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因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

演劇集団円 ドラマリーディングvol.2「岸田國士を読む その1―あゝ、結婚―」 

2011-07-29 | 舞台

*岸田國士作 公式サイトはこちら ステージ円 30日まで
 結婚をめぐる三つの作品を次の演出で。
「頼母しき求縁」 大間知靖子演出
「葉桜」 小森美巳演出
「紙風船」 小川浩平演出

 岸田國士作品に関する記事はこちら→1,2,3,4,5,6,7,8,9,10
 特に意識していなかったのに案外な本数であることに少し驚く。
 いつもよりも高めに作られた舞台には椅子と譜面台(この場合は台本台というのだろうか)、上手にト書きを読む俳優が位置する。極めてシンプルな形式のリーディングであった。3つの作品のうち、はじめてみる(聴く)「頼母しき求縁」 がもっともおもしろかった。

 結婚相談、仲介所で行われる一組のお見合いの様子を描いた作品である。父親に連れられた娘は具体的な条件をいろいろと提示し、強気な姿勢だ。相手の青年は年上の従兄に付き添われ、この縁談がまとまらないなら、もう自分は結婚などしないと悲壮感を滲ませている。両者が話をするうちに、青年のの内容はほぼでたらめであることが次々に明かされるのだが意図的ではなく、娘の提示する条件に合わなければ合わないほど、多少素っ頓狂なところはあるものの、彼が良心的で伸びやかな心をもった人物であることがわかってくる。
 まともな収入も財産もなく、毎月どうして暮らしていらっしゃるのですかという娘の問いに、毎月はどうかわからないが、毎日ならやっていってますとにこにこしている。開き直っているわけでもなく、事実をありのままに話しているだけだ。実に清々しい。
 青年に水仕事など出来ますかと聞かれた娘は、やってみなければわかりませんわと次第に打ち解け始める。最初はまったく一致点などないと思われた男女が、いったいどんなめぐりあわせか、まさにご縁としか言えない不思議な導きによって意気投合する。まさかの展開。いやこうしてみるとなかなかお似合いのふたりではないか。客席に温かな微苦笑がひろがる。仲介所の職員?を演じた高間智子の台詞は、聞いているこちらの背筋が思わず伸びるほど格調高く美しい。ベテラン、中堅、若手みな過不足なく演じてすっきりとした味わいを残す。

 「葉桜」に描かれる母娘の泣き笑いの会話は何度みてもしっくりこないのだが、柳川慶子演じる母親が、娘に自分のような苦労はさせたくないと願いながら、結婚を迷う娘の背中を押す姿に胸が疼いた。「紙風船」の終幕、隣家の少女が投げ入れた紙風船と戯れる妻をみつめる夫のまなざしに、胸が締めつけられる。どうしてこの人はこんなに切なげな眼で妻をみるのだろう。

 結婚難の時代と言われる一方で3月11日の大震災以降、結婚が増えたという報道も目にした。家族の絆、人と人とのつながりがいっそう求められるなか、社会の孤族化の根は深い。誰と結婚すればよいのか、そもそも人はなぜ結婚するのか。正解のみつからないことのなかに宿る奥義を岸田國士戯曲の世界に探す。不思議で贅沢な90分のステージであった。
 

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