くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「どこにいるの? シャクトリムシ」新開孝

2009-10-31 05:33:09 | YA・児童書
擬態。科学の本で特に興味深いコーナーであります。世の中、いろいろなものが擬態している、蝶やら虫やら。中でも気になるのは、シャクトリムシ。新開孝「どこにいるの? シャクトリムシ」(ポプラ社)は、彼らのそんな擬態の様子を紹介した写真絵本です。
木の枝のふりをするシャクトリムシを枝と間違えて渡るダンゴムシ。体の上を通過されても動きません。
いろいろな種類のシャクトリムシがいるようですが、幼虫と成虫の色は違うようです。どんな蛾になるのかと娘と想像しながら読んだのですが。
幼虫のとき緑でも、おとなになるとまだら模様になるのかー! 衝撃的。てっきりこの緑色が1の幼虫が成長したものだと思ったのに! (キオビゴマダラエダシャクというらしいです) 正解は2番のヨツモンマエジロアオシャクだって。これ、どこがムシなのかよくわからない。擬態しすぎているのでしょうか。
娘には非常に好評でした。どの部分がムシでどの部分が本当の枝なのかを見分けるのが楽しかったようです。
この絵本を読んだ日、テレビでツノゼミの擬態をテーマに放映があり、楽しく視聴しました。
昆虫の擬態は身を守るためにあるという実例として、何点かあげられていたのですが、水滴にまで擬態する昆虫がいるとは!
テレビカメラを通すと、動きがおもしろいですね。静と動のコントラストが。
でも、絵本を作るにはそのシャッターチャンスを待ち構えることが必要ですよね。こんな場面、よく撮れたなーと感心しきりです。木の芽にそっくりなシャクトリムシ、よくぞ見かけた、とわたしなどは思うのですが、自然を観察しているとこんなに題材がころころみつかるのでしょうか。
なんとなく、いろいろなものを見過ごしにしているような気がしてきました。わたしは雑木林のある家で育ったのですが、知識としては知っていても擬態を目にしたという意識はないので、やっぱり、ものごとにきちんと目を向けるのは大事だと思ったわけです。

「流星の絆」東野圭吾

2009-10-30 05:47:45 | ミステリ・サスペンス・ホラー
東野圭吾のベスト作品を三つ選んでください。
なんか時々、ふとこんなことを考えてしまうことがあるのです。何年かの周期で東野作品に夢中になる時期があり、集中して読むのですが、多作な方ですし、人気があって貸出中のものも多く、なかなかカバーしきれません。
とりあえず一位は「名探偵の掟」(講談社)。友人みえっちさんに貸して貰って爆笑し、その後文庫になったのをすぐ買いました。どこを読んでも可笑しいけど、天下一が女子大生になる回がおもしろい。
二位「ゲームの名は誘拐」。伏線がきいてるんですよねぇ。映画みたいな展開が好きです。
で、いつも迷うのが三位なのです。候補はあるのですよ。いろいろと。「白夜行」(集英社文庫)、「天空の蜂」()、「秘密」「変身」(文春文庫)、「どちらかが彼女を殺した」「トキオ」(講談社文庫)等々。
でもなかなか決め手がない。
そんな中、これで決まりかな、と思う作品でした。「流星の絆」(講談社)!
確か宮藤官九郎脚本でドラマになった……んだよね? 見てないけど。当時いつも図書館からは貸し出されていて、リクエストが多い本のトップに記載されていました。今まで待ってたのですよ。これで安心して読めるというものではないですか。
しかし、これまでの間に情報は少なからず入ってくるわけです。いわく、詐欺師の兄弟である。いわく、血のつながらない妹がいて、彼女がターゲットに惚れてしまう。小椋・塩田もオリンピック前のインタビューで「愛読書」にこの本をあげていました。だから期待は募ります。でも同時期くらいに出版された「ダイイング・アイ」はねぇ、なんだかねぇ、という気持ちがあって(オカルトな結末でしたね)、ちょっと身構えてもいたのです。
しかし、わたしの杞憂でした! オープニングから引き込まれるではないですか。獅子座流星群、わたしも夜に見たことあるよ! 自宅の庭で。
しかも、わたし好みの「料理が絡む話」なのです。ハヤシライス、すごいおいしそう~。今すぐ作りたい! しかし、今夜は鯖の竜田揚げと決まっている……。うーん、食べたいのになー。
途中、静奈が試食会でハヤシライスの味に泣いてしまう部分、ぐっときます。
行成の人物造形がいいと思うのですよね。有明兄弟はいつもの東野キャラにイメージがだぶるのですが、彼はなかなか新機軸だと思うのですよ。
洋食屋チェーンのお坊ちゃんで、仕事人間。話題は仕事に関すること一辺倒。でも誠実で意外と骨太です。彼が静奈に接する様子をみていると、あーハッピーエンドにならないものかしら、と切なくなります。
でもこの調子だと思いは実っても、待っているのはあまりよい結末とはいえないのでは……と覚悟していたのですが。
えっ、そうなるの? ごめん、これはちょっとびっくりだ、と思っているうちに大団円。いいラストです。ちょっとあざといかなーと思わないでもないですが。
個人的に「草薙」と「加賀」には笑いました。

