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福島原発事故 東電幹部強制起訴刑事訴訟が結審~9月19日判決へ 原子力政策を左右する重要訴訟に関心を!

2019-08-26 23:39:13 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2019年8月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 福島原発事故に関し、勝俣恒久元会長、武藤栄、武黒一郎両元副社長の東京電力旧経営陣3人がいったんは不起訴となりながら、検察審査会の2度にわたる「起訴相当」議決を受けて強制的に起訴されたことを受け、行われてきた福島原発事故強制起訴刑事訴訟は、3月12日の被告側最終弁論をもって結審となった。検察官役の指定弁護士による冒頭陳述が行われた2017年6月30日の第1回公判から1年9ヶ月間、急ピッチで進んできた公判は37回に及んだ。数の面でも量の面でも膨大な証拠物件からは、隠されていた驚くべき事実が次々と明らかにされた。何が争点なのか。東電の罪はどこにあるのか。そして立証は十分に尽くされたのか。2012年11月、福島県民だけを対象とした第1次告訴告発から福島原発告訴団に関わってきた筆者が、判決公判を前にその重要な意義を改めて解説する。

 なお、検察審査会と強制起訴・指定弁護士制度、強制起訴までの手続等については紙幅の関係もありここでは繰り返さないが、この間の経過は本誌2014年9月号(最初の「起訴相当」議決の直後)、2015年3月号(検察による2度目の不起訴決定直後)、2015年9月号(強制起訴決定直後)、2016年4月号(指定弁護士による起訴手続の直後)、そして2017年8月号(第1回公判の直後)とすでに5度も取り上げているので、それらの記事を参照されたい。

 ●「原発事故がなければ」~双葉病院元看護部長の証言

 福島第1原発は双葉町と大熊町にまたがって立地する。半径10km圏内は事故直後に避難指示が出されたが、同じ双葉町にある双葉病院も避難指示区域となった。病院職員らは懸命の避難活動に当たるものの、患者の避難は事故4日後の3月16日までかかる。この間、混乱でスタッフは十分集まらず、救助を求めていた自衛隊さえ、3月15~16日の急激な空間放射線量の上昇が原因で現地入りせず、最終的に患者ら44名が死亡した。原発事故がなければ避難指示もなく、これらの患者が死亡することもなかったことから、この死亡と原発事故の関係は明白として、3被告が業務上過失致死傷罪で強制起訴されたことで、この裁判は始まった。

 2018年9月19日の第26回公判では、実際に救助活動に当たった双葉病院の当時の副看護部長・鴨川一恵さんが証人として出廷。「地震と津波だけなら患者を助けられた。助けられなかったのは原発事故のせい」と証言した。あちこちで道路損壊や渋滞に見舞われ、避難が遅々として進まないまま、バスの車内で衰弱し死亡した患者もいた。「バスの扉を開けた瞬間に異臭がして衝撃を受けた。座ったまま亡くなっている人もいた」(鴨川さんの証言から)。バスの中で3人が亡くなっていたが「今、息を引き取ったという顔ではなかった」。体育館に運ばれたあとも11人が亡くなった。3被告の起訴事実となった双葉病院での患者死亡について、直接の関係者から原発事故との関係を明白にする証言が得られたこの日の公判は、一連の裁判のハイライトといえる。

 ●津波対策、意識的に潰した東電

 事故9年前の2002年7月、政府の地震調査研究推進本部(地震本部、推本)は「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」を公表。大きな争点の1つである「長期評価」と呼ばれるものだ。次の地震の規模をマグニチュード8.2、30年以内の発生確率を20%とした。これを受けた経産省原子力安全・保安院(保安院)は福島原発事故に襲来が予想される津波の試算予測を依頼するが、東電は長期評価とは別方法に基づいて試算をしたいと回答。保安院の指導に従わなかった。

 2006年9月には、日本国内の全原発について、内閣府原子力安全委員会が策定した新耐震指針に準じた耐震バックチェックを行うよう指示した。バックチェックとは、原発を持つ各電力会社が行った安全対策を報告させ、保安院がその結果に基づいて耐震審査を行うものだ。

