くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「叙述トリック短編集」似鳥鶏

2018-10-21 08:38:46 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 似鳥さんのブログで新刊紹介されていたので、早速買いました。
 「叙述トリック短編集」(講談社)。
「この短編集はすべての短編に叙述トリックが含まれています。騙されないよう、気をつけてお読みください」と、表紙カバーに書かれていますが、これも本の上部に帯がついているという異色の装丁。外すと絵が変わり、タイトルも「叙述(似)鳥ック短編集」……(似)のみ色が違います。
 叙述トリックはかなり好きです。
 今回、かなり強引すぎるトリックもありましたが。
 わたしがいちばん好みなのは、「背中合わせの恋人」。堀木くんと平松さんの交互視点で展開し、二人のもどかしい恋愛が語られます。作中のある「誤解」は、この短編集全体のキイポイント。
 似鳥さんは、さらに「読者への挑戦状」でも、仕掛けてくれます。「一人だけ、すべての話に同じように人が登場している」と、作品の並びについて太字で書いてある(笑)。
 人物の方はすぐ分かりましたが、その他にもサービス満点ですよ。
 「ニッポンを背負うこけし」は、宮城県が舞台で興奮しました。(いろいろ考えた結果、モデルは大河原町だと思います)
 駅のモニュメントこけし「お種ちゃん」が、いたずらされる可能性があり、別紙探偵事務所がそれを防ごうと動き出します。
 助手の三ツ木は、所長とともに現場を見張ることに。
 これまで犯人グループは、坂本龍馬像にバズーカを持たせるなど様々なモニュメントに不可解ないたずらをしており、次のターゲットが「お種ちゃん」らしいのです。
 斎川は小さな駅で、東口と西口を見張れば犯人は捕まるだろうと思っていたのですが……。
 町の観光課係長が菅原さん、駅員が千葉さんという名字で、このへんには非常に多いので、これもわたしにはツボでした。
 叙述のための一作、みたいなものもありました。
 いつもはあとがきから読むわたしが、今回は少し読んで「やっぱりあとにしよう」と思ったのは正解でした。答えを知ってしまっては、面白味が半減しますよね。
 なんにせよ、似鳥さんらしい一冊です。

「後宮に星は宿る」篠原悠希

2018-10-11 19:53:17 | ファンタジー
 夏の旅行の帰りに横浜のアニメイトで買いました。
 二冊目まで買ってあるのですが、もう五冊くらい出ているのですよね。
 篠原悠希「後宮に星は宿る 金椛国春秋」(角川文庫)。
 金椛国(椛は国字ですが、舞台設定は唐や漢代をイメージしているそうです)の名門に生まれた星遊圭は、幼い頃から病弱です。薬師の胡娘から薬学の知識を学び、やがては宮中に出仕して……と、考えていたのに、皇帝の崩御により殉死を求められます。
 叔母の玲玉が正妃となったため、一族は粛正されることになったのです。(外戚の権威を封じる策がとられているためです)
 一人で逃げることになった遊圭は、以前手助けした娘明々に救われ、彼女とともに後宮で下働きとして働くことに……。

 いつ男とばれるかはらはらしている遊圭に、宦官の玄月は手助けをしてくれますが、次第に利用されるようになります。
 こういう男女入れ替わりものは結構好き。
 遊圭を救ってくれる厨房の趙婆や、ペットだった「天狗」(狸に似た外来種だそうですが……アライグマでしょうか)のキャラクターもいいですよ。

「ねんねこ書房謎解き帖」

2018-10-10 05:28:56 | 時代小説
 伽古屋圭市「ねんねこ書房謎解き帖 文豪の尋ね人」(実業之日本社文庫)を読みました。
 この「文豪」は永井荷風。馴染みのカフェーから姿を消した女給さんを探してほしいといいます。
 ねんねこ書房は、神田古本屋街から少し入った路地にある古書店。主の根来佐久路は文筆の傍ら「萬相談」も行っています。
 関東大震災で職を失った石嶺こよりは、なんとか雇い先を探そうとこの店にやって来ます。
 そこで目にしたのは、兄の相談にきた若い女性でした。彼女の話を聞いただけで、佐久路にはある程度は推理ができた様子。真相を知りたがるこよりに、芥川の「羅生門」を差し出した佐久路は、まず自分で考えるようにいうのでした。