「名探偵SEN④ 神かくしドール」大崎梢

2009-10-29 05:41:28 | YA・児童書
七年って、大人にはすぐだけど子どもにとっては大昔なのでしょうね。
大崎梢「名探偵SEN④ 神かくしドール」(ポプラ社)。今回はちょっとホラーがかっているからか、なんか大袈裟な部分があるように思いました。レトリックとしての伏線というか。
だって、ディーという少年が、DOLLの意味でそう名乗っていることに女の子たちは過剰に反応するけど、怖いのでしょうか、それは。わたしはむしろ「丸パン」くんの変化の方が怖いというか興味ありますよ。

今回は和人さんも再登場でうれしい。シリーズの醍醐味は「つながっている」ことですからね。(でも過度につながるのはNG)
この作品のテーマと「七年前」は密接にからんできます。とある人形を送りつけられた少年が神かくしにあったというのです。
彼の不安は「遠いところに行かされるかもしれない」ということ。そして、急に学校に来なくなります。「転校したんじゃないの?」と聞く千に、この話をしてくれたツンツンくんは、
「そう思うのがふつうだけど、まわりの様子がおかしかったらしい。先生とか、親とか。(略)となりの部屋の人まで、あの子は遠いところにいった、さがしてもむだだ、あきらめろと、いってたらしい」
と語るのです。このへんの解決は、まあ学校現場ではよく耳にすることではある。でも、「親とか」って、お母さんは一緒にボストンに行ったのですよね?
あ、ほかの児童の親のこと? だとすると、かなり大々的にストーカー被害が知れ渡っていたのですかね……。普通、親が事情を知っていれば、どこからか真実は伝わってしまうと思うのですが。こういう「神かくし」伝説になるくらいなら、「親」も知らない、そのことを不思議がっている、とする方がいいような気はしました。学校サイドとしては、こういう事情で転校した子について、ほかの保護者に聞かれても話せないのではないかしら。
七年前。わたしは育休中でした。携帯はメール機能ついてなかった(笑)。その年に育児サークルの連絡用に機種交換したんだわー。懐かしい。
というわけで、画像の件はわりと早くから疑問に感じていたので、そこが伏線とわかって我が意を得たりの気分でした。
ジュブナイルには江戸川乱歩のような絢爛な闇が似合います。今回はなんとなく、そのタッチが見えるように思いました。

