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JR日高本線問題に関し、「JR日高線を守る会」が日高町村会長充て公開質問状を送付

2019-10-31 19:32:28 | 鉄道・公共交通/交通政策
11月12日にも予定されている「日高町村会」の次回会合に向けて、「JR日高線を守る会」が日高町村会長充て公開質問状を送付しました。その内容をご紹介します。

JR日高線を守る会ブログ(2019年10月29日付記事)より

公 開 質 問 状

 2015年1月にJR日高本線が高波被害により運休してから4年9ヶ月が経ち、次回臨時町長会議で日高線の行方が多数決決定されると報道されています。しかし、そもそも日高線を含む今日のJR北海道の維持困難路線の問題は、「地方の問題」ではなく、JR北海道の経営危機の問題であり、32年前の国鉄分割民営化に端を発する国の政策の失敗によるものです。即ち、経営安定基金の運用益で赤字経営を補うという分割民営化時のスキームが破たんし、運用益の不足額が4600億円にものぼり経営を圧迫したことが、今日の問題の本質です。

 国の政策の失敗は、国が責任を取るべきであり、こうした歴史的経緯を考えても、地方の路線を廃止して「解決したことにする」べきものではありません。またJR北海道が廃止を提案しようとも、住民や地域はあきらめるわけにはいきません。人口減少や不採算を理由にすれば、広大な北海道で公共インフラは何も維持できないことになり、地方住民の生活は成り立たなくなります。

 私たちJR日高線を守る会は、この基本スタンスの下にJR日高線の一日も早い復旧を願い、国と北海道とJR北海道の地域公共交通を守る意志と良識を期待しつつ、自治体の首長のみなさん、地域のみなさんと力を合わせながら、講演会、学習会、懇談会、駅清掃などのあらゆる機会を通して、啓発と運動を進めてきました。

 しかし、ここへ来て、日高町村会はバス転換を多数決で決すると言います。住民の生活や地域の未来を左右する重要な問題であるにもかかわらず、これまで会議も一貫して非公開であり、住民に対してバス転換の内容も何ら具体的に明らかにされていない中、私たちJR日高線を守る会は、なぜ今鉄路の復旧を諦めて急ぎバス転換を決定する必要があるのか、という疑問を禁じ得ません。つきましては、以下の通り質問いたしますので、ご回答の程宜しくお願いいたします。



一.坂下町村会長は、「1町2億円」の地元負担をすると「町がつぶれる」という趣旨の発言をされて、このことを日高線をあきらめる理由の一つとされていますが、他の維持困難路線の沿線自治体は、日高線のように億単位の地元負担を求められてはいません。にもかかわらず、それら維持困難路線の当面の存続は決定しており、このような多額の負担を求められた日高線だけが差別的取り扱いを受けていると言えます。この差別的取扱いへの抗議も言及もなしに、なぜ坂下町村会長は「1町2億円」を根拠に廃止やむなしとお考えなのでしょうか。なぜ億単位の負担を求められない他路線が存続し、日高線だけが「1町2億円」を理由に鉄路をあきらめなければならないのでしょうか。理由をお聞かせ下さい。

二.坂下町村会長は、「長くなればなるほど、困っている人に誰も手をさしのべず、待っていていいのかと切羽詰まっている状態」と発言されて、このことを理由の一つとして早期にバス転換すべきとされていますが、これは当事者たる「困っている人」に直接お話をお聞きになってのご意見でしょうか。私たち「JR日高線を守る会」は、当事者たる「困っている人」から、「当面は今の代行バスの利便性を高めながら、長期的には日高線を復旧してほしい」「やはり所要時間も短く、車内も広くて揺れも少ない快適な列車が必要。」という声を聞いております。車椅子の方や、リウマチで通院される方、高齢で免許を返納される方々にとって、速達性・快適性にすぐれた鉄道の利便性は、バスで代替することができないものです。地域にも様々な意見があることは承知していますが、鉄道の存続に死活的な利益を有する交通弱者の方々の声を、町村会長として今一度聞いて頂くことはできないでしょうか。

 また、上記のご発言は、バス転換すればより便利で快適になるという前提でのお話かと存じますが、上記交通弱者の方々にとって、現行の代行バスより代替バスの方がより便利で快適になるという根拠を、具体的にお聞かせ下さい。

