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東電旧経営陣、強制起訴 今こそ「真実と真理の法廷」を

2016-03-25 20:58:15 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2016年3月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

<筆者より>
 本稿は、本誌第167号「東電元経営陣3名に「起訴相当」議決~福島原発告訴団、原発事故刑事責任追及へ前進」、本誌第174号「東京地検、東電元経営陣3名を再び「不起訴」に~福島原発告訴団、証拠追加と新告訴で刑事責任追及強化」及び本誌第179号「検察審査会が2度目の「起訴相当」議決~東電3経営陣強制起訴へ 刑事訴訟で責任追及を」(いずれも拙稿)の続稿となるものである。ぜひ、167号、174号、第179号と併せて一読いただくことをお勧めする。

 ●3.11を前にして

 まさに寝耳に水だった。2016年2月26日、金曜正午のNHKニュースが「東電旧経営陣、強制起訴へ」と何の前触れもなく報道。「福島第一原子力発電所の事故をめぐって、検察審査会に「起訴すべき」と議決された東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人について、検察官役の指定弁護士が26日にも業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴する方針を固めたことが、関係者への取材で分かりました」と伝えたのだ。

 2015年7月、勝俣元会長に武黒一郎、武藤栄の両元副社長を加えた3人を起訴すべきと議決した東京第5検察審査会によって示された容疑事実は業務上過失致死傷罪だった。この罪の公訴時効は5年。福島第1原発事故から5年となる2016年3月11日までに公判提起(起訴)しなければ時効が成立することになる。その意味では予想された起訴ではあった。

 だが結局、強制起訴手続きは週明けの29日、月曜日に持ち越される。強制起訴の期日を思い通りにさせなかったという点で、反原発デモは不当に小さく、原発再稼働は不当に大きく報道する「自称公共放送」にささやかな一矢を報いることができたと思っている。

 ともあれこの日、強制起訴が実現した。史上最悪、レベル7の原発事故を引き起こした当時の東京電力の最高責任者たちに対するメディアの呼称が「被告」に変わった歴史的な1日だった。

 福島原発告訴団の武藤類子団長は、強制起訴を受けてコメント。「やっとここまできたとの思いだ。3人は真実を語り、なぜ事故が起きたかを明らかにしてほしい」と述べた。誰の責任も問われていない「無責任大国ニッポン」への怒りを抱く被害者たち共通の思いだ。

 ●福知山線事故裁判より有利?

 本誌の過去の記事でも繰り返し説明してきたが、検察審査会が強制起訴とした事件は、検察官に代わって裁判所が指定する検察官役の指定弁護士が立証、求刑などの活動を行う。検察官は、自分たちが不起訴にした事件だけに基本的には関与しない。

 検察官役の指定弁護士にどのような活動が許されているのかについて、法律に具体例を列挙したものはないが、「指定弁護士は……起訴議決に係る事件について、……公訴を提起し、及びその公訴の維持をするため、検察官の職務を行う」(検察審査会法41条の9第3項)との規定により、検察官に認められている職務権限はすべて検察官と同様に行使できるものと解される。

 指定弁護士には、2015年8月に石田省三郎、神山啓史、山内久光の各弁護士が選ばれた。東京地裁から東京第2弁護士会への推薦依頼に基づくものだ。翌9月には、渋村晴子、久保内浩嗣の両弁護士を追加。指定弁護士は5人となり、JR福知山線脱線事故を上回って過去最多人数となった。

 石田弁護士は、ロッキード事件で田中角栄元首相の弁護団に加わった経験を持つ。神山弁護士は、東電の女性社員が殺害された事件(いわゆる東電OL殺人事件)で被告のネパール人男性を無罪に導いた。山内弁護士は、今回、強制起訴を行った東京第5検察審査会で、市民ら11人の委員に対するアドバイザー役である「審査補助員」を務めた。いずれも刑事裁判のエキスパートばかりだ。福島原発告訴団は、この顔ぶれを「考え得る最高の布陣」であるとしており、原発事故の有罪立証に向け、お膳立てが整った格好だ。

 当初、公判前整理手続きに時間を要し、初公判は来年になるとみられていたが、案外早く始まることになりそうだ。証拠や論点を整理するために行われる公判前整理手続きは、事実関係が複雑な事件ほど、有罪立証につながる有利な証拠だけを提出したい検察側と、被告人に有利な証拠も提出させたい弁護側のせめぎ合いによって長期化しやすいが、今回は、指定弁護士が4000点に及ぶ証拠を開示する考えを示しており、3被告の防御のため、弁護側がいかなる証拠や論点を提示できるかがほとんど唯一の焦点となっているからである。

 裁判では、事故の予見可能性、結果回避可能性の有無が争点になるのは確実だ。強制起訴事件の先行例であるJR福知山線脱線事故では、転覆脱線事故の現場となったカーブに速度照査型ATS(自動列車停止装置)を設置しなかったことについて、井手正敬元JR西日本会長ら3被告が「予見可能性がありながら結果回避義務を果たさなかったとまで言えるかどうか」が争点となり、1、2審では無罪判決。指定弁護士側が最高裁に上告している。
これに対し、東電に関しては、政府の地震調査研究推進本部が推計した津波予測に基づき、福島第1原発に15.7メートルの津波のおそれがあると知りながら、武藤被告の指示で対策が先送りされた事実がすでに明らかになっている。指定弁護士は、JR福知山線脱線事故よりも有罪立証の見通しは良く、有罪に持ち込みたいと意気込む。

 強制起訴を受けて裁判が始まるのを前に、今年1月、福島原発告訴団のメンバーらが中心となって「福島原発刑事訴訟支援団」も発足した。今後の裁判支援は「支援団」中心に行うことになるが、民事訴訟と異なり、「支援団」メンバーが直接、関係者として法廷内に入ることはできない。わずかに、被害者参加制度を利用して、裁判所に認められた被害者が裁判で証言をできる程度だ。とはいえ、JR福知山線脱線事故の強制起訴裁判では、被害者の法廷参加が実現した。こうした前例にもならいながら、告訴団は、指定弁護士らの「後方支援」に全力を尽くすことになる。

 ●「強制起訴見直せ」と叫ぶ産経新聞

 JR西日本に続き、東京電力旧経営陣も強制起訴となったことで、安倍応援団と化した「御用メディア」を中心に、強制起訴制度を見直せとの主張が出てきているのはとんでもないことだ。

 産経新聞は、川内原発の再稼働に反対し、現地で抗議行動を続ける一般市民らを、意図的に「過激派」と誤読させるような悪意に満ちた報道を続けてきた。強制起訴が安易に乱発された結果、無罪が確定したとき「被告人とされた人に対する責任」は誰が取るのかと、一方的でばかげた主張を繰り返している。だが、それを言うなら世界最悪の事故に呻吟している福島県民への責任を――しかも、その所在がはっきりしているのに――誰も取らないままの現状を産経はどのように考えるのか。ふざけるのもいい加減にしろと言いたい。本稿筆者は、言論界で原発推進の先頭を切ってきた産経新聞の道義的、社会的責任も、命ある限り問い続けるつもりだ。

 自民党、経済界がこれほどまでに強制起訴を恐れていることは、この制度が市民の立場で有効に機能していることを示している。この間、強制起訴となった事件を概観すると、明石歩道橋事故(被告が警察)、福知山線脱線事故(被告がJR)、福島第1原発事故(被告が東京電力)のように、権力機関や日本の経済活動の中心を占める巨大企業が被告になっている事件が多い。

 こうした事件では、捜査機関による捜査や裁判所での審理がまともに行われないことも多い。有識者の中には、強制捜査さえ行われないまま東京電力を不起訴にした検察に対し、国策捜査ならぬ「国策不捜査」だと指摘する声もある。そうした国策不捜査や、その結果として法廷に十分な証拠が提出されない実態を放置したまま、有罪率が低いから強制起訴制度を見直せというのは本末転倒だ。問われるべきは捜査のあり方であり、決して強制起訴制度ではないということを、いま一度強調しておきたい。

(黒鉄好・2016年3月19日)

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「名は体を表す」と言うが・・・「民主」の名の下に

2016-03-24 21:55:39 | その他社会・時事
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2016年4月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 合流を決めた民主党・維新の党が、2016年3月3~6日の4日間、新党名の募集を行った。自分たちの党名も自分たちで決められない政党に未来なんてあるわけもないし、政権を託したくもないという声も聞こえるが、「名は体を表す」の例え通り、名前とは案外重要なものである。

 結果的に、合流後の新党の名称は、「民主」の名の入った名称を引き継ぐよう求めていた民主党関係者の思いと裏腹に、維新の党側が主張していた「民進党」に決定。新党の名称に関しては「小が大を呑む」形になった。だが筆者はこれでよかったと思っている。「民主」の名前のあまりの評判の悪さを考えると、その名は外して一から出直すべきだろう。

 「民主」の名を外すことで、自分たちの党が民主主義を放棄したかのように受け止められないか心配する関係者がもしいたら、そんな心配は無用だと思う。そもそも、西側先進資本主義国の集まりであるサミット(先進国首脳会議)参加7か国の正式国名を見てみると、日本国/アメリカ合衆国/グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国/フランス共和国/イタリア共和国/ドイツ連邦共和国/カナダ――であり、「民主」と入った国名は1つもない。

 一方、社会主義体制だった旧東ドイツの正式国名「ドイツ民主共和国」や「朝鮮民主主義人民共和国」のように、どう見ても民主主義と無縁の国、民主主義のかけらも存在しない国ほど「民主」と入った国名が多い。あの悪名高いクメール・ルージュ(いわゆる「ポル・ポト派」)支配時代のカンボジアの正式国名も「民主カンボジア国」だった(現地語表記で「民主カンプチア国」としているものもある)。民主主義の実態がある国ではわざわざ「形」にこだわる必要がなく、逆に民主主義の実態がない国ほど「形」を求めるのだということがよくわかるエピソードだ。

