やっぱり、ナイトだったねぇ、悟くん!
久保寺健彦「みなさん、さようなら」(幻冬舎)。飲み会から帰ってきて、一気に読み終えました。
デビュー作にはその作家の全てがあるといいますが、確かに確かに。語り口やエピソードがその後の作品に反映しているような気がしました。
渡来悟という主人公の一人称で物語は進みます。どうやら、過去を振り返っているらしい。
とある団地に住む107人の同級生について、彼は語ります。この団地から同じ小学校に通っていた仲間です。六年生のときに一人いなくなり、残った子供たちも引越しや進学で団地を巣立ちます。櫛の歯が欠けるようにいなくなる同級生。彼らの動向を、悟はつねに気にかけ、毎日団地内を巡回しては詳細なメモをつけます。
この記録魔ともいえる性癖、「すべての若き野郎ども」の主人公とも通ずるものがありますね。おそらく作者もレポートを書いたりまとめたりすることが好きなのだろたうと思います。年ごとに団地を離れた同級生の名前が羅列されていますが、思うに一人ひとりの引越し理由やどんな人物なのかということを書いたメモがあるのではないかと考えました。悟の話の中には、突然同級生が登場し、どんな人なのかもわからないまま消えていくことがあります。それに不自然を感じないのは、悟には「当たり前」の光景であること、そんな小さな場面なのに、何となく顔が見えるからでしょう。
デビュー作とあって、人物紹介には少し説明不足の面もあります。最終的に回収されなかった問題もある。(中一のときに現れて面談した男は誰なのかとか、事件を起こした少年のこととか)
でも、それをさしおいても余りある魅力があります。まず、悟を取り巻く人物が魅力的。わたしはタイジロンヌの師匠が好きですね。ガールフレンドの松島さんもいい。
物語の構成も。実は悟、あきらかに語っていないことがあるのです。それを中盤まで気づかせないのがすごい。ひっかかっていたことが、ぱらりとほどかれます。あとは、大山倍達のエピソードの取り込み方がうまいですね。
これは、悟の話であると同時に、団地そのものの衰退を語る話でもあるのです。いなくなる同級生。空き部屋が目立ち、不審火がおこります。
この団地での物語で、いちばん美しいのは、停電の夜の場面でしょう。敷地内にあるグラウンドに、同級生たちが集まってきます。(ほかの人たちもいますが) たくさんの仲間と語り合い、笑い合い、悟はここで緒方早紀と再会します。わたしは、キューちゃんが叫ぶシーンが好き。
「みなさん、さようなら」
最後に、これは母親たちの物語でもあるのではないかと感じました。悟を心配し続けたヒーさん、薗田の母親、そしてマリアの母親。子供のことを案じていても、それぞれの行動は異なります。また、団地に住むたくさんのお母さんたちも、作品に色濃く存在します。
久々にちょっと遠い本屋さんに行ったら、この本がおすすめ本の棚にありました。そうかぁ、以前その本屋でもらったチラシを読んで、この本に興味を持ったのでした、そういえば。
ルートは違うけど、無事読めてよかった。
久保寺健彦「みなさん、さようなら」(幻冬舎)。飲み会から帰ってきて、一気に読み終えました。
デビュー作にはその作家の全てがあるといいますが、確かに確かに。語り口やエピソードがその後の作品に反映しているような気がしました。
渡来悟という主人公の一人称で物語は進みます。どうやら、過去を振り返っているらしい。
とある団地に住む107人の同級生について、彼は語ります。この団地から同じ小学校に通っていた仲間です。六年生のときに一人いなくなり、残った子供たちも引越しや進学で団地を巣立ちます。櫛の歯が欠けるようにいなくなる同級生。彼らの動向を、悟はつねに気にかけ、毎日団地内を巡回しては詳細なメモをつけます。
この記録魔ともいえる性癖、「すべての若き野郎ども」の主人公とも通ずるものがありますね。おそらく作者もレポートを書いたりまとめたりすることが好きなのだろたうと思います。年ごとに団地を離れた同級生の名前が羅列されていますが、思うに一人ひとりの引越し理由やどんな人物なのかということを書いたメモがあるのではないかと考えました。悟の話の中には、突然同級生が登場し、どんな人なのかもわからないまま消えていくことがあります。それに不自然を感じないのは、悟には「当たり前」の光景であること、そんな小さな場面なのに、何となく顔が見えるからでしょう。
デビュー作とあって、人物紹介には少し説明不足の面もあります。最終的に回収されなかった問題もある。(中一のときに現れて面談した男は誰なのかとか、事件を起こした少年のこととか)
でも、それをさしおいても余りある魅力があります。まず、悟を取り巻く人物が魅力的。わたしはタイジロンヌの師匠が好きですね。ガールフレンドの松島さんもいい。
物語の構成も。実は悟、あきらかに語っていないことがあるのです。それを中盤まで気づかせないのがすごい。ひっかかっていたことが、ぱらりとほどかれます。あとは、大山倍達のエピソードの取り込み方がうまいですね。
これは、悟の話であると同時に、団地そのものの衰退を語る話でもあるのです。いなくなる同級生。空き部屋が目立ち、不審火がおこります。
この団地での物語で、いちばん美しいのは、停電の夜の場面でしょう。敷地内にあるグラウンドに、同級生たちが集まってきます。(ほかの人たちもいますが) たくさんの仲間と語り合い、笑い合い、悟はここで緒方早紀と再会します。わたしは、キューちゃんが叫ぶシーンが好き。
「みなさん、さようなら」
最後に、これは母親たちの物語でもあるのではないかと感じました。悟を心配し続けたヒーさん、薗田の母親、そしてマリアの母親。子供のことを案じていても、それぞれの行動は異なります。また、団地に住むたくさんのお母さんたちも、作品に色濃く存在します。
久々にちょっと遠い本屋さんに行ったら、この本がおすすめ本の棚にありました。そうかぁ、以前その本屋でもらったチラシを読んで、この本に興味を持ったのでした、そういえば。
ルートは違うけど、無事読めてよかった。