安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算384回目)でのスピーチ/北海道で進む核のごみ問題と日本学術会議

2020-10-31 16:10:23 | 原発問題/一般
 皆さんお疲れさまです。この道庁前行動に参加するのは、なんと1年ぶりです。ホームページを見ていると、この道庁前行動もコロナのため9月いっぱいまで休止の予定だったのが、9月4日から急きょ再開したと聞きました。核のごみ問題が急浮上したため、休んでばかりもいられない。そんな思いがみなさんにもあったのだと思います。

 1年間、私がここに来られないでいるうちに、長かった安倍政権も終わっていました。菅政権の誕生というのは、いわば黒幕が表に出てきたようなもので、自民党政権の悪は終わるどころかますます露骨になってきたように思います。

 その菅政権が発足早々、日本学術会議問題でつまずきつつあるように思います。この学術会議問題、実は水面下で原発や核のごみをめぐる問題ともしっかりつながっています。1年ぶりの道庁前行動なので、今日は少し興味深い話をしたいと思います。

 今、日本学術会議に対して、民営化論や不要論などが出され攻撃が広がっています。政府への勧告を10年以上も行わない「休眠組織」は要らないというのです。しかし実際はそうではありません。確かに勧告は行われていませんが、学術会議内部の委員会、分科会からの「提言」は毎年のように行われており、その中にはきわめて有意義なものもあります。

 2012年に出された「高レベル放射性廃棄物の処分について」という提言もその1つです。政府が推進する核のごみの地層処分について、埋めた後に地盤が動いて放射性物質が漏出しても再取り出しができず無責任だと批判し、地上での「暫定保管」に管理方法を切り替え、安全確実な処分技術の確立を待つよう提言しています。暫定保管のためには核のごみの総量を確定させる必要があるとして、核のごみ増加につながる原発再稼働に反対を表明し、当時は地味な組織に珍しく注目されました。

 学術会議の「福島復興支援分科会」が2014年に出した「東京電力福島第一原子力発電所事故による長期避難者の暮らしと住まいの再建に関する提言」も有意義なものです。『原子力災害による放射線被曝は、長期的に健康被害をもたらさないように、できる限り避けなければならない。一方で、避難生活に関わる帰還、移住、避難継続の選択については、誰からも強要されることなく、避難者個人の判断を尊重する必要がある』として『帰還を当面選択しない住民も公平な取り扱いをすること』『長期避難者の住民としての市民的権利を保障すること』を求めています。私たちが要求してきたのと同じ方向性を持つものと言えます。

 首相によって任命される学術会議の委員たちが、政府に忖度したりおもねったりすることなく、こうした市民・被害者本位の提言を出すことができたのは、学術会議の政府からの独立性が保障されていたことに加え、若手会員らの努力も指摘しておく必要があります。

 2014年の提言に関わった丹波史紀(たんばふみのり)さんは、事故前の2004年から地元・福島大学行政社会学部准教授を務め、リーマン・ショック直後の2009年からは「反貧困ネットワークふくしま」の共同代表としても活動していました。原発事故前から一貫して弱者に寄り添ってきたこのような若手研究者の高い意識や努力があったからこそ、こうした提言を出すことができたのだと私は考えています。

 2012年の核のごみに関する提言も同じです。この提言をまとめた日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」には、適任とは思えない人物も委員に多く含まれていました。BSE問題のとき、政府の広告塔として自治体が独自に続けていた全頭検査を廃止するよう主張し続けた唐木英明氏や、福島大学で「老害」化した清水修二氏などの学者がその一例です。そうした「御用学者」たちを抑え込み、地層処分を批判する提言を出すことができた背景には、原子力市民委員会座長を務めた舩橋晴俊(ふなばしはるとし)さんらの努力があったからです。舩橋さんは、残念ながら2014年に亡くなっています。

 この「核のごみ」委員会の幹事の1人に東京慈恵会医科大学教授の小澤隆一さんもいました。菅政権によって今回、任命拒否された6人のうちの1人です。メディアは安保法制に反対したことが任命拒否の理由と報道しています。もちろんそれは間違いではないと思いますが、核のごみ地層処分という重要な「国策」に反対したことも任命拒否の背景にあると見るべきでしょう。