 ドイツ「民主」共和国、朝鮮「民主」主義人民共和国、「民主」カンボジア国でいったいどれだけ多くの人が逮捕され、拷問され、そして殺されたのだろうか。筆者の手元には唯一、カンボジアでクメール・ルージュ政権時代のわずか3年8ヶ月の間に、約152万人(推計)が殺されたとするデータがあるのみである。クメール・ルージュ政権崩壊後に、ベトナムの後押しで成立したプノンペン政権(当時の日本メディアではヘン・サムリン政権と呼ばれることが多かった)が発表したカンボジアの推計人口は約835万人だったから、「民主」カンボジアの名の下に、国民の約5.5人に1人が殺されたことになる(注)。

 新党の党名から「民主」の文字が外れたことで、「民主」の名前の入った政党は55年体制を支えた自民・社民両党だけとなった。とはいえ社民党は、日本社会党からの党名変更で現在の名前になったのだから、結党から一貫して「民主」の名前を入れ続けているのは今や自民だけだということになる。党内で自由な議論も許さず、少しでも安倍政権を批判するメディアに対しては、やれBPO送りだ停波だと脅しまくる政党が、結党以来一貫して「民主」を使い続ける唯一の党とは、何の悪い冗談かと思ってしまう。騙され続けてきた有権者も、これでようやく自由「民主」党の名前のまやかしに気付くかもしれない。

 ドイツ「民主」共和国も「民主」カンボジア国も、その後、世界地図から消えた。朝鮮「民主」主義人民共和国も、このままでは遠からず地図から消えるだろう。一方、そんな諸外国とは裏腹に、安倍1強時代となり、我が世の春を謳歌しているように見える自由「民主」党だがこちらは今後、どうなるだろうか。

 元外務省主任分析官で、鈴木宗男元衆院議員の盟友でもあった佐藤優氏が興味深い証言をしている。彼は、ゴルバチョフによるペレストロイカが始まって2年ほど経った1988年のソ連滞在当時、モスクワの至る所で「この道しかない」のスローガンが掲げられているのを見たというのだ。



 思えば、2度の国政選挙に勝利して「1強」を実現した安倍自民の選挙スローガンも「この道しかない」だった。アベノミクスとペレストロイカ、政策こそ違っているが、国家の最高指導者、トップが「この道しかない」とうそぶくようでは末期症状だと思う。実際、ソ連もその後世界地図から消え、ゴルバチョフは最後の指導者となった。そうした歴史を考えるなら、安倍自民もどうやらそう長くなさそうだ。

 中国の作家・魯迅の小説「故郷」の「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」という有名な一節をご存じの方は多いだろう。みずからの国家や組織の名称に、頼まれもしないのに自分から「民主」の文字を冠するような連中に、ろくな奴はいないと私は思う。そんな連中が自分勝手に押しつけてくる、まやかしの「民主」主義など拒否して、私たちは今こそ別の道を歩こう。平和、人権、環境、まやかしではない真の民主主義のための新しい道を。いつまでもそのための道が細く頼りないように見えるのは、魯迅の言葉を借りるなら、歩く人が少なすぎるからだ。ひとりでも多くの人が、安倍自民と別の道を歩むなら、「この道しかない」に終止符を打つことができる。

 いよいよ4月からは電力自由化によって、これまで一般家庭では選べなかった電力会社も選べるようになる。政治の世界だけ、いつまでも「自民しか選べない」でよいわけがない。私たちの未来は、「“この道しかない”ではない、別の道」「安倍自民ではない、別の選択肢」が登場できるかどうかにかかっている。次期参院選のスローガンは、案外、「選ばせろ!」がふさわしいのではないかと、私はひそかに思っている。

注)クメール・ルージュ時代のカンボジアでの死者については、かなり古いが「ポル・ポト派とは?」(小倉貞男・著、岩波ブックレットNo.284、1993年)の記述を参考にしている。プノンペン政権の1989年の発表によれば、カンボジアの総人口は1975年現在で835万人、クメール・ルージュ時代の死者数は総人口の26.81%であったことを明らかにした上で、死者を224万人と推計。そのうち病死32%、殺されたもの68%との記述がある。本稿ではこれを基に、224万人のうち68%に当たる152万人を虐殺の犠牲者とした。

(黒鉄好・2016年3月19日)

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【管理人よりお知らせ】安全問題研究会の日高線問題に関する講演資料を掲載しました

2016-03-17 01:04:39 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

遅くなりましたが、当ブログ管理人が2月20日、北海道沙流郡日高町内で行った日高線問題に関する講演資料を、安全問題研究会サイトに掲載しました。

PDF形式で、こちらから見ることができます。ファイルが開かない場合には、「JR日高線長期不通問題を考える」コーナーから開くことができます。

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【転載記事】高浜3、4号機運転禁止仮処分決定に関する脱原発弁護団全国連絡会の声明

2016-03-10 22:06:25 | 原発問題/一般
引き続き、高浜3、4号機運転禁止仮処分決定に関する脱原発弁護団全国連絡会の声明をご紹介する。

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【脱原発弁護団全国連絡会】大津地裁高浜3、4号機運転禁止仮処分決定に関する声明

2016年3月10日

2016年3月9日、大津地裁(山本善彦裁判長、小川紀代子裁判官、平瀬弘子裁判官)は、関西電力高浜原発3、4号機の運転を禁止する仮処分決定を行い、10日にも3号炉は運転を停止するとされる。トラブルで停止中の4号炉と併せ、同原発は運転を停止することとなる。

現に運転中の原発に対して運転を禁止する仮処分決定が出され、現実に運転を停止させるのは今回の決定がはじめてである。まさに、司法が市民から付託された力を用いて、原発事故による災害から住民の命と健康を守ったのである。

この決定は、まず判断基準の枠組みとして次のように判示する。 「債務者において,依拠した根拠,資料等を明らかにすべきであり,その主張及び疎明が尽くされない場合には,電力会社の判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。

しかも,本件は,福島第一原子力発電所事故を踏まえ,原子力規制行政に大幅な改変が加えられた後の(前提事実(7)) 事案であるから,債務者は,福島第一原子力発電所事故を踏まえ,原子力規制行政がどのように変化し,その結果,本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され,債務者がこの要請にどのように応えたかについて,主張及び疎明を尽くすべきである。」(決定文43頁)

「当裁判所は,当裁判所において原子力規制委員会での議論を再現することを求めるものではないし,原子力規制委員会に代わって判断すべきであると考えるものでもないが,新規制基準の制定過程における重要な議論や,議論を踏まえた改善点,本件各原発の審査において問題となった点,その考慮結果等について,債務者が道筋や考え方を主張し,重要な事実に関する資料についてその基礎データを提供することは,必要であると考える。そして,これらの作業は,債務者が既に原子力規制委員会において実施したものと考えられるから,その提供が困難であるとはいえないこと,本件が仮処分であることから,これらの主張や疎明資料の提供は,速やかになされなければならず,かつ,およそ1年の審理期間を費やすことで,基本的には提供することが可能なものであると判断する。」(決定文43頁)との基本的な枠組みを提示している。我々が求めてきた判断の枠組みを福島原発事故の重い現実を踏まえて肯定したものであり、正当な判断枠組みである。

そして、原発の安全性をめぐる過酷事故対策(争点2)、耐震性能(争点3)、津波に対する安全性能(争点4)、テロ対策(争点5)、避難計画(争点6)の5つの争点のうち、テロ対策を除く4つの争点に関して、安全性は疎明されていないとして、裁判所は運転の差し止めを認めた。

まず、過酷事故対策に関しては、「福島第一原子力発電所事故の原因究明は,建屋内での調査が進んでおらず,今なお道半ばの状況であり,本件の主張及び疎明の状況に照らせば,津波を主たる原因として特定し得たとしてよいのかも不明である。その災禍の甚大さに真撃に向き合い二度と同様の事故発生を防ぐとの見地から安全確保対策を講ずるには,原因究明を徹底的に行うことが不可欠である。この点についての債務者の主張及び疎明は未だ不十分な状態にあるにもかかわらず,この点に意を払わないのであれば,そしてこのような姿勢が,債務者ひいては原子力規制委員会の姿勢であるとするならば,そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚えるものといわざるを得ない。」(決定文44頁)とした。

福島原発事故の事故原因が完全に明らかになっていないとの認識を示したものである。

つづいて、「福島第一原子力発電所事故の経過(前提事実(6)イ)からすれば,同発電所における安全確保対策が不十分であったことは明らかである。そのうち,どれが最も大きな原因であったかについて,仮に,津波対策であったとしても,東京電力がその安全確保対策の必要性を認識してさえいれば,同発電所において津波対策の改善を図ることが不可能あるいは極度に困難であったとは考えられず,防潮堤の建設,非常用ディーゼル発電機の設置場所の改善,補助給水装置の機能確保等,可能な対策を講じることができたはずである。しかし,実際には,そのような対策は講じられなかった。このことは,少なくとも東京電力や,その規制機関であった原子力安全・保安院において,そのような対策が実際に必要であるとの認識を持つことができなかったことを意味している。現時点において,対策を講じる必要性を認識できないという上記同様の事態が,上記の津波対策に限られており他の要素の対策は全て検討し尽くされたのかは不明であり,それら検討すべき要素についてはいずれも審査基準に反映されており,かつ基準内容についても不明確な点がないことについて債務者において主張及び疎明がなされるべきである。」(決定文44頁)とし、非常用電源と使用済み燃料ピットの冷却設備について、安全性の疎明が不十分であるとした。

