くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「おおあたり」畠中恵

2016-09-30 20:05:54 | 時代小説
 なんと、栄吉さんお気の毒に……。
 前巻からこのような展開になるとは、誰が想像したでしょう。押しの強い人がいいの? 自分を求めてくれないということなのかしら。
 でも、「辛あられ」おいしそうです! 唐辛子味とわさび味、辛子味噌味、胡椒味があるとか。あられが食べたくなりますねぇ。
 場久が語る怪談話も聞いてみたいけど、夢の中で追いかけられるのは嫌ですよ。
 あとは富くじの話「はてはて」、佐吉と仁助が兄やとしてやってきた頃の話「あいしょう」、それから若旦那がおもてなしをしようと頑張る「暁を覚えず」が入っています。
 兄の松之助さんの様子も分かって、時節は移り変わっていくのだなあと思いました。
 今回の表紙カバーの柴田ゆうさんのイラストも、本当にかわいいです〓

「平和のバトンをつないで」池田まき子

2016-09-29 20:45:57 | 歴史・地理・伝記
 二重被爆者。
 広島で原爆を浴びた人が、長崎で再び被爆する。山口彊さんは、出張先の広島から命からがら故郷の長崎に戻ります。3ヶ月にわたる出張と、やけどを負って包帯を巻いた姿に、家族も誰なのか分からない程だったそうです。
 前半には山口さんの若いころのエピソードが書かれていますが、小学生のときに服装のことで絡んでくる上級生を蹴ったとか、弁論大会で将校ににらまれても自分の意志を発表したとか、英語に興味があって勉強したとか、この年代の方がいかにもしゃべりそうな内容だと感じました。
 わたしの祖父も、山口さんと同じ大正五年生まれ。先日、百歳を迎えました。
 子どもの頃、祖父から若いころの話をよく聞かされたので、特にそう感じるのかもしれません。
 山口さんは、普通の人。
 しかし、二重被爆という痛ましい体験が、山口さんをそのままにしてはくれませんでした。
 「平和のバトンをつないで 広島と長崎の二重被爆者山口彊さんからの伝言」(WAVE出版)。

 会社を解雇された山口さんは、英語を生かして通訳の仕事をします。米兵と関わるうちに、彼らと分かり合えるようになります。
 原爆を投下し、二重被爆という苦境にさらされたのに、「アメリカ兵だって、自分と同じ人間」と語ることができるなんて……。
 また、海外では二重被爆者のことが知られていないとして取材が次々にくる場面も、印象的でした。
 キャメロン監督も山口さんの人生を映画にしたいと来日したそうです。
 「核は人間の世界にあってはならないもの」と語られたという山口さん。わたしたちもその思いをつないでいくべきだと感じました。
 

「日本文学( 墓)全集」安堂友子

2016-09-22 22:09:10 | コミック
 先日、同僚Iちゃんと話していたら、結構武士や文人のお墓を訪ねているという話題になって、白虎隊、吉良上野介、さらには長谷川町子や向田邦子などのお墓参りをしたと言ってました。
 そのとき出たのが、「墓マイラー」という言葉。あれ、でもなんか聞いたことがある……。
 押し入れを探したらありました。「日本文学(墓)全集 時どきスイーツ」(ぶんか社)。
 著者安堂友子さんが、編集者の方とお墓参りして文人のエピソードを語り、近くにあるスイーツの店に寄るというコンセプト。
 もちろんわたしは、文豪のネタを拾えるかもという狙いで購入したのですが、これを機に読み返してみました。
 えー、谷崎潤一郎。最初に読んだときには気づかなかったのですが……佐藤春夫との「細君譲渡事件」に「ほそぎみ」とルビが振ってあって驚きました。
 太宰、漱石、芥川、一葉、乱歩、一九、八雲、直哉、川端、馬琴、井伏、谷崎、芙美子、池波の十四人。東京近郊でもたくさんあるのですね。
 楽しく読みましたが、やっぱりわたしには著名人のお墓を回ろうという発想はないように思います。すみません。
 ところで、なんでこういう話になったんだっけ?
 あ、読書感想文を読んでいたら、「燃える白虎隊」なのに延々と桜田門外の変について書いてあって、結局白虎隊が出てこないまま終わっちゃった作品があった、という話からかな?