 2007年7月、東電のその後の原発安全対策に重要な影響を与える出来事が起きる。新潟県中越沖地震だ。東電柏崎刈羽原発が立地する柏崎市と刈羽村で最大震度6強を記録したこの地震で原子炉は緊急停止、東電は2007年度決算で赤字に転落した。中越沖地震からの復旧に莫大な費用を要することとなった東電は、福島原発の津波対策を先送り。再稼働の見込みがなくなった柏崎刈羽に加え、福島原発まで津波対策による停止が長期化すれば経営悪化の可能性があったためである。

 東電が経営悪化を避けるため、福島第1原発を稼働させたまま、止めずに安全対策を行う道を探っていたことに関しては重要な証言がある。2018年9月5日の第24回公判で、東電幹部・山下和彦氏の供述調書が読み上げられた。山下氏は、2007年10月に新潟県中越沖地震対策センター所長に就任。柏崎刈羽原発や、福島第一、第二原発の耐震バックチェック、耐震補強などの対策をとりまとめてきた。2010年6月からは吉田昌郎氏の後任として原子力設備管理部長に就任。事故後は、福島第一対策担当部長、フェロー(技術系最高幹部として社長を補佐する役)として事故の後始末に従事した人物だ。その山下氏が、いったんは全社的に進めていた津波対策を先送りした理由について、対策に数百億円かかるうえ、対策に着手しようとすれば福島第一原発を何年も停止することを求められる可能性があり、停止による経済的な損失が莫大になるからだと説明していた事実が明らかになったのである。

 2008年1月、東電が子会社・東電設計に津波想定を依頼していたことを裏付ける証拠書類の存在も明らかになった。2008年2月に開催された津波対策対応打ち合わせ(最高権力者である勝俣会長の“ご臨席”を仰ぐことから東電内部で「御前会議」と俗称された)では、津波想定について7.7m以上との報告が行われ、長期評価を取り入れた津波対策(福島第1原発の4m盤の上)を行うとの方針がいったんは了承された。

 その後、津波想定が15.7mとされたことから、4m盤上の津波対策では不足するとして、10m盤上に防潮堤を設置する等の新たな津波対策が必要となった。2008年6月に開催された福島地点津波打合せでは、これらの津波対策の説明を受けた武藤被告が4項目の検討課題について指示。関係者は長期評価に基づいた津波対策を実施するものと受け止めた。

 これとほぼ時を同じくして、日本原子力発電の東海第2原発では、長期評価を取り入れた津波対策に着手。東電から日本原子力発電に出向していた安保秀範氏が中心となって対策案をまとめた。東海第2原発は2010年4月に津波対策工事を終えている。

 2008年7月21日の「御前会議」では、東電で一連の津波対策に要する費用が報告された。柏崎刈羽に3,264億円、福島第1に1,941億円というのがその内容だった。諸費用込み5,237億円――それは、日本有数の巨大独占企業・東電であっても「右から左に出す」というわけには到底行かない巨額だった。しかもこの金額に津波対策は含まれていなかった。ましてや全原発停止でよりコストの高い他の電源を動かさなければならなくなることによる追加コストは計算もされていないのだ。

 2008年7月31日、福島第1原発の運命を暗転させる2度目の福島地点津波打合せが開催。武藤被告は「研究を実施しよう。土木学会に調査を依頼する」と突如発言する。この決定的に重要な発言と方針変更、社内で真摯に津波対策の立案に当たってきた幹部社員にとって裏切りと言うべき武藤被告の言動は、福島原発告訴団内部で密かに「武藤のちゃぶ台返し」と形容された。そのように呼ばれてもおかしくないほど、東電社内でそれまで積み上げられてきた津波対策の「全面的転覆」だった。

 土木学会は、電力会社やゼネコンなどで構成される業界団体である。学会という名称から何かアカデミックなものを連想する読者もいると思うが、単なる業界団体、さらに言えば「土木利権団体」に過ぎない。巨大施設・原発で飯を食っている会員企業の中に、巨大発注者である東電に異を唱えられるところがあるとは思えない。そのことを知りながら、そこでの調査続行を決めた武藤被告にとって「自分のホームグラウンドなら自分たちに有利な結論――巨額の費用が必要となる長期評価に基づいた津波対策は不要との結論――を出してくれるに違いない」との思いがあったであろうことは想像に難くない。

