くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「学校図書館のつかい方」赤木かん子

2012-06-30 21:58:08 | 総記・図書館学
 さすが光村。冷静に考えると、前作「学校図書館のつくり方」を持っているのですが、倉庫にしまいっぱなしです。反省。
 赤木かん子「学校図書館のつかい方」(光村図書)。学校図書館司書はどんなことを知らなくてはならないかを、懇切丁寧に書いてくださいました。ポスター提示(プラスチックダンボールというのを使うといいそうです)、カバーリング、掃除、特集の仕方など、アイデアが詰まっている。
 わたしもやっているものとしては、特集本(三冊あれば組めるとは、励みになりますね)、本の修理、郷土に関わる資料収集、面陳列、といったところですかね。「ダーウィンの引き出し」というアイデア、楽しそう。わたしもまだまだ工夫しなくてはならないと感じさせられました。
 司書というのは、本を買う人種なのだという定義もありましたね。分かります。自分の本も、やがては勤務校に寄贈しようとか、自分の趣味とは少しずれるけど、やがて生徒が読むかもしれないと思って、本を買ってしまうのですよね。しかも、結局学級において自由閲覧させてしまう。
 文中に、人気のある本は自分で買って読む。読了したら寄贈して、貸し出しのターンを倍にするのがよいという話もあったんですが。
 それは、わたしとしてはうなずきかねる。はやりの本は学校図書館に必要ですかね? 
 まあ、内容にはよるのですが、ケータイ小説とか残酷ものはいれたくありません。たとえ全校生徒にリクエストされたとしても、スルーします。赤木さんは、「欲しいと言われた情報は、草の根を分けても探し出す」スタンスが必要だとおっしゃる。わたしもその意見には賛成なんですが、「自分がその本を図書館に入れたくないと思っていたり、入れなくてもいい理由を探していたりする方がいたら、早くそのレベルから抜け出して、公正で冷静な判断を下せるところまで来てください」とある。
 でも、年間の予算は限りがあります。本校は12万ちょっと。そのなかで買うとなれば、かなり取捨選択は必要です。
 わたしの選書基準は、十年経っても読まれそうな本かどうかということですね。昔ベストセラーだともてはやされた本、消費されるのも早いですから。
 図書室の運営って、やればやるほどやりたいことが見えてくるような気がするんです。それはわたしが本好きだからなんだろうけど、いろいろな細かい点は、携わる人がどのくらいやれるかのスキルによる。資格があるかないかではなく。
 学校図書館は、担当者が作っていくものだなーと実感。やることはいっぱいあるけどやりがいはありますよね。
 とりあえず、今年はポプラディアを買います。うちの図書室、学習センターとしての頼りがいがない。狭いし(三十五人詰め込むのもやっと、の机しかない)、資料が古い……。地理の本なんてとびとびにしかない。
 なんとか魅力的な雰囲気にしたいと思っております。でも、それはケータイ小説だのを読みだい子の趣味じゃないだろうな。

「誰かが足りない」宮下奈都

2012-06-28 22:31:52 | 文芸・エンターテイメント
 「小泉圭介はあたしの父です」
 何故このせりふに目頭があつくなってしまうのか。宮下奈都「誰かが足りない」(光文社)。繊細でたくましい人々が、自分の大切な人とのつながりを見つけていく物語だと思いました。十月三十一日。レストラン「ハライ」を訪れる客たちの背後にあるものを丹念に描いています。
 恋人を失った人、配偶者が亡くなった人、自分の生活にがっかりしている人、様々な人たちが明日への力を見せてくれるのがいいですね。
 わたしがいちばん好きなのは「予約6」ですね。主人公の留香(このネーミング、作為的なんでしょうか)は人の不幸をかぎとってしまう娘。比喩ではなくて、実際に焦げたような臭いがするんですって。幼いときに、叔父から強くこの臭いを感じたとき、彼は借金を残して失踪します。残された叔母と幼いいとこは、実家に帰ってしまう。何か不吉なものを感じとっていながら、自分にはなにもできなかったと、悔やみ続ける留香が、ある男性に話しかけるのです。
 死に至る病。それは絶望。誰かに何かをしたいと感じる留香に、愛しさを覚えます。
 もうひとつ、好きな場面があって。「予約5」の、レストランのオムレツ係が好きな女性に声をかけるんです。ふとしたきっかけから、彼女が部屋にやってきてホルストの「水星」をかける。彼自身、中学ではクラリネットをやってきたので、意外にも共通点が多いことを知って驚くんですね。
 「しあわせな記憶がこの人を支える」
「思い出せる幸せだけではない。思い出せない無数の記憶によっても、人は成り立っているみたいだ」
 この二人、お互いに夢を追っているのですよね。それもいい。
 学生のころ、ウェイトレスをしていたので、食堂の雰囲気は分かります。おいしいものを食べられるのは嬉しい。ほんの一瞬の邂逅。すれ違いのようなものでありながら、残像の美しさを残すというか。
 美しいけれど少し淋しい気もするな。テーブルはみんな埋まったんでしょうか。

