くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「100文字レシピ」川津幸子

2009-09-30 05:32:52 | 工業・家庭
本屋に三日ぶりに行ったら、新しい新潮文庫が出ていました。つらつらと眺めていたら、なんと「100文字レシピ ごちそうさま!」という本があるではないですか。えーっ、単行本であったっけ? と手に取ったら文庫オリジナルだというので買いました。
川津幸子さんの料理本は、多分全部持っています。「ビンボーDELI」や「今日のご飯は?」も。簡単に作れて、おいしいのが魅力です。
ほかの本に載っていたメニューも何点かありましたね。「鶏肉の南蛮煮」はコメントにも見覚えが。
あとは「じゃこねぎポテト」を作ってみたいな。「明太ポテト」や「油揚げのねぎみそ焼き」もおいしそうです。
川津さんの本を買ってしまうのは、レシピのわきについているコメントが好きだから、でもあります。とてもリズミカル。
原稿用紙にしてわずか四分の一。その長さで綴られるレシピを、いざ作るときには自分なりの段取りも必要になると思います。わたしが作るものと、別の人が作る料理はイコールではないでしょう。
でも、このくらいの内容だったら、頭の中に叩きこめるかもしれませんよね。
なんと、お菓子までこの字数で紹介してあるのですぞ。いかすでしょ。
このシリーズを文庫化した新潮のセンスが、わたしは好きですね。

「反撃」草野たき

2009-09-29 05:44:14 | YA・児童書
草野たきの新刊! と飛びつきましたが、あれ、このタイトル聞き覚えが。それもそのはず、ピュアフル文庫のアンソロジーに収録された作品の再録でした。
で、図書館に行って借りました。「反撃」(ポプラ社)です。
読んだことのある話が多いからなーと気楽に読み始めたのですが。
結構、撃たれました。こうくるか! 短編と短編を繋ぐエピソードが書きたされていて、少女たちがどんなふうに大人になっていくのかが伝わってくるのです。
病弱な過去をかさに着てやりたい放題だった真奈美。クラスの平和を守るために努力を重ねる里美。気の合わないいとこと和解する有里。田舎暮らしの自分を否定して、外国の生活に憧れる明子。いとこの結婚話て振り回される瑞穂。
五人の女の子たちがそれぞれの道を見つけて歩いていく物語です。
彼女たちの成長や葛藤が、アンソロジーとして読んだときよりも身近に感じられた気がします。
それにしても、なんで「反撃」なんだろう、と考えて。言われてみれば、どの話も自分の立場を回復するための闘いなのかもしれない--と考えました。「いつかふたりで」はいとこに反撃しています。「ヒーロー」はクラスを崩壊させた子供たちとそれに加わった過去の自分に。そのほかの話も言われてみればそうかなー。
一個人のモチーフとというものは、やはり共通点があるものですから。
やっぱり、わたし、この人の紡ぐ世界が好きだと思いました。今回、初めてのあとがきがついていて、一般の会社に勤めてらっしゃることが判明。
次作も期待しています! あ、そうだ、本棚に未読の「ハーフ」が残ってるんだった!