住民側が、もっとも力を入れて主張してきた耐震性能の確保については、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動を検討する方法自体は,従前の規制から引き続いて採用されている方法であるが,これを主たる考慮要素とするのであれば,現在の科学的知見の到達点として,ある地点(敷地)に影響を及ぼす地震を発生させる可能性がある断層の存在が相当程度確実に知られていることが前提となる。そして,債務者は,債務者の調査の中から,本件各原発付近の既知の活断層の15個のうち, FO-A ~FO-B~熊川断層及び上林川断層を最も危険なものとして取り上げ,かつこれらの断層については,その評価において,原子力規制委員会における審査の過程を踏まえ,連動の可能性を高めに,又は断層の長さを長めに設定したとする。しかしながら,債務者の調査が海底を含む周辺領域全てにおいて徹底的に行われたわけではなく( 地質内部の調査を外部から徹底的に行ったと評価することは難しい。),それが現段階の科学技術力では最大限の調査であったとすれば,その調査の結果によっても,断層が連動して動く可能性を否定できず,あるいは末端を確定的に定められなかったのであるから,このような評価(連動想定,長め想定)をしたからといって,安全余裕をとったといえるものではない。また,海域にあるFO-B断層の西端が,債務者主張の地点で終了していることについては, (原子力規制委員会に対してはともかくとしても)当裁判所に十分な資料は提供されていない。債務者は,当裁判所の審理の終了直前である平成28年1月になって,疎明資料(乙132~136等)を提供するものの,この資料によっても,上記の事情(西端の終了地点)は不明であるといわざるを得ない。」(決定文48頁~49頁) 「(3) 次に,債務者は,このように選定された断層の長さに基づいて,その地震力を想定するものとして,応答スペクトルの策定の前提として,松田式を選択している。松田式が地震規模の想定に有益であることは当裁判所も否定するものではないが,松田式の基となったのはわずか14地震であるから,このサンプル量の少なさからすると,科学的に異論のない公式と考えることはできず,不確定要素を多分に有するものの現段階においては一つの拠り所とし得る資料とみるべきものである。したがって,新規制基準が松田式を基に置きながらより安全側に検討するものであるとしても,それだけでは不合理な点がないとはいえないのであり,相当な根拠,資料に基づき主張及び疎明をすべきところ,松田式が想定される地震力のおおむね最大を与えるものであると認めるに十分な資料はない。また,債務者は,応答スペクトルの策定過程において耐専式を用い,近年の内陸地殻内地震に関して,耐専スペクトルと実際の観測記録の乖離は,それぞれの地震の特性によるものであると主張するが,そのような乖離が存在するのであれば,耐専式の与える応答スベクトルが予測される応答スベクトルの最大値に近いものであることを裏付けることができているのか,疑問が残るところである。」(決定文49頁~50頁)と判示している。

また、「債務者のいう,地震という一つの物理現象についての「最も確からしい姿」(乙16 ・53頁)とは,起こり得る地震のどの程度の状況を含むものであるのかを明らかにしていないし,起こり得る地震の標準的・平均的な姿よりも大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは特段得られていないとの主張に至っては,断層モデルにおいて前提とするパラメータが,本件各原発の敷地付近と全く同じであることを意味するとは考えられず,採用することはできない。ここで債務者のいう「最も確からしい姿」や「平均的な姿」という言葉の趣旨や,債務者の主張する地域性の内容について,その平均性を裏付けるに足りる資料は,見当たらない。」(決定文50頁~51頁)とした。  この部分の判示は、現在全国の原発訴訟において、中心的な論点として真剣に議論されている論点に関し、住民側が主張してきた事実と論理を認めたものであり、その影響は全国に波及するものと評価できる。

続いて、津波に関する安全性の確保に関しては、「西暦1586年の天正地震に関する事項の記載された古文書に若狭に大津波が押し寄せ多くの人が死亡した旨の記載があるように,この地震の震源が海底であったか否かである点であるが,確かに,これが確実に海底であったとまで考えるべき資料はない。しかしながら,海岸から500mほど内陸で津波堆積物を確認したとの報告もみられ,債務者が行った津波堆積物調査や,ボーリング調査の結果によって,大規模な津波が発生したとは考えられないとまでいってよいか,疑問なしとしない。」(決定文52頁~42頁)として、安全性は疎明されていないとした。

さらに、避難計画について次のように重要な判示を示した。  「本件各原発の近隣地方公共団体においては,地域防災計画を策定し,過酷事故が生じた場合の避難経路を定めたり,広域避難のあり方を検討しているところである。これらは,債務者の義務として直接に関われるべき義務ではないものの,福島第一原子力発電所事故を経験した我が国民は,事故発生時に影響の及ぶ範囲の圧倒的な広さとその避難に大きな混乱が生じたことを知悉している。安全確保対策としてその不安に応えるためにも,地方公共団体個々によるよりは,国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり,この避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれるばかりか,それ以上に,過酷事故を経た現時点においては,そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生しているといってもよいのではないだろうか。このような状況を踏まえるならば,債務者には,万一の事故発生時の責任は誰が負うのかを明瞭にするとともに,新規制基準を満たせば十分とするだけでなく,その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要があり,その点に不合理な点がないかを相当な根拠資料に基づき主張及び疎明する必要があるものと思料する。しかるに,保全の段階においては,同主張及び疎明は尽くされていない。」(52~53頁)としている。

避難計画の問題が、規制委員会の判断の対象外とされていることを前提として、国家主導の具体的で可視的な避難計画の策定が必要であり、過酷事故を経た現時点では信義則上の義務が国にはあるとの立場を示したものである。諸外国では当然とされている考え方ではあるが、このような考え方が日本では採用されていないことの不合理を明確に指摘したものであり、画期的な判断である。

大津地裁決定は、市民の意識の変化に対応して、司法も大きく変化してきていることを明確に示した。福島原発事故のような深刻な災害を二度と繰り返してはならない、そのため安全性が確実に疎明されていない原発の再稼働は認められないということを、公平、冷静に、かつ明確に宣言したものといえる。  政府は、原発をベースロード電源に位置づけるようなエネルギー基本計画こそが非現実的なものであり、これを転換させることこそ現実的であることを認識しなければならない。また、政府と原子力規制委員会は、この決定の指摘を重く受け止め、新規制基準を根本から見直し、また避難計画の問題を規制に明確に取り込むべきである。

脱原発弁護団全国連絡会は、この決定を心から歓迎し、このような決定を下した裁判所に深い敬意を表するとともに、この決定を導いた原告団、弁護団の努力に深く感謝する。

そして、全国の市民の脱原発を願う運動と深く連動して、全国の原発を司法の力で止めていくための闘いを全力で展開していくことを宣言する。


以上

脱原発弁護団全国連絡会

共同代表 河合 弘之

同    海渡 雄一

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高浜原発3、4号機 大津地裁が運転差し止めの仮処分

2016-03-09 21:25:57 | 原発問題/一般
高浜原発運転差し止め 大津地裁「安全性立証せず」(京都)

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 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)について、滋賀県内の住民29人が再稼働の差し止めを求めた仮処分で、大津地裁は9日、住民側の申し立てを認め、運転を差し止める決定を出した。山本善彦裁判長は「関電は原発の安全性を立証していない」と断じた。稼働中の原発の差し止めを命じる仮処分決定は初めて。決定はただちに法的効力を持ち、関電は10日午前、営業運転中の3号機の停止作業に入る。

 関電は決定を不服として大津地裁に異議と執行停止を申し立てる方針だが、認められない限りは運転できない。

 山本裁判長は、福島第1原発事故を踏まえ、「(関電は)原発の設計や運転のための規制がどのように強化され、どう応えたかなどを説明する責任がある」とし、説明が尽くされなければ安全性に疑いがないとはいえないとの考えを示した。

 その上で、原子力規制委員会の新規制基準に含まれ、耐震設計の目安となる基準地震動(想定される最大の揺れ)について検討。地盤特性などを詳細に調べたとする関電の主張に対し「調査は徹底的ではなく想定に余裕がない」と退けた。算出方法も過去のわずかな地震データしかもとにしておらず「危ぐすべき点がある」と判断した。

 避難計画に関しては自治体に任すのではなく「国主導で具体的な計画を作ることが必要」と指摘し、使用済み核燃料プールの防護態勢や津波対策などにも疑問が残るとした。

 山本裁判長は「住民の人格権が侵害されるおそれが高いにもかかわらず、関電は安全性を確保していることの説明を尽くせていない」と結論付けた。

 大津地裁では、2011年にも住民らが「過酷事故があれば琵琶湖が汚染される」として高浜原発などの差し止めを求め仮処分申請をしたが14年に却下された。その後、高浜3、4号機が規制委の新基準に事実上合格したことを受け昨年1月、住民らが2回目の仮処分を申し立てていた。

 高浜3、4号機は、福井地裁が昨年4月に再稼働を認めない仮処分決定をしたが、12月の異議審で覆り、それぞれ今年1月29日、2月26日に再稼働した。4号機は冷却水漏れや原子炉の緊急停止などのトラブルが続き、現在は停止している。