「ビブリア古書店の事件手帖3」三上延

2012-06-27 22:38:40 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 これは「チェブラーシカ」でしょう!
 しのぶさんから話を聞いて、すぐに見当がつきました。タヌキと犬とワニが出てきて動物園だのなかよしの家だの。いつもとは違ってなかなか答えにたどり着かない栞子さんにもどかしい思いをしましたが、予想通りでした。わたしは新版を「おひさま」の連載で読んだのですが、そんなに前から絵本は発売していたのですね。
 三上延「ビブリア古書店の事件手帖3 栞子さんと消えない絆」(メディアワークス文庫)。少しずつ進展があるような気もします。
 「春と修羅」の結末がよかった。昴のことを最初はいけすかないかと思ったのですが、おじいさんとの思い出がしみじみしていて。
 そして、今回はなんといっても、「たんぽぽ娘」ですよね。栞子さんから自分で読む方がいいと勧められて、大輔もじっくり取り組んでみたわけです。いつもなら、懇切丁寧に解説してくれる栞子さんも、今回はヒントのようなことをほのめかすだけ。
 丘の上で、未来から来たという娘と出会う男。タイムマシンが使えるのはあと一回。思いを告げて彼女は姿を消します。
 妻への罪悪感をもちながらも娘のことが忘れられない彼ですが、実は彼女は……。
 気になります。でも、三上さんは、この物語が収録されているアンソロジーを書いてくれている。親切! ただ、みんな絶版みたいだけど。
 幸いにも、わたし、持っております。文春文庫「奇妙なはなし」。読み返すつもりで買ったんですが、箱に入れっぱなしでした。早速図書当番をしながら読みました。本当に短くて、十分で読めますよ。とても衝撃的でした。
 一度しか使えないタイムマシンで、彼女が何をしたのか。二十年前、自分の秘書に採用したのは(後に彼と結婚するのは)、誰だったのか。屋根裏部屋で、彼は妻が昔使ったトランクを見つけます。そこにしまわれていたのは、初対面のときにあの娘が着ていたワンピースでした。伏線が見事にはってあって、さすがですね。でも、なによりも感激したのは、この物語の読み方を栞子さんがナビゲーションしてくれることです。
 博覧強記。宮沢賢治の詩を暗唱したり、様々な本の知識がぎっしり詰まっている栞子さん。また少し秘密がわかってはきましたが……。
 古書市の話題や新しい登場人物もいて、今後もさらに楽しみですね。

「生態系は誰のため?」花里孝幸

2012-06-25 21:58:51 | 自然科学
 放鳥されたトキのつがいから誕生したひなが、巣立ちを迎えたそうですね。絶滅危惧種のランクを緩和するかもしれないという報道を聞きました。また、ロンサム・ジョージは死んでいるのが見つかった、とか。この種のカメも絶滅ですね。残念です。
 「生態系は誰のため?」(ちくまプリマー新書)を読んでいたら、トキの放鳥は本当に生物多様性が向上したといえるのか、ということが書かれていました。佐渡からトキが姿を消して二十七年、トキがいない状態での生態系が作られてきたのだから、場合によってはトキが害鳥になってしまう可能性もありうるというんですね。
 現在、中静透「絶滅の意味」を教材に授業をしているんですが、展開や構成について学習できれば本来はいいはずのところです。
 わたしはもともと絶滅危惧種について関心があるため、ついつい関連資料を読んでしまう。この本も、典型的な自然保護の視点とは少し異なるのですが、納得させられます。
 例えば、鮎を百万匹呼び戻そうという活動があるそうです。でも、鮎が住むための条件に合致する川ばかりではないから、誘い込むことによって死んでしまうことも考えられます。その川の生態系にも影響を与えることになる。決して、よい面だけではないのです。
 さらに子供を使った放流イベントのうさんくさいこと。放流によって「きれいな水を呼び戻す」というスローガンの根拠がわからない(放流によってミジンコが食べられると、かえって水は濁るから)という話題も。
 ヘドロや外来生物を例にあげて、人間中心のものの見方が優先されてしまうと、花里孝幸さんは言います。生物多様性といいながら、人間の感覚に合った環境づくりになってしまう。生物多様性の高い場所の保全は二の次ということなんでしょうかね。
 わたしとしては、トキの放鳥やひなの誕生は、プラス感覚のニュースなんですが。
 セイヨウタンポポとニホンタンポポを区別して、片方を駆除する思想についてはどうだろう? うーん、考えてみます。