三.10月24日(水)北海道新聞3面掲載記事「旧JR代替バス存続危機 天北宗谷岬線」に報道されたように、鉄路が廃止になりバス転換された地域は、乗客減少や減便、基金や補助金の減少など、どこも同様の問題に喘いでいます。また、ここ日高でも、道南バスのペガサス号が減便になったり、空港行きのバスの経路が変更になって苫小牧への通院が著しく困難になるなど、すでに同様の問題が起きている現実があります。こうした中で、なぜ今、坂下町村会長は多数決をしてまで急ぎ日高線を廃止しバス転換するという困難に自ら突き進もうとしているのでしょうか。理由をお聞かせください。また、バス転換後の各地の疲弊についてもご意見をお聞かせ下さい。

四.前回の臨時町長会議終了後の記者会見にて、坂下町村会長は、多数決に参加しない自治体については「離脱もあり得る」と発言されましたが、「離脱」とは具体的にどのようなことを指しているのでしょうか。また、10月18日の道新日高版記事「浦河町長が退席示唆」にあるように、「次回、浦河町が採決を退席するなら、それ以降の協議から離脱してもらう」との趣旨の発言があったと報道されていますが、これは事実でしょうか。事実とすれば、どのような意図からのご発言でしょうか。

五.上記三と四に述べた事柄(多数決の決定の検討と、「離脱」に関する発言)を確認するために、7月22日と9月24日に行われた臨時町長会議の議事録を開示して下さい。議事録が存在しなければ、会議録や発言録やメモ、録音データなど、各々の発言の主旨が分かるものであれば何でも構いません。可能であれば、上記2日程以外の全ての日高線に関する会議の議事録(なければ発言録や録音データその他何でも)の開示をお願いしたいと思います。

六.日高線の今後に関してこれまで多数回にわたって行われた町村会会議は、今後の住民の生活や地域の未来を左右する重要な議論の場であったため、私たち守る会をはじめ議長会や報道機関などからも公開の要請がなされてきましたが、住民や報道機関による傍聴も取材も許可されず、全て非公開で行われてきました。会議後に短時間のぶら下がり会見は行われましたが、私たちが必要な内容を理解するには不十分なものであり、これをもって行政の説明責任が果たされたとは言えないのではないかと思います。これらの会議は、なぜ一貫して非公開だったのでしょうか。理由をお聞かせ下さい。

七.坂下町村会長は、多数決でバス転換を決定されようとしておりますが、今後以下の問題についてどのように対応するご予定でしょうか。8月27日に私たち守る会が申入れにうかがった際には、(バス転換について)「まだ何も決まっていない」と仰っていましたが、以下の内容は、少なくとも多数決決定がなされる場合にはそれに先立って事前に住民に明らかにされてしかるべきものだと思いますので、それぞれの項目について具体的にお聞かせください。

(1) 大型バス運転手(大型二種免許保有者)の不足
(2) 18年後または基金が底をついた後どうするのか
(3) 現便数の確保
(4) 経路変更される箇所およびその周辺住民の同意
(5) 運賃、定期代の上昇
(6) 各町負担の増加

八.大狩部の被災箇所について、JR北海道は護岸責任を放棄し、北海道は「(海岸法施行規則により)鉄道海岸だから護岸ができない。廃線にして公共海岸になれば道が護岸可能」という趣旨の発言をして、事実上日高線の廃止を地元に迫っている状況ですが、なぜ日高町村会はこれに抗議や申し立てをせずに、急ぎ多数決で廃止を決定しようとされているのでしょうか。そもそも海岸法は、国鉄時代の昭和31年に施行された法律であり、国鉄分割民営化までは護岸は国の予算で行われており、「お金がないので直せない」という事態は想定されておりません。即ち、今回のような状況は法の想定外であり、これは法の不備であります。こうした法の不備は、本来であれば政治行政が力を合わせて補うべきものであるところ(※実際、2015年に、道・JR北海道・国の三者間で10億円ずつ負担するという合意がまとまりかけたことがあった)、北海道は当該法(施行規則)を楯にして本来行うべき護岸を行わずに放置することによって、漁業者の被害を長期間継続せしめ、あろうことか結果として地元に廃線を迫ることになっています。このように、機械的・形式的に法を当てはめて本来行うべき護岸を怠り、漁業者の被害を放置し地元に廃線を迫るような振る舞いは、法の悪用というべきものであり、「この法律は、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護することとともに、海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用を図り、もって国土の保全に資することを目的とする」という本来の海岸法の趣旨にも悖るものです。国土保全は本来国や道の責任であり、本来道の行うべきは、速やかに護岸を行うことによって、漁業者の不利益を速やかに除去するとともに日高線の復旧に尽力することではないかと考えますが、町村会は道に対してこの事実を指摘し抗議したことはあったのでしょうか。もしなかったのであれば、今後速やかに抗議すべきではないでしょうか。ご意見をお聞かせ下さい。