■大津地裁仮処分決定の骨子

◇関電は高浜3、4号機を運転してはならない

◇住民の人格権が侵害されるおそれが高いが、関電は安全性の説明を尽くしていない

◇福島の原発事故後を踏まえた地震や津波対策、避難計画に疑問が残る

◇避難計画は個々の自治体に任せるのではなく国主導で作るすべきだ

◇甚大な災禍と発電の効率性は引き換えにできない
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福井地裁による運転差し止め仮処分決定が、昨年末に覆され、関電がろくに安全性も確認しないまま再稼働を強行した高浜原発3、4号機。再稼働の過程で冷却水漏れに続き、電気系統の異常による4号機の緊急停止と、重大トラブルが続いてきた高浜原発について、滋賀県民らが申し立てていた運転停止の訴えを大津地裁が認めた。すでに、この判決の評価はあちこちから出されているが、この仮処分決定が画期的だといえるのは、主に次の3つの点からだ。

(1)稼働中の原発を、歴史上初めて強制的に停止に追い込んだこと
(2)原子力規制委員会が、福島原発事故後に作った新「規制基準」に基づいて審査に合格させた原発を初めて停止に追い込んだこと
(3)避難計画の策定が義務づけられておらず、立地自治体ではないとして再稼働への同意権も与えられていない、原発から半径30km圏外の住民にも原告適格性を認めたこと

山本善彦裁判長は、2014年11月にやはり大津地裁での原発差し止め訴訟では、住民の訴えを却下している。山口地裁時代は、岩国基地の軍用機飛行差し止め訴訟でも住民の訴えを退けており、自分の立場に忠実で凡庸な裁判官と思われた。その裁判官が、180度「豹変」したのは、やはり冷却水漏れと緊急停止というトラブルを受けてのことだろうと、当ブログは当初、直感的に思った。

だが、決定文を読んでみると、高浜原発の危険性について、かなり具体的に踏み込んだ言及をしており、この仮処分決定がずいぶん前から周到に準備されていたことをうかがわせる。

これで、福島第1原発事故から5年目の3.11を、九州電力管内を除く全地域が「原発ゼロ」で迎えることになる。原発事故の風化が叫ばれていた福島にとっても、大きな朗報だ。

さて、当ブログでは、以下、決定文の概要を掲載する。

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平成27年(ヨ)第6号 原発再稼働禁止仮処分申立事件

決 定

当事者の表示

(略)

主 文

1 債務者は、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において、高浜発電所3号機及び同4号機を運転してはならない。

2 申立費用は、債務者の負担とする。

理 由

第1 申立ての趣旨

(略)

第2 事案の概要

1 事案の要旨

本件は、滋賀県内に居住する債権者らが、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において高浜発電所3号機及び同4号機(以下「本件各原発」という。また、本件各原発のうち、高浜発電所3号機を以下「3号機」と、高浜発電所4号機を以下「4号機」という。)を設置している債務者(※関西電力)に対し、本件各原発が耐震性能に欠け、津波による電源喪失等を原因として周囲に放射性物質汚染を惹起する危険性を有する旨主張して、人格権に基づく妨害予防請求権に基づき、本件各原発を仮に運転してはならないとの仮処分を申し立てた事案である。

(以下略)

第3 当裁判所の判断

1 争点1(主張立証責任の所在)について

伊方原発訴訟最高裁判決は、「原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看退し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政府の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。

原子炉設置許可処分についての右取消訴訟においては、右処分が前記のような性質を有することにかんがみると、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政府がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである」旨判示した。

原子力発電所の付近住民がその人格権に基づいて電力会社に対し原子力発電所の運転差止めを求める仮処分においても、その危険性すなわち人格権が侵害されるおそれが高いことについては、最終的な主張立証賣任は債権者らが負うと考えられるが、原子炉施設の安全性に関する資料の多くを電力会社側が保持していることや、電力会社が、一般に、関係法規に従って行政機関の規制に基づき原子力発電所を運転していることに照らせば、上記の理解はおおむね当てはまる。そこで、本件においても、債務者において、依拠した根拠、資料等を明らかにすべきであり、その主張及び疎明が尽くされない場合には、電力会社の判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。

しかも、本件は、福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力規制行政に大幅な改変が加えられた後の事案であるから、債務者は、福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力規制行政がどのように変化し、その結果、本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され、債務者がこの要請にどのように応えたかについて、主張及び疎明を尽くすべきである。

このとき、原子力規制委員会が債務者に対して設置変更許可を与えた事実のみによって、債務者が上記要請に応える十分な検討をしたことについて、債務者において一応の主張及び疎明があつたとすることはできない。当裁判所は、当裁判所において原子力規制委員会での議論を再現することを求めるものではないし、原子力規制委員会に代わって判断すべきであると考えるものでもないが、新規制基準の制定過程における重要な議論や、議論を踏まえた改善点、本件各原発の審査において問題となった点、その考慮結果等について、債務者が道筋や考え方を主張し、重要な事実に関する資料についてその基礎データを提供することは、必要であると考える。そして、これらの作業は、債務者が既に原子力規制委員会において実施したものと考えられるから、その提供が困難であるとはいえないこと、本件が仮処分であることから、これらの主張や疎明資料の提供は、速やかになされなければならず、かつ、およそ1年の審理期間を費やすことで、基本的には提供することが可能なものであると判断する。

2 争点2(過酷事故対策)について

(1)福島第一原子力発電所事故によって我が国にもたらされた災禍は、甚大であり、原子力発電所の持つ危険性が具体化した。原子力発電所による発電がいかに効率的であり、発電に要するコスト面では経済上優位であるとしても、それによる損害が具現化したときには必ずしも優位であるとはいえない上、その環境破壊の及ぶ範囲は我が国を越えてしまう可能性さえあるのであって、単に発電の効率性をもって、これらの甚大な災禍と引換えにすべき事情であるとはいい難い。

債務者は、福島第一原子力発電所事故は、同発電所の自然的立地条件に係る安全確保対策(具体的には、津波に関する想定である。)が不十分であったために、同発電所の「安全上重要な設備」に共通要因故障が生じ、放射性物質が異常放出される事態に至つたもので、新規制基準が福島第一原子力発電所事故を踏まえて形成されていることから、福島第一原子力発電所事故と同様の事態が生じることを当然の前提とする債権者らの主張は合理的ではないと主張する。しかしながら、福島第一原子力発電所事故の原因究明は、建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ばの状況であり、本件の主張及び疎明の状況に照らせば、津波を主たる原因として特定し得たとしてよいのかも不明である。

その災禍の甚大さに真摯に向き合い、二度と同様の事故発生を防ぐとの見地から安全確保対策を講ずるには、原因究明を徹底的に行うことが不可欠である。この点についての債務者の主張及び疎明は未だ不十分な状態にあるにもかかわらず、 この点に意を払わないのであれば、そしてこのような姿勢が、債務者ひいては原子力規制委員会の姿勢であるとするならば、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚えるものといわざるを得ない。

福島第一原子力発電所事故の経過からすれば、同発電所における安全確保対策が不十分であったことは明らかである。そのうち、どれが最も大きな原因であったかについて、仮に、津波対策であったとしても、東京電力がその安全確保対策の必要性を認識してさえいれば、同発電所において津波対策の改善を図ることが不可能あるいは極度に困難であったとは考えられず、防潮堤の建設、非常用ディーゼル発電機の設置場所の改善、補助給水装置の機能確保等、可能な対策を講じることができたはずである。しかし、実際には、そのような対策は講じられなかつた。

このことは、少なくとも東京電力や、その規制機関であった原子力安全・保安院において、そのような対策が実際に必要であるとの認識を持つことができなかったことを意味している。現時点において、対策を講じる必要性を認識できないという上記同様の事態が、上記の津波対策に限られており、他の要素の対策は全て検討し尽くされたのかは不明であり、それら検討すべき要素についてはいずれも審査基準に反映されており、かつ基準内容についても不明確な点がないことについて債務者において主張及び疎明がなされるべきである。

そして、地球温暖化に伴い、地球全体の気象に経験したことのない変動が多発するようになってきた現状を踏まえ、また、有史以来の人類の記憶や記録にある事項は、人類が生存し得る温媛で平穏なわずかな時間の限られた経験にすぎないことを考えるとき、災害が起こる度に「想定を超える」災害であったと繰り返されてきた過ちに真摯に向き合うならば、十二分の余裕をもつた基準とすることを念頭に置き、常に、他に考慮しなければならない要素ないし危険性を見落としている可能性があるとの立場に立ち、対策の見落としにより過酷事故が生じたとしても、致命的な状態に陥らないようにすることができるとの思想に立って、新規制基準を策定すべきものと考える。債務者の保全段階における主張及び疎明の程度では、新規制は基準及び本件各原発に係る設置変更許可が、直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない。

(2)次に、本件で問題となった過酷事故対策の中でも、福島第一原子力発電所事故において問題となった発電所の機能維持のための電源確保について検討すると、債務者の考えによれば、例えば、基準地震動Ssに近い地震動が本件各原発の敷地に到来した場合には、外部電源が全て健全であることまでは保障できないから、非常電源系を置くということになる。我が回は地震多発国ではあるものの、実際、本件各原発の敷地が毎日のように基準地震動Ssに近い地震重力に襲われているわけではないから、その費用対効果の観点から、外部電源についてはCクラスに分類し、事故時には非常用ディーゼル発電機等の非常用電源(Sクラスに分類)により本件各原発の電力供給を確保することとするものである。経済的観点からのこの発想が福島第一原子力発電所事故を経験した後においても妥当するのか疑問なしとしないが、そのような観点に仮に立つとすれば、電源事故が発生した際の備えは、相当に重厚で十分なものでなければならないというべきである。

