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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算291回目)でのスピーチ/日本の原発が必ず終わらざるを得ない2つの理由(2)核のゴミ問題

2018-05-25 21:56:48 | 原発問題/一般
 みなさんこんにちは。

 今日は、先週に引き続き、「日本の原発が必ず終わらざるを得ない2つの理由」についてお話しします。今日は後編、核のゴミ問題です。

 95年のナトリウム漏れ事故以降、ただの一度も動くことなく、ただの1ワットも発電できず、この間、1兆円を超える血税をドブに捨て続けてきた高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決まって1年あまりが経ちました。「もんじゅ」は青森県六ヶ所村の使用済み核燃料再処理施設と並び、国策である「核燃料サイクル」の中核をなす施設です。その一角である「もんじゅ」が廃炉に追い込まれたことで、経産省の全面的なバックアップを受ける安倍政権がどんなに頑張ったとしても、日本の原発推進政策は破たんに向けての最終局面に入ったといえます。

 「もんじゅ」が20年間、1兆円の血税を捨て1ワットも発電できなくても、1万件を超す点検漏れが発覚しても「聖域」として存続できたのは、プルトニウムを次々と再生産できるこの施設が核開発と結びついていたからに他なりません。核兵器製造能力を持つためには、ウランやプルトニウムを「取り出す技術」「濃縮・加工する技術」を持たなければなりません。取り出したばかりの天然ウランの99.7%は核分裂しないウラン238で、核分裂を起こすウラン235はたったの0.3%です。これを100%、ウラン235だけの塊にすれば核兵器の原料になり、5%程度に濃縮すれば原発の燃料になる。プルトニウムを拡大再生産できる「もんじゅ」、使用済み核燃料からプルトニウムを抽出する六ヶ所村の再処理工場は、核兵器開発能力を維持するため必要不可欠な施設であり、日本政府にはこの野望があるために、「もんじゅ」や再処理施設の事業実施がいかに困難でも、失敗続きで先の見通しが持てなくても、決して撤退ができなかったというのが、この間の事情なのです。

 「もんじゅ」の廃炉が決まった今、次に起きるのは再処理施設への波及です。この施設は、当初の計画通りなら1997年に稼働開始する予定でした。その稼働開始はすでに24回も延期されています。こちらも「もんじゅ」同様、どこまで血税をドブに捨てれば実現するかは見通しがありません。核燃料サイクルにとって車の両輪である「もんじゅ」が破たんし、朝鮮半島情勢の好転によって核武装の根拠も失われつつある今、再処理施設もそう遠くない将来の検証が避けられないでしょう。

 再処理施設の破たんが公式に認定された場合、その影響は「もんじゅ」の比ではありません。もともと再処理施設は研究用であり、ここを高レベル放射性廃棄物の最終処分場にしないことは国と青森県との約束になっています(参考資料:高レベル放射性廃棄物の最終的な処分について(平成6年11月19日付け6原第148号)。

 そればかりではありません。『再処理事業の確実な実施が著しく困難となった場合には、青森県、六ケ所村及び日本原燃株式会社が協議のうえ、日本原燃株式会社は、使用済燃料の施設外への搬出を含め、速やかに必要かつ適切な措置を講ずるものとする』――1998年7月、こんな覚書が青森県、六ヶ所村、日本原燃(施設の運営主体)の間で結ばれています。再処理事業が終了したとき、再処理施設から使用済み核燃料を搬出するというのは、この3者の間で取り決められた約束であり、このことは「青森県の原子力行政」というパンフレットにも、きちんと書いてあります。青森県原子力立地対策課に言えばこのパンフレットは送ってもらえます。

 「搬出」といっても、そこは人が近づいただけで即死してしまうような高レベル放射性廃棄物です。核燃料がもともと存在していた各地の原発以外に「搬出先」などあるわけがありません。しかも、各原発の使用済み燃料プールはすでに使用済み核燃料で一杯になりつつあります。もしここに六ヶ所村から使用済み核燃料が「返還」されてきたら、使用済み燃料の貯蔵場所がなくなるため、日本のほとんどの原発はその瞬間、運転停止に追い込まれてしまうのです。仮にそうならなかったとしても、今のペースで原発の再稼働が進み、新たな使用済み核燃料が再処理工場に運び込まれたら、再処理工場はパンクしてしまう。

 再処理工場も各原発の使用済み燃料プールもパンクして、各原発では原子炉から使用済み燃料が取り出せなくなり、やはり原発は止まってしまう。運転したくても物理的に不可能になる。そうなるまでにあと6~10年しかないと推定する学者さえいます。それも、原発反対派ではなく推進派の学者がそう予測しているんです。安倍政権がどんなに原発再稼働を強行しても、日本の原発がまともに稼働していられるのは、あと数年限りと見ておくべきでしょう。安倍政権の次か、その次の政権は、否応なくこの問題に直面することになります。