 そもそもこの核のごみに関する提言は、内閣府原子力委員会からの諮問に対する答申として出されたものです。当時の近藤駿介原子力委員長は提言も自分の手で受け取っています。驚くことにその近藤氏は今、提言が否定したはずの地層処分を推進するNUMO(原子力発電環境整備機構)理事長として寿都町、神恵内村に核のごみを受け入れさせるために動き続けてきました。学術会議から、地層処分をやめるよう提言を受けた張本人を、地層処分推進組織であるNUMOの理事長に任命する資源エネルギー庁も、こうした人事を受け入れる本人もあまりにでたらめです。私は、2015年10月、札幌で行われたNUMOの説明会で、発言指名されたので「こんなでたらめな人事をおかしいと思わないのか」と質しましたが、資源エネルギー庁は「本人の人格や実績を見て任命した」と言うだけでまともに答えられませんでした。木で鼻をくくったような官僚答弁をした人物は、多田明弘という資源エネルギー庁の幹部ですが、彼はまだ経産省内の出世レースに残っており、そのうち経産省事務次官になる可能性もあります。こうした人事についても、みなさんしっかり監視していただきたいと思います。

 学術会議に対し、自分から諮問をしておきながら不都合な提言が出ると無視。核のごみ拒否条例まで作って「要らない宣言」をしている北海道に民意無視で押しつける。そんな自民党政権に学術会議を役立たずの税金泥棒呼ばわりする資格などありません! 解散しなければならないのは学術会議ではなく自民党です。みんなで自民党政権を終わらせ、自民党を解散に追い込むほどの闘いをしましょう。

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<安全問題研究会声明>JR北海道・日高本線廃止決定を受けて 新自由主義を乗り越え、持続可能な鉄道を再建するために

2020-10-27 22:32:18 | 鉄道・公共交通/交通政策
 JR北海道が2016年11月に「自社単独では維持困難」な10路線13線区を公表し、全国に大きな衝撃をもたらしてからまもなく4年が経過する。JR会社法に基づく国土交通大臣の監督命令を受けたJR北海道は、とりわけ「重要度が低い」とした5線区について、事業「再生」に名を借りた事実上廃線ありきの強硬姿勢で地元との協議に臨んできた。国鉄末期、国鉄再建法で規定された特定地方交通線対策協議会に見られるような、地元住民を交えた民主的な協議体制が結局は最後まで作られないまま、住民を排除したJR北海道と自治体との間の密室「協議」だけで地元住民の重要な生活路線が次々と奪われてきた。このような非民主主義的な廃線協議のあり方に対し、当研究会は強い怒りをもって抗議する。

 10月23日、JR北海道と日高本線地元7町との間で廃線を前提とした調印式が行われた。鵡川から様似まで、116.0kmにも及ぶ長大区間は2015年1月の高波災害で被災後、地元住民が5年半もの長きにわたって復旧を求める活動を続けてきたが、ついにそれも実らず廃線となる。本線の名称を持つ路線の廃止は国鉄末期の名寄本線以来、2例目という不名誉なものである。

 一方で、2019年11月に行われた地元7町の協議では、浦河町が最後まで反対の姿勢を貫いた結果、全町一致での廃線合意を「演出」しようとしたJR北海道のもくろみは挫かれた。国鉄分割民営化と前後して、30年近く前に闘いに踏み出した当研究会の長い歴史を振り返っても、被災して不通となった鉄道路線の復旧を求める運動が5年半にもわたって継続した例はない。これほど長く粘り強い闘いが継続したこと、そこから廃線に最後まで反対を貫く自治体が生み出されたことは、敗北の中にあって手にした巨大な成果であり希望である。「JR日高線を守る会」「JR問題を考える苫小牧の会」とともにこの闘いに主体的に関わり、路線復旧と維持を訴え続けてきたことは当研究会の誇りである。