ここで、新規制基準に基づく審査の過程を検討してみると、過酷事故発生に備えて、債務者は、安全上重要な構築物、系統及び機器の安全機能を確保するため非常用所内電源系を設け、その電力の供給が停止することがないようにする設計を持ち、外部電源が完全に喪失した場合に、発電所の保安を確保し、安全に停止するために必要な電力を供給するため、ディーゼル発電機を用意することとし、これを原子炉補助建屋内のそれぞれ独立した部屋に2台備えることとしている。またそのための燃料を7日分、燃料油貯油そうを設けて貯蔵するとしたり、直流電源設備として蓄電池を置いたり、代替電源設備として空冷式非常用発電装置、電源車等を設けることとしたことが認められる。また、原子力規制委員会の審査においては、これらの設置に加え、これらが稼働するための準備に必要な時間、人員、稼働する時間等について審査し、要求事項に適合していると審査した。

ほかにも、過酷事故に対処するために必要なパラメータを計測することが困難となった場合において、当該パラメータを推定するための有効な情報を把握するための設備や手順を設けたり、原子炉制御室及びその居住性等について検討しており、これらからすれば、相当の対応策を準備しているとはいえる。

しかし、これらの設備がいずれも新規制基準以降になって設置されたのか否かは不明であり(ただし、空冷式非常用発電装置や、号機間電力融通恒設ケーブル及び予備ケーブル、電源車は新たに整備されたとある。)、ディーゼル発電機の起動失敗例は少なくなく、空冷式非常用発電装置の耐震性能を認めるに足りる資料はなく、また、電源車等の可動式電源については、地震動の影響を受けることが明らかである。非常時の備えにおいてどこまでも完全であることを求めることは不可能であるとしても、また、原子力規制委員会の判断において意見公募手続が踏まれているとしても、このような備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたといつてよいか、躊躇せざるを得ない。

したがって、新規制基準において、新たに義務化された原発施設内での補完的手段とアクシデントマネジメントとして不合理な点がないことが相当の根拠、資料に基づいて疎明されたとはいい難い。

(3)また、使用済み燃料ピントの冷却設備の危険性について、新規制基準は防護対策を強化したものの、原子炉と異なり一段簡易な扱い(Bクラス)となっている。安全性審査については、原子炉の設置運営に関する基本設計の安全性に関わる事項を審査の対象とすべきところ、原子炉施設にあっては、発電のための核分裂に使用する施設だけが基本設計に当たるとは考え難い。すなわち、一度核分裂を始めれば、原子炉を停止した後も、使痛済み燃料となった後も、高温を発し、放射性物質を発生し続けるのであり、原子炉停止とはいうものの、発電のための核分裂はしていないだけといってよいものであるから、原子炉だけでなく、使用済み燃料ピットの冷却設備もまた基本設計の安全性に関わる重要な施設として安全性審査の対象となるものというべきである。

使用済み燃料の処分場さえ確保できていない現状にあることはおくとしても、使用済み燃料の危険性に対応する基準として新規制基準が一応合理的であることについて、債務者は主張及び疎明を尽くすべきである。また、その上で、新規制基準の下でも、使用済み燃料ピットについては、冠水することにより崩壊の除去が可能であると考えられるが、基準地震動により使用済み燃料ピット自体が一部でも損壊し、冷却水が漏れ、減少することになった場合には、その減少速度を超える速度で冷却水を注入し続けなければならない必要性に迫られることになる。現時点で、使用済み燃料ピットの崩壊時の漏水速度を検討した資料であるとか、冷却水の注入速度が崩壊時の漏水速度との関係で十分であると認めるに足りる資料は提出されていない。

3 争点3(耐震性能)について

(1)福島第一原子力発電所の重大な事故に起因して、原子力に関する行政官庁が改組され、原子力規制委員会が設立され、新規制基準が策定されたものであり、新規制基準は、従前の規制(旧指針及び新指針)の上に改善が図られている。当裁判所は、前記のとおり、本件各原発の運転のための規制が具体的にどのように強化され、債務者がこれにどのように応えたかについて、債務者において主張及び疎明を尽くすべきであると考える。

ところで、債務者は、新規制基準においては、耐震性の評価に用いる基準地震動の策定方法の基本的な枠組みは変更されず、基準地震動の策定過程で考慮される地震動の大きさに影響を与えるパラメータについては、より詳組な検討が求められることになったと主張している。

この点、福島第一原子力発電所事故の主たる原因がなお不明な段階ではあるが、地震動の策定方法の基本的な枠組みが誤りであることを明確にし得る事由も存しないことからすると、従前の科学的知見が一定の限度で有効であったとみるべきであり、これに加え、地震動に係る新規制基準の制定過程からすれば、新規制基準そのものがおよそ合理性がないとは考えられないため、債務者において新規制基準の要請に応える十分な検討をしたかを問題とすべきことになる。

(2)このような観点から、債務者の提示する耐震性能の考え方について検討すると、敷地ごとに震源を特定して策定する地震動を投討する方法自体は、従前の規制から引き続いて採用されている方法であるが、これを主たる考慮要素とするのであれば、現在の科学的知見の到達点として、ある地点(敷地)に影響を及ぼす地震を発生させる可能性がある断層の存在が相当程度確実に知られていることが議提となる。そして、債務者は、債務者の調査の中から、本件各原発付近の既知の活断層の15個のうち、F0-A~F0-B~熊川断層及び上林川断層を最も危険なものとして取り上げ、かつこれらの断層については、その評価において、原子力規制委員会における審査の過程を踏まえ、連動の可能性を高めに、又は断層の長さを長めに設定したとする。

しかしながら、債務者の調査が海底を含む周辺領域全てにおいて徹底的に行われたわけではなく(地質内部の調査を外部から徹底的に行ったと評価することは難しい。)、それが現段階の科学技術力では最大限の調査であったとすれば、その調査の結果によっても、断層が運動して動く可能性を否定できず、あるいは末端を確定的に定められなかったのであるから、このような評価(連動想定、長め想定)をしたからといって、安全余裕をとったといえるものではない。

また、海域にあるF0-B断層の西端が、債務者主張の地点で終了していることについては、(原子力規制委員会に対してはともかくとしても)当裁判所に十分な資料は提供されていない。債務者は、当裁判所の審理の終了直前である平成28年1月になって、疎明資料を提供するものの、この資料によっても、上記の事情(西端の終了地点)は不明であるといわざるを得ない。

(3)次に、債務者は、このように選定された断層の長さに基づいて、その地震力を想定するものとして、応答スペクトルの策定の読提として、松田式を選択している。松田式が地震規模の想定に有益であることは当裁報所も否定するものではないが、松田式の基となったのはわずか14地震であるから、このサンプル量の少なさからすると、科学的に異論のない公式と考えることはできず、不確定要素を多分に有するものの現段階においては一つの拠り所とし得る資料とみるべきものである。したがって、新規制基準が松田式を基に置きながらより安全側に検討するものであるとしても、それだけでは不合理な点がないとはいえないのであり、相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明をすべきところ、松田式が想定される地震力のおおむね最大を与えるものであると認めるに十分な資料はない。

また、債務者は、応答スペクトルの策定過程において耐専式を用い、近年の内陸地殻内地震に関して、耐専スペクトルと実際の観測記録の乖離は、それぞれの地震の特性によるものであると主張するが、そのような乖離が存在するのであれば、耐専式の与える応答スペクトルが予測される応答スペクトルの最大値に近いものであることを裏付けることができているのか、疑問が残るところである。なお、債務者は、耐専スペクトルの算出に当たっては、基本ケースのみならず、「傾斜角75°ケース」、「アスペリティー塊ケース」、「アスペリティー塊・横長ケース」を検討しているが、各ケースの応答スペクトルはかなり似通っており、ケースを異ならせることによりどの程度の安全余裕が形成されたかを明らかにし得ていない。債務者の検討結果によれば、最大力B速度(水平)については、基準地震動Ss-1の700ガルが最大であったというのであるから、F0-A~F0-B~熊川断層の三運動(傾斜角75°ケース)の応答スペクトルを超えるところが想定すべき最大の応答スペクトルということになるが、以上の疑問点を考慮すると、基準地震動Ss-1の水平力層速度700ガルをもつて十分な基準地震動としてよいか、十分な主張及び疎明がされたということはできない。

断層モデルを用いた手法による地震動評価結果を踏まえた基準地震動については、債務者は、結果的に、応答スペクトルに基づく基準地震動を超えるものは得られなかったとしているが、債務者のいう、地震という一つの物理現象についての「最も確からしい姿」とは、起こり得る地震のどの程度の状況を含むものであるのかを明らかにしていないし、起こり得る地震の標準的・平均的な姿よりも大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは特段得られていないとの主張に至っては、断層モデルにおいて前提とするパラメータが、本件各原発の敷地付近と全く同じであることを意味するとは考えられず、採用することはできない。ここで債務者のいう「最も確からしい姿」や「平均的な姿」という言葉の趣旨や、債務者の主張する地域性の内容について、その平均性を裏付けるに足りる資料は、見当たらない。

(4)震源を特定せず策定する地震動については、債務者は、平成16年に観測された北海道留萌支庁南部地震の記録等に基づき、基準地震動Ss-6及びSs-7として策定し、この基準地震動Ss-6(鉛直、485ガル)が結果的に最大の基準地震動(鉛直)となっている。債務者の主張によれば、これは、「地表地震断層が出現しない可能性がある地震について、断層破壊領域が地震発生層の内部に留まり、国内においてどこでも発生すると考えられる地震で、震源の位置も規模も分からない地震として地震学的検討から全国共通に考慮すべき地震を設定して応答スペクトルを策定した」とする。このような地震動についてそもそも予測計算できるとすることが科学的知見として相当であるかはともかくとして、これらの計算についても、債務者による本件各原発の敷地付近の地盤調査が、最先端の地震学的・地質学的夫知見に基づくものであることを前提とするものであるし、原子力規制委員会での検討結果がこの調査の完全性を担保するものであるともいえないところ、当裁判所に対し、この点に関する十分な資料は提供されていない。

