くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「戦場の都市伝説」石井光太

2015-06-30 21:22:47 | 社会科学・教育
 なんだか怪しげなタイトルですが、気がつくと購入していました。だって、石井光太さん、ずっと気になっていたんです。引き上げを描いた文庫が読みたくて探しているのですが、見つかりません。何気なくこの本のページを開いてみたら、続けて読みたくなったのです。
 「戦場の都市伝説」(幻冬舎新書)。
 都市伝説、です……。ひっそりとささやかれている幻想。しかも、戦場。普段のわたしの読書範囲ではないんですけどねぇ。
 でも、こういうおどろおどろしい傾向の作品を読むと、結構具合を悪くしてしまうタイプのわたしが、これは大丈夫でした。(実録怪談とか、ダメなんです)
 都市伝説、解説、背景や付随する物語という構成になっているから論理的に読めるというのもあるんですが、石井さんの語り口が冷静で、戦争の背後にあるものを浮き上がらせてくれるからではないでしょうか。
 それにしても、子どものころから信じていた「ナチスの石鹸」も都市伝説だというのにはびっくりです!
「はっきりと断っておくが、ナチスがユダヤ人の脂肪で石鹸を製造していたという事実はない。これは大戦中にドイツに占領された国の人々の間で創作された、まったくの噂である」
 ええええっ、ホロスコートの話題になるとつい思い出してしまうあれは、デマだったのですか。ほっとするような疑念が残るような。
 石井さん自身も、学生のころに授業で聞いたことがあるとおっしゃってます。他にも様々な噂があったそうですが、これらは「ありもしない話をすることでドイツを非難したもの」なのだそうです。
 近年でもフセインのクルド人弾圧を象徴した香水の噂があったそうです。
 戦時中の話題もずいぶんありました。伝説として語られ続けるというのは、やはりそこに鎮魂や無念の思いがあるからだと思います。
 いずれにせよ、わたしたちはその場と地続きの場所に生きているのだと感じさせられました。

教科書展示会

2015-06-28 19:19:37 | 〈企画〉
 改定になるので、各社の新しい教科書を見てきました。11時から1時半までいたのに、後半は時間が足りなくて。
 全体的に、読書案内が増えていました。作品の後ろに書影がついていたり特集ページがあったり。
 「容疑者Xの献身」とか「ピンポン」とか「また必ず会おうと誰もが言った」なんて、今までの国語教科書にはないような本も。
 「池上彰のメディアリテラシー」とか杉浦さんの「今昔物語」なんかは結構あちこちで取り上げられていました。あっ、あと堀米薫さんの「林業少年」「命のバトン」も紹介されていました!
 なんとなくポップになろうとしている感じがするというか。
 角田光代や三崎亜記、穂村弘が登場するものも。(特に三崎作品の「私」、教える自信ないです!) いきものがかりの歌詞も二社ありました。
 さらには、椰月美智子の小説に出てくる会話文から、「スイミー」の解釈は年とともに変化すると書いてあったけど、なんだか違和感があるんです。本当にそうなの? と思う。さらっとしか読んでないんですが。
 「注文の多い料理店」「ごんぎつね」といった小学校教材が再録されているものもありましたね。
 絵画鑑賞文や、東日本大震災関連の話題、そしてメディア。羽生結弦のオリンピック優勝記事を読み比べるという作業、おもしろそうです。

 各社教材で目を引かれたのは、「クニマス」の再発見を描く中坊徹次さんの論説文と、女川の中学生の俳句に下の句をつけて連歌にしていく企画を紹介した山中勉さんの文章。タイトル忘れてしまいました。コピーとりたいわ。
 結構ぶつくさ言っていた「百科事典少女」、なんとなく新しい視点を感じました。
 というのも、小説教材って、圧倒的に男主人公が多いんですよ!
 「星の花が降るころに」みたいに等身大の女の子が主人公の話は採用されないんだなあ、と思っていたので、新鮮です。今回は論説文がずいぶん変わりましたが、小説はそう多くない。あー、でも「飛べ!かもめ」は好みじゃないなー。
 それから、堀江敏幸さんの「二つのアザミ」。書き下ろしエッセイなんですね! 美しい文章で紹介される二つの作品、心ひかれました。
 古典も題材に大きな変更はないですが、入門編が古典に登場するネコの話題で楽しいです。わたしも、犬でも探してみましょうかね?