 「羅生門」は、教育実習でやったなぁ。芥川が結末を変えたということも知っています。
 全体的に芥川のエピソードが多いですね。こよりもすっかり読書好きになっていきます。
 他には、涙香の「幽霊塔」、谷崎「秘密」、村井弦斎「食道楽」、そして、荷風の「ふらんす物語」。
 あらら、わたし、どれも読んでません。(近代文学を最も読んだのは学生時代かも)
 でも、こういう文学ものは好きですね。文豪エピソードものはものすごく好きなので、無駄な知識はやたらあります。

 評判の西洋料理店に怪異の噂が流れる話がおもしろかった。女主人が、「この地は呪われてなどいませんし、怨霊もいませんから」とはっきり言う理由が印象的でした。
 

「父からの手紙」小杉健治

2018-10-09 05:38:42 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 もうかなり前ですが、美容院で見た雑誌に、「父と子の旅路」という作品が紹介されていて気になったのです。
 図書館にはなかったのですが、同じ棚に「土俵を走る殺意」が!
 この本、学生時代に友人間で話題になりまして。
 なんといっても題名がすごい! 相撲ミステリというのもすごい! といいながら、そのあとも何度も目に触れたのに読んだことがなかったのです。
 そんな中、書店でこの「父からの手紙」(光文社文庫)が今プッシュされていることを知りました。
 図書館から借りてきたものの、あれ? 図書準備室に、あるじゃないこの本……。
 というわけで、いつでも読めると思ったまま時間が経ってしまったのです。

 婚約を控えた麻美子のもとに、今年も父から手紙が届きます。
 中二のときに母と離婚して出ていった父は、彼女と弟の伸吾の誕生日には必ず手紙をくれます。その後一度も会えないものの、父はどこかで見守ってくれると思っていますが……。
 家族同然に過ごしてきた山部家の事業に融資することを約束に、マミコは離婚歴のある高樹と婚約します。
 しかし、ある日高樹と、愛人の知世が死体で発見され、伸吾が容疑者として逮捕されてしまうのです。
 
 また、この作品は麻美子と圭一という男の視点が交互に語られています。
 圭一は、かつて「悪徳警官」と呼ばれた男を喧嘩の末殺してしまい、九年間服役していたのです。
 なぜ、そのときそれほど激昂したのか。
 彼自身がそれを思い出せず、義姉への思慕と嫉妬があったからではないかと後ろめたいものがある。
 以前同棲していた歌子が離れていったこともつらく、なかなか立ち直れずにいます。

 実のところ、手紙は父が書き留めていたものを誰かに託したのだろうというのは、かなりはじめの方で見当がつきます。
 なぜ父は出ていったのか。圭一との関わりはどこで判明するのか。義姉は今どうしているのか。
 麻美子は婚約者になんの思い入れもなく、かえって山部の息子に思いを寄せていますし、もう十五年前の作品だからか古さを感じるのは否めません。
 だいたいすぐ女がお茶を淹れようとするし(笑)。人の家でですよー。
 圭一を目撃者にするためにみどり(義姉)は、妊婦だというのに東京に行ったり駅に行ったり結構大変ですよね。
 主人公二人はやたらとフットワークが軽く、埼玉や魚津とあちこち行きますが、二人とも無職だから?
 うーむ、「土俵に走る殺意」はいつか読んでみるべきでしょうか。

「新卒ですが、介護の相談うけたまわります」

2018-10-08 18:45:05 | YA・児童書
 いぬじゅんさん、介護のお仕事されていたんですねぇ。
 そのときの経験をいかして書かれたのが、「新卒ですが、介護の相談うけたまわります」(メゾン文庫)。
 中学生のころから福祉の仕事に就きたいと努力してきた里枝。念願の社会福祉法人に入社したものの、配属先は「介護保険外相談所クルクマ」という思ってもみない事務所。従業員は三人(所長の海吾、事務員のせつ子、里枝)で、ユニフォームはツナギ。
 娘の希望する進路に反対するお母さん。区画整理に納得できない袴田さん。訪問介護の大場さんが盗難の疑いをかけられたり、新卒のメンバーが次々辞めてしまったり、いろいろな相談が持ち込まれます。一回五百円。
 総合的な学習の時間で福祉について学ぶのですが、こういう本を図書室に入れるのもいいかなーと思いました。
 介護の問題を考えるのは、高齢化社会では必須のことだと思います。
 若い世代の人にも身近なこととして考えられるのではないでしょうか。