 今年1月に亡くなった「原子力市民委員会」座長で反原発派の学者、吉岡斉(ひとし)さんは、「政府が進めている高レベル放射性廃棄物処分場の受け入れ地を絶対に決めさせてはならない」と話していました。この言い方は、聞き方によっては無責任に聞こえるかもしれません。しかし、核のゴミの処分場はもちろん、処分方法さえ決めないまま「トイレのないマンション」といわれる原発を推進してきた側の誰に吉岡さんを批判する資格があるでしょうか。このまま処分場誘致に名乗りを上げる地域が現れなければ、間違いなく10年後にはこのシナリオ通りになります。

 ですからみなさん、安倍政権が次々と再稼働を進める中にあっても希望を捨てないでください。福島の状況は依然として厳しいですが、少なくとも私、そして皆さんの命があるうちに、再びこの問題がきっかけで日本の全原発が止まる日が必ず訪れるでしょう。吉岡さんの墓前に全原発停止を報告できる日が1日も早く来るよう、私は今後も核のゴミの処分場を決めさせないための闘いに全力を注ぐつもりです。皆さんも力を貸してください。

 今日は以上で終わります。ありがとうございました。

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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算290回目)でのスピーチ/日本の原発が必ず終わらざるを得ない2つの理由(1)経済性

2018-05-18 21:38:04 | 原発問題/一般
通算290回目となった今日の北海道庁前は、4月中旬並みの寒気が流れ込んで気温が5度近くまで下がり、冷たい雨の降るなかでの行動となった。当ブログ管理人が行ったスピーチを紹介する。

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 みなさんこんにちは。冷たい雨が降る中の行動、お疲れさまです。

 今日は、先週ここで予告した通り、「日本の原発が必ず終わらざるを得ない2つの理由」を2回シリーズでお話ししたいと思います。キーワードは「経済性」と「核のゴミ」ですが、今日は経済性の観点からお話しし、来週、核のゴミの観点からお話しします。

 経産省は、エネルギー政策をまとめる際、しきりに原発が「他の電源と比べて一番安いエネルギーだ」と言っています。しかし、それを否定する材料はこの場では語りきれないほどたくさんあります。今日はそのうちのいくつかをご紹介します。

 まず、福島第1原発の賠償は、経産省の控えめな予測でも21兆円が必要との試算がまとめられています。しかし、驚くのはまだ早い。2017年4月、民間シンクタンク「日本経済研究センター」がまとめた試算によれば、福島第1原発事故の処理にかかる費用は、50兆円から最悪の場合、70兆に上るとの結果になっています。内訳は、福島県内の汚染土除染に30兆円、汚染水処理に20兆円、これに賠償を加えると最悪の場合、70兆に達するというものです。この調査に中心として携わったのは、内閣府原子力委員長の要職も務めた鈴木達治郎氏で、信頼できる調査と言えます。

 福島第1原発事故が起きるよりもずっと前の2004年には、経産省の若手有志職員が核燃料サイクルの中止を求めて「反乱」を起こすという出来事がありました。最終的に反乱は「鎮圧」されたものの、このとき若手有志がまとめた資料「19兆円の請求書」によれば、青森県六ヶ所村の再処理工場の建設費は2.2兆円。関西国際空港の人工島ですら建設費は1.6兆円しかかかっていないのに、こんな金を再処理工場に投じるのはおかしいと当たり前の指摘をしています。さらに、再処理工場は動いたら動いたでコストが最終的に19兆円かかる可能性もあると、経産省の若手有志は指摘したのです。

 東芝が、中国での独占禁止法に基づく審査を終えた東芝メモリを売却するとのニュースが昨日、流れましたが、そもそも東芝がこのような事態に至ったのも、米国で2006年に子会社化した原発メーカー、ウェスチング・ハウス(WH)の破たんが原因です。日本国内では原子力損害賠償法で原発メーカーが免責され、事故が起きても責任を負わなくてよいことになっているにもかかわらず、海外での原発事業の失敗によって日本を代表する巨大企業が倒産の危機に瀕したわけです。

 それでも、原発推進勢力は「原発を動かせば、数字に換算できない様々な経済効果が地元に及ぶ。旅館や商店街が活性化する」と、執拗に再稼働を求めます。しかし、昨年出版された「崩れた原発「経済神話」~柏崎刈羽原発から再稼働を問う」という本がその正体を明かしています。柏崎刈羽原発の地元の地方紙である新潟日報社原発問題特別取材班が、地元企業の経営者100人と直接会い、面談して行った調査では、全体の3分の2に当たる67社が「原発全基停止による売り上げの減少がない」と答えました。原発による「間接的な経済効果」を尋ねても、半分近い48社が「なかった」と答えています。柏崎市の主要4産業における過去40年の就業者数、市内総生産額の推移を原発のない周辺各市と比較してもその差はなかったことがわかったのです。取材に当たった新潟日報社取材班はこうした原発推進派の根拠のない「経済効果」論を「原発経済神話」と名付け、その崩壊を指摘しています。何度でも繰り返しますが、原発が稼働すれば旅館や商店街が活性化するなどというのは根拠のないでたらめです。