「空をつかむまで」関口尚

2009-10-28 05:45:09 | YA・児童書
半年ぶりに髪を切りました。なかなか行けなかったのですよ。お昼をとって本屋に寄ったら普段は200円の駐車料金が千円超えていました。まあ、いいさ、本屋でサービス券貰ったし。
この券、三千円分買わないと貰えないので、つい買ってしまうのです。中の一冊がこれ。関口尚「空をつかむまで」(集英社文庫)。
やられました……。実はこの本、読書感想文で取り上げた子がいて注目していたのですよ。市のコンクールでも入選したのですが。下書き段階のまとめの部分が、読んでみたら文庫解説の川上健一の文章と同じなの……。幸いにも推敲でそこは削らせていたし、本文全体は違うのですが、「枷」という言葉はここから影響を受けていたのね、と思いあたりました。指導の際にはやっぱり全部確認しないと駄目ですね。ほとんどは読んだのですが、この作品については最後に選んだので時間がたりず……。くぅっ。
でも、本はとってもおもしろかったのです。サッカーをやめたことで何事にも本気になれずにいる優太の視点で、三人の同級生たちのことが語られます。将棋部の仲間で、一緒に水泳部にかりだされているモー次郎。水泳部のエースで「姫」とあだ名されるクールビューティ暁人。彼と付き合っている美少女美月。
優太は美月と幼なじみで、淡い恋心を抱いています。でも、暁人と美月にはなにやら抱えこんでいるものがありそうで……。
水泳部の存続をかけて、彼らはトライアスロンの大会に出ることになります。でも悲しいかな、素人の付け焼き刃ではとても勝てそうにありません。ドリームチームと言われる三人組と勝負してみたのですが鼻であしらわれてしまいます。
そんなときコーチを申し出てくれたのが、古希を迎えても現役のトライアスロン選手「鶴じい」。彼はモー次郎に自転車を貸してくれ、暁人にヘッドアップの方法を教え、優太のフォームを徹底的に直します。
彼らはトライアスロン競技を通じて、成長を実感するのです。
でも、この話はそこでは終わりません。
彼らは、とある田舎の村に住んでいます。青春小説では珍しいかも。モー次郎が牛乳配達用の実用自転車でたんぼに突っ込んでしまうシーンがあります。しかも自転車通学の子はヘルメット着用。リアルだわー。
この村が市町村合併により消滅してしまうことになります。そして、通っている中学も廃校。隣接校に吸収されることが決まりました。なんとかこの学校の名前を刻むことはできないかと願う若い先生がいます。そのためにトライアスロンで優勝させたいというのです。
彼らは、勝ちます。こう書いてもこの物語を読むことに支障はないと思います。素晴らしいのは過程であって、出来事ではないからです。「夏の大三角」のエピソードが、わたしは特に好き。彼らがつかみたいと願う「空」は、夏の晴れ上がった空だけではないのです。
それから、「旅立ちの歌」。声が聞こえてくるようです。
背後に伺える暁人の成育歴はなんとも重い。でもタカオはわたしよりも若い! ひー。すっかりおばさんのわたしも、彼らに共感しちゃいますよ。
中学時代真っ最中の方も、遠い過去となってしまった方も、楽しく読めると思います。おすすめです。優太のまっとうさがいい。
諦めかけた夢に手を伸ばす少年たち。どうせなら夏に読むといい、かも。

「逆転のクレヴァス」茅田砂胡

2009-10-27 05:49:09 | ファンタジー
すみません。わたし、題名の意味がつかめません。「逆転のクレヴァス」(Cノベルズ)って、どういうメタファなのですか。
うーん、今までの「クラッシュ・ブレイズ」は、人名が主だというイメージがあったのですよ。「嘆きのサイレン」「ソフィアの正餐会」「サイモンの災難」「大峡谷のパピヨン」等。
いや、よく見るとそうでないのもあるんですけどね。「海賊とウェディング・ベル」とか「スペシャリストの誇り」とかね。
だとすると、クレヴァスとは? 雪山の遭難ニュースで耳にするあのクレバスのことでいいんでしょうか。でも、なんのこと? 岩登りみたいなシーンはあったけど、そんな陥るような部分に当てがない。しかも「逆転」とは? リィはおとなしくいうことを聞いていたけど、最初から有利だったと思うなあ。
茅田砂胡、最近は誘拐ものが多い気がします。かつて岡嶋二人が「誘拐の岡嶋」と呼ばれていたそうですが、こちらはプラスの意味でも、茅田さんはパターン化してきたというか……。
大事なものを奪われる。仲間たちと取り返す。めでたしめでたし。
この前も読んだよ似たようなの。同じパターンでよくこれだけ書けるものだと感心……もするのですが、同工異曲の感をまぬがれません。はらはらとちわきにくおどる物語を書いてほしいのです。キャラクターの特性に頼るストーリーでなくとも、いいような気がするのですよ。
わたしが読みたいのは、キャラクターではなく物語です。そこに潜む思考です。だから不満が残ってしまうのです。「デルフィニア戦記」も「暁の天使たち」も本当におもしろかった。ノンストップノベルの魅力たっぷりでした。なのに最近、すっきりしないんですよね……。
で、今回、文中になぜ金髪のヴィッキー・ヴォーンをさらったのかという謎が出てきます。リィは、ヴィッキーの弟二人は栗色の髪だと確認したあとこう言っています。
「下の弟は十歳なんだから、ヴィッキーとその弟とどちらがさらいやすいかっていったら弟のほうだろう。それなのに、エセルを誘拐した犯人はマロニーさんにヴィッキーの名前を言って、きれいな金髪の子だと特徴も言っている。本当にST40が欲しいんなら、少しでも誘拐しやすい子を選びそうなもんだ。どうしてわざわざヴィッキーを指名したんだ?」
そうですよねー。なぜかしら。そう思って続きを見ると、
「もしかしたら、ヴィッキーのお父さんとマロニーさんの間には何かあったんじゃないか。(略)ヴィッキーの身代金にST40を要求されたら、お父さんはすぐにマロニーさんに思い当たるような--そんな経緯がきっとあったんだと思う」
えっ、ちょっと待ってください。その前に「弟ではなくなぜ金髪のヴィッキーが選ばれたのか」と疑問を呈しているのですよね? でも、その結論だとヴォーン家の子どもなら誰でもいいことにならない? ヴィッキーのお父さんは弟たちにとってもお父さんだよ? なぜ??
これは次回への伏線なのでしょうか。それとも、わざと誘拐しづらいヴィッキーを指定することで、ミックが騒ぎを大きくすることが狙い? でもそれだと腑に落ちないのですが。世間の皆様には自明の理由なのでせうか。どうしてもわかりません。どこかで誤読している? ご教授願います。
話全体を通して思ったのは、ちょっとシェラやりすぎだろ、ということ。うーん、どうかなあ。作者の中では揺るぎないのかもしれませんが、「デルフィニア」のシェラと同一人物とは、なんだか思えなくなってきました……。

