くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ぼくの守る星」神田茜

2016-05-23 21:14:29 | YA・児童書
 昨年の読書感想文選考のとき、テニス部キャプテンだったMちゃんが選んでいた本。神田茜「ぼくの守る星」(集英社)。
 今日返してきたのでいろいろと間違っているかもしれませんが。
 
 Mちゃんの文章から予測したあらすじは、うまく文字が読めないという障碍(ディレクシア)をもつ少年が、友人たちに支えられて学校生活を送っていく、というものでした。
 読んでみたら、連作なんですね。
 ディレクシアの中学二年生は、夏見翔(かける)。文脈に合わないセリフをつい口に出してしまうことから、友人の山下から漫才コンビを組もうと誘われています。
 でも、辻褄が合わないことは彼にとってコンプレックスなのですよ。
 翔が想いを寄せる同級生・中島まほり。彼女は障碍をもつ弟のことで両親が別居しています。正気を失っていく母親に苦痛を覚えて、父と弟が住む北海道で自殺しようとまで思いつめる。
 また、翔の両親もそれぞれ悩みを抱えています。
 わたしはお父さんサイドの話がおもしろかった。新聞記者で、外国に単身赴任していたのに、帰ってきたら登山コラム担当。出世は? 家族の中での居場所は?
 妻と二人で登山をすることになりますが……。

 翔からの視点では、母親のポジティブな発言がうっとうしいようですが、本人は息子のためにかなり無理をしていることがわかります。
 さらには、父の目から見るとかなり優秀な記者だったことも感じられます。
 字が読めない息子。もともと文章を書く仕事をしていた彼女にはつらいでしょうね。
翔が守りたいと思う星、このささやかなきらめきが愛しいです。

「僕たちのヒーローはみんな在日だった」朴

2016-05-22 19:26:36 | 社会科学・教育
 地元紙の読書案内に紹介された本です。朴一「僕たちのヒーローはみんな在日だった」(講談社+α文庫)。
 力道山、松田優作、金田正一……。韓国や朝鮮にルーツをもちながら、素姓を隠してメディアに登場する人々の思いや社会の現状を描いています。
 わたしは以前から「張本」という本を読んでみたいので、韓国籍の方のエピソードにも興味があったのです。
 また、バレーファンだった時期にNECの中心選手だった楊成太さんに注目していたことも大きいと思います。
 高校時代、教育実習にいらした先生が東海大バレー部でした。後に同級生だったという同僚から、「バレー部の楊成太はスクーターで海に転落したことがある」と聞きました。居合わせたメンバーは彼は死んだものと思って青ざめましたが、自力で海から這い上がってきたのだとか……。
 楊さんなら、ありそう、と思ってしまいました。
 一時期、全日本候補に挙がったこともありました。でも、彼は帰化する気はないと言っていたように思います。

 以前、道徳の教科書には王貞治さんが国籍のために国体メンバーには選ばれないという題材が載っていたような記憶があります。(細かいところは覚えてないのですが)
 日本は住んでいるけど、「日本人」ではない。
 朝鮮学校に在籍する人も、公立校に行く人もいる。通称を使う人も、経歴を隠さない人も、いる。
 ボクシングチャンピオンになった徳本選手は、リングネームを本名にかえました。ある野球解説者は、自分が韓国籍であることを明かしていないそうです。
 芸能人やスポーツ選手にも思った以上に韓国籍の方が多いのですね。
 最近は明かしている選手が増えているのだとか。
 サッカーの李忠成選手は、帰化した自分を「新日本人」と称したそうです。「ぼくは星よりも道になりたい。星は消えるが道は消えない」という言葉は、確かこの方が言われたのですよね?
 つながっていく血脈の流れを感じました。

 

「次の本へ」苦楽堂

2016-05-19 20:51:46 | 書評・ブックガイド
 わたしだったら、どんな二冊を紹介するかなあ、と考えさせられる「次の本へ」(苦楽堂)です。
 赤坂憲雄から米倉智まで八十四人の読み方指南。自分には読んだことのない作品ばかりです。
 中でも印象的だったのは、井上理津子「『聞き書 福島の食事』から『宮本常一講演選集』へ」。
 農文協図書館で「あんぽ柿の天ぷら」について読んでいたら、事務局長が宮本常一も語っていることを教えてくれたのだそうです。
 渋柿は、かつて嫁入り道具だった。食用、柿渋柿(防腐剤)、死ぬときには枝を火葬に使う。「人魂は必ず柿の木に止まる」。
 大阪で聞いた話だそうですが、新潟や仙台でも古い農家には柿の木がある。
 わたしの家にもありましたねぇ。なんだか血脈のようなものを考えさせられました。