 最初に手にした教科書に三十分かかったので(一年生分だけで)、また後日来なくてはならないかも、と思ったんですが、なんとか五社三学年全部、書写五社合本を読んできました。
 で、これを数値化することになっているんです。やっぱり、来週もう一度行くべきでしょうか。

「ルピナス探偵団の当惑」「憂愁」津原泰水

2015-06-27 19:23:21 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 「ルピナス探偵団」、Xハート全盛期のころ、書名を見た覚えがあるようなないような……。わたしはコバルト派でしたので。
 ずっと本棚においたままだった「ルピナス探偵団の当惑」(創元推理文庫)を読みました。続編の「憂愁」がなかなか見つからなくて。(東京で買いました)
 亜魚彩子は、姉の不二子(刑事)に頼りにされており、ときには高校まで推理を聞きに来られてしまうのです。同級生のキリエや摩耶、そして、憧れの祀島くんと事件を解決するべく奔走しますが……。
 わたしは「大女優の右手」が好きです。
 舞台の最中に死んだ女優。その遺体が消え、見つかったときには右手が切断されていました。彼女の遠縁にあたるマスターから相談を受けて劇場を訪ねます。
 「琉璃玉の耳輪」という舞台(尾崎翠の作品だそうです)は、ダブルキャストだったので上演は継続中。マスターがその日劇場で見たと証言した女性が現れます。彼女は女優の付き人で遺体を女子トイレで発見した人でもある。でも、祀島くんの推理は?
 週末にマスターの店に関係者を集めて、「全員の前で『さて』といきます」と語る場面にはにやりとしてしまいました。
 正直、最初の二編はもともと少女小説だったからか、彩子の実力があまり伝わってこないというか……。シリーズ全体でいえば、祀島くんが探偵役で、彩子は違う見方で光を当てるタイプでしょう。二人の仲は進展するのか?
 「当惑」が時系列だとすると、「憂愁」はUターンしてきます。二十代半ばの彼ら。学生時代。ルピナスの卒業式。
 構成のおもしろさを感じますし、そして、何よりもあるキャラクターの姿が立ち上がってくるといいますか。
 わたしは津原さんの作品を読むと「容赦ないなあ」と思うことが多いんですが、これもその系統ですね。ぜひ三冊めを! 「謎の老人」のその後も気になりますよ!
 あ、珍しい名字が多いのも特徴です。「天竺桂」なんて、覚えるの苦労しましたよ!
 

「the SIX」井上夢人

2015-06-26 20:40:50 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 帯には「僕たち6人には、他の人にない能力がある。だけど、この世界のどこにも居場所はない」とあります。
 いや、でも、そうですか? これ、そんな話ではないと思う。「魔法使いの弟子」だったらそういわれても納得できるけど、これはちょっと違います。
 明日起こる事件を絵に描く少女、頭の中に誰かの心の声が流れ込んでくる中学生、怒りで空気を刃物のように操ってしまう男の子、いるだけで虫を集めてしまう子ども、静電気をまとう高校生、そして、死者さえもよみがえらせる癒やしの娘。
 この六人は、最終的に大学で超心理学を研究する講師飛島と知り合い、「仲間」を得た喜びを感じますし、物語の中では親戚のお兄さんや近くに住む少年のように理解してくれる人も現れるのです。
 特に印象的だったのは「魔王の手」です。
 ライターの森脇は、あるガソリンスタンドの爆発事故を取材します。
 炎上したタンクローリーの運転手と、自動販売機でジュースを買った高校生が、救急搬送されたのですが、二人の火傷には不審な点が。明らかに火元に近い運転手よりも、高校生の方が重体だというのです。
 スタンドの近くに住む同級生が「カミナリを使える」とを聞かされ、アパートを訪ねますが……。
 「魔王」と呼ばれる彼は、静電気除去フットストラップでアースしないと近くにいる人がみんな体調不良になってしまうほど。家電品もすぐ壊れるし、友人は皆無。姉と二人暮らし。旅行も行けません。
 被害者の高校生から見れば「悪」の立場にいる彼が、どんどん悲劇的な人物に変わっていくその転換が見事です。
 また、「虫あそび」には復讐を試みる小学生が登場しますが、それが達成されたときに言い知れぬ自己嫌悪に駆られて乱暴者を救い出そうとする姿が印象的でした。
 飛島が連載するコラム「招かれざるゴーストハンター」を、わたしも読んでみたいなあ。「魔王」少年は毎回立ち読みしているそうですよ!

