くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「扉を開けて」日本児童文学者協会 編

2014-09-29 04:33:47 | YA・児童書
 平和を考えるブックガイドで紹介されていた一冊。巡回図書館文庫で回ってきました。
 「扉を開けて」(新日本出版社)。収録作品は六作。結構バラエティに富んでいます。
 白川タクト「死んでもいわない」
  アフガニスタンに暮らす女の子が、戦地に行った兄を思いながら、テロリズムの横行する毎日を過ごします。名前はジャンビーヤというんですが、これは兄のつけてくれたものです。文化の違いと、わたしたちは普段、遠く離れた地で何が起こっているのか忘れがちだと感じました。
 守田美智子「扉を開けて」
  引き上げることができないまま、残留孤児として中国に残された人。クラスメイトの隆が実は中国からやってきたと知って、絵里は驚きます。わたしの父親は中国生まれ。他人事とは、言えません。
 那須正幹「新しい憲法のはなし」
  これも、他人事ではない、のですよね。憲法が書き換えられて軍国化しそうな日本に生活する中学生が、人気のアニメ(特攻隊を描いています)をはじめとするメディアや、なぜ自分が慕っていた先生が退職することになるのかを考えるものです。
 後藤竜二「原野の火」
  戦時中の学校で表現について探求する先生が、反戦思想だと白眼視されて退職。迫害に負けずに生活する様子を描きます。実話をもとにしたそうです。ところが、わたし、この「伊藤信(しん)」先生が女性だとは思ってもみなかったので、同僚だった先生と結婚式をあげたというくだりにびっくり! いや、まあ、後藤さんの本はもっと読んでみようと思いました。
 

「月ノ森の真弓子」勝山海百合

2014-09-28 19:40:23 | 文芸・エンターテイメント
 近未来の栗原市が舞台と聞いて、学校図書館用に購入しました。
 勝山海百合「月ノ森の真弓子」(イースト・プレス)。
 届いてからしまい込んでいたため、やっと読めたのですが、これ、わたし、好きです。自分でも買ってもいい。でも、地元なのに、近くで売っていません! 何故だ! 
 新聞記事を読んだ記憶では、勝山さんが仙台からドライブしてきたときに岩手県境の里山に心引かれて物語の舞台としたのだそうです。イメージとしては、金成の普賢堂(物語では真弓子の名字になってますが、地名です)から栗駒の松倉の方にかけてですかね。わたしも近くは通りますが、山の方に行ったことはないです。
 事故で母親を失った真弓子は、叔父の駿矢とともに月ノ森にやってきます。「くりはら高原駅」(と9ページに書いてありますが、後半の255ページでは「くりこま高原駅」になっていますよ)で新幹線を降り、バスで「本陣前」まで行く。その近くに和香菜おばさんの家があって、真弓子たちが暮らす命迦泉までは車でしばらくかかります。
 水をくみにくる人々にはそれぞれ事情があることも多く、その一人が星春海です。対人関係に自信がない春海は、アジアの国々を回ったあとに研究を重ねて、素晴らしくおいしいカレーを作ることができるのですが、それで商売とまではいかない。母親に勧められて命迦泉でカレーを売ることにするのですが。
 ということで、今日のうちの晩ご飯はカレーでした。
 近未来ですから、外国人が農繁期に出稼ぎに来ていたり代理母出産が認められていたり学校は飛び級だったりします。
 でも、そのなかで現在と地続きのような感触が素敵です。
 先週は栗駒山辺りの道をドライブしたので、なんだか近い感じもしました。栗駒山荘にも寄ったよ!(でも、作中の施設は野外活動施設っぽいですね)

