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【翻訳記事】福島メルトダウンの背後にある衝撃的事実(英インディペンデント)

2011-08-21 23:11:59 | 原発問題/一般
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-27f6.htmlより

日本は、原発災害は、想定外の津波と地震の組み合わせで、ひき起こされたと主張している。だが新たな証拠は、日本の原子炉は事故を起こす運命にあったことを示唆している

The Independent

David McNeill in Tokyo and Jake Adelstein

水曜日、2011年8月17日

それは日本で進行中の原発事故ミステリーの一つだ。津波が襲う前に、3月11日の地震は、福島第一原子力発電所に対して、一体どれだけの損傷を与えたのだろう?

リスクは高い。もし、地震が、原発と、核燃料の安全性を、構造的に損ねたのであれば、日本中のすべての同様な原子炉を停止する必要があり得るのだ。54基のほぼ全ての原子炉は、休止中(35基)か、あるいは、来年4月までに停止予定であり、原発再稼働に関するあらゆる論議に、構造的な安全性の問題がのしかかっている。

この議論において、原発の運営者である東京電力と、日本政府は、とうてい信頼に足る裁定者とは言えない。3月11日後の数日間、"メルトダウンはしていない"と、政府のスポークスマン、枝野官房長官は繰り返した。東京電力の当時の清水正孝社長は、周知の通り、容易には信じられない発言として、後刻、"想定外の事故だった" と語った。事故から五ヶ月たって、枝野官房長官が話していた時点に、メルトダウンが既に起きていたことを我々は知っている。想定外どころか、事故は業界の評論家達によって、繰り返し警告されていたのだ。

何ヶ月もの嘘と虚報の中、定着している話が一つある。地震こそが原発用の電力を損壊し、原子炉6基の冷却を止めた、というものだ。津波が、そこで40分後に、原発の予備発電機を押し流し、あらゆる冷却を停止させ、世界で初めての三重メルトダウンを生じさせた、一連の出来事を引き起こしたのだ。

津波が施設に到達する前に、もしも再循環水配管と冷却水配管が地震の後で破裂していたらどうだろう?電力が停止する前に?建設後40年の老朽第一号炉、日本で依然稼働しているお祖父さんの古炉形に詳しい人々で、これに驚く人はまれだ。

破損して、劣化しつつある、きちんと修理されていない配管と冷却装置の問題は、長年指摘されていた。2002年9月、東京電力は、極めて重要な循環水配管の亀裂に関するデータの隠蔽を認めた。この隠蔽を分析した、原子力資料情報室は、こう書いている。"隠蔽された記録は、再循環配管として知られている原子炉の部品の亀裂に関係している。これらの配管は、原子炉から熱を取り出すために取り付けられているものだ。もしこれらの配管が破裂すれば、冷却液が漏出する深刻な事故となる。"

3月2日、メルトダウンの9日前に、政府の監督機関、原子力安全・保安院は、再循環ポンプを含め、原発機器の極めて重要な部分の検査をしそこねていることに対し、東京電力に警告した。東京電力は、検査し、必要があれば修理をし、原子力安全・保安院に、6月2日に報告するよう命じられていた。現時点では、その報告書は提出されていないようだ。

インデペンデント紙は、原発で何人かの作業員と話したが、皆、同じような話をくり返した。津波が襲う前に、配管と、少なくとも原子炉の一基に、深刻な損傷が起きていた。今でも事故が起きた原発で働いていたり、関係したりしているため、全員が匿名にしてほしいと希望した。事故が起きた日に、福島原発にいた保守技術者の作業員Aは、シューと音をたてて、洩れる配管を思い出している。

"ばらばらになる配管をこの目で見ましたし、原発中では、もっと色々壊れているだろうと思います。地震が原発内部もかなり損傷させたことに疑問の余地はありません... 一号炉タービン建屋の壁の一部がはがれ落ちるのも見ました。あの亀裂は、原子炉に影響したかも知れません。"

原子炉壁は極めて脆弱だと、彼は言う。"炉壁が余りに堅牢だと、内部からのわずかな圧力で、ひびが入る可能性があるので、壊れやすく作られている必要があるのです。もし内部で圧力が維持されれば...内部の機器を損傷する可能性があるので、圧力が逃げられるようになっている必要があるのです。危険な時には、たわむように設計されているのです。そうでないと、もっとひどいことになり得ます。他の人々にとっては衝撃的かも知れませんが、我々にとっては常識です。" 30代後半の技術者で、やはり地震の際に現場にいた作業員Bはこう回想する。"地震は二度襲ったように感じられ、最初の衝撃は余りに強く、建屋が揺れ、配管が曲がるのが見えました。数分間のうちに、配管が破裂するのを見ました。壁からはがれ落ちるものもありました...

