて、このまんがはよかった。

でも、「論語」は……。
「こうし」をひっくり返して「ウシ子」にするというアイディアに、作者がおもしろがっていることが、読者に伝わってしまうのは、あまりよいこととは思えないのです。大体、担任が牛であるという部分におもしろさが感じられない。ラストのオチも、わたしにはついていけませんでした。
驚いたのは、これ、中学校が舞台だということです。途中まで高校生だと思ってたよ!
中三担任に、妊娠している人を選んだり、その代替に講師(これも駄洒落か。本文は「臨時教師」)を配置したりはしません。それに、禁止されている家庭訪問をしたということを責められていますが、授業のカリキュラムを守らない方が問題ではないかと(笑)。中学校で学習するには、この漢文高度すぎるから!
母親の死のショックから不登校になったという明里は、成績優秀なので自宅学習を許されている、って、どの時点で許可されるのかすごく不思議です。だって、本人は登校しないし、学校側は家庭訪問禁止だし、お父さんは忙しいんでしょ? 面と向かって話をしないでいいことにはできないのでは。
あっ、一学期中間テストの上位に名前があるから、テストは受けにきたんだ(笑)。でも、普通の公立では成績を紙に書いて貼りだしたりしないですよね?(成績票に載せない学校も増えています)
「論語」で、学ぶことや考えることの大切さ、生き方について描くコンセプトの割には、生徒の服装がよくないです。こんなにだらしない恰好なのに、授業にはちゃんとついていってる。しかも高度な白文ですよ。わたしだって、返り点くらい打ちます。しかも、ウシ子先生の講義形式、ノート取ってる生徒もいません。それで大丈夫なのか、不安は募りますが、学園もので「授業」シーンがあるのは珍しいので、それはいいことにしましょう。
ウシ子先生、孔子の教えに傾倒しているものと思われますが、わたしは嫌だな、こういう同僚。

「吉祥寺の朝日奈くん」中田永一

2010-05-24 21:28:59 | 文芸・エンターテイメント
朝日奈くんてば、朝日奈くんてば、やってくれるじゃないですか。ふふふ。やっぱり中田永一、おもしろいです。
「吉祥寺の朝日奈くん」(光文社)。山田真野という女性と献血を通して親しくなった朝日奈くん。山田さんは実は人妻で、遠野という娘もいます。二人は急速に仲良くなりますが……。
実はこの話、中盤でどんでん返しがあるのです。それを知ってから読み返すと、まるで世界が変わってしまうのがすごい。細部まで張られた伏線に驚嘆します。(どんでん返しそのものより、もうこれしかないとおもわされる言葉の選択に感銘を受けるのです)
中でもやられた、とおもったのは、
「焼酎が、気管に……!」
という場面でしょうか。そうだよなー、そりゃむせるよ。
ついつい、また読み返してしまう自分を発見。
それから、書きおろしの「三角形はこわさないでおく」が、とてもおもしろかった。くらげの写真集とかガンダムみたいなスニーカーとか小道具の雪とか。わたしもショートカットにしてみようかしらと一瞬考えましたが、輪郭がポイントだそうなので、諦めます。
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の白鳥ツトムと仲良くなった鷲津廉太郎。二人はクラスメイトの小山内琴美さんのことが気になるのですが、ツトムは父と部下と母の修羅場をみたことがあるせいか、今一歩踏み込むことができず、廉太郎はツトムのことを考えると自分にブレーキをかけてしまうのです。
小山内さん自身はというとどうも気持ちは固まっているようなのですが。でも。
三角不等式、サンドイッチ、おにぎり、雪と繰り返されるモチーフ。はっ、そうか、子猫が雨宿りする屋根も三角形ですね! これらが描き出す物語が実に繊細で、楽しいのです。
巻頭の「交換日記はじめました!」も、日記の文章だけが書かれた作品ですが、はっきり見える前後関係に感心させられます。
ほかの二編も、こういう話はなかなかおもいつかない、と思うような作品ばかり。
すごいな。発想の起点を知りたい気がします。

