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【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算303回目)でのスピーチ/原発を見限ったゼネコン業界の新たな動き

2018-08-17 23:58:16 | 原発問題/一般
 みなさんこんにちは。

 今日は、日本の原発を陰で支えてきたゼネコン、建設業界に、原発から自然エネルギーへの大きなパラダイムシフト、地殻変動が起きつつある。そんな少し希望の持てる話をしたいと思います。

 ご存知の方もいるかもしれませんが、おととし2016年に「水力発電が日本を救う」という本が出ました。著者は、元国土交通省河川局長として、3つのダムの建設に携わった竹村公太郎さんという方です。かつてダム建設といえば、建設予定地の住民を追い出し、土地を強制収用で奪い、時代の変化によって事業の必要がなくなったころになってようやく建設が始まるような、自然破壊と税金垂れ流しのイメージが付きまとっていました。群馬県で建設が進んでいる八ッ場ダムなどは今もこうした負のイメージそのままといっても過言ではありません。

 しかし、竹村さんはこの本の中でこれからのダム事業は違うと強調しています。この本のポイントはいくつかありますが、治水用だけに作られ、発電用に作られていなかったダムに新たに発電の機能を持たせ、半分程度しか水を貯めていないダムの貯水率ももっと引き上げる。それでも不十分な場合には少しだけダムをかさ上げする。要するに、今あるダムの使い方を変え、また少し改修するだけで大幅に水力発電量を増やすことができる。ダムはワイングラスのような形をしていて、上に行くほど容積が大きくなるので、今あるダムを10%かさ上げするだけで、発電量を2倍に増やすことができるのだそうです。電源を一極集中から多極分散型に変えるため、各地に小水力発電所をたくさん作るべきだという提言もしています。

 竹村さんは、これらの施策を組み合わせることによって、永遠に枯れることのない水から新たに2兆円分の電力と200兆円分の富が生み出せると試算しています。夢のようなバラ色の未来が描かれていますが、これは日本政府が政策を変えさえすれば夢ではなく現実となるのです。

 自分にとって心地よいことを言う人物ばかり重用し、耳の痛い忠告をする人物はことごとく遠ざけるなど、すっかり裸の王様となった安倍首相は、相変わらず経産省の言うことばかり聞き、原発にしがみついています。しかし情勢は大きく変わりつつあります。

 日本プロジェクト産業協議会という団体があります。ゼネコンや中小建設会社、機械金属メーカーなど218社が加盟する業界団体で、これらの企業の利益につながるような公共事業についての情報交換や国への陳情活動などを主な目的としています。はっきり言ってしまえばゼネコン利権団体ですが、この日本プロジェクト産業協議会の中の委員会のひとつである水循環委員会の前委員長が、この本を書いた竹村さんだったのです。

 日本プロジェクト団体協議会水循環委員会は、2013年12月、水力発電に関する提言をまとめました。「純国産の自然エネルギー・水力による持続可能な未来社会~既存のダム・水力施設の最大活用による水力発電の増強~」と題したこの提言では、竹村さんが提案したダムのかさ上げや使い方の改善によって新たに324億kwhの電力が生み出せるとしています。福島第1原発事故直前の2009年における原発54基の年間発電量は2798億kwhでした。この数字は、日本の年間発電量全体の29.3%に当たります(注1)。昨年(2017年)の日本の原発比率は2.8%(注2)なので、単純に2009年の1割とすると、原発の発電量は約280億kwhとなります。つまり、竹村さんが提案した水力発電の活用策を実行に移せば、少なくとも今、再稼働している原発程度の電力はまかなうことができるのです。

 今、日本の発電量全体に占める水力の比率は7.6%(注2)で、1割にも達していません。まだ記憶に新しい西日本豪雨をはじめ、近年、日本は大雨によって次々と多くの水害に襲われています。これだけ多くの雨が降っているのに、それが資源として活かされることもなく、災害だけをもたらし海に流れ出てしまうのはもったいない話です。まともな感覚を持った人なら、この水を何かの役に立てられないか考えるのは当然のことです。

 福島第1原発事故では、東京電力の責任ばかりが問われていますが、本来であれば法律で免責されている原子炉メーカーの責任は問われて当然ですし、建屋を作ったのは建設会社なのですから、ゼネコンや建設業界の責任も本来は問われておかしくありません。そうした責任の話はとりあえず今日は置いておきます。

 日本プロジェクト産業協議会という建設業界最大の利権団体で水力発電を拡大する方向での提言が出されたことに私たちはもっと注目すべきでしょう。もちろん、過去のダム建設による環境破壊や税金無駄遣いが再び繰り返されないよう、ゼネコン業界を監視することは必要だと思います。しかし一方でこれらの動きは、日本の建設業界が、原発にはもう未来がないと判断し、事実上、原発を見限ったことを意味しています。事故の反省もせず、深刻な環境汚染や健康被害はすべて隠蔽し、なかったことにしてやり過ごすだけの安倍政権の姿勢をよそに、民間レベルではすでにポスト原発に向けた動きが始まっているのです。海外への原発輸出も多額の費用が掛かることがわかり、早くも困難に直面しています(参考記事:日立の英原発建設、米大手が外れる方向 建設費の高騰で)。国内でも海外でもコストの膨れ上がった原発、危険で地球上のあらゆる生命を不幸にするだけの原発はいますぐやめろと、私たちが粘り強く声を上げ続けるなら、原発のない未来は必ず実現します。頑張りましょう。

(注1)(独)原子力安全基盤機構安全情報部・編「原子力施設運転管理年報 平成22年版(2010年11月)」より
(注2)いずれも「電源調査統計」より(参考資料

33年迎えた日航機事故 原因めぐって新たな動きも……

2018-08-12 20:49:17 | 鉄道・公共交通/安全問題
墓標そばの木、夫婦は赤パーカ着せた 日航機乗った息子(朝日)

墜落事故で失った娘へ 完成まで15年、千羽鶴を2人に(朝日)

単独機の事故としては史上最悪の520名が死亡した日航123便墜落事故から33年を迎えた御巣鷹では、例年通り多くの遺族に加え、他の事故や災害で犠牲になった人の遺族も慰霊登山をした。東日本大震災による津波で息子さんを亡くした七十七銀行女川支店員の遺族も4度目の慰霊登山だ(参考記事)。時を超え、場所を超え、災害や事故など「企業による過失犯罪」の犠牲となった人の関係者の多くを引き付ける「磁場」として、御巣鷹は今年も健在だ。

安全問題研究会は、昨年8月12日にも現地を訪れたが、遺族以外は事故当日の慰霊登山を遠慮してほしいと言われ、入山は断念している(関係記事)。これだけ多くの人がこの事故のことを思い、考え、行動している事実を目の当たりにした当研究会は、この事故に関する限り、みずからの役割は事実上終わったと判断し、慰霊登山は今後しばらくは行わない考えでいる。次に行うのは、早くても節目の35周年か40周年のいずれかになるだろう。

その一方、ここ数年で新たな動きが出てきている分野もある。この事故の原因に関してである。事故20年を過ぎた2005年に、何者かの手によって持ち出されたボイスレコーダーの音声が流出し、メディアで流されたのを境として、原因究明の動きには一区切りがついたと思われた。2000年代後半からしばらくの間、この事故に関する本の出版などが下火になった時期もある。しかし、事故29周年の2014年に「8.12日航機墜落30回目の夏~生存者が今明かす“32分間の闘い”ボイスレコーダーの“新たな声”」(関係記事)が放映されて以降、再びこの事故の原因をめぐる本の出版などが活発化した感がある。端的に言えば、事故調説(圧力隔壁破壊説)対「撃墜/無人標的機衝突説」の闘いが再び激しさを増しているのである。

「撃墜/無人標的機衝突説」を唱える本は、「疑惑 JAL123便墜落事故―このままでは520柱は瞑れない」(角田四郎・著、早稲田出版、1993年)以来、読み応えのあるものは久しく出ていなかったが、昨年7月出版された「日航123便墜落の新事実~目撃証言から真相に迫る」(青山透子・著、河出書房新社)は「撃墜説」を唱える本の中では久しぶりに読み応えのある内容だった。当ブログ管理人が現在、読み進めている本は「日航機123便墜落 最後の証言」(堀越豊裕・著、平凡社新書)だが、こちらは事故調の圧力隔壁説をベースとし、青山説への反論を試みながらも撃墜説を「一笑に付せない」と結局、否定しきれずに終わっている。これらの本については、久しぶりに読後、書評を書いてみようと思っている。当ブログの事故原因に関する最新の見解も、併せて公表できるだろう。