九.日本を訪れるインバウンドは増加を続け、来年開催予定の東京オリンピックを契機として道内にも多くの外国人観光客が訪れることが予想されます。京都や東京などへのインバウンドの一極集中とその地方分散が課題となる中、地方は人口減少時代の交流人口増加へ向けて、地域の観光力を磨き上げることが求められています。日高には、襟裳岬、アポイ岳ジオパーク、アイヌ文化、二十間道路、牧場風景、美味しい海産物等々、インバウンドを呼び込む魅力あふれるコンテンツがあふれており、千歳空港に近いロケーションを利用してインバウンドを引き込むために、日高線は必要不可欠なピースだと私たちは考えています。鉄道は、特に外国人観光客にとって信頼性の高い公共交通機関であり、路線バスは忌避される傾向にある、とも現役のツアーコンダクターの方にうかがったことがあります。また、日高線の車窓から見えるオーシャンビューや牧場風景は全国屈指の風光明媚さであり、日高線それ自体が観光資源であり地域の宝であると言えます。このような状況で日高線を廃止するとすれば、今後どのように日高の観光振興をはかっていくおつもりでしょうか。具体的にお聞かせ願えれば幸いです。

なお、ご回答はメールまたはFAX、文書で送付くださいますようお願い申し上げます。郵送でご返信頂ける場合は、同封の返信用封筒をご利用のうえ、11月5日(火)までに着くようにご投函をお願いいたします。

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【福島原発告訴団の叫び】9.19福島原発強制起訴刑事訴訟 それでも最後は勝つ

2019-10-30 19:25:43 | 原発問題/一般
(この記事は、当ブログ管理人が「週刊金曜日」2019年10月25日号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 真面目に安全対策をする企業が損をし、安全対策に資金をかけず短期的利益を追求する不真面目な企業ほど得をする――そんな社会を堂々と是認したことが9.19判決の最大の問題点である。

 東海第二原発を擁する日本原子力発電は、長期評価を取り入れた安全対策を講じ、かろうじて難を逃れた。「福島」後は再稼働できないため、この原発専門会社は倒産の危機にある。そんな会社が自分の利益を削ってまで津波対策をしているのに、電力業界で最も稼いでいた「ガリバー」東京電力が対策を講じなくても無罪という判決に納得できる人などまずいないだろう。このようなことが続けば安全性が低下し、やがて原発を容認していた市民・利用者からの信頼まで失われる。その程度の道理もわからないとは、つくづくこの国の司法も墜ちたと思う。真のエリート裁判官なら、たとえ無罪の結論にするとしてもここまで偏った判決は書かないものだ。

 『何の罪もない子どもたちをはじめとする次の世代のために、加害者らに罪を意識させ、この社会から失われてしまった誠実さや責任感といった人間性を取り戻すことを、残りの人生の仕事にしたい』――2012年、福島県民が決然と立ち上がった第1次告訴にあたって私はこのように陳述した。その後、福島から北海道に居を移したが思いはまったく変わらない。控訴審で逆転有罪を勝ち取ることはもちろん大切だ。だがそれにも増して大切なのは、真面目に安全対策をした企業が報われ、安全に真摯でない企業は不利になる当たり前の社会に日本を生まれ変わらせることである。

 永渕健一裁判長の、動物にも劣る野蛮な訴訟指揮から今回の不当判決は想定の範囲内である。だが負けたのは日本の司法であって私たちではない。私たちが何も悪いことをしていないという事実を覆すことはできないからだ。暴力と汚い金にまみれた原発への怒りは今日もこの狭い列島に満ちている。遠からず原発は滅びるだろう。最後に勝つのは私たちである。

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裏金還流に環境問題 原子力ムラとの「決戦の秋」が来た! 差別を燃料として暴れる原発に今こそとどめを刺せ!

