安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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いま明らかになる朝鮮半島分断の真相、そして休戦協定60年を迎えた朝鮮半島の今後は?

2013-07-31 22:24:00 | その他社会・時事
朝鮮半島を分断する38度線の秘話(ナショナルジオグラフィック)

朝鮮戦争の休戦協定締結から29日で60年を迎えた。当ブログの記憶する限り、どのような経緯をたどって朝鮮半島が分断されるに至ったのかの詳細が明るみに出たことは、これまでほとんどなかったと思う。リンク先の記事は、南北を分断する境界線の策定作業に従事した当事者の証言という意味でとても貴重なものである。休戦協定締結60周年という節目に当たり、いま世に出しておかなければ真相が永遠に闇に葬られるという危機感もあるのかもしれない。

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(前略)

 時間は限られていた。日本に宣戦布告したソ連は、アメリカが日本の本土を占領する前に一気に朝鮮半島を南下、占領してしまう恐れがあった。当時、アメリカの部隊はまだ966キロ離れた沖縄にいた。

 38度線が“経済的、地理的な意味を持たない”ことはラスクにもわかっていた。朝鮮半島は過去1000年のうち大半を、地理的には統一体として存在してきたからだ。しかし、冷戦時代の幕開けを告げる米ソ対立の中、“軍事上の便宜”がなによりも優先した。そして、朝鮮半島はあくまで一時的に分割されることになる。

(中略)

 緊急で、そして重圧がのし掛かる大変な任務、アメリカが占領する範囲を決めなければならない。ティックも私も半島の専門家ではなかったが、首都ソウルはアメリカ側に入れるべきだと感じた。軍が広い範囲の占領に反対していることも知っていた。そこで、ナショナルジオグラフィックの地図を引っ張り出し、ソウルのすぐ北にぴったりの境界線はないかと探してみた。しかし、適当な地理的境界は見つからない。代わりに目に入ったのが、緯度38度の直線だ。上司に提案してみるとすんなり通ってしまった。ソ連も同意したのには驚いたが。

(以下略)
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この証言で貴重だと思うのは、米国が朝鮮半島の分断を「一時的な措置」と考えていたこと、ソウルは米国側が押さえるべきと考えていたにもかかわらず、「軍が広い範囲の占領に反対している」という当時の状況が明らかにされたことである。当ブログは、米国は朝鮮半島全体を支配下に収めたかったにもかかわらず、ソ連との関係を考慮して断念したのだろうと想像していたから、特に後者は意外な感じを受けた。

当時、米国はアジアのどこかを「共産主義の防波堤」にする必要があったが、中国がその役割を担える可能性はすでになくなっていた。朝鮮戦争が始まった当時(1950年)、中国は共産党が政権を握り、中華人民共和国となっていたからだ。米国は、日本に再軍備をさせれば再び軍国主義が復活しかねないと考え、日本再軍備には慎重だと考えられていた。となれば、「共産主義の防波堤」になり得るのは朝鮮半島しかない。「米国は朝鮮半島全体を支配下に収めたかったにもかかわらず、ソ連との関係を考慮して断念したのだろう」と当ブログが想像したのはこのような考えからだった。ところが実際はそうではなく、米軍サイドは“経済的、地理的な意味を持たない”朝鮮半島の「広い範囲の占領に反対」していたというのだ。

第二次大戦以降に米国が行った軍事行動、そして占領した国々とその占領の仕方を見るとひとつの「共通点」が見いだせる。米国が地上軍を投入してまである国を占領するのは、その国が(1)反民主主義的政治体制にあり早急な解体が必要な場合、(2)石油などの資源が豊富で略奪したい場合・・・のいずれかに限られる。(1)の典型例が日本であり、(2)の典型例がイラクだった(実際には米国は(1)を建前としてイラクを占領したが、本音は(2)にあった)。(1)(2)のどちらにも該当しない国の場合、米国は基本的には占領したがらない。米国は何も考えていないように見えて、実際にはその国を占領すべきかどうか、「費用対効果」を見極め、きわめて現実的、実利的に判断しているのだ。