「少女漫画」松平奈緒子

2009-09-28 05:23:12 | コミック
たまにはバクチも必要です。とはいえ、わたしの場合は漫画のジャケ買いですが。
シュリンクかけてあると、帯と後表紙のあらすじしか手掛りはありません。迷った揚句買ったり買わなかったり。買ったものの外れだったり。
今回は三回悩んだすえに買いました。で、当たりでした。松田奈緒子「少女漫画」(集英社)。
このタイトルでこの帯で、ものすごく迷ったのです。NHKで「TVドラマ化!!」とあおられてもなあ。
でも、ゆうべからなんだか読みたい本がなくてむなしい思いを抱えていたので、思い切って買ってみました。
目次でこれはわたしの好みだな、ということがだいたいわかったので、あとは安心して読むだけです。
収録されているのは、「ベルサイユのばら」「ガラスの仮面」「パタリロ!」「あさきゆめみし」「おしゃべり階段」。これに「少女漫画家たち」という最終話が入ります。どれもそのとき作品をモチーフにしていて、少女だった娘たちが自分の人生を生きていく物語です。
個人的に好きなのは、「ガラス……」ですね。万城目アナのプロフィール、すばらしい。この展開も、読みこんでこそのストーリーで、とてもおもしろい。せりふの一つひとつが亜弓さんだ! と思わされるのです。
それから「あさき……」も。「一番かわいそうな女って誰だと思います?」という質問に、ついじっくり考えてしまいました。
わたしの結論は、紫の上なのですが。幼い頃から理想の女性として育てられ、信じていた光源氏に裏切られる。哀切を感じます。ちなみに、わたしが好きなのは槿の姫君です。
ヒロインは、この漫画が大好きでコミックスをぼろぼろになるほど読み、卒論に「源氏」を選びます。今は図書館の司書。彼女の恋人は「源氏物語」の写本を扱うセールスマンです。
読んでいてふと、自分も学生のとき「源氏」の基礎ゼミをやったなーと思い出しました。メンバーは、この漫画が好きな人が多く、毎回誰かしらがレポート発表するのですが、あるとき「帝は、藤壷が産んだ皇子が源氏の子供だということを知っていたのではないでしょうか」と言った方がいて、みんな賛成していたのにわたし一人反対したのでした……。だって、それは大和さんの解釈だし。しかも、源氏が疑心暗鬼になってのせりふだし。知っているなら本人に向かって、「あなたの子供のころに似ている」なんて言わないよー。
うーん、本を読むってそのときの情景も何となく浮かぶものなんですよね。わたしにとっての「少女漫画」はどの作品なんだろう……と、ぼんやり思ったのでした。
わたしたちは少女漫画を通して、「価値観」を学んでいるのかもしれません。

「小生物語」乙一

2009-09-27 05:45:01 | エッセイ・ルポルタージュ
乙一、いいなー。ネットで書いていた日記「小生物語」(幻冬舎)がおもしろいと聞いたので借りてみました。ふふふ。独特の間と題材選択がたまりません。ショートショートを読んでいるみたい。
本人も、日記というよりは「ネタ帳」といっていましたが、いろいろなアイディアがさっくり盛りつけられた贅沢な本です。
戦時下のクリスマス騒動とか。デパートで一階に降りる階段がみつからないとか。
ジェイソンの恰好をしている人に一日三人も会い、リサイクルショップで買ったソファについているらしい少年と親しむ。
若手の作家さんたちとの交流も。佐藤友哉らと合コンをしたとき、島本理生と話したと書いてあって、これはふたりのなれそめか? とちょっと思ったり。
あ、デビュー作(「夏と花火と私の死体」)の風景描写、実家の周辺をモデルにしたのに、「ひと昔前の日本の風土がよく書けている」と言われてしまったというのもおかしかった~。

この人の頭の中には、たくさんの想像が詰まっているのだなと感じました。
今でも日記を続けているのなら読みたいなーと思いながら読みすすむうち、どうやらやめてしまいたいと感じていることがわかります。
エンディングで、本当は自分のことを「僕」と呼んでいる筆者は、日記の人物「小生」に乗っ取られてゆくような気持ちにおそわれていたことを告白します。
自分とは異なる人称を使うことで、「別の人格がそこに発生するのではないか」という試みのもとに綴られた日記ですが、筆者と「小生」がイコールではないに関わらず、同一視されるようになっていくことが耐えられない。この本を出版することで「小生」を成仏させたいという旨が、あとがきに記されています。
でも、それが乙一氏の本音かどうかは、この本を読んでいるとどうでもよくなります。だって、やっぱりこれはひとつの物語のうねりを持っているから。本人の体験から生まれて、そこから掛け離れた物語が紡ぎ出され、おかしみが生まれる。この本にはセンス・オブ・ワンダーが詰まっているのです。