「子どもの本ガイドブック」ひこ・田中ほか

2009-10-26 05:47:34 | 書評・ブックガイド
どんな本を選ぶか。これは本に関わる人には大切な課題です。情報が少ないと欲求不満に陥る(笑)。
だから、本についての本が好きです。ブックガイドやある作品をオマージュしたもの。そういう作品を集めて、企画本棚を作りました。「今日はこの本読みたいな」「扉を開けて」(折原みとのブックガイドです。)「この本読んだ? 覚えてる?」(赤木かん子・フェリシモ)などを並べています。
で、こういう本も借りてみました。「子どもの本 ガイドブック」(三省堂)。ひこ・田中を始めとした本読みの方々が、今までとは一味違うガイドを目指して書かれています。自分の好きな本、興味のある本以外はどうしても飛ばし読みにはなってしまいますが、なかなかおもしろそうな本が紹介されていたので、リストアップしておきましょう。
「カッパの生活図鑑」(ヒサクニヒコ・国土社)「ナヌークの贈りもの」(星野道夫・小学館)「おばあちゃんは木になった」(大西暢夫・ポプラ社)「ローザ」(ニッキ・ジョヴァン二、さくまゆみこ訳・光村教育図書)「ふしぎの時間割」(岡田淳・偕成社)
「どこにいるの? シャクトリムシ」(新開孝・ポプラ社)も気になる。こうやってみると、写真集やノンフィクションに興味があるようですね。普段、そういう本を読むかというとそうでもないのですが。
で、結局図書館に行っても物語の棚を覗いて帰ってきてしまうのです……。