 しかしながら、これほど長大でかつ本線の名称を持つ重要路線が、地元住民のこれほどの努力によっても維持できなかったことは、日本における既存の法制度が根本的に誤っていることを余すところなく示している。今回、日高本線の廃止決定と時期をほぼ同じくして、国鉄分割民営化推進の張本人である中曽根康弘元首相の国葬が、1億もの巨費をかけて強行されたことは歴史の皮肉と言うほかない。中曽根元首相が強行した国鉄分割民営化の亡霊は、北海道では今なお毎日、住民を襲い続けているのだ。

  国鉄分割民営化が産み落とした鉄道事業法は、日本のすべての鉄道事業者に事業収支見積書の提出を求め、これを基に「事業の計画が経営上適切なものであること」が認められなければ鉄道事業免許を与えないと規定する。やや極端な表現になるが、息もできないようなぎゅうぎゅう詰めの16両編成の満員電車を3分間隔で運転して利益を上げること、それができなければ鉄道事業から撤退することを、地方含むすべての鉄道事業者に要求しているのが鉄道事業法なのである。

 今年になって発生した新型コロナウィルスの感染拡大を防止するためには、人の密集を回避することが欠かせないが、こうした事態が長く続けば、大都市部の大手私鉄ですら生き残りは困難となる。鉄道事業法及びこれに基づく公共交通諸制度がその前提としていた条件が大きく崩れた今、このような極端に新自由主義的な法制度を放置するならば、21世紀は日本にとって鉄道滅亡の100年となるであろう。

 当研究会は、JR北海道が提起した廃線への動きに抵抗しつつ、ホームページやブログでの情報発信、集会や講演会での発言、ラジオ番組出演、運輸審議会主催のJR北海道運賃値上げに関する公聴会における公述人としての意見陳述などを通じてこうした諸制度の抜本的見直しを訴え続けてきた。結果として、他の交通分野と比べ鉄道だけインフラ部分を民間企業が保有し維持管理しなければならないことの不公平性や上下分離の必要性等に関しては訴えが一定程度浸透してきた。だが、新自由主義的諸制度の抜本的改革につながる政財官界の動きはついに表面化しないままこの日を迎えるに至った。

 当研究会は、公共交通の分野における日本社会の人材払底が最終段階に来ていることを改めて強く認識した。残念ながら日本の政財官界は、窮地に陥っている公共交通を持続可能な諸制度の下に置くための抜本改革を行う意思、能力のいずれをも欠いていると判断せざるを得ない。しかし、だからといって当研究会は、このまま何の手当もされず鉄道が死を迎えるのを座してただ待つこともできない。

 こうした認識の下、当研究会は、鉄道を持続可能な諸制度の下に置くための抜本的改革のためには、みずからその方策をまとめ、政財官界に提案する以外に道はないと判断した。当研究会が目指す抜本的改革の方向性は、別紙「コロナ禍、また近年相次ぐ大規模自然災害等による公共交通機関の危機を受け、地方における鉄道路線を維持するため、今後採るべき新しい鉄道政策についての基本的考え方(案)」に示したとおりである。JRグループ各社の再国有化、地方路線の廃線促進法としてしか機能していない鉄道事業法の全面廃止とこれに代わって地方路線の維持発展に資するための「地方鉄道振興基本法」の制定、上下分離の導入と国または自治体による線路保有・維持・復旧の義務化、鉄道運営における独立採算制の全面禁止を柱とする当研究会の提案は、公共交通に対する日本社会のこれまでの観念を根本から変え、ポストコロナ時代にふさわしく、かつ国際標準に照らしても遜色のない公共交通を確立する新時代の幕開けを告げるものになると確信する。

 当研究会は、この基本的考え方に基づく抜本的改革のための法律案を、みずからの手で作成し、早ければ年明けにも各政党に示したいと考える。既存の制度が不満なら、みずから対案を示し実現を目指す。破壊された公共交通復活のための政策提言とその実現に、当研究会は残りの人生をかけて取り組むことを宣言する。

 2020年10月23日
 安全問題研究会

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<北海道から>核のごみ処分地応募問題その後 道内で抗議集会相次ぐ 地元では住民投票への動き

2020-10-25 23:09:26 | 原発問題/一般
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2020年11月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。なお、管理人の判断で「原発問題/一般」カテゴリでの掲載としました。)