「就職相談員蛇足軒の生活と意見」松崎有理

2014-09-23 19:44:42 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 来多神今日だんご!
 普段淡々としているわたしが、声を出して笑ってしまいました。ああ、そして、だんごを食べたくなりました。北上京だんごに限っていえは、わたしはごま味が好きです。
 口答代公園(勾当台公園です!)や成語温泉郷(これはわかりますよね)といったパロディ地名も非常に気に入っております。仙台に住んだことのない人にはこの可笑しさは伝わらないのかしら? そして、わたしの知らないところで、同様に地名を当て字にした小説はあるのでしょうか。
 松崎有理「就職相談員蛇足軒の生活と意見」(角川書店)。
 確かに、この本、初夏に仙台の本屋で見かけました。同行の友人が猫好きなので、とりあえず猫がモチーフの本は買うことにしていると言って。ただ、そのとき平積みされていた中に猫が描かれている本がやたら多くて、一度には買えなかったのです。 
 でも、この本の「猫」は、「余白」ですよね。(「白」という猫の子なので「余白」だそうです)
 シローに占ってもらうのは、彼女の好みかどうか判断しかねます。でも、彼女も仙台に住んでいたことだし、わかってくれるかも。「蛸足大学」近くに通学していたことですし。
 前作では、女の子に惚れても常に失恋してしまうのがパターンでしたが、今回はわたしの感覚でいえば恋愛小説です!
 希少生物の分類を研究してきたシーノは、就職が決まらないまま職安(職業安全保障部局)にも余り相手にされず、通りすがりに求人があった「蛇足軒」の秘書になります。彼は家元です。しかも、「嘘術」の。
 さらに、職安の特命相談員でもあり、彼を訪ねて特殊体質の人々がやってきます。
 ……人々? いやいや、吸血鬼やお掃除ロボット(ルン○ですね)も、やってきます。
 お庭には巨大なりゅうきんの「いちゃぽん」。秘伝書を狙う男や、味音痴の庭師。もうユニークでたまりません。
 ところで、表紙の話に戻りますが、イラストレーターさんは仙台に詳しいのでしょうか。猫もりゅうきんも「あまんざ」のお菓子を食べていますが。
 ちなみに「萩饅頭」は、萩の月ですよね。

「海の見える街」畑野智美

2014-09-22 05:25:04 | 文芸・エンターテイメント
 近くの図書館には畑野智美の本がない。そろそろ気づいてほしいなあ。
 ということで岩手県まで車をとばして借りてきました。「海の見える街」(講談社)。
 ある図書館に、育休の代替としてやってきた鈴木春香。美人なのに、毎日同じ服で出勤。しかもひらひらのスカート。司書の資格もないからパソコンしかしないという。
 草食系の本田くんは彼女に振り回され、同じ年の日野さんはそのちゃらんぽらんさに我慢なりません。
 図書館の階下にある児童館で働く松田くんは二人と親しく、春香ともなじんでいきますが、彼にもある秘密が……。
 わたしは、この松田くんが語り手の「金魚すくい」が印象的でした。その後が描かれないのが、またなんとも……。
 クールで児童館職員としての責務をきちんとこなす松田くんのトラウマが苦しい。それを、やっと打ち明けた日野さんとこれから親しくしていく予感がしていたのに、出会ってしまうのですよ! ファム・ファタルですかね……。
 どの話にも動物が絡んできます。マメルリハというインコが可愛らしい。ああ、でも、一年見つからなかったインコが突然現れるのは納得いかないな。

「本棚探偵の生還」喜国雅彦

2014-09-21 18:46:51 | エッセイ・ルポルタージュ
 本読みがいちばん辛いのは、暇な時間帯に読むものがなく時を過ごさなければならないこと。
 今朝、その部分を読んで共感したというのに、本を持ってこなかったっ。大失敗です。ネット環境も今ひとつなので、手元にないこの本のことを思い出しつつ。
 喜国雅彦「本棚探偵の生還」(双葉文庫)。文庫になるのをじっと待っていたので、この分厚さに喜びもひとしおです。
 シャーロキアンの北原さんと知り合ってイギリスに行ったり、日下三蔵さんの本の整理を手伝ったり。趣味のマラソンと古本屋巡りを合体させる。相変わらず熱烈な古本魂がおもしろい。

と、このへんまで書いたら夫と子どもたちが戻ってきました。
 今日は秋田まで足をのばして、増田まんが美術館に行ったんですよ。入場無料! 講談社系の漫画家さんの紹介が多かった。秋田出身の方も結構いらっしゃるんですね。
 写真は、その前に行った小安峡の噴出です。

「刑事の約束」薬丸岳

2014-09-17 20:40:48 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 夏目刑事が、自分の娘の事件の犯人逮捕後を描いた「刑事の約束」(講談社)。
 冒頭は、燃え尽きたのかやる気を見せない夏目にいらだつ女性警察官が主人公です。忙しさで怒りっぽくなり、家庭でも息子や夫との間に溝を感じるようになる。
 グラビアアイドルのDVDを万引きしようとした少年の意図は? 昏睡状態の婚約者を襲った男の挙式を撮影することになったディレクターの本心は? 認知症気味の老女がケースワーカーを突き落とした理由は?
 夏目の丹念な観察と行動で、真実が解き明かされます。
 また、前作の「オムライス事件」(という名称ではないけど、いちばんわかりやすいかな、と)の少年が負った深い傷や、これから厳しい現実と向き合うことになる予感を感じながら、夏目にとって朗報である出来事と寄り添いたいと決意する姿が清々しいです。
 もともと彼は少年たちと向き合う仕事を選んだ人でしたからね。
 わたし自身も、ちょっとしたことから悲観する癖がついていたことに気づきました。でも、支えてくれる人たちがいることや、子どもはやがて成長することを、長年見てきたつもりです。
 なんだかちょっとすっきりしました。個人的な感想です(笑)。

