安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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●管理人の著作(いずれも共著)
次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する(緑風出版)
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原発を止める55の方法(宝島社)

●管理人の寄稿
月刊『住民と自治』 2022年8月号 住民の足を守ろう―権利としての地域公共交通
核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

【年末ご挨拶】今年も1年、お世話になりました

2023-12-31 23:22:37 | 日記
鉄道全線完乗実績まとめ、10大ニュースの発表も終わり、ようやく年末という気分になってきました。

2023年もあと30分足らずになりましたので、ここで年末のご挨拶を申し上げます。2023年に起きた出来事の評価は後世に委ねたいと思いますが、昨年に引き続き、歴史に残る激動の1年だったとともに、「今思えば、あの年が転機だった」と言われる年になりそうな気がします。

個人的には、新型コロナの5類以降によってほとんどの活動が対面に戻り、ここ数年来では最も忙しい1年でした。また、10大ニュース番外編に発表したとおり、2021年に続く2作目の著作を発表することができるなど、充実の1年だったと思っています。

なお、今年1月に義父が死去したため、今年は喪中です。年賀状が欠礼となりますことをご容赦ください。

間もなく新しい年となります。みなさま、よいお年をお迎えください。

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2023年 安全問題研究会10大ニュース

2023-12-31 22:40:39 | その他社会・時事
さて、2023年も残すところあとわずかとなった。例年通り今年も「安全問題研究会 2023年10大ニュース」を発表する。ニュースタイトルの後の<>内はカテゴリーを表す。

選考基準は、2023年中に起きた出来事であること。当ブログで取り上げていないニュースも含むが、「書評・本の紹介」「日記」「福島原発事故に伴う放射能測定値」「運営方針・お知らせ」カテゴリからは原則として選定しないものとする。

1位 ガザ地区からイスラム原理主義勢力「ハマス」がイスラエルを越境攻撃。イスラエル軍がガザ地区に侵攻し2万人以上死亡<その他社会・時事>

2位 福島原発事故の汚染水(いわゆる「処理水」)の海洋放出を政府・東京電力が漁業者の反対押し切り強行。漁民らが差し止め求め国・東電を提訴<原発問題/一般>

3位 宇都宮ライトレール開業。路面電車の国内での新規開業は75年ぶり<鉄道・公共交通/趣味の話題>

4位 ローカル線存廃に関し、国主導で「特定線区再構築協議会」が設置できるようにする改定「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」が成立・施行。ローカル線問題が重大局面に<鉄道・公共交通/交通政策>

5位 岸田政権が原子力基本法などの原発推進関連束ね法案を、市民の抗議の中成立させる。原発による電力供給を「国の責務」とした究極の悪法も、原発再稼働は見通せず<原発問題/一般>

6位 「STOP!リニア訴訟」で、東京地裁が国・JR東海の主張を丸のみし事業認可を有効とする不当判決<鉄道・公共交通/交通政策>

7位 知床遊覧船事故をめぐり、違法運航を行った船舶事業者への罰則を従来の最高100万円から1億円に引き上げるよう求めた安全問題研究会の請願が、海上運送法の一部改正により実現<鉄道・公共交通/安全問題>

8位 福島原発事故刑事訴訟、勝俣恒久東京電力元会長ら旧経営陣3人に対し、2審・東京高裁も無罪の不当判決<原発問題/福島原発事故刑事訴訟>

9位 新型コロナの取り扱いが感染症法上の「5類」に移行。日常回復へ<その他社会・時事>

10位 ジャニーズ性加害問題の広がりによりジャニーズ事務所が分社化、「ジャニーズ」の名称が消滅<芸能・スポーツ>

<番外編/当研究会関連>安全問題研究会代表が執筆に加わった著作第2弾「次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する」が刊行

10大ニュースには、例年、鉄道関係カテゴリーから3つ程度、原発関係カテゴリーから3つ程度を選ぶこととしているが、今年は鉄道関係が4つとやや多めだった。昨年は鉄道開業150年という節目に反して暗いニュースが多かったが、今年は海上運送法改正で船舶の違法運航に対する罰則が引き上げられたり、宇都宮ライトレールが開業したりと、それなりに明るいニュースも多かったのが特徴だ。

もっとも不幸だったのは、昨年の1位(ウクライナ戦争)に続き、2年連続で戦争勃発をトップニュースにせざるを得なかったことだ。世界が悪い方向に向かっていることがひしひしと伝わってくる。来年こそこの流れを断ち切り、良い方向に向かわせるようにしなければならない。

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2023年 鉄道全線完乗達成状況まとめ

2023-12-30 22:04:12 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
年の瀬も押し詰まり、ここで2023年の鉄道全線完乗達成状況をまとめる。

【2月】関東鉄道竜ヶ崎線、常総線
【7月】富山地方鉄道不二越・上滝線、立山線、富山ライトレール(富山駅~岩瀬浜;奪還)、立山ケーブル富山地鉄本線、黒部峡谷鉄道、相鉄新横浜線、東急新横浜線、京急大師線、逗子線、本線
【10月】宇都宮ライトレール
【11月】福岡市営地下鉄七隈線(博多~天神南;奪還)