 北海道寿都町神恵内村で、高レベル放射性廃棄物最終処分場候補地への立候補が同時浮上してから2ヶ月が過ぎた。両町村が10年以上前から国、NUMO(原子力発電環境整備機構)との懇談や勉強会を水面下で続けてきたこともこの間の報道で発覚した。核のごみ受入条例を持つ道の頭越しに、国と基礎自治体ががっちりスクラムを組んでの10年越しの計画浮上に、道内の各反原発運動団体も「応募自体を止めるのはもはや困難」と悟る。実際、両町村は10月上旬、相次いで応募に踏み切った。

 水面下に潜行させる形で地元自治体、議員、商工会関係者らと「秘密会合」を続け、地ならしをした上で、反対運動が分散し集結できないよう複数自治体で同時浮上させる手法は、高知県東洋町での失敗(本誌前号既報)を踏まえた原子力ムラなりの「電撃作戦」であり、応募までこぎ着けたことで「してやったり」と思っていることだろう。

 しかしことはそう単純ではない。北海道には、日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターのように、誘致から20年経過しながら最終処分場とすることを阻止し続けている粘り強い闘いがある。10月1日、原子力資料情報室共同代表で原子力市民委員会委員の伴英幸さんを招いて開催された札幌市内の集会では、「建設はさせても核のごみだけは条例を盾に絶対に入れさせない闘いを作ろう。20~30年闘争は覚悟の上。寿都、神恵内を第2の幌延にしよう」との決意が示された。1980~90年代に日本原子力研究開発機構深地層センターを誘致した幌延をめぐっては、すぐ隣の豊富町で、反対派が昼食に出かけた隙を突いて推進派が臨時町議会を招集し誘致決議を強行採決した。これに激怒した住民が、推進派の中心2町議に狙いを定めて町議リコール運動を展開。1990年、リコールが成立し2人を失職に追い込んだ。闘いの緒戦で推進派に浴びせたこの「大打撃」が、誘致運動勃発から30年後の今日に至ってもごみを持ち込ませない闘いを作り出した。「寿都、神恵内を第2の幌延にする」との決意には、この幌延をモデルとして息長く闘う決意が込められている。

 権力を持っていない私たちが国家権力を相手に勝つことは難しいが、単に「負けなければいい」闘いならいくらでもできる。処分のあり方自体にも技術的不透明さがつきまとう。2自治体に応募させてしまったことは確かに手痛い事態だが、改めて考えると阻止の展望はあちこちに転がっている。

 ●寿都町 反対派から逃げ回る町長 住民投票署名が法定数突破

 寿都町は、町内に処分場建設に必要な平地もあり、一見、有望に思われるが、町内漁協が組織をあげて反対しており、町民(2020年3月末時点で2893人)の4分の1に当たる700筆の署名を1ヶ月足らずで集めた。町内には誘致反対の住民団体も立ち上がったが、住民投票を求める運動の他、町長リコールを求める意見もあり、情勢は混沌としている。

 町民の意見を聞かない片岡春雄町長と反対派の対立は頂点に達し、応募表明当日の10月8日早朝には、ついに町長宅で放火事件が起きた。反対派も浮き足立っており、短絡的な行動に走る者も出始めている。長期戦を見据え、住民を落ち着かせる情報戦略も必要になっている。

 応募に名乗りを上げた片岡町長は「過半数の住民が内心では誘致賛成であることは“肌感覚”でわかる」「20年も町長を続けている自分は町民の目を見れば考えていることがわかる」などの発言を繰り返している。「信者」の前では実に饒舌で、自分が全知全能の神ででもあるかのように振る舞っている。その行動様式はインチキ新興宗教の“教祖様”のようだ。

 一方で、片岡町長は「そんなに自信があるのであれば堂々と住民投票をやればいい」と呼びかける住民からは目をそらして答えず、伴さんを迎えて寿都町内で開かれた講演会でも、理路整然と施設の危険性を訴えた後「参加している町長からもご意見、反論があったらいかがですか」と問う伴さんに対し、ひとことも発せず会場から「逃亡」した。「信者」の前では饒舌で自信満々で、暴言放言のオンパレードでも、それ以外の場所では弱さをさらけ出す町長。お得意の「肌感覚政治」に独特の場当たり感も見えてきた。

