メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ブリテン「ベニスに死す」

2015-07-17 21:14:18 | 音楽一般
ベンジャミン・ブリテン:歌劇「ベニスに死す」
指揮:アレホ・ペレス、演出:ウイリー・デッカ―、原作:トーマス・マン
ジョン・ダザック(アッシェンバッハ)、リー・メルローズ(旅人など7役)
2014年12月 レアル劇場(マドリード) 2015年5月 NHK BS
 
ブリテンがこれを作ったのは知っていて、観たいと思っていたが、かなり時間がかかってしまった。マンの原作を用いたものとしてはもちろんヴィスコンティの映画があまりにもよく知られている。ブリテンはこの映画にたいへん感銘を受け、オペラを構想したという。あの映画のあとに、というのは、ブリテンはやはり大物である。
 
映画の主人公アッシェンバッハは作曲家だったが、ここでは原作どおり作家である。映画を見た人がこれを見ることが多い、ということをブリテンは想定しているだろう。それにあえて逆らうことはなく、そこは自然に進んでいく。演出特に美術がすぐれていて、数少ない調度と傾斜、そして空と雲による効果的な背景スクリーン(マグリットを思わせる)、照明は中心部分の人物の近くに集中している。細部へのこだわりとそれに対するカメラが際立った映画と比べると、そこは象徴的なもの。
 
だが、映画は見えるものにこちらは集中するけれど、オペラは音楽で見える者の内面に入っていくというところがある。
登場人物の中心は主人公と、彼をさまざまに挑発したり、誘ったりするさまざまな役の二人、彼らはまさにはまっている。ダザックは姿、表情など、こちらのイメージにぴたりで、映画のダーク・ボガード以上かもしれない。もっとも意識してボガードに似せているところもある。歌唱、演技もいい。
 
7役のメルローズは、本当に達者で、あの映画の道化(ここでも集団で道化は出てくるが)の役割も含め、主人公の想いと迷いを後押しする。メフィストフェレスといってもよく、映画にあった同じマンの「ファウスト博士」中の「砂時計、、、」はここでも出てくる。
 
音楽は全体に聴きやすく、ドラマをうまく運んでいく役割。個人的には、同じブリテンの「ピーター・グライムズ」のつらさはない。考えてみればブリテンのオペラには他に「真夏の夜の夢」、「カーリュー・リバー(隅田川)」があり、ずいぶんバラエティに富んでいる。「カーリュー・リバー」だけ見ていない(聴いたことはあるけれど)。
 
あとひとつ、今回特に感じたことで、英語はオペラに向かないかないのではないか。いろんな音楽語法に通じているイギリスのブリテンでこうなのだから。英語が向いているのは、民族歌謡をのぞくと、やはりミュージカルだろうか。それがその後、英語圏におけるポピュラー、ロックなどの隆盛につながっていると考える。

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