以上のとおり、7社13線(参考記録を含めると8社14線)となった。内訳は以下のとおり。

【大手私鉄】3社5線(相鉄新横浜線、東急新横浜線、京急大師線、逗子線、本線)
【中小私鉄】5社7線(関東鉄道竜ヶ崎線、常総線、富山地方鉄道不二越・上滝線、立山線、富山ライトレール、黒部峡谷鉄道、宇都宮ライトレール)
【公営】1社1線(福岡市営地下鉄七隈線)
【参考記録】立山ケーブル富山地鉄本線

また、現(奪還含む)/廃/新の別では、廃止予定線はなく、新規開業(開業日から1年以内)が相鉄新横浜線、東急新横浜線、宇都宮ライトレールの3社3線。現存路線のうち奪還(延長開業区間を全線乗車したことによる「完乗タイトル奪還」)が2社2線(富山ライトレール、福岡市営地下鉄七隈線)で、残りは現存路線の未乗車区間に乗車したものである。

立山ケーブル富山地鉄本線はケーブルカーで、鉄道事業法適用(索道事業)であるものの、鉄道にも軌道にも含まれないため、当ブログのルールでは参考記録として正式記録には含めないことにしているが、これを含めて8社14線にも上る。

2023年の新年目標は5路線乗車だったが、大幅に超過達成した7月に目標を15路線乗車まで大幅に上方修正した。上方修正後の目標にはわずか1路線及ばず達成できなかったが、年初に掲げた5路線は軽く達成した。

特に7月は、史上最悪レベルの猛暑の中、参考記録含めわずか1か月の間に7社10線に乗車しており、我ながら狂っているとしか言いようがない。ほとんど休みらしい休みは取っておらず、体調面でよく乗り切れたなぁと今振り返ってもつくづく思う。

2023年は自分で自分を褒めてあげたいと思う。そして、来年以降はもっと無理なく自分のペースで全線乗車活動をしていけたら、と思う。2024年の目標は年明けに発表予定である。

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2023.12.31 全交関電前プロジェクト 大晦日アクションへのメッセージ

2023-12-29 23:32:18 | 原発問題/一般
福島原発事故以降、関西電力本社前では、毎年、大みそかにも反原発行動が粘り強く続けられている。今年もメッセージの依頼があったので、以下の通りメッセージを出した。

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 関電前にお集まりの皆さん、寒い中、大晦日までお疲れ様です。

 原発事故を私が福島県西郷村で経験した2011年から早くも12年、原子力ムラの全面的なバックアップを受け、岸田政権は原発推進に大きく舵を切りました。聞こえてくるのは3.11前と同じ原発推進のかけ声ばかり、福島の反省はどこに行ったのか――そう思って落胆している人も今年は多かったのではないかと思います。しかし、時代は3.11前には決して戻っていないし戻ることもないというデータをいくつか示したいと思います。

 日本の全発電量に占める原発の比率は、最も高い2000年には34%と3分の1を占め、3.11直前の2010年でも25%と4分の1を占めていました。しかし、福島原発事故後は4~6%と1割にも届いていません。12年間、一度も全発電量の1割を超えられなかった原発が、政府がかけ声をかけたからといって、今後「主力電源」として復活するということはあり得ません。

 また政府は「次世代小型原子炉」の実用化を目指していますが、米国からは小型原子炉開発断念のニュースが伝わってきました。原子炉は、出力を半分にすれば強度も半分ですむという単純なものではありません。小さくても一定の強度が必要なので、出力を小さくすればするほど発電量当たりコストが高くなり、採算が取れないことが断念の理由です。利用者が払う電気料金を無駄使いするだけの原発は今後も確実に縮小に向かいます。

 原発を全面廃炉に追い込む上で、嬉しいニュースが今年は2つありました。1つは、長崎県対馬市が高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分地選定のための文献調査に応募しないと決めたことです。北海道では寿都(すっつ)町、神恵内(かもえない)村で文献調査が行われています。調査期間は当初、2年といわれ、応募から2年経過する2022年秋には終わる予定でしたが大幅に遅れ、来年、2024年の2月にようやく報告書が公表されます。神恵内村の大部分が、政府が目指す地層処分に向かない「不適地」と報告される見込みです。残る寿都町で、次の段階である概要調査を北海道知事が拒否すれば、最終処分候補地はなくなります。使用済み核燃料の持ち出しができなくなることによって原発が停止する可能性が大きく開けます。ZENKO北海道では、「核ごみを持ち込ませない北海道条例」の遵守を求める道知事要請行動を、2024年冬から春の方針に掲げ、取り組む予定です。

 もう1つは再生可能エネルギーの躍進です。2023年11月28日の「北海道新聞」によると、2023年10月における北海道内の発電量に再エネが占める割合が40.8%を占め、初めて4割を超えました。北海道では再エネが「主力電源」になりつつあります。泊原発は2012年5月以降止まったままで、ついに11年間1ワットも発電しませんでした。北海道新聞の記事を紹介したラジオのDJさんは「もう泊原発はこのまま要らないんじゃないか」と言っていました。その通り! 原発は要らないんです!

