安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

ストライキ決行中の業務スーパー2店舗を取材

2024-07-21 23:49:44 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に投稿した記事をそのまま掲載しています。)

店舗閉鎖に対抗する形で、昨年決行された西武池袋店のストライキは、小売業界としては実に61年ぶりということで、大きな社会的注目を集めました。「経営者によるどんな理不尽にも、解雇を恐れて黙って耐えなければならないのだ」という、日本人に染みついた奴隷根性を転換する一大事件だったと思います。

そして今回、エス・インターナショナル(「株式会社ケヒコ」)経営陣による会社財産の私的流用や偽装倒産攻撃に対抗して、北海道内の労働者がストライキに決起したという情報を聞き、こんな至近距離でこのような出来事が起きているなら、取材しない手はないと思い、21日、ストライキにより休業中の苫小牧市内2店舗(苫小牧店、苫小牧東店)を見てきました。

両店とも、照明が消された店内は無人で静まりかえっていました。労働者の姿もありませんでした。ただ、店舗裏面に回ってみると、大きな室外機が普段通り大きなうなり声をあげて動いていました。冷蔵品・冷凍品はいつでも営業再開できるように保存しておかなければならないので、考えてみれば当然のことです。

「月間特売」のチラシとスト決行中の張り紙が並んで張り出されていました。ストライキ期間は「7月18日(木)13:00~未定」と書かれており、組合側としても経営側との妥結の見通しは立っていないように見えました。



張り紙にはこのように書かれています。「現在、労働組合と会社側で労働争議が行われております。組合側は、代表取締役である菅井麻貴氏による会社資産の私的流用をやめさせ、経営陣による放漫経営の責任を問い、私たちの労働条件悪化を防ぐこと、雇用の安定を求めて闘っております。また菅井氏によるパワハラや不当労働行為に抗議しています。このまま放置すれば、私たち従業員の労働条件の悪化、さらには雇用も失われかねません。お客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解とご支援のほどよろしくお願い申し上げます。全国一般東京東部労働組合エス・インターナショナル支部」

市民・顧客の支持を得るため、きちんと自分たちの主張の正当性、経営側の不当性を張り紙で顧客に伝える組合側の姿勢には好感を持ちました。西武百貨店のストにも共通していますが、小売業界のストライキは利用客の支持を得られるかが重要な鍵を握っていると考えるからです。

経営者による会社財産の私的流用で、会社の経営状態は極限まで悪化しており、このまま座して見ていても死を待つだけ。それなら立ち上がって勝負に出るべきだというかなり切羽詰まった状況が今回のストライキの背景にあるように感じました。この点も西武百貨店のストライキと共通しています。市民・顧客からの支持は必ず得られるし、そうなるように訴えていくことも支援者の役割だと思います。

店舗閉鎖となっているのは、「業務スーパーすすきの狸小路店」「業務スーパー苫小牧店」「業務スーパー苫小牧東店」「業務スーパー室蘭店」「業務スーパー岩見沢店」「業務スーパー滝川店」「業務スーパー旭神店」の7店舗です。どの店舗もストライキの影響は大きいと思いますが、その中でも圧倒的に大きな影響を与えているのはすすきの狸小路店でしょう。いうまでもなく、業務スーパーがここに店舗を構えている理由は、日本三大歓楽街の1つといわれるすすきのの飲食店街に、良質な食材を大量に安く提供することです。

札幌一極集中が強まり、北海道中の若者を札幌が飲み込んでいく中、週末ともなると、すすきのは深夜0時を過ぎても若者の列が横断歩道を渡るため、車が右左折もできないほどです。巨大歓楽街の「夜間経済」を陰で支える業務スーパーすすきの狸小路店の閉店が長引けば、歓楽街へもじわじわと影響が及んでくるでしょう。

利潤獲得が目的の民間企業とはいえ、経済活動を担う企業は社会的存在です。そこにはルールがあり、資本主義経済の下では企業は私的に所有されていますが、私的な所有形態であることと経営者の私物であることは必ずしもイコールではありません。会社のカネを自分のカネのように思っている経営陣が退陣し、労働組合と労働者の望む形で早期に争議が収拾されることを、一道民として望みます。

(取材:文責/黒鉄好)

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【転載記事】東京東部労組:「業務スーパー」7店舗で無期限ストライキに突入!

2024-07-19 22:37:00 | その他社会・時事
経営者一族による会社資金の私的流用と、それを覆い隠す目的での「偽装倒産」を狙う会社側に対し、労働組合が無期限ストライキを行っている関係で、「業務スーパー」の北海道内の一部店舗が閉鎖されるという事態になっています。以下、レイバーネット日本からの転載です。

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東京東部労組:「業務スーパー」7店舗で無期限ストライキに突入!(レイバーネット日本)

全国一般東京東部労組の須田です。 以下、エス・インターナショナル支部の無期限ストライキ突入の報告です。

【東部労組エス・インターナショナル支部】「業務スーパー」7店舗で無期限ストライキに突入!

全国一般東京東部労組エス・インターナショナル支部は7月18日午後1時から、菅井麻貴社長らによる会社破産の策動に対抗し労働者の雇用を守らせるための無期限ストライキに突入しました。これによってエス・インターナショナルの子会社(株式会社ケヒコ)が北海道で運営している「業務スーパー」7店舗が臨時休業になりました。

ストライキによって休業になったのは「業務スーパーすすきの狸小路店」「業務スーパー苫小牧店」「業務スーパー苫小牧東店」「業務スーパー室蘭店」「業務スーパー岩見沢店 」「業務スーパー滝川店」「業務スーパー旭神店」の7店舗です。いずれも午前から営業中でしたが、午後1時を期して店舗入口に組合員が「ストライキ決行中」の貼り紙を掲示して休業となりました。

今回の無期限ストライキは前回6月29日に業務スーパー6店舗で決行した時限ストライキに続くものです。菅井社長は時限ストライキ後も自らの会社資産の私的流用などの放漫経営を反省しないどころか、会社弁護士と結託し会社の破産と労働者の解雇を策動しました 。組合側はすべての労働者の雇用継続を前提とする「自主再建」を要求しましたが、これに対しても社長が全面拒否する不誠実な対応を取ったため、組合は敢然と無期限ストライキに突入しました。

お客さまや関係各所の皆さまには大変ご迷惑をおかけしますが、すべての責任は上記のとおり経営陣の不誠実な対応にあることをぜひご理解ください。自らの私腹を肥やすために犯してきた様々な経営ミスを労働者になすりつけ、最後まで労働者の雇用と生活を犠牲にしようとしている菅井社長の策動をわたしたちは断じて許すわけにはいきません。

経営陣が誠意ある態度で解決を図るのであれば、ただちにストライキを解除する用意はありますが、経営陣が不誠実な対応を続けるのであれば、当労組も闘いを断固として継続していく決意です。

みなさんからの菅井社長への抗議ならびに組合へのご支援をよろしくお願いします!