2019-10-27 23:57:16 | 原発問題/一般
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2019年11月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ●「もう原子力は終わり」

 「もう原子力は終わりでしょうね」

 ある大手電力会社の幹部はそう言って肩を落としたという。高浜原発の地元・高浜町から関西電力に対し、巨額の原発マネーが渡っていた事件だ。森山栄治・元高浜町助役(今年3月に90歳で死去)によって、2011年からの7年間で関電側が受け取った金は3億2千万円、受け取った役員は20人に上る。金品の一部は小判で提供されるなど、さながら時代劇に登場する悪代官と悪徳商人の関係を思わせる。森山氏に金品を提供していた企業「吉田開発」が、2013年8月期から5年間に売上を少なくとも6倍伸ばしたことも明らかになった。

 これだけ見え透いた癒着にも関わらず、岩根茂樹関電社長を初めとする経営陣は辞任せずに乗り切る構えだった。岩根社長自身がテレビ大阪の非常勤取締役を務めており(10月7日辞任)、メディアからの批判も抑え込めると踏んでいたのだろう。

 だが市民からの批判は予想を超えて広がった。福島第1原発事故を受け、兵庫県に避難している50代女性は、八木誠会長らが当初、続投意向だった点に触れ「原子力ムラの常識は一般社会と乖離している。原発再稼働は一部の利権者のため、お金のためだとよく分かった」と容赦のない批判を加えた上で「原子力発電のコストの高さと問題点を広く知ってほしい」と訴えた。「賄賂と受け取られても仕方ない。元は住民が払う電気代の可能性もあり、許せない」と憤るのは、大阪市在住の個人株主の女性だ。関電の記者会見も「説明責任を果たさず、傲慢で不遜な関電の体質が色濃く出ている」と述べた。京都市の環境保護団体「グリーン・アクション」代表で、関電の個人株主でもあるアイリーン・美緒子・スミスさんは「関電と原発推進派の癒着を示している。全国の株主と連携して関電側に説明を求め、経営陣の責任を追及したい」と話した。

 地元の福井県では9月27日午後6時すぎ、原発再稼働反対デモが福井市の県庁前をスタート。「関電は裏金の真実を明らかにせよ」「関電は裏金を取って原発を動かすな」などと声を上げながら県庁の周囲を行進した。福島原発事故を受けて、7年前のデモスタート時から参加する福井県坂井市の男性は「利権構造で成り立っている原発は一刻も早く止めて廃炉にすべきだ」と述べた。

 市民からだけではなく、メディア、政府にまでけじめを求められた関電は、八木会長、森中郁雄副社長ら幹部4人の退任を発表。岩根社長も、社内に設けられた金品受領に関する第三者委員会の報告終了後に退任する意向を示したほか、電気事業連合会会長も辞任する意向だ。八木会長は、兼務していた関西経済連合会(関経連)副会長職も辞任することになった。

(・・・・以下、全文はこちら(安全問題研究会ホームページ)で読むことができます。)

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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算359回目)でのスピーチ/ICRP新勧告案を許すな みんなでパブコメに反対意見を!

2019-10-26 23:34:03 | 原発問題/一般
 皆さんお疲れさまです。

 ICRP(国際放射線防護委員会)が、原発事故の被害から住民を「防護」するための勧告を改訂する作業を進めています。その内容が、事故が起きていない平常の状態である「現存被ばく状況」と、原発事故からの回復が行われる期間である「緊急時被ばく状況」の住民防護基準を1つに統合した上で、一般市民の外部被ばく線量年間1~10ミリシーベルトの範囲内に「参考レベル」と称する基準を置くよう、各国政府に勧めるというものです。