「舟を編む」三浦しをん

2012-06-24 16:14:39 | 文芸・エンターテイメント
 はじめに、言葉があった。
 そんなことを考えさせられました。人は、言葉によって記憶し、分かち合う。誰かと思いを共有するのも、言葉があってこそ。
 本屋大賞に輝く前から気になっていたのですが、やっと読みました。三浦しをん「舟を編む」(光文社)。辞書の編集に賭ける人々を描いた作品と聞いてはいたのですが、いやはや、言葉への「こだわり」をもつ編集者たちの熱意がものすごい。ちょっと辞書をめくって紙質を確かめたくなりますね。「ぬめり感」か……。
 わたし自身が使った辞書は、高校時代は旺文社版、現在は三省堂版です。新明解が話題になったときも、「みんなで作る国語辞典」も関連資料を読んでいます。電子辞書も持っていますが、ほとんど使わない。あぁ、家には「辞海」もあったな。文中に出てくる「言海」ですが、小学校の遠足で大槻三賢人の胸像を見た覚えもあります。
 「大渡海」という辞書を企画した編集部が、十五年の歳月をかけて完成する物語です。
 スカウトされる馬締が、「大都会」を熱唱しようとする冒頭部がおかしくて、笑ってしまいますね。突然ベランダで恋に落ちるのもすごい。
 後に彼の配偶者となる香具矢さんが作るおつまみがおいしそう。白髪ねぎとザーサイとささみを和えて胡椒を振ったのを作ってみたい。
 なんといっても、装丁がいいですよね。紺色の表紙カバー、クリーム色の帯、花布は銀。帯をめくったらちゃんと波のデザインもあって、心にくい。カバーを外すとエピソードのイラストがいっぱい入っているし。図書館でカバーリングすると、見えなくなるのがもったいない。
 一冊の辞書をめぐる、制作者たちの思いがぎゅっと詰まったおもしろい本でした。
 松本先生が用例採集カードを書き続けるのが印象的です。この前、NHKニュースを見ていたら、日の出に感激したランナーが「やばい! やばい!」と連発していました。すかさずアナウンサーの方が「やばいというのは、最近の言葉で非常に感激したということです」と解説して、なんともいえない気持ちです。
 言葉が変化するのは、時代として仕方ないことではあるのですが、こういうのも辞書に載るんでしょうか。
 文中で西岡さんが、調べた人の気持ちを安心させるような説明がよいというようなことを言っていたことも、なんだかほんわかとして素敵です。

「日暮らし」宮部みゆき

2012-06-23 06:28:42 | 時代小説
 「ぼんくら」と状況的にはあまり変わりませんね。その後日談ですが、違う作品のためか繰り返し説明されている感じです。
 「日暮らし」(講談社)。長屋のほんの数軒隣で、安くて手の込んだお惣菜を売り出したために困惑するお徳。自分の存在価値について悩むおでこ。佐吉の態度に不安が募るお恵。つきまとう男から逃げ出したお六を救ってくれる葵。
 前作同様、短編のパーツがまとまって長編仕立てになっています。井筒平四郎のところに、佐吉が人を殺して捕まったという知らせがくる。とても信じられない話ではありますが、ただ一人、そういう気持ちになっても仕方ないであろう人物がいる、と彼は思います。
 殺されたのが葵だと知って、やはりという思いにかられますが、状況からしてそれはありえない。その犯人は?
 弓之助の大胆な行動に頷かされる結末ですが、それ以上に意外な幕引きに驚かされます。
 井筒平四郎は、何年か前に水芸の女芸人に夢中になります。三代目白蓮斎貞洲。芸の見事さが群を抜いていてお上から睨まれ、江戸から追放された一座だといいます。本気で弟子入りして芸を極めたいと考えていた平四郎は、かの一座がどういう活動をしているのかにはっと気づく。
 この結末で桔梗の着物をまとった女役者の眼力が、さらに際立つ感じがします。
 わたしはお六が好きですね。「おまえさん」では彦一との仲が描かれていましたが、どんな出会いだったか全く覚えていませんでした。結構さらっと書いてあるといいますか。意外とおみねさんに心ひかれたりしていたんですね。
 物語世界が、続けて読むとずいぶん近く感じられます。平四郎の細君もいいなあ。なんとなくお徳ががっしりしたおばさんだと思っているんですが、外見的な描写がないように感じました。