"誰かが、皆避難しなければだめだと叫びました。けれども、冷却水給水用配管だと思われるものを含め、何本かの配管がひび割れしているぞと言われ、私にも見えたので、私は避難しながら、大変に心配でした。それは、冷却液が原子炉炉心に到達できないことを意味しています。もし十分な冷却液を炉心に送り込めなければ、炉心はメルトダウンします。原子力学者でなくても、そんなことはわかります。" 車に向かって進む際に、第一原子炉の建屋の壁が崩壊し始めるのが見えた。"穴があいていました。最初の数分間、誰も津波のことは考えていませんでした。私たちは生き残ることを考えていました。"

地震が原子炉に大きな損傷を引き起こしたという疑念は、数分後に、原発から漏れた放射能についての報告によって強化される。ブルームバーグ通信社は、午後3.29、津波が襲う前、原発からおよそ1.6キロの所で、放射能警報が鳴ったと報道している。

地震が、原子炉に対して、直接的な構造上の損傷を引き起こしたことを、当局が認めたがらない理由は明白だ。「東京電力: 帝国の暗黒」の著者、恩田勝亘氏は、こう説明している。政府や業界がそれを認めれば、"彼らが運用しているすべての原子炉の安全性にまつわる疑念が生じます。彼等は、同じシステム上の問題、同じ配管損傷を抱えた、多数の古めかしい原子炉を運用しているのです" 地震は、もちろん日本では日常茶飯事だ。

元原発設計者の田中三彦氏は、3月11日に起きたのは、冷却液損失事故だと説明している。"東京電力が公開したデータは、地震から数時間後の、冷却液の膨大な喪失を示しています。これは電力喪失のせいにはできません。既に、冷却装置には大変な損傷があったので、津波が到来するずっと前から、メルトダウンは不可避だったのです。"

公開されたデータは、地震直後機、午後2.52に、AとB系統両方の緊急循環冷却装置が自動的に起動したことを示していると彼は言う。"これは、冷却液の喪失が起きた場合にのみ、起こります。" 午後3.04から3.11の間に、格納容器内部の水噴霧装置が起動した。田中氏は、これは他の冷却装置が駄目な場合にのみ、使われる緊急対策だと言う。午後3.37頃に、津波が到来し、すべての電気系統を破壊する頃には、原発は、既にメルトダウンに向かって進んでいたのだ。

原発の現場検査を行い、東京電力のデータ改竄について、最初に内部告発をしたケイ菅岡氏は、事故が起きたことに驚いていないと語っている。日本政府宛の、2000年6月28日付け書面で、東京電力は、原発において、ひどく損傷した蒸気乾燥機を、彼が問題を指摘してから10年間稼働し続けていると警告した。政府は警告を二年間、放置していた。

"私はいつも単に時間の問題だと思っていました。" 事故について彼はそう語っている。"今は、自分が正しかったことが幸福と思えない、人生の一時期です。"

調査期間中、恩田氏は東京電力の原発で働いた何人かの技術者と話をした。一人は、配管が図面と合わないことがよくあったと語っていた。その場合、唯一の解決策は、重機を使い、配管を十分近くに引き寄せ、溶接して、閉じることだ。配管の検査は、ぞんざいなことが多く、近寄りがたい配管の裏側は無視されることが多かった。修理作業は大急ぎで行われる。必要以上に長く、放射能に曝されたい人などいないのだ。

