くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「生まれたのは何のために」

2008-12-31 13:38:18 | 自然科学
去年と今年の研修の間に読んだ「生まれたのは何のために ハンセン病者の手記」がたまらなくいいのです! この間の一年という月日の長かったこと! 早く続きを読みたい気持ちでいっぱいでした。でも結局、研修先じゃなくて県図書館で借りたんだけどね。

〈昨年の読書ノートから〉
著者松木信さんの207ページまでの人生。17歳で発病。多摩全生園に収容される。弟の誠と孝も彼に続く。23歳で少年舎の寮父となり、教師を勤める義子と出会う。やがて義子にプロポーズするが、友人に結婚を反対され、彼は落ち込む。 園を逃亡するために匿ってほしいと現れた女と一夜の関係をもち、義子のことを諦めようとするが、結局先輩の仲介で結婚。この出来事を告白するべきかどうか苦悩する。
義子がプロミン(ハンセン病の特効薬)治療を始めるが、実は結核を併発している場合には重大な副作用が……。
妻の死、弟の死、自身は失明し、キリスト教にのめり込む。寮父をしていたころの教え子・五郎が、11歳年上の女と看護婦との三角関係に悩んで自殺。もう一人の弟が賭け事で借金を重ね、説得して改心させる。 さらに自治会を生まれ変わらせようと腐心しているのだ。あー、続きが気になる!
同じ全生園だし、共通する人物がいるかも? と「忘れられた命の詩」を読み返す。そしたら! なんと筆者がいちばん頼りにしている人が、松木さんではないの! 「良太」という名前になっていたからわからなかった!
寮父として子供たちに作文を書かせるにあたって、松木さんはこう言う。
「子どもたちの前途には恐るべき病魔が待っている。それと戦う言葉を持つことが大切だ。それが自己表現能力をつけることなのである。苦難のただ中で言葉も持たず、獣ように死んでいくほど悲惨なことはない。」

今年、あらためて借りてやっと全部読みました。この間にハンセン病に関わる本を読んだり、講演会に行ったりもしました。高山文彦「火花」は、北条民雄の生涯を描いたルポルタージュだけど、松木さんの文章から引用している部分もあり、しみじみ。(松本馨名義です)
松木さんは、エピソードの抽出がまた上手で、園長との確執とか売店の問題とかを自治会長として解決していく様子がいきいきと描かれます。片腕である平田さんと奮闘します。
わたしがちょっと不満だったのは「良太」がほとんど出てこないこと。確かに谺
 雄二さんは草津の療養所に転院したとは思うけど、たまには消息を知らせてくれてもいいではないですか。
そう思っていたら、共産党員と意見が合わず、十三年務めた会長を辞任。しかし、党全員がそういう考えではない。自分の信頼する「平田も良太も」最後の一人になっても戦い続けると約束してくれている、という文で終わるのだ。
やっと出たよー良太! でもこんな最後の最後に突然出てくるようでいいの? それまで3ページしか出てこなかった良太のことなんて、普通忘れるでしょう。それとも、長谷良太=谺 雄二は識者にとって常識?
でも、とてもいい本なんです。欲しいんだけど、絶版の様子。何とかなりませんかねぇ……。

2008年 わたしのベスト本

2008-12-31 06:50:18 | 〈企画〉
2008年も残すところわずかですね。
この一年、読んだ本は250冊。まんがや絵本を除きます。おもしろかったのを10冊選ぶと、こんなかんじでしょうか。
1 「生まれたのは何のために ハンセン病者の手記」松木 信
2 「夏のくじら」大崎 梢
3 「100年俳句計画」夏井いつき
4 「でっちあげ 福岡『殺人教師』事件の真相」福田ますみ
5 「国語教科書の思想」石原千秋
6 「ふたつめの月」近藤史恵
7 「洗脳の楽園 ヤマギシ会という悲劇」米本和広
8 「年とったばあやのお話かご」ファージョン 石井桃子訳
9 「明日もまた生きてゆこう」横山友美佳
10 「普通の家庭がいちばん怖い 徹底調査! 破滅する日本の食卓」岩村暢子
感想についてはおいおい書いていきたいと思います。今年はルポルタージュや学習ものを多く読みました。あとは近藤史恵さんの作品にはまりましたねー。
2009年もしっかり読みたいと思います。
去年は大晦日に「赤朽葉家の伝説」を読んでしまったので、最後の最後にベストが入れ代わりました。いや、別にどこにも発表しないのですけどね。