当ブログのおすすめ番組 ボイスレコーダー~残された声の記録~ジャンボ機墜落20年目の真実(2005年放送,TBS)

【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算302回目)でのスピーチ/韓国の反原発運動の現状

2018-08-11 18:31:33 | 原発問題/一般
 みなさんこんにちは。

 2週間、この道庁前行動をお休みさせていただき、今日は3週間ぶりの参加です。しかしこの間、何もしていなかったわけではなく、先々週の金曜、27日には大阪で関西電力本社前行動に参加してきました。いま日本で、原発を4基も動かしているのは九州電力と関西電力だけです。仲間とともに「再稼働やめろ」と叫ぶと、ただでさえ35度近い大阪の夏が余計に暑くなった気がしました。

 わざわざ北海道から来たということで、発言を求められたので、2つのことを話しました。ひとつは私の仲間が集めている「放射能健康診断を求める署名」が北海道内でついに1000筆を超えたということ、もうひとつは道庁前行動が今日で300回だということです。高橋はるみ知事が泊原発をやめるというまで1000回でも2000回でも行動を続けると発言すると拍手が起きました。でも本当は高橋知事が泊原発をやめて、北海道を原発のない地域にすると言ってくれさえすれば、こんなめんどくさい行動はせずに済むんです。35度近い猛暑の中、市民がこの社会と子どもたちの未来を思い、汗を流しながら原発廃止を訴えているのに、まだあなたのところに私たちのこの声は届きませんか?

 大阪には3日間滞在しました。韓国で反原発の闘いをしている慶州(キョンジュ)環境運動連合のイ・サンホン事務局長が来ていて興味深い話を聞きました。韓国では現在23基の原発が稼働しています。2030年までに28基へと拡大する方針だったのが、文在寅政権の下で現在、建設は止まっています。韓国でも原発なしで電気は足りています。イさんは「原発は東海岸に集中していて、もし事故が起きれば日本にいちばん影響する。中国も原発は東側に多く、事故では韓国が被害を受ける。だから反原発運動は国際連帯が必要だ」と問題意識を語りました。

 反原発の運動は、放射性廃棄物処分場反対の運動とともに進みました。「2003年に扶安(プアン)郡蝟島(ウィド)が処分場に選定されると、怒りが頂点に達し、扶安住民は108日間の抵抗闘争を行い全国から支援が寄せられました。住民投票委員会を組織し、約72%が投票に参加し、うち91%以上が反対でした。政府は不法投票だとして住民投票を認めませんでしたが、高濃度の廃棄物処理はやめさせました。しかし慶州の住民投票では、地域の経済発展ばかり強調されて約9割が賛成し、中濃度の廃棄物処理場が決まってしまいました。ショックで反対市民は出て行った、とのことでした。

 福島の原発事故は、韓国にも衝撃をもたらしました。その年の選挙では、すべての候補者が原発縮小を公約しました。住民投票や署名運動、裁判闘争も前進し、ロウソク革命の流れの中で、2017年には裁判で勝訴して月城(ウォルソン)原発1号機の再稼働を止めました。放射能の健康被害も問題にされるようになり、2014年には古里(コリ)原発から6kmに住むイ・ジンソプさんが甲状腺がんで訴え、因果関係が認められました。それを機に、韓国では最大規模の618名が原告となって共同訴訟を闘っています。原発から半径10km内に5年以上住み、甲状腺がんになった人たちが原告になっています。

 この話を聞いて、私が素晴らしいと思ったことがいくつかあります。日本では、選挙で与党系の候補が争点隠しのために自分も基地や原発に反対だというと、みんな政府の「経済対策」に期待してすぐに自民党に投票してしまいます。しかし韓国では地方選挙でも文在寅大統領系の政党が連戦連勝であり、保守系の野党は敗北を続けています。原発推進の保守政党の見え透いた嘘に市民が騙されない。まずここが日本の市民と決定的に違います。自民党に投票するなとは言いませんが、それなら死ぬ気で自民党を脱原発に変える闘いも並行してするのでなければならないと思います。

 もうひとつは、古里原発近くに住む住民の甲状腺がんについて、原発との因果関係を認めた裁判所のすごさです。日本では福島原発が事故を起こしてもなお、福島県民の甲状腺がんさえ事故との因果関係が認められていないのに、韓国では事故も起こしていない普通の原発の近くに住んでいる人が病気との因果関係を認められたわけです。韓国のゲストの皆さんは、日本、福島の闘いに学びたくて来日したとのことですが、どうやら学ばなければならないのは私たちのようです。

 しかし韓国もいいことばかりではないようです。慶州の原発がある村の住民の100%つまり全員の尿中からトリチウムが検出されました。原発から離れた市ではもちろんほとんど出ていません。原因は報告されませんでしたが、現地では雨水にトリチウムが含まれているのではないかと言われているそうです。住民は抗議行動を起こしていて、福島の原発事故以降、韓国市民も原発周辺を避けるようになりました。原発に近い住民が2016年に移住を要求するようになりましたが、認められていません。法案を提出しても、この2年間議論にもなっていないのです。韓国の憲法では〝居住・移住の自由〟があり、8月に法案を再提案して、被ばく問題というより権利の問題として議論していきたい。慶州(キョンジュ)環境運動連合のイ・サンホン事務局長からはこんな報告がありました。

 北海道でも、市町村別がん死亡率1位が泊村、2位が岩内町であることはよく知られていますし、居住・移転の権利を行使していくため、積極的な意味で福島からの避難をされている方も多くいることも私は知っています。むしろ話を聞けば聞くほど、日韓で抱えている課題は同じだということが見えてきた有意義な3日間だったと思います。これ以外のことは、また何かの機会にお話しできればと思います。

 今日は以上で終わります。ありがとうございました。

【福島原発事故刑事裁判第23回公判】原電も東海第2の津波対策を実施していた! 改めて東電の異常さ浮き彫りにする数々の「新事実」

2018-08-02 23:28:33 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。7月27日(金)の第23回公判の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。8月は公判も休みとなり、次回、第24回公判は9月5日(水)に行われる。

執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。

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●「福島も止まったら、経営的にどうなのか、って話でね」

 7月27日の第23回公判では、関係者の発言、別の原発が密かに実施していた津波対策など、「あっ」と驚くような事実が数多く開示された。事故に関して、まだ多くの情報が公開されていないことを実感させられた公判だった。

 「柏崎刈羽も止まっているのに、これに福島も止まったら、経営的にどうなのか、って話でね」

 東京電力が津波対策の先送りを決めた2008年7月31日のすぐ後に、東電・酒井俊朗氏(第8・9回証人)は、このように発言したらしい。

 「こんな先延ばしでいいのか」「なんでこんな判断するんだ」

 2008年8月6日、日本原子力発電(原電)の取締役開発計画室長は、東電の津波対策先送りを聞き、こう発言していた。東電の決定は、原電役員が唖然とするようなものだったのだ。

 東電が先送りした津波地震対策を、原電は先送りせず、少しずつ進めていたこともわかった。敷地に遡上することを全面阻止する(ドライサイト)のやり方ではなく、建屋の水密化なども実行していた。「他の電力会社も、地震本部の津波地震に備えた対策はしていなかった」ことを東京地検は、東電元幹部の不起訴理由に挙げていたが、それは間違いだと明確になった。

 この日の証人は、日本原電で津波想定や対策を担当していた安保秀範(あぼ・ひでのり)氏。大学院では応用力学の研究室に所属。1985年に東電に入社し、2016年からは東電設計に移っている。2007年10月から2009年3月まで原電の開発計画室土木計画グループのグループマネージャーとして出向し、東海第二原発の耐震バックチェックに関する業務を担当していた。

 検察官役の久保内浩嗣弁護士の質問に安保氏が答える形で、事故前の議事録、メールなどをもとに、関係者の発言や考え方を追っていった。

●「今回BCに入れないと後で不作為であったと批判される」

 地震本部が予測した津波地震について、「今回のバックチェック(BC)にいれないと後で不作為であったと批判される」と、2007年12月10日、東電の高尾誠氏(第5〜7回公判証人)は語っていたようだ。公判で示されたメモ(注1)で明らかになった。

 2008年2月、高尾氏が今村文彦・東北大教授に面談し、その際に今村教授は「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できないので、波源として考慮すべきである」と指摘した(注2)。