 野口武彦「『猫の事務所』から『風の又三郎』へ」も、二つの作品の根底を流れるいじめの気配を提示していて興味を引かれます。新しい読み方のアプローチができるのも文学のおもしろさだと思うのです。
 昨秋出かけた秋田を描いた古関良行のつげ義春の本の思い出を読んでいたら、プロフィールで驚かされました。河北新報の栗原支局長だった方だそうです。しかも、内陸地震のときというから、親しみを感じました。

 菅谷明子「未来をつくる図書館」、「ベンヤミン子どものための文化史」、「蠅の王」を読んでみたいと思います。あと、いまさらですが「ダ・ヴィンチコード」(笑)。夫が文庫を持っているはず……。
 

「倒れるときは前のめり」有川浩

2016-05-17 20:55:17 | エッセイ・ルポルタージュ
 忙しい。仕事が追っ付かないです。
 部活は土日朝から夕方まで八時間やってるし、移動練習や試合だと職員室での仕事はできません。
 で、先日練習試合をしていたら、テレビ局さんが来ていて。
 卒業生(有名人)の思い出ドキュメントを撮影したらしいです。

 有川浩「倒れるときは前のめり」(角川書店)を読みました。
 わたしは初期の有川作品が好きで(「図書館戦争」や「クジラの彼」あたり)、「阪急電車」や「ストーリーセラー」は合わなくて、でも最近また気持ち的に戻ってきた感じなんですが、エッセイのためか読みやすかった。
 書店への思い、好きな本、映画、ふるさと高知。そのあたりをテーマに集められています。
 有川さん、「ガメラ」好きなのね。「鷹の爪団」も好きなのね。
 「天地明察」読んでみようかと思いました。
 「彼の本棚」は掲載誌で読んだのですが、「ゆず、香る」はあの形態(入浴剤+小説)だったので読めないと思っていました。
 こうやって、あちらこちらに書いた文章が集約されるのはおもしろいですね。
 ちなみに「鉄腕ダッシュ」も好きだそうです。確かに野草・山菜好きな有川さんならこのコンセプト好みでしょう。
 ところで、生徒が言うには昨日親戚のおうちに城島さんがやってきたらしい!(「城島リーダーさん」と言っていました。なんかかわいい)
 でも、どんな番組内容なのでしょう? 気になる。

「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」友井羊

2016-05-06 20:22:00 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 今日を迎えるためのポタージュ」(宝島社文庫)。
 二冊めを心待ちしていたので嬉しいです。(その割には買ってから読むまで時間がかかりすぎですが)
 この話を読むたびに、こういう健康的でおいしいスープ屋さんに行ってみたいなあと思うんですが、わたしはどうしても炭水化物に走ってしまうのですよ。
 今回はジビエに関する話や、理恵さんの初恋話もあり、さらには亡くなった静句さんとかかわりのあった少年のことなども描かれています。
 
 もう一冊、宇木聡史「縁結び雑貨店華伊菜講のよろず相談」()も読みました。
 なんとなくこういう感じのシリーズ、多いような気がします。
 主人公の鈴木さんは恋愛経験ゼロなのに、なぜか京都の地主神社に近い縁結びの店「華伊菜講」で働くことになりました。
 この店は縁結びグッズや絵馬の奉納、さらには恋愛相談とその調査も引き受けています。
 可憐な女子高生が話したいと願う、しょぼくれた中年男性。この女性と結婚していたら、人生は変わっていたのかと尋ねる男性。
 果ては鈴木さん自身の過去。
 彼女は幼少期の事故で、感情をうまくつかむことができなくなり、周囲の人の反応を参考にして行動してきたのです。
 そのため人を色で判断することが多くなっていたのだそうです。
 ただ、あんまりその前の展開がそんな感じじゃなかったような……。一人称に、感情を表現しない不自然さがあればよかったのでしょうか。
 一つ一つのエピソードはおもしろいです。
 

「捨てる」アミの会( 仮)