「男よりテレビ、 女よりテレビ」小倉千加子

2012-06-20 05:40:22 | 産業
 テレビ批評です。 
 小倉千加子「男よりテレビ、女よりテレビ」(朝日新聞出版)。おもしろく読みました。
 わたし自体はほとんどテレビを見ないのですが、レビューは好きなんですよね。ナンシー関「テレビ消灯時間」とかカトリーヌあやこ「すちゃらかTV!」とか。
 何故でしょうね。朝のニュースと子供の見る番組を横から眺めるくらいにもかかわらず、小倉さんの語りに引き込まれて、あたかも視聴したことがあるかのように感じる場面もありました。
 小倉さんの俎上に挙げられる番組はいろいろあるんですが、結構政治の話題が多い。小泉さんが高級な麻のシャツを着ていたとか、橋下徹が知事戦で勝ったとか。「クローズアップ現代」や阿部寛の話題も多いけど。
 あぁ、大河ドラマの話もありましたよ。「風林火山」では躑躅ヶ崎城の表記が「髑髏」に見えてしまう。山本勘助が信玄を天下人にすると宣言するけど、史実を知っているのでかなわないことは明白だから。このドラマで由布姫に思いを寄せている姿が話題になったせいか、次の「篤姫」での設定はちょっとやりすぎの面が多いのではないかと苦言を呈します。
 まず、侍女も連れずに廊下を歩き回る。西郷隆盛と友達だったという脚色。幼なじみとの恋。
 あと三谷幸喜は嫌いみたいです。大阪と東京の番組を比較する話や梅宮一家を考察する話もありましたよ。
 わたしが気になったのは、イチローが茂木健一郎に失礼なことをいわれるけど逆襲する話題。足裏マッサージ器と枕を見せたら、「おじいさんみたいですね」といったんだって。
 「本気で笑ってない」と次の放送のときにイチローは言ったそうです。
 それから、かとうかずこがそのまんま東について語ったという「いつも君が洗濯機の蓋を開けっぱなしにしている理由が分かったよ」という台詞も、なんだか忘れられません。
 小倉千加子といえば、ジェンダーフリー。そういう思想も文章の背後に見えてくるのがたのしかった。
 続編はないんですかね。こういうのもっと読みたい。観察眼の鋭さ、さすがです。

「ステンシル」の本

2012-06-19 20:29:39 | 工業・家庭
 ところが全く売っていないんですよ。なんで? 探しまわった末にある手芸屋さんで見つけたけど、同じ系列の別店舗にはありません。昔買ったグッズを引っ張り出したら、思ったよりもありました。好きだったからなー。
 と、いきなり逆接で始まりましたが、本当に困るんですよね。ステンシルスポンジが売っていないんですよ。(すみません、冒頭に戻っていますね)
 ある催しでうちわを作ることになり、それならステンシルで好きな型を選んでもらったらいいのではないかという話になったんです。昔作った型紙を持ってきたり新しく切り直したりしているんですが、肝心のスポンジがなかなか手に入らない。苦戦しています。
 スタンプ式のセットはそれなりに見つかるのですが、これだと丸い形がそのまま残ってしまって、どうも美しくないのですよね。
 さらにはステンシルの本の方も、この十数年でほとんど見かけなくなりました。倉庫の奥から引っ張り出したり、一緒に企画している方がネット通販で買ってくれたりして、なんとかなりそうです。スポンジは、たりなければ化粧パフかなぁ。
 わたしは型を切るとき、コピーしたものを直接デザインナイフで切り抜きます。専用のシートは高い。紙は何度も使うと水っぽくなって破れてしまいますが、裏からセロハンテープで貼っておけば細かいところも大丈夫。さらに、最近(といっても二三年前ですが)出た「暮らしの中のステンシル」()という本ではスタンプパッドを使っての方法が紹介されていました。これはいい。
 今までアクリル絵の具を紙パレットでぼかして使っていましたが、すごく手軽でやりやすい。初心者はメンティングテープで借り止めする方がいいですね。ちょっと混色すると綺麗。
 それにしても、わたしにとってもっとも気に入りだった「クラシックステンシル」という本が見つからず悔しい思いをしています。どこにおいたのかなー。