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【管理人よりお知らせとお礼】目標額1000万円を達成しました。感謝!「ALPS処理汚染水を海に捨てないで!海洋投棄を止める活動にご支援を」クラウドファンディング

2024-07-18 23:36:22 | 原発問題/一般
当ブログでも呼びかけてきた「ALPS処理汚染水を海に捨てないで!海洋投棄を止める活動にご支援を」クラウドファンディングは、7/18(木)23:00に締め切られ、最終目標1000万円を達成しました。

汚染水放出を続ける政府・東京電力に、市民の反対の根強さを知らしめるという目的は十分果たせたと思います。

ご協力いただきました皆さんに、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。

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【転載記事】飛幡祐規 パリの窓から:フランスの総選挙 予測を覆した「新人民戦線」の勝利

2024-07-11 22:23:47 | その他社会・時事
パリ在住の日本人・飛幡祐規(たかはたゆうき)さんによるレイバーネットの名物連載「パリの窓から」で、フランス総選挙が取り上げられています。左翼「新人民戦線」が第1勢力に躍り出るという予想だにしなかった結果について、現地の目でレポート。

以下、全文を転載しますが、リンク先のレイバーネットには写真も豊富にアップされています。写真を含めてご覧になりたい方は、リンク先に飛んでください。

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飛幡祐規 パリの窓から:フランスの総選挙:予測を覆した「新人民戦線」の勝利(レイバーネット日本)

 7月7日の夜、フランス各地で歓声が上がった。総選挙の決選投票の結果、すべてのメディアと世論調査の予測を覆し、左派連合の新人民戦線NFPが1位(議席数)を獲得したのだ。マクロン与党連合が2位、第1回投票で得票率1位になった国民連合RN(と保守共和党一部の共闘)は3位にとどまり、極右による政権掌握は免れた。「極右を通すな」と奮起した左派の市民の呼びかけと行動が実を結び、フランス民主主義の一大危機はしばらくのあいだ遠ざかったのだ。50年生きたフランスで最も嬉しくほっとした瞬間だった。

 577議席のうち新人民戦線は182、マクロン与党は163、極右は143、その他に保守共和党、少数派候補がいるので、最終的な力関係はまだ定かでない。前回2022年の国会でもマクロン与党は過半数をとれなかったが、今回はさらに大幅に後退し、三つの陣営のうち左派と極右が議席を伸ばした。この状況でどのような政府を組織できるのか、現時点ではわからない。

極右を阻んだ市民

 投票率は67%で近年では記録的に高い。第五共和政下(1958年以来)の最初の30年間、フランスの国民議会選挙の投票率は7〜8割に及ぶほどフランス人は政治的国民と言われてきたのだが、1980年代の末から棄権が増え続け、マクロン大統領が当選した2017年以降はなんと過半数が棄権するようになっていた。棄権の増加は、ネオリベラル経済政策が進行した時期と重なる現象である点に注目したい。左翼が保守とほとんど変わらないネオリベ政策を行うと、「右も左も変わらない、暮らしは悪くなった」「政治(家)に期待しても無駄」という政治不信と諦めが、庶民階層(労働者や低所得従業員、失業者の層)に広がるのだろう。ところが、今回の電撃総選挙の第1回投票で2割近くも投票率が増えたのには、何か変えたい(マクロン政治への拒否、制裁)という国民の意思が表されている。マクロン与党の大幅な後退は、6月9日の欧州議会選挙でも示されていた(投票率は51,5%だが近年では高い)。

 501議席がたたかわれた決選投票も高い投票率だった。左派の市民は「極右を通すな」と呼びかけ、集会を催し、これまで政治活動をしたことがなかった人たち(とりわけ若い層)が大勢、ビラ配りや戸別訪問など選挙キャンペーンに参加した(前回のコラム参照)。また、マクロン与党陣営でも、極右を脅威だと考える人たちは投票所に出向いた。前回述べたように、極右に対抗するために、国民連合が1位になった選挙区で、次点ではなく3位になった新人民戦線の候補は(決選投票を闘う権利はあるが)候補を取り下げた(全部で132人)。マクロン陣営では「極右と極左の双方を拒む」という立場から退くのを拒んだ候補もいたため、取り下げたのは82人だった。三候補者による選挙区が89に減り、二候補一騎打ちが409選挙区に増えた状況で、この戦術のおかげで極右の議席の大幅な増加が抑えられた。同時に、マクロン陣営も左派の取り下げのおかげで、多くの議席を確保できたのである(それがなければ50議席以下だったと推算されている)。

 選挙後の世論調査によると、新人民戦線の支持者は極右を阻むために、支持しないマクロン陣営の候補に72%が投票した(極右には3%)。それに対し、マクロン陣営支持者は候補者が「服従しないフランスLFI」以外のNFP候補の場合は54%(極右に15%)、LFIの候補には43%(極右に19%)が投票し、極右を阻もうという意識がより低いことがわかる。保守の共和党支持者ではさらに低く、LFI以外のNFP候補に29%(極右に34%)、LFIの候補者には26%(極右に38%)だった。つまり、左派の市民は極右を堰きとめる役割をかなり忠実に果たしたが、マクロン陣営では15〜19%が極右を選び、その割合は保守では3分の1を超え、左派より極右を選ぶ人が優勢だった。