佐伯一麦講演会

2008-12-30 06:54:30 | 〈企画〉
今年は、佐伯一麦氏の講演会にも行ってきました。彼が言うには、ペンネームをもつ人は別の自分を作りたい人なんだとか。で、佐伯は本名なので、こういうつけ方をするのは実生活を踏まえつつもどこか突き放した作品を書くことが多いのではないかとのことでした。例えば「鉄塔家族」では、発想の起点は自宅の隣に建てられた鉄塔だけど、作品中に「仙台」という名詞はあえて使わず、抽象的な場所として描いたというようなことも、これと関わりがあるのかもしれません。
若いころ、図書館に通いつめていた日々が、後に「一高の図書館の本を全部読んだ」という大袈裟な伝説になってしまったのだとか。でも、彼の話を聞いて、三十年前の高校生にはそういう硬い本を読みふける生徒が今よりずっと多かったのではないかと思いました。わたしも図書館で純文学一通り読みましたよ。小学生のときは古典の訳本、デュマの「椿姫」が好きでした。高校では川端とか。あ、ヤングアダルトも読んでましたけどね。
佐伯さんは小説というものについて「言葉にしにくいものをなんとか言葉で表現するもの」と言っていました。目に見えないもの、意識していないけれど確かにつながっている関わりを書いていきたいそうです。 実は「ピロティ」しか読んでいないのです……。今度他の本も読んでみるつもりです。
あ、書店員をしていたときに北島三郎に頼まれて、息子さん用の参考書を揃えたことがあると言っていました(笑)。

「退屈姫君 これでおしまい」米村圭伍

2008-12-29 06:50:44 | 時代小説
シリーズものを一気読みするのは楽しいですよね。去年は「彩雲国物語」を、一昨年は「暁の天使たち」、その前は当然「デルフィニア戦記」を読みました。
でも、シリーズの続刊を待つのもそれはそれで楽しいですよね。「十二国記」とか……。
で、今月はわたしが待ち望んでいたあれの完結編が出たのですよ。あれとは、あれです。米村圭伍「退屈姫君 これでおしまい」(新潮社文庫)。 最初に退屈姫君ことめだか姫と出会ったのはいつだったでしょう。柴田ゆうさんのかわいい表紙に引かれて、「退屈姫君伝」を買ったのです。語り口がちょっと嫌らしいのがどうかとは思うのですが、こういう明るい時代小説はあんまりないので、新鮮でした。
「面影小町伝」を読んであの人の過酷な運命に衝撃をうけ、「風流冷飯伝」で風見藩の風習を知り、続く「退屈姫君 海を渡る」「退屈姫君 恋に燃える」で米村ワールドのそこぬけの明るさとほのぼのした人物たちに親近感を感じたものです。
中でわたしが好きなのは、香奈。将棋の天才といわれる榊原拓磨の姉で、彼をもしのぐ名人なのです。香奈と数馬が結ばれる日を、わたしは楽しみにしていたのに、今回香奈の見せ場はあっても、二人に進展はないのでした……。
とりあえず、その後の人物紹介を読むと、「香奈は藩内の冷飯食いを婿に迎え」とあり、ちょっと香奈のその後に不安を感じましたよ。でも、それは数馬のことらしいので安心しました。
しかーし、「これでおしまい」が出る前に結構間があったんですよね。めだか姫、風見藩に渡ったの二ヶ月前なんですか? そんなに最近だったとは思わず、驚いてしまいました。

本屋の森のあかり

2008-12-28 06:51:45 | コミック
わたしには許せない登場人物がいる。それは、「本屋の森のあかり」の杜三さんだ。一巻を読んでぶっとんだ。だって、毎月どれくらい本を読むのか聞かれて、三百冊と答えるのだよ。三百冊、わたしが一年に読む本より多い。
毎月そのくらいということは、一日に約十冊。聞かれて即答できるというのは、何らかの記録をしているか、またはどんなことがあっても毎日同じペースで読み続けているかのどちらかである可能性は高い。
一日十冊、どうなのそれ? まんがくらいなら読めるけど、普通に仕事している人にそれは無理だらう。しかも、彼は十時くらいまで働いているようなのだ。遅番? すると時間だって限られてくる。例えば出勤前に読んで、昼休みにバックヤードで読んで、夕食をたべながら読んで、帰り道(電車?)読んで帰ってから寝るまでだと、どのくらい読めるの? 五時間と仮定して、一冊30分くらい?
それで中身については吟味できるのかな。ちゃんと覚えていられるのか? 彼は話題の速読をしているのかな。
まあ、これはただ単に、杜三がそこまで本が好きということを際立てるための小道具なのだろう。わたしは感心しないけど。
でも、本屋でコミックス売っていると、つい買ってしまうシリーズではある。わたしは実在の本をモチーフにした連作というのが大好きなのだ。
今回は、「アリス」「グレート・ギャツビー」「トカトントン」「夢十夜」が入っていた。わたしとしては「トカトントン」がいちばんおもしろいと思った。はなむけに本を贈るって、なんかいいよねぇ。わたしだったら、どんな本を選ぶだろうと考えてしまった。
しかし、あかりよ、人に聞かなくともタイトル聞いたら太宰だって分かるだろうよ。自分は読んでないのに、ライバルの緑が毎日本を読んでいるのを聞いて、杜三と比較していたこともあるよねぇ。