 産経新聞には「原発が何年も動かず、このままではもう旅館を閉めるしかない」という「旅館経営者」のコメントが繰り返し載りますが(参考記事)、これは産経新聞が「原発作業員専用の旅館」しか取材をしていないからです。福島の事故後、東海第2原発の再稼働に同意せず、反対を表明してきた東海村の村上達也前村長が「原発作業員しか泊まれないような雑魚寝スタイルではこれからの時代、ダメだ。一般観光客も泊まれるように旅館を改造しなさいといつも経営者に言っているのに、いや、このままでいいんだと言って経営者が姿勢を改めない」と憤慨しておられました(参考記事)。産経新聞はこうした旅館ばかり取材し、「もう旅館を閉めるしかない」という経営者の声を拾っては「それ再稼働だ」と言っています。ふざけるなと言うしかありません。そんなに原発推進したいなら、産経新聞の経営者も社員も、全員、帰還困難区域に住めばいいんです。

 世界的に見ても原発事業は行き詰まっています。原発依存度75%の原子力大国・フランスの国営原発メーカー・アレバ社は2014年1~6月期決算で6億9400万ユーロ(約1010億円)という巨額の負債を抱えています。巨額(数百億~数千億単位)の赤字決算は4期連続であり、国営でなければとっくに倒産していたでしょう。そもそも世界最大の原発大国・米国で、1979年のスリーマイル島原発事故以降、1基の原発新設も増設もされていないどころか、2025年までに最大20基が廃炉になるとの予測も出されています(参考記事=2016.6.4付け「毎日」)。経産省が言うように、本当に原発が最も安価なエネルギー源であるなら、世界一市場原理を重視するはずの米国で、なぜ原発からの撤退が相次いでいるのでしょうか。経産省の宣伝が嘘であることが示されています。これから先、どれだけのカネが必要になるかわからない原発に未来はありません。

 まだまだ材料はありますが、この辺にしておきたいと思います。来週は「日本の原発が必ず終わらざるを得ない2つの理由」の後編、核のゴミ問題を取り上げます。ありがとうございました。

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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算289回目)でのスピーチ/福島事故刑事裁判に見る「原発事故と科学者」

2018-05-12 13:24:17 | 原発問題/一般
 みなさんこんにちは。

 今日は、5月8~9日に連続で行われた、東京地裁での勝俣恒久元東電会長らの刑事裁判について述べます。今回の裁判では、相次いで今後の鍵を握りそうな重要な人物が証人として出廷しました。8日の法廷で証言した気象庁職員の前田憲二さんは、2002年から04年まで文部科学省に出向し、地震調査研究推進本部(地震本部)の事務局で地震調査管理官として長期評価をとりまとめた人物です。その後、気象庁気象研究所地震津波研究部長などを歴任、04年から17年までは地震本部で長期評価部会の委員も務めていました。地震の確率に関する研究で京大の博士号も持つ「気象庁の地震のプロ」というべき人です。

 なぜ博士号が東大でなく京大なのかと思う人もいるかもしれませんが、東日本大震災が起きるまで、戦後最も大きな被害を出したのは阪神大震災でした。そのような事情もあって、地震の研究が全国で最も進んでいるのは関西だと言われていたんです。やや古いですが、私が2003年10月に参加した京大での地震学会セミナーでは、地震学者でもある京大の尾池和夫総長が「地震予知が国民の悲願であるならば、今は無理でもその実現に向けて前進するのが地震学の役目だ」と言っていたことを昨日のことのように覚えています。

 前田さんは、地震がいつでも起こり得るものなのに、その危険性が十分市民に理解されていないという問題を解決するために地震本部が作られ長期評価がまとめられたと述べました。いわば地震本部の誕生から現在までを裏方から担った地震本部の生みの親、育ての親とでも言うべき人物です。その地震本部が2002年にまとめた長期評価で「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域のどこでもマグニチュード8.2前後の地震が発生する可能性がある」と指摘していたこと、その評価が委員の総意であり、表だった反対意見がなかったと証言したことはきわめて重要です。東電が2008年に、いったんはこの長期評価を取り入れようとしながら、安全対策を不可解な理由で中止した。この長期評価を信頼性が低いと結論づけ、カネのかかる安全対策の「必要がない」とのお墨付きを出してもらうために「業界団体」であり身内である土木学会への調査依頼で時間稼ぎをする。その東電のやり方を根底から覆す証言だからです。長期評価の「信頼性が低い」と書くよう、内閣府から圧力をかけられたとの重要な証言もしました。

 9日の法廷では、元原子力規制委員会委員長代理だった島崎邦彦さんが出廷、「長期評価をきちんと取り入れ安全対策が行われていれば事故は防げ、もっと多くの命を救うことができた」と証言しました。これも前田さんの証言に劣らず重要です。

 私は2人の姿勢に、科学者の良心を見た思いがしました。同時に、科学者をひとまとめに「御用学者」と批判してきた自分を少し反省しました。真実と社会的立場の間で揺れ、それでも真実を貫こうとした多くの科学者がいたこと、彼らが原子力ムラという狭い世界の利益のために良心と誇りを踏みにじられ、悔し涙を流してきたことを初めて知りました。

 『科学者が科学者たりうるのは、本来社会がその時代時代で科学という営みに託した期待に応えようとする努力によってであろう。社会と科学者の間には本来このような暗黙の契約関係が成り立っているとみるべきだ。科学者たちは、まず、市民の不安を共有するところから始めるべきだ』。高木仁三郎はこのような言葉を私たちに遺しています。ガラス細工のような危ういバランスの中で、それでも真実を貫くための努力を続ける科学者を支えることも、私たち市民の仕事だと考えを改めさせられる重要な証言でした。