「八月の光」「光のうつしえ」

2014-09-15 06:04:16 | YA・児童書
 朽木祥の原爆ものを二冊。「八月の光」(偕成社)と「光のうつしえ」(講談社)です。
 今、中学生におすすめする本を聞かれたら、迷わずにこれを紹介します。わたしは、中学一年生の夏に何か平和に関する本を読んでくるように話すのですが、今年は教科書の「碑」をそのまま読んだとか、わたしが紹介した「生ましめんかな」で書いてきた子が例年よりも多くて、複雑ではありました。
 それに付加しての一冊を、探してほしいからなのですが。(もちろん、きちんと課題に向き合った子も大勢います)
 その中で、クラスのAちゃんが読んできたのが「八月の光」なのです。
 わたしも読んでみるよ、といって、手に取ったのですが、ああ、「碑」と平行して読むならこの本は最適でした。図書室に入れなければ。
 この夏、義両親が広島を訪れて、原爆忌直前の平和公園を歩いたのです。実際に目の前にすると、映像ではわからなかった強い衝撃が伝わってきたと話していました。
 「光のうつしえ」は、投下から二十五年がたったときが舞台。中学生の希未は灯籠流しの夜に見知らぬ女性から声をかけられます。
 母が流す、誰の名も書き入れられない灯籠。
 また、お墓参りでは美術の先生が、亡くなった婚約者の墓を訪ねる姿も見かけます。彼は、最後に会った日に冷たい言葉を投げてしまったことを後悔している。
 もう二度と会えないとは、思っていなかったから。
 その後悔が、非常に胸を締め付けるのです。先生は、彼女の情報を探して市内を歩きますが、見つかったのは自分が贈った櫛だけでした。
 希未たち美術部員は、戦争について身近な人に話を聞き、それを絵にして発表することにします。
 一人ひとりに、悲しみの物語がある。そう感じさせられる作品でした。

「あたたかい水の出るところ」木地雅映子

2014-09-14 11:07:16 | YA・児童書
 温泉、ということなんですけどね、極端に言えば。
 でも、木地雅映子ですから。しかも、光文社(最近、いいですよね! 注目しています)。
 学校帰りは銭湯に行き、心ゆくまでおふろを堪能する高校生柚子。ある日、銭湯仲間の平松さんと外に出たら、この場には合わないゴツいバイクが停まっております。 
 バイクの主は福一といって、どうも医大生らしい。柚子のお風呂バスケットを見て、アレッポの石鹸を見抜きます。(柚子も、彼がブラットワンギのココナッツシャンプーバーを使っていることを嗅ぎ当てますが……)
 いろいろあるんですが、物語の下敷きは「シンデレラ」です。しかも、機能不全家族。おばあちゃんはちょっと記憶障害があって施設へ。両親の仲は悪く、姉は短大で合コンばかり。妹は成績がよくて期待されていますが、どうも学校生活はうまくいっていないらしい。なにしろ、柚子を階段から突き落そうとして失敗したこともありますから。
 柚子は家族がだれもやらない家事を、ひとりでこなしていきます。家族の歪みが柚子の上にのしかかっている感じ。
 「家事とは、放っておけば崩壊してしまう秩序を、ゼロの状態まで戻すこと」と考える柚子に、非常な健気さを感じました。  
 「マイナークラブハウス」と共通する部分はありますが、あちらよりも大人びたと思います。主人公よりも、母親の大人になりきれない行動が心配ですね。
 わたしもこの温泉宿に行ってみたいです。