2016-05-05 22:48:08 | 文芸・エンターテイメント
 図書館でみつけた「捨てる」(文藝春秋)。装丁が美しいです。
 近藤史恵さんによれば、短編小説が発表しづらい世の中だからこそアンソロジーとして出版することにしたとか。女性作家九人の作品が収録されています。
 まず、大崎梢「箱の中身は」。母親から捨てるように言われたという箱を持って公園にいる女の子がモチーフ。
 松村比呂美「蜜腺」は、生命保険自殺をした夫と、遺された妻、姑との物語で、ウツボカズラが効いています。じわじわとやるせなくなってくる。同僚女性のやり口が嫌ですね。
 福田和代「捨ててもらっていいですか」は、祖父の遺品から見つかった拳銃をめぐるコメディ。
 光原百合「四つの掌編」では「戻る人形」が怖い。情念のようなものを感じます。
 新津きよみ「お守り」は、話の筋以上に「京都より東には行けない」というおばあさんのバックグラウンドが気になります。
 「ババ抜き」は永島恵美らしい悪意を感じ、近藤さんの「幸せのお手本」はなんだかちょっと素人っぽかったというか……。近藤さんはもっとうまい人なので、少し物足りなかったです。
 柴田よしき「花子さんと、捨てられた白い花の冒険」は、予想外の転換でおもしろいです。監禁事件、最近も発覚したものがありますし。花をゴミに出すという場面からの発想がすごい。
 わたしの教え子にもハナコちゃんやタロウくんはいますよー。(はたちくらいです)
 篠田真由美さんの作品は、なぜか読み切れませんでした……。

「遠くの村から来たリリア」ほか

2016-05-04 21:58:27 | コミック
 萩岩さんの本を見つけると読まずにはいられません。小学生のころ、デビュー作「ミッドナイトはりねずみ」を読んで以来読み続けています。
 「遠くの村から来たリリア」(集英社)。幼いころ母親からの愛情に飢えていたアダムは、成長してろくでもない人生を歩んでいます。彼の前に現れたリリアは、実は母親がどれだけ息子を愛していたのかを話し、アダムとともに生活するようになります。
 二人でいる平凡な暮らしに幸せを見いだすアダムでしたが、だんだんとリリアが体調を崩すように……。
 同時収録の「ハートのコイン」もとてもいいです。思わずじわり。
 萩岩作品って、愛情に飢えた主人公とそれを救う恋人という展開が多いように思います。でも、そこに心揺さぶられるのですよね。

 今日は仙台に行ってきました。ずっと部活で本屋に行く暇もなかった反動か、かなり買い込んでしまいましたよ。
 日向きょう「黒田氏の授業」、福盛田藍子「ハヤチネ!」(どちらもスクエアエニックス)。
 新米国語教師小倉は、授業がうまくできないことで悩んでいましたが、クラスの優等生黒田が助言してくれたことで少し改善されます。
 小倉を慕う五十嵐くんや隣のクラス担任の白戸先生など個性的な登場人物もおもしろいです。
 それにしても白戸先生! そのチョークの使い方はちょっとびっくりですよ。(体に隠れて字が読めないことを防ぐため、生徒の方を向いたまま板書する)
 「ハヤチネ!」の方は、岩手が舞台なので親近感がありました。
 東京からやってきた姪や甥が、次第になじんでいくのがいい。夏野菜のひっつみがおいしそうなんです。

 今日は他に「代書屋ミクラ」の文庫と高島先生の新書、「蛍の森」「古書カフェすみれ屋と本のソムリエ」「僕たちのヒーローはみんな在日だった」「【至急】塩を止められています【信玄】」(息子が持っていったため題名は不安)を買いました。
 

「お隣さんは、名探偵」蒼井上鷹

2016-05-01 07:35:12 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 昨日は晴れていたものの、沼のほとりのスポーツ施設で一日風に吹かれていたのですごく寒かった。今日は朝から雨なので、部活はお休みです。
 で、久しぶりの蒼井上鷹「お隣さんは、名探偵 アーバン歌川の奇妙な日々」(角川文庫)。
 わたしはマンションに住んだことがありません。この話の舞台、アーバンハイツ歌川は、大家さんが一部改装してシェアハウスにしようと画策しているようで、そのくせ何も説明がなく、住民たちは絶えず緊張にさらされているようです。
 そんな中、前の大家さん(現在の大家の父)のトカゲが逃げ出し、403号室の平本さんというおばあさんが捜索を依頼されたとやってきます。平本さんは洞察力に優れ、住民たちの秘密を次々と明るみに出していきますが……。

 わたしは、このマンションで隠れ家的な料理屋を営む一家を描いた「最後の晩餐」が好きです。
 天然うなぎを扱うため、お客は一日一組。うなぎのパプリカ詰めとかカブトとかおいしそうです。
 声の仕事をテーマにした「読み聞かせ」や、漱石の「こころ」を推察していく「『KOKORO』の奥に」もおもしろかった。
 蒼井さんのトリッキーさがよく出ていると思います。