「悲嘆の門」宮部みゆき

2015-06-22 22:21:35 | ファンタジー
 「英雄の書」と同じ世界を描いているときいていたので、友理子が登場して楽しかったです。アッシュも。細かいこと忘れてますが。
 そして、なんといっても、美香ちゃんが無事で良かった。書き方によってはあざとくなるところですが、そこはさすが宮部さんってことで。
 「悲嘆の門」上下(毎日新聞社)。
 大会も終わって、ホッとしたものですから、久しぶりに図書館に行きました。そしたら、この本の上巻だけが棚に出ていたんですよ。うう、一気に読みたいけど……そろうまで待っていたらいつ読めるかわからないので借りました。
 で、わたし、別の図書館からずっと借りたままの本があったのですよね。督促がくる前に返したいと思って足をのばしました。(ちょっと遠いけど、8時まで開館しているんですよー)
 そこには下巻だけありました(笑)。
 というわけで、週末は一気に読みました。

 大学生の孝太郎は、尊敬する先輩真岐に誘われてサイバーパトロールの会社でアルバイトを始めます。社長の山科が、子どものころに読んだ絵本にちなんでこの会社に「クマー」と命名したと聞き、その本を読んでみた孝太郎。彼女に引かれていきます。
 世間では、身体の一部を切り取られる殺人事件が続き、会社でもその件を検索する日々。そんな中、四人めの被害者として山科社長が殺害され……。

 元刑事の都筑は、町内会の会長からある噂を聞きます。
 今は廃墟となったビル(円形なので「お茶筒ビル」と呼ばれます)の屋上にあるガーゴイルがどうもおかしい。武器のようなものをもち、しかも毎日微妙に恰好が変化している。
 気になった都筑は、町内会長とビルの管理会社との点検に付き合い、屋上に上がります。そこには砕けたガーゴイルと、新しいものとがありました。触れてみると、温かい。
 エレベーターは箱が失われており、一体誰がどうやってこの像を設置したのか。
 さらに、彼が頼んだ鍵師が、夜中にビルの下で大きな鳥のはばたきを聞いたといい、ガーゴイルが動くといった女性は自宅にその怪物がやってきたと怯えます。
 お茶筒ビルで孝太郎と都筑は出会い、シリアルキラーの情報を探ることになるのです。

 このあたりだけピックアップすると、ミステリ的側面が強いですが、孝太郎がある能力を身につけるあたりからどんどん雰囲気が変わってきます。ダークゲームみたいな感じ。
 都筑も神秘的体験をしますが、最後まで孝太郎の行動を心配し、引き返すべきだと伝えるのです。
 ガーゴイルに扮しているのは何者か。何の目的があるのか。学校裏サイトに書かれた悪意は本当に幕引きされたのか。
 様々な謎をはらんで物語は進みます。
 目を覆うようなつらいエピソードもあるのですが。
 宮部さんの視点、優しい部分があるので、後味は悪くありません。
 そして、この話自体が「クマー」と双極にあるように思います。透明だからこそ、自分の姿を知らないクマー。(これまで戦ってきた怪獣と同じだったのです)
 街の人も、これまでクマーに守られていたことを知らず、姿を見て怖れます。
 孝太郎も、いつの間にか自分の姿を見失っているような。
 この寓話は宮部さんの創作だと思いますが、なんか絵本になったりしそうですよね。

「念力家族」笹公人

2015-06-18 20:36:17 | 詩歌
 この本が文庫で入手できる日が来ようとは!
 し、しかもNHKでテレビドラマ化?! どんな内容なのか、知りたいようなそっとしておきたいような……。
 笹公人「念力家族」(朝日文庫)。かつて単行本が気になって気になって。どこかの図書館から借りたはずなので、再読です。多分。似たようなタイトルなので、自信ないけど。でも、「生徒会長レイコ」は読んだ覚えが……。
 そこから紹介しようかと思いましたが、意外と「レイコ」が短かったので、「念力学園」から少し。
「あの土手に金八先生あらわれて暮れなずむ町あとにするなり」
 歌詞を見事にはめ込んでいておもしろい。似たようなところで、
「落ちてくる黒板消しを宙に止め3年C組念力先生」。
 こういうのも好きです。
「満員電車こころで歌うメロディーを隣の男よなぜ口ずさむ」
 偶然かもしれないけど、念力のせいかもしれない。ふっと自分の頭の中を覗かれた気がして。
 ちなみに、この次のページに掲載しているのが、あの有名な「『ドラえもんがどこかにいる!』と子供らのさざめく車内に大山のぶ代」です。
 帯にも八首の短歌が記載されていますので、気になるならば読んで損はないと思いますよ。ただ、読者を選ぶといえなくもない。「魔除け少女」とは、何が魔を避けさせるのか。上の句はどれも同じで、下だけ変えてあるんですが、ハムスターの牙をはじめて見たり、般若面が割れたり、方位磁石も割れ、おばあさんは仏間で真言を唱え、さらに竹槍を持ってきてお母さんに渡す。
 このシュールさ! わたしは大好きなんですが、授業で好きな短歌を紹介するような場合にこういうのを発表されると困りますよね。
 朱川湊人さんとの共著「遊星ハグルマ装置」、何度か手にとっては棚に戻してきたのですが、これを機に読むべきでしょうか。