 しかし、もともと日本が批准しているICRPの1990年勧告では、現存被ばく状況の線量基準は1~20ミリシーベルトのうち「下限値」つまり1ミリシーベルトでした。「緊急時被ばく状況」での基準が「20~100ミリシーベルト」の下限値、つまり20ミリシーベルトというものです。これまでの勧告では、緊急時被ばく状況は長く続けるべきではなく、できるだけ早い時期に現存被ばく状況に移行できるようにすべき、としていました。「緊急時被ばく状況」での下限値、20ミリシーベルトを事故後8年以上も続けること自体が、勧告違反に近い状況だったのです。

 ところが、ICRPはこの2つの基準を1つに統合して、1~10ミリシーベルトを「参考値」とするよう改めるというのです。しかも、従来の勧告では幅のある数値の中から「下限値」を採用すべき、と明確な表現をしていたものが、新勧告案では曖昧な表現になっています。こうした事態は見過ごせません。
 私は、ICRPがパブコメを募集しているというので、以下の通り意見を出しました。

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 私は、福島第1原発事故当時、福島県内に居住していました。事故直後の県内や周辺地域の混乱状況は今でも克明に記憶しています。当時、県内で事故を経験した者のひとりとして、今回の新勧告案には反対を表明します。

 その理由は、緊急時被ばく状況と現存被ばく状況における基準が事実上統合され、平時でも1~10ミリシーベルトの範囲内で各国が放射線防護の基準を決めればよく、1990年勧告では明確にされていた「下限値を参考レベルとして採用」という点も新勧告では曖昧にされているからです。このような勧告に移行すれば、平時における放射能防護が後退することは明らかです。次の原子力事故が起きるという前提の下に、住民に被ばく受忍を迫るものです。人工放射線による追加被ばくについて、年間1ミリシーベルト以内を原則とする1990年勧告を変える必要はありません。

 事故当時18歳未満だった福島県民で、甲状腺がんまたはその疑いと診断された人は現在すでに300人に上っています。これらは日本政府が住民の避難政策をとらず、防護も十分行わなかったことによる被害です。原子力事故のたびにこのような被害を受忍せよというのであれば、原子力によりいずれ人類は滅亡することになるでしょう。

 今回の新勧告案の「科学的」根拠になったと思われる、福島県伊達市におけるガラスバッジによる線量測定結果は、住民の被ばく量を不当に過小評価するものです。「専門家」として測定に関わった早野龍五東大教授が、データのねつ造に関わったとして論文撤回に追い込まれています。このような人物が関わった測定の結果を基に、被ばく基準を緩和する新勧告案を取りまとめること自体が許されません。

 ICRP第4委員会のジャック・ロシャール委員長は、勧告第111号の主筆であるとともに、伊達市でICRPダイアログセミナーの講師を務めてきました。早野教授と結託し「被ばくが健康に有意な影響を与えない」とのデータだけを意識的に収集することによって、被ばく基準の緩和を行うことがロシャール委員長の狙いであり、彼は一貫してそのために行動してきました。

 原子力から利益を受けない中立的第三者による新しい体制の下で、住民の声を聞きながら民主主義的に策定された指針に基づき、放射線からの住民防護は行われるべきものです。国際原子力ロビーの利益のために、人間の健康や生活、社会的基盤を犠牲にしてもかまわないと考えるロシャール氏のような人物は一般市民にとって有害です。私は最も強い被害を受けた福島県民のひとりとして、ロシャール氏を解任し、ICRPから追放するよう求めます。
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 パブコメは原則として締め切られていますが、福島事故の起きた日本からの意見だけは10月25日まで受け付けるとしています。今日がその期限ですが、もし現地時間で10月25日いっぱいまでというのであれば、日本は時間が早いため、あと半日くらいであれば間に合う可能性があります。日本語でもいいということです。短くても、簡単な内容でもかまいません。意見のある人は今日、この後帰宅したらすぐに出していただくようお願いします。「ICRP パブコメ」で検索すれば、市民団体が翻訳した新勧告案の内容とICRPの意見投稿用ページに飛ぶことができると思います。1人でも多くの人が意見を出すことが重要ですので、よろしくお願いします。

<当ブログ管理人より>パブコメの受付は、すでに締め切られています。

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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算358回目)でのスピーチ/泊・幌延現地視察報告