恩田氏はこう補足した。"福島原子力発電所を初めて訪問した際、配管の蜘蛛の巣でした。壁や天井の、地上の配管。配管を跨ぎ、配管の下をくぐって歩かなければなりませでした。時には、頭を、配管にぶつけました。原子炉の熱を制御し、冷却液を運ぶ配管は、原子力発電所の静脈と動脈です。炉心は心臓部です。もし配管が破断すれば、不可欠な冷却水が炉心にまわらなくなり、心臓マヒになります。原子力の用語で、メルトダウンです。簡単に言えば、冷却液を運び、熱を制御している配管が破裂すれば、原子炉炉心は冷却できません。冷却液が炉心に届かないのですから。"

1977年から、2009年まで東京電力に勤務し、元福島原発の安全担当者だった蓮池透氏は、"福島原発の原発事故の緊急対策には、炉心冷却のために海水を使うという記述はありません。海水を炉心に注入は、原子炉を破壊することです。それをする唯一の理由は、他の水や冷却液が使えない場合です。"と語っている。

3月12日の夜明け前、原子炉の水位は急落し始め、放射能は上昇し始めた。当日午前4時過ぎに発表した東京電力の報道発表にはこうある。"格納容器内の圧力は高いが安定している。" 発表の中には、多くの人々が見落としている一つの記述が埋もれていた。"緊急冷却水循環システムが炉心内の蒸気を冷却していた。それが機能を停止した。"

午後9.51、社長命令で、原子炉建屋内は立ち入り禁止区域となった。午後11時頃、原子炉の隣にあるタービン建屋内の放射能レベルは、一時間0.5から1.2 mSvのレベルに達した。言い換えれば、メルトダウンは既に進行中だったのだ。このレベルだと、20分間、このレベルの放射能に曝されれば、日本の原子炉作業員の許容量5年分を超えてしまう。

3月12日の午前4時から6時のある時点で、吉田昌郎所長は、海水を原子炉炉心に注水するべき時期だと判断し、東京電力に通知した。海水は、水素爆発が起きてから数時間後、午後8時頃まで、注水されなかった。その頃では、おそらく既に遅すぎた。

3月末、東京電力は、"福島第一原子力発電所一号機の原子炉炉心状態"という題名の報告書中で、少なくとも、こうした主張のいくつかを 多少は認める方向に進んだ。報告書には、配管を含め、重要な設備に、津波前に損傷があったとある。

"これはつまり、日本と海外の業界による、原子炉は堅牢だという保障は、吹き飛んだということです" と、独立した放射性廃棄物コンサルタントで、グリーンピースと協力しているショーン・バーニーは語っている。"地震危険度の高い地域にあるすべての原子炉に対し、基本的な疑問が生じます"

バーニー氏が指摘している通り、東京電力も、冷却液喪失の16時間後、第一号炉爆発の、7ないし8時間前の、大量の燃料溶融を認めている。"こうしたこと全てを彼らは知っていたに違いありませんから、膨大な量の水で水浸しにするという彼等の決断は、太平洋への漏洩を含めて、更なる膨大な汚染を、必ずひき起こすものでした。"

地震によって、原発がどれほど損傷したのか、あるいは、この損傷だけが、メルトダウンの原因なのかは誰にもわからない。ただし、東京電力のデータと、目撃者の証言は、損傷がかなりのものであったことを明らかに示している。

蓮池氏はこう語っている。"東京電力と日本政府は色々説明していますが、辻褄があいません。彼等がまだ提供していない一つのことは、真実です。そうすべき頃合いです。"

記事原文

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【翻訳記事】福島の放射能で危機感を抱く医師たち(アルジャジーラ)

2011-08-21 23:07:10 | 原発問題/一般
http://bilininfojp.blogspot.com/2011/08/blog-post_19.htmlより

日本の医師ら、福島の放射能起因の公衆衛生上の問題を警告

ダール・ジャマイル

2011/8/18 14:09 アルジャジーラ(原文

重大な事故を起こした福島第一原発からいまだに放射性物質が放出される中、科学者や医師らは食物、土壌、水、空気中の放射性物質の濃度観測を義務づける国の政策の策定を求めている。

東京大学先端科学研究所教授でアイソトープセンター所長の児玉龍彦氏は、7月27日に参議院厚生労働委員会で証言した際にこう尋ねた。「原発からどれだけの放射性物質が放出されたのでしょうか?」