 それにもかかわらず、マクロン陣営やメディアは早速、新人民戦線は過半数を取ったわけではないから政府を任せるわけにはいかないというシナリオを展開している。NFPの右派(社会党内など)の人を引き抜き、共和党からも少し引き抜いて、マクロン陣営中心の「大連立」政府をつくるアイデアだ。ドイツなど他のヨーロッパの国では、互いに相容れない政党も含む複数の党で連立政府をつくることがあるが、フランスの第五共和政でその例はない。欧米の主要メディアは、フランスの政治状況は今後不安定さが続くだろうと推測している。一方、新人民戦線は選挙で1位になったから政権に就くのが当然だと主張。短期、中期、長期に分けて支出とその融資方法も考えた政策プログラムがあるから、すぐに政府をつくれると指摘する。選挙の翌日の7月8日、アタル首相は辞任を提出したが、マクロンは次の政府が成立するまで現政府を続行することに決めた。

極右の浸透を招いたメディア

 この歴史的な選挙に居合わせて、極右勢力の増長に主要メディア(とりわけ極右の億万長者ボロレが所有する24時間テレビ、ラジオ、新聞・雑誌)と世論調査がいかに寄与したかを痛感した。ジャン=マリー・ルペン(マリーヌの父)が1972年に創始した「国民戦線FN」(2018年から「国民連合RN」に変名)が唱える排外主義と差別思想(すべての悪は移民・外国人のせい)は、1980年代半ばからしだいに社会に浸透していった。マリーヌ・ルペンが大統領選に出馬した2012年以降は、彼女が父親ほど極端な言い方をしなくなったからと、多くのメディアはこの極右政党(ナチスとヴィシー政権協力者を創立メンバーに含み、国務院も「極右」と認定している)をしだいに普通の政党のように扱うようになった。

 なかでも、ボロレが所有する24時間テレビCNews, C8などでは反移民・反イスラムの差別的発言を頻発するジャーナリストのゼムール(後に政党を作って2022年の大統領選に出馬)をはじめ、多くのコメンテーターが反移民の差別的言説を四六時中述べるようになった。とりわけ2015年のイスラム過激派による連続テロ以降は、移民が多い地区でイスラム原理主義の影響が増大しているという「やらせ」ルポなども作られ、国内のイスラム教徒を原理主義者やテロリストと混同して疑い、移民系フランス人を敵視する論調が主要メディアにも広がった。オランド社会党政権とマクロン政権はこの風潮に呑まれたかのように、たとえば移民系の若者たちが頻繁に受ける警察の不当な暴力に対して公平に対処せず、マクロンは差別的な治安法と移民法まで可決させた。

 国民連合を支持する人に話を聞くと、「テレビで見た、聞いた」と言う。そしてRNの政策内容は知らず(難民・移民への援助金をやめ、追い出すこと以外は)、時には候補者が誰かも知らないが、彼らに投票すれば「変わる」と言う。RNが国会で最低賃金の引き上げに反対票を投じたと指摘しても、「外国人や働かない人を援助しなければ暮らしはよくなる」と思っている。経済学者のステファノ・パロンバリーニによれば、フランスでもここ40年来、ネオリベラル思想が支配的になったため、労働者層の人にも社会の進歩(公平なより良い社会)を信じず、「企業(会社)」は階級闘争の場ではなく競争力が重要だと思う人が増えた。彼らに向けて極右は庶民層を分断し、「フランス人のあなたを安全に守ってあげる、移民・難民、イスラム教徒への援助をやめればあなたの税金を減らせる」と語りかけるのだとパロンバリーニ言う。そして、この間違った論理を受け入れる人には差別意識があると指摘する。フランス社会に構造的なレイシズムは昔からあったが、かつては人前で差別発言をすることは憚れた。近年の現象は、ボロレ所有のテレビなどで平気で言う人が増えたので、開き直るようになったことだと。

 極右は欧州議会選挙以来、ブルジョワ陣営にも支持者を獲得した。マクロンの政治のやり方がひどくて人気を失い、弱体化したのを感じたブルジョワ陣営にとって、ネオリベラル政策との決別を掲げる左派(新人民戦線とくに服従しないフランス)は増税をもたらすから危険なため、ネオリベ政策にもEUにも反対しなくなった極右に投票する人が出てきたのだ。

 国民連合(共闘した共和党含む)は今回の選挙で55議席も増やしたが、577人の候補者のうちレイシズム、LGBT差別発言、暴力、陰謀説などの問題がある人が100人以上もいることが、極右取材専門のジャーナリストたちと市民の協力によって判明した(多くは落選)。これまでも差別発言をしたRNの議員がいたが、メディアはそれを特に重大な問題としては報道しなかった。その一方、服従しないフランスのメランションや議員、候補についての事実無根の中傷やデマ(反ユダヤ主義、テロリズム誘発、プーチン支持など)を多くの政治家やジャーナリストが検証せずに語り、訂正もされない。これまで2件、メランションに対する暗殺計画が未遂に終わり、極右の首謀者2人は9年と18年の有罪になったが、それも大きなニュースにはならなかった。現在もLFIの議員複数が極右から脅迫を受け続けている。極右の暴力や差別主義を大目にみる一方で、「ネオリベラル政策との決別」を掲げる左派勢力を不当に悪く言い続ける状況は、民主主義にとってとても危ういものに感じられる。

 新国会は7月9日に開催されたが、マクロンは新人民戦線の勝利をいまだ認めず、この陣営から首相を選ぶことを拒否している。市民が発揮しためざましい民主主義のほとばしりが踏みにじられずに、新人民戦線政府が誕生することを願う。

・コラム第91回 欧州議会選挙での極右の勝利とフランスの「新人民戦線」
・コラム第92回 フランスの総選挙前夜:極右による権力掌握の危機に対抗する「新人民戦線」の希望
・コラム第93回 フランスの総選挙決選投票前夜:極右、新人民戦線、マクロン陣営

服従しないフランスの政策プログラムの日本語訳『共同の未来 <民衆連合>のためのプログラム』がもうすぐ出版されます。

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【転載記事】国連人権理事会「ビジネスと人権に関する作業部会」報告書の日本語仮訳が公開されました

2024-07-08 23:00:08 | その他社会・時事
管理人よりお知らせです。

国連人権理事会「⼈権及び多国籍企業並びにその他の企業の問題に関する作業部会」(通称:ビジネスと人権作業部会)は、これまで特別報告者による訪日調査などを行い、日本企業のビジネスと人権に関する実態を明らかにする作業を続けてきました。

この問題については、国連や、日本国内の人権団体が問題にしたかったのとはまったく異なる方向から注目を浴びました。その経緯を含め、当ブログでは過去に一度、取り上げています(当ブログ2023年9月22日付け記事「問題は本当にジャニーズだけか? 日本企業に「行動変容」迫る「ビジネスと人権」の大波」参照)。