 日本でも、確実に原発から再エネへの転換が進んでいます。新しい年、2024年も、原発から再エネにエネルギー政策を転換させるため皆さんとともに頑張りたいと思います。

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支持率17%の衝撃~「政権交代前夜」ムードで国内政局大動乱 2024年、自公政権倒し政治転換へ

2023-12-17 21:04:03 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2024年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 師走の声を聞いてから、自民党各派閥によるパーティー券収入問題が燎原の火のように拡大し続けている。11月に「しんぶん赤旗」日曜版が報じ、政治資金問題に詳しい上脇博之神戸学院大教授による告発に端を発している。清和政策研究会(安倍派)を中心に、政治資金集めのためのパーティー券収入の大半が政治資金収支報告書に不記載のまま処理され、その額は最も多い議員で1000万円、派閥全体では過去5年間で5億円近くに達するとの報道もある。

 清和研の場合、派閥が課した集金ノルマは閣僚・党役員・一般議員など立場によって異なるが、一般議員の場合、100万円。各議員がノルマ分だけ派閥に金を「上納」する。各議員が個々に政治資金パーティーを開催し、上納金を上回る金を集められればそれが収入になる。逆にノルマに満たなかった場合は各議員の「持ち出し」となる。平たく言えばそんなシステムといえよう。衆参両院で99人の議員を擁するとはいえ、自民党の一派閥に過ぎない清和研が毎年1億もの政治資金を集めるとは驚きのひとことだ。

 事件は清和研のほか、宏池会(岸田派)、志帥会(二階派)にも広がる気配を見せている。政治資金収支報告書への不記載は政治資金規正法違反に当たるため、現在、東京地検特捜部が捜査に乗り出している。本稿執筆時点(2023年12月16日現在)では議員秘書などに対する任意の事情聴取が行われており、臨時国会が閉幕(12月13日)した今後は議員本人への聴取や強制捜査が行われる模様だ。

 国会開会中の議員には不逮捕特権がある。議員本人の容疑が固まり立件するとしても、1月の通常国会招集後にずれ込めば、検察当局は議員の所属する院に対し、逮捕許諾請求を行うか、在宅のまま起訴するかの判断を迫られることになる。1月の通常国会開会までが立件に向けた勝負となる。東京地検特捜部は現在、全国から応援検事を集め、50人態勢で捜査に臨んでいる。本気で立件するつもりなら、事実上正月返上となるであろう。

 ●「リクルート事件に似てきた」

 政治記者の間では、今回の政治資金問題がリクルート事件に似てきたという声が上がっている。田中角栄という1人の政治家が巨額の賄賂を受け取ったロッキード事件と異なり、リクルート事件では多くの自民党議員が江副浩正リクルート社長から、関連会社リクルートコスモスの未公開株を受け取っていた。検察は、国会に「手の内」を晒さなければならない逮捕許諾請求を避け、国会議員側を在宅起訴で立件。藤波孝生元官房長官、池田克也元衆院議員に対し、受託収賄罪による有罪判決が確定している。

 ジャーナリスト青木理さんは、今回の政治資金問題を「巨悪はおらず、小悪が群れている感じ」だと評する。「ひとりひとりが手にした金額は多くないが、対象が広範囲」という点、また派閥政治への批判が集まっていることがリクルート事件と似ており、「令和のリクルート事件」との評価は間違っていないと思う。

 今後の焦点は、この事件がどこまで広がり、どのように展開するかだ。リクルート事件では、あれだけ広範囲に未公開株がばらまかれたにもかかわらず、政治家の立件は2名にとどまり、国民には肩すかしの印象が残った。政治不信は高まったが、それでも何となく世間が収束ムードに向かったのは、折からのバブル景気で国民生活も経済もそれなりにうまくいっていたという背景事情を見逃すことができない。

 今回の政治資金問題による市民の怒りは現時点ですでに当時に近づきつつある。長い日本経済の低迷で市民生活が苦しくなっている局面での問題発覚だという点が当時と大きく異なっており、今後の展開次第では当時を上回ることになるかもしれない。

 経済低迷の背景には、コロナ禍、ウクライナ戦争によるエネルギーや食品価格の高騰というここ数年のトレンドがある。生活必需品ほど値上げ率が大きく、30数年ぶりといわれる賃上げ幅も物価上昇率にはまったく届かず、特に中間層以下を直撃している。こうした問題は、支持率低下という形で歴代政権の基礎体力を奪い、少しずつ蝕んできた。そこに安倍元首相暗殺事件が起き、日本政界でのパワーバランスが大きく変わったことで、この十数年間、覆い隠されてきた諸問題が噴出してきているというのが筆者の情勢認識である。

 ●1993年型政権交代の可能性も

 インターネット世論では、政権交代を求める声が日増しに強まっている。ネットに書き込んでいるのは「特定の層」が多く、現実世論との乖離も大きいため、これが本当の市民の声かは慎重に見極める必要がある。それでも、岸田政権の支持率17%(時事通信、12月実施)という数字は驚きをもって迎えられた。自民党支持率が2割を切るのも、2012年、自民の政権復帰以降では初めてであり、2009年、民主党に政権交代する直前の麻生政権以来見たことがないような低いものだ。