 寿都では、町長による応募表明に合わせて急きょ、立ち上げられた「子どもたちに核のゴミのない寿都を! 町民の会」が10月23日、法定数(有権者の50分の1以上)を上回る有権者217人分の署名を提出、住民投票条例制定の直接請求を行った。寿都町の法定数は、直近のデータである2020年3月31日現在における町人口(2893人)を基に計算すると58人であり、集まった署名数はその3.5倍に当たる。

 町議会が、わずかな票差ながら応募に同意したことを考えると、住民投票条例が成立するのは困難のようにも思える。だが実際には町議会議長含む10人の町議のうち、応募賛成の確信犯は4人程度だ。「自分は応募に賛成だが町民の意見を聞いてみるのも悪くないのでは」と考える議員は応募容認派の中にいるかもしれない。

 住民投票条例制定のための直接請求署名は、一般の署名と異なって氏名の他、住所、生年月日を記載の上、捺印までしなければならない。応募表明のあった8月まで住民が平和に暮らしており、住民運動など起こる以前にやり方も知らない町民がほとんどだった町で、このような心理的ハードルの高い署名がわずかの期間でこれだけ集まった。町民の怒りがいかに大きなものかを物語っている。この住民の声を理解する正常な「肌感覚」を持たない片岡町長に、筆者はただちに辞職するよう勧告する。

 ●神恵内村 すさまじい地形にあ然 そもそも建設できるのか?

 一方、神恵内は原発立地地域交付金に毒され、今も反対派の住民団体さえ立ち上がっていないが、ここにも展望はある。核のごみは、乾式キャスク1本が約100tにも及ぶ巨大なもので、処分場には大規模な平地と高規格道路が必要だが、神恵内村には825人の村民が肩を寄せ合って暮らすわずかな集落部分以外にまったく平地がない。受入が決まっても建設地はおろか、工事資材置き場やダンプの駐車場さえ確保できる見通しがない。建設を可能にするためには、(1)集落全住民が退去(=事実上の村消滅と同じ)、(2)山を大規模に切り崩す――が考えられるが、(2)も残土置き場がないため現実的ではない。(3)として、沖合に資材置き場やダンプ駐車場を作るために埋め立てることが考えられるが、沖合には大規模な活断層が走っており(図参照)、この活断層のために現在、原子力規制委による泊原発の安全審査がストップしている状況にある。埋め立てとなっても、いつ動き出すかわからない活断層の上に巨費を投じて資材置き場の建設から始めなければならない。軟弱地盤の存在が発覚し、工事が行き詰まりを見せている沖縄県名護市辺野古における新基地建設工事と同じ状況になりかねない。現実的に建設不可能だと訴えていけば、ここにも展望はある。




 ●北海道に核のゴミ捨て場は要りません 「さようなら原発集会」に400人

 10月18日、札幌市・大通公園で「さようなら原発北海道集会」が開催され、地元紙・北海道新聞の報道によれば400人が集まった。

 この集会は、北海道平和運動フォーラムなどの主催で、福島第1原発事故後は毎年3月と10月に行われている。今年3月の集会は新型コロナウィルス蔓延の影響で中止となったため、約1年ぶりの開催となった。

 福島第1原発事故からまもなく10年。北海道は福島から遠いせいか、反原発運動側はもちろん真剣に取り組んではいるものの、どこか違う世界の出来事のような「ある種の余裕」があった。泊原発の廃炉を目指す取り組みや、核のごみ地層処分研究のための施設「深地層研究センター」(幌延町)の話題が中心で、自分たちが当事者という意識は福島や首都圏などと比べて薄かったように思う。

 それがどうだろう。この日の集会参加者の表情は一様に硬く厳しい。自分たちがついに「当事者」になったのだというある種の悲壮感が見えた。理由は言うまでもなく、8月13日以降、明らかになった寿都町、神恵内村の高レベル放射性廃棄物地層処分地への応募表明だ。北海道民にとっての「8.13」は、福島県民が味わった「3.11」に匹敵するものがある。