 その内容について報告を受けた安保氏は、東電の金戸俊道氏(第18・19回証人)に、「こうすべきだとダメ押しされたという内容ですね」とメール(注3)を送っていた。

 これらのデータをもとに、日本原電の2008年3月10日の常務会では、地震本部による津波地震の予測について「バックチェックにおいて上記知見に対する評価結果を求められる可能性が高い」と報告されていた(注4)。

●「こんな先延ばしでいいのか」「なんでこんな判断するんだ」

 東電の「津波地震を考慮する」という判断に引っ張られて、日本原電も防潮壁の設置した場合の敷地浸水をシミュレーションするなど、対策に動き始めていた。ところが2008年7月31日、東電は方針変換して津波対策の先送りを決める(いわゆるちゃぶ台返しの日)。

 東電の先送り決定直後に、安保氏は、「なぜ方針が変わったのか」と東電・酒井氏に尋ねた。

 「「柏崎刈羽も止まっているのに、これに福島も止まったら、経営的にどうなのか、って話でね」と酒井氏は答えた」。安保氏は検察の聴取に、そのように述べていたことが、公判で明らかにされた。当時、2007年7月の地震により柏崎刈羽原発の7基が全て止まったままで、東電は2007年度、2008年度連続の赤字がほぼ決まっていた。

 酒井氏の発言について、この日の公判では、安保氏は「今の記憶ではありません」「そういうふうに思ったということだと思います」などと述べ、内容を明確には認めなかった。

 東電の先送りを受け、2008年8月6日に原電で社内ミーティングが開かれた。ここでの状況について、安保氏は以下のように検察の聴取に答えていたことが公判で明らかにされた。

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 当時取締役・開発計画室長だった市村泰規氏(現・同社副社長)は「こんな先延ばしでいいのか」「なんでこんな判断するんだ」と延べ、その場が気まずい雰囲気になった。

 安保氏は、東京電力の方針を受け入れる代わりに、長期評価をバックチェックに取り入れない積極的な理由は東京電力に考えてもらいたかったと考えた。
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 このような8月6日の様子について、安保氏は公判で自ら説明することは無かったが、検察の聴取結果を指定弁護士に読み上げられると「言われてみればそういうふうに言ったと感じます」と述べた。

 また、原電としては、東電の方針について「リーディングカンパニーである東電に従わないということは考えにくい」と検察に答えていたことも明らかになった。

●津波地震への対策、多重的に進めていた

 公判で示された資料によると、東電の先送り後、原電は2008年8月段階で、津波対策の方針を以下のように決めた。

 ・地震本部の津波地震による津波については引き続き検討を続ける。

 ・バックチェクについては茨城県津波でやる。

 ・津波対策については、耐力に余裕があるとは言えない。バックチェックの提出時点で対策工が完了していることが望ましい。茨城県の波源についての対策は先行して実施する

 「茨城県の波源」とは、茨城県が2007年に延宝房総沖地震(1677年)と同じ規模の地震を想定し、浸水予測を発表したものだ。原電は東海第二原発の津波を最大4.86mと予測していた(2002年)が、茨城県の予測は5.72mでそれを上回り、原子炉の冷却に必要な非常用海水ポンプが水没してしまうことがわかった。そこで、ポンプ室の側壁を1.2mかさ上げする工事をした(注5)。

 ただし、茨城県の津波予測は、敷地(約8m)を超えない。しかし、地震本部の津波地震でシミュレーションすると敷地に遡上し、原子炉建屋の周辺部が85センチ浸水することがわかった。


茨城県の津波想定(2007)で、東海第二は浸水が予測されていた


 そこで、原電は「津波影響のある全ての管理区域の建屋の外壁にて止水する」という方針を決める。

 工事で不要になった泥を使って海沿いの土地を盛土し、防潮堤の代わりにして津波の遡上を低減。それでも浸水は完全には防げないため、建屋の入り口を防水扉や防水シャッタ−に取り替えたり、防潮堰を設けたりする対策を施した。

 東日本大震災の時、東海第二を襲った津波は、対策工事前のポンプ室側壁を40センチ上回っていた。外部電源は2系統とも止まったので、もし、津波対策をしていなければ、非常用ディーゼル発電機も止まり、電源喪失につながる事態もありえたのだ。

 安保氏も「側壁のかさ上げが効いていたと認識しています」と証言した。

 原電の津波対策には、注目すべきポイントが二つある。

 一つは、地震本部が予測した津波地震対策も進めていたことだ。東京地検は2013年9月に東電元幹部らの不起訴処分を決めた時、理由の一つに「他の電力事業者においても、推本の長期評価の公表を踏まえた津波対策を講じたことはなかった」を挙げていた。原電は、実際に長期評価の津波地震に備えて建屋の水密化などを進めていたので、地検の不起訴理由で、この部分は間違っていたことがわかる。

 もう一つは、敷地に津波が遡上してくることを前提にした対策を進めていたことだ。東電元幹部らの弁護側証人として出廷した岡本孝司・東大教授(第17回公判)は、防潮堤を超えた津波に対応する扉の水密化などの多重的な津波対策をとっている原発は「残念ながらありませんでした」と証言していた。これは間違っていたことがわかる。

 また、東京地検も、2回目の不起訴の時(2015年1月)に「本件のような過酷事故を経験する前には、浸水自体が避けるべき非常事態であることから、事故前の当時において、浸水を前提とした対策を取ることが、津波への確実かつ有効な対策として認識・実行され得たとは認めがたい」としていた。原電が実施していた対策を見れば、これも間違いだったことがわかった。

 この公判では、福島原発事故を検証する上で、同じ日本海溝沿いにある原電の津波対策を見ていくことがとても役立つことが明らかになった。しかし、原電は、盛り土や建屋の水密化などの対策を実施していたことを、これまで公表していなかった。東電は、原電の28%の株を持つ筆頭株主である。その関係が、影響したのだろうか。


東海第二原発の津波対策(同社のホームページから)。
建屋扉の水密化や、盛土など地震本部津波への対策は、掲載されていなかった。


注1)2007年12月10日 推本に対する東電のスタンスについて(メモ)高尾氏からのヒヤ

注2)2008年2月26日 今村教授ご相談議事録

注3)2008年3月3日、安保氏から金戸氏へのメール

注4)2008年3月10日 日本原電 常務会報告 既設3プラントの耐震裕度向上工事の検討実施状況について

注5)このかさ上げ高さでは、津波地震の津波には不足している。安保氏は「波力の問題があるので、かさ上げが難しいので別の方法を検討しなければならなかった」と述べている。このため東日本大震災前に、ポンプ室については津波地震に対応できていなかった。推測だが、原電が高さ22m(緊急時対策室建屋の屋上)に空冷の緊急用自家発電機を設置し、原子炉建屋にも接続する工事を2011年2月に終えていたのは、この代替案の一つだったと考えられる。


絵:吉田千亜さん

【福島原発事故刑事裁判第22回公判】電力の、電力による、電力のための土木学会 これで中立とは笑わせるな!

2018-07-28 09:04:16 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。7月25日(水)の第22回公判の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。次回、第23回公判は7月27日(金)に行われる。

執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。

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●土木学会の津波評価部会は「第三者」なのか?

 7月25日の第22回公判の証人は、電力中央研究所の松山昌史(まつやま・まさふみ)氏だった。

 松山氏は京都大学大学院工学研究科土木工学(修士)を修了し、1990年に電力中央研究所(電中研)に入所。現在は電中研原子力リスク研究センターに所属している。電中研は約700人の研究員をかかえ、収益の85%は電力会社からの給付金だ。

 松山氏は、2009年に東北大学から工学(博士)の学位を取得している。学位論文のタイトルは「沿岸の発電所における津波ハザードとリスク評価手法」。指導教員は今村文彦・東北大教授(第15回公判の証人)である。

 松山氏は、土木学会津波評価部会に1999年の立ち上げ時から幹事として参画。2009年からは幹事長として部会の運営を取り仕切った。

 公判では、検察官役の神山啓史弁護士の質問に松山氏が答える形で、土木学会津波評価部会の動きを中心に検証していった。津波評価部会が、原発の津波想定方法を、どんな過程でまとめていくかを追う中で、様々な段階で電力会社が関与している様子が浮かび上がった。

 また最後に、検察官側から現場検証の求める意見陳述があった。

●電力会社が主役 土木学会の報告書作成過程

 2008年7月31日に、東電の土木調査グループの酒井俊朗グループマネージャーや部下の高尾誠氏は、原子力・立地本部副本部長だった武藤栄氏に、津波対策を進めるよう説明をしていた。これに対し、武藤氏は「波源の信頼性が気になる。第三者、外部有識者にレビューしてもらう」と対策先送りを決める(いわゆる「ちゃぶ台返し」)。そこで、酒井氏が「第三者」として提案したのが土木学会だった。