「半分のふるさと」イ サンクム

2008-12-27 06:49:17 | YA・児童書
雪が降った。そのなかを一時間もかけて行ったのに、図書館が休みだった……。でも本屋でいっぱい欲しい本を買ったからいいんだ! と自分に言い聞かせる。中でもイ サンクム「半分のふるさと」が新書サイズで出ていたことに、一年も気づかなかったよー。
早速購入。本棚の手前のところに並べる。児童書なのに、450ページもある分厚い本だ。
韓国人である著者は、広島で生まれた。だからこれは、翻訳作品ではない。
読むたびに、彼女の母親の姿が胸を打つ。ほぼ無学でありながら、小学校に入学した娘とともに学び、字が読めるようになる。娘が成績優秀で表彰される式に、ひとりチマチョゴリで参列する。周囲は紋付きを着ている人ばかり。「チョウセン、チョウセン」というささやき声が聞こえても、臆することはない。
娘は母に泣きながら抗議する。しかし、母は言う。朝鮮人が朝鮮服を着るのは当たり前のことだと。そして、祖父がどんなふうに死んでいったのか、なぜ自分が日本にくることになったのかを話す。
何度読んでも、本当に何度読んでも胸がしめつけられる。紋付きをなんとか都合して、式にくることだってできないわけではないだろう。しかし、彼女の心がそれを許さないのだ。
このこともあって、孤立していく著者は、二年生の半ばで転校する。そこで出会う岡広先生が、とてもいい人なのだ。たった五か月の担任でも、彼女にとってはいちばん影響を与えた人だ。
終戦を迎え、やがて祖国に帰るところで、物語は終わる。日本と朝鮮、ふたつの文化を生きる著者の眼差しの清らかさに、揺さ振られるこの本を、子供だけに読ませるのはもったいない。迷っている人は、福音館文庫134から145ページを読んでみてほしい。でも、本屋で涙ぐむよりは、黙ってレジに行くほうがいいと思うなあ。



「羽の音」大島真寿美

2008-12-26 05:59:53 | 文芸・エンターテイメント
12月、わたしはこの時期セブンイレブンが発売するデザート「かまくら」にはまり、一日一個ずつ食べてしまうという恐ろしいパターンにはまってしまう。クリスマスを過ぎると、もう売っていないのね……。
それは置いといて、この12月という時期に読むのに、たいへん相応しい本を読んだ。大島真寿美「羽の音」。
1999年12月1日から31日までが、主人公菜生の一人称で綴られる。日記ふうなところもあるけど、やっぱり文章としては小説。菜生と姉の花保の生活を軸にして、入院中の先輩ミキオとのあれこれ、幼なじみの透樹のことが描かれる。
ずっと消息が分からなかった透樹についての手掛かりがつかめるかもしれない。それまで「天使のよう」とまで言われた姉が一変する。会社をずる休みして、ゲームばかりする。結婚間近だった婚約者と喧嘩する。菜生も大学への推薦が決まってから学校を休みがちだったので、姉妹でモラトリアムな暮らしをしているわけだ。
姉を動かすのは、透樹の情報をなんとしてもつかみたいという思いなのだろう。それはかなり細い糸の向こうにあるのに、花保は全てを捨て去って西安に向かう。そこで透樹がみつかるかどうかはまた別の問題なのだろう。それしか情報はないのだから仕方ない。
菜生にしても、ミキオのことが結局どうなったというわけではない。でも、菜生は彼にフニクリ・フニクラの歌詞を教えてもらう。
大晦日、熱を出した菜生は、うつらうつらと意識を失っていく。家の近くを通るバイクの音を聞きながら。もう、次の年、2000年がやってくる。
たったひと月の物語。でも、この日々は続いているように思う。今でも。菜生とミキオ、花保と透樹、それぞれの関係は変わっているかもしれない。だけど、確かに時の流れはつながっている。高校生だった菜生は、もう二十代半ばだろうか。
12月も残りわずか。さらりて読めるので、今月中に手に取ってみては?