 さて、この刑事裁判が行われている最中に大飯原発が再稼働するなど、私たちの思いに逆行する安倍政権の姿勢はとどまるところを知りません。しかし悲観することはありません。経産省に支配された「安倍官邸」がどんなに再稼働を続けようとも、日本の原発には終わらざるを得ない明確な理由があります。原発事故の刑事裁判は来週、再来週は休みですので、もし来週以降もここに来られるようであれば、「日本の原発が必ず終わらざるを得ない2つの理由」を2回シリーズでお話ししたいと思います。キーワードは「経済性」と「核のゴミ」です。楽しみにしていてください。今日はここまでです。ありがとうございました。

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【福島原発事故刑事裁判第11回公判】島崎邦彦・元原子力規制委員長代理「長期評価取り入れていれば事故は防げ、もっと多くの命を救えた」と重大証言

2018-05-11 00:21:39 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。5月8日に行われた第10回公判に続き、5月9日に行われた第11回公判の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。執筆者は前回に引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。次回、第12回公判は5月29日(火)、第13回公判は5月30日(水)に行われる。なお、以下の各報道も参考になる。

<東電強制起訴公判>「対策取れば防げた」地震専門家が証言(毎日)

「長期評価、事故防げた」 東電旧経営陣公判、実務責任者証言(福島民友)

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第11回公判~多くの命、救えたはずだった

 5月9日の第11回公判には、証人として島崎邦彦・東京大学名誉教授が登場した。島崎氏は1989年から2009年まで東大地震研究所教授。また、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が1995年に創設されてから2012年まで17年間にわたって地震本部の長期評価部会長で、その下部組織である海溝型分科会の主査も務めていた。政府として公式に地震リスク評価を公表する仕組みをつくり、普及させてきた中心人物だ。

 そして、2012年から14年までは初代の原子力規制委員会委員長代理として、地震や火山の規制基準づくりも手がけた。地震リスク評価の第一人者というだけでなく、それに電力会社がどう対応するのか、という電力業界の実態にも詳しい。

 島崎氏は、この日の公判では検察官役の久保内浩嗣弁護士の質問に答えて、主に以下の三つの項目について証言した。

 1)長期評価の詳しい内容と、とりまとめの経緯。長期評価の報告書や、会合の議事録を読み解きながら、前回の公判で長期評価の事務局を務めていた前田憲二氏が説明した内容を、さらに詳しく説明した。

 2)長期評価の信頼性について。長期評価(2002)は、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の領域のどこでも、マグニチュード8.2前後の地震が発生する可能性があり、その確率が今後30年以内に20%程度と予測した。この評価について、信頼度は「発生領域 C  地震の規模 A 発生確率C」とされているが、その意味を解き明かした。

 3)長期評価の公表に圧力がかかったり、発表が延期されたりした不可思議な事件。島崎氏は推測であると断った上で、「原子力に関係した配慮があったに違いない」と述べた。

 それぞれ、もう少し詳しく見ていこう。

◯複数の専門家で「もっとも起きやすい地震」評価

 島崎氏は、長期評価がさまざまな分野の研究者の議論でまとめられた過程を説明した。地震の観測、得られた地震波の解析、古文書から歴史地震を読み解く、GPSを使った測地学、地質学、地形学、津波などの領域の研究者たちが関わる。独自性を尊ぶ研究者たちは、本来みな考え方が違う。その意見を最大公約数的にとりまとめ、「最も起きやすそうな地震を評価してきた」と島崎氏は述べた。

 長期評価(2002)は、主に地震本部の海溝型分科会で、2001年10月(第7回)から2002年6月(第13回)にかけて議論された。その様子が記録された「論点メモ」を法廷でスクリーンに映しだし、長期評価がまとめられていく過程が細かく説明された。

◯信頼度は「数値に幅がある」という意味

 久保内弁護士と島崎氏は、長期評価で使われる「信頼度」という用語についても、はっきりさせていった。

 長期評価(2002)による「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」の信頼度は、

 発生領域の評価 C
 規模の評価 A
 発生確率の評価 C

とされていた(注1)。

 一方、南海トラフの地震は三項目ともAだ。

 「南海トラフと比べて、対策は抑制的で良いということか」という久保内弁護士の質問に、島崎氏は「不適切です」と断言し、こう説明した。

 「地震が起こることに違いはありません。たとえば発生確率の『信頼度』がCというのは、数値に誤差が大きいということ。確率20%は、本当は10%〜30%かもしれないということ。十分、注意しなければならない大きさです。当然、備える必要があることを示しています」

 発生確率の信頼度は、地震発生が予測される領域でこれまで何回地震が発生した記録があるかで決められる。前日に開かれた公判でも、証人の前田憲二氏は、「発生確率の信頼度は、地震発生の切迫度を表すのではなく、確率の値の確からしさを表すことに注意する必要がある」(注2)という長期評価の注意書きについて強調していた。今後の公判でも、「信頼度」と「切迫性」の区別は、注意する必要がありそうだ。

◯不可解な三つの事件、原子力への「配慮」?