 経済低迷、安倍~菅政権を支えてきた「岩盤保守」層の離反、統一協会問題など支持率低下には複合的要因があり、「これをすれば劇的に支持率が回復する」という特効薬もなさそうだ。岸田政権の瓦解が視野に入る最終局面に来たといえるだろう。

 政権交代が今後、起きるかどうかの予測は筆者にも難しい。自民支持率の低下が野党の支持率上昇にほとんど結びついていないからだ。あらゆる世論調査が、離反した自民支持層のほとんどが「支持政党なし」に移行したことを示している。「支持政党なし」が3分の2に迫る世論調査の結果は与野党を超えた「政党全体に対する不信拡大」と見るべきである。

 しかし、それでも希望を捨ててはならないと筆者は考える。1989年のリクルート事件発覚から、4年後の1993年に起きた細川非自民連立政権発足までの流れに現在が非常によく似ているからである(この意味でも、今回の政治資金問題に対し、令和のリクルート事件とする評価には首肯できる)。リクルート事件発覚当時も、自民党は許せないが、野党第一党・日本社会党に政権を託せると考える日本人はほとんどいなかった。1989年、政府・自民党にとって最悪のタイミングでめぐってきた参院選では、政権選択選挙ではない参院選独特の「気楽さ」もあってか、社会党が地滑り的に大勝し、参院は自民党が過半数を割る与野党逆転状態となった。竹下内閣によってこの年4月、3%の税率で導入されたばかりだった消費税を廃止する法案(野党提出)が参院で可決されるという事態も生んだ。結局、この廃止法案は自民党が多数の衆院を通過せず、消費税廃止は幻に終わった。だが、このときの与野党逆転状態が、1993年の政権交代を準備することになる。

 1991年には、バブル崩壊が次第に市民の目にも明らかになり、日本経済は下り坂に入った(日本経済がこの後「失われた30年」に突入するとは、この時点では誰も思っていなかった)。そこに、1992年、タレント桜田淳子さんの「合同結婚式」参加がスクープされる。統一協会問題をめぐって報道合戦状態となり、日本社会は大揺れに揺れた。

 1993年、小沢一郎議員らが自民党を割り、新生党を結成。宮沢喜一内閣不信任決議案が提出され、新生党も賛成して可決されると、宮沢首相(宏池会出身)は衆院を解散。総選挙で自民党は過半数を大幅に割り込んだ。

 日本共産党を除く全野党の議席数を足してみると、自民党を上回ることが判明。細川護煕(もりひろ)日本新党代表を首相とする非自民政権が成立。1955年に結党した自民党は初めて下野した。自民党が半永久的に単独政権を担う55年体制の終わりと評されたことは、一定年齢以上の読者ならご記憶の方もいるだろう。



 ここで紹介した図は、日本の経済成長率と政権交代の関係を示したものである。インターネット上に公開されていた経済成長率の推移を示す折れ線グラフに、筆者が政権交代の起きた年を入れてみると、一定の傾向が見えてきた。93年の政権交代はバブル崩壊直後、2009年の民主党への政権交代はリーマン・ショックの直後であり、いずれも日本経済が大きく傾いた直後に起きている。

 「自民党以外に政権が渡ると経済が悪くなる」として自民党を擁護する保守系評論家、文化人は多いが、こうした議論は原因と結果を取り違えている。実際には経済が悪くなり、利益配分にあずかれなくなった自民党支持層による反乱が過去2回の政権交代につながったとみるべきなのだ。当然、非自民政権はいつも、最悪の経済状態を自民党政権から引き継ぐ形で発足するのだから、そのような批判はそもそも的外れである。

 2009年の政権交代時には、受け皿となるべき民主党の支持率が20%を超えていた。そのため小選挙区制下で民主党が自民党を圧倒した。野党第1党でも支持率が10%に満たない現在、2009年のような政権交代劇はそもそも起こりえない。

 だが、1993年のような形での政権交代であれば、筆者は起きる可能性はそれなりにあると考えている。折しも、当時以来30年ぶりに統一協会問題がくすぶり続けており、解散命令請求を出された統一協会が自由自在に自民党の選挙運動に動き回れる状況にはない。加えて、11月には創価学会も池田大作名誉会長を失っている。自公政権のバックにいた二大宗教勢力がこれまでのような集票力を発揮できるかわからない。2009年当時もなかったような日本の政治的地殻変動が足下で大きく進んでいる。物価高に怒れる保守層、無党派層が大挙して「自民党への制裁」に出れば、事態は大きく動く可能性がある。

 野党各党は、とりあえず政権交代に備え、候補者数だけは確保すべきだと思う。候補者の質はそれほど高くなくていい。少なくとも「同じ選挙区の自民党候補よりまし」程度で十分である。今こそ有権者に自民党以外の選択肢を示すときだ。