 では、土木学会の津波評価部会は「第三者」なのだろうか。土木学会津波評価技術をまとめた当時のメンバー構成を見ると、委員・幹事30人のうち13人が電力会社社員、3人が電力中央研究所員、1人が東電設計(東電子会社)だ (注1、グラフ参照)。メンバーに電力会社の関係者が入っていることについて、松山氏は「原発を良くご存知の現場の方に入ってもらっている」と証言したが、電力関係者が過半数を超えている状況では、第三者組織には見えない。



(1)電力会社が全額負担する電力共通研究の仕組みを使って、津波評価部会の議論のもとになるデータを東電子会社の東電設計が中心になって作成
(2)それを電中研や東電が中心になった幹事団が専門家と調整しながら議論する。

 この進め方で、電力会社に都合の悪い結論は出せるのだろうか。

 松山氏は、政府事故調の聴取には、津波想定方法について「事業者(電力会社)に受け入れられるものにしなくてはならなかった」と述べていた(注2)。

 松山氏は、2010年から2011年にかけて、波源モデルの改訂案を幹事団が提案した時の専門家委員の反応について「賛成も反対も、意見が出されなかった」と証言した。幹事らがまとめた案が、粛々と了承されていただけの審議が多かったのではないかと思われる。


●「新しい知見、チェックしていくことが必要」

 土木学会津波評価部会は、2002年に津波想定の方法をまとめた「原子力発電所の津波評価技術」を策定したが、松山氏は「コストも人手もかかるので、改訂は10年に一度ぐらいにしようという同意があった」と述べた。

 神山弁護士の「その間に新しい知見が出たら、電力会社はどうすべきだったのか」という質問に対し、松山氏は「新しい知見は毎年出てくる。いろんな評価を検討材料にあげてチェックしていくことは必要だ」と証言した。これは、東電元幹部が主張する「土木学会任せ」「改訂待ち」の姿勢とは異なっていた。

●裁判官の現場検証を請求

 公判の最後に、検察官役の久保内浩嗣弁護士が、福島第一原発や周辺を「裁判官の五感によって検証する必要があります」と意見を述べた。久保内弁護士は、必要性の根拠に挙げたのが、今村文彦・東北大教授が「1号機から6号機の前面に防潮壁が必要」と証言したこと(第15回公判)や、東電で事故調査報告書のとりまとめを担当した上津原勉氏による「10m盤には配管などが埋まっており、対策は大がかりな工事になって難しいが、可能ではある」という証言(第2回公判)だった。「証言の合理性、信用性を評価するには、現場検証で現地の状況を立体的、全体的に把握することが必要です」と述べた。

注1)委員、幹事の2001年3月当時の名簿のp.7

注2)政府事故調 聴取結果書 2011年7月29日 これのp.10


【福島原発事故刑事裁判第21回公判】地震本部長期評価を支持する地震学者が多数を占めるのを見て、地震本部支持に傾く土木学会津波評価部会長

2018-07-26 21:41:12 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。7月11日の第20回公判に続き、第21回公判が7月24日(火)、第22回公判が7月25日(水)に行われた。この公判の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。次回、第23回公判は7月27日(金)に行われる。

執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。

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●敷地超え津波、確率でも「危険信号」出ていた

 24日の第21回公判の証人は、東電設計の安中正(あんなか・ただし)氏だった。安中氏は、京都大学大学院で地球物理を専攻した地震の専門家だ。土木学会の津波評価部会では、1999年から幹事を務めていた。土木学会で学者が審議するための資料づくりは、東電設計など3社が取りまとめていたが、その責任者でもあった。電力業界の津波想定に関して、長年、土木学会の裏側で実務を取り仕切ってきた人物である。

 敷地高を超える津波が、どのくらいの確率で襲来するか計算する「確率論的津波ハザード解析」(PTHA)で、福島第一原発の危険性はどのように評価されていたかを中心に、検察官役の石田省三郎弁護士が、安中氏に質問していった。PTHAの手法でも、敷地高さを超える津波を想定しておくべきだという結果が出ていたことが明らかにされた。

●確率評価、1.5倍に上昇

 土木学会は2003年からPTHAの研究を本格的に始めている。この成果を使って、東電設計は福島第一のPTHAを計算し、2004年12月に報告書をまとめた。その結果、1万年に1回ぐらいの確率で起きる津波高さが7mから8mとわかった。

 耐震設計では、「1万年に1回」程度の発生が予想される強い揺れを、基準地震動(Ss)として定め、それに備える。それと同じ考え方で、津波でも「1万年に1回」を安全確保の目安と考えれば、7mから8mの津波が来ても事故を起こさないように対策をしなければならないことになる(注1)。これは当時の津波想定5.7mを超えており、非常用ポンプが水没して炉心損傷を引き起こす津波高さだった。

 土木学会は、その後もPTHAの研究を続け、2009年3月に報告書(注2)をまとめた。この成果をもとに、東電設計は福島第一のPTHAを再び実施した。新たに貞観地震も考慮したところ、貞観地震の発生確率が高いことが影響し、1万年に1回レベルの津波高さは11.5mになることがわかり、2010年5月には東電に報告された。前回2004年の値の約1.5倍になり、敷地高さを超え、全電源喪失を引き起こすレベルだった。



●貞観地震「1オーダー低くならないか」

 興味深いのは、このPTHAの結果を聞いた東電・高尾誠氏の反応だ。安中氏と東電の高尾氏らの面談記録(2010年5月12日)が公判で明らかにされてわかった。これによると、PTHAの数値を押し上げた要因である貞観地震の危険度を「1オーダー(1けた)程度低くならないか」と高尾氏は述べていた。

 安中氏は、高尾氏の発言について「非常に高くなるので、それでは今の想定津波が妥当と言えなくなる。東電が当時進めていた津波堆積物調査の結果を用いて貞観地震の波源モデルを変更し、PTHAの計算値を小さくすることを期待していたようだ」と述べた。

 津波堆積物調査は、本来は津波の実態を科学的に把握するための調査だ。しかし、東電は想定切り下げに利用する意図が最初からあったことがわかる。それは客観的な科学的調査とは呼ばない。

●津波地震、安中氏も高めに見直し

 地震本部の長期評価(2002)について、土木学会はPTHAの基礎資料として、2004年度と2008年度に専門家にアンケートを取っていた。

 2004年度のアンケートでは、日本海溝沿いの津波地震について

(1)「過去に発生例がある三陸沖と房総沖で津波地震が活動的で、他の領域は活動的でない」
(2)「三陸沖から房総沖までのどこでも津波地震が発生するという地震本部と同様の見解」

二つの選択肢で聞いた。地震学者ら専門家の回答は、(1)に多くの重みを付けた学者が3人、(2)に多くの重みをつけた学者が4人、両者に全く同じ重みをつけた学者が2人で、その重みの平均値は、(1)が0.46、(2)が0.54と、地震本部の見解を支持する方が上回っていた。

 2008年度のアンケートでは、日本海溝沿いの津波地震について

(1)三陸沖と房総沖のみで発生するという見解
(2)津波地震がどこでも発生するが、北部に比べ南部ではすべり量が小さい(津波が小さい)とする見解
(3)津波地震がどこでも発生し、北部と南部では同程度のすべり量の津波地震が発生する

という三つの選択肢で、専門家の回答は(1)に最も重みをつけた学者が5人、(2)に最も重みをつけた学者が4人、(3)に最も重みをつけた学者が2人で、その平均値は(1)が0.35、(2)が0.32、(3)が0.33で、(2)(3)を合計すると0.65となり、この時も、地震本部の「津波地震がどこでも発生する」という考え方が、三陸沖と房総沖のみで発生するという見解を大きく上回っていた。

 公判では、安中氏自身が、これらのアンケートにどう回答したかも示された。2004年アンケートは、(1)0.7、(2)0.3で、過去に起きたことがある場所だけで津波地震が起きるという考え方に重きをおいていた。

 一方、2008年になると(1)0.4、(2)0.4、(3)0.3とし、「どこでも津波地震が起きる」の方を重視した。この理由について「スマトラ島沖津波(2004年)の発生や、貞観地震の調査などで、従来考えられていなかった津波が報告されてきた。(土木学会手法がベースとしている過去)400年では足りないのではないかという気持ちが出てきていた」と証言した。