「政府とTEPCOはまだ放出された放射性物質の総量を報告していません」と児玉氏は述べた。[福島第一]原発では最近、極めて高い放射能レベルが検出されたが、事態はそれより遥かに悪いと同氏は確信している。

日本では、政府による放射性物質の観測がなされていないことに対する懸念が広がっている。そのため、人々は独自に観測を開始するに至ったが、それにより気味の悪いほど高レベルの放射能が見つかっている。

児玉氏の所属するセンターでは全国27か所にある放射能測定施設を使って福島の状況を綿密に観測してきた。そしてその結果は恐るべきものだ。

児玉博士によれば、継続中の福島原発の事故がこの5カ月強の間に放出した放射性物質の総量は、「広島型原爆」29個分以上に相当する。また、放出されたウランの量は広島型原爆「20個分に相当」する。

児玉氏は他の科学者たち同様、福島がもたらした現在の危機のことはもちろん、それに対する政府の不充分な対応に懸念を抱いている。彼は、政府が汚染地域の除染を開始するための大規模な対策を開始する必要があると確信している。

日本政府の原発事故対応への不信感は、影響を受けた各県の住民のあいだでは今や普通だ。人々は自分たちの健康を心配している。

最近、原発で観測された値は驚くべきものだ。

8月2日、毎時1万ミリシーベルト(10シーベルト)が原発で観測された。これは人間にとって致死的な線量で、一人の人間を1-2週間以内に殺すだけの放射能だと日本の文科省は述べた。

1万ミリシーベルトは胸のエックス線約10万回分に等しい[訳注:記事原文そのままです]。

これは地震と津波によって原発が重大なダメージを被った3月時点で観測されたレベルを2.5倍上回る量である。

観測をしたのは福島第一原発を運転する東京電力(TEPCO)である。東電は、放射能を計測する機械を離れた場所から使ったのだが、正確な値を見定めることはできなかった。その計測器の最大値が1万ミリシーベルトだったからだ。

東電はさらに原発の外のがれきから毎時1000ミリシーベルトを、またある原子炉建屋の内部では4000ミリシーベルトを観測した。

福島の事故は国際原子力事象評価尺度(INES)で「レベル7」と評価されている。これは最高レベルで、1986年のチェルノブイリ原発事故と同じである。「広範囲にわたる健康影響及び環境影響をともなう放射性物質の大規模放出。計画的で拡張的な対策の実施が要求される」と定義づけられている。

この尺度でレベル7と評価された原発事故は福島とチェルノブイリのみである。これは地震の相対的なマグニチュードを表すのに用いられるものと同様、対数的な尺度である。レベルが一つ上がるごとに、事故の重大さは約10倍増す。

日本の医師たちは健康への影響が出ている患者たちをすでに診察しており、原発事故の放射能起因とみている。

千葉県の船橋二和病院の医師、ヤナギサワ・ユウコ博士はアルジャジーラに対し「子どもたちの間に鼻血や強い下痢、風邪のような症状が増え始めました」と語った。

博士はそれらの症状が被ばくによるものとした上で、このようにつけ加えた。「私たちは、これまで頼ってきた総体的知識では説明できない新しい状況に遭遇しています。福島第一原発の状況はまだ安定化していませんし、終わりも見えてきていません。まだ核物質は封印されていませんので、放射能が環境中に流出しつづけています。」


健康への懸念

最近、高い放射性物質の値が観測されたことについて、日本の茨城県で取材しているアルジャジーラのアエラ・カラン記者はこう述べた。「この場所は事故発生以降ずっとこのように汚染されていた可能性が高いが、誰も今まで気づかなかったのだろう。」

福島原発の作業員たちの年間許容被ばく線量は250mSvである。

東電の広報担当者松本純一氏は、高線量が確認されたのは「今後の作業に支障のない場所です」と述べた。

しかし栃木県によれば、福島第一原発から160km離れた栃木市で加工された茶から政府の基準値を上回る放射性セシウムが発見された。これは7月上旬に市内で収穫され、加工された茶葉から検出されたという。