「平家物語」

2009-09-26 06:08:14 | 古典
商売柄古典に関する資料を集めるのですが、どこにしまいこんだのかすっかり忘れて困っていた「平家物語」の資料を発見しました。
こんなにムックを持っていたのね……と呆れるほどあるので、面陳列すると長机ひとつじゃ足りません。
「日本の100人」(義経、頼朝、清盛、秀衡)、「義経伝説紀行」(平泉、屋島、栗駒)、「日本の合戦」(一ノ谷、檀之浦)「サライ」、「日本伝説紀行」(日光・那須)
書籍では「実は平家が好き」(ダ・ヴィンチ特別編集)をはじめ、「爆笑平家物語」(光栄)とか「源義経がわかる本」とかですね。飴あられ「君いとほし」(講談社)も古本屋を探しまわって買いましたとも。与一の話は脚色しすぎだけどねー。(与一は扇の的を射ることになったときに初登場。義経とは余り口をきいてないと思われます。でも、扇を指し示す女房玉虫と与一が恋仲だったという説はあり)
中でもいちばん重宝しているのは、絵本「義経と弁慶」(ポプラ社)です。文・谷真介 絵・赤坂三好。
結構「平家」ってストーリーをつかみにくいですよね。わたし、小中学生時代に古典の現代語訳をずいぶん読んだのですが、これと「太平記」はちんぷんかんぷんでした。いちばん印象に残るのは、薩摩守忠度の和歌を託しての出陣です……。
で、牛若丸伝説をもとに再構成してあるのでわかりやすいと思います。枝葉は落ちてもしかたないというか。
基本的には那須与一の活躍と、貴族文化が武家の台頭によって寂れていくことがわかればいいのかもしれませんが、どうせならもっと作品世界のことを知ってほしいのです。
「勧進帳」を始めとする歌舞伎や、芭蕉への影響など、多角的に見ていくと、興味深い。栄枯盛衰の世情をうつして戦いを描くのもまた、軍記ものらしくていいですよね。
そういえば、昔あるパンフレットで「菊畑」という作品のあらすじを読み、ショックを受けたことがありました。鬼一判官のもつ虎の巻を目当てに、義経がその娘を誘惑するのです。秘伝書を見せた娘に鬼一は激怒。小舟で流されてしまうことが描かれます。
この話、宮城県北の気仙沼付近に伝説が残っているのですよー。
小舟で流された皆鶴姫は、気仙沼に流れ着いて出産するという話です。平泉文化圏では義経に根強い人気があるのかも。金売吉次もメジャーです。
栄枯盛衰、諸行無常。平原一門の物語を、なんとかきちんと伝えたいな。
参考書籍リストに、「耳無し芳一」も並べておくべきですかね?
さて、本屋に行ったら新たなムックのシリーズが出ていましたので、買いました。「武将の決断」(平知盛・源義経)です。でも、勝者と敗者を取り上げる構成はいいんだけど、せめて同時代にはならないんでしょうか。なぜ斎藤道三??

読書感想文のこと

2009-09-25 05:19:00 | 〈企画〉
夏休みの宿題というと、読書感想文。今年も苦労して書いた方が多いのでしょうね。わたしはコンクール応募のための下読みに追われています。十月半ばが地区審査なので、今月中に一回めの本書きをしてもらわないと間に合わない。でも、通信票新人大会インフルエンザ対策が重なってなかなか思うようにはいきません。
今年度肝を抜かれたのは、「こころ」の感想文なのに、Kに全く触れていない作文……。「先生」はなぜ働いてもいないのに「先生」と呼ばれるのか疑問だとか、「先生」が亡くなったと聞いて、どうして父親も病気なのに「先生」を訪ねるのかとか。さらに、彼がかつて親族に遺産をだまし取られたエピソードをひいて、「僕が同じ目にあったら、『やーい、だまされてやんのー』とはやされて、さらに屈辱を感じることになるでしょう」と書いてある……。確かに、「主人公と自分を比較してみよう」とは言ったけどさー、そこは比べなくてもいい場所じゃないの?
何年か前に読んだ「三国志」の感想を思い出しました。孔明の作戦と活躍についてさんざん書いたあとに、「この戦いの勝者はギだと聞きました。僕は、さすがはソウ操だなと思いました」……。今、初めて見たよ、その名前。
彼らは別にふざけているわけではないのでしょう。でも、感想文というものを誤解している。ただ思ったことをつらつら書いてはいけないのです。本を通して自分を見つめることが必要なのです。
だから、盗作はすぐにわかりますよ。その人の環境が反映されるのですから。
選書も大事です。ライトノベルや携帯小説は候補に入れません。あと、教科書に載っている作品も駄目なことになっています。いくら「メロス」や「いちご同盟」について、熱弁を振るっても、応募規定に書いてあるんだからしかたない。