そのように考えるならば、当時の米国にとって、資源もない朝鮮半島の全体を支配下に置くことは、効果が費用に見合わないから、米軍サイドが「軍が広い範囲の占領に反対」するというのは充分あり得ることだ。首都ソウルを押さえ、共産主義に対抗するための橋頭堡さえ確保しておけばよいという判断だったのだろう。

このことは、日本の戦後の運命をも左右したように当ブログは感じる。米国は、中国が共産党政権に変わってもなお朝鮮半島を「共産主義の防波堤」として使うことに消極的だった。理由はわからないが、その役目は初めから日本に負わせるつもりだったのだろう。逆に言えば、憲法9条を与えた日本に再軍備の道を歩ませるという米国の決意は、かなり早い段階から決まっていたような気がする。

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休戦も60年続けば、戦争経験者は若くても80歳代になる。それ以下は戦争の記憶がない。国際法上、休戦は戦争状態には違いないが、事実上の終戦といってもよいかもしれない。

とはいえ、2010年11月には、韓国・延坪島が北朝鮮の軍事攻撃を受け、休戦協定発効以来初めて民間人に死者を出す事態も起きている。韓国は、私たち日本の市民も理解できる民主主義体制なので、当ブログは戦後補償問題を除いてあまり悲観をしていないが、北朝鮮は、いまだ文化大革命当時の中国のような「政治運動至上主義」の体制にある。

休戦65周年まで、北朝鮮は生き残ることができるだろうか。当ブログは、北朝鮮は案外低空飛行ながらも持ちこたえるのではないかという気がする。北朝鮮の体制側に国体護持の意思が強固であり、反体制派は存在すらせず、周辺諸国も北朝鮮崩壊を望んでいないからである。韓国は建前として「北進統一」を掲げているが、東西ドイツが統一後、経済状態の悪い旧東ドイツを抱えて苦労した例を見ているので、北朝鮮を吸収するのに二の足を踏んでいるのだと思う。

東アジア全体にとって困るのは、北朝鮮が経済の極度の困窮、軍の暴発などによって予期せぬ崩壊をすることだ。その際、朝鮮労働党政権なき後の朝鮮半島北部はどのような運命をたどるだろうか。

(1)韓国による統一
韓国自身は乗り気ではないが、周辺諸国からの圧力で渋々統一に応ずるシナリオである。東西ドイツ統一と同じ経過であり、統一後の政府は苦労するであろうが、民族の将来にとっては、民主主義による統一政権ができる最良のシナリオである。

(2)中国による傀儡政権の成立
朝鮮労働党に代わる傀儡政権を中国主導で樹立するシナリオである。現実的には最も実現可能性が高く混乱は少ない。中国は大規模な経済・食糧支援を行い、なんとしても傀儡政権維持に努めるであろう。この場合、朝鮮半島の分断は続く。

(3)中国が軍事侵攻し、直接統治
傀儡政権の樹立も難しいほどの混乱に見舞われた場合、中国がやむを得ず発動するかもしれないシナリオだが、中国はできるだけこの方法は避けようとするだろう。なぜなら中国がもし旧北朝鮮エリアを占領した後に撤退した場合、中国にとって領土を手放すという「悪しき前例」となるからだ。そうなれば「チベットも手放せ」「ウイグルからも撤退せよ」と要求を突きつけられ、今度は中国が制御不能の混乱に陥る可能性がある。

このシナリオを採った場合、中国が「領土撤退ドミノ」を恐れ、逆に朝鮮半島北部から永遠に撤退できなくなるかもしれない。そうなれば、旧北朝鮮エリアが中国の一部に完全に組み入れられ、朝鮮半島の統一はほぼ半永久的に不可能になる。朝鮮半島にとって長期的には最悪のシナリオである。

米国が旧北朝鮮エリアを占領することは、絶対にないと断言できる。東西冷戦が最も激しく、米国に最も国力があった第二次大戦直後ですら、米国は効果が費用に見合わないとして朝鮮半島全体を支配することを見送ったのだ。ソ連も存在しない現在、当時より国力も落ちた米国が実利のない占領などするはずがない。一時的な混乱はあっても、最終的には上記(1)~(3)のいずれかに落ち着くであろう。

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【福島原発告訴団よりお知らせ】8月4日、告訴受理1周年行動にご参加を!