「妖怪アパートの幽雅な日常 ラスベガス外伝」

2014-09-13 14:21:02 | YA・児童書
 ある日、家に帰ったわたしに、息子が、
「これの二巻、どこにあるの?」と聞くのです。これとは、講談社文庫の「妖怪アパートの幽雅な日常」①。
 わたしはこの本で、これまで、生徒や同僚とその娘さんなど10人以上を香月ファンに導いてきたのでありますが、息子はなかなか読んでくれず。一巻だけを勉強部屋の本棚に仕込んでおいたのです。
 二巻を読んだ息子、翌日わたしが部活から戻ったら、五巻までを既に読み終えていました。夫と出かけて、買ってもらったのだそう。
 息子は読むスピードが非常に速いのです。ものたりなそうなので、図書館から借りた「ラスベガス外伝」を貸しました。
 いや、でもよく考えてみれば、シリーズ途中でその続編を読まなくてもいいよな。
「やっぱり、十巻読んでからにしたら?」
「そうだね」
 ……でも、読んでました……。
 登場人物半分以上わからなくて、それでも読んでしまったそうです。
 翌日、わたしが残り五冊を買って(その日古本屋に行ったら、買ったばかりの巻がありました……)その日中に読破。
息子としては、気に入った話は何度も繰り返して読むので、手元にあるのがいいみたいです。
 わたしもやっと「外伝」読みましたが、千晶さんのファンじゃないと正直、読みづらいんですよ! カジノに行こうがパーティーしようが、おばさん(わたし)には「ふーん」って感じです。
 クリたちが成仏したのはよかった。新しい猫の「なっこ」もかわいいと思いますが。
わたしはキャラクターものよりもストーリーものが好きなんだと思います。夕士は自作が映画化する際に片方女子にして恋愛を絡めようなどとアレンジ話をされるのを嫌がっていましたが、それもキャラクター小説ゆえですよね。
 でも、それでもわたしは、この本を中学生におすすめしてしまうのです。図書室にはまんが版のお試し冊子を吊して、PRしています。
 だってねぇ、香月作品はうまいところでうなずかされてしまうんですよ。コーヒースタンド事業を展開する人が、
「まっとうな社会人は、商売相手に礼を尽くすなんて、当たり前なんだ」という、このセリフ。他愛ないんですが、わたしは好きです。
 さあ、息子、次はこの本の隣りに置いた「獣の奏者」を読んでくれ。

「大人にしてあげた小さなお話」岸田今日子

2014-09-12 21:10:55 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 えっ、岸田今日子で「ミステリ・サスペンス・ホラー」!?
 とお思いでしょうか。いやはや、怖いですよ、岸田今日子。さすがは岸田國士の娘。実はわたし、姉の衿子さんとの共著「山小屋物語」も読んでいるのですが、三島由紀夫と乗馬をしたり、谷川俊太郎との交流が描かれたり(対談も収録されています。衿子さんとの離婚後?)。
 ですから、後半に「父の残した山小屋」を舞台にした話なんかがあって、非常に興味深かったのです。
 モチーフは「七匹の子ヤギ」。目前で兄弟たちを殺された末っ子ヤギが、長じて狼と暮らすようになる。「わたし」は夏の間、山小屋を訪れて山羊を飼いますが、この山羊を預かっている「つうさん」のところの種山羊がそれだというんです。
 つうさんは、その山羊と一緒にいた狼を撃ち、その皮をはいだ。山羊はどうして狼といるのを選んだのか。つうさんは、山羊にとって、敵なのか味方なのか。
 そんな疑問でぽおんと放り出されるような掌編です。
 「セニスィエンタの家」も怖い。「わたし」が撮影で訪れたスペインの村。人々は年寄りばかりで黒い服を着ていて、目や足が悪い人ばかり。人から聞いた「セニスィエンタの家」を見学しますが、暗い家の壁に描かれるのは「シンデレラ」によく似た物語でした。
 しかし。
 彼女をじっと見つめるのは、実の父親。魔法使いではなく、ドレスや靴、馬車を用意したのは。そして、その代償は……。
 おぞましく、官能的な小話でした。いやいやいや、でもっ、怖いですよ……。
 岸田さんオリジナルの話では、足音だけを残して別の女のもとへ行く話が怖い。「病院には必ず行けよ」の意味を知るために読み直してしまいました。
 「約束」も怖い。食道癌で死んだ男から、クリスマスに銀の燭台が届きます。それで食事をするのが、彼女の、夢でした。
 でも、ユーモラスな話もありますよ。「ミッシェル」とか。妻がマンションでイルカを飼い始める話です。あとは、ドラキュラを描いた作品も。岡田真澄とか杉浦直樹とか名前も出てきます。
 「みにくいアヒルの子」は、アヒルの子がずーっとみにくいままなのかといのが、個人的におもしろかった。