「ぬまっちのクラスが『世界一』の理由」沼田晶弘

2016-09-20 20:59:17 | 社会科学・教育
 職場で配られたパンフレットに紹介されていた「ぬまっちのクラスが『世界一』の理由」(中央公論新社)を借りてきました。
 著者は沼田晶弘さん。東京学芸大学附属世田谷小学校の先生です。
 赴任したばかりのときは、赤ジャージ、赤い靴、前髪は立てて金のネックレス。保護者からは「トサカ」と密かに呼ばれていたとか?
 三年生のクラスは「全員リレーゆっくり作戦」で運動会に勝利。授業参観ではミニゲームで保護者も巻き込む。
 「内閣」と呼ばれる班にクラス経営をできるだけ任せる。授業も児童が前に出て教えるように促していくようです。
 子どもだからというより、「体が小さい人」と捉えてリアルな社会を教材にしていく。スーパーマーケットが特売をするのはなぜか。もうかる秘密って?
 一週間の期限でスーパーについて調査すると、棚陳列やチラシに施した工夫がわかる。中には試食コーナーで「買わないおばさんの法則」を発見した子も!(食べたあと大きくうなずく人は買わない、のだそうです)
 店長さんはインタビューにいくときは、「はい」「いいえ」で済んでしまうような質問はしないこと。
 沼田さんの基本は「そもそも」。原点に立ち戻ることで「なぜならば」にたどり着けるとか。
 実習生に「いい質問です」を禁ずるというのも、なるほどと思いました。そういうのは、誰にとっての「いい質問」なのか。それは「都合のいい質問」ではないのか。
 意外性のある質問こそが授業の醍醐味。相当覚悟がないとできませんよね。
 「四十分の問題なのに一時間かけてできたって、何の意味もないからな。宿題は四十分以上はやらないこと」
 こんなふうに時間を区切るとラストスパートができる。
 千問ある社会の問題集を使ってクイズ大会、わたしも参加したいです。
 学校は自立できるように後押ししなければならないと、わたしは思っています。自分の力で生きていけるように。
 子どもたちが考えて活動する様子、頼もしいですね。

「市立ノアの方舟」佐藤青南

2016-09-19 18:27:42 | 文芸・エンターテイメント
 関東の片田舎にある野亜市。市役所でアミューズメント施設の誘致を企画していた磯貝は、市長が入院したために突然動物園の園長にされます。
 これまでとは全くの畑違い、さらに職員はこれまでの園長の日和見主義に辟易しており、前途多難です。何より入園者は年々減っていて、このままでは廃園の危機?!
 一癖もふた癖もある飼育技術者たちが、磯貝のアイデアを認めて変わっていくのがおもしろい。佐藤青南「市立ノアの方舟」(祥伝社)。
 動物園ものも青南さんの作品も好きなわたしには、非常に楽しめました。
 日本で最初にコアラを展示した動物園のひとつでありながら、餌代がかかるため譲渡。しかし、看板などにはまだイラストが残っているというので、モデルになった園があるのかとつい検索してしまいましたよ。

 磯貝が園内をまわると、土産物屋には園にはいない動物のグッズもあって売れ行きはよくないとか。
 ランチはレトルトカレーあけるくらいのことしかできないとか。
 そういうことをひとつひとつ解消していくのです。
 後半、オオフラミンゴとチリーフラミンゴがつがいになってしまったため、卵を奪わなければならない苦悩が描かれます。
 動物園動物は、野生下のものとは違うということも。
 職員体験にきた中学生たちの問題も、印象的でした。いじめられるのに、一見仲良し三人組に見えるというのは、確かにありそうですね。