2019-10-18 23:48:39 | 原発問題/一般
 皆さんお疲れさまです。

 9月20日のこの金曜行動で、大阪から参加した仲間にスピーチをしてもらいました。関西電力前で毎週金曜行動をしている方ですが、関電でその直後、黒いお金の話が出たため、彼女は今大変忙しい日々を送っています。そのことは、日を改めてまたお話しできればと思います。今日は、その後一緒に回った泊原発、幌延深地層研についてお話しします。

 9月21日、泊現地を訪れ、岩内町で斉藤武一さんのお話をお聞きしました。岩内港からは、天気が良かったこともあり、泊原発がよく見えました。泊原発関係のニュースを流すときに、マスコミもそこでよく撮影をするのだそうです。

 衝撃的だったのは、泊原発は廃炉もできないのではないか、という話でした。斉藤さんによれば、泊原発は敷地が狭すぎ、いざ廃炉作業をするときに解体で出た廃材の置き場所がないのです。解体する原発から出る廃材は放射線量が高いため、どこにでも置いてよいわけではありません。置き場所が事実上敷地内に限られるにもかかわらず、十分な敷地の広さがないため、原発が廃止になっても解体作業ができず、放射線量が自然に下がっていくのをただ待つしかないのではないかということでした。原発が未来永劫運転を続けられるかのような幻想の下に、後始末のことも考えず安易に誘致した人たちに怒りを感じます。

 最新版の紙芝居も見せていただきました。北海道健康づくり財団が継続調査している資料を基に、泊原発稼働前は全道で70位にも入っていなかった岩内町、泊村の肺がん死亡率が急上昇し、高順位で安定していることを、改めて示していただきました。1970年代に始めた海水温の測定も、40年以上続けていらっしゃいます。その粘りと、継続してデータを取り続けることの大切さを改めて教えていただきました。まさに「継続は力なり」だと思います。この道庁前行動も「継続は力なり」です。

 翌9月22日には、日本原子力研究機構幌延深地層研を訪れました。研究期間「延長」が申し入れられ市民の関心が高まっているのか、それとも単なる3連休のせいなのかはわかりませんが、来訪者は以前私が訪問したときより増えている感じでした。「地層処分」研究用のトンネルは通常は午前中しか見学者を案内していないのですが、この日は午前、午後を通じて見学者を案内していました。

 地下のトンネルに降り、職員の説明を聞きましたが、地層処分の研究は進んでいるとは言えない状況でした。地層処分の受け入れ候補地を探すため、各地で説明会を開催しているNUMO(原子力発電環境整備機構)は、日本では地層処分が高レベル放射性廃棄物の唯一の処理方法だと宣伝していますが、この日の職員の説明では、地層処分に使うための「乾式キャスク」に高レベル廃棄物を詰めると、放射線量は容器の外でも全員が即死するとされる7シーベルトに達する、とのことでした。この説明を聞いただけで即座に疑問が生じます。人が近づくこともできない放射線量で、乾式キャスクの中に高レベル廃棄物を詰める作業は誰がどのようにして行うのか、という当然の疑問です。その程度の疑問すら解決していないのに、高レベル廃棄物の処分方法を地層処分に決めてしまうのは危険以前に無責任だと思います。

 私たち一行にとって、技術的な未熟さもさることながら、心配させられるのは深地層研職員の不勉強と自信のなさです。見学終了後、市民から「この施設の標高はどれくらいあるのか」という質問が出ましたが、職員は即答できませんでした。自分たちの研究施設が標高何メートルにあるかという基本的なことも知らないのです。別の参加者からは「高レベル廃棄物を覆う金属製の容器はないよりはあったほうが安全なのか」との質問が出ましたが、これにも職員は答えられませんでした。安全かどうかの認識は個人によって違うので、深地層研職員の立場で安易に安全という言葉を使うことができないという事情は理解できます。しかし「金属はガンマ線などの放射線に対しては遮蔽効果が高いので、金属製の容器は、ないよりはあったほうが外部へ放出する放射線量を減らすことができる」程度の回答であれば、科学的事実として問題なくできるはずです。深地層研職員からは、面倒な質問には答えたくないという逃げの姿勢も目に付きました。「もんじゅ」をめぐる1万件を超える点検漏れや、その後の廃炉決定などが続き、原子力機構職員全体が自信を失っているのでしょう。自分たちの仕事に誇りを持てない状況に陥っているなら、一度解体して出直すべきだと思います。このような状態の組織に高レベル廃棄物の処理を委ねるのはあまりに危険で無責任です。とはいえ、もう半世紀近く原発の運転を続けてきた日本では、放射性廃棄物の処分自体は避けて通れない課題であり、誰かが責任をもってやらなければなりません。その方法を、早々と地層処分に決めてしまうだけの研究成果が深地層研で上がっているようにはまったく見えませんでした。日本学術会議が福島原発事故直後に提案した暫定保管などの方法も再検討すべきでしょう。そのことが確認できただけでも、有意義な視察だったと思います。

