くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「『罪と罰』を読まない」岸本佐知子ほか

2016-02-06 12:57:59 | 書評・ブックガイド
 『罪と罰』ですか?
 読みましたよ、高校二年の冬休みに。祖父の本棚にあった世界文学全集で。
 宿題だったんです。でも、ちゃんと読んだのは多分二十人いなかったと思う。(三百二十人くらいはいた学年でした)
 途中で挫折してもいいからとか、第一部をクリアすればあとはおもしろいからとか、国語担当のK先生に言われました。夏のサンクトペテルブルグの物語を、わたしはこたつで読んだわけです。
 言われた通り、慣れるまで大変でしたが、ペースに乗ったらぐいぐい引かれておもしろかったのです。
 新学期にK先生に「スヴィドリガイロフ氏がよかった」と言ったら、
「あなた、あんな虚無的な男はだめよ」と言われました。いや、だって、ラスコーリニコフはもっとだめでしょう。(今、予測変換にラスコと打つや否や「ラスコーリニコフ」が出てきました! そ、そこまでの知名度なの? 衝撃!)
 
 「『罪と罰』を読まない」(文藝春秋)。岸本佐知子、三浦しをん、吉田篤弘、吉田浩美の四人が、『罪と罰』を読んだことがないことを肴にどんなストーリーなのかを予想する。
 おもしろい試みです。くすくす笑ってしまいます。特に三浦さんの爆走ぶりが。(そして、読後も詳細なメモをとっています)
 また、岸本さんの独特の感性。実際に読んだあと、こんなことを言うんですよ。
「ラズミーヒンは修造だよね」
 ずっと松岡修造の声で脳内再生されていたそうです。
 「黒山の人だかり」とか「富士額」とかは翻訳に使いにくいというお話も納得でした。
 また、浩美さんはかつて影絵版の『罪と罰』を見たというのですが、記憶に改竄があることに気づいたというエッセイを書かれていて、これもすごくよく分かる。篤弘さんとのコンビネーションもなんかおもしろいです。

 『罪と罰』は、読んでいないか内容を忘れている人が多いとどこかに書いてあったと思いますが、意外と細かいことを覚えていて自分でもびっくり。スヴィドリガイロフ氏は当時、ちゃんと名前を覚えなければと頑張った甲斐あります。会話にさっぱり出てこないから、あれ? 違う話と混じってる?? と思ってしまいましたが、「アメリカに行く」とピストル自殺することも記憶に残っていました。
 ただ、わたしの印象ではソーニャに春を売るように言う母親のセリフがちょっとひどいと思ったのですが、三浦さんたちはカテリーナに好意的ですよね。
 ぜひ、他の作品でも予想読書会してほしいです。でも、三浦さんがこの作品を読んでいなかったのは意外だったな。(手頃な読んでない本を探すのが難しいですかね)
 篤弘さんは、本来は同人誌として出そうと思っていたと書いてらっしゃいますが、こうやって出版していただけて幸いです。楽しい雰囲気が、あちこちから感じられて、わたしも隣のテーブルで笑いをかみ殺しなから四人のお話に耳をそばだてている感じがしました。