 地震についての調査研究が進むにつれ、土木学会津波評価部会の仕切り役だった安中氏でさえ、地震本部の長期評価を否定しづらくなってきていたのだ。

注1)SsとPTHAの値を比べてハザードの相場観をつかむやり方は、東電自身が2008年に示していた。2008年7月23日に、東電、東北電力、原電、東電設計、JAEAが津波対応について打合せた会合で、東電は以下のように述べている。

「推本モデルの結果(推本の位置に三陸沖モデルをおいてパラスたした最大値)は、福島第一地点で、津波高さ約10mであり、H17電共研成果の津波ハザードの10⁻⁴のオーダーであり、Ssのオーダーと調和的であった。」(JAEAが開示した議事メモより)

注2)「「確率論的津波ハザード解析の方法」を公開しました」土木学会のお知らせ2011年9月19日


フリーゲージトレイン試験とん挫で混迷深める長崎新幹線~規格も決まらない路線に1兆円もの資金投入目指す「世紀の愚策」~

2018-07-25 21:42:26 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2018年8月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。なお、本来、管理人の寄稿原稿は「原稿アーカイブ」カテゴリで掲載するのが通例ですが、この記事は、管理人の判断により「鉄道・公共交通/交通政策」カテゴリでの掲載とします。)

 呆れて物も言えない。これを世紀の愚策と言わずしていったい何と表現すればいいのだろう。一部区間で工事が始まった九州新幹線長崎ルート(以下「長崎新幹線」と称する)のことだ。北海道で住民が学校や病院に通うための生活路線の半分が廃線の危機に瀕し、年に200~400億円程度の資金があれば全路線を救済できるというのに、一方では線路規格すなわち線路の幅も正式に決定していない路線の建設に5000億円が投じられ、最終的にその額は1兆円を超えることになるかもしれないのである。

 旧国鉄の財政を破たんさせる原因となり、国鉄「改革」で二度と復活を許さないと決めたはずの「我田引鉄」「政治新幹線」のおぞましい復活、事業内容よりも「事業それ自体」が目的化、甘い見通しに基づき、行き当たりばったりで引き返しのきかない公共事業――ある意味では戦後日本のすべての問題が凝縮されているともいえるのがこの長崎新幹線だ。

 常識ではありえないような事態が進行している根本原因に何があるのか。そもそもそれ以前に日本は本当に言われているような「鉄道大国」なのか。司令塔不在の日本の鉄道政策に「正気」を取り戻させるために必要なものは何か。今日は、長崎新幹線の「愚」を告発するとともに、あるべき鉄道政策の姿を皆さんとともに考えたい。

 ●とん挫したフリーゲージトレイン

 本題に入る前に、地元・九州のメディア以外ではほとんど報じられていない長崎新幹線のここまでの迷走についてやや詳細に述べる必要があろう。

 長崎新幹線(博多~長崎間)は、1972年に制定された全国新幹線鉄道整備法に基づいて整備計画が定められた、いわゆる整備新幹線のひとつだ。同じ九州を走る博多~鹿児島間(鹿児島ルート)と区別する意味から長く九州新幹線(長崎ルート)と呼ばれてきた。国鉄末期には国鉄財政悪化によって整備新幹線計画は凍結されたが、その後凍結が解除になり、まず2008年に武雄温泉(佐賀)~諫早(長崎)間が先行着工された。この区間が先行したのは、在来線の長崎本線の中でも有明海に沿って線路が伸びる肥前山口~長崎間が単線の上、線形も特に悪く、距離の割には時間のかかるこの区間の隘路を打開する必要があったためである。

 長崎~武雄温泉間がフル規格新幹線(国際標準の線路幅である標準軌(1435mm軌間)の線路上を200km/h以上の高速で走行)で開通後は、武雄温泉~新鳥栖(佐賀)間は在来線の佐世保線・長崎本線を走行、新鳥栖からはすでに開通している九州新幹線に乗り入れ博多(福岡)を目指す。一部列車は新大阪まで直通運転する。全線をフル規格にするとあまりに経費がかかりすぎるため、当初はこんなプランが描かれた。

 この計画通りになった場合、長崎から武雄温泉までは標準軌(1435mm軌間)、武雄温泉から新鳥栖までは在来線を走るため狭軌(1067mm軌間)となり、新鳥栖で九州新幹線に乗り入れる際に再び標準軌に戻る。この問題を解決するために、フリーゲージトレイン(以下FGTと略)の研究開発が始まった。

長崎新幹線の概要(佐賀県武雄市ホームページから)

 FGTは軌間可変式電車と訳される。軌間が異なる路線間を直通運転する場合に、境界駅に軌間変更のための設備を設置、その設備を通過する間に車輪の幅を広げたり縮めたりするものである。海外ではスペインの国際列車「タルゴ」に例がある。スペインの鉄道は広軌(標準軌より線路幅が広い1668mm軌間)を採用しているため、隣国フランスなどとの間で直通列車を運行するにはこの問題を解決しなければならなかった。軌間の異なる国同士で直通列車を運転する場合、かつてのヨーロッパでは国境駅で車両を1両ずつ持ち上げ、台車ごと取り換えるという手間のかかることをしていた。乗客は国境駅で長時間待たされるのが常だった。この問題を解決したのがタルゴであり、車両を持ち上げることなく、軌間変更設備を通過しながら数十秒から数分で軌間変更を終える。ここ数年来の技術進歩により、今後は最高330km/hでの高速運転も可能になるという。

 日本では、タルゴを開発したスペイン・タルゴ社から1993年に技術協力を受けると、1997年からFGTの本格開発に着手した。ところが、あたかも情報統制でも受けているかのように商業メディアでの報道はなく、技術開発が進んでいるのかどうかを窺い知ることが困難な状況が続いた。九州ではなく北陸新幹線への導入を目指し、JR西日本がFGTの本格開発に乗り出すことが報じられたのは2013年7月。この時点で開発着手からすでに16年が経過しており、本稿筆者も本来であればこの時点で開発が難航していることに気付かなければならなかった。だが「新幹線から在来線へ 異なる線路間行き来 フリーゲージトレイン実現間近」(2014.1.1付け「北海道新聞」)などの報道に惑わされ、それに気づかなかったことに対しては不明を恥じるより他はない。

 とはいえ、2014年正月の段階でこの記事を掲載したメディアに対して、国土交通省の「大本営発表」に惑わされてのミスリードと断定するのはいささか酷かもしれない。というのも、この時点ではまだFGTの技術開発は「7~8割の確率で成功する」との見方で大方の識者が一致していたからだ。FGTに一気に暗雲が垂れ込め始めるのはこの年4月に始まった第3次耐久試験からである。

 この耐久試験では、九州新幹線~軌間変更設備~在来線の間で、試験車両が実際に60万kmの距離を走行する計画だった。順調と思われた走行試験に「異変」が起きたのは2014年11月だ。3万kmを走行した時点で、本来発生するはずのない部品の摩耗や高速走行時の横揺れが発生、走行試験は中止された。放置すれば摩耗が進み、車軸の折損につながりかねない重大な不具合だった。

 これらの不具合に対し、検証委員会を開催して原因を究明、再発防止対策を施したうえで2016年に走行試験を再開した。だが横揺れにこそ一定の改善が見られたものの、一部部品にメッキのはがれが見つかるなど摩耗は完全には解消されなかった。

 さらに、在来線区間でも信号システムの不具合が見つかった。軌間可変装置という複雑な仕組みを備えているFGTの構造は通常の車両と異なっており、信号システムがFGT車両の通過を検知できないという問題だ。列車同士が衝突しそうになっても、鉄のレールで固定されているため自動車のようにハンドルを切って回避できない鉄道では、代わりに列車同士に一定の間隔を確保するため「閉塞」(その列車の前後一定の距離内に他の列車を侵入させない仕組み)が導入されている。列車の走行位置が正確に検知できなければ踏切も正常に動作せず衝突事故につながりかねない。

 「これ以上開発しても無駄という悪い結果ではないが、満点でもない」(関係者)――第3次走行試験の評価は、大勢の乗客の命を預かりながら安定的な輸送実績を出さなければならない新幹線としては致命的といえよう。事実、この結果を見たJR西日本は、FGT車両を使用した列車の山陽新幹線(新大阪~博多)区間乗り入れを認めない意向を表明した。運行が不安定なFGT使用列車の乗り入れを認め、山陽新幹線区間を走行中に故障した場合、構造が複雑なため運行回復に時間がかかるというのがその理由である。

 もともとFGTによる長崎新幹線計画には無理があった。FGT開発が当初計画通りに進んだとしても、2022年の全線(新鳥栖~長崎)開業にぎりぎり間に合うという薄氷のスケジュールは、FGT開発の遅れで事実上破たんした。JR九州の青柳俊彦社長が、FGT車両に通常車両の3倍のコストがかかることを理由に、FGTによる長崎新幹線運行を拒否する意思を表明したのは2017年5月のことだ。そして、与党の整備新幹線推進プロジェクトチーム検討委員会は議論に1年以上を費やした挙句、ついにこの7月19日、FGTによる長崎新幹線の断念を正式決定。長崎新幹線について、全線フル規格格上げまたは在来線を標準軌に改軌して列車だけは直通できるようにする「ミニ新幹線方式」のいずれかで今後の整備計画を見直すよう提言した。ミニ新幹線は山形・秋田の両新幹線で導入された方式だ。

 ●軌間も決まらない線路に1兆円?

