「ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争 (America and the Korean War)」(デヴィッド・ハルバースタム) (山田耕介・山田侑平 訳 文藝春秋)
David Halberstam(1934-2007)の遺作である。最後の校正を入れた直後に自動車事故で死亡した。
ハルバースタムの著作でなければ、朝鮮戦争の、それもこの上下1000ページにもおよぶ本を読む気にはならなかっただろう。
なにしろ戦場で多くの細かい戦闘を読むのはかなり骨が折れる。気分的にというより、状景、特に地勢、位置関係をイメージするのが、これだけ詳細に描かれていても難物だからである。
それでも、これが現場に関わった多くの人たちに、膨大な時間をかけてインタビューを行い、それに基づいて書いていく、という著者のスタイルだから、それには多くの細かいところは読むそばから忘れていくことになっても付き合うしかない。
それにしても、この世界大戦とベトナム戦争の間におこなわれた戦争については、あまりイメージしてこなかった。映画も多くはない。MASHなんかも戦争が直接描かれているわけではないし、あれは実は、ベトナム戦争を描いているそうで、多くの国民子弟が送られている戦争をいくらなんでも直接ああいう風には扱えなかったらしい。
そして、指導者レベルで主要登場人物は、トルーマン、マッカーサー、毛沢東、彭徳懐(軍人)、スターリン、そしてとりわけ皆マッカーサーにてこずった。金日成、李承晩はここでは脇役であり、善悪とは別に、あまり大した人物として扱われていない。
何十億という人民をいくらでも使えるという毛沢東の戦略は、おそらく最初は予想できなかったもので、これが都市型でない農村型、そして核兵器で攻撃されても降伏しないというこのスタイルは、現場では怖ろしいものだろう。
トルーマンという人は、私のイメージでもルーズベルトとアイゼンハワー、ケネディにはさまれた、特徴のない、無能の大統領であったが、ハルバースタムが書いているように、最後にマッカーサーを解任、リッジウェイにまかせた、という大統領としてやるべき勇気ある決断をした、ということが理解できた。時はマッカーシズム、赤狩りがあった米国である。
そして、こわいのは戦場で自分に気に入らない情報を握りつぶし都合のよいものを捏造するマッカーサーのような司令官とそのとりまきである。そして彼らはきわめて政治的にふるまい、結果として政治に口を出すことになる。
解説にもあるとおりハルバースタムは完全な反戦ではない。ただ、戦争が始まってしまったときに、優れた軍人とそうでないものとでは、どれだけ違うか、ということには、明解である。リッジウェイの描き方にもそれは表れている。
そういえば、名前の知られている軍人が必ずしも空母・艦船の名前、基地の名前に残っていない、残っているのはやはり優れた軍人として評価されている人、のようである。
ハルバースタムは「ベスト&ブライテスト」でケネディ、ベトナム戦争を書いたが、朝鮮戦争との間、つまりアイゼンハワー時代については、まとまった著作はないのではないか。この本で、朝鮮戦争の終結とともに登場するアイゼンハワーはバランスがとれた優れた軍人であったようで、共和党?という感じだったらしいが、民主党の長い時代に国民があきたこともあり、大統領になって、国民にも愛された。アメリカにとっては戦後のもっとも良い時代だったかもしれない。
ハルバースタムで読んだのは、「ベスト&ブライテスト」(1972)、「男たちの大リーグ(Summer of '49)」(1989)(ヤンキースとレッドソックス 因縁の死闘)。「覇者の驕り」(1986)(日米自動車戦争)はこれをもとにしたNHKの番組は見たが読んでいない。