 10月6日、大通公園で行われたさようなら原発北海道集会では、幌延で長く深地層研反対の闘いを続けてこられた久世薫嗣(くせ・ひさつぐ)さんからも報告がありました。「深地層研が立地するとき、『20年経てば過疎化で反対する人は誰もいなくなる』と道庁官僚に言われた。持続可能な産業をしっかり作り、子どもたちも都会に出さず地元に残さないと勝てない」という内容でした。国は基地や原発などの迷惑施設の立地をスムーズに進められるよう、意図的に地方を過疎化させる政策を採っています。持続可能な産業と人口を維持することが大事だという久世さんの報告を聞いて、なるほどと思いました。

 深地層研のある幌延町は人口2,300人(2019年9月時点)に対し乳牛の頭数が8,735頭。久世さんが住んでおられるお隣の豊富町も人口3,914人(2019年9月時点)に対し乳牛の頭数が16,000頭。人より牛が4倍も多い地域です。豊富町の牛乳や乳製品が、セイコーマートでブランド化され、売られていることはみなさんもご存じと思います。酪農・畜産で道北地域は立派に生きていけます。先日の世界気候サミットでは、温暖化の元凶として畜産もやり玉に挙がりましたが、原発や石炭火力発電よりははるかにマシです。道北の大切な産業である酪農が、幌延のたった1回の事故で滅びることになりかねません。深地層研の延長に対して、みなさんの反対の声を集めていきましょう。

注)日本学術会議が福島原発事故直後に提案した高レベル放射性廃棄物の暫定保管と総量管理については、以下の資料を参照。

(1)高レベル放射性廃棄物の処分について

(2)高レベル放射性廃棄物問題への社会的対処の前進のために

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【管理人よりお知らせ】10/6、さようなら原発北海道集会のゲスト発言音声をアップしました

2019-10-15 22:19:51 | 原発問題/一般
遅くなりましたが、10月6日、札幌市で行われた「さようなら原発北海道集会」でのゲストの方の報告を、youtubeにアップしました。以下のURLから発言内容を聴くことができます。

191006さようなら原発北海道集会発言(01)小野有五・北大名誉教授

小野さんは地震学者で、泊原発周辺の活断層の危険性を訴える活動を続けています。

191006さようなら原発北海道集会発言(02)相楽衛さん

相楽さんは茨城平和擁護県民会議事務局長。東京から100km圏内にある東海第2原発は、いま東日本で最も再稼働が近いと言われ、「再稼働同意権」を持つ周辺6自治体がどう対応するかが最大の焦点となっています。最新の闘いの報告。

191006さようなら原発北海道集会発言(03)久世薫嗣さん

久世さんは、核廃棄物施設誘致反対道北連絡協議会代表委員。日本原子力研究開発機構が道北の幌延町で研究を進める幌延深地層研に反対してきました。

この施設は(1)研究目的のみに使われ、最終処分場にしない、(2)研究期間は2000年から20年間限りで、その後は埋め戻して閉鎖--との約束がありますが、今年7月になって、研究期間の延長が原子力機構によって一方的に申し入れられました。地元では、最終処分場になるのではないかとの懸念が再び強まっています。

この施設のある幌延町は人口6千人に対し、牛の飼養頭数が2万4千頭。お隣の豊富町も4千人の人口に対し牛が1万6千頭。人より牛が4倍も多い地域です。畜産・酪農で十分暮らしていけます。こんな平和な町に核のゴミは必要ありません。

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