「伽羅の家」上杉可南子

2010-05-22 04:56:16 | コミック
高校生のころ、友人に貸してもらった上杉可南子の「うすげしょう」。傑作でした。もう一度読みたいのです。妹が買い直したのに、その後捨ててしまったらしくて。「はるしげ」という寺の息子との恋物語、忘れられない。
最近の上杉さんはライトなコメディーものが主流になっていますが、重厚な短編を書かせたら本当に文学的ですばらしいのです。これ、復刊してくれないかなー。古本屋で探しているんですけどね。
で、本屋に行ったら発見したのが「伽羅の家」(小学館)です。ピンときましたね。これは、あの作品を継ぐ系譜だ、と。
もう十五年以上前の作品を集めたものだそうです。表題作のほかに「四辻の社で」「蛍の火」「葵の上」「水の女」を収録。どれも独特の雰囲気があって、読ませます。
どれかひとつ、といわれれば、「四辻」をあげるかと思います。地主の息子朝と生家が没落して一人くらす兼穂。二人の間には幼なじみの喜和の存在がありました。
あるとき、村はずれの沼から喜和の遺体が見つかり、間もなく兼穂が村からいなくなります。
そのあたりのことを、淡々と描いていく筆力。すごい。
美しく痛ましい。そして、切なく愛おしい。上杉さんの美の世界が展開されています。やっぱりいいわーこの作品世界。
……子供の運動会なのに、つい読んでしまいました。もっと同じ傾向の作品があるのではないでしょうか。読みたーい。
こういう作品を描く人って、ほかにはいないような気がするんです。
しんみりと麗しい上杉可南子作品、是非復刊希望。

「潮風に流れる歌」関口尚

2010-05-21 05:20:19 | 文芸・エンターテイメント
さすがです関口尚! すごいおもしろかった。「潮風に流れる歌」(徳間書店)。
装丁もいい。構成もいい。買っておけばよかった、と思いました。
湘南にある団地で暮らす律(通称「リッツ」)を中心に、美少女だけど何か秘密があるらしい鈴本楓、彼女をライバル視する美玲、その彼氏真悟、クラスの権力者柳戸の兄という登場人物の視点で語られる物語。
エキセントリックな美玲に辟易したりもしますが、まあ、それはそれでおもしろい。
なにしろ主人公が「律」ですからね、脳内イメージは今市子さんの流麗な絵で展開しました。
なんといっても、わたしは真悟が好きです。いいなあ! こんなに美玲に振り回されて、わたしだったらうんざりだよ、というところですが、別れてからもなんだか優しい。懐が深いよね。
律の普通の男の子ぶりもいい。とても魅力的です。
でもね、学校裏サイト「トリプレア」で、彼らは糾弾されてしまうのです。楓は行事計画をたてるときに帰りたがったとして(実は美玲に嫌われたせいでもあるのですが)。律はクラスで浮いた存在になりつつあった楓を庇ったとして暴言を連ねられている。そんな律に声をかけるのは、ラグビーに夢中でサイトを見る気がない真悟だけ。
でも、そんな真悟に美玲はわがままをぶつけて、結局寂しいという理由で浮気します。さらに、真悟の中傷を書き込み、やがて自作自演であることが悟られて、窮地に追い込まれる。
四人は、「トリプレア」の管理人と対峙することになりますが……。
楓の「秘密」は、弟の比呂人。最初の話で彼の看護をしたいために早く帰ることがわかります。交通事故にあって、意識が戻らないのです。
このくだりは非常に小説的な展開ですが、そこがまたいいような気がします。
なによりも、一話一話が「短編」としても引き締まっている。全体を見れば、多視点で展開される長編小説なのですが、この物語のどこか一つのパートが、アンソロジーに収録されていてもおかしくないように思うのです。
物語の背後に、もちろん現実のものではないのですが、「白い歌姫」のバラードが静かに流れているように感じました。