「ビオレタ」寺地はるな

2016-09-18 05:30:02 | 文芸・エンターテイメント
 三回借りて、やっと読み切りました。
 寺地はるな「ビオレタ」(ポプラ社)。こういう雑貨屋さんを知っていたら、時間があるときふっと寄りたいですねぇ。
 物語が動くタイプの話ではないように思います。(「ミナトホテル」の方が動きはあります)
 人物関係が吹っ飛んでる、と言いますか。
 主人公の妙は婚約を解消されて大泣きしているところを、雑貨屋の主人である菫さんに拾われて店を手伝うことになります。
 店の名前は「ビオレタ」。スミレのことだそうです。もともとは彼女のお父さんが始めた店(雑貨屋ではないですが。鮮魚店、だっけ?)で、手作りのブックカバーとかブローチとかいろいろ可愛いものを売っている。
 でも、お客さんは少ない。
 店で使うボタンを扱っている千歳さんという男性と付き合い始める妙ですが、実は彼と菫さんが元夫婦で、大学生の息子がいることを知って嫉妬心を感じます。
 こう書くとなんだか違和感が……。
 菫さんは毎日朝礼で「いつも心に棺桶を」と唱和したり、店の看板商品はミニチュアの棺桶で、形のあるものやないものをそれに詰めて庭に埋めたりするんです。
 ある男性は遊園地の観覧車で思い出を詰めるのですが、菫さんと妙も一緒に現地に行くことになる。採算度外視でついていこうとする姿に驚きますが、その人に交通費やチケット代を払ってもらって安心している妙がおもしろかった。
 しかし、この方、奥さんに観覧車でプロポーズしたのに別の女の子と付き合い、別れを切り出したら観覧車に一緒に乗りたいとせがまれる。奥さんにこのことがバレて口をきいてもらえなくなり、謝ることもできないまま交通事故で……というやりきれないエピソードでつらかった。
 自分なら何を入れるのか。
 今のところ思いつかないので、わたしは結構幸せなのだと思います。

「江ノ島西浦写真館」三上延

2016-09-17 21:10:38 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 江ノ島かぁ、行ってみたいですね。
 三上延「江ノ島西浦写真館」(光文社)です。西浦写真館は、主人公桂木繭の祖母の富士子が営んだ店で、百年もの間人々の暮らしを写してきたのです。
 しかし、富士子は亡くなってしまう。
 一緒に遺品を整理するはずだった母に仕事が入り、一人やってきた繭は、写真館に住みつく「管理人」と「猫」を知ります。
 さらに、現像したものの渡せずにいた「未渡し写真」の入った缶を見つけ、依頼者に返さなければ、と動くことになるのですが……。

 繭はかつて写真家を目指していましたが、大切な幼なじみと写真が原因での別れを経験し、カメラとの接触を断っていました。
 最初の事件で関わった青年秋孝とともに過ごす中で、これまで心にしまってきた出来事と向き合うことになった繭。
 三上さんらしく、爽やかな中にもダークな展開でした。
 ほとんど出てこないのに重要な役割のお母さんや、思い出の中の富士子さん、秋孝の抱えるものなど、印象的です。
 
 ところで、栞子さんの新刊はいつ……?

「『ファミマ入店音』の正式なタイトルは『大盛況』に決まりました」

2016-09-14 20:49:16 | 総記・図書館学
 この本のカバーには「オトナ読書感想文全国コンクール」の自作シールが印刷されています。
 著者の西村まさゆきさんが、「読書感想文の課題図書シールは、なぜ鼻に棒を突っ込んでるのか」のテーマで作成したものなのです。
 もちろんこれは牧羊神が笛を吹いているのです。
 でも、鼻っぽいと言われればそう見える、かなあ……。
 西村さんは全身タイツに棒を持って扮装。それを加工して作ったのだそうです。
 さらには、このレリーフの作者を訪ねて群馬県へ。桑原巨守氏の作品なのだそうです。渋川に彼の彫刻美術館があるんだって。あー、渋川、この夏行ったけどそこは気づかずに来ちゃいましたよ。
 ちなみに、「『ファミマ入店音』の正式なタイトルは『大盛況』に決まりました」(笠倉出版社)というのは、西村さんが気になる事象を勝手に調べて、ネットの情報発信ペーパーに連載したもののようです。
 この入店音作曲者・稲田康さんを探して取材したところ、教会のチャイムをイメージして作ったとか。正式なタイトルを決めてみてはどうかと提案した西村さんに、後日稲田さんが応えたのか、
「メロディーチャイムNo.1 ニ長調 作品17『大盛況』」
 という名称。
 これを読んで以来、わたしもあのチャイムを聞くと、「大盛況……」と反応してしまいます。

 中でもおもしろいのは、「国語辞典のゴリラがだんだんやさしくなる」。
 どういうことかって? 明治時代の辞書「ことばの泉」では「身のたけ七尺にも達し、面部黒く、腕力強く、性質、猛悪なり」と書いてあったのだそうです。
今は大分表現が変わってきているのだとか。「性質は穏やか」という辞書もあるとか。勉強になるなあ。
 さらには辞書の説明をもとにコロッケを作ったり、紀伊國屋書店のブックカバーをハロウィンの仮装として手作りしたり。
 本気で挑戦する西村さんを応援したくなります。わたしもベランダでキャンプをしたいなあ!