この作業部会の報告書がこのほどまとまり、国連ホームページに英語で公表されました。人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」関係者による日本語仮訳が同団体のホームページに掲載されましたので、ご紹介します。

なお、当ブログの文字数制限を超えるおそれがあるため、全文の転載はしません。見たい方は、「ヒューマンライツ・ナウ」ホームページの該当コンテンツへ、直接飛んでください。

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<地方交通に未来を(17)>国鉄末期に似てきたJR~断末魔が聞こえる

2024-07-06 22:58:07 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が長野県大鹿村のリニア建設反対住民団体「大鹿の十年先を変える会」会報「越路」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 コロナ禍以降、JR各社の「迷走」が深まっている。それが最も加速しているのはかつて「ガリバー」ともてはやされた東日本だ。特に、朝夕のラッシュ時間帯に京葉線の通勤快速・快速すべてを各駅停車に格下げする今年3月のダイヤ改悪は千葉県内を中心に猛烈な反発を呼んだ。蘇我~東京間の場合、改悪前のダイヤなら快速で42分で到達していたのが、55分かかるようになる。たかが13分、されど13分。朝の13分は貴重な時間だし、通勤通学客にとっては1週間に5日も使うのだ。1年間で見ると「累積損失時間」は計り知れない。沿線自治体が相次いでダイヤ「改正」を見直すよう申し入れる事態に発展。結局、東日本は快速の一部を存続させる妥協策に踏み切らざるを得なかった。

 これ以上に深刻だったのは「みどりの窓口」削減だ。東日本の深沢祐二社長(当時。現・会長)は2021年5月の記者会見で、2025年までにみどりの窓口を7割減らすと表明していた(念のため強調しておくが、7割「に」減らすのではない。7割減らす、つまり3割しか残らないということだ)。コロナ禍後に乗客のほとんどが「戻る」と予想してローカル線も窓口も減らさない方針を表明した東海と対照的に、乗客は完全には戻らないとの予測を基に、東日本は急ピッチで窓口削減を行った。

 ところが、東日本の予想に反して通勤通学客、インバウンドとも急激に戻ってきたことで歯車が狂い始めた。東京都産業労働局調査によれば、2024年3月時点でも都内での在宅勤務(テレワーク)実施率は36%もある。東日本はこうしたことを根拠に窓口削減に踏み切ったのかもしれない。だが、そもそも従業員数10万人の大企業で、1人の社員が1年間で1日の在宅勤務をするだけでも「実施している」と回答できるような調査が、鉄道会社が通勤通学客の実態を把握する上でまったく意味を持たないことは言うまでもない。

 鉄道の利用実態は、窓口での乗車券類発売装置「マルス」や自動改札機のSuica読み取りデータを集計すればわかるはずだ。前述した都産業労働局調査でも、在宅勤務実施者の4分の1は「テレハーフ」(半日在宅、半日出社)や時間単位テレワークであることも示されている。通勤通学客は東日本が思っている以上に回復しているが、それでも東日本が窓口削減をやめないのは、マルスやSuicaのデータすらまともに確認していないか、一度決めたことを変更すれば責任を問われるから、データを見てわかっていても変えられない(俗に言う「謝ったら死ぬ病」)かのいずれかだが、私は後者の可能性が高いと思っている。

 みどりの窓口の混乱がピークに達したのは3月下旬~4月上旬だった。そうでなくとも年末年始・お盆に次ぐ再繁忙期である。新年度開始で通勤・通学を始める人が増えるが、券売機でも買える継続定期券と異なり、新規は窓口でないと買えないことが多い。また、国鉄時代からのルールで指定券類は「乗車日の前月の同じ日」(例えば、5月3日乗車分の指定券類は4月3日)から発売されるため、5月大型連休の指定券類も発売開始となるからだ。回復したインバウンドまで加わり、都内では窓口で2~3時間待ちも常態化。長蛇の列の中から怒号が飛び交うなど不穏な空気が流れた駅もある。明らかに利用客の不満は頂点に達していた。

 結局、大型連休明けの5月8日、東日本は窓口削減の「一時凍結」表明に追い込まれた。JRの経営を支えているのは日本語のわからないインバウンドと機械操作に不慣れな高齢者だ。窓口需要は今後増えることはあっても減ることはなく、むしろ拡充すべきだろう。

 北海道でも、3月「改正」で札幌~旭川間の「カムイ」「ライラック」を除くすべての特急で自由席が廃止、全車指定席化となった。同時に、割引率の高かった「自由席往復割引きっぷ」も廃止となった。JR北海道は、インターネットでの事前予約で指定席が割引になる「えきねっと」を盛んに宣伝しているが、会社の出張等では行きの時刻は予測できても帰りの時刻は予測できないことが多い。それに、お葬式など急に利用せざるを得ないことだってある。急用の時でも、駅に行けば割引切符でふらりと乗れる鉄道のメリットも、高速バスなど競合交通機関との間の競争力も投げ捨ててしまった。今、道内の特急は混んでいる列車とガラガラの列車の差が拡大。全体的に見てもJR離れが加速している。

 利用客のニーズをきちんと把握せず、利用客本位の営業施策を打てないJRを批判する声がこの間、目立っている。だが私は事態はもっと本質的なところにあると思っている。そもそもJRの営業規則類は旧国鉄が制定したものを継承しており、全国ネットワークとしての鉄道網をいかに乗りやすくするかに主眼が置かれている。窓口を訪れる乗客のニーズに合わせて、駅係員が頭の中に乗車経路をイメージしながら、最適な乗車券類を提案・販売できるようにするためのもので、駅係員が理解していれば乗客は知らなくてもすむことが前提になっている。

 私は、鉄道専門の書店で数年に一度、関係者向けに販売されているJRの営業規則の冊子を購入することがあるが、その厚さは5cmを超えており、最初は「広辞苑」かと思ったほどだ。それだけ複雑で、駅係員でさえ全貌を理解しているか怪しい切符のルールの根本部分に手を着けないまま「乗りたければ自分でルールと経路を理解し、自分で券売機を操作せよ」というのだ。いわば乗客に「マルス」の操作をさせるに等しく、大混乱が起きない方がおかしい。