 その際、細かな政策まで野党各党間で詰めすぎると選挙協力が難しく、かといっておおざっぱな政策での合意にとどまるならば、政権獲得後に不一致が表面化し、過去2回の非自民政権のように瓦解するおそれがある。各党が政権をともに運営する上での基本政策、基本理念について合意の下、選挙協力するとともに、連立政権となった場合には「連立を維持するために、他党と妥協する可能性があるライン」まであらかじめ示した上で選挙に臨むのが、過去2回の失敗を踏まえると適切なのではないだろうか(この意味では、日本共産党が過去何度か公表してきた「民主連合政権構想」はもっと評価されていい)。

 ●清和研の時代の終わり

 話を戻そう。今回の清和研を中心とした裏金問題から「長く続いた清和研時代の終わり」を予測する政治記者が多い。筆者もこの見解におおむね同意する。リクルート事件によって、長く我が世の春を謳歌してきた旧経世会(竹下派)支配が終わりを告げた過去の歴史があるからだ。その後、自民党の中では傍流に過ぎなかった清和会が、小泉純一郎首相(当時)の個人的人気による「小泉旋風」に乗り一躍、主流派に躍り出た。それ以降、今日までのほぼ20年にわたる自民党政権の歴史は、そのまま「清和会支配」の歴史だった。

 清和会は、自民党の中でも最も右派的、新自由主義的な一派で、この20年間、自民党を右へ右へと牽引する役割を果たしてきた。国家主義と新自由主義が車の両輪となり、当時、就職適齢期だった「氷河期世代」は徹底的に切り捨てられた。今に続く日本経済の「失われた30年」が、この世代の切り捨てと関係していることを疑う日本人は、今ではいないであろう。それほどまでに、20年の清和会支配が日本に残した傷跡は大きい。今回の裏金問題を契機に「清和会政治の総決算」を行うべきである。

 清和会にとって想定外だったのは、安倍元首相が後継者を育てないまま凶弾に倒れ世を去ったことであろう。清和会にとっての安倍元首相は、2009年の下野によって、民間企業でいえば倒産状態にあった自民党を政権復帰で再建した「オーナー経営者」的立場にあったというのが筆者の評価である。民間企業のオーナー経営者には強烈な個性を持つ人物が多い。たとえば柳井正社長が不在のユニクロや、孫正義会長が不在のソフトバンクグループの姿を想像するのは経営の専門家でも難しいであろう。創業者である父親を引退に追い込み、娘が経営権を奪取したものの、あっという間に傾き、他社の子会社として吸収された大塚家具を見るまでもなく、オーナー経営者の存在が大きすぎると、後継者選びは得てしてうまくいかないというのが、大組織の人事を長年見つめてきた筆者の感想である。

 一方で、清和会は民間企業と異なり、戦後日本のほとんどを与党として支配してきた巨大政党内部に結成された政治集団である。衆参で99人もの議員を擁する大所帯でありながら、安倍首相殺害後の清和会は、後継会長すら決められず、今回の裏金問題で失脚した「5人衆」を中心とする集団指導体制という異例の形での運営が続いてきた。

 本誌読者の中には、過去さまざまな形で左翼政治党派に関わってきた人、現在も関わっている人もいるであろう。そのような人々にとって、自民党の派閥は「どれも大同小異で興味もない」という人も一定程度いるかもしれない。だが、政策や人間関係の微妙な違いによって左翼政党内部にもしばしば存在する「フラクション」(政党内部の「政党」)と同じ性質、機能を持つと説明すれば、少しは興味を持ってもらえるのではないだろうか。自分たち以外の人たちが多数派を形成して自分の所属する政党の執行部を握っており、自分たちのフラクションがそれに対抗していかなければならないときに、トップも決められないというのでは、それが今後どのような末路をたどるかは想像に難くないであろう。今回、清和会が内閣・党役員からの一掃という事態に追い込まれたことは確実に今後、遠心力として働くことになる。

 20年もの長きにわたって続いた清和会支配が解体後、どのような政治風景がこの国に現れるか予測するのは難しい。自民党内部から新たな勢力が台頭するのか。清和会以外の現有勢力が合従連衡するのか。自民党は分裂するのか否か。野党との間での政権交代は起こりうるのか。筆者にはどれも同程度の可能性があるように読める。

 とりあえず私たち市民にとって重要なことは、停滞、閉塞状況が長く続いてきた国内政治を、2024年は久しぶりに大きく動かすことができるかもしれないということを意識して行動することである。特に、自民党に阻まれて長く日の目を見ないでいる政策(たとえば選択的夫婦別姓、同性婚)などを実現するにはこの先5年間程度が勝負とみるべきだろう。

(2023年12月16日)

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<地方交通に未来を(14)>今後の地域交通のあり方示す2つの路面電車

2023-12-11 20:56:00 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が長野県大鹿村のリニア建設反対住民団体「大鹿の十年先を変える会」会報「越路」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 2023年も残り3週間という年の瀬にこの原稿を書いている。今年はコロナ禍明けということもあり例年になく鉄道に乗った年だった。その中で印象深かった2つの事例について述べておきたい。どちらも地域公共交通の今後のモデルケースとなり得るからだ。

 富山ライトレールには7月に乗車した。JR西日本・富山港線時代に一度乗っているが、一部区間は道路上に付け替えられるなどして旧富山港線とまったく同じではない。少なくともルートが変わった区間には乗っておかなければならなかった。