 武藤被告はあろう事か、この際、15.7mの津波を想定した10m盤上の津波対策のみならず、当初計画だった7.7mの津波想定に基づく4m盤上の津波対策まで中止してしまった。この間、津波対策のとりまとめに当たってきた東電土木調査グループの高尾誠氏が「予想していなかった結論で力が抜けた。(会合の)残りの数分は覚えていない」と証言するほどの出来事だった。

 高尾氏と同じ土木調査グループの酒井俊朗(としあき)氏が、日本原電の安保氏に長期評価が東電で不採用となったことを伝えるメールも証拠として残されている。酒井氏の供述調書には、安保氏に対し「柏崎も止まっているのにこれで福島も止まったら経営的にどうなのかって話でね」と語ったという事実が記載されている。一連の津波対策費の巨額さにたじろいだ武藤被告が、社内で立案されていた津波対策をひっくり返した、とのこの間の経過を裏付ける証拠や証言だ。

 その後の会議では、東電以外の各社の津波対策についても報告されている。バックチェックに基づく対策を東海第2ではすでに実施し、女川原発(東北電力)は重要施設が高台にあるため対策自体が不要だった。すでにこの時点で、対策が必要でありながら検討中のまま着手もされていないのは東電だけという状態だったのだ。東電は、バックチェックに基づく最終報告の提出を2012年11月まで先送り。7.7m想定に基づく津波対策すら行われまま、東日本大震災を迎えてしまったのだ。

 長期評価に基づいて安全対策を実施した東海第2原発では、津波がかさ上げした防潮堤を越えることはなかった。一方、福島第1原発に襲来した津波の高さは、東電設計の想定通りの15m。改めて日本の現場を支える土木技術者の仕事の緻密さや質の高さが浮き彫りになった。

 「長期評価に従って対策を進めておけば、18000有余の命はかなり救われただけでなく原発事故も起きなかったと私は思います」。2018年5月9日の第11回公判で、時折声を詰まらせながら、涙ながらにこう証言したのは島崎邦彦・東京大学名誉教授(元原子力規制委員長代理)だ。長期評価は阪神・淡路大震災をきっかけに始まった。裁判で争点となった三陸沖での地震の長期評価についても、議論はしたが紛糾はしておらず、反対意見もなかった旨の証言(第10回公判における気象庁技官・前田憲二氏)も得られた。前田氏は、気象庁から文部科学省に出向、推本事務局で実際に長期評価のとりまとめに当たった人物だ。

 ●立証は尽くされた

 公判では、様々な角度からいろいろな資料が証拠提出され多くの証人が証言した。公判の流れを大きく分けるなら、前半は長期評価の信頼性、後半は東電内部における津波対策の検討とそれがひっくり返されていった状況の解明が中心になったといえよう。

 膨大な証言、証拠から、事実関係を時系列順にまとめると経過が見えてくる。(1)推本が長期評価を公表(2)保安院が電力各社にバックチェックを指示したが東電は従わず(3)新潟県中越沖地震発生(4)東電が東電設計に津波想定を依頼(5)津波想定が15.7mと報告、東電で対策の検討が開始(6)対策案がほぼまとまり最終的な経営判断の段階へ(7)柏崎刈羽原発を含めた東電管内原発の対策費総額が5,237億円と判明(8)対策費の巨額さを見た武藤被告が「ちゃぶ台返し」――これがこの間の経過である。

 東電の現場社員は、長期評価を「国の機関が専門家を交えて出した結論」として重視しており、評価が示された以上対策は不可避と捉えていた。一方、会社を維持し、倒産させないことが至上命題であり最大の任務でもある経営陣が、あまりに高すぎる対策費を見て「いつ来るかもわからない津波の対策を、会社をつぶしてまで今やることはない」と判断したことに対しては、同じ立場だったら自分でも同じようにするだろう、と思う人がいても不思議ではない。

 しかし、問題となった5,000億円程度の資金調達は、事故前の東電の信用をもってすればいくらでも可能だったし、他の会社が津波対策を実際に講じていたという事実もある。会議でその報告を受けた3被告が、他社の状況を横目で見ながら自分たちも対策を講じるという判断が当然であって、またそれは十分可能だった。保安院からもバックチェックを促されていながら、それに基づく対策をしないまま震災を迎えた東電は、少なくともこの手の巨大施設を運営する事業者に対して当然求められる善良な管理者の注意義務を到底果たしておらず、その不作為だけでも罪を問われるのは当然だ。