 2016年の第3次走行試験失敗以降、FGTのとん挫を見越して全線フル規格格上げを目指す長崎県・JR九州とミニ新幹線方式でよいとする佐賀県の間ですでに水面下の駆け引きが始まっていた。「どれだけ追加費用がかかろうと全線フル規格格上げ以外にない」と息巻くのは長崎県だ。新幹線の始発/終着駅となる長崎県にとっては、乗り換えなしの高速運転で新大阪までの直通を勝ち取ることは大きなメリットになる一方、フル規格格上げが実現しなかった場合の被害は計り知れないからだ。フル規格で着工した長崎~武雄温泉間は「離れ小島」となり、乗客は軌間が変わる武雄温泉で半永久的に乗り換えを余儀なくされる。そうでなくても、わずか66kmしかない長崎~武雄温泉ではフル規格化による時間短縮効果がわずか5分といわれているのに、武雄温泉での乗り換えで台無しになってしまう。現在、長崎本線経由で博多~長崎間を運行している在来線特急「かもめ」に乗り換えがないことを考えると、時間短縮されない上に乗り換えまで発生してしまう新幹線は有害ですらある。下手をすると「新幹線いらない、白紙に戻せ」の大合唱になる可能性もあるからだ。

 一方「全線フル規格格上げに断固反対」なのは佐賀県だ。県内を走る武雄温泉~新鳥栖間は現在の整備計画では在来線(佐世保線・長崎本線)をそのまま走行することになっている。この区間が仮に全線フル規格格上げとなり、別ルートを走行することになった場合、佐賀県内は通過ルートとなるだけで何のメリットもないのに、路線距離に応じて800億円もの追加費用を負担しなければならないからだ。「佐賀を素通りして長崎から博多に行く客のために、なぜわが県が800億円も負担させられなければならないのか」という佐賀県知事の怒りはもっともだ。

 佐賀県と長崎県の利害は真っ向から対立している。干拓農民と漁民が対立させられた諫早湾干拓事業をめぐる怨念ももともと両県の間にある。漁民の提訴を受け、干拓事業の舞台となった調整池の「潮受け堤防」開門を命ずる判決が出たにもかかわらず、干拓農民が起こした訴訟では開門を禁ずる判決が出て、潮受け堤防は今も閉じたまま干拓事業が続いている。こうした経緯もあるだけに佐賀県の抵抗を甘く見てはならない。訴訟合戦がこじれ、潮受け堤防の開門が当面、見通せなくなった干拓事業。さんざん煮え湯を飲まされてきた佐賀県だけに、長崎新幹線で政治的「報復」に出る可能性は十分に考えられる。この対立に容易に解決は見いだせないだろう。

 長崎~武雄温泉間の建設には5000億円の巨費が見込まれている。仮に全線フル規格となった場合、追加費用は6000億円といわれる。合計でざっと1兆1千億円だ。まだ線路の幅も確定していない路線にこれだけの巨費が投じられようとしている。日本の納税者はもっと怒るべきだろう。

 北海道では、2015年1月の高波災害で不通になったまま3年半を経過した日高本線の沿線自治体に対し、JR北海道が廃止~バス転換を提案している。地元町村会と住民は結束して路線維持を掲げている。この日高本線の営業キロは146.5km、一方で長崎~博多間は153.9kmに過ぎない。沿線住民が切実に路線維持を求めている日高本線とほぼ同じ距離の区間で、線路の幅も決まっていない路線のために1兆円もの血税が浪費されようとしている。長崎新幹線はいったん白紙に戻した上で、そんな金があるなら北海道の路線維持に使うべきだろう。

 とはいえ、国民からあれほど厳しい批判を受けた八ッ場ダム工事でさえ、民主党への政権交代を経てもなお中止できなかったことを考えると、すでに着工してしまった長崎~武雄温泉間の工事が「たかがこの程度のこと」で止まる可能性は現実的にはないように思われる。すでに始まった工事は止まらず、軌間の異なる武雄温泉でのFGTによる直通の夢も破れ、佐賀県の抵抗で全線フル規格への格上げもできないまま、始発駅・長崎を出発してわずか15分後には武雄温泉で全員が降りて乗り換えなければならないという悪夢が現実のものとなりつつある。このどうしようもなく迷走する事態に終止符を打つためにどのような方法があるだろうか?

 ここで筆者は「長崎~武雄温泉間の狭軌への変更」を提案したい。長崎~武雄温泉間に標準軌でなく、在来線と同じ狭軌の線路を敷設するのである。こうすれば、武雄温泉では狭軌同士となるので線路をつないで直通させることができる。新鳥栖で九州新幹線に乗り入れる予定だった当初計画も変更し、博多まで全区間在来線を走るようにすればいい。こうすれば現在と同じように長崎~博多の全区間を乗り換えなしで直通でき、佐世保線(肥前山口~武雄温泉間)の複線化とあいまって大幅なスピードアップが実現する。新線区間(長崎~武雄温泉)で160km~200km/h程度の高速運転ができれば、事実上のスーパー特急方式にでき、さらに数分程度の時間短縮が可能になる。ついでに言えば、事実上のスーパー特急方式といわれる路線にはかつての北越急行「ほくほく線」のほか、現在も運行が続けられている成田スカイアクセス(いずれも160km/h)があるが、これらがいずれも直流1500V方式であるのに対し、九州の在来線は新幹線と同じ交流電化方式(電圧は異なる)なので、スーパー特急にするための技術的障壁は直流区間ほど高くないといえる。博多で山陽新幹線への直通ができなくなることがこの方法唯一の欠点だが、FGTがとん挫し、全線フル規格格上げも実現しなければどのみち直通はないのだからそれが今さら問題になるとも思えない。

 ●なぜこのようなことが起きているのか?

 1964年、世界初の新幹線を開業させ世界を驚かせた日本は、その後長期間にわたって「鉄道大国」との評価を受けてきた。だが日本がその評価をほしいままにできたのは、ひいき目に見ても1980年代までだったといえよう。国鉄分割民営化を境として、日本を鉄道大国と形容する声は今やほとんど聞かれなくなった。韓国、中国、インド、インドネシアなど新興国で次々と新幹線が走り出している横で、日本はすでに安定した実績を誇るタルゴ社からの技術協力まで受けながら、いまだFGTに実用化のめどをつけられないでいる。高速バスでも間に合う程度の距離しかない長崎~博多間で新幹線のために1兆円が投じられようとしている一方、鉄道を残してほしいという日高本線沿線住民の声は聞き入れられずバス転換が提案されるなどその場しのぎでちぐはぐな策しか持ち合わせていない。日本の鉄道はいつからこんなに落ちぶれてしまったのか。

 FGTの失敗、そして長崎新幹線の迷走の要因はいくつも考えられるが、代表的なところをいくつか挙げるなら「FGT成功を過信したぎりぎりで余裕のないスケジュール」「台車に重りを乗せて車輪の回転試験を行うのみで、営業車両と同様の条件でのテストもせず試験走行を“順調”と評価した国土交通省の自分に甘い体質」「新幹線ではなく新幹線“工事”が欲しいだけのゼネコンや政治家、沿線自治体」「失敗を失敗として受け止められず、事後処理でも地域エゴむき出しの佐賀・長崎両県」などだ。そこでは典型的失敗公共事業につきものの、お決まりのドタバタ劇がまたも無反省に繰り広げられているようにしか筆者には見えない。