 この日の集会では6人が発言した。地質学者の小野有五・北海道大名誉教授は「今の世代が責任を持たなければならないと文献調査に応募表明した2町村長は言うが、私たちは原子力発電をしてくれなどと頼んだ覚えはない。勝手に原発を始め、ごみを作り出した者が後始末をすべきだ」と電力会社・原子力ムラの責任を追及した。

 道内最大の生協組織「コープさっぽろ」の麻田信二理事長は「食と観光、北海道にはこの2つしかないのに、核のごみが来たら両方ともダメになってしまう。北海道産というだけで売れなくなってしまうだろう」と懸念を表明した。実際、この懸念は的外れではない。泊原発の運転が始まった1989年、隣接する岩内町から大手乳業メーカーの工場が撤退した事実もある(「幌延=核のゴミ捨て場を拒否する」滝川康治/技術と人間/1991年より)。処分不可能な危険なごみを生み出し続ける原発。事故がなければいいというわけにはいかない。

 食糧自給率が下がり続ける日本にあって、自給率が200%を超える北海道は日本の一大食糧基地だ。生乳(牛乳)に至っては、今年か来年にも全国の生産量に占める北海道産の割合が50%を超える見通しだ。北海道でも農家の廃業は続いているが、それ以上に道外の農業基盤弱体化が進んでいる。道内農業界にとって本来なら喜ぶべきことのように思えるが、生乳生産量全国シェアに占める道産50%超えは「分母」が少なくなった結果としての達成に過ぎないのであり、数字の裏には喜んでいられない現実がある。

 コロナ禍による自粛ムードが世界を覆い尽くしていた今年4月、WHO(世界保健機関)とWTO(世界貿易機関)は「コロナ禍が長引けば飢餓人口拡大の危険性がある」と警鐘を鳴らしている。食料生産はできても「自粛」で食料流通を担う運送業界の人手が確保できない。人類はそんな恐るべき事態に直面していたのだ。

 こんな危機の時代に、日本の食料生産の大半を支える北海道に核のごみを持ち込もうとする自公政権ほどの愚か者は探してもそうそう見つかるものではない。自民党政権やその支持者はすぐに私たちを「反日左翼」呼ばわりするが、何のことはない。日本を破壊し、日本人全体を食糧難に追い込む自民党をこそ国賊と呼ばずして、いったい誰を国賊と呼ぶのか。

 大きな拍手で迎えられたのは、核のごみ処分場への応募に揺れる地元からの現地報告だ。寿都町でペンションを経営する槌谷和幸さんは応募に反対する住民団体を地元で急きょ立ち上げた。労働組合活動の経験はあるものの、こうした住民団体をゼロから設立しての運動経験のある人は地元にはほぼいない。「北海道全体に影響を与える大きな出来事を、小さな一自治体の長の判断だけで決めることができてしまうこの国の現実がある。多くの人が国に対して声を上げ、このようなことができなくさせる新たな法律を作らせることが必要だ」と訴えた。同時に、「寿都にはこちらからお願いしたときに来てくれればいい。過剰な取材、要望やアドバイスはありがたいが小さな町ですべてに応えることはできない。ひとりひとりが国策を止めるため自分にできることをしてほしい」と、現地入りよりも各自が自分自身でできること、やるべきことをきちんとやりきる必要性を指摘した。

 このほか、室蘭工業大教員で「戦争させない北海道委員会」共同代表・清末愛砂さんから発言があった。日本学術会議の新会員推薦者のうち6名について、菅政権が任命を拒否したが、清末さんは憲法学者の立場から「この攻撃は6人に対してだけではなく、また学者に対してだけかけられたものではない。国家権力に逆らう者はこのような目に遭うのだという全市民への威嚇である」と警告。「1つの考え方だけに染まってしまうことによる過ちから政府を守るために設置された学術会議は税金で運営されなければならない」として、安易な民営化論、新自由主義者から野放図に加えられている「嫌なら税金を返上して民間で勝手に学問をやればいい」論を明確に批判した。

 政党からは、道下大樹衆院議員(立憲)と畠山和也前衆院議員(共産)から挨拶。核のごみ処分場阻止への決意表明があった。野党からたった2党だけか、と思う人もいるかもしれないが、北海道では先に行われた立憲・国民の合流で、両党の国会議員は全員が立憲に合流。野党共闘への大きなステップとなった。