 検察官役の指定弁護士による立証は十分尽くされたと筆者は考えている。この裁判は日本が法治主義に基づいて先進国の立場を今後も維持できるか、「放置主義」に堕し途上国へと後退するかを占う重要な試金石になる。必要な賠償も被曝・汚染対策もおざなりのまま、県民不在の「復興」のかけ声だけが、勇ましくも虚しく響く事故8年の福島。現実との「妥協、折り合い」をつけながら日々の生活を余儀なくされている県民がその悲しみに終止符を打ち、真に県民本位の復興を成し遂げられるようにするためにも、東電が加害者である事実が公的な場で認定されることがどうしても必要だ。

 3被告に対しては、業務上過失致死傷罪の法定上限である禁錮5年が指定弁護士によって求刑された。日本の原子力政策にとっても重大な岐路となる注目の判決は9月19日、東京地裁第104号法廷で言い渡される。

(黒鉄好・2019年8月26日)

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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算350回目)でのスピーチ/東電が東北で電力販売というデタラメ

2019-08-25 23:40:58 | 原発問題/一般
 皆さんお疲れさまです。

 東京電力が、電力自由化に乗じて電力販売の全国展開を図ることが発表されました。東京電力は今、事業ごとに会社を分割し、持株会社東電ホールディングスの傘下に各事業会社を置くという形に組織を再編しています。その事業会社のひとつで、電力販売部門を担当するグループ会社、東電エナジーパートナーが自社エリアである首都圏を飛び出し、全国展開をするとの発表がありました。すでに中部電力、関西電力のエリア内では電力販売を進めていますがこれを拡大。ついに九州、東北でも東電エナジーパートナーによる電力販売がこの9月にも始まります。しかし、福島で3.11を経験した私からすれば、他の地域はともかく、東電が東北で電力販売をするというのは言語道断です。それは、単に福島原発事故の加害企業である東電が、最大の被害者である東北地方の住民からカネを巻き上げるのがけしからん、という感情的なレベルの話ではありません。福島を初めとする原発事故被災者への賠償のスキームがこれにより崩壊することになるという事実があるからです。

 ご存じのように、東京電力ホールディングスは現在、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)が51%の株式を保有しており、実質的な国有化状態にあります。原賠機構は、東電に賠償資金を貸し付けるための法人であり、8月22日、すなわち昨日現在で合計8兆9034億円もの賠償資金を東電に交付しています。東電は、この資金の中から福島を初めとする原発事故被害者に賠償をするわけですが、重要なのはこの資金が渡しきりではなく貸付に過ぎないということです。当然、貸付である以上、東電はこの資金をいずれ、利益を上げてその中から返済しなければならないということなのです。

 東電は、原発事故以降、原賠機構を間に挟む形で事実上、経産省に経営を握られてきました。原発事故被害者への賠償義務を負い、そのための資金の貸付を原賠機構から受けている立場上、東電は、勝手に値下げをしないよう国から指導を受けているとして、これまでは官公庁の電力入札も辞退してきたほどです。それが、ここに来ての急激な方針転換の背景にはもちろん国の意向があります。実質国有化が続いている東電にとって、国の意向に沿う形でしか経営方針を決められないという状態に今も変わりはないからです。「もっともっと東電の営業エリア外に進出して賠償資金を自分で稼いでこい。他の地域に進出して新たな顧客を獲得できるのであれば、3%の値引きくらいはしてもいい」という経産省の方針が背景にあるものと見なければなりません。