2013-07-29 23:24:40 | 原発問題/一般
管理人よりお知らせです。

昨年8月1日に、福島原発告訴団が行った第1次告訴が受理されてから早いもので1年を迎えます。この間、福島原発告訴団は告訴を受理するよう検察当局に様々な行動による働きかけを行ってきましたが、起訴はもちろん、関係者に対する任意の事情聴取が行われただけで強制捜査すら行われていません。

この状況に危機感を抱く福島原発告訴団では、告訴受理1周年を機会に、8月4日に告訴受理1周年行動を実施します。利益のためなら何をしてもいいという企業の儲け至上主義がまん延し、モラルが崩壊する中で、法治国家としての日本を再生するためには、原発事故という未曾有の犯罪を実行した企業がきちんと処罰を受けることが必要です。

当ブログとしては、ぜひ多くの皆様の行動参加を呼びかけますが、昨日の記事でお知らせしたとおり、現在、福島第1原発3号機が危機的状況を迎えています。屋外での集会・デモ等の行動をしている場合ではないとの思いもありますが、マスクの着用を行う等、被曝からの防護策をきちんと講じた上でご参加ください。子ども・妊婦の方の参加はお控えください。また、1年で最も暑い時期ですので熱中症対策も忘れないようお願いします。

なお、行動のスケジュール等、詳細はチラシ(サムネイルをクリック)及び福島原発告訴団サイトをご覧ください。

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福島第1原発3号機の状況に十分警戒してください

2013-07-28 22:52:20 | 原発問題/一般
先日来、福島第1原発3号機から時折「湯気」のようなものが立ち上る現象が報道されています。

東電は、「雨水が冷やされたもの」などとのんきな発表をしていますが、「過去には雨が降ってもこんなことはなかったのに、なぜ今になってこのような現象が起きるのか」との疑問を抱いていました。

フリーライターで元大学教員の守田敏也さんのブログ「明日に向けて」に、詳しい解説記事が掲載されています。事態はかなり切迫していると思われるのに、アベノミクスに浮かれて突っ込んだ報道を行わない大手メディアは「終わっている」と思います。

以下、「明日に向けて」の記事にリンクしますので、特に東北、関東にお住まいの方はぜひ目を通しておくことをお勧めします。

明日に向けて(715)福島3号機が不穏な中、笠間市で原発防災についてお話します!

明日に向けて(716)福島3号機が不穏当です。避難準備をはじめ最大級の警戒を!

明日に向けて(717)福島3号機の「湯気」は格納容器内部から・・・避難準備と警戒を!

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スペイン列車事故について

2013-07-26 23:30:25 | 鉄道・公共交通/安全問題
スペイン列車脱線、速度超過はなぜ起きたのか(ロイター)

スペインでの列車事故は、死者が80人を超えるなど、近年のヨーロッパでは最悪のものとなっています。同様の事故が日本で発生しうるのかを含め、関心を抱いている方も多いと思いますので、現時点での国内報道の範囲で簡単にコメントします。

速度超過による転覆脱線事故であるとすれば、類似の事例として、私達日本人がいまだに忘れ得ないJR福知山線脱線事故が挙げられます。JR福知山線事故も、50km/h近い大幅な速度超過がありましたが、今回の事故は80km/h制限の区間を190km/hで走行するという考えられない暴走ぶりです。遅れを取り戻すために制限の2倍以上の速度で走行した人為ミスに加え、速度照査型ATSに相当する設備の不備が複合して起きたものです。

現在までの報道で、スペイン国鉄が現場のカーブに「速度照査型の自動列車停止装置があったが、200km/hを超えないと動作しない設定になっていた」「そもそも自動列車停止装置がなく、あるのは列車ブレーキ警告装置だけだった」との情報が錯綜していますが、どちらにしても日本の鉄道では考えられません。新幹線はもちろん、在来線でもあり得ないレベルのずさんさです。

