「医薬品のネット販売規制は憲法違反」,ケンコーコムなどが国を提訴(ITpro)
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ケンコーコムとウェルネットは2009年5月25日,医薬品のネット販売や通信販売を一部を除いて禁止する省令が違憲であり無効であるとして,国を相手取り提訴した。
厚生労働省が2009年6月1日に施行する「薬事法の一部を改正する法律」の省令により,安全確保のための対面販売の原則を理由に,第1類医薬品および第2類医薬品の通信販売が禁止となる。ただし2年間の経過措置として,離島と継続使用に限って通信販売を認める経過措置をとる。
ケンコーコム 代表取締役 後藤玄利氏は,この省令により,憲法22条で保障された基本的な権利のひとつである営業権が剥奪されるとする。「お客さんが医薬品を自分で手にとってカゴに入れアルバイトの店員がレジを打つ売り方より,購入の際に問診表にチェックしなければならないネット販売のほうがはるかに安全。我々は,これまでインターネットなどで一般用医薬品の通信販売を適法に行ってきた。しかし突然厚生労働省がルールを変え,(第3類を除く一般用医薬品の)インターネット販売などの通信販売そのものが原則禁止される。ケンコーコムは売り上げ数億円が吹っ飛ぶ。ウェルネットは営業が継続できなくなるかもしれない」。
ケンコーコムとウェルネットは,この規制は厚生労働省の独断と主張する。「この省令は,法律の委任がなく,または委任の範囲を明らかに超えて原告の営業権を剥奪するもので,違憲かつ違法。対面販売やネットでの販売禁止は法律にはなんら規定されていない。法律は,情報提供をしっかりやれと言っているにすぎない」(ケンコーコムとウェルネットの代理人である弁護士 阿部泰隆氏)。
省令施行に伴い2009年5月12日から18日まで行われたパブリックコメントには9824件の意見が寄せられたが,約85%が規制に反対するものだった。「これだけの民意があるにもかかわらず,厚生労働省は省令を変更することなく施行する方針。こんな暴挙が許されれば民主主義ではない」(ケンコーコムの後藤氏)。
ウェルネット 代表取締役 尾藤昌道氏は改正薬事法自体には賛成しているとする。「改正薬事法の趣旨である『セルフメディケーション』(自分自身での健康を管理と治療)については以前から国家の大計と考えており,大賛成だ。しかし,法律で規制されていないことが省令で規制されているという非常におかしなことが起こっている。納得のいく説明をしてほしい」と発言した。
医薬品の規制に対して,これまでケンコーコムは日本オンラインドラッグ協会や楽天,ヤフー!とともに反対を表明してきた。ただし今回の訴訟は,「当事者の権利の確認の訴訟であり,NPOである日本オンラインドラッグ協会は原告になれない。また楽天,ヤフー!は電子モール事業者であり,薬品販売事業者そのものではないため参加していない」(ケンコーコム 後藤氏)としている。
ケンコーコムは2009年5月25日午前,東京地方裁判所に訴状を提出した。後藤氏は「施行が1週間後に迫り,厚生労働省の省令施行に関する検討会も終了した。今まで4年間厚生労働省と折衝してきたが,我々がこの省令の施行を食い止める手段はもう行政訴訟しか残されていなかった」と,提訴に踏み切った経緯を説明した。
厚生労働省では「訴状が届いておらず内容が確認できないため,現時点ではコメントできない」としている。
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当ブログは訴訟を起こした両社の対応を「消極的に支持」する。両社が主張するように、不利益処分が法律で委任されていない場合に行政命令で不利益処分を科することは、技術的にも違憲となりかねない。
それにしても、最近の厚労省は何を考えているのかわからない政策が多すぎる。特定健康診査(いわゆるメタボ健診)にしても、身長の高い人・低い人を一律に腹囲だけでメタボと決めつけるやり方は科学的知見にも基づいておらず、諸外国ではこのような基準を採っているところはほとんどない。
評論家の歌田明弘氏が、以前
、「週刊アスキー」誌の連載コラムで以下のようなことを書いている(詳細はリンク先)。
『何の意味があるのかあやふやになりながら、「ともかく決めたことはやる」と第二次世界大戦突入時と同じモードになっている。…「第二次大戦前の雰囲気に似てきた」といったことは少し前から、どちらかといえば左よりの人々が言い始めた。ふと気がつくと、世の中が変わって自由のない国にいつのまにかなっているというわけだ。当時とは状況が違うし、まさかそんなことはないだろうと思っていたが、財政事情や国民参加の司法制度などともっともらしい説明をしながら、連帯責任を押しつける制度が相次いで生まれているのを見ると、今後10年か20年たってもいまのような自由があるかどうかはかなり危うい気がしてきた。「余計なお世話」などと言うと「非国民」と白い目で見られるなどといったことには、いずれなるのではないか』
さすがに私はここまで言い切るつもりはないが、歌田氏がこんな危惧を抱く気持ちは大変良く理解できる。国民にとって不利益になる制度が密室で作られ、パブコメなど意見表明の機会は反論権も保障されないほどの短期間しかなく、かといってたいした説明もないまま、「とにかく決まったことなんだからお願いします」と誰も望まない政策が強行されていくということが最近多すぎるのだ。後期高齢者医療制度、PSE法改正、メタボ健診、そしてこの理解不能なネット狙い撃ち規制など、すべてこの類である。まるで、行政が本当のことを国民に知られては困るとでも思っているかのようである(実際にそうなのだろう)。
厚労省は、このネット狙い撃ち規制の理由を「薬剤師による対面販売で安全を確保するため」と説明するが、ではなぜ医薬品を全面的に薬剤師による販売とせず、「登録販売者」なる新たな制度を創設したのか全くわからない。それに、過去の薬害(薬害エイズ、肝炎問題等)はいずれも医師が「適切に処方」してきたはずの病院や調剤薬局から生まれており、市販の家庭用常備薬から薬害が生まれたわけではない。その点を考慮すれば、厚労省がみずからの行動を棚に上げ、家庭用常備薬とネット販売を「犯人」扱いするのは責任転嫁もいいところだ。むしろ、反省すべきは厚労省ではないのか。
薬害は薬局や家庭用常備薬のせいではなく、ましてやドラッグストアやネット販売のせいなどでは断じてない。むしろ、厚労省(医系・薬系技官)、その天下り先の製薬会社、いい加減な診断・処方をする医療機関とのもたれ合いの構図のなかから生まれたのである。この、医療・薬務行政を巡る「鉄のトライアングル」を解体しない限り、悲惨な薬害はまた繰り返されるだろうし、厚労省と製薬会社・病院が薬害の発生原因である以上、いくら常備薬のネット販売を規制したところで無駄なことだ。
幸いなことに、猶予期間は2年ある。この間におそらく政権交代もあるだろう。政治によるチェックも届かず、やりたい放題になっている「鉄のトライアングル」解体の道にこそ、私たちは進むべきだと考える。
結論として、当ブログは医薬品のネット販売に対する今回の一方的規制について、以上の理由から撤回を求める。