「ムツゴロウの雑食日記」「自然を食べる」畑正憲

2009-10-25 06:01:36 | エッセイ・ルポルタージュ
有川浩の「植物図鑑」を手に取った皆さん! あとがきのブックリストを見て、読みたくなりませんでしたか?
わたくし、入手いたしましたー。「ムツゴロウの雑食日記」(文藝春秋)と「ムツゴロウの自然を食べる」(文春文庫)。当然書店での購入は無理ですので、図書館と古本屋で。文庫の奥付によると、単行本の発売は昭和61年、文庫は1991年、つまり平成3年の発行です。今からだと二十年近く前ですね。同時に「スチュワーデス物語」(深田祐介)が文庫化しています(笑)。
「雑食日記」の方は、畑正憲全集の一冊で、「純情詩集」と併録です。学校の図書室にて発見。二十年前には畑正憲の「対決」が国語の教科書に載っていましたからね。わたしも習いました。どんべえ~。
驚いたのは貸出カードに義弟の名前があったこと(笑)。
畑さんが巡り会った珍しい食べ物についてのエッセイです。いろいろなことに興味津々。アフリカでは激辛カレーとやたらとぬるいビールから気候差による食べ物の好みを考え、刺身から食物生産について考えます。
ひっこみがつかなくなって食べたドブネズミの味、部位によってかなりの違いがあるらしいインパラ。さすがはムツゴロウさんだわー。
わたしとて動物王国のテレビを見たことくらいはありますので、読んでいてバーッと「画像」が浮かんでくるのが楽しかったです。頭の中で畑さんが解説してくれているみたいな。
わたしには到底食べられそうもない(嗜好的、状況的、心情的に)ようなものがたくさん紹介されていますが、とにかく畑さんのエネルギッシュな生活には脱帽です。
総勢二十人にもなる動物王国のメンバーを率いるこのとき四十代。
若い頃の仲間で、破天荒な行動をとった人も、今ではすっかり落ち着いているというエピソードを読んだとき、畑さんは年をとっても同じテンションなんだろうなーと思いました。


二冊読んでみて、わたしは「自然を食べる」の方がおもしろいと思いました。個人の感想ですが。こちらの方が野草を加工するアイディアが豊富です。ナナカマドの実から果実酒を作る。搾りたての牛乳からクリームをとる。チーズを作る。釣った魚を加工する。海外の食生活に興味津々。ドリアン、シェラスコ、キングサーモン。スミレやたんぽぽ、アイヌネギも食べます。
わたしが食べてみたいもの第一位は、ナナカマドのエッセンスをきかせたデザート。ホワイトリカーで果実酒を作るとカンパリみたいな味になるんだそうです。

本当の味、と畑さんは言います。流通している作物からは、野菜本来が持っている味が失われています。薄まっているといえばいいのかな。本来なら自然のいろいろなエッセンスを生活に取り入れて生きてきたのに。その味を「本当」だと思ってしまう不幸を憂いたくなりますが、自分は果たしてどうなのか、と。野菜は畑から採れるし、田舎だからわりと自然からいただいているとは思うのですが。
以前テレビで豆腐屋さんを取材していました。「二十年前の豆腐はもっとうまかった」。でも、彼のお父さんはさらに言うのです。
「五十年前の豆腐は、もっとうまかった」
それは素材が力を失ったのか、記憶が美しいだけなのか。判断に迷いますが、野菜は確かにもっとくせがあったようにも思います。都会で買っている人はさらに違う味なのかしら。
ところでわたし、子供のころ山羊を飼っていました。ミルク好きじゃなかったけど……特に膜がはるのが嫌だったけど。
今飲んだら違う印象を受けるんでしょうかね。
現代人のサバイバル生活、ということに畑さんは疑問を感じています。本来ならばそれを最も考えなければならない登山隊がリュックにつめていたのはインスタント食品。羊一匹を屠る技術は失われ、このまま文明はどこにたどり着くのでしょう。
わたしが子供のころ、祖父が鶏を潰す場面を見たことがあります。でも、わたしには鴨肉を解体することもできませんでした。よくアニメで鳥の丸焼きが出てくるような案配だったのですが。たくさん肉が残った骨からだしをとって作ったお雑煮がおいしかったとだけ言っておきましょう。

「矢上教授の午後」森谷明子

2009-10-24 05:38:59 | ミステリ・サスペンス・ホラー
素朴な疑問なのですが、講師の先生を「教授」と呼び習わすことはありうるのですか。わたしの行ってた大学では、みんな「先生」としか呼ばれていなかったので、「教授」という言い方にはなじみがないのですが、教授じゃない人を「教授」と呼んで不自然ではないのですかね。しかも人物紹介にはわざわざ強調点が打たれている。
うーん。森谷明子「矢上教授の午後」(祥伝社)です。
ジグソーパズルのように並べられた場面が収斂していくのはおもしろかったのですが、結構前半が読みにくい。誰が誰で何のためにおんぼろの研究棟にいるのかわかりづらく、でもまあ、我慢して読んでいると段々中身が伝わってきます。
それにしても謎なのは、人物紹介の二番手が「御牧咲」であること。これで「みまき・えみ」なのかよ! というツッコミもありますが、君、まったく活躍してないでしょう。咲よりは馳部のほうがメインキャラに見えるのですが。それともこれはシリーズものなのでしょうか。
カットバックの手法が気になり、つい読み返してみました。
わたしは三谷教授が好き。「Sの仕掛け」がすばらしくおちゃめです。
そして、この本を読んで不謹慎ですが、桑の実の果実酒を飲んでみたいと思いました。なぜ「不謹慎」なのかというと……。まあ、それは秘密です。