政府の暫定基準値の3倍以上の値だった。

ヤナギサワ医師の病院は福島から約200kmの地点にある。彼女は被ばく起因と思われる健康被害を目のあたりにし、政府のあまりにも不十分な対応に懸念を抱いている。

彼女の話によれば、4月25日に子どもの被ばく許容線量を年間1ミリシーベルトから年間20ミリシーベルトへと引き上げたのが、これまで政府がとった唯一の対応だという。

「これには医学的観点から大きな批判が湧きました」とヤナギサワはアルジャジーラに語った。「これは内部被ばくと低線量被曝の両方に関わる問題であることは間違いありません」。

グリーンピース・ジャパン事務局長の佐藤潤一氏は「子どもの被ばくレベルを大人の最大許容値の20倍に引き上げるのはまったく狂っています」と述べた。

「政治的に都合がいいとか、平時と変わらない印象を与えたいなどということのために政府が安全基準値を引き上げるのは許されません。」

米国国立科学アカデミーは「電離性放射線による生物学的影響Ⅶ」(BEIRⅦ)において低線量電離放射線による人体への影響に関する信頼性の高い推論を発表した。

この報告書は、リスクフリーの電離性放射線への被ばくなどというものは存在しないということを証明する、豊富な科学的証拠に基づいている。

BEIRⅦ報告書は、次のように推測している。放射性物質1ミリシーベルトにつき白血病以外のあらゆるタイプのがんのリスクが1万人に1人ずつ増える。白血病のリスクは10万人に1人ずつ、ガンによる死亡リスクは1万7500人に1人ずつ増える。

1985年にノーベル平和賞を受賞した「社会的責任のための医師団」の設立時の会長、ヘレン・カルディコット博士も、同様に日本の原子力災害による人体への影響を懸念している。

「放射性物質は精巣や卵巣に入りこみ、糖尿病、嚢胞性繊維症、精神遅滞のような遺伝性の病気を引き起こします。これら我々の遺伝子を介して後世代に永遠に引き継がれていく病気は、2600種類あります」

これまでのところ、急性放射線障害のケースが出たのは現場で働く東電[訳注:下請け]の作業員のみである。ヤナギサワ博士によれば低線量被曝、特に子どもたちにとってのそれが、医学界の多くの人々がもっとも懸念していることであるという。

「人間はまだ、低線量被曝や内部被ばくを正確に計測できる能力を持っていません」と博士は説明する。「(安全ではないということが)まだ科学的に証明されていないからといって安全だと主張するのは、間違いでしょう。我々はまだ状況を科学的に証明するだけの充分な情報を集めきれていないというのが事実です。そのような中で、年間1ミリシーベルトを20倍に引き上げて安全だなどと言えるはずは決してありません。」

彼女の懸念は、日本政府による新しい被ばく基準値が大人と子供の違いを考慮していないことだ。子どもの被ばくに対する感受性は大人の数倍だからである。

アルジャジーラは菅直人首相のいる官邸にコメントを求めた。

首相官邸の広報副官房長官の代理として、シタカノリユキ氏が次のように語った。日本政府は「“緊急時被ばく状況の参考レベルは年間20-100ミリシーベルト”とございます、ICRP(国際放射線防御委員会)の2007年度の勧告を参照しております。我々は過度の被ばくを回避するために、計画的避難区域と、年間20ミリシーベルトのレベルに達する地点では特定のスポット的な避難勧奨区域を定めております」。

首相官邸は、除染の努力に約230億円(3000万ドル)が割り当てられることになっており、政府は「8月末ごろまでに」除染政策を固める計画である、とシタカ氏は説明する。さらに二次予算として被災地域における健康管理とモニタリング作業に970億円(10億2600万ドル)を割り当てる、という。

「急性放射線障害」の問題を尋ねると、シタカ氏は東電[訳注:下請け]の作業員6人が250ミリシーベルト以上被ばくしたとの報告を日本政府が東電から受け取っていることを挙げたが、市民の急性放射線障害の報告があるかどうかについては何も触れなかった。

福島の危機に対する対応について、首相官邸はアルジャジーラに対し、「すべての作業員に対するIDコードを使った自動的な線量管理システムの導入と、24時間体制での医師常駐など、取りうる限りのすべての対応策は取ってきております。中長期的なものを含めて健康管理をさらに改善させる問題に日本政府は引き続き取り組んでまいります。」と述べた。