 「この際、運賃・料金を一本化して、飛行機のような『全部込み』で単純明快な料金体系にすればいい」などと主張する「自称鉄道専門家」も一部に見られるが、私はそのような運賃料金制度には反対だ。陸上交通機関である鉄道は面的な全国ネットワークを持っており、飛行機のような点と点とを直線で結ぶ交通機関とは違う。旧国鉄が残してくれた、全国ネットワークに適した運賃料金制度を今後も維持すべきだ。新幹線と在来線、幹線とローカル線を乗り継ぎながらどこにでも便利に行ける利点を活かした営業施策こそが求められる。新幹線や特急の停車する駅間だけを運賃・料金セットで割り引き、ローカル線に乗り継げば逆に高くなるような「えきねっとトクだ値」サービスは間違っている。私は、ローカル線衰退の一因は「えきねっとトクだ値」サービスにもあると思っている。

 JRという名を冠すれば「いくらでも叩いていい」という風潮が、このところメディアの間に出てきている。特に、ローカル線廃止やみどりの窓口削減問題に関しては、これまで国鉄分割民営化に好意的だった読売・産経・新潮などのメディアが厳しい批判に転じていることも潮目の変化を物語っており、JR各社にとって誤算だったに違いない。

 右からも左からも「袋叩き」状態のJRはこの点でも次第に国鉄末期に似てきたように思う。今、私の耳にはJRの「断末魔」がはっきりと聞こえている。

(2024年6月28日)

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〔週刊 本の発見〕『JRは生まれ変われるか~国鉄改革の功罪』

2024-07-04 22:49:49 | 書評・本の紹介
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」の書評コーナー「週刊 本の発見」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)

【週刊 本の発見】JRのこれまでとこれからを読者とともに考える本
『JRは生まれ変われるか~国鉄改革の功罪』(読売新聞経済部・編、中央公論新社、本体1,800円、2023年10月)評者:黒鉄好


 日本で最初の鉄道が開業してから150年の節目を迎えた2022年、新型コロナ禍で日本の鉄道は一気に苦境に陥った。日本の鉄道の歴史的転機になると見た読売新聞社は独自取材班を編成。2022年7月から紙面連載した「JR考」を再編集したのが本書だ。

 最も読み応えのある場所はどこかと聞かれたら、最初と最後だと答えたい。第1章「限界~公共交通機関のジレンマ」では、いきなり旧運輸省「機密文書」をあぶり出す。「取扱注意」の印が押された「国鉄改革の記録」だ。国鉄分割民営化3年後の1990年、運輸官僚によって作成され、ごく一部の関係者にだけ配られた。「分割民営化は地方ローカル線の廃止に拍車をかけることになるのではないか」――バブル経済に乗って世間がJRを順風満帆だと思っていたこの時点で、一部運輸官僚はすでに今日の事態を予見していたのだ。

 第10章の後ろに付け加えるように置かれた「番外編 予算編成」も読み応えがある。2023年に施行された「改正」地域公共交通活性化再生法を踏まえ、JRローカル線「再構築事業」に国の予算を投入できるようにしたい国交省と、その阻止をもくろむ財務省の攻防が描かれている。最終的には、新たな財政支出を求めず、国交省内部で旧運輸省関係公共事業から鉄道へ、予算配分を変更することで決着した。

 第1章から第3章「民営化の光と影」までは、旧国鉄時代から分割民営化して現在までの歴史をたどる。第3章では北海道、四国、九州の3島会社に用意された経営安定基金が、北海道、四国で低金利のため赤字補てん用として機能しなくなった「誤算」を描くが、分割民営化のスキーム自体には踏み込んでおらず、物足りない。そこにはやはり分割民営化を推進してきた読売というメディアの限界も見える。

 第4章「新幹線」、第5章「在来線」では、佐賀県の反対で工事が暗礁に乗り上げた西九州新幹線や、災害から復旧しないまま廃線となったローカル線の実例を挙げ、在来線の上下分離や交通税導入など「次代にふさわしい鉄道像の描き直し」(本書P.123)を求める。

 本州3社と貨物の4社に1章ずつを割く一方、3島会社がまとめて1章で扱われている点には疑問がある。本州3社にもさまざまな問題があることはわかっているが、3島にこそJRの問題は凝縮しているのだ。6社それぞれに1章を割く丁寧さがほしかったと思う。

 取材班のほとんどが国鉄時代を知らない記者という状況で、歴史的経過含め、全体としてはよく取材して書いている。「JR考」が紙面連載された2022年頃を境に、それまで国鉄分割民営化に好意的だった読売、産経、新潮などのJRに対する視線が厳しさを増している。ローカル線問題の浮上を契機とした精力的な取材を通じて、JRの実態が想像以上に酷いことを各社が知ったからだろう。

 本書は、そのタイトルと裏腹に、JRが生まれ変わるための解決策は示していない。だが、問題の深刻さに気づいた結果だとすれば、私はむしろそれを誠実な姿勢として評価したい。JR問題に人生の大半を捧げてきた私ですら最適解はいまだに見いだせていないのに、半年程度の取材で知ったような顔をされては逆に本気なのかと疑いたくなるからだ。問題点は十分洗い出せているので、解決策は本書を手に日本社会全体で考えればいい。

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衰退・凋落加速する日本 反転攻勢の目はあるか?

2024-06-30 22:37:55 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2024年7月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ●混迷都知事選は凋落の象徴

 東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)がかつてない混迷の中にある。本誌が読者諸氏のお手元に届く頃はちょうど選挙運動も終盤に入っていると思う。立候補者は過去最高の56人に上るものの、その9割以上は政策実現のためでも「選良」を目指すためでもない。

 公営掲示板のポスター枠を売買する政治団体や、公序良俗に反する卑わいなポスターを貼り出し、都選管から注意を受け即日はがした陣営さえある。これがG7の一員である日本の首都で起きている出来事だとは思いたくもない。目を覆わんばかりの惨状だ。

 「迷惑系ユーチューバー」として悪名を馳せた「へずまりゅう」氏でさえ、宣言していた立候補を取りやめ、恐れをなして撤退したところを見ると、もはや都知事選は「売名」の場としてすらまったく機能していない。市民には重い負担を課しながら、自分たちだけ裏金をつくって私腹を肥やす政治にはもはや何を言っても無駄、それなら徹底的に選挙を荒らして憂さ晴らしでもしようという「終末思想」が都知事選全体の通奏低音になっていると言っても決して過言ではない。

