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メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

鍵 (谷崎潤一郎)

2009-10-05 14:52:47 | 本と雑誌
「鍵」(谷崎潤一郎 著、1956年)
読むのは初めてである。「鍵」を知ったのはおそらく1959年の映画公開時の評判だろう。その後、どういうものかという情報は多少頭にはいってきていた。
 
読んでみると、これは随分変わった小説である。そのテーマ、対象は56歳の大学教授と46歳の妻、この二人の性と死、これに実の娘と教授の後輩がかかわり、嫉妬とそれを利用した刺激、あやしげなたくらみ、である。そして、周囲の人々、社会についてはほとんど具体的な描写はなく、この新潮文庫解説(山本健吉)にあるとおり、きわめて抽象的な小説である。
 
性と死そのものは、発表当時に物議をかもしたかもしれないが、その後半世紀ほどの中で、いくつもの文学、映画など、経験してくるとそう刺激的なものではない。
 
むしろ、夫婦がこのことを日記に書いていて、それを相手に読ませ、そのことによって刺激を昂じさせようとする、また相手に読まれていることを知って書いているのかどうかそのことを文章で明らかにするかどうか、そういったまわりくどい心理戦が続いていく。
 
今となってはそれそのものが面白い、といえる。どちらかというとこれは、西洋的、それも近代フランスあたりの心理小説に近い、それらに影響をうけたもの、といってもいい。この歳になってから読んでよかったと思う。
 
谷崎潤一郎(1886-1965)の小説で他に読んだのは、「細雪」、「痴人の愛」だけだが、これらも明らかにかなり西洋近代的な背景、ものの見方を持った人が書いたものという印象をうけた。そして評論の方で「陰翳礼讃」など、感心しながら読んでいると、おっとあぶない、という日本回帰を感じるけれども、これも西洋を頭に据えた上での論述なのかもしれない。
 
映画について調べてみたら、監督:市川崑、音楽:芥川也寸志、中村鴈治郎(教授)、京マチ子(妻)、仲代達矢(後輩)、叶順子(娘)、とあった。
女優は小説からイメージしたとおり。