かく言うわたしは、高校時代に一回しか賞を貰っていませんけどね。中島敦「李陵」で書きました。
はっ、そのとき一席だった同級生(男子)は、「アイコ十六歳」で入選していた! そして、わたしがもったいなくて卒業するまで使えなかった副賞の図書券を、その日のうちに学校から五百メートルの本屋で使ったと言っていたものでした……。

「私が離婚した理由」近代文藝社編集部

2009-09-24 05:40:36 | 社会科学・教育
いろんな人の生き方や人生について興味があるので、367にあてはまる本はよく読みます。今回もそれ。「私が離婚した理由」(近代文藝社)。
この本のために原稿を募集し、五十点余りを採択したようです。
うーん、でも、応募原稿だと抽象的ですね。誰かがインタビューしてもっと気になる部分を掘り下げてほしいと感じました。わかりやすいものもあるのですよ。でも、夫の母親べったりだったことが離婚原因となる女性は、新婚旅行から戻って実家に行ったとき、
「淋しくて淋しくて……アイロンあてる物もないし」(途中略して引用。以下同じ)
と言われ、
「エプロンにでもアイロンしたら」と「返してやった」。
「つけ合わせにスパゲティ、ゆで卵、キャベツが喜ぶのよ。キャベツ、家にある?」と聞かれれば、「腹が立って」、
「生野菜は体に悪いからブロッコリーにするわ」と言い返す。最初から好戦的ですね……。
また、嫉妬深い奥さんに手紙をチェックされ、浮気を疑われた男性。「誤解のないように断りたいが、私はごく普通の男性であり、女たらしでも、プレイボーイでもない。酒を飲んでもはめをはずさないし、女性のいるスナックなどは息苦しくて苦手」とか言いながら、結末はこれだよ!
「一人になったいま、せいせいしている。やった! これから私は、結婚以来妻に隠し続け、偽名で私の元に電話や手紙を送ってきた若い恋人と、ようやく一対一で会うことができる。」 ふざけんな!
全体として、結構一方的な視点が多かったように思いました。でも、暴力を振るう男はよくない! 借金、女、相手の豹変も目立ちました。日本にいるときは紳士的だったのに、自国に戻ったらそれまで口にしなかった酒、タバコ、暴言、というハンガリーの人も強烈だった……。
結婚は生活だし、巡り会いは大切だな、と実感しました。

「京大芸人」菅広文

2009-09-23 05:50:48 | 芸術・芸能・スポーツ
おもしろい。
書店平積みしてある中で、何となく輝いてみえました。菅広文「京大芸人」(講談社)。
はっきり言って、「ホームレス中学生」の倍以上おもしろい。これは、自分のことではなくて、相方の「宇治原規史」のことを描いているからなのかもしれません。
わたしはテレビを余り見ないので、菅さん本人がどういう人なのか全くわからない。宇治原さんが「平成教育委員会」で海外留学を決めたのに、実際は本人が知らぬ間に相方が行ってきたというレポートを見たくらいです。
でも、この作品は侮れませんぞ。青春小説であり成長ものであり、学習紹介あり芸能ものでもある。一粒で何度も楽しめる本であります。
注目すべきは宇治原の学習方法。菅に「京大に入って芸人になろう」と誘われて、一年の受験勉強で合格してしまう。これはすごいです。学習には計画性が必要だということもよくわかります。
わたしにも京大に入った教え子がいるのですが、その勉強ぶりのものすごさを妹から聞かされてびっくりしたものでした。あれほど頑張っている人々が全国津々浦々にいるのだと思って、感心しました。
多分、世間の人はわたしとは違う読み方をするのでしょうね。ロザンの二人のこともよく知っているだろうし。
だけど、知らない人でも楽しめます。そこがいいのです。知名度に頼った作品ではありません。読んでください。頷いてください。始めは彼らに対する興味からの出発でも構わないと思います。非常に魅力的な作品です。できれば中学生、高校生に読んでほしい。そして、京大は難しいかもしれないけど、何らかのヒントをつかんでほしいのです。