 しかし、ここに大きな問題があります。東電が他の地域はともかく、東北で電力販売を手がけるとなれば、原発事故で最も大きな被害を受け、賠償される立場である福島の電力利用者が東電に電気代を払うということになります。もちろん、契約は自由意思であり、NHKと違って強制ではありませんから、東電と契約するのが嫌だという人は今まで通り東北電力や新電力と契約を続ければいいでしょう。しかし、東北電力より安いからと東電に乗り換える人も少なからず出るはずです。そうした人たちにとっては、自分が東電に払った電気代で自分が賠償を受けるということになり、実質的に賠償の意味がなくなってしまいます。最近ではあまり言われなくなりましたが、もともと福島第1原発の電気は首都圏が使うためのもので、すべて首都圏に送電されていました。地元では1ワットも使われていなかったのです。自分たちは使わない、首都圏の人たちのための電力が原因で家や故郷、生活や健康を失った福島の人たちが「事故の賠償をしてほしければまずは自分たちに寄付をしろ」と東電に言われるのでは話になりません。東電が東北電力のエリア内に進出して電力販売をするとは、要するにそういうことなのです。

 ここまで来ると、原賠機構が東電に賠償資金を貸し付け、その中から東電が賠償するという制度、枠組みは完全に崩壊したといわなければなりません。もともとこの仕組みを作ったのは当時の民主党政権です。「東電を経営破綻させたら賠償資金も残らなくなる。被害者が賠償を受けられなくなる」として東電を倒産させない方針が採られました。しかし今から考えるとこれが正しかったかは大いに疑問です。むしろ、すっきりと東電を倒産させ、大株主である銀行や証券会社などの金融資本にきっちりと賠償させ、足りない部分は国が賠償するという枠組みを作るべきだったと私は思います。

 賠償金をいくら払うか決める査定権限も東電が持っており、原発事故が起きた当初は従っていた原発ADR(裁判外紛争処理手続き)による勧告も、最近、東電は無視しています。加害企業が勝手に賠償額を決める。日本の電力政策は相変わらずデタラメだらけです。しかしこうしたところからも、綻びははっきりと出てきています。私たちはこうしたデタラメをひとつひとつ告発し、あるべき姿に正していくという気の遠くなるような作業をしなければなりません。しかしそれをしない限り日本に未来はありません。みなさんとともに、頑張っていくしかないと思います。

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六ヶ所村ピースサイクル行動におけるメッセージ

2019-08-19 23:25:45 | 原発問題/一般
青森県六ヶ所村の使用済み核燃料再処理施設に反対する行動として、1986年から始まった六カ所ピースサイクル行動。全国各地を自転車で回りながら核燃サイクル反対を訴える行動も今年で34年目に入った。

当ブログ管理人に、行動主催者からメッセージの依頼が来るようになったのは、福島原発事故が起きて以降だ。福島県で被災したという事情もあり、以降、毎年、六ヶ所ピースメッセージとして思いを伝えてきた。今年、当ブログ管理人が寄せたメッセージをご紹介する。

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六ヶ所ピースメッセージ

六ヶ所村村長 戸田 衛 様
青森県知事 三村 申吾 様
日本原燃株式会社 社長 増田 尚宏 様

 福島第1原発事故から約8年半が経過しました。経産省出身の首相補佐官らに支配された安倍政権は、今なお原発推進路線を続けており、これまでに9基を再稼働させました。しかし、使用済み核燃料の処理の見通しは依然として立っていません。各原発敷地内の使用済み核燃料プールが間もなくいっぱいになり、これ以上の貯蔵が不可能になることから、国は、ここに来て乾式キャスクによる使用済み燃料保管に切り替えようとしています。しかし、使用済み核燃料の最終処理については、その場所も方法も確立していないことに変わりなく、乾式キャスク方式に切り替えたとしても処理が行き詰まっていることに変わりありません。それにもかかわらず、9基もの原発が再稼働したため、今後も使用済み核燃料は増え続けるのです。

 六ヶ所村にある日本原燃の再処理施設も、1993年に着工以来、稼働の予定はすでに24回も延期されています。核燃料サイクルの要だった高速増殖炉「もんじゅ」も廃止になり、後継とされる新型炉「ASTRID」もフランス政府の撤退で頓挫しています。どの面から見ても、核のゴミ政策が成功する見通しはありません。

 政府・原子力関係者は、放射性廃棄物の処理については「時代が進めばいずれ誰かが方法を見つけてくれるだろう」という、あいまいで無責任な態度で推進し続けてきました。福島第1原発事故は、この無責任の結末を示すものであり、多くの人々が故郷を追われいまだに元の生活を取り戻すことも再建することもできない中で、このままさらに無責任な原子力政策を続けることは許されません。