 なお、寿都から現地報告をした槌谷和幸さんと、清末愛砂さんの発言は、いずれも安全問題研究会youtubeチャンネルにアップロードしたので、興味のある方はお聞きいただきたい。また、この集会後に引き続いて行われた野党共闘実現を求める街宣行動では、この前日(10月17日)に1億円もの法外な税金をはたいて国葬が強行された中曽根康弘元首相の生前の「罪状」を示す立看板が登場した。こちらについても記事にした。併せてご覧いただくと、この国の「巨悪」が戦後、途切れることなく連綿と続いて今日に至っていることがきっとご理解いただけるだろう。

<音声>槌谷和幸さん現地報告(安全問題研究会youtubeチャンネル)

<音声>清末愛砂さんの発言(安全問題研究会youtubeチャンネル)

<関連記事>札幌市中心部に中曽根「国葬」批判の立て看板登場

(2020年10月25日)








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札幌市中心部に中曽根「国葬」批判の立て看板登場

2020-10-19 23:01:11 | 鉄道・公共交通/交通政策
中曽根康弘元首相の豪華「1億円国葬」の翌18日、札幌市中心部・大通公園で「さようなら原発北海道集会」が開催。終了後引き続き、野党共闘に取り組む各政党の街宣活動が行われた。

その大通公園のど真ん中に登場した立て看板。「国鉄職員200人を自殺に追い込んだのは中曽根康弘です」と堂々書かれている。週末、道行く人々の興味を引いていた。

北海道では、つい先日も日高本線の廃止が決定的になった。対象は鵡川~様似、116.0kmもの長大区間だ。「本線」の名称を持つ路線の廃止は国鉄末期の名寄本線以来となる。毎年のようにローカル線が消えていく北海道では、国鉄分割民営化の悪夢は今なお続いている。

道民が存続を望んでいた鉄路は無理やり剥がされ、要らないと拒否したはずの核のごみは押しつけられる。これはいったい誰のせいなのか。元凶をたどっていくと、両方とも中曽根康弘だ。

今、国立大学法人への弔意の強制をするなと、各地で反対の声が上がっている。もちろんそれは大切なことだが、強制以前に私はこんな男を追悼すること自体に反対である。

新自由主義を推進し、英国を壊した鉄の女・サッチャーの葬儀で映画監督のケン・ローチは言った。「彼女の葬儀は民営化しよう。それこそ彼女のお望みだから」と。いま私は同じことを言いたい。「中曽根のお墓は民営化しよう」と。お墓が赤字になったら廃止すればいいのだ。北海道民がどんなに望んでも存続できなかった鉄道路線と道連れに、人柱にでもなればいい。

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【管理人よりお知らせ】浦河町で「日高線の今とこれからを考える。」トークイベントを開催~当ブログ管理人が配布したレジュメを公開しました

2020-10-04 23:49:27 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

沿線自治体7町のうち6町までがバス転換に同意した日高線は、廃止の流れが確定的になりつつあります。しかし、博多から長崎までに匹敵するような大規模幹線を、赤字だからといってこのまま廃止していいのでしょうか。2020年10月3日、「日高線の今とこれからを考える」プロジェクトの主催によるトークイベントが浦河町で開催。当研究会もパネラーとして意見を述べました。

日本の鉄道事業法は、首都圏の大手私鉄のような「息もできないような満員電車を3分間隔で運転して利益を上げろ、それが無理なら鉄道経営はやめろ」というスキームを、事実上ローカル線にも強要する欠陥法です。当研究会は現行の鉄道事業法は廃止し、ローカル線を維持できる抜本的法制度体系に移行すべきと考えています。

今回のイベントでは、廃止が確定的になった日高線を、新幹線や大規模都市鉄道しか想定していない欠陥法としての鉄道事業法のスキームからあえて降ろし、観光鉄道(特定目的鉄道)または法律上は鉄道事業の位置づけでない遊覧鉄道として残す道を探るためのヒントを提供する方針でトークをしました。当日使用したレジュメ「日高線を失いつつある今、沿線のみなさんに訴えたいこと」及びイベントのチラシを安全問題研究会公式ホームページに掲載しました。

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