「岩窟姫」近藤史恵

2015-06-15 04:12:00 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 わたしも小学生のころ、大好きでしたよ「岩窟王」! エドモン・ダンテスですよね?(といって開いたら、一ページめに名前書いてありました……)
 近藤史恵「岩窟姫」(徳間書店)。そりゃあもう、復讐譚でしょう。
 「わたし」は、半年前まで売れていたアイドル蓮美。親友と思っていた同じ事務所の沙霧がマンションの屋上から飛び降り、ネットから彼女のものと思われる日記が発見されます。自分を操っているREMIから逃れたいことが切々と綴られており、これまでお姫様扱いをしてくれた人々から手のひらを返したようにされます。
 引きこもって出前された食事ばかりとっていたため、急激に太った蓮美は、誰が自分を陥れたのかを知ろうと立ち上がるのです。
 アイドル仲間だったチホの協力を得て、沙霧の実家に向かいますが……。
 近藤さんの初期のテイストに近いものを感じました。「いばら姫は戦う」とか「シェルター」とか。でも、考えてみれば、結構近藤さんの作品はジェンダー意識の高いものが多いですよね。
 コンビニで一目見たときに、自分を蓮美だと見抜いたらしい斎木という男。風俗店の名刺をよこしますが、周囲の誰をも信じられない蓮美が、段々彼のことを信頼していく様子がうまいなあ。
 なんだか妙な偶然性のようなものも続くので、どうかと思っていたんですが、やられました。さすがは近藤さん。そういうことでしたか!
 「Q太郎」というハンドルネーム、ちょっと意味深ですよね。要するに、世間にとっては「オバケ」だということでしょう? 「わたし」が蓮美は殺されたのだから、自分は蓮美の亡霊だ(もしくは、本名の鈴木昭子に戻った)というのとも、重なります。
 そうすると、星野さんたちが、執拗に手記を書かせよう(カムバックさせる)としたことも腑に落ちる。(星野さんの着信を「星に願いを」に設定する辺りも芸が細かいですよね)
 最後までノンストップで読みました。おもしろかった。

「2・43  second season」壁井ユカコ

2015-06-14 05:37:51 | 文芸・エンターテイメント
 6月の声を聞いて待ち焦がれていたのは、ああ、とうとう、「2・43」(集英社)の続編が出るのだな、と。
 本屋をこまめに覗いていたのですが、なかなか見つからず、まだ発売前なのか気になっていました。
 そしたら、仙台に行ったときに一冊だけ発見! わーいっ、と購入。で、もったいなくて毎日一編ずつ読みましたー。

 今回は、県内の常勝高「福蜂工業」のエース三村統(すばる)と、マネージャーの越智という魅力的なキャラも加わります。三村は、福蜂の監督が小学生時代から目を付けていた選手。(この監督、OBで八年前に新任で来そうですが四十歳なのです。何か前歴が?)
 県内ではスーパースターで、テレビ取材もしょっちゅう。高い打点から繰り出されるスパイクは、「悪魔のバズーカ」と呼ばれています!
 人からどう見られなければならないか、そのへんもよくわきまえていて、非常にかっこいい。
 生粋のバレーファンだったわたしとしては、そういう高校生って例えば誰? という妄想に駆られるのですが、なんかぴったりくる選手が思い浮かばない。
 わたし自身が高校時代から熱烈に応援していた選手なら結構いるんですよ? でも、他校の女子マネからサインを求められたり、県大会会場で「スバルコール」がおきたりする人気ぶり。しかも、春高ではセンターコートまで進出していない。
 宮城県では高校生スターはこういう扱いをされていないってことですかね? 
 すみません、くだらない余談で。ちなみに、わたしが応援していた選手は、東北の小林さんです。(学生時代はリーグ戦も見に行きました) その後全日本にも選ばれたんですが。
 バレー人気全盛でも、ここまで高校生がもてはやされることは珍しいと思うので、現在の選手減少化だとさらに少ない気がして。
 あ、藤井壮浩さんは相当人気あったな……。