 私は、福島第1原発事故当時、福島県西郷村で事故を体験したもののひとりとして、関係者が直ちにこの無責任に終止符を打ち、原子力推進から撤退へと勇気ある決断を下されるよう強く求めます。

 <なお、日本原燃・増田社長宛のメッセージのみ、最後の一文(「私は・・強く求めます。」の部分)を以下の通り一部変えています。>

 増田社長は、福島第1原発事故当時、福島第2原発所長として収束作業に当たられてきました。福島第1原発と同様の事態を防いでいただいたことには、元県民のひとりとして感謝していますが、同時に現場の第一線で原子力政策の無責任さも痛感されたことと思います。私は、福島第1原発事故当時、福島県西郷村で事故を体験したもののひとりとして、増田社長がご自身の貴重な経験を、未来のない再処理技術のためではなく、原子力からの撤退のために活かしていただけるよう望みます。

2019年8月18日

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【管理人よりお知らせ】安全問題研究会が行った国交省要請行動及び都内でのJR北海道問題に関する報告を掲載しました

2019-08-07 01:06:46 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

安全問題研究会は、去る7月26日(金)、国交省に対し、リニア新幹線問題、JR北海道の維持困難線区問題に関する要請行動を実施しました。この際の要請書(PDFファイル)を安全問題研究会サイトに掲載しました。

また、28日(日)には都内でJR北海道問題に関する報告を行いました。この際の報告資料「JR北海道問題の現状」(PDFファイル)もサイトに掲載しましたので、ご覧ください。

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8月4日19時23分頃の福島県沖の地震について ー「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について(第83報)ー

2019-08-05 22:33:35 | 気象・地震
8月4日19時23分頃の福島県沖の地震について-「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について(第83報)-(気象庁報道発表)

東日本大震災の震源区域で久しぶりに大きな地震が発生した。東日本大震災に関連して第82報が出されたのは2017年10月7日だから、約1年10ヶ月ぶりになる。

報道発表を見る限り、過去の同種の地震と同じで目新しいものはないが、1年10ヶ月ぶりのプレスリリースのため忘れている人も多いだろう。今回の地震のメカニズムである発震機構は西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型で、これは2011年3月11日の東日本大震災における「本震」とまったく同じである(当時のプレスリリース)。震源も本震よりやや西、北米プレート内部の地震だがプレート境界の比較的近く。本震に近い場所で、震源への力のかかり具合もほぼ同じ。本震とまったく同じメカニズムで発生した地震ということになる。本震は深さが約10kmに対し今回は45kmとやや深い場所だったことが異なっているが、長年、日本とその周辺地域での地震を見てきた者としては、率直に言って、かなり嫌な感じのする地震と言える。

7月28日に三重県沖で起きた地震も、震源が南海トラフ地震の震源域とされる場所に近く、嫌な感じがする地震だ。このところ、このようなプレート境界に近い場所での地震が続く。内陸部で何度か大きな地震を繰り返しながら、次第に震源がプレート境界に近づいていき、その後にプレート境界で大地震、というパターンになることが多い。今回の地震は東日本大震災での「揺れ残り地域」の地震と見られ、南海トラフとの関連は薄いと考えられるものの、もし、南海トラフ地震もこのストーリーに沿って進むなら、7月28日の地震はかなり嫌な感じがする。もちろん東日本大震災の震源区域の人も安心していいというわけにはいかない。どちらの地域の人も十分注意すべきだろう。

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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算348回目)でのスピーチ/原子力規制庁交渉を終えて

2019-08-04 22:14:28 | 原発問題/一般
 皆さんお疲れさまです。また1ヶ月ぶりの参加になりました。

 先週金曜日、26日から3日間、東京に行ってきました。関西電力本店前でも、毎週金曜日行動が取り組まれています。全交関電前プロジェクトという団体が、真夏の猛暑日にも、寒風吹きすさぶ冬にも行動に取り組んでいます。その仲間たちと一緒に、先週金曜日に原子力規制庁への要請行動に取り組みました。要請項目は、国家公務員住宅に住んでいる避難者に対する家賃2倍請求による追い出しをやめること、捏造が発覚した早野龍五氏の論文を使っての放射線審議会での議論を今後も含め一切しないこと、30km圏内地域が避難計画を作成できないままの状態で原発再稼働の許可を出さないこと、関電の福井県内の原発や、四国電力伊方原発で焦点になり始めている乾式キャスクによる放射性廃棄物の処理をしないこと、六ヶ所村での使用済み核燃料の再処理をやめること、等です。福島みずほ議員の仲介で、参院議員会館に原子力規制庁の他、再処理を担当する資源エネルギー庁にも来ていただき、交渉をしました。