シタカ氏は、児玉氏の調査結果については何もコメントしなかった。

内科医師でもある児玉氏は、過去数十年間に渡って東大病院の放射線施設で放射性物質の除染に取り組んできた。

児玉氏は言う。「東京では3月21日に雨が降り、放射性物質が毎時2マイクロシーベルトにまで上がりました。それ以来、ずっと高いレベルが続いています」。そして、自分が政府に提出した測定結果に対する適切な対応はなされていないとつけ加えた。「当時、枝野官房長官は日本人に対し、人体にただちに影響はないと言っていました」。

内部被ばくのエキスパートである児玉氏は、政府が食物中の放射性物質の計測に向けた強力な対策を取っていないことを懸念する。

「すでに事故から3カ月が経っているのに、なぜそんな簡単なことがまだ行われていないのでしょうか?」と彼は言う。「私は本当に腹が立って、怒りが爆発しました。」

児玉氏によれば、内部被ばくによってもたらされる主要な問題はガン遺伝子の生成だという。放射性物質が不自然な細胞変異を引き起こすためである。

「放射性物質は、妊婦の体内の胎児、青少年、そして成長期の人間の増殖性の高い細胞にとって高いリスクがあります。大人にとってさえ、髪の毛や血液、腸管上皮などの増殖性の高い細胞は放射性物質に敏感です。」


子どもたちはより危険

慶応大学医学部放射線科の近藤誠氏は、事故後まもなく「子どもへの放射性物質の影響は大人への影響とは格段に違う」と警告した。

近藤氏は、被ばくによって子どもがガンを発症する確率は大人より何倍も高いと説明する。

「子どもの体は未発達ですから、たやすく放射性物質の影響を被ります。それによりガンや、発達遅滞が引き起こされます。また脳の発達にも影響します」と同氏は述べた。

ヤナギサワ氏は、日本政府の避難基準、および被ばく許容線量の20ミリシーベルトまでの引き上げは、「子どもの健康に危険をもたらしうる」ため、「子どもたちはより大きなリスクにさらされている」とみている。

北海道ガンセンター所長で放射線治療の専門家である西尾正道氏は、7月27日に「福島原発事故の放射性被ばく対応策の問題:現状に対する懸念」という論文を公開した。

被ばく許容線量のこのような劇的な増加は、「人々の命を軽々しく扱う」ことに等しい、と西尾氏はこのレポートで述べた。

同氏は20ミリシーベルト[という基準]について、とりわけ放射性物質に対してはるかに敏感な子どもたちにとっては高すぎると確信している。

カルディコット氏は「子どもだろうと誰だろうと、放射性物質はどんなレベルでも許容できるものではありません」とアルジャジーラに告げる。「子どもたちは大人より20倍以上も敏感です。子どもたちはいかなるレベルの放射性物質にもさらされてはいけません。絶対に。」

7月上旬、日本の原子力安全委員会は、3月下旬に行われた調査の結果、福島県の子どもの約45%が甲状腺被ばくをしていたと発表した。委員会はそれ以来まったく調査を行っていない。

ヤナギサワは言う。「日本政府は今、低線量被曝/内部被ばくの影響を過小評価し、避難基準を引き上げようとしていません。チェルノブイリで採用された避難基準にすら[達していないのです]。人々、特に子供たちの命が危険にさらされています。政府は施策の優先順位のトップに人々の命をおいてはいないことが明らかです。」

カルディコットは、放射性物質が見つかった地域の人々の健康を守るためのもっと強力な対応策が欠落していることは「厳しい非難に値する」と感じている。

「これらの高放射能汚染地帯から数百万人、特に子どもたちが避難する必要があります。」

ヤナギサワ博士は、被ばくに起因する不妊や流産のケースの増加とともに、「晩発性障がい」を懸念している。

「ガンのケースが増えるであろうことは疑いの余地がありません」と彼女は述べた。「子どもの場合、甲状腺がんと白血病は数年後に現れうるものです。大人の場合、数十年間の間にさまざまなタイプのガンが増えるでしょう。」

ヤナギサワは、福島原発の作業員の間のガン発症率は「間違いなく」増加すると述べた。また、嗜眠、アテローム性動脈硬化その他の慢性病も、被害を被った地域の一般住民の間に増えるだろうと述べた。