「サクリファイス」近藤史恵+菊地昭夫

2009-09-22 06:28:29 | ミステリ・サスペンス・ホラー
これの①を発見するまでに半月かかったわたし。③は発売日に買いに行きました。ひっそり行ったはずなのに、フェアをやっていて、水ヨーヨーを三つ釣り上げてしまい、この証拠物件をいつ子供たちにうちあけるか悩んでいます。
近藤史恵原作、菊地昭夫漫画「サクリファイス」(秋田書店)全三巻。七月からの三ヶ月連続刊行です。
①②を読んでいて、この小説の青春スポーツ群像としての側面を爽やかに描いているのが伝わってきました。③になってからの展開が速く、畳み込むようにエンディングにむかっていく。おもしろかったです。不満は、三冊中一度も近藤さんのコメントが入らなかったことかな……。
この小説は、近藤史恵の代表作です。ミステリーとしても勿論ですが、自転車レースというスポーツの魅力を書き切ったところに大きな価値があると思います。読んだあとにものの見方が変わるのは、優れた作品だとわたしは思うのです。
自転車への関心も出るし、物語の伏線をたどり直すうちに新しい発見がある。石尾という選手の行動や発言から浮き上がる彼の本質が、ぐっと胸に迫るのです。

漫画が完結したので、読まないでとっておいた「ストーリーセラー」(新潮文庫)の「プラトンの中の孤独」を読みました。「サクリファイス」のスピンオフ小説で、赤城さんの視点から描かれた、オッジのチーム創設間もない頃、石尾の新人時代のエピソードです。
あー、これを読んだあとは、赤城さんがあれほどに石尾を悼む気持ち、わかります! 二人の間にある絆の強さ。
このシリーズはまだ続けると聞いたので、ほかの作品も楽しみですね。
近藤さんのブログによると、白石の名前は「誓」で「ちかし」と読むそうです。初版は「ちか」とふってあったとか。わたしは図書館で借りたので、「ちか」だと思ってたかも。
某書店では、単行本を「ルポルタージュ」の棚に並べていました(笑)。気持ちはわからないでもないけど。

「園芸少年」魚住直子

2009-09-21 07:14:54 | YA・児童書
わたしの目には「す」がありまして。(豆腐をゆですぎたときにできる穴ですね。ひどい結膜炎のあとらしいです。)そこに睫毛がつきささると抜けないのですよ。痛い。朝いちで眼科にいきました。そのとき読んだのがこれ。魚住直子「園芸少年」(講談社)。

三人というグループは、小説界ではなかなかいいコミュニティを形成するようです。孤高の一人、「親友」とべったりの二人。仲間と呼べるのは三人からという気がします。もっとも現実では二対一になってしまうことが多くなるし、自分よりももう一人の方がより仲良くしているように見えて、苦しんだりするんですよね。
この物語の三人のバランスは素敵です。「僕」こと篠崎達也は気弱だけど、まじめで朴訥。一見不良(実際に中学時代は不良)だけど、憎めない大和田一平。中学生のころにうけたいじめがもとで不登校になった庄司は、人知れず相談室に登校しています。
彼らが裏庭の温室で出会い、ふとしたことから「園芸部」として活動を始めることになるわけです。
さて、庄司くん。なんと彼は段ボール箱を被って生活しています。自分の顔のことでいじめられたので、コンプレックスを感じているんだよね。人に会うのを極端に恐れる彼ですが、篠崎のことは信頼できると感じ、大和田には徐々に心を開いていきます。昔いじめられた相手と同じような恰好をしているから抵抗を感じてしまうんだよね。でも、大和田は庄司のことを「おもしろい」と感じ、「BB」(Box Boy)と呼んで親しくなっていきます。
なりゆきで園芸部に入ってしまった篠崎と大和田ですが、何事もきちんと調査したい庄司のおかげで園芸知識を増やしていきます。それこそ花に水が吸い込まれるようにぐんぐんと。篠崎が自分たちの育てた花が咲いたのを見て感激する場面と、今までは視界に入っていなかった花々が見えてくるようになる場面が秀逸!
貪るように読みました。箱の中でしか生活できなかった庄司が、二人と一緒だったら外の世界に踏み出してもいいと思うところも好きです。
大和田が過去の自分と訣別しようとしていること、篠崎が「ツンパカ」と呼ばれるようになった同級生にいたたまれない思いをしていること、しみじみといい小説です。熱くならない校風の高校で、巡り会った三人。これから先も楽しく部活に励んでほしいな。