「ふたえ」白河三兎

2016-09-12 21:27:30 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「ふたえ」(祥伝社)すごく良かったです!
 ラストのどんでん返しに驚きました。途中、「タロット」と呼ばれているこずえのパートで「あれ?」と思うことはあったのですが……。
 高校二年のゴールデンウイーク明け、「私」(ノロ子)のクラスに転校してきた手代木麗華。自分を「俺」と呼び、教師をなめてかかり、すぐに学校一の問題児と認定された彼女には誰も話しかけなくなります。
 修学旅行のグループ決めで麗華と同じ班になったのは、クラスの五人の「ぼっち」たち。その中にはノロ子が思いを寄せる男子宮下もいました。
 しかし、なんと麗華は宮下に付き合ってみようと提案。衝撃を受けるノロ子でしたが、旅行先から脱走した麗華を宮下とともに追っていくと……。

 「重なる」「重ねる」ということばが使われるタイトルで、修学旅行にかかわる物語を描いたオムニバスです。
 わたしはタイトルとも関係する「素顔に重ねる」が好きですね。
 旅行から抜け出して舞子の扮装をすることにした少女が主人公です。
 なぜ舞子体験をしようと考えたのか。
 それは、八坂神社を訪れる同級生に、自分を見てほしいからでした。

 瓜二つの弟に将棋で勝つことができない渡辺右京。「劣化版」というありがたくないあだ名があります。
 ネット将棋で知り合った人と実際に勝負をしてみたいと考えた彼は、やっぱり旅行を抜け出します。
 そこで待っていたのは、予想とは全く違うヤンキー女子?
 
 すごく綿密に組み立てられた連作なので、読み返したくなること必至です!
 自転車をこぐ志村のひたむきさに心を打たれました。
 今ビブリオバトルをするなら、これを推す!
 

「鳥肌が」穂村弘

2016-09-09 20:10:07 | エッセイ・ルポルタージュ
 穂村さんのエッセイはやっぱりおもしろい。
 「鳥肌が」(PHP研究所)。あー、この気持ちわかるなあ、と思ってしまいます。
 友人夫婦から赤ちゃんを抱いてみないかと手渡されそうになるとき、慣れていないから不安だという穂村さんに、自分が何をするかわからないと思う人がいるようだと友人は語ります。
「何をするかって、例えば……」
「窓からぽいって捨てちゃうとか」
 自分がある局面で、それまでとは違う予想もつかないことをしてしまう可能性の恐怖。
 小さい赤ちゃんだからこそ、何の抵抗もなくなすがままにされてしまうことになるのです。わたしも息子が小さかったとき、自分の腕の中に「命」があるのだなあと思ったことがあります。
 また、「現実の素顔」という項では、子ヤギに「可愛い」と近づいたタレントがミルクを飲ませる場面からの考察があります。
 彼女は子ヤギが夢中で飲む様子が怖くなる。動物の本能が剥き出しになる恐怖を感じるのです。
 ヤギの目が「完全にイッてしまっている」から怖い、と穂村さんはいいますが、いやー、ヤギは他の動物と違って瞳が三日月みたいだからじゃないですか。わたしはヤギを飼っていたので、乱暴なことは身にしみております。でも、観光牧場のヤギはおとなしいよねぇ。
 普段触れない存在だと、ぬいぐるみやアニメーションの「可愛さ」のイメージに傾いてしまっているのではないか、と。
 同じように、映画のラブシーンしか知らない人はロマンチックなイメージを抱いているだろうし、千人針に虱がわくことへの驚きも考察されています。
 なるほどなあ。
 穂村さんの文章って、「怖い」とは思わないのです。どちらかというとふっと気が抜けるようなおかしみがある。
 ただ、それは結構皮膚感覚として分かる感じがするんです。
 装丁は祖父江さん。スピンがピンクの紐三本、挿絵の裏は空白(本文に紙が挟まったイメージなのかしら)、紙質ちょっと薄め、の雰囲気も、なんか訴えてくるものがあります。