 日本の鉄道をめぐる、この目を覆わんばかりの惨状に対して、さすがに鉄道人としての忍耐も限界に達したのだろう。30年前、国鉄分割民営化で主導的役割を果たし、JRグループ発足後の数年間「国鉄改革は大成功、世界の鉄道改革の見本になる」などと喧伝していた改革推進派のOBたちからも、疑問やJRグループの再編を求める声が公然と上がり始めた。松田昌士・元JR東日本会長や黒野匡彦・元運輸事務次官が「改革に乗り出せばJRグループを作った先輩を否定することになる」などと恐れず、時代の変化に合わせて改革をしてほしい――と相次いで発言している。石井幸孝・JR九州初代社長も、いてもたってもいられなくなったのか「日本の鉄道政策全体を見渡す司令塔が必要」と最近、新聞紙上で発言した。JR1047名不採用問題にかかわってきた筆者としては、分割民営化推進派だった彼らに対していろいろと複雑な思いがある。一方で「鉄道事業の動かし方」「全体を俯瞰した鉄道政策の作り方」を知っていた事実上最後の世代である彼らが、命あるうちにと発言を始めている現状に「そこまで深刻な事態なのだ」と率直に危機感を覚えざるを得ないこともまた事実である。JRグループはやはり不可逆的崩壊過程に入っており、数年のうちに劇的な変化が待ち受けている――筆者は今、そんな予感を抱いている。

(黒鉄好・2018年7月21日)

【金曜恒例】反原発北海道庁前行動(通算299回目)でのスピーチ/与党の得票率が高い地域ほど再稼働が進む!

2018-07-21 11:14:10 | 原発問題/一般
 みなさんこんにちは。

 この道庁前行動も、この7月で6周年となり、7年目に入ります。そして来週、7月27日の行動で300回を迎えます。私は残念ながら来週、そして再来週と参加できません。そこで1週早いですが、道庁前行動6周年と300回記念の特別企画として、今日はこれまでどこでも語られなかった驚くべき新事実を皆さんにお伝えします。題して「原発再稼働の順番は何を基準にして決まっているか」です。

 全国各地で粘り強く上がり続ける反原発の声にもかかわらず、福島第1原発後、日本では原発再稼働が進んでいます。この再稼働の基準、別の言い方をするならどの原発から先に動かすかを政府や原子力ムラがどのようにして決めているのかというのが今日のテーマです。

 原発再稼働に当たっては、福島第1原発事故後に改正された原子炉等規制法に盛り込まれた新規制基準を根拠に、原子力規制委員会が「適合審査」を行い、合格したら決定書が交付され稼働できるようになるというのが一応の建前です。しかしこれはもちろん建前にすぎません。田中俊一・前規制委員長自身が、適合審査を「安全とは申し上げない」と言っていますし、彼らは権力を持っていますから、自分たちが原発を建てた場所、建てようとしている場所をいくらでも安全だということにしてしまえるからです。今では原発に反対している小泉純一郎元首相は、首相在任当時「自衛隊のいるところは非戦闘地域」という迷言(?)を残しましたが、政府・原子力ムラにとっても「原発のあるところは安全地域」なのです。そんな連中の言っている「安全」に何の根拠もありません。

 そうなると再稼働の順序が何を根拠に決まっているのかますますわからなくなります。そこで、今日は皆さんのお手元に資料をお配りしています。これからはその資料を見ながら聴いてください。この資料は、やや古いですが、民主党政権が倒れ自民党に政権が戻った忌まわしい2012年総選挙で、全国11ある比例区の地域ブロックごとに与野党の得票率が有効投票数の何%あったかを集計し、それを現在までの原発再稼働状況と照らし合わせたものです。与党の得票率が高いブロック順に順位も付けました。



 これを見ると、有効投票数全体に占める与党票の割合がダントツに高いのが中国ブロックで49%と与党が過半数に迫っています。次に高いのが九州ブロックと四国ブロックで46%。北関東ブロックが41%の4位で続き、5位が40%の北陸信越ブロックです。この北陸信越ブロックにはなんと原発が17基もあり、これでは命がいくつあっても足りません。以下、6位東海ブロック、同率で7位が北海道と東北ブロック、同率で9位が南関東と近畿ブロックです。そして与党の得票率が最も低いのが東京ブロックです。

 こうしてみると、与党の得票率は大都市で低く地方ほど高いこと、そして全体的に西に行くほど高く東に行くほど低い「西高東低」型であることがわかります。中国、九州、四国は40%台後半で、この3ブロックが原発推進の自民党政権を支えていることも見えてきます。

 原発が再稼働している地域を見てみましょう。九州ブロックが玄海の3、4号機と川内1、2号機。5基のうち4機がすでに再稼働しています。四国は伊方の3号機が再稼働しましたが、ご存知のように広島高裁の仮処分で現在止まっています。そして北陸信越ブロックが大飯の3、4号機と高浜の3、4号機。合計4機が動いています。

 与党の得票率が同率2位の九州、四国ブロック、5位の北陸信越ブロックに再稼働が集中していることがわかります。これで今日、私が申し上げたいことは皆さんにわかっていただけたと思います。政府・原子力ムラは、安全性を根拠にして原発再稼働の順番を決めているのではありません。ずばり「与党の得票率が高い地域から順」に再稼働が決まっているのです。

 しかしこれは別に不思議なことでも何でもありません。与党の得票率が高いということは、逆に言えば反対勢力の少ない地域、反対運動が孤立させられ力を結集できない地域ということでもあります。あなたが与党の政治家なら、反対、抵抗の動きが強いところと弱いところではどちらを選びますか? 同じ結果を出すなら反対、抵抗の少ない地域を選んだほうがかけるエネルギーが少なくて済むのですから当然です。

 与党の得票率がダントツに高い中国ブロックで、島根原発が動いていないことは不思議に見えます。しかしこれにも理由があります。安倍首相が山口県、最大派閥・細田派の細田博之会長は島根県。ここには竹下派の竹下亘会長もいます。石破派の石破茂会長も島根、岸田派の岸田文雄総務会長は広島です。自民党に8つある派閥のうち4つのトップが中国ブロックに集中しています。安倍首相を加えると5人です。自民党が「合区」されてしまった島根・鳥取を救済するためだけに選挙制度改悪法案を強行して通した理由もこれでよくわかります。

 島根選出の細田さんは、自民党の原発推進派議員連盟である「電力安定供給推進議員連盟」の会長で、過去には「福島の不幸くらいで原発をやめるわけにいかない」と発言して批判された過去もあります(参考記事)。本当に原発が安全だと思っているなら、まずご自分の地元の中国ブロックで堂々と原発を動かせばいいんです。でもこの人たちは、自分たちの地元の原発は動かさずに安全地帯にしておいて、他の地域で反対勢力が弱いところから順に原発を動かしていっています。自民党は本当に卑劣で汚い政党です。

 「どうせ自民党が勝つから仕方ない」とみんなが選挙に行かなければますます自民党の得票率が上がります。たとえ自民党が勝つという結果は変えられなくても、自民党の得票を1票でも減らす。得票率を1%、いや0.1%でも0.01%でもいい。減らすことが再稼働を遠ざけることにつながることを、今日私がご紹介したデータは示しています。先ほど私は自民党の得票率が「西高東低」だとお話ししました。西高東低はお天気の世界では「冬型」気圧配置といわれます。しかし、冬来たりなば春遠からじ、永遠に終わらない冬はありません。冬の後に春は必ず来るのです。小選挙区制の下で死票になってもいいんです。あきらめずに選挙に行き、野党に投票して自民党の得票率を減らしましょう。

 さて、来週はいよいよ300回を迎えます。私は大阪に行くのでこの道庁前には参加できませんが、大阪で関電前の行動に参加してきます。道庁前の行動が300回に達したことも大阪の皆さんに報告したいと思います。皆さんきっと元気が出て、暑さも吹き飛ぶと思います。

 今日は以上で終わります。ありがとうございました。

【管理人よりお知らせ】安全問題研究会サイトに浦河町での講演資料を掲載しました

2018-07-16 10:48:01 | 鉄道・公共交通/交通政策
管理人よりお知らせです。

当ブログ管理人は、7月14日、浦河町で行われた「いま改めて考えよう!日高線の役割」と題したフォーラムでパネラーを務め、廃線危機の原因がJR北海道の経営のまずさにあること、「輸送密度」のまやかし、第三セクター鉄道を維持してきた地域が自立の先進例になりつつあること――等、鉄道維持の重要性を明らかにする発言を行いました。

この際、使用したスライド資料「JR日高本線から~鉄道と観光、そして 「地域力」」を安全問題研究会サイトにアップしましたので、ぜひご覧ください。

安全問題研究会が公表した他の資料「第三セクター鉄道の現状をどう見るか」「第三セクター鉄道の転換当時の状況と現状一覧表」(いずれもPDF版)と併せてご覧いただくことにより、改めて、廃線危機がJR北海道の経営のまずさに起因していること、他の第三セクター鉄道にできることがなぜJR北海道にできないのかの検証が廃線論議の前に必要であること――等が見えてくると思います。

【福島原発事故刑事裁判第20回公判】津波対策先送りはやはり東電の赤字転落回避のためか?