「太陽の東・月の西」カイ・ニールセン

2012-06-15 21:31:57 | 外国文学
 わたしが小さかった頃、母は県図書館からの委託で「文庫」をやっていました。近くの人借りにきて、一定期間で返すのです。多分一般用と子供用、それぞれ百冊ずつ。これがわたしには非常に魅力的で。暇さえあれば読んでいたものです。特におもしろかったのはさねとうあきらさんの絵本。「かっぱのめだま」とか「おこんじょうるり」とか。
 おそらくこの本も、そういう一冊として出会ったのだと思います。カイ・ニールセンの挿し絵が豪華な絵本「太陽の東・月の西」(新書館)。
 北欧の民話を採録したものなのですが、非常にロマンチックで少女のわたしにとっては夢のような本でした。
 先ほど「絵本」と書きましたが、本文は細かい文字が三段組み。ちらほらと絵も入るものの、それまで自分の親しんできたものとは違っていました。
 最近知ったのですが、同じタイトルの本が少年文庫の形でも出ているようですね。内容は同じなのかしら。
 表題作「太陽の東・月の西」は、故あって熊に嫁いだ娘が、夜になると現れる男の顔を見たいと思って母に相談したことから、約束を破られたと嘆いた男(熊にされた王子)を追って行く物語です。北風に案内してもらったその城で、王子はトロルの姫にとらわれているのでした。
 どの話も、悲劇にみまわれた恋人たちがお互いを取り戻す(物語なのですよね。
トロル退治が描かれることが多いように思いますが、禁忌とされた部屋を覗き見てしまったり醜いかつらをつけて外見を隠したり、日本民話で聞いた覚えのあるエピソードがかなり描かれています。語り伝えられる物語って、世界に共通するのかな。
 で、この本のことを長い間忘れることができなかったわたしは、学生の時分にふと同じものを発見して買ってしまったのでした。当時1800円は、わたしにとって大金だったのですが。(まだ消費税導入前の表示でした)
 で、今も部屋の本棚にあります。読んだのは実に十数年ぶりなのですが、自分の好みってこういうところなんだろうというのがありありと感じられるのですよね。
 文章は岸田理生です。今気づいた。

「形」と「松山新介が武将中村新兵衛が事」

2012-06-11 21:03:14 | 〈企画〉
 わたしの生家には槍があって、寝起きする部屋のなげしに差し渡してありました。祖父はそれにハンガーをかけて洋服を吊したり(笑)していたので、わたし自身もそれほど気にしないで暮らしていたんですが、あるとき先端部分が外れることを発見。外してみたらぎらぎらと矛先が見えて、非常に驚いたことがあります。
 東京書籍の教科書に載っている菊池寛の「形」。二十年前には中学二年の教科書で、改定によりなくなって、やがて資料のページに復活したと思ったら、今年から三年生の文学教材です。昔はどんなふうに教えたっけ? 確か棒高跳びのバーを借りて三間の長さを図ったことがあったような。でも、「三間槍」は概念だから実際の長さとは関係ないという同僚もいて、わたしとしては納得がいかない思いをしたものです。
 槍の柄って、一般的には二間だと思うんです。それよりも長い槍を扱って高名を馳せた中村新兵衛は力のある武将だったと思いませんか。
 今回の教科書には、菊池が参考にしたと思われる「常山紀談」の「松山新介が武将中村新兵衛が事」もあわせて載っています。どこが菊池の創作した部分なのか、それが非常に興味深い。
 書き出しは意識して同じにしたものと思われます。しかし、「若い侍」を登場させ、教訓を全てカット。「形」という言葉は原典にはないですし、猩々緋の武者の活躍もありません。それに、「三間槍」も菊池が加えた部分なんですね。(もしかしたら、その前段階に書いてあるのかもしれませんが)
 考えると結構楽しいので、自分で授業したかったのですが、これも実習の方にやってもらいました。
 若い侍を元服間もない少年に設定したことも、たいへん興味深い。
 そういえば、道徳の教科書に採用されていたこともありました。あるテキストではまんが化してあったっけ。道徳教材のおすすめ授業を収録した本も見たのですが、ここでは外国で行われた看守と囚人の役割演技の実験がエスカレートしていくエピソードと重ねて、「形」の重要性を捉えてさせるようなことが書いてありました。
 でも、それは国語の授業ではないなぁ。
 菊池寛が意図した「形」。よく読むと前半の描写も、「新兵衛」ではなく「猩々緋」とか「かぶと」になっていますしね。
 ちなみに書評を書かせてみたら、「風の唄」よりも「形」を選んだ人の方が多かった。引き締まった文体もいいですよね。
 ところで、何人かと話してみると、この終結部分が曖昧だと感じるという意見があるんですよね。実習の方も「このあとどうなるの? という終わり方」と言っていました。
 わたしには戦没したとしか読み取れないんですが(だって脾腹を貫いているし)、そういう人は新兵衛が生き残るように感じるんでしょうか。ううむ……。