高速鉄道の場合、列車速度のコントロールは在来線のような色灯信号(赤・黄・緑)によるのではなく、運転席に速度指示を送る車内信号の場合がほとんどです。日本の新幹線では、ATC(自動列車制御装置)による制御が行われており、先行列車との適切な車間距離を計算してATCが運転席に速度指示を出します。運転士が信号指示に従わなかった場合、ATCが自動的に指示速度まで減速してくれます。高速鉄道では、最低でもこれくらいの安全装置は持つべきでしょう。

日本では、1963年の三河島事故(三重衝突事故)を契機にATSの整備が進みました。それまでは、赤信号の場合に運転士に警告する車内警報装置があるだけで、これは運転士が鳴動後に解除すれば赤信号のままでも走れる装置でした。しかしこれでは事故が防止できなかったため、運転士が赤信号を無視した場合に自動的にブレーキをかけるATSに進んでいった歴史があります。その後、1967年からはすべての私鉄が速度照査型ATSとするよう運輸省から通達が出され、より安全が強化されていきました(この時の運輸省通達が、どういうわけか私鉄だけを対象にしており国鉄を対象としていなかったため、国鉄~JRでの速度照査型ATS整備が遅れ、結果として福知山線脱線事故につながったことは、当研究会が指摘してきた通りです)。

今回のスペインの事故が国内の報道の通りだとすると、この高速鉄道の安全装置は、日本でいえば三河島事故以前の水準のものだということになります。そんな貧弱な安全装置で200km/hの高速走行をしていたのだから背筋が寒くなります。スペイン国鉄は怠慢といわれても反論できないし、「死者が出ないことを祈っている」と発言するなど、ギャンブルでもするような感覚で公共交通の運行に携わった乗務員は責任を問われて当然でしょう。

スペインをみて日本と国情が違うと思ったのは、今回の事故現場のような急カーブを駅間に設けていることです。高速鉄道では、減速の必要な区間を減らすため、カーブをできるだけ避けるのが原則です。どうしてもカーブを設けざるを得ない場合は駅の付近にすれば、停車のため減速するところでカーブとなるため効率のよい走行ができます。日本の新幹線を例に取れば、熱海駅や徳山駅(山口県)、仙台駅などの前後に集中的にカーブを設けています。

もうひとつ、公開された脱線の瞬間の映像を見ると、2号車が最初に転覆し、それに引きずられるように各車両が転覆しています。鉄道アナリスト川島令三さんは、この車両が電源車で重心が高く、転覆しやすい構造だったのではないかと指摘しています。重心の位置は、その車両が脱線しやすいかどうかを決定する最も重要な要素で、高ければ高いほど不安定となり転覆の危険が増します。日本では、重心の高さも技術基準で定められており、電源車であることを理由に重心を高く取ることは認められていません。このあたりも国情の違い…というより、スペイン国鉄のずさんな体質を物語っています。

なお、電源車ですが、これは列車の走行電源ではなく、空調、照明など車内設備の電源をまかなうため、ディーゼルエンジンを積んでいる発電専用車両です。通常、電化区間では車内設備の電源も架線から集電した電気を使えばよいため、電源車を必要としません(スペインの事情には詳しくありませんが、日本だと直流区間は1500V、交流区間の在来線は20000V、新幹線は25000Vもの電圧があります。この電圧のままでは車内電源用としては高すぎるため、変圧装置で車内電源用の交流440Vに変圧した後、車内に流します)。報道によれば、この車両は電化区間、非電化区間の両方を走れる車両とのことで、架線から電源の取れない非電化区間で車内電源をまかなうために電源車を連結しているのだと思います。

今後のスペイン当局による原因究明に期待したいと思いますが、全体として「人災」と結論づけられる事故だというのが、現時点での当研究会の見解です。

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参院選挙の結果を受けて(追記)~東京選挙区の画期的成果について