「デカガール」芳崎せいむ

2010-05-20 03:28:35 | コミック
芳崎せいむのまんがが三冊同時刊行! ってことで、買いました。読んだ順に、「うごかし屋」3、「金魚屋古書店」10 、「デカガール」3。どうしよう、まんがタオルに応募するべきでしょうか……。
それはさておき、「デカガール」(講談社)です。原作長崎尚志。出ているのは知っていたのですが、それまで買ったことがなかったのです。
芳崎さんといえば、トリビュートもの、という印象が強くて。
「テレキネシス」も持ってます。「鞄図書館」も探しまわって買いました。でも、刑事ものって、どうかなーと……。
でも、それはわたしの間違いでした。おもしろいよ、「デカガール」!(でも、タイトルは今ひとつですよね……)
最新巻から読んでもちゃんと人物関係がつかめるし、なんといっても主人公「まる香」(日野まる香って……どうなんでしょう)がかわいい。ちゃんと自立したかわいらしさなのです。
まる香はたくさんの動物たちと暮らしています。両親が定食屋なので、アパート(所有者は両親)の下の階に住む兄(引きこもり)とともに世話をしているのですが、この子たちがまたらぶりー。
ボストンテリアのスミレ、なつきにくい猫のムラマツ、虐待されていた猫キウイ、パピヨンのヒラリ……。
兄・庸志が詐欺を疑われる場面、わたしは彼が獣医資格を持っていることを知らなかったので、結構はらはらして読みました。
鞍馬さんはひどい。岩倉さん、どうなってしまうのでしょうか。
もー、気になって気になって、本屋の棚を探しまわったのですがなかなか見つからず、やっとこの前、2巻を発見。我慢しきれず、駐車場で一話読んじゃいました。
1がやっぱり見つからないので、注文しようかとも思ったのですが、女性コミックのコーナーにありました。(本屋によって置く場所違うんですねー。先に見た本屋ではみんな男性コミックとして置いてありました。連載は女性誌だけどね)
だから、逆順に読んだことになるのですが、今回頭から読み直してみました。伏線が見えて、なるほどなーと思う場面が多かった。長野とか。
奥菜班長が非常にカッコイイ! たたずまいとか表情とかが素敵なのです。「真の刑事」であるエピソードを知りたいな。
あと藪さんも気に入ってます。
芳崎さんのまんががもっている雰囲気って、すごくいいと思うんです。中心人物もそれぞれ個性的ですよね。

「一生に一度の月」小松左京

2010-05-19 05:05:18 | ミステリ・サスペンス・ホラー
そうかー「月」は「ツキ」とかけてあるんですね!
小松左京「一生に一度の月」(集英社文庫)を借りてきました。こういうショートショートが好き。
一本一本に惜し気もなくアイディアが投入されていて、おもしろく読みました。
原稿用紙に一枚半という分量で、これだけの作品が書けるのはすごい。だって、今読んでも古くないんですよ。
作家仲間、星さんとか豊田さんとかのことにも触れている。表題作もそう。でも、なんだかちょっと冗長な気がして、いや、単にわたしが麻雀に興味ないせいかも知れないですけど、今ひとつだと思いました。
でも、これはアポロ11号の月面着陸と滅多にお目にかかれない「九連宝燈」が揃ったツキをかけているのでした。はー、よく見たら横田順弥との対談に書いてありましたよ。
「文豪てのひら怪談」に採られていた「幽霊」も収録されていました。フォーマットが変わると、また違う感じがしますね。
とくにおもしろかったのは、団地に関しての連作。「団地ジャーナル」に連載していたそうです。
あとは、「ミリイ」とか「ばあや」とか、未来の機械化された文明の中で、人間の感じ方が変わってきていることが予測されている。自分のことを大事にしてくれる人は現れず、料理も機械がしてくれる。環境が変化して「石油」が危険なもののように認識され、南極の氷は溶けて町は廃墟になり、人間は宇宙に出ていく。小松さんのショートショートは、結構思想的なものが大きいように思います。
いちばん気になったのは、「早すぎる年賀状」ですね。二年先のものが一枚交じって届く。その人とは二年の間にいつの間にか知り合いになっていて……。オチがきいているのです。