 泡沫候補の大量立候補に伴い、供託金の没収額も1億円を超え過去最高になりそうだとする報道もある。都知事選の供託金は300万円。法定得票数(有効投票数の1割)を確実に超えられそうなのは、現職・小池百合子知事の他、最有力対抗馬・蓮舫前参院議員(立候補に伴い参院議員を失職)、石丸伸二・前広島県安芸高田市長まで。田母神俊雄・元航空幕僚長にも法定得票数突破の可能性があるが、残る52人にはまずない。仮に52人が供託金没収となる場合、その額は1億5600万円にもなる。

 ●円安ドル高の背景にあるもの――思い出した「杜海樹さんの昔のコラム」

 政治、経済、社会、あらゆる分野で日本の凋落が加速している。特に、外国為替市場の円安ドル高は円の「全面崩壊」と形容できるほどの状況にある。2020年6月1日時点で1ドル=107円92銭だった為替市場は、1年後の2021年6月1日時点でも111円10銭とほとんど下落しなかったが、2021年以降は急速に下落が加速。2022年6月1日には135円73銭と約2割も下落した。さらに、2023年6月1日には144円32銭(対前年同月比6%下落)、2024年6月1日にはついに159円79銭と、対前年度比で1割、2021年6月1日時点との比較では31%も下落した。わずか3年間でこれだけの下落率である。

 円相場は、2024年1月1日時点では146円88銭だったから、今年に入ってからの5ヶ月間で8%も下落したことになる(ここまで、いずれも終値)。下半期もこのペースで円安ドル高が進んだ場合、今年の年末には年始から16%も円が下落することになる。食料・エネルギーの大半を輸入に頼る日本でこれだけ急激な円安ドル高が進めば、経済がおかしくなって当然だ。

 本誌のバックナンバーを保管している読者諸氏に、ぜひ読み返していただきたい記事がある。2021年4月号掲載の杜海樹さんのコラム「通貨の相対的価値という問題」だ。日経平均株価がバブル期を上回る4万円台をつけるなど(この記事掲載の段階では4万円台はまだ記録していなかったが)、記録的に進んでいる株高について、多くのエコノミストが「株が高くなったのではなく日本の通貨が相対的に下落した結果」だと指摘しているというもので、興味深く読んだ。

 経済を専門に学習していない読者にとっては、もう少し詳しい説明が必要かもしれない。そもそも「物価とは何か」と聞かれたら、皆さんはなんと答えるだろうか。経済学の教科書的に言えば物価とは「通貨と財・サービスの交換価値」のことをいう。一般的に、企業の価値は株式会社の場合、株価で示されるが、実体経済の中で企業の価値は変わらないのに通貨の価値が下落しているなら、その企業の価値を表す株価には、通貨が下落した分だけ以前より高い数字を使わなければならなくなる。要するに、起きているのは円安ドル高と同じ「円安株高」現象だというのが「杜海樹説」のポイントである。3年前は「まあ、そういう説もあるよね」的な感覚で、私も正直なところ半信半疑だった。今になって改めて記事を読み返してみると、この説が正しかったことが浮き彫りになる。

 今年5月の大型連休中、東京・高島屋で開催された金製品の展示会会場から金の茶碗が盗まれる事件が世間を騒がせた。その他にも、外国人を中心とする窃盗団による高級時計盗難事件などが報道されている。強盗犯や窃盗犯のほとんどが「物」を盗む一方で、最近は現金が盗まれる犯罪がほとんど報道されていないことにお気づきの読者もいるかもしれない。

 こんな話をすると驚かれるかもしれないが、実は、経済のことを最もよく勉強しているのは強盗、窃盗、詐欺などの犯罪を働く集団である。これらの人々にとっては、逮捕・服役などのハイリスクを取ってまで行動に踏み切る以上、ハイリターンでなければ割に合わないから、何を盗むのが最も費用対効果が高いかを「熱心に勉強」しているのである。そうした犯罪集団にとって、1年で8%、3年で3割も価値が下落する日本円のような現金はハイリスクを取ってまで盗む価値もないというのが実感なのだろう。これに対して、財物の価値は変わらないから、現金の価値が下落トレンドにあるときは、財物を盗む方が「割に合う」のである(投機筋の間では「有事の金」と言われ、戦争などの有事には金の価格が上がることが多い。しかし厳密にいうと、金は、量も財物としての価値も常に不変だから、実際には金が上がっているのではなく、通貨のほうが下がっているのである)。要するに、現金ではなく財物が盗まれるのは、政府が与えた通貨の信認が低下していることを示しており、「途上国型」の犯罪なのだ。

 こうした事実を裏付けるように、今年に入ってからこの問題を特集する経済専門紙誌が増えている。例えば、週刊「エコノミスト」2024年6月4日号「円弱~国際収支の大変貌を追う」と題する特集記事では、途上国化する日本経済に警告を発している。日本経済は現在、年間5兆円近いデジタル赤字を、同じく年間5兆円近いインバウンド(海外からの訪日客)消費の黒字で埋める構造になっているというのだ。

 デジタル赤字とは、日本が海外から受け取るデジタル部門での稼ぎから、海外に対するデジタル部門での支払額を差し引いた収支のマイナスのことをいう。日本人が使っているインターネットサービス(特にSNS=ソーシャル・ネットワーク・サービス)は、X(旧ツイッター)、Amazon、Facebookなどほとんど米国製であり、これらサービスからの課金を日本人がオンラインで支払うたびに、日本から米国へ資金が流出している。日本人が使うその他のデジタルサービスを見ても、LINEは韓国発、若者に人気のショート動画投稿サービス「tiktok」は中国発のサービスであり、中韓両国へも資金が流出している。これに対し、日本製のデジタルサービスで海外から利用されるものはほとんどないから、収支が大幅なマイナスになっているのである。

 一方、インバウンド消費についても説明が必要だろう。海外からの訪日観光客が日本国内で買い物をし、それを自国に持ち帰る場合、貿易統計上は輸出として取り扱われる。こうした行為は、それが観光客個人によって行われる点が違うだけで、日本企業が、例えば車や電気製品などを海外へ輸出し、海外から代金を受け取る行為と変わらないから輸出に当たるのだ。この「観光収支」が日本は大幅な黒字になっており、デジタル赤字の大部分をここから埋めることができているという。