 富山駅は、もともと駅南側を走っている市内電車と、北側を岩瀬浜まで走っていた旧富山港線転換路面電車を直通運転できるようにするため、富山駅をぶち抜き、線路を駅構内でつなげるという大胆なものだ。

 市内線からやってきた車両(鉄道は「列車」だが軌道では正式には「車両」と呼ぶ)に乗る。道路信号に従いしばらく路面区間を走る。「奥田中学校前」電停付近で車両が大きく左折して道路を外れると、旧富山港線のレールに乗る。ここで右側を見ると、道路の向かいに遊歩道のような細い道があり、これが旧富山港線の跡地だとすぐにわかった。

 旧富山港線区間に入ると車両は急にスピードアップする。60~80km/hくらいは出していることが速度計からわかる。停留所の数は旧富山港線時代より大幅に増えた。国鉄系気動車から床面の低い路面電車車両に変わったため、JR時代のプラットホームは廃棄され、新たに電停が作られている。

 岩瀬浜に到着すると、駅前のロータリー付近で待機していた「フィーダーバス」がロータリー内に進入してくる。列車とバスの乗換待ち時間をなくすためで、全駅ではないものの、主要駅では行われている。正直、「ここまでやるのか!」と驚かされるが、冷静に考えれば、列車の到着に合わせてバスを運行するというのは、乗客目線で考えれば当たり前のことだ。この「当たり前」が日本ではなかなか実現せず、近年ではできなくて当たり前というある種のあきらめムードが支配的だった。富山港線時代は乗れば必ず座れるほど空いていたのが、いまや始発駅でも座れないのが当たり前なほど車内は混んでおり、しかも休日のせいか、明らかに中高生とわかる若年層が多いことも特筆すべきだろう。

 国が地域公共交通活性化再生「優良事例」に挙げたくなるのもわかる。「当たり前」のことを当たり前にやることが実は最も難しいのだ。その当たり前のことを、当たり前に実現した富山市の努力を多としたい。

 同時に指摘しておかなければならないのは、日本中、どこでも富山市のようにできるわけではないということである。もともと、富山地鉄という地元に広く定着した有力な私鉄が長大な路線網を持っており、その会社にJRのローカル線を引き受けてもらうことができた。このような好条件が重なっている場所はほとんどない。国が、地域公共交通活性化再生の旗を振ることに反対はしないが、同じような条件が揃っているのかどうかを見極めてからでないと、単なる公共交通のコンパクト化、縮小だけに終わりかねない。そんな危惧も同時に感じた。

 宇都宮ライトレールには10月に乗車した。宇都宮市自体、訪れるのは十数年ぶりだ。「平石」電停から「清陵高校前」電停までは専用軌道区間。「清陵高校前」から「芳賀・高根沢工業団地」電停までの区間は道路上を走るが、道路と線路は区切られている。

 富山の路面電車と大きく違うのは、信号のコントロールが路面電車優先であることだ。富山は電車の前を横切って右折する自動車を含め通常信号と変わらないが、宇都宮では道路側の信号を「赤」+「直進・左折矢印」表示にして、自動車が電車の前を横切って右折できないようにし、定時運転を確保している。

 小さな子どもを連れた母親が、子どもの分の運賃もまとめて払うのではなく、子ども自身に現金を持たせ、払い方を覚えさせていたことが印象に残った。親がまとめて払うやり方だと、子どもは親と一緒のときしか公共交通に乗れない。だが自分で払えるようにきちんと教えれば、子どもが自分1人だけでも乗車できるようになる。次世代の公共交通の担い手をみずからの手で積極的に育てていこうという市民意識は、富山よりも宇都宮のほうが強いと感じた。

 気になる点もあった。家族連れが下車する際、大人はICカードで支払うが、子どもの分の半額運賃は現金でしか支払えないことだ。にもかかわらず、運賃箱に表示されている運賃が、大人表示のまま子どもに切り替えられない。たとえば150円区間の場合、子どもが現金払いをする際も表示は150円のまま、運転士が目視で80円(端数の5円は切り上げ)の投入を確認していた。これだと、大人2人に子ども1人がまとめて下車するような場合、いくら払えばいいのかわからなくなる。子どもが1人でも乗れるように育てようという意識がせっかく市民の側に生まれているのだから、せめて運賃表示が子ども用に切り替えられるよう、早急にシステムを改修すべきだ。

 富山も宇都宮も、私が乗りに行ったのが休日という点は考慮する必要があるものの、乗客に若年層が多かったのが特徴だ。2017年に内閣府が行った「公共交通に関する世論調査」で「あなたは、鉄道やバスがもっと利用しやすければ、出かける回数が今より増えると思いますか」という質問に対し、「増えると思う」「少しは増えると思う」と答えた人の比率が18~29歳までで最も高かった結果と符合する。いわゆる交通弱者といえば高齢者問題だと思う人が多いが、本当の交通弱者は運転免許を取れない若年層なのだ。