 で、この福蜂工業と清陰高校が、春高出場をかけて激突! 県下一の実力高に、人数ぎりぎりの清陰は勝てるのか? 
 というのがメインストーリーです。もちろん、棺野と荊ちゃんとか、小田と青木とか、黒羽の親戚たちとかちょこちょこからんできますけど、基本は「ユニチカ」がどれだけ信頼度を深めるか、だと思います。
 小田が三村をシャットアウトするシーン、かっこいーっ。
 やっぱりバレー好きだなあ、と思いました。直前に中総体の応援に行ったのも大きいかも!
 福蜂のモデルは福井工大福井(今は校名変わったんだっけ?)で、春高予選の解説は荻野ですかね? そういうことをつい考えてしまう。
 三巻も期待してます! 春高、大暴れ編とかになるんでしょうか?

「最果てアーケード」有永イネ

2015-06-13 19:14:30 | コミック
 見つけましたよまんが版。古本屋三軒めで見つけられたのはラッキーでした。(さすがに新刊書店では売ってないと思います)
 「最果てアーケード」。原作小川洋子、まんが有永イネ。
 ああ、よかった。わたし、誤読をしていた訳ではないとほっとしました。だって、なんというか、小説には非常に曖昧な部分があって。伏線なのか他に読み飛ばしているところがあるのか不安だったのですよ。
 有永さんはそのあたりを具体的に描いてくださっていて、わかりやすかった。
 まず、小説を読んだときにわたしが理解したのは、主人公はお父さんと同じ火事で亡くなったのだろうということです。でも、あまりにも自然に「生きている」感じがするし。アーケードを抜けて商品を配達してもいます。
 ジャワマメジカの剥製を納めに行ったとき、「君じゃないと剥製がちゃんと納入されたがらない」「どうもそわそわうわついた剥製になってしまう」「君はまだ若いんだからさ、死人みたいな生活は送らないでくれたまえよ」
 お母さんが亡くなったときの「ふたつめはない」
 勲章を売りにきた男の父親の詩を探していたとき、図書館からかかってくる電話。
 ラストの方の伏線はわかりやすかったのですが、このあたりはこうやって読み返すことでさらに響きます。

 とはいえ、「百科事典少女」自体はやっぱり難解です。
 まんがのほうはヘアピンのエピソードとか、Rの表記が「アール」だったりとか、彼女の死を隠した表現になっていたりとか、小説とは若干違うようにも思いました。もしかしたら、小川さん自身が最初に書いた原作をさらにアレンジしているのでしょうか。
 
 来年の教科書から掲載されるので、今年中学生になった息子はやがてこの小説を読むわけです。わかる? これ? 
 二年後、聞いてみることにします……。

「サリン」木村晋介

2015-06-10 05:22:11 | 社会科学・教育
 「ミステリーにケンカを売る」シリーズが大好きなので、キムラ弁護士がサリンについての本を出したと聞いて探しました。「サリン それぞれの証」(本の雑誌社)。
 彼は坂本弁護士事件に自分も関わりがあると、様々な関係者から証言を集めた本です。サリン事件の救護活動に向かった消防官、警官、自衛官、医師、被害者とその家族、実行犯の母親、カウンセラー、弁護士、ジャーナリスト。松本サリン事件の被害者河野さんの証言もあります。
 第一通報者だった河野さんは、犯人だと報道されて取り調べでも執拗に自白を迫られる。実際に彼には不可能な事例もあったのに、マスコミは犯行を匂わすようなことを伝えているのです。奥さんは後遺症を患い、事件後14年に渡って意識不明だったといいます。
 亡くなる前の記者会見を見て、担当刑事さんが見舞いにやってきたのだそうです。「澄子さん、どうもごめんなさい」
 河野さん宅にごく近い裁判官宿舎が狙われたのだということは、当時から長野県警などでもわかっていて密かに捜査チームが作られていたのだとか。
 それでも、突入できないでいる状況から、そのあとの地下鉄サリン事件につながっていく。関わった様々な人々の証言は、あれから二十年たつのに鮮明です。
 大混乱の中、それが有毒だと知らずに車両の片づけをして亡くなった駅員さんがいたということ、今でも後遺症に苦しむ人がいること、証言からはその方の人生が立体的に立ち上がってくる感じがします。