くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「小やぎのかんむり」市川朔久子

2016-07-31 09:13:38 | YA・児童書
 実家でやぎを飼っていたため、二十数年、やぎのミルクを飲んでいました。
 こういうと、「ハイジ」みたい! とおっしゃる方がいますが……ちょっと生臭いです。(もちろん、煮沸しないと飲めません)
 しかも、やぎは乱暴。鎖でつないでいるのが、ぐるぐる巻きになっていたので助けようとしても頭突きしてきます。
 小やぎはかわいいですけどね。すばしっこくて捕まえられませんでした。
 市川朔久子「小やぎのかんむり」(講談社)。
 先日本屋で見たとき買えば良かった……。(その後見かけないので借りました)
 私立女子高校に通う「わたし」(夏芽)は、両親の軋轢からサマーキャンプに行くことにします。
 だけど、受入先は普通の田舎で、しかもお寺。
 さらに、このキャンプに申し込んだのは夏芽ひとり。そして、母親に置き去りにされたと思われる子ども(雷太)が現れ……。
 カラオケ好きな住職、その孫でキャンプの世話役美鈴さん、修行中の穂村さん。あまりにも草が伸び放題のため、檀家のアイデアでやぎを連れてきてはどうかと言われます。孫の葉介が生物部で、夏休みに預かっているからと。
 やってきたやぎの「後藤さん」を、雷太は非常に気に入ります。
 雷太も、親の虐待によりつらい思いをしてきた子でした。
 これから先の未来は、全部自分が選びとってつないでいくのだと語る住職の言葉がしみました。
 「許してやれ」という無駄な外野に惑わされるなというのも痛快!
 親子のかかわり、見つめ直すきっかけになるように思います。

吉野朔実劇場

2016-07-29 20:53:19 | 書評・ブックガイド
 吉野さんがお亡くなりになったという話を聞いて、ショックでした。
 吉野さんファンの友人から、「少年は荒野をめざす」を借りてからずっと読んできただけに……。
 わたしは短編がすごく好きで、「いたいけな瞳」の完成度の高さや繊細なイラストにため息をついたものでした。二つにさかれた写真とか、福子といういとこを愛するあまり好きでもない女と結婚しようとする男とか、タンポポみたいな双子に翻弄される女子とか、いろんな話を思い出します。
 中でも自分にとってベストの本はといえば、ハードカバーで出版された「天使の声」ですね。同時収録の作品(タイトルが思い出せない! なんとかの森? 「眠れる森」でしょうか)がすごく好きです。
 兄の妻を殺害し、「金の蝶々」と一緒に埋めて逃げてきたという男。医者の妻として暮らす外国人「はなこ」と出会います。
 彼の葛藤とか医者の強い思いとか、殺害されたはずなのに夫と歩いていた女とか、場面がふっと浮かびます。
 どこにしまったかなー。読みたい……。
 「いたいけな瞳」は全巻実家にあるので、部屋にある「吉野朔実劇場」(本の雑誌社)を読み返しました。
 「お父さんは時代小説が大好き」に始まり、「お母さんは『赤毛のアン』が大好き」「弟の家には本棚がない」「本を読む兄、読まぬ兄」「神様は本を読まない」「悪魔が本とやってくる」。立て続けに読みました。
 そうか、「短歌パラダイス」を読もうと思ったのはこれがきっかけだった。(まだ全部読んでないけど)
 わたしが本屋で見かけても手に取らないような本もあります。

 で、「天使は本棚に住んでいる」を買いました。
 ここで紹介されている本で、わたしが読んだことあるのは、「残穢」だけです。好みがあうというわけではない。
 吉野さんの切り口がおもしろいのですよね。東野圭吾も読んでいないという(笑)「カラマーゾフの兄弟」を読んでみたくなってまんがを借りてみました。
 それから、吉田戦車を「好青年」と評しています。どんな人なんだろうか。
 実家に行って棚をあさったら、「天使の声」、ありました。読めて良かった。

「説得」大泉実成

2016-07-19 05:08:57 | 哲学・人生相談
 三十年前に書かれた作品の文庫化。当時講談社ノンフィクション賞を取ったそうです。
 大泉実成「説得」(草思社文庫)。今でも需要があるからこその出版なのでしょう。わたしもこのサブタイトルで買いました。「エホバの証人と輸血拒否事件」。
 輸血拒否事件といえば、事故にあった小学生の息子さんに教義から輸血をしないでほしいと結局死に至らせてしまった事故です。エホバの証人のイメージをマイナスにしたであろうとわたしは思っていたのですが、なんだか本人や周囲の人にはそうでもなさそうな……。