 島崎氏は、長期評価をめぐる三つの不可解な事件についても証言した。

 最初の事件は、長期評価(2002)が公表される6日前、2002年7月25日に起きた。内閣府の参事官補佐(地震・火山対策担当)から、長期評価の事務局を務めていた前田氏に、「今回の発表を見送れ」という、以下のようなメールが届いたのだ。

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 三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について、内閣府の中で上と相談したところ、非常に問題が大きく、今回の発表は見送り、取り扱いについて政策委員会で検討したあとに、それに沿って行われるべきである、との意見が強く、このため、できればそのようにしていただきたい。

 これまでの調査委員会の過程等を踏まえ、やむを得ず、今月中に発表する場合においても、最低限表紙を添付ファイルのように修正(追加)し、概要版についても同じ文章を追加するよう強く申し入れます。

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 地震本部の事務局は、内閣府と何度もやりとりをした後に、内閣府の「申し入れ」に従って、以下の文言を長期評価の表紙に入れることを決めた。

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 なお、今回の評価は、現在までに得られている最新の知見を用いて最善と思われる手法により行ったものではあるが、データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等のため評価には限界があり、評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には相当の誤差を含んでおり、決定論的に示しているものではない。

 このように整理した地震発生確率は必ずしも地震発生の切迫性を保障できるものではなく、防災対策の検討に当っては十分注意することが必要である。


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 この文言を入れることを前田氏からメールで知らされた島崎氏は、「科学的ではないのでおかしいと思って、前田氏の上司の担当課長に電話して、文言を付け加えるぐらいなら出さない方がいい、反対ですと伝えたが、けんか別れに終わった」と証言した。

 内閣府からのメールについては、前田氏自身も「公表の直前だったので面食らった」と証言している。

◯中央防災会議は福島を軽視した

 二つ目の事件は、2004年に起きた。「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのどこでも津波地震が起きうる」という長期評価を、中央防災会議(事務局・内閣府)が採用しなかったのだ(注3)。

 島崎氏は「中央防災会議は、(長期評価と)真逆の、誤った評価で防災計画をすることを決めた」と証言。中央防災会議が長期評価を尊重しなかった理由について、「原子力に関係した配慮があったのではないか」という推測を述べた。「長期評価によれば、(三陸沖から房総沖にかけての)原子力施設は、どこでも10mを超える津波対策を取らないといけない。これが中央防災会議で決まったら大変で、困る人がいる」という理由だ。

 結局、中央防災会議は、福島沖の津波地震を「過去400年間起きていないから、そこで起きると保障できない」として対策から外した。一方で、首都直下地震については、過去に起きた記録のないプレート境界の領域にも震源を想定し、対策を検討してきた(注4)。そのような違いがあったことを中央防災会議の専門委員でもあった島崎氏は明らかにし、こう証言した。「長期評価に従って防災を進めておけば、18000有余の命はかなり救われただけでなく、原発事故も起きなかったと私は思います」。

◯大地震の2日前、警告できたかもしれない

 三つ目の事件は、2011年3月9日に予定されていた長期評価第二版の発表が、同年4月に延期されてしまったことだ。島崎氏は同年2月に「自治体と電力会社に事前説明したい。4月に延期したい」と地震本部事務局から連絡を受けた。

 第二版には、2005年以降に仙台平野や、福島第一原発から5キロ離れた浪江町などで見つかった津波堆積物調査の成果が反映され、新たな地震の警告が加えられていた。以下のような記述だ。

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 宮城県中南部から福島県中部にかけての沿岸で、巨大津波による津波堆積物が過去2500年間で4回堆積しており、そのうちの一つが869年の地震(貞観地震)によるものとして確認された。最新は西暦1500年頃の津波堆積物で、貞観地震のものと同様に広い範囲で分布していることが確認された。これらの地域では、巨大津波が複数回襲来したことに留意する必要がある。

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 「本来なら3月9日夜のテレビと10日の朝刊に、内陸3〜4キロまで達する津波の警告が載ったでしょう。11日の地震で『ひょっとしてあれか』と思って、何人かの方は助かったに違いない。なんで4月に延期したのか、自分を責めました」。島崎氏は証言台で声を詰まらせた。
 
 本来の発表予定だった3月9日の6日前、地震本部の事務局は、ほぼ完成していた長期評価第二版を東京電力、東北電力、日本原電の3社に見せていた。その場で、東電の担当者は「貞観地震が繰り返し発生しているかのようにも見えるので、表現を工夫していただきたい」と要望。地震本部事務局の担当者はこれに応じ、島崎氏ら委員に無断で、修正を加えていた(注5)。

 公開前に電力会社に見せて修正の機会を設けたことと、発表延期に関係があるのかは、明らかになっていない。

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注1)プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について(2003年3月24日)

注2)地震本部地震調査委員会「千島海溝沿いの地震活動の長期評価について」2003年3月24日 p.15 注4

注3)添田孝史『原発と大津波 警告を葬った人々』岩波新書(2014)、p.63〜68、中央防災会議「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」2006年1月