4 その余の争点について

(1)争点4(津波に対する安全性能)について

津波に対する安全性能についても、上述の観点から検討しなければならない。新規制基準の下、特に具体飴に問題とすべきは、西暦1586年の天正地震に関する事項の記載された古文書に若狭に大津波が押し寄せ多くの人が死亡した旨の記載があるように、この地震の震源が海底であったか否かである点であるが、確かに、これが確実に海底であったとまで考えるべき資料はない。しかしながら、海岸から500mほど内陸で津波堆積物を確認したとの報告もみられ、債務者が行った津波堆積物調査や、ボーリング調査の結果によって、大規模な津波が発生したとは考えられないとまでいってよいか、疑問なしとしない。

(2)争点5(テロ対策)について

債務者は、テロ対策についても、通常想定しうる第三者の不法侵入等については、安全対策を採っていることが認められ、一応、不法侵入の結果安全機能が損なわれるとはいえない。もっとも、大規模テロ攻撃に対して本件各原発が有効な対応策を有しているといえるかは判然としないが、これについては、新規制基準によって対応すべき範疇を超えるというべきであり、このような場合は、我が国の存立危機に当たる場面であるから、他の関係法令に基づき国によって対処されるべきものであり、またそれが期待できる。したがって、新規制基準によってテロ対策を講じなくとも、安全機能が損なわれるおそれは一応ないとみてよい。

(3)争点6(避難計画)について

本件各原発の近隣地方公共団体においては、地域防災計画を策定し、過酷事故が生じた場合の避難経路を定めたり、広域避薙のあり方を検討しているところである。これらは、債務者の義務として直接に問われるべき義務ではないものの、福島第一原子力発電所事故を経験した我が国民は、事故発生時に影響の及ぶ範囲の圧倒的な広さとその避難に大きな混乱とが生じたことを知悉している。

安全確保対策としてその不安に応えるためにも、地方公共団体個々によるよりは、国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、この避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれるばかりか、それ以上に、過酷事故を経た現時点においては、そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生しているといってもよいのではないだろうか。

このような状況を踏まえるならば、債務者には、万一の事故発生時の責任は誰が負うのかを明瞭にするとともに、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要があり、その点に不合理な点がないかを相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明する必要があるものと思料する。

しかるに、保全の段階においては、同主張及び疎明は尽くされていない。

5 被保全権利の存在

本件各原発は一般的な危険性を有することに加え、東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所事故という、原子力発電所の危険性を実際に体験した現段階においては、債務者において本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され、それにどう応えたかの主張及び疎明が尽くされない限りは、本件各原発の運転によって債権者らの人格権が侵害されるおそれがあることについて一応の疎明がなされたものと考えるべきところ、本件各原発については、福島第一原子力発電所事故を盤まえた過酷事故対策についての設計思想や、外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点があり、津波姑策や避難計画についても疑間が残るなど、債権者らの人格権が侵害されるおそれが高いにもかかわらず、その安全性が確保されていることについて、債務者が主張及び疎明を尽くしていない部分があることからすれば、被保全権利は存在すると認める。

6 争点7(保全の必要性)について

本件各原発のうち3号機は、平成28年1月29日に再稼働し、4号機も、同年2月26日に再稼働したから、保全の必要性が認められる。

以上の次第で、債権者らの申立てによる保全命令は認められることになるところ、債権者らの主張内容及び事案の性質に鑑み、担保を付さないこととする。

第4 結論

よって、主文のとおり決定する。

平成28年3月9日

大津地方裁判所民事部

裁判長裁判官 山 本 善 彦

裁判官     小 川 紀代子

裁判官     平 瀬 弘 子

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【転載記事】サンダース出馬で「社会主義」が禁句でなくなる~米大統領選レポート

2016-03-07 21:05:22 | その他社会・時事
米国社会の混迷を背景に、こちらも混迷という以外に表現のしようがない2016米国大統領選の報告が、サンフランシスコ在住のレイバーネット会員、和美さんから寄せられた。

米国社会の現状とともに、良くまとまっている報告なので、以下、全文をご紹介する。

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レイバーネット日本より

サンダース出馬で「社会主義」が禁句でなくなる~米大統領選レポート



アメリカでの大統領選挙戦の報告です。こちらでは現在、大統領選の民主党と共和党の予備選挙が2月より始まって6月半ばまで続き、その後はそれぞれの党の代表が11月の大統領選まで選挙運動をしますので、ここ約1年程は毎日そのニュースでいっぱいです。特に今年は前代未聞の選挙で毎日がサーカスの様です。今年の選挙はアメリカの社会の不満層が右はもっと右に、左はもっと左に(左と言ってもいわゆるリベラル派)に動いている現れのようです。

まず共和党ですが、どうやらニューヨークの資産家トランプが指名を受けそうです。共和党はかなりの州が勝者が全delegates(代議員)を勝ち取る仕組みになっていて、これは元々は党の指導者が、主流を行く代表を選びやすくする為に決めた仕組みのようで、予備選の始めの方に南部の保守的な州をさせて、保守派がまず流れを固めてから後半を有利にしようという計算です。

delegates(代議員)の数の一番大きなカリフォルニアなどは最後の6月ですから、ここにくるまでにはいつも既にほとんど決まっています。ところが今回は当てが外れたようで、予想ではトランプが大体どの州も40%かそれ以上の支持を得ているため大差でdelegatesの数をとりそうです。指導層はこれをなんとか阻止しようと、毎日、特にトップ3人(トランプも入れて)の候補者が、子供のガキ大将がお互いを罵倒し合うようになじり合っています。

マルコ・ルビオは「トランプは世界一流の詐欺師だ」といい、「トランプの手は小さいが手の小さいやつは信じる事が出来ない」、また「彼は顔に日焼け色のスプレーをして、日焼けしているように見せている」などなど。

それに対してトランプは「ニューヨークの5番街で誰かをピストルで撃っても皆俺に投票してくれる」と言ったり、ボトルの水を床にまき散らしながら、「小さいマルコは討論の前、のどがひからびていて、付き添いに水、水とどなっていた」と子供のように相手をけなし合っています。

共和党の指導者などは、もしトランプが代表に選ばれたら彼をサポートしない、中には民主党のクリントンに投票すると公に言っている人もいます。このような状態では、多分この秋を待たずにひょっとして1854年以来続いた共和党は分裂するかもしれません。

一方、民主党の方ですがクリントンとサンダーズが競っています。サンダーズは前は無所属で自分は社会主義者だと言っていました。彼はこの大統領選に立つため、直前に民主党に入党し、"democratic socialist”だと言っています。アメリカでは共和党と民主党以外の第3党が選挙に出るのは、最近ではほとんど不可能に近い状況です。彼が立候補した時、最初は党指導部はアメリカでは社会主義者は絶対に支持を得られないとたかをくくっていましたが、最近は彼がかなりの支持を受け出したので少し慌て出したようです。

アメリカではほんの最近まで、普段の会話に社会主義とか共産主義という言葉は禁句でした。ところが若い人達や労働者の間で学校を借金で卒業してもろくな仕事が得られない、また賃金が低すぎてフルタイムで仕事をしていても生活出来ない、それどころかフルタイムすら手に入らないという状況の中で、彼の提案している方針は大変魅力的ですから、「彼は社会主義者だけどいいのか?」という質問に「それがどうした?」と答えが返ってきます。

資本主義の現状が、アメリカ人の考えを内から変える土台があったのですが、サンダーズの出馬により、少なくとも今までの社会主義という禁句を普通に受け入れられるようにしたのです。しかし現在、アメリカの両議会ではどちらとも共和党が支配していますから、サンダーズのfree education(大学迄、ただの教育)、 single payer health care(国が運営する国民全員の健康保険)、 $15 minimum wage(federal)(国の最低賃金-州や市の最低賃金はそれと同等かそれ以上) などが議会を通るのは今の所、ほとんどないと思いますが、若者、労働者にとっては提案してくれるだけでもこの候補者に希望がみえるのでしょう。彼自身、「どのようにして実際これらを実現するのか」という質問に対して、"political revolution” を起こすのだ、という漠然とした答えしか返ってきません。

今日のスーパーチューズデー(11の州での予備選挙+3州の共和党のコーカス)でトランプはかなりの州の票を得て、他を大きく離して先頭を走っています。サンダーズもかなり善戦しています。今年の選挙は今までと違っておもしろくなって来ました。

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民主・維新合流後の党名募集?

2016-03-06 20:45:26 | その他社会・時事
合流を決めた民主党・維新の党が新党名を募集しているという(募集期間:3/3~3/6)。自分たちの党名も自分たちで決められない政党に未来なんてあるわけもないし、政権を託したくもない、という声も聞こえるが、「名は体を表す」の例え通り、名前とは案外重要なものである。

が、確かに自分たちの党名も決められないのは情けないことこの上ない。「大喜利」状態になっているネット界隈の「祭り」は無視して、あくまで中道左派、リベラル層の結集を実現するため、当ブログも以下の4案で応募しておいた(党名の後の説明文は応募理由)。さて、どのように決まるか。

1.日本社会党
日本でリベラル層の受け皿がなくなったのは社会党の崩壊による。平和・人権・民主主義・脱原発を願うリベラル層・中道左派の受け皿が必要。

2.民主労働党
日本には現在、リベラル労働者層の受け皿がない。保守、新自由主義政党は有り余っているので、貴党には労働者層を代表する政党となってほしい。韓国の中道左派政党として「民主労働党」の前例がある。

3.社会労働党
リベラル層・労働者層の受け皿を作ることが日本政治の急務。スペインに社会労働党の例があり、保守政党とは違った存在感を示している。

4.立憲改革連合
安倍政権の立憲主義破壊に反対し、立憲主義を取り戻すため。かつての連合の会を母体とした「民主改革連合」に立憲主義を加味してこの案とした。「連合」の支持も取り付けやすいのでは?