 大泉さんは、このとき少年が「生きたい」といったという報道を受けて、この言葉の意味を知りたいと感じます。その結果、遺族の属するエホバ会衆に接触し、行動をともにするようになります。
 というのも、大泉さんは幼少期におばあさんとエホバの集会に参加していたのですね。だから、結構教えや集団の考え方に慣れていた。そして、両親や兄弟とも親しくなっていく。
 その傍ら、輸血を説得し得なかった病院関係者にも取材を続けます。
 これまで渋る家族をなんとか納得させた経験がある医師たちも、みすみす死なせてはならないと努力するのですが、頑迷なほどのこだわりを見せられます。
 結局、輸血さえできれば助かるはずだった少年は亡くなってしまう。
 宗教について描いた本って、最終的には否定的なものが多いように思っていましたが、大泉さんは親密な感じがしました。なんとなく「潜入捜査」のようなイメージだったのですが、結構彼ら寄りというか。
 反対にいえば、会衆の目から見た大泉さんは間違いなく仲間に近い存在だと思うのです。
 なにしろ「未割り当て地域」の伝道にも同行したのですよ! 信仰心があると判じられていたことでしょう。
 「未割り当て」というのは、当時日本の「九十パーセント以上」を占めていたエホバの伝道割り当て地区に該当しなかった「山間部など数パーセントの区域」では、会衆が育たず伝道できなかったため、夏休みなどを利用して代わる代わる歩く行事なのだそうです。
 寝転がって読んでいたわたし、この地名に思わず起き上がってしまいました。どんなところかと思っていたら……二十年くらい前に勤務していた町ではないですか。
 すると、宿舎はあの旅館だろうかとか、このスーパー懐かしいとか、「あいさつ通り」あったあった! なんて記憶が蘇ってくるのです。
 しかし、実際にはそれ以前の出来事なのですね。
 
 この本を読み始めたあと、藤田美奈子の「ウチの母が宗教にハマりまして」(KKベストセラーズ)も買いました。こちらもおもしろい。
 宗教を選択するというきっかけとか心理を考えさせられました。

「家庭用事件」似鳥鶏

2016-07-17 20:47:02 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 市立高校シリーズの新刊が出たじゃないですかー!!
 でも、今まで図書館から借りていたので、これだけ買うのもどうかと思いまして。図書館で探したけど見つからないので、入荷待ちかと思っていたら、なんと一般図書コーナーにありました。(今まではヤングアダルト)
 似鳥鶏「家庭用事件」(創元社文庫)。
 表紙で「僕」と一緒にいるのはだれかな? と考えたのですが、妹の亜理紗ちゃんですね。(柳瀬先輩のイメージはまた違う)
 今回は短篇集なんですが、「家庭用事件」は妹に夕食を準備しようとしたところ、突然の停電。ブレーカーが落ちたらしいけど、そんなに電気を使ってはいない。
 これだけのことなのに、さすがは名探偵伊神先輩! 危険な兆候に気づいてくれます。

 また、柳瀬先輩をめぐっての映像権契約書の謎。盗まれたビデオテープ問題では、親友のミノの意外な機転に感心させられます。
 でも、やっぱりラストの「優しくないし健気でもない」が衝撃的でした! 思わず二度読み直してしまいましたよ! 
 途中途中で「あれ?」というひっかかりは確かにあったのですよ。 
 中等部と高等部があって公立? 塾というだけで「新宿」だとすぐ分かる? なんで彼と会う場面だけ字体が違うの? などなど。
 そういうわけでしたか……。
 だから似鳥さんはやめられないなぁ。(一冊、途中でほったらかしのがありますが)

「老後の資金がありません」垣谷美雨

2016-07-15 04:58:09 | 文芸・エンターテイメント
 図書館にいくと、あといつ来られるのかという不安から借りてしまいます。
 ひさしぶりに垣谷美雨作品をふたつ借りました。今日は「老後の資金がありません」(中央公論新社)から。

 パート主婦の後藤篤子は、娘の結婚式に六百万円かかると知って愕然とします。
 地味な娘のさやかは、年下のサラリーマンとの結婚を決めたのですが、彼の実家が大手スーパー経営とあってかなりの出費に。
 さらに義父が亡くなり、喪主をつとめたところ、こちらもかなりの金額。友人のサツキと話していたら、とにかく葬式にかけるお金は抑えたいと言っていた彼女の父は、アットホームな心に残る式を計画し、それを実践したことを知ります。
 貯金はあった、はず、なのに……。
 あっという間に減ってしまったお金をなんとかしないと、老後は不安で仕方がないとおびえる篤子ですが、他の人以上に働いても正社員にはなれず、しかもリストラを言い渡されます。
また、さやかが暴力を振るわれているのではないかとの疑念もあり、心休まる暇もありません。
 そして、さらに夫まで職を失い、毎月の仕送りにも事欠いて義母と同居することに。