 日本は、デジタル時代への対応が大幅に遅れ「デジタル敗戦」ともいわれる現状を招くに至った。日本経済は、デジタルでの赤字を、インバウンドに対する「おもてなし」というアナログで稼いで埋める経済構造になっている。目下の円安ドル高は、このような日本経済の構造的要因から発生しているため、一時的な現象ではなく長期的な(おそらく数十年スパンの)トレンドとなる可能性が高い。

 「エコノミスト」誌は、「デジタル赤字を前提にどう稼ぐか」を議論しなければならないとする専門家の発言を掲載しており、日本がデジタル敗戦から脱出する道は描けていないようだ。新型コロナが猛威を振るっていた2020年当時、台湾政府が閣僚に任命したオードリー・タン氏がデジタルを活用して迅速な対策を打ち出したのに対し、日本はコロナ感染者数を医療機関から保健所にFAXで送付する態勢を続け大きな批判を浴びた。日本がデジタル敗戦から復活できるようには、私にはとても見えない。

 ●人心荒廃で日本はどこに行く?

 経済の凋落も深刻ではあるが、目下の日本にとってそれ以上に深刻なのは人心荒廃なのではないだろうか。店舗従業員や鉄道の駅員など、反論権のない相手を見つけ出しては長時間、執拗なクレームを続ける「カスタマーハラスメント」はその最たるものだろう。それだけのエネルギーがあるならなぜ政府・自民党・経団連など「上」に向けないのか。

 愚かな行動を取る層は昔から一定数存在していたが、最近、そうした事例が騒ぎになる原因として、インターネット普及で誰もが発信者になれる時代が到来したという側面はあるかもしれない。しかし、そうした発信者たちが集会、デモなどの「発信」に務めている姿は見たことがない。発信の対象になるのはあくまで個人的で、どうでもいい「私怨」のような事例ばかりだ。インターネットは、むしろ政府や権力者に異議を唱える人々に対するバッシング以外には使われなくなりつつある。

 歴史家・半藤一利氏(2021年没)は、欧米列強が江戸幕府に開国を迫った1865年を起点として、日本は40年周期で興亡を繰り返すとする説を唱えた。日露戦争に勝利し日本が列強の仲間入りをした1905年を頂点、敗戦の1945年を底とし、バブル経済を直前に控えた1985年を頂点とした。半藤説が正しければ、来年、2025年は日本にとって1945年に匹敵する「どん底」となる。

 もちろん日本史は世界史と連動しており、ウクライナ・ガザで2つの戦争が同時進行する世界には確かに終末感がある。このような「底」から這い上がるために、日本は社会、経済の両面で何をすべきか。経済に限っていえば、インバウンドへの「おもてなし」以外の新たな有力産業を育成することは急務だろう。問題は、その有力産業の候補が思い当たらないことである。当面は「おもてなし」を続ける以外になさそうだ。

(2024年6月23日)

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航空管制官、増員へ 安全問題研究会の問題提起実る

2024-06-25 21:03:13 | 鉄道・公共交通/安全問題
羽田空港衝突事故、再発防止策を正式公表 滑走路誤進入に警報音(毎日)

 東京・羽田空港で今年1月に日本航空(JAL)と海上保安庁の航空機が衝突した事故を巡り、国土交通省の対策検討委員会は24日、再発防止策の中間まとめを正式に公表した。滑走路への誤進入を知らせる警報音の導入や、管制官の増員など、ハードとソフトの両面から対策を進め、総合的に事故の防止を図る。

 航空安全の専門家らで作る検討委は中間まとめで、滑走路での衝突事故の多くは管制官やパイロットの思い込みや言い間違いなどに起因する誤進入によって起きていると指摘。ヒューマンエラー(人的ミス)が事故につながらないよう多重の対策を求めた。

 事故では1月2日夜、離陸のためC滑走路に進入した海保機に、着陸してきたJAL機が衝突。JALの乗員乗客は全員脱出したが、海保機では機長を除く5人が死亡した。

 海保機は管制の許可を得ず滑走路へ進んでいたが、管制官は気付かなかったとみられている。現在のシステムでは、管制官の手元のモニター画面に誤進入が表示されるが、検討委は警報音も追加するよう求めた。

 また、滑走路担当の管制官が監視業務に専念できるよう、主要空港には離着陸の調整を担当する管制官を新たに配置。管制官の中途採用を進め、欠員の解消を図る。

 航空機が離着陸する際に、滑走路へ入ろうとする別の機体に警告する「滑走路状態表示灯(RWSL)」についても、拡大する方針。現在は伊丹や羽田など5空港(代替設備を含む)で、滑走路を航空機が横切る場所を中心に整備しているが、今後は全国主要8空港へ広げる。

 一方、羽田の事故では、管制官が離陸順1番目であることを意味する「ナンバーワン」という言葉を伝え、海保機側が離陸許可を得たと勘違いした可能性が指摘されている。国交省は事故後、離陸順を伝えないようにしていたが、パイロット側から要望があるため、伝達の再開を検討する。

 国交省は運輸安全委員会による調査結果が出た後、最終まとめを出す方針。斉藤鉄夫国交相は24日、記者団に対し、岸田文雄首相から管制官増員などの対策を指示されたと明かし、「夏の繁忙期前までにしっかりとした体制を組みたい」と述べた。【原田啓之、安部志帆子】
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航空管制官の増員の可能性が出てきた。安全問題研究会がすでに徹底追及してきたとおり、国交省はこれまで航空機の発着回数が増えているにもかかわらず、一貫して航空管制官を減員してきた。それが事故の直接的原因ではないとしても、背景要因の1つであることは明らかだった。

特に、事故直後に相次いで掲載した記事「羽田衝突事故は羽田空港の強引な過密化による人災だ」(当ブログ2024.1.5レイバーネット2024.1.8)及び、「【羽田衝突事故 続報】航空機数は右肩上がり、管制官数は右肩下がり 日本の空を危険にさらした国交省の責任を追及せよ」(当ブログ2024.1.8レイバーネット2024.1.9)には強烈な反応があった。