2013-07-24 22:14:42 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

7月21日投開票の参院選挙の結果については、すでに拙稿「参議院選挙の結果を受けて~前進する市民、後退する政治」(レイバーネット日本)で詳しく論評した。東京選挙区に関して言えば、23日付東京新聞社説(山本太郎氏当選 「脱原発」求めるうねり)が論評するように、5人の当選者のうち3名が脱原発の候補者。民意との間にねじれはなく、筆者は満足している。

事前の予測報道では、山本太郎さんは最後の5議席目を鈴木寛氏(民主)と争っている…という下馬評だったので、4位当選、夜9時過ぎという早い段階での当選確実にとても驚くと同時に、武見敬三氏(自民)と鈴木氏が5議席目を争っているのを見て意外な感じを受けた。武見氏はもっと楽に当選を決めると思っていたからだ。最終的には、何とか鈴木氏を退けたものの、メディア各社が武見氏の当確を打ったのはようやく日付も変わろうとする頃だった。

トップ当選を果たした丸川珠代さんをはじめとして、自民党候補のほとんどは開票開始の夜8時と同時に当選確実となり、早々と大勢が決まった。そんな無風選挙の中で、これほどの苦戦を強いられた自民党候補は(落選者を除けば)武見氏くらいだろう。

前回(6年前)の参院選で、自民党は候補者を丸川さん1人に絞り、武見氏は比例区から出馬し当選した。今回の選挙では、自民圧勝の流れを見た安倍首相の意向で武見氏を比例区から選挙区に鞍替えさせたと言われる。もともと選挙区に地盤のない武見氏だけに、無理に2人を擁立して落選となれば、安倍執行部の責任にもなりかねなかった。

私は、他の自民候補が楽々と当選してゆく中、武見氏1人が苦戦しているのを見て、逆に「この候補者の裏には何かがあるのではないか」との疑問を抱いた。調べてみると驚くべき事実が浮かび上がったので、鈴木氏とともにお伝えする。この事実を知れば、脱原発派の2人の候補(吉良よし子・山本太郎)の3位・4位当選がどれほどの快挙かわかる。その画期的成果をみんなで確認しておくことは、政治的に十分な意味を持つと思うからだ。

●モルモット県民調査の支援者、武見氏

武見敬三氏の父は、元日本医師会長の武見太郎氏。その経歴のためか、武見氏には「医師会のサラブレッド」との評価もある。自身は東海大学教授を務めるかたわら、2012年3月から福島県立医科大学客員教授も兼ねる。

福島県立医科大学と聞いて、ピンと来た人は多いだろう。福島県民を避難させず、事実上モルモットにして「県民健康管理調査」を続ける大学だ。武見氏の県立医科大学での役割は、同大のサイトによれば「県民健康管理調査支援(外国人支援、評価、調査結果活用等)、国際的発信(広報、国際会議等)、人材育成支援、国際機関等との連携」となっている。県民健康管理調査検討委のメンバーではないが、その周辺業務を任されている人物であることは、この資料から一目瞭然である。かの山下俊一・福島県立医大前副学長(現在は任期を終え長崎の大学に帰任)が主導する「モルモット県民調査」の後方支援を今なお続けているのだ。

(県民健康管理調査の恐るべき実態については、拙稿「黒鉄好のレイバーコラム 第10回・被曝地フクシマで進行する戦慄の事態~ついに刑事告発された御用学者・山下俊一らの大罪を問う!」を参照)。

今回の選挙で、日本医師会の政治部門である日本医師連盟は羽生田たかし氏(比例、自民6位で当選)を推薦しており、武見氏自身は医師連盟推薦候補ではなかったが、元日本医師会長の息子という血統の良さから「個人的に支援」「個人的に投票」した日本医師会員は多かったのではないか。比例区の羽生田氏とは競合しないので、東京在住の医師会員の中には「選挙区は武見、比例区は羽生田」という投票行動を取った人も多いであろうことが推測できる。

●「SPEEDI隠し」「20mSvの主犯」説が流れた鈴木氏

一方、落選した鈴木氏だが、こちらも武見氏に勝るとも劣らない。福島原発事故当時の文部科学副大臣だ。文部科学省は、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の所管省庁であると同時に、学校内における子どもの安全管理も担当する。