 路面を走る大都市中心部と、専用軌道を走る郊外区間を連結するという点では、富山も宇都宮も共通しており、今後のトレンドになる予感がする。既存の鉄道でこの形態を取るものには広島電鉄(市内線(路面)と宮島線(専用軌道)の直通)や筑豊電鉄などがある。特に筑豊電鉄は、乗り入れしていた西鉄北九州市内線の路面電車が1992年に廃止されている。どちらも現状維持が精一杯の状況の中、なんとか生き延びてきたのが実態だろう。そうしているうちにぐるりと時代が1周し、「都心~郊外直通運転」が脚光を浴びる時代が再び来たのだから、世の中わからないものだ。

 2つの路面電車の事例は、今後、地域公共交通を衰退から発展に転換するために何が必要かを示唆している。自治体が前面に出て住民の声を吸い上げ、どのような公共交通にしたいか、それをまちづくりにどう組み込むかのグランドデザインを描く必要がある。地域住民もどんどん自治体や鉄道会社に意見する。乗って支えるだけでなく、子どもにも乗り方を教え次世代の担い手を育てる。「住民参加と対話」がキーワードだという印象だ。

(2023年12月10日)

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【管理人よりお知らせ】カテゴリー再編を実施しました(「原稿アーカイブ」カテゴリーの廃止)

2023-12-10 21:46:55 | 運営方針・お知らせ
管理人よりお知らせです。

以前からずっと考えていたことなのですが、「原稿アーカイブ」カテゴリーを廃止することにし、本日作業を実施しました。同カテゴリーの記事は、内容に応じて最もふさわしいカテゴリーに移動しました。

結論を言えば、鉄道関係の記事は鉄道の3カテゴリー中のいずれかに、原発・原子力問題関係の記事は原発の2カテゴリー中のいずれかに移しました。これ以外の記事は「社会・時事」カテゴリーに移動させるとともに、カテゴリー名を「社会・時事」から「その他社会・時事」に変更しました。結果的に、「その他社会・時事」カテゴリーの記事数は300を超える規模に膨れあがりましたが、名称変更により「他のどのカテゴリーにも属さない記事はすべて「その他社会・時事」カテゴリーである」ことが明確になると思います。

「原稿アーカイブ」カテゴリーは、もともとは管理人の執筆活動の記録としての意味を持つものであり、紙媒体やネット媒体に寄稿した原稿のうち、当ブログに転載が必要と判断したものを掲載するためのカテゴリーとして設置しました。当初はこの目的通りに機能していましたが、ここ数年は当ブログオリジナル記事が次第に減り、先に紙媒体に発表後、転載した記事が当ブログの大半を占めるようになりました。

こうなってくると、紙媒体から転載した記事かどうかを区別する意味はほとんどなくなります。加えて、同じジャンルの記事が、紙媒体からの転載か当ブログオリジナルかによって異なる複数のカテゴリーに分散掲載されている現状では、過去の記事を検索するのがかえって面倒です。「原稿アーカイブ」カテゴリーの記事を各ジャンルごとに振り分け直した方がいいとの思いは2~3年前から持っていました。この目的を達するための整理であり、管理人のみならず、読者の皆様にとっても、過去記事を発見しやすくなったのではないでしょうか。

どのような記事がどのカテゴリーに分類されるかの基準は、2013年4月5日付記事の通りです。なお、今回の措置により当ブログのカテゴリー数は1つ減り、13となりました。かなり整理が進んできたと考えています。

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【転載記事】311子ども甲状腺がん裁判 第8回口頭弁論「何回手術すればいいのか」と訴え

2023-12-08 23:45:28 | 原発問題/一般
原発事故により甲状腺がんになった原告7人が東京電力を相手に賠償を求めている「311子ども甲状腺がん裁判」は、12月6日、東京地裁で第8回口頭弁論が開かれ、原告2名が意見陳述した。以下、メディア2媒体から転載。

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原告「何回手術すればいいのか」〜甲状腺がん裁判(Our-Planet TV)

東京電力福島第一原発事故に伴う放射性物質の影響で甲状腺がんになったとして、事故当時、福島県内に住んでいた若者が東京電力に損害賠償を求めた裁判の第8回口頭弁論が12月6日、東京地方裁判所で開かれた。9月に裁判長が交代したため、原告側、被告側双方が法廷で、これまでの主張などを整理した陳述を行った。また、2人の原告が意見陳述を行った。

最初に法廷で陳述をしたのは被告・東電側。棚村友博弁護士が、UNSCEAR報告書に基けば、原告の被ばく線量は、甲状腺がんを発症するほど高くないなどと主張した。棚村氏は、UNSCEAR(国連科学委員会)の信頼性を強調したが、UNSCEAR報告書が、「ICRP(国際放射線防護委員会)の放射線防護基準策定の基礎となっている」「日本側はデータ収集に徹した」など、事実に基づかない独自の見解を口にすることもあった。

一方、被ばく線量と疫学に関する準備書面を提出した原告側は、被ばく線量に関わる点と、疫学に基づく因果関係論の両面で、東電に反論。田辺保雄弁護士が、東京電力が主張する「スクリーニング検査によって、潜在がんが多数見つかっている」との主張には根拠がないと批判した。