 子どもの学費、高いですよね。
 老後のことを考えると、わたしもうすら寒く感じます。
 この作品でもっともバイタリティがあるのは、老人施設にいる義母だと思います。同居後の行動に驚かされますよ。
 老後の資金を貯めておかなければと思いました。

「ぼく、牧水!」伊藤一彦・堺雅人

2016-07-14 22:37:46 | 詩歌
 詩歌に関心がある昨今。図書館の棚も熱心に見てしまいます。
 昨年一度借りたものの途中で返却した「ぼく、牧水!」(角川ONEテーマ21)を借り直しました。なにしろ気になって気になって。
 俳優の堺雅人さんが、高校時代の恩師伊藤一彦先生と、若山牧水について対談する。伊藤先生は社会科教師で歌人。カウンセラーでもある方で、ちらちらとめくっただけでも二人の親密さが伝わってくるのです。
 堺さんと一緒に、わたしも牧水のことを教えていただきたい! と思いまして。
 牧水といえば「白鳥は哀しからずや」や「幾山河越えさりゆけば」、それから酒好きというイメージしかなかったわたしですが、彼の「あくがれ」や「あめつち」に着目する伊藤先生のお話になるほどなぁと思わされます。
 わたしのイメージよりも、牧水は言葉感覚が繊細ですね。

    吾木香すすきかるかや秋くさのさびしききはみ君におくらむ
    海底に眼のなき魚の棲むといふ眼のなき魚の恋しかりけり
    きゆうとつまめばぴいとなくひな人形、きゆうとつまみてぴいとなかする
    なにゆえに旅に出づるや、なにゆえに旅に出づるや、何故に旅に
    先生のあたまの禿もたふとけれ此処に死なむと教ふるならめ
    
 全体的にみると、やっぱり酒と旅の歌が多いようです。で、堺さんは牧水の「日向人」としての感性に目を向ける。
 わたしは東北からほとんど出ないので、宮崎なんてすごく遠い国のように思うのですが、やっぱりその土地土地の「気質」があるのですね。(お二人は地酒にたとえていました)
 
 わたしは堺さんのドラマについて知識はあるのですが、余りテレビをつけないためちゃんと見たことはありません。でも、どんな役をやりたいと注文をつけないとか、役づくりのために「型」から入るというお話、大人になるのも悪くないなんて考えを知るとがぜん興味がわいてきます。
 また、哲学なども積極的に読んでいて、読書を自分のものにしているのが魅力的ですね。
 以前から気になっていた「文・堺雅人」を読んでみたいと思います。彼も、書かずにはいられない人なのだろうと感じました。

「紙コップのオリオン」市川朔久子

2016-07-12 21:36:54 | YA・児童書
 すごく良かった! 市川朔久子「紙コップのオリオン」(講談社)。
 中学二年生の論里は、ふとしたはずみで創立二十周年記念行事の実行委員になってしまいます。
 親友の元気はともかく、くじで選ばれたあと二人は、外見に気を使わない独特な女子の水原白(ましろ)と、不良じみた河上大和。面倒くさいと思いながら、サボるわけにもいかずに参加しています。
 論理の母親は突然旅に出てしまい、個性的な妹の有里と血のつながらない父と生活して数ヶ月の間の出来事を描いているのですが、論里がどんどん責任に目覚めていく姿が頼もしい。
 はじめは乗り気じゃなかったのに、「キャンドルナイト」の提案をきっかけに、白や先輩に触発されて実行委員の中心になっていきます。
 白の一途さもいいんですよ。キャンドルで何を表現するか、という話し合いの場面が特に。
「大事だから、そんなに簡単に表しちゃいけないと思うんです」
 こういうのは、彼女にとってすごく勇気のいることだったと思います。それが伝わっているから、論里もどういうデザインにするか悩んだのでしょう。
 彼女のお母さんが言ったという「人の名前を軽んじる人は、人のことを大切になんかできない」という言葉、ずしんときました。
 紙コップで描く、キャンドルの冬の星座。
 イメージしただけでも、すごく印象的です。おすすめ。

「子どもの心に本をとどける30のアニマシオン」

2016-07-08 05:52:52 | 書評・ブックガイド
 娘の通う小学校ではアニマシオンの日があります。
 昨年は昆虫をモチーフにした展開だったと聞きました。
 図書館の新刊棚にあった「子どもの心に本をとどける30のアニマシオン」(かもがわ出版)。著者は岩辺泰吏&読書のアニマシオン研究会。