「神様」川上弘美

2008-12-25 06:02:59 | 文芸・エンターテイメント
す、すばらしい。紹介してくれた友人に感謝! 川上弘美「神様」です。最初はさらーっとした物語だと思っていたの。熊とドライブ行ったり、壷の中から人が出てきたり。
でも、「春立つ」あたりからなんだか目が離せなくなって、一気に読むにはなんかエネルギーを使いそうで。すごくあっさりしているのに、読み流すことができないのですよ!
「離さない」ときたら、ああもう! わたしもとりつかれるかと思いました。もともと「人魚」というのは好きなモチーフなのです。人魚にみせられていく二人の気持ちも、このまま虜になってしまうのを恐れる気持ちもよく分かります。おそらくあの言葉さえなければ、二人は人魚に取り込まれていたでしょう。
なぜ、人魚はほうっておけば自分のものになるはずの人間に言わずもがなのことを言ってしまうのか。
でもこれは人魚に限らずわたしたちも口に出してしまうことかもしれません。独占欲は、自分こそが所有されていることに気がついて終わるのです。
人魚やセイレーンのような水妖は、昔から人を惑わしますよね。
人魚の話が読みたくなって、「世界の民話館 人魚」(サンダーズ)を借りてきました。世界の人魚について、じっくり読んでみたいと思います。
クリスマスなので、贈りものにしたい(実際贈ってもらった)物語を書いてみました。

「あわせ鏡に飛び込んで」井上夢人

2008-12-24 05:57:53 | ミステリ・サスペンス・ホラー
先月のことで恐縮。井上夢人氏の新刊「あわせ鏡に飛び込んで」が文庫で出た! 中身は十年以上前に書かれた短編だけど。でも、どれも井上さんらしい空気が漂っていて、新刊なのに懐かしく読んだ。
車の一年点検をしてもらっているときに読み始めたのだけれど、「千載一遇」の途中で時間がきてしまい、とても残念ー。
「さよならの転送」どこかで読んだことがあるように感じたんだけど、気のせいだろうか。「書かれなかった手紙」は雨の会のアンソロジーを持っていたのでよく覚えているんだけど。当時リレー小説を書こうという企画もあって、どうも話を聞いていると自分がラストを書かされそうだと悟って焦る井上さんの様子が書かれていたっけ。
井上さんの本は全部読んだ。特に「ダレカガナカニイル……」は傑作! 涙なしには読めないっ!
「メドゥサ、鏡をごらん」のものがなしさ、すくいようのなさ。「オルファクトグラム」の嗅覚と視覚の扱い方、「The TEAM」のエンターテインメント。どれをとってもおもしろい。毎回主人公に感情移入しながら、「くそお……」と思ったりするのだ。
岡嶋二人時代からずっと読んでいるので、好きな作品もずいぶんある。「クラインの壷」、「どんなに上手に隠れても」「焦げ茶のパステル」、古本屋を巡って集めたものだ。
「99人の最終電車」の刊行も、もうずーっと待ってるんだけど、本当に近々出るの?

愛しのローカルごはん旅

2008-12-23 07:47:09 | 芸術・芸能・スポーツ
わたし、ご当地グルメというのが好きなんですよ。と言っても、どちらかというと出無精なので、食べるのは、夫が出張で買ってきてくれる地域限定お菓子くらいですけどね。
たかぎなおこ「愛しのローカルごはん旅」を買いました。「旅先で変わった名前の食べ物や見たこともないメニューを見つけると気になっちゃうタイプですか~」はーい! 食べてみたいでーす!
これはたかぎさんが国内のいろんな場所に行って、その地域特有の名物を食べてくるコミックエッセイ。例えば山形では冷たい肉そば、玉こんにゃく、いも煮、板そば、どんどん焼き、牛肉どまん中(弁当)を食べる。
玉こんにゃく、大好き。しょうゆとするめを一緒に煮るといいよー、いも煮は仙台では豚肉で味噌味だよーと思いながら読みました。わたしも行ってみたいです。あ、食べてみたいのほうが近い?
「全日本『食の方言』地図」(野瀬泰申)も地域に伝わる食事の在り方をネット投稿を通して探るレポート。天ぷらにはしょうゆをかけるかソースをかけるか。北海道の赤飯には甘納豆が入っているというのはどういうことか。
このなかに地域限定丼ものの話題があって、そこで目にするまで、わたし、油麩丼がそうだということに気付きませんでした。(この本は「天ぷらにソースをかけますか」という題で新潮文庫に入りましたが、油麩丼については残念ながら載っていないような気がします)
ああ、ゆっくり旅に出てその地域特有の食事をするのはいいですよね。
ちなみに、地域限定お菓子でおいしかったのは、広島の瀬戸内みかんマーブルチョコ、沖縄シークヮーサーぷっちょ、東北ずんだじゃがりこです。