メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ヘミングウェイ「移動祝祭日」

2013-11-06 14:25:51 | 本と雑誌

アーネスト・ヘミングウェイ 「移動祝祭日」 ( A Moveable Feast )

高見 浩 訳 (新潮文庫)

 

ヘミングウェイ(1899-1961)の作品で主要なものはほとんど読んできたが、これはまだであった。またこのタイトルとパリ時代のことを書いているということから、「日はまた昇る」と同様の初期作品と思っていた。ところがその反対で、最晩年に書かれ死後の刊行である。

 

1921年~1927年、最初の妻ハドリーとパリに住み、いわば作家修行をしていた時代、その生活、出会った人たちとの交流を、そのころのパリを背景に描いている。特に、ガートルード・スタイン、エズラ・パウンド、スコット・フィッツジェラルドとの交際には多くのページがさかれており、部分的にフィクションもあるらしいが、ヘミングウェイの作家としての成長、特にその目的意識が感じられるものとなっている。有名人以外では、シェイクスピア書店のシルヴィア・ビーチ、彼女は作家にとって欠かせない人だったようだ。

ヘミングウェイに対してはいろいろなイメージがつきまとい、私もそれに影響されていないとは言えないが、本書の訳者高見浩がつぎつぎと新訳を出し、それで再読しだしてから、つくづく彼は文章の人ということがわかってきた。 形容詞を極力省略するようにしていたらしいということだが、それはそうだろう。

 

私のように、書く文章がこれまでほとんど仕事の文章であれば、形容詞には注意しなければならないのだが、それほど意識的になれたかどうか。今でも大学では「理科系の作文技術」(木下是雄 中公新書)が文科系の学生にも推奨されていて、それはいいことだと思うし、私も授業で薦めることがある。「事実と意見」という形で。

 

ただ文学でもヘミングウェイのように、というのはかなりの決意である。

 

フィッツジェラルドとの交流は、愛憎混じった変な成り行きであるけれど、おたがいその力は認め合っていたらしい。といってもそれは解説を読んで知ったことで、ここに書かれた作品では、ぼかされている感じがある。

 

ここに出てきた人たち、この時代、場所は、ウディ・アレン監督・脚本の「ミッドナイト・イン・パリ」(2011)とまさに重なっている。様々な魅力があり、アレンが惹かれるのはわかる。

 

そのうちまた初期の短編集を読んでみよう。

 


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