またこの日、原告の2人が法廷に立った。1年前の陳述では衝立て越しに陳述したが、今回は、遮蔽をせず、傍聴席から姿が見える状態で、意見陳述を実施した。最初に証言台に立ったのは、明るいメッシュの入った茶色のボブカットに、スモーキーブルーのトレーナーという出立ちの原告5さん。

「がんの治療が長引くのは、だるくなります。何回手術すればいいのか、もしかしてずっと続くのではないかと考えちゃいます。」

去年の意見陳述から1年間の間に、再び手術の可能性を指摘されながらも、なかなか細胞診ができず、もどかしい思いをしていることをとつとつと読み上げた。

また、最年少の原告6さんは、明るい色のポニーテールに、茶色のトレーナーで遮蔽された原告席から証言台に進み、大学に入ってからの心境の変化や、裁判に対する思いなどを語った。
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311子ども甲状腺がん裁判~二度目の証言台に立つ若者たち(レイバーネット日本)

311子ども甲状腺がん裁判~二度目の証言台に立つ若者たち
堀切さとみ

*開廷前の門前集会には毎回たくさんの人が集まる

 12月6日。東京地裁103号法廷で、311子ども甲状腺がん裁判が行なわれた。
 第八回目のこの日、七人の原告のうちの二名が、二度目の意見陳述をした。前回から裁判長が代わったため、新しい裁判長に原告の話をじかに聞いて欲しいと、弁護団が要請したのだ。
 ところが裁判所はその要請を「衝立を準備するのに人員が必要だから」という理由で拒んできた。原告にとって姿を晒して法廷に立つというのは、どれだけの勇気と負担がかかることか、裁判所もわかっているはずなのに。
 それでも、二人の原告は衝立なしで証言台に立った。

 がんを告知された後も続くつらい検査、つらい治療、手術後の苦しさ、再発の不安。「甲状腺がんは死ぬ病気じゃないから」という人たちに、彼女たちの言葉をぜひ聴いて欲しいと思う。何の落ち度もないのに、当たり前の日常が奪われ、いつまでたっても過去のものにならない。しかし、被害と向き合い続ける日々が、原告たちを成長させていることも明白だった。

 20代のAさんは「放射能を気にする子と気にしない子に分かれていて、自分は後者だった。それでも県民健康調査はありがたいと思ってた。過剰診断だったと言われているが、それなら何のために検査したのか」と言った。
 10代のBさんは「小学生になる前に事故が起きた。将来のことを考える間もなくガンになり手術し裁判の原告になった。今は大学生になり、この裁判に責任を持てるようになった。海洋放出は複雑な思いだ。長く続くこの裁判に挑戦していけたらいいなと思っている」と言った。
  二人とも堂々としていた。Aさんは終わってから「緊張したけれど言いたいことは言えた」と担当弁護士に告げたそうだ。裁判官は、若い原告の思いを放置しないでほしい。人間の心に誠実であって欲しいと思う。

 東電側の代理人は、がんと原発事故との因果関係がないこと、年間100ミリシーベルト以下では人体へのリスクがないことを繰り返した。UNSCEARの権威に頼り、つらつらと文書を読み上げるだけの35分間は眠気を誘うものだった。原告側代理人たちが毎回スライドを使って分かりやすく説明するのと対称的で、わざと分かりにくくしたいのだという印象だけが残る。
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この甲状腺がん裁判、事故当時福島県内に住んでいた私にとっても他人事とは思えない。傍聴したい、7人の原告たちの声に直接触れたいとずっと思ってきた。重要な裁判だとの思いはずっと変わらない。

だが、裁判期日が4半期の締めくくりである3、6、9、12月の3ヶ月サイクルになっているせいか、私の仕事が多忙になるサイクルと重なりずっと傍聴できていない。昨年12月は仕事の再繁忙期と重なった。3月は、私が役員をしている職場労働組合の役員会と同じ日に重なった。比較的仕事が暇だった今年6月、9月は原告の意見陳述が行われなかった。今回、裁判長交代で再び原告が意見陳述するというので、飛行機、ホテルまで確保していたが、前日になって緊急の仕事が入り、急きょ傍聴をキャンセルせざるを得なかった。

どうもこの裁判とは相性が良くない。傍聴したいとの強い思いは現在も持っているが、この裁判に限らず、趣味活動などを含め、3回挑戦して3連敗した事柄からは「成功のための諸条件が揃っていない」と判断していったん撤退し、悪い流れが変わるのを待つというのが私の人生上のポリシーである。事務局を務める人に「諸事情で今後私はこの裁判の傍聴はしないことにした。傍聴以外の方法で支えたいと思っているので、できることがあれば言ってほしい」と連絡したところ「メディアが完全黙殺モードなこともあってこの裁判が全然広がっていない。今はネットでの拡散を最もお願いしたい」と言われた。

そこで、私自身が関わってきた東電刑事裁判のように、今後は毎回、この裁判の報告を当ブログに載せるとともに、次回期日を告知することで裁判を支えたいと考える。次回の裁判期日は2024年3月6日(水)である。私は傍聴できないので、1人でも多くのみなさんに東京地裁前に来てほしい。

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