2018-07-14 15:06:57 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟。7月6日の第19回公判に続き、第20回公判が7月11日(水)に行われた。この公判の模様を伝える傍聴記についても、福島原発告訴団の了解を得たので、掲載する。次回、第21回公判は7月24日(火)に行われる。

執筆者はこれまでに引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さん。

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●防潮堤に数百億の概算、1年4か月で着工の工程表があった

 第20回公判の証人は、東京電力の堀内友雅(ほりうち・ともまさ)氏だった。1994年に入社、2007年から2011年7月まで、本店原子力設備管理部の土木技術グループ(G)に所属していた。現在は福島第一廃炉推進カンパニーの土木・建築設備グループ課長だ。

 検察官役の山内久光弁護士の質問に答えて、2008年7月段階で沖合防潮堤の建設費を数百億円と概算していたことや、国や県への説明、設計や許認可を経て着工までに1年4か月かかるとした工程表をつくって武藤元副社長に示していたことを堀内氏は明らかにした。

●「非常に高い壁を作らないと浸水する」

 堀内氏の所属する土木技術Gは、防潮堤など港湾施設や、排水路など耐震重要度がそれほど高くない施設を担当している。

 2008年当時、東電本店の原子力設備管理部(吉田昌郎部長)のもとには、「土木技術G」のほかに、津波想定や活断層調査を担当する「土木調査G」(これまで証人になった高尾誠氏、酒井俊朗氏、金戸俊道氏らが所属)、取水路など安全上重要な施設を担当する「土木耐震G」など、土木関係グループがいくつかあった。

 このほか、建物の中に入っている設備の耐震を検討する「機器耐震技術G」、地震の揺れの評価や建屋の設計をする「建築G」などもある。

 2008年4月23日、土木関係のGのほか、建築G、機器耐震Gなどの担当者が集まって打ち合わせが開かれた。ここで、想定津波高さが10数mとなる見込みで、海抜10m(10m盤)に設置されている主要な建物への浸水は致命的であるとの観点から、津波の進入方向に対して鉛直壁の設置を考慮した解析結果が提示された。

 堀内氏は、この会合には出席していなかったが、出席していた土木技術Gの同僚から口頭で報告を受けた。


2008年4月23日の会合で示されたシミュレーション


 「非常に大きな津波評価が出たようだと聞いた」

 「非常に高い壁をつくらないといけないという話だった」

 「作るか作らないか決めたかまでは聞いていない」

と証言した。

 反対尋問には「陸側の10m盤を全部覆う壁は必要ではなく、遡上高さが高くなっている部分に高い壁が必要になる」という認識も示した。これは東電側の主張と同じだ。ただし堀内氏は海の構造物の担当で、10m盤の上にたてる防潮壁は担当外だった。


4月の会合資料。赤文字で、敷地南側の津波高さが「15.707」m、敷地北側の津波高さが「13.687」mという予測が示された


●詳しい工程表を武藤氏に提出した

 2008年6月10日、原子力設備管理部の吉田部長、土木調査Gの酒井氏、高尾氏らと一緒に、堀内氏も出席して、武藤氏に津波評価と対策について説明がなされた。

 この日は最終的な決定はされず、武藤氏から4つの宿題が出された。そのうちの一つは、堀内氏が担当することになった。沖合に防潮堤を設置するために必要となる許認可を調べることだ。

 堀内氏は、以下のような工程表をつくった。

 国・県への説明
 温排水の予測
 漁業補償交渉
 防波堤設計 意思決定から1年
 許認可   1年4か月
 防波堤工事 1年4か月で着工

 そして、工事着工後は1年で約600m分の防潮堤を作ることができると見積もった。既設の港湾をすっぽりカバーする約1.5kmから2km分なら、建設の意思決定から防潮堤完成まで約4年になる。

 また費用としては、数百億円規模と概算した。単価として水深20mの場所に長さ1mで約2000万円。それが2kmで400億円という計算だ。 

●消えた沖合防潮堤

 2008年7月31日、土木調査Gの高尾氏や酒井氏らはあらためて、津波想定の検討結果や、6月10日に出された宿題への回答を武藤氏に報告。ここで堀内氏の概算結果や工程表も示された。武藤氏は、「すぐには対策に着手せず、津波想定について土木学会で審議してもらうこと」を決めた。いわゆる「ちゃぶ台返し」だ。

 この会合後、土木技術Gとしては、「あまりかかわることが無くなった」と堀内氏は証言した。「沖合の防潮堤に頼らない方向になったから」と説明した。

 「数年の時間稼ぎなら問題ない」と武藤氏は考えた?

 これまでの東電社員や専門家の証言をもとに、「ちゃぶ台返し」(2008年7月31日)時点での、武藤氏のアタマの中を想像してみよう。

 「津波地震(15.7m)を想定しないとバックチェック審査は通らない」と土木調査Gで証言した全員が考えていた。また、規制当局との約束で、バックチェックは2009年6月までに終えなければいけない。それまでに対策も終わっていないと運転継続が難しくなる恐れがあった。

 津波対策を検討する土木技術Gは、沖合防潮堤に最短4年、数百億円と見積もり(堀内氏の証言)。

 津波地震の予測を公表せずに、その対策工事に着手することはできない(酒井氏の証言)。工事は大がかりで目立つからだ。

 津波地震の津波(15.7m)が襲来すると全電源喪失する可能性が高い(溢水勉強会2006)。

 工事着手のため、津波地震による津波想定(15.7m)を公表した状況を想定してみよう。すると、津波地震に無防備な状態で、運転したままそれへの対策工事をすること(最低4年かかる)に、地元から反対される可能性があった。

 すなわち、工事に着手しようとすると、福島第一や、同様に津波が高くなる福島第二の停止を迫られるリスクがあった。当時、新潟県中越沖地震(2007)で柏崎刈羽原発が全機停止しており、さらに原発が減ると供給力に不安が出てくる。

 「ちゃぶ台返し」時点では、東電は2007年度、2008年度連続の赤字がほぼ決まっていた。2009年度、3年連続の赤字は、避けるよう勝俣氏から厳命されている。数百億円の津波対策工事費、原発停止にともなう燃料費増は、受け入れられない。



 さてこの窮地で、武藤氏はどう考えたのだろう。以下は推測だ。

 現状では審査に通らない理由は、「審査する人が、津波地震抜きでは認めてくれそうにないから」(土木調査Gの社員による証言)。

 武藤氏は思いついた。「それなら、審査する人たちを、うまく説得すればいい」。バックチェック審査を担当する数人の専門家を説き伏せるだけで、3年連続赤字が回避できるなら簡単だ。それで時間を稼ぎ、財務状況が良くなってから工事すればいい。工事はかなり困難だが、そのころには自分も担当役員から外れている。

 もちろん、専門家に「見逃してくれ」と言っても通用しない。そこで、「当面は津波地震(15.7mになることは伝えない)が入っていない旧土木学会手法(2002)でバックチェックを進める。そのあと土木学会手法を改訂し、津波地震の取り入れを検討する。それにしたがって対策はする。いずれ津波対策は実施する」という理由を考えた。

 そして、専門家の大学研究室に個別訪問し、密室で交渉していく。「技術指導料」という謝礼を払うこともあったと見られている(阿部勝征氏による)。

 本当は「2009年9月までに最新の知見を取り入れてバックチェックをすること」を東電は原子力安全・保安院や原子力安全委員会と約束していた。しかし、その約束を、津波の専門家は知らない。「土木学会で審議し、いずれ対策を実施するならいいか」と東電の説得を受け入れた。土木学会の審議は2012年までかける予定だった。

 「万が一の危険を避けるため、3年以内(2009年まで)に最新の知見を反映させるバックチェックの趣旨に反している」と反対する東電社員もおらず、「経営判断だ」と受け入れた。

 武藤氏も津波の専門家たちも、最近400年間に3回しか起きていない津波地震が、東電が対策を先延ばしする数年の間に起きるとは考えていなかったのだ。いや、「考えたくなかった」という方が正しいかもしれない。