 原子力規制庁の対応は、ひどいの一言でしか言い表せないものです。何を質問しても「自分達の所管事項でないから答えられない」「回答を差し控えたい」だけで、中身のある答えはまったくといっていいほどありませんでした。

 今もっとも深刻な問題である、東京・東雲(しののめ)の公務員住宅からの家賃2倍請求による追い出し問題は、全交関電前プロジェクトのメンバーから規制庁に持っていく要請項目を一緒に考えてくれるようにお願いされ、私の発案で入れたものです。この問題は福島県と公務員宿舎を管理する財務省が担当で、規制庁の管轄外であることはわかっていましたが、それでも問題が深刻なので福島県を指導していただきたい、との思いで入れました。予想通りと言えばそれまでですが、「自分達の管轄外なのでお答えを差し控えたい」という規制庁の官僚答弁には呆れるほかありませんでした。

 公務員宿舎に住んでいる人たちの多くは、心身に病気を抱えていて、働くこともままならず、仮に追い出されたとしても行く先もない人たちです。精神面の問題を抱えているだけに、自殺に追い込まれる人も出かねないほど深刻な事態なのです。規制庁の官僚たちは、避難者が自殺してもそれは自分達の担当でないから関係ないとでもいうのでしょうか。彼らはいったい誰のため、なんのために官僚になったのでしょうか。国民を幸せにするためにではないのでしょうか。それとも福島県民や福島からの避難者は国民のなかに入っていないのでしょうか。だとしたら、彼らの考える国民とは誰のことなのでしょうか。ほんの一握りの安倍首相の友人でしょうか。ほんの1%の富裕層でしょうか。ここにいるひとりひとりみんな国民のはずです。重度身体障害の人でも国会議員になれる時代がきました。国民がのたれ死んでも自分達の管轄でないから知らないというなら、そんな人たちは今すぐ辞表を書き、官僚をやめるべきです。

 27日の土曜日には、福島原発神奈川訴訟原告団長の村田弘(ひろむ)さんとお会いしました。村田さんは、集会でのあいさつで、やはりこの避難者の住宅問題を取り上げました。「家賃を2倍に引き上げて、住宅から避難者を追い出す福島県のやり方は、地上げ屋、サラ金と同じだ」と怒りをあらわにしました。福島県のこうした強硬姿勢の背景に、オリンピックまでに避難者を消し去りたい安倍政権の強固な意思がある、とも指摘しました。私は、安倍政権だけでなく内堀知事も同じだと思います。福島「復興」の象徴として、せっかく聖火ランナーが浜通りを走るというときに、福島が放射能汚染で住めないから避難してきた、と主張する人たちが邪魔で邪魔で仕方ないのだと思います。オリンピックを成功させ、避難者を消し去るためなら犯罪以外は何でもする。それが安倍政権と福島県なのです。

 しかし、一方で村田さんは「避難者がいるという事実は絶対に消させない」と力強く決意を述べました。福島の原発被害という災厄は数百年続きます。オリンピックなどしょせん2週間そこらの夢にすぎず、夢からは遅かれ早かれ醒めるしかありません。私たちは、福島、沖縄という不都合な現実と向き合う以外にないのです。

 史上2番目に投票率の低かった参院選も終わりました。身体障害者の方が国会に登院しただけでニュースになること自体、日本の後進性を物語っています。多くの発展途上国でさえ、何年も前に通過したスタートラインに日本は今やっと立ったにすぎません。こんな国でオリンピックをやる資格があるかどうかが問われるべき局面ではないでしょうか。とはいえ長く暗いトンネルの向こうにほんの少し、光も見えてきたように思います。諦めずに頑張るしかないと思います。

190727村田弘さん(福島原発神奈川訴訟原告団長)挨拶 2019東京全交


190727飯舘村の方の歌 2019東京全交


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