「流鏑馬ガール!」相戸結衣

2018-10-07 20:48:56 | YA・児童書
 買ってからずいぶん経ちますが、読みはじめてからは一息でした。
 相戸結衣「流鏑馬ガール! 青森県立一本杉高校、一射必中!」(ポプラ文庫ピュアフル)。
 青森県十和田に住む倉田舞衣子は、親しい先輩の樹に誘われて弓道部に入ります。
 同じクラスの沙川美鶴が、かつて国体で活躍したことを知り、部活に勧誘しますが、素晴らしい腕前を披露した美鶴は、自分が流鏑馬をするつもりで十和田に来たこと、そして、舞衣子も一緒に流鏑馬をやらないかというのでした。

 実は、舞衣子は小学生ながら破格の実力を持った流鏑馬の選手で、中級で優勝し、まさに上級に挑もうとした矢先に、落馬事故を起こした過去がありました。
 そのときのショックと、愛馬ララを失った苦しみから、舞衣子は流鏑馬を避けていたのです。
 父のビデオカメラを壊した弁償のためにアルバイトをすることになり、舞衣子は四年ぶりに乗馬クラブを訪れますが……。

 ララの妹馬ナナとめぐり会うシーンは、涙がとまりません。
 自分のために安楽死されたララ。そのときのことを思い出すからと弓道に転向し、流鏑馬の話題すら避けていた舞衣子が、自分の本当にやりたいことや、美鶴の気持ちに気づいていくのがいいですね。 

「四十歳、未婚出産」垣谷美雨

2018-10-02 05:17:30 | 文芸・エンターテイメント
 垣谷さんの話って、予想外の設定と等身大の人物が楽しいんですよね。タイトルいつも直接的ですが。
 「四十歳、未婚出産」(幻冬舎)。
 今回も、そのままです。三十九歳の宮村優子(旅行代理店勤務)は、部下の水野(二十八歳)とカンボジア視察に出かけて、一夜の関係を持ちます。
 そこで妊娠。未婚で出産? このまま仕事は続けられるの? 職場でばれたらどうしよう。水野には伝えるべき?
 いろいろと悩む優子ですが、田舎の閉鎖的な環境や家族の問題も絡んで複雑に。
 水野の彼女紗絵が妊娠のことを知ってしまい、咄嗟に高校時代の友人凡庸(住職)の名を出してしまい、いつの間にか会社でも郷里でも妊娠を知られてしまい……。
 なかなかのジェットコースターぶりです。

 兄と再婚するブラジル人のマリアさんが素敵です。
 息子のリカルドの就学問題は考えさせられますね。学校はどう動けばいいのか。
 最後はお母さんのモノローグですが、優子の本心が伝わってきてかわいいですよ。

「ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と無事な客人たち」

2018-10-01 17:11:40 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 わーい、続刊です
 三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 扉子と不思議な客人たち」(メディアワークス文庫)。
 扉子とは?
 そう、大輔と栞子さんの娘です。六歳。
 今回は、栞子さんが娘に、本と友人に関わるエピソードを語る短編連作です。
 坂口夫妻の家を訪ねることになった姪の由紀子。家族とはわだかまりがあるものの、父が白秋の「からたちの花」の文庫を届けてほしいというので、ビブリア古書堂に向かいます。
 お店は、北鎌倉にあるのですね。夏に旅行したとき実際降りなかったので、ちょっと後悔。今回はホームの様子などはイメージできました。
 亡くなった息子が「母との思い出の本」と言った本を探してほしいという依頼から、ゲームに関わる本ではないかと推理する第二話。巻末に参考文献があるのでばれそうなものですが、そこもうまく処理してあります。(大輔の本についてもね!)
 それから、志田と奈緒と少年の話。「雪の断章」! 懐かしい! 学生のとき友人岸さんに貸してもらいました。斉藤由貴の映画もありましたよね。
 シリーズ既刊全部読んだはずなんですが、その時点である「謎」が解けていなかった気が……。
 わたしが読んだのも文庫です。図書館にあるので借りてみようー。
 ラストは内田百間(携帯のためか、正しい字が出ません……。でも、参考文献も片方間違っていますよね)の稀覯本をめぐる物語です。
 買ったその日(昨日です)に一気に読みました。楽しかった。