ヤナギサワ氏は、原爆の被害者の声に耳を傾けるべき時であると信じている。「被ばくするということ、直ちに影響はないといわれるということ、そして後年ガンに苦しむということ-長期間に渡ってこのように苦しむのというのはどういうことであるか、それを本当に知っているのは原爆を生き残った人々だけです。」と彼女はアルジャジーラに述べた。


放射能汚染した食物と水

日本政府の緊急災害対策本部が行った調査で福島県の水道水から放射性物質は検出されていないと、厚生労働省は8月1日のプレスリリースで述べた。

政府は不検出とは「幼児の許容値(放射性ヨウ素)を超過する結果が出ていないこと」と定義づけている。そして「水道水中の放射性ヨウ素が100bq/kgを超過した場合、幼児に水道水で薄めた粉ミルクを与えることや水道水を飲ませることを差し控えるべきである」と言う。

だが6月27日に発表されたある研究結果では、福島県の住民15人の尿から放射性物質への陽性反応が出た。

広島大学放射線生物学科名誉教授鎌田七男博士は、内部被ばくの計測をするために2度福島県に行き、研究の指揮を執った。

「内部被ばくのリスクは外部被ばくより遥かに危険です」と鎌田医師はアルジャジーラに述べた。「そして、福島の住民の方々にはまさに内部被ばくのリスクがあるのです」

厚生労働省によれば、福島県産のいくつかの生産物は、出荷制限されたままである。生乳、ホウレンソウやカキ菜を含む野菜、キャベツなど葉物野菜、シイタケ、タケノコ、牛肉などだ。茶葉の流通はいくつかの県で制限されたままである。これには茨城県全域、そして栃木県、群馬県、千葉県、神奈川県の一部が含まれる。

岩手県はセシウム汚染のために8月1日にすべての牛肉の出荷を止めた。そのようにした4番目の県である。

岩手県農林水産部の専門家ジュンイチ・トクヤマ氏はアルジャジーラに対し、この危機に対してどう対処すべきなのか自分にはわからないと述べた。

福島原発から300km離れた岩手県にホットスポットが見つかるとは思わなかったので驚いたという。

「この汚染の最大の原因は、高濃度に汚染された稲わらが牛に与えられたことです」とトクヤマ氏は言った。

鎌田医師は、日本政府の福島の災害に対する対処の速度はあまりにも遅いと感じている。そして政府は福島県の「すべての町や村」で被ばく線量をチェックする必要があるという。

「政府は全体的な放射線量地図を作るべきです」と彼は述べた。「それから人体への被ばくの影響のレベルを懸念すべきです。福島県内の被ばく線量マップを作るべきです。福島だけではなく、おそらく福島の他にもホットスポットがあるでしょうから、地上の線量をチェックする必要もあります。」

カルディコットは、世界中の人々は福島第一原発で起こっている原子力危機に懸念を抱くべきだと言う。放出されつづける放射性物質は世界的な影響をもたらす。

事故を起こした原発からは11000トン以上の放射性の汚染水が海に放出されている。

カルディコットは言う。「これらの放射性物質は藻類の中で生体濃縮し、それを甲殻類が食べ、甲殻類はまずは小型の魚、それから大型の魚に食べられます。大型魚の中に放射性物質が高度に濃縮しているのはそのためです。人間は食物連鎖の頂点にいますから、最終的にもっとも多くの放射性物質をとりこみます。」

米国による広島への原爆投下から66年にあたる8月6日菅直人首相は述べた。「原子力については、これまでの“安全神話”を深く反省し、事故原因の徹底的な検証と安全性確保のための抜本対策を講じるとともに、原発への依存度を引き下げ、“原発に依存しない社会”を目指していきます。」
しかし医師や、科学者、農業専門家、そして日本の一般大衆の多くは、原発事故へのより強い対応が必要だと感じている。

児玉氏は、政府が汚染地域の除染を始めるための大規模な対策を取り始めるべきだと確信している。同氏は鉱山から漏れ出た水銀が中毒を引き起こしたイタイイタイ病の例を挙げる。イタイイタイ病のばあい、最終的に日本政府は1500へクタールを除染するのに8千億円を費やしたと言う。

「その範囲が1000倍広かったら、いったいどれほどのコストがかかるでしょうか?」

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