注4)中央防災会議「首都直下地震対策専門調査会報告」2005年7月

注5)経緯は、以下の文献に詳しい。
橋本学・島崎邦彦・鷺谷威「2011年3月3日の地震調査研究推進本部事務局と電力事業者による日本海溝の長期評価に関する情報交換会の経緯と問題点」
日本地震学会モノグラフ「日本の原子力発電と地球科学」2015年3月、p.34

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証人イラスト 絵:吉田千亜さん


地図の説明 中央防災会議が想定した津波の原因となる地震の震源域。福島沖以南の津波地震は想定から外されている。


津波堆積物の写真説明 ガラスケースの中に展示されている津波堆積物。仙台市若林区の田んぼから掘り出された。水平に広がる黒い沼地の土壌の上に、津波が運び込んだ白っぽい砂の層が載っている。869年の貞観地震が引き起こした津波による。茨城県つくば市の地質標本館で。

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【福島原発事故刑事裁判第10回公判】裁判の鍵を握る地震本部(推本)の長期評価を取りまとめた気象庁技官が出廷、注目の展開に

2018-05-10 23:42:13 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。5月8日に行われた第10回公判の模様を伝える傍聴記について、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。執筆者は前回に引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。第11回公判は5月9日に終了、次回、第12回公判は5月29日(火)、第13回公判は5月30日(水)に行われる。

なお、この日の第10回の翌日に行われた第11回公判には「超大物」が証人として出廷した。この第11回公判の傍聴記もまもなく届くと思われるので、アップすることにしたい。また、以下の神戸新聞の報道も参考になる。

危険性に修正要求「面食らった」 気象庁職員が証言、原発事故公判(神戸)

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第10回公判傍聴記~「長期評価は信頼できない」って本当?

 5月8日の第10回公判は、気象庁の前田憲二氏が証人だった。前田氏は2002年から04年まで文部科学省に出向し、地震調査研究推進本部(地震本部)の事務局で地震調査管理官として長期評価をとりまとめていた。前田氏はその後、気象庁気象研究所地震津波研究部長などを歴任。04年から17年までは地震本部で長期評価部会の委員も務めていた。地震の確率に関する研究で京大の博士号も持つ「気象庁の地震のプロ」である。

◯「長期評価」は阪神・淡路大震災がきっかけ

 公判では、検察官役の神山啓史弁護士と前田氏のやりとりで、「地震本部とは何か」「地震本部はどんなプロセスで長期評価をまとめるのか」などを一から明らかにしていった。長期評価は、2008年に東電が計算した15.7mの津波予測のもとになっている。この裁判で、もっとも土台となる事実の基礎固めをする証人だった。

 前田氏は、「1995年の阪神・淡路大震災で6千人を超える死者があった。課題の一つは、学者の間では関西でもいつ大地震が起こってもおかしくないというのが常識だったのに、一般市民には伝わっておらず、認識のギャップがあったことだ」と説明。その解決策として、地震本部、そして長期評価の仕組みが作られたと述べた。

 「研究者がまちまちに明らかにしていた研究成果を、国として一元的にとりまとめる。地震防災対策を政府や民間にしてもらうため、危険度を出すのが長期評価の目的」と話した。

三段階で熟議する長期評価

 長期評価のとりまとめ方も念入りだ。前田氏によると、裁判で焦点となっている長期評価「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(2002年7月31日)の場合、

1)地震本部の海溝型分科会でたたき台をつくる。この分科会には、海で起きる地震に詳しい大学や国の研究機関の研究者ら13人が集まり、月1回程度会合を開いている(人数は2002年7月当時、名簿はこちら
2)分科会で作成された案は、さらに地震本部長期評価部会に上げられ、もう一度議論される。長期評価部会のメンバーは12人、こちらも月1回程度開催される。
3)ここで練られた案は、さらに上部組織である地震本部地震調査委員会(15人)が見直し、検討する。

という3段階で多数の研究者が議論してまとめられた。その結果、長期評価(2002)では、「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」の領域(地図参照)のどこでも、マグニチュード8.2前後の地震が発生する可能性があり、その確率が今後30年以内に20%程度と予測した。1896年の明治三陸地震、1611年の慶長三陸地震、1677年の延宝房総沖地震という三つの津波地震がこの領域で起きていることから、海底が同じ構造になっている福島沖でも同様に発生する可能性があると考えられたからだ。

 「どこでも起きるという評価は、全員一致で承認されたのか」という神山弁護士の質問に、前田氏は「そうですね。はっきり意見が出されて紛糾してはいない」と答えた。

 長期評価(2002)は、2011年3月の東日本大震災直前に改訂作業が進められていたが、その案でも、「どこでも起きる」という評価は見直されていなかった。また東日本大震災の発生後に改訂された長期評価第2版(2011)でも、変わっていない。公判で明らかにされたその事実からも、この評価が揺らいでいないことがわかる。

◯「不都合なデータ」も考慮した

 弁護側の反対尋問は、岸秀光弁護士が主に担当した。岸弁護士は、「1677年の地震は海溝寄りの領域で発生したものではない」「1611年の地震の発生場所は定かではない」「海溝寄りの領域でも北部と南部では微小地震の起き方が異なる」などのデータがあったことを取り上げ、長期評価は不確実で信頼度が低かったのではないかと問いただした。

 前田氏は、海溝寄りの領域については、同じ地震が同じ場所で繰り返し起きているというデータは無いので、他の領域とは評価の性質に異なる特徴があると説明。そして、岸弁護士が挙げたデータも地震本部の議論で取り上げているものの、それでも結論を覆すだけの根拠にはなっていないと答えた。

 長期評価の信頼度に関しては、東電や国を被告とする民事訴訟でも同じような議論が、すでに何年も繰り返されている。それを超える「オー」と思わされるような新たな事実や論点は、今回の公判では弁護側から出てこなかった。

法廷画 絵:吉田千亜さん


文部科学省の入り口に掲げられた地震調査研究推進本部の看板


地図

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【訃報】信楽高原鉄道事故遺族会代表世話人、吉崎俊三さん死去

2018-05-05 13:00:41 | 鉄道・公共交通/安全問題
信楽高原鉄道事故遺族の吉崎俊三さんが死去(神戸)

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 信楽高原鉄道事故の遺族で、民間機関「鉄道安全推進会議(TASK)」の会長を長年担った吉崎俊三(よしざき・しゅんぞう)さんが2日午後11時23分、肺炎のため兵庫県猪名川町の病院で死去した。84歳。滋賀県浅井町(現長浜市)出身。自宅は宝塚市中山桜台1の4の8。通夜は3日午後7時から、葬儀・告別式は4日午後1時半から、いずれも宝塚市売布東の町15の14、宝塚平安祭典会館で。喪主は長女の溝口恵美子(みぞぐち・えみこ)さん。

 1991年5月、滋賀県信楽町(現甲賀市)で信楽高原鉄道とJR西日本の列車が正面衝突する事故が発生。吉崎さんの妻佐代子さん=当時(53)=ら42人が犠牲になった。

 事故2カ月後に遺族会を立ち上げ、代表世話人として対応に尽力。93年8月には、ほかの遺族らとTASKを結成し、2005年から9年間にわたって代表を務めた。

 鉄道事故を対象にした調査機関の必要性を国に訴え、01年、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委)設置が実現。日航ジャンボ機墜落事故(1985年)や明石歩道橋事故(01年)、尼崎JR脱線事故(05年)の遺族らと連携して、被害者支援の充実を求め、国の体制強化にも尽くした。
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1991年5月に起きた信楽高原鉄道事故(死者42人)で、遺族会の代表世話人として遺族を取りまとめ、その後もTASK(鉄道安全推進会議)を立ち上げるなど、公共交通事故の被害者救済と事故原因究明の両面から意欲的、献身的に活動してきた吉崎俊三さんが亡くなった。80歳を過ぎる頃から、高齢のため体調がすぐれず、ここ数年はJR福知山線脱線事故など他の事故関係で開かれる集会などにもほとんど出席できない状況だということは、福知山線事故遺族の藤崎光子さんを通じて、何度か耳にしていた。

吉崎さんの功績は、上の神戸新聞の記事にある通りであり、改めて繰り返さないが、神戸新聞が触れていない点をいくつか補足しておくと、旧運輸省にはそれまで、船舶の事故を調査する海難審判庁と航空機事故を調査する航空機事故調査委員会があるだけだった。公共交通機関の事故調査や原因究明には専門的な知識と大規模な調査体制が必要であるにもかかわらず、陸上交通機関の事故を調査する常設の機関はなかったのである。

航空機事故調査委員会を航空・鉄道事故調査委員会に改める法改正が、ようやく国会で実現したのは2001年10月のこと。吉崎さんが、最愛の妻を失ってから10年が経過していた。その後、海難審判庁を統合して、航空・鉄道事故調査委員会が運輸安全委員会に改組されたのは2008年10月。国家行政組織法第3条に基づき、より独立性の高いとされる「3条委員会」となった(3条委員会には、他に公正取引委員会(内閣府に設置)や原子力規制委員会(環境省に設置)などがあるが、特に原子力規制委員会が独立性を維持できているかどうかについては、別の機会に改めて触れたい)。

3条委員会の組織形態になっても、運輸安全委員会は国土交通省の外局に位置づけられている。独立性が高いとはいえ、国土交通省と運輸安全委員会事務局との間で人事異動による官僚の行き来が繰り返され、その影響もあって鉄道会社への勧告はしても国の鉄道安全対策への勧告や提言は行えないなど、完全独立機関でないことの弊害は大きく、その是正は今後の課題だ。

しかし、航空・鉄道事故調査委員会への改編によって、鉄道事故や重大インシデントが発生した際、直ちに調査官を現地に派遣することができるようになったのも、吉崎さんたちの活動が実ったからである。事故や重大インシデント発生の都度、調査委員会を立ち上げて調査官を任命・派遣し、調査が終わったら解散するという体制に比べ、より機動的に調査ができるようになったことはもちろんである。吉崎さんのこの功績は、いくら強調してもしすぎることはない。

信楽高原鉄道事故は、JR発足後、2桁の死者を出す初めての大事故であり、安全問題研究会にとっても活動の原点となった事故のひとつである。安全問題研究会は、吉崎さん死去にあたり、謹んで哀悼の意を表する。


<関連写真>(撮影はいずれも2008年11月2日、安全問題研究会)

写真1 TASKの活動を伝えるパネル(信楽駅)


写真2 TASKの要望を受けて製造された信楽高原鉄道車両の紹介パネル(信楽駅)


写真3 小野谷信号場跡(事故後廃止)ここの信号設計ミスが事故原因とされる


写真4 信楽高原鉄道の始発(終着)駅、貴生川駅構内に国鉄マンが建てた安全の碑 JR西日本はこの鉄道マンの誓いも裏切った


写真5 事故後、信楽町は「鉄道安全の町」を宣言した

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「セクハラ政権によるセクハラ改憲」NO!~札幌の憲法集会

2018-05-04 22:50:36 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」に投稿したニュース記事をそのまま転載しています。なお、レイバーネット日本のサイトでは、写真を含めた記事全文を見ることができます。)

5月3日、札幌市・大通公園で、「憲法施行71周年~安倍9条改憲NO!&守ろう憲法集会」が開催され、700人(主催者発表)が集まった。小雨のそぼ降るあいにくの天気の中、8人の登壇者が、それぞれの言葉で護憲への思いを語った。全体的に見て、例年以上に女性の登壇者が多かったこと、昨今のセクハラ問題を背景に、ジェンダーの観点から憲法の男女同権の理念を貫徹させたいとの強い思いと女性蔑視への怒りがあふれた集会だったことが今年の大きな特徴だ。

札幌市内で保育士を務める女性は「私の願いはすべての子どもたちが幸せに生きられる社会になること。しかし安倍政権の下で、一部の子どもたち、大人たちだけが幸せになり、他の大半の人たちが幸せになれない社会に向かっているように感じる」と、森友問題・加計問題に見られる安倍政権の日本社会私物化を批判。大人が平和憲法を守ることの必要性を訴えた。

この保育士の次に登壇した女性の安倍政権批判はもっとストレートで容赦のないものだった。「(9条ばかりが注目されているが)安倍政権・自民党は憲法24条を改めて「イエ」制度を復活させようともくろんでいる。『良妻賢母であれ、子どもを育てろ、男並みに働け、納税も消費もしろ』という“女性像”を押しつけようとしている。特定の性、女性だけに不平等な役割が押しつけられることこそセクハラであり、そのような改憲をセクハラ政権が行おうとしている」。毎日のように無神経な女性蔑視発言が飛び出す自民党・安倍政権による改憲の動きを「セクハラ政権によるセクハラ改憲」だとして、改憲反対を訴えた。

最後の登壇者である岩本一郎・北星学園大教授は、女性の人権尊重と男女同権を日本国憲法に書き込むために尽力したGHQ民政局のシロタ・ベアテ・ゴードンさんの功績について触れ、改めて男女同権の大切さと、この面での日本の著しい立ち後れを指摘した。

国家の支配者・権力者から企業経営者、ジャーナリスト、芸能人から各種スポーツ競技団体幹部(日本相撲協会に顕著)、一般市民に至るまで、ここ最近はセクハラという単語を聞かずに1日が終わることがないほど、社会のあらゆる領域で女性差別、女性蔑視がまん延している。「憲法24条はどこに行った!」「男女同権はどうした!」――そんな女性の怒りが私にははっきりと聞こえた。

道内選出国会議員からは、道下大樹衆院議員(立憲)、紙智子参院議員(共産)があいさつ。道下議員は「今日の道新(北海道新聞)1面には「安倍改憲暗雲」という記事が出ているが決して安心してはならない。かつて大阪都構想の住民投票の時、橋下市長と大阪維新の会はテレビCMに4億円投入したと言われているが、安倍政権が本気になればこの10倍、いや100倍、400億円でも平気で使うだろう。金の力で憲法が左右されることがあってはならない」と、改憲発議阻止と改憲への警戒を呼びかけた。紙議員は「かつてこれほどひどい政権は日本になかった。森友・加計疑惑を徹底追及しよう」と訴えた。

約1時間にわたる集会後、参加者は「憲法改悪絶対反対」「安倍政権は今すぐ退陣」「公的文書を改ざんするな」「森友問題徹底追及」「加計問題も徹底追及」「昭恵氏喚問、柳瀬氏喚問」などとコールしながら、時折小雨の降る中を札幌駅前までデモ行進した。

一方、日本会議北海道本部などが開催した改憲派集会は、主催者発表で300人と、護憲派集会の半分以下の動員にとどまった。会場となった道立道民活動センター「かでる2.7」大ホールの収容人数は520人だが、夕方のテレビ各局が報じた会場の後ろ4割ほどは完全な空席で、主催者発表の数字は実数と見ていいだろう。

空調が利き、暖かな会場さえ埋められない改憲派に対し、小雨の天候にもかかわらず平和と憲法を守るとの強い決意を、その倍以上の参加者数で示した護憲派。北海道に関する限り、勝負は決したと私は思う。白昼公然と女性を2級市民扱いする安倍セクハラ政権に未来はない。

(文責:黒鉄好)

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