率直に言って、1~3は党内保守派には受け入れ難い案だろう。これらの名称で決まった場合、党内保守派は離党する恐れがあるが、当ブログはそれでいいと思っている。むしろ、リベラル層の結集に特化し、右派を追い出すための党名案である。

4は、唯一、保守派も飲める案だろう。しかし、保守派を抱えたままで自民党との対抗軸は作れない。個人的には保守派との「妥協案」だと思っている。

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(2016.3.7 追記)

当ブログ管理人は上の4案で応募した。投票したい政党がないと嘆き、投票所からずいぶん長いこと遠ざかっているリベラル層のためを思っての応募だった。結果的に「民主」の名を残したものが1案、残さないものが3案となったが、「民主」の名前のあまりの評判の悪さを考えると、自分で応募しておいていうのもなんだが、「民主」の名は外して1から出直すべきだろう。

「民主」の名を外すことで、自分たちの党が民主主義を放棄したかのように受け止められないか心配する関係者がもしいたら、そんな心配は無用だと当ブログは指摘しておく。そもそも、西側先進資本主義国の集まりであるサミット(先進国首脳会議)参加7か国の正式国名を見てみると、日本国/アメリカ合衆国/グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国/フランス共和国/イタリア共和国/ドイツ連邦共和国/カナダ――であり、「民主」と入った国名は1つもない。

一方、社会主義体制だった旧東ドイツ(ドイツ民主共和国)や「朝鮮民主主義人民共和国」のように、どう見ても民主主義と無縁の国、民主主義のかけらも存在しない国ほど「民主」と入った国名が多い。あの悪名高いクメール・ルージュ(いわゆる「ポル・ポト派」)支配時代のカンボジアの正式国名も「民主カンボジア国」だった(現地語表記で「民主カンプチア国」としているものもある)。ドイツ「民主」共和国、朝鮮「民主」主義人民共和国、「民主」カンボジア国でいったいどれだけ多くの人が逮捕され、拷問され、そして殺されたか想像もできない。民主主義の実態がある国ではわざわざ「形」にこだわる必要がなく、逆に民主主義の実態がない国ほど「形」を求めるのだということがよくわかる。

もしも、民主・維新合流後の新党が党名から「民主」を外せば、「民主」の名前の入った政党は自民・社民両党だけ。社民党は、日本社会党からの党名変更で現在の名前になったのだから、結党から一貫して「民主」の名前を入れ続けているのは自民だけということになる。党内で自由な議論も許さず、少しでも安倍政権を批判するメディアに対しては、やれBPO送りだ停波だと脅しまくる政党が、結党以来一貫して「民主」を使い続ける唯一の党となれば、騙され続けている有権者も自由「民主」党の名前のまやかしに気付くだろう。

ドイツ「民主」共和国も「民主」カンボジア国も、今では地図から消えた。朝鮮「民主」主義人民共和国も、このままでは遠からず地図から消えるだろう。残るは自由「民主」党のみだが、現状を見ていると、こちらもそう長くなさそうだ。

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高浜原発4号機「緊急停止」 関電の企業体質を反映 次に起きるのは大事故だ

2016-03-03 21:39:27 | 原発問題/一般
4号機、原子炉が緊急停止 送電操作中、主変圧器故障の警報(毎日)

2月29日、ようやく東電の旧経営陣らが、検察審査会の議決に基づき起訴された喜びに浸っていたのも束の間、高浜原発4号機が緊急停止という衝撃的なニュースが飛び込んできた。

概要は報道されているとおりであり、電源系統の異常のため高浜4号機で警報が作動し、原子炉が緊急停止したというものだ。これがどれだけ重大な事故かは、当ブログの「原発問題」カテゴリを常時、ウォッチしている人には改めて説明するまでもないだろう。福島第1原発の大事故も「全電源喪失」から始まったのだから。

そもそも、高浜原発3、4号機に関しては、福井地裁による再稼働禁止の仮処分命令が2015年4月に出たことにより、法的に稼働不可能な状態が2015年12月まで続いた。福井地裁は、この再稼働禁止の仮処分命令を出した裁判長を名古屋家裁に「転勤」させ、別の裁判長にすげ替えてまで12月、この仮処分を取り消す別の命令を出させたが、その仮処分取り消し開けの再稼働が、この無様な結果だ。

当ブログは、関西電力が裁判所に仮処分命令の取り消しをさせてまで再稼働を強行した背景に、関電が抱えるいくつかの「事情」があることを指摘しておきたいと思う。

まずは、「電事連会長企業」としての関電の誤ったプライド意識だ。

電力会社の親睦団体である電気事業連合会の会長は、現在、八木誠・関西電力社長が務めている(参考)。電事連会長は、福島第1原発事故以前は東京電力のポストだったが、事故後の東電が実質国有化されたのを受け、関電に変更された経緯がある(実質国有化された東電が電事連会長では、電力業界にとって都合の悪い情報が政府に筒抜けになると心配、東電が電事連会長から外されたといわれる)。

3.11以前の東電も、電事連会長企業として「自分たちが電力業界をリードしている」というつまらないプライド意識があったといわれる。東電に代わって電事連会長企業となった関電が、原発再稼働で他の電力会社に後れを取るようでは格好がつかないという、妙なプライド意識が働いたことは想像に難くない。このような妙なプライド意識は「原子力ムラ」以外にとっては迷惑以外の何物でもない。

次に、プルサーマル方式である3号機を先に再稼働した背景事情として、指摘しておかなければならないのはプルトニウム問題だ。

反原発派はもちろんのこと、一般市民の中にも「関電はなぜ、他の原子炉を差し置いて、危険といわれているプルサーマルから先に再稼働させるのか」という疑問を抱いている人は多いと思う。だが、当ブログにいわせれば、関電は高浜3号機がプルサーマル「だからこそ」危険と分かっていながら先に再稼働させざるを得なかったのである。

現在、日本の原子炉級プルトニウム保有量は47トンに達する。2012年現在では44.9トンだ(出典)。日本を上回っているのはロシア、イギリス、フランスのみ。これらはいずれも核保有国であり、非核保有国でこれほどのプルトニウムをため込んでいるのは日本だけだ。これに関しては、2014年6月、中国外交部(外務省)がプルトニウム保有量の一部報告漏れを起こした日本に対し、説明を要求するという出来事があった(参考記事―中国外交部、日本政府にプルトニウム保有量報告漏れの説明求める―中国メディア)。大半の日本人は、「核保有国の中国が何を言っているのか」という反応しか示さなかったようだが、その中国でさえ原子炉級プルトニウム保有量は0.01トン(10キログラム)。核兵器用の高濃縮ウランを含めても16トンしか保有していない。中国が日本を「隠れた核保有国」と見て、ウソ・ごまかしばかり繰り返す日本に説明を要求してきたのは当然といえる(このあたりの事情は、「隠して核武装する日本」(影書房)に詳しい)。

日本政府・原発推進派としては、ため込んだプルトニウムのせいで「痛くもない腹」を探られないようにするためにも、このプルトニウム「消化」に道筋をつけたいところだろう。しかし、この点で最も期待をかけていた高速増殖炉「もんじゅ」はもう20年以上まったく動かず、1ワットの発電もしていない。プルトニウムを「消化」する日本にとって唯一の方法、それがプルサーマルなのだ(参考記事―緊急停止の高浜原発4号機 再稼働の3号機は高リスクのプルサーマル発電(アジアプレス))。

ウラン燃料にプルトニウムを混ぜた「MOX」燃料を使用するプルサーマルについては、反原発派から「灯油を入れて燃やすことしか想定せずに作っている石油ストーブにガソリンを入れて燃やすようなもの」だとして、その危険性が指摘されてきた。福島第1原発3号機もプルサーマル方式だが、そうでなければ事故の規模はもっと小さかったかもしれない。3号機でのプルサーマル受け入れを思慮もなく決めた佐藤雄平前福島県知事の責任はもっと大々的に追及されるべきだろう。

ところで、現在、再稼働が始まった原発についていえば、川内も高浜も重要免震棟さえ存在していない(参考記事―「免震棟、9原発で未整備 安全対策遅れ浮き彫り」(福井新聞))。福島第1の事故で、辛うじてここが機能し、吉田昌朗所長以下、緊急対策を講じることができたのは不幸中の幸いだった。何度でも繰り返すが、川内にも高浜にも重要免震棟はない。福島第1クラスの過酷事故が起きた場合、緊急対策すら取れず、現地作業員が原子炉を暴走するまま放棄しなければならない事態が訪れるかもしれないのだ。

もうひとつ、福島の教訓という意味で、当ブログが皆さんにお伝えしておかなければならない事実がある。強制起訴された刑事裁判の法廷でも、東電の3人の旧経営陣は事故は「想定外」として無実を主張するだろう。だが、福島第1原発では、運転開始から40年の間に、3回も緊急停止事故が起きていたのである。

想定外ではなかった事故/トラブルを隠し続けた電力会社/これで再稼働なんてありえない(「週刊MDS」2012年7月13日号)

この記事によれば、1981年5月と1992年9月に、福島第1原発では2度も緊急停止事故が起きているが、東電は2度とも事故を過小評価、隠蔽した。事故前年の2010年夏にも、翌年の大事故を「予言」するかのような「全電源喪失」事故を起こしている。佐藤和良前いわき市議(福島原発告訴団副団長、福島原発事故刑事訴訟支援団長)は、何度重大事故を起こしても反省しない東電の姿勢を見て「次はもう事故しかない」と思ったという。