安全問題研究会がレイバーネットに記事を連載してから、一般メディアが遅れてこの問題を報道し始めた。東京上空の過密化を指摘した記事「羽田事故背景に「過密ダイヤ」指摘も 世界3位の発着1分に1・5機」を産経ニュースが配信したのは1月9日。管制官不足問題を伝える記事「羽田で5人死亡の航空機事故、国交労組「人手不足で安全保てない」...遠因の指摘も」を「弁護士JPニュース」が配信したのは1月18日。「「ミスに気づいても指摘する余裕ない」…羽田事故の再発危機!現役管制官が激白「人員不足でもう限界」」を「フライデー」が配信したのは2月29日。いずれも当ブログ・安全問題研究会のほうが圧倒的に早く、初期の報道合戦は内容、スピードともに当研究会の圧勝だった。羽田事故後、管制官問題を世界で最初に報じたのは当ブログ・安全問題研究会だという自負を今でも持っている。

この間、2月6日には、国交省職員で作る労働組合、国土交通労働組合が記者会見し、航空管制官増員を求める声明を発表するなどの動きもあった(参考:当ブログ2月7日記事)。

一方、国交省は、航空局に「羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会」を設置して対策案を検討してきたが、今回、5回にわたる審議の結果、中間とりまとめが公表された。(概要版本文)。

中間とりまとめでは、航空管制官増員の必要性について、以下の通り述べている(「羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会中間取りまとめ」15ページより)。

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3.管制業務の実施体制の強化

 飛行場管制では、現在、航空機の離着陸等に関する管制指示等を管制官が発出することで、高密度な運航を実現しているが、今後、航空需要の増加により離着陸回数が更に増加すれば、ヒューマンエラーによる滑走路誤進入のリスクが増大することも考えられる。

 このため、管制業務の実施体制に関して、以下の対策を講じる必要がある。

(1)管制官の人的体制の強化・拡充

 飛行場管制担当は、外部監視、パイロット等との交信、システム操作・入力に加え、関係管制官との調整業務も行うなど、常にマルチタスクの状態にある。このため、飛行場管制担当の基本業務である外部監視等への更なる注力が可能となるよう、管制業務を詳細に分析し、管制官の業務分担を見直した上で、関係管制官との調整業務を専属で行う「離着陸調整担当」を、主要空港に新設することを検討すべきである。

 また、羽田空港等においては、これまでも発着容量の拡大等に合わせて、管制官の増員等の体制強化が行われてきている。しかし、近年、中途退職、育児休業等の増加により多数の欠員が発生しており、また、現在の管制官の人員では、将来的な航空需要の増大に対応しつつ、滑走路上の安全確保に必要な体制の維持・充実を図ることは困難と考えられる。そのため、管制官の人的体制を計画的に強化・拡充する必要性があることから、航空保安大学校の採用枠拡大や中途採用の促進などを通じて、欠員の解消と増員等に係る対策を可及的速やかに講じるべきである。
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増加する一方の航空機発着回数と業務量に対し、航空管制官の必要数が満たされていないことを、報告書が正式に認めた形だ。安全問題研究会の粘り強い問題提起が実を結んだと言える。この間、多くのご支援をいただいた皆さんに感謝するとともに、現場から声を上げた国土交通労働組合の闘いにも敬意を表する。

安全問題研究会としては、今後とも粘り強くこの問題を訴えるとともに、国交省がこの報告をきちんと実行するよう、引き続きしっかり監視していきたいと考えている。

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イスラエル軍関係者の宿泊を拒否した京都のホテルに連帯を表明します

2024-06-23 23:13:57 | その他社会・時事
6月11日、京都市東山区のホテルが、イスラエル人男性の宿泊客を「軍関係者の可能性がある」として拒否したことがニュースになっている。

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京都市のホテル、イスラエル人の宿泊拒否 市が運営会社を行政指導(毎日)

 京都市東山区のホテルが、イスラエル国籍の男性の宿泊を断っていたことが21日、明らかとなった。市は旅館業法に基づき、ホテルの運営会社を行政指導した。

 市によると、イスラエル国籍の男性が宿泊拒否されたという投稿が、SNS(ネット交流サービス)で拡散しているとの情報が17日に寄せられた。ホテル側に事実関係を確認したところ、男性をイスラエル軍の関係者であるとみなし、パレスチナ自治区ガザ地区への侵攻も踏まえ、宿泊予約をキャンセルするよう求めたという。

 同法は、賭博などで風紀を乱すおそれがある場合などを除き、宿泊を拒んではならないと定めている。市は、ホテルによる説明は、宿泊を拒否できる理由には該当しないと判断した。

 イスラエル大使館はホテル側に「明らかな差別事件だ」とする抗議の書面を送った。【南陽子】
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日本のメディアは、イスラエルに対して何を忖度しているのか知らないが、最も重要なことを(おそらく意図的に)無視している。旅館業法は、確かに正当な理由のない宿泊拒否を禁止している。しかし一方で、「宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき」(旅館業法第5条1項2号)は宿泊拒否できることを定めている。「その他の違法行為」と旅館業法に規定されているにもかかわらず、毎日新聞はなぜ意図的にそこだけをぼかすのか。

イスラエル軍が行っている行為は明確な違法行為に当たる。日本も批准しているジュネーブ条約追加第一議定書第41条1項は、「戦闘外にあると認められる者又はその状況において戦闘外にあると認められるべき者は、攻撃の対象としてはならない」と明確に定めている。今、ガザで行われていることが非戦闘員への攻撃でないとすれば一体何なのか。攻撃正当化のためイスラエル政府が使っている「ガザ地区に住んでいる者は全員がハマスの戦闘員である」などという屁理屈を信じる者は、イスラエル国民の中にさえそれほど多くないだろう。

ガザで行われている人類史上最悪レベルの戦争犯罪に比べれば、イスラエル人宿泊客の宿泊拒否など取るに足らないものだ。宿泊拒否によって誰かが死んだり飢えたり傷ついたりしているわけでもない。旅館業法が定める違法行為には、当然、ジュネーブ条約に基づく戦争犯罪も含まれており、京都市の解釈は間違っている。ガザでの停戦が実現するまで、むしろイスラエル国籍者全員の宿泊を拒否すべきだと当ブログは考える。当ブログはこのホテルに断固として連帯を表明する。次の関西遠征時にはぜひ宿泊して応援したいと思っている。

<参考法令>
旅館業法
1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(略称:ジュネーブ条約追加第一議定書)

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