メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

「天路の旅人」いくつか

2023-01-22 10:36:16 | 本と雑誌
天路の旅人(沢木耕太郎)について2回前(1月13日)に書いたが、もう少しいくつか。
 
西川一三が1943年に密偵として内蒙古から中国の奥地を経てチベット、インドへほとんど単独で赴いた。意外なのはそれまでチベットのラサに足を踏み入れた日本人はわずかに7人、西川が8人目だった、と書かれている。チベットが鎖国状態だったからでもあるが、その中でたいへんな苦労をして潜入した人たちがいたのは、やはりこの地、そこまでの路に魅せるものがあったのかもしれない。
 
最初は河口慧海(かわぐちえかい 1866-1945)という黄檗宗の僧侶である。やっぱりそうかと思った。なぜかと言えば、東北大学のデジタルアーカイブを調べた時、そこに河口慧海の事績、資料があり、記憶にあったからである。
1901年のことであり、8人目の西川が内蒙古を発ったのが1943年、河口がなくなる少し前ということになる。
 
また西川が書いた「秘境西域八年の潜行」が刊行されたのは1967年、改訂版は1990年、帰国からかなり困難もあり、いろいろな経緯を経てのことであった。沢木はこの間の経緯についても関心をもって深く追求し、それはこの本の本質につながるものとなっている。
 
刊行から改訂までのプロセスにはさまざまな人の名前がでてくるけれど、そのなかに神吉晴夫(カッパブックス)、加藤謙一(講談社)という有名編集者が出てきた。当時は力のある編集者がそうはいなかったのかもしれない。
 
昨日(1月21日)、日本経済新聞朝刊読書欄の文芸書ベストテンで本書がトップになっていた。
こういう大冊(570頁、2400円)が1位になるのは珍しい。


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