文部科学省は、SPEEDIが実際にはかなりの精度を持ち、シミュレーションの結果も実際の放射能汚染状況をほぼ正確に反映していながら、「信頼性に欠ける」としてなかなか公表しなかったことが情報隠ぺいと批判を受けた。また、事故前までは一般公衆の年間被曝線量を1ミリシーベルト以内とするICRP(国際放射線防護委員会)勧告がありながら、子どもの学校利用基準を一気に年20ミリシーベルトにまで引き上げる「改悪」を行い、市民の激しい抗議を受けた(いうまでもなく、成人のみを対象とした原発労働者の被曝基準でさえ「年50ミリシーベルトかつ5年で100ミリシーベルト以下」であることを考えると、この基準は殺人的である)。

この基準が決められた直後の2011年5月、20ミリシーベルト基準の撤回を求め、母親を中心とする市民が文科省と交渉したが、文科省からは官僚である次長が出席しただけで政務三役(大臣・副大臣・政務官)の誰も参加しなかった。交渉に参加した女性のひとりが「福島からわざわざ基準撤回のため交渉に来た母親もいるのに、文科省は決定権のある幹部も政務三役も出さず、次長でお茶を濁し「要望は承る」という姿勢。雨が降る中、屋内にも入れず、冷たいコンクリートの上に座らされた。こんな冷酷な交渉は初めて」と語るほど酷いものだった。

鈴木氏は、山本太郎さんからツイッターでこの点を攻撃されると「事実無根」「ネガティブ・キャンペーンだ」とむきになって反論した。おそらく「(基準を決めたり隠ぺいしたのは)自分ではない」と主張したかったに違いないが、そもそも山本さんが問いたかったのはそんなことではない。事務方の情報公開が遅く、また事務方の策定した基準が間違っていると思うなら、それこそ民主党政権お得意の「政治主導」とやらでひっくり返せば良かったのに、そうしなかった政治的不作為の責任を問うているのだ。

鈴木氏のヒステリックな反応は、結局のところ、民主党議員の大半が口では政治主導などと威勢のいいことを言いながら、実際には政治家と官僚の役割分担すら理解できていなかった事実を余すところなく示した。こんな政党がつい7ヶ月前まで政権にあり「政治主導」を進めていたかと思うと寒気がしてくる。少なくとも鈴木氏に政治家の資格はなく、落選させた都民の判断は賢明である。

今回の参院選で東京都民は、「SPEEDI隠し」「20ミリシーベルトの殺人基準」をみずから決めたのではないとしても、事務方のその決定を政治家でありながら覆すこともなく黙認した鈴木氏を落選させ、福島で「モルモット県民健康管理調査」のお先棒を担ぐ「医師会のサラブレッド」を、他の自民候補が楽々と当選を決めていく中で、ようやく日付も変わる頃になって青息吐息の最下位当選をするのがやっとのところまで追い込んだ。しかも、吉良よし子、山本太郎の脱原発2候補に彼らより多い票を与えることに成功したのである。市民、とりわけ女性や子どもの健康と命を軽んじる者がどれだけ哀れな末路をたどるか、票を使って見せつけることができたのだ。これを快挙と呼ばずしていったい何と呼ぶのだろうか。

子どもの命を守りたい…その純真な思いで3.11以降、無我夢中で走り続け、金曜日になれば官邸前に通い続けた市民たちの鮮やかな勝利である。すでに市民たちは、「年間100ミリシーベルトの放射能を浴びても健康に影響はない」に代表されるウソを垂れ流し続けたエセ医学者の巣窟、日本医師会に対し、1ミリシーベルトを対置することで科学的に勝利したが、今回の参院選を通じ、少なくとも東京では政治的にも勝利した。福島原発事故から2年4ヶ月、事故の風化が叫ばれる中でも「お母さん革命」は生きていたのだ。

●私たちの目指すべき「科学」とは

『日本学術会議の発足に当たって、戦時中のわが国の科学者の態度については反省すべきか否かが問題になったとき、多数決で特に戦時中の態度については反省する必要はないという事になった…とくに医学部門の人たちは一致して強く、戦時中の