2010年の全電源喪失事故の後、「東京電力とともに脱原発をめざす会」が行った東電との直接交渉の資料は、当ブログ管理人が管理している「しらかわ・市民放射能測定所ベク知る」公式サイトに掲載している。ことの重大さがよく分かる資料なのでご紹介しておきたい。

●あわやメルトダウンの重大事故/福島第一・2号 「外部電源全喪失」

●福島第一・2号「外部電源全喪失事故」が提起した深刻な欠陥~~2010年7月9日東電本社における聞き取りから~~

安倍首相が、新規制基準を「世界一安全」だとたとえ何万回繰り返そうと、どんなに高度な安全対策を施した原子炉が納入されようと、原発を動かすのは人間だ。その人間がこの程度の意識レベルしか持ち得ないのでは、事故は防ぎようがない。それが福島の教訓ではないのか。

事故を起こす原発には、ここに示したように必ず「予兆」がある。想定外などというたわごと、寝言を誰が信じるのか。当ブログはあえて断言しよう――次の原発事故が起きるのは福井だと。

原発などしょせん人智を越えた代物だ。こんなものを安全に扱えるわけがないと認め、今すぐ原発全廃の決断をすべき時である。福島の悲劇の繰り返しはもうたくさんだ。

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【転載記事】ついに実現した東電元幹部の「強制起訴」

2016-03-02 22:43:32 | 原発問題/一般
東京第5検察審査会による昨年7月の2度目の「起訴相当」議決を受け、2月29日、検察官役の指定弁護士が東京電力の旧経営陣3名を業務上過失致死傷罪で東京地裁に起訴した。

この起訴を受け、ウェブマガジン「マガジン9」のサイトで、小石勝朗さんが詳しい解説記事を執筆している。福島原発告訴団を丁寧に取材しているジャーナリストであり、長くなるが、全文を引用する。

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ついに実現した東電元幹部の「強制起訴」

 予定されていた節目には違いない。しかし、原発事故から5年、告訴・告発をしてから4年近く。責任追及の中心になってきた人たちには「ようやくたどり着いた」との感慨が強いことは容易に理解できる。「画期的」「歴史的」という言葉が何度も語られた。

 福島第一原子力発電所で起きた未曾有の事故をめぐり、東京電力の勝俣恒久・元会長(75歳)▽武藤栄・元副社長(65歳)▽武黒一郎・元副社長(69歳)の3人が2月29日、業務上過失致死傷罪で東京地裁に強制起訴された。それを受けた「福島原発告訴団」の記者会見の様子である。

 福島原発事故は「人災」と指摘されるにもかかわらず、5年経っても誰が事故の責任を負うかは曖昧にされ続けてきた。それだけに、刑事責任を初めて問うことになる今回の強制起訴には大きな意義がある。

 もちろん、刑事裁判が被告の人権に十分配慮したうえで公平・公正に行われなければならないのは言うまでもない。だとしても、事故発生以来、組織や、あるいは国家権力に守られて、検証や批判の矢面に立つことから逃れ続けていたように見える東電の元最高幹部に、公開の法廷で「国民」と向き合ってもらい、事故の状況や経緯を自らの口から語らせる糸口ができただけでも、重要な成果だろう。

 それにしても、ここに至るまでの紆余曲折は、告訴・告発した原発事故被災者らにはとても厳しいものだった。

 被災者らでつくる告訴団が東電幹部らを業務上過失致死傷罪などで検察に告訴・告発したのは、2012年6月のこと。検察による全員の不起訴処分(13年9月)を受けて、検察審査会へ審査の申し立て。検審は14年7月、今回の3人について「起訴相当」と議決したものの、再捜査した検察は翌15年1月、再び不起訴に。再度、検審に審査を申し立てた結果、昨年7月、3人を「起訴すべき」との2度目の議決が出され、ようやく強制起訴となることが決まったのだ。

 告訴団の弁護団長を務める河合弘之弁護士は会見で「検察の不起訴処分に負けていたら、事故の問題点はすべて闇に葬られていた。その寸前で、きわどいところだった」と強調した。武藤類子・告訴団長が語った「感無量」との言葉が、被災者全員の気持ちを言い表しているようだ。

 では、今回の起訴状の中身を、どう評価すべきなのだろうか。

 公訴事実によると、起訴された3人は、福島第一原発に海面高10メートルの敷地を超える津波が襲来して、炉心損傷やガス爆発といった事故が発生する可能性があることを予見できたにもかかわらず、適切な措置を講じることなく、同発電所の運転を停止しないまま、漫然と運転を継続した過失により、大震災の津波で炉心損傷などの事故を起こし、避難を強いられた近くの病院の入院患者44人の病状を悪化させて死亡させるなどした、とされた。

 河合弁護士が注目したのは2つの点だ。

 1つは、「漫然と運転を継続した過失」の前提として、「適切な措置を講じることなく」とともに「同発電所の運転を停止しないまま」との文言が入っていること。津波に対するさまざまな防護措置を取らなかったのはもちろん、最終的には原発の運転停止までを「業務上の注意義務」の内容として求めた。「原発を停めることが最大の安全対策だと、はっきり認めている」と河合弁護士。

 もう1つは、福島第一原発の敷地の海面高である「10メートルを超える津波」の可能性を予測できたかどうかを、3人の過失の有無を判断する基準だと示したこと。後述するように、これまでは東電自身が試算した「高さ15.7メートルの津波」が判断の基準になるとみられており、「そんな大津波は想定できなくても仕方がなかった」と逃げられるおそれがあった。河合弁護士は「ハードルのバーが下がった」と捉えている。

 裁判の大きな争点は、①東電の幹部が津波による原発事故の発生を予測できたか(予見可能性)、また、②対策を取っていれば被害を回避できたか(結果回避可能性)、になる。起訴された3人は無罪を主張する可能性が極めて高い。有罪を立証できるのだろうか。

 告訴団代理人の海渡雄一弁護士は会見で、ポイントになりそうな経緯を解説した。カギを握るのは、2002年に政府の地震調査研究推進本部(推本)が出した予測――福島第一原発の沖合海域を含む三陸沖から房総沖の日本海溝沿いで、マグニチュード8級の津波地震が30年以内に20%程度の確率で起きる――への対応だという。

 東電は2007年12月に、この予測を採り入れて福島第一原発の津波対策を立てることをいったん決めている。そして08年3月に社内で導き出したのが、前述したように、高さ15.7メートルの津波が同原発を襲う可能性がある、という試算だった。

 同年6月にこの試算を武藤(栄)氏に報告した担当部署は、原子炉建屋を津波から守るには高さ10メートル(海面から20メートル)の防潮堤が必要と説明。武藤氏は対策の検討を指示したものの、翌月には「先送り」に方針転換した。検討状況はその後、武黒氏にも報告され、勝俣氏が出席していた会議でも説明された、という。

 海渡弁護士はこうした経緯から「東電の経営陣は途中まで対策を立てながら、費用がかかるという経済的な理由で実行しなかった。単純な業務上過失事件で、優に有罪認定は可能だ」との見方を示した。

 検察官役として起訴に当たり、今後は公判で有罪の立証をするのは、裁判所が選任した5人の「指定弁護士」だ。そのうちの1人、石田省三郎弁護士は起訴後、海渡弁護士に起訴状の要旨を渡した際に立ち話をして、「この事件はいけると思う」と漏らしたそうだ。海渡氏は「すごい証拠があって準備は整っている様子で、自信がある表情だった」と語った。

 今後、公判前整理手続きが行われ、指定弁護士、東電元幹部3人の弁護人と裁判所が証拠や争点、審理の進め方を協議する見通しだ。少なくとも半年、長ければ1年以上かかるとみられ、初公判は来年以降になることも予想される。判決が出てもどちらかが控訴し、さらに最高裁まで行くことが確実視されている。10年がかりの刑事裁判になりそうだ。

 この裁判を外部から応援しようと、福島原発告訴団や弁護士、文化人、市民運動家らが呼びかけて「福島原発事故刑事訴訟支援団」が1月末に発足した。「公正な裁判が行われ、真実が明らかになり、問われるべき罪がきちんと追及されるよう働きかけること」を目的に掲げている。

 公判が始まれば毎回傍聴して、その内容を記録・発信するとともに、賛同する法律家やジャーナリストのネットワークを生かして各地で集会を開くなど、継続して世論にアピールしていく。独自に証拠の収集・分析にも取り組む。すでに全国から1000人以上の会員が集まっているという。

 この裁判にも適用される「被害者参加制度」を使って、支援団の弁護士が公判に関与することも模索している。起訴状で認定された被害者から委託を受ければ、法廷で意見を述べたり被告に質問したりできるので、指定弁護士を側面支援しようという狙いだ。応じてくれる入院患者の遺族を探していくそうだ。

 この裁判には、ほかにもさまざまな効果が期待されている。

 河合弁護士と海渡弁護士は「政府や原発事故調査・検証委員会、検察がどんな事実や証拠を握り潰してきたのかが明らかになる」「原子力安全・保安院や福島県など、行政の関わりも表面化するのではないか」「有罪になれば、被災者への民事賠償も認められやすくなる」と見立てていた。

 それだけではない。

 原発の再稼働が進む中、今後、万が一にも同様の事故が起きたら誰が責任を取るのか。避けて通ることができない重い課題に対し、「脱原発」の枠を超えて多くの人が考えるきっかけにもなるはずだ。裁判の推移をしっかりと見守っていきたい。

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