P.S.矢上先生、日本文学の講師なのに「すべからく」の使い方間違えてると思うのですけど……

「秘密の菜園」後藤みわこ

2009-10-23 05:49:10 | YA・児童書
メアリー・レノックスは、わたしにとって親しみのある登場人物です。癇癪持ちでわがままな少女なのに、どこか憎めない。児童むきの本ではそれこそ何種類も読みました。文庫も持ってます。バーネット「秘密の花園」。
で、こちらは「菜園」なわけです。トマトとハーブを栽培する男子「タキイ」と、風に飛ばされた友人のテストを追って迷いこんだ「サカタ」の物語。後藤みわこ「秘密の菜園」(ポプラ社)。
とにかく装丁がいいので読んでみたいと思ったのですが、図書館では見当たらず結局買いました。
構成は、そうですね、8の字を横にしたような感じです。ひとつの事象を違う視点で語り直す物語。
はじめの視点はサカタ。笑顔が印象的な中学三年生です。
迷いこんだ菜園で出会った少年の無礼さに腹を立てながらも、二人の間に何らかの絆がうまれていきます。タキイの育てたトマトの味に感激します。謎の男「ムーンライト」の登場に困惑します。そして、タキイについて知りたいという気持ちがわいてくるのです。
タキイの正体。彼は不登校の中学三年生です。家でひきこもるタイプではなく、学校に行かないのもとある人間不信から。自分の不登校の理由を把握しているし、それを悲観している訳でもありません。そして、「サカタ」の存在をおもしろがっています。
この物語の中心にはある「誤解」があります。それがオープンになる瞬間がわたしには興味深かったのです。
目次を見た時点で「タキイ」と「サカタ」が何を示しているのかわかりますよね? でもって、二人が「秘密の花園」という言葉に対して持っているイメージはまるで違う。何しろタキイが思い浮かべるのは松田聖子ですよ! この歌が流行っていたのは、わたしが中学生のときなんですが。
ちょっと達成感のあるラストが、なかなかよいと思います。トマト、わたしも育てたことはありますが、雨にあてないようにすると病気にならないそうですよ。

「ころころろ」畠中恵

2009-10-22 05:44:28 | 時代小説
毎回柴田ゆうさんのかわいい挿絵に微笑んでしまう、「しゃばけ」シリーズ八冊めだそうです。「ころころろ」(新潮社)。表紙を見ているだけで楽しいー。すごく内容を読み込んでいることがわかりますね。
今回は、あるとばっちりをうけて若だんなの目が見えなくなってしまい、兄やたちをはじめ妖が奔走します。
わたしはこのシリーズ、どこにどんな話が入っていたかすぐ忘れてしまうのですが、今回はそういう核があるので大丈夫かと思います。
貸してくださった先輩と、兄やたちの話題をしたのですが、わたしはどうもこの二人の見分けもつかないらしく、どっちが犬神でどっちが白澤なのかもちょっと自信ありません。
「ドラマでは、佐助がなんかインパクトあってねー、読んでいるとどうしてもその顔が浮かぶのよ」
といわれたのですが、一体どんなだったんだ佐助。
彼がメインの「けじあり」がおもしろいです。おたきの哀れさが際立つラストでした。
全編を通して神と妖の違い、のようなものが、重低音のように底に響きます。
神は祟る。神は犯す。神は喰らう。日の本の国の成り立ちとともにある神は、尊敬されるだけではなく畏怖される存在でもあります。
でも妖だって似たような側面を持っていますよね。畠中さんはどう考えたのでしょう。
発端の話「はじめての」では数年前の設定のため、人称が「一太郎」、その後は「若だんな」になっているのがおもしろいと思いました。あとは、小ざさがかわいいなーと。畠中作品は、小さい女の子がとっても愛おしく書かれますよね。