 わたしはアニマシオンが紹介されてすぐに本を買ったものの、授業で取り上げたことはほとんどないように思います。
 ただ、今回さらっと立ち読みしたら、「オオカミがにげた!」という実践が出ていて、これは次の教材にぴったりなのではないかと借りてきました。
 オオカミが出てくる様々なジャンルの本から内容を抜き出してパネルをつくるのだそうです。絵本や文学だけでなく、辞書からも!
 ということで、図書室にあった「グリム童話」「シートン動物記」「どきん」(谷川俊太郎詩集)、自宅にあった「オオカミの謎」「子どものための読み聞かせ童話」などから紹介してみました。
 調べているうちに衝撃を受けたのは漢和辞典。「狼」で始まる熟語のほとんどが、判で押したように「狼のように欲深い」と書いてある! (「狼虎」「狼戻」といったところ)
 中に「狼疾」というのがあったのですか。
「普段は反省できる狼も、病気のときには反省できない」という謎の説明があり、狼の反省って?? と非常に不思議だったため、別の辞書を読んでみました。
 「体は前を向いたまま首だけで振り返ることができる狼が、病のときはそれもできない」という意味だそうです……。
 中国でも狼のイメージは、それほどよくないのですね。やっぱり遊牧民もいる文化だからかしら。
 

「うた合わせ」北村薫

2016-07-05 22:34:51 | 詩歌
 北村先生! わたしにもやっと詩歌のおもしろさがわかってきたように思います。「詩歌の待ち伏せ」は全くついていけなかった情けないわたしなのですが、このところあれこれ読んで、現代短歌に親しみを感じております。
 教科書に載っているのは、ほとんどが近代短歌です。茂吉、晶子、啄木、寺山、そして俵万智。だから、永田和広「現代秀歌」をめくってみても、なんだか実感として遠い。「近代秀歌」の方が親しみがわくくらいです。(もしかすると、茂吉の「万葉秀歌」の方が読みやすいかも……)
 歌人も穂村さんの「ぼくの短歌ノート」で知った人が多いですね。

 この本、北村先生が二人の歌人から選んだ歌を五十組紹介してくださいます。そして、丁寧な読み方鑑賞指南。
 取り合わせの妙や、北村先生の選球眼に感心しきりです。
 ただ、この読み方は短歌の実作者とは隔たりがあるようです。つむじ風とパンの袋の解釈とか。いやいや、確かにコルネをつむじ風に見立てるというのはかなり強引ですが。
 読んでいて、出版に携わる方々の歌集がおもしろそうなんですよ。でも、それは北村薫というフィルターを通すからかもしれません。
 ラストにある鼎談もすごくおもしろい! 
 短歌のアンソロジー、何回も繰り返して読むことが興味につながるのかなと思いました。なんとなく読んだ作品も、違う出会い方をすることがある。それを振り返る楽しさ。
 数年前に自分の好きな短歌を五首選びましたが、今ならまた違う作品を選びそうです。
 現在、わたしの関心を引くのは、奥村晃作氏ですね。ネットで検索して転記したところ、四枚びっしり集まりました。おもしろいのでぜひ。

「ハレのヒ食堂の朝ごはん」成田名璃子

2016-07-04 05:36:38 | 文芸・エンターテイメント
 なんか食べ物ジャンルの本ばかり読んでいる気がしますが。
 「すみっこごはん」がおもしろかったので、成田さんの本を買ってきました。「ハレのヒ食堂の朝ごはん」(ハルキ文庫)。
 アルバイトをクビになり、行き倒れそうな深幸。ホームレス状態でベンチに倒れ込んだ翌朝、極上の猫まんまの噂を聞きつけます。
 ふらふらと近づいたところ、ボス猫に攻撃されて気を失ってしまいました。
 目を覚ましたとき、目の前にはおいしそうなお粥が!
 そして、おそろしく美人の晴子さんと、妊娠している小夜さんの二人と知り合うのです。
 「アラン会長」と呼ばれるホームレスの長からすすめられて、晴子さんの家に居候することになるのですが、どうも晴子さんは秘密がありそうな……。
 二人とも所謂「コミュ障」。ハレのヒ食堂もなかなか繁盛しない状態です。朝食専門で、毎朝三人しかお客さんが来なかったらやっていけませんよね。
 その三人のうち、女子高生の茜ちゃんと話すうちに、深幸も店をなんとかしたいという気持ちが湧いてきて……。
 アラン会長の素姓とか、ダンさんの秘密とか、晴子さんの幼なじみ雅志とか、ひよこの誕生とか、小技もきいていて笑ってしまいます。(卵をとりにいくときの深幸の自信がおもしろい!)
 わたしも昔、夜店で買ったひよこを家で育てたことがあります。朝からすごい声で鳴いていたなー。
 アラン会長も認める朝採り野菜のサラダを食べたいですねー。
 
 ところで、「シルキークイーン」っていうお米が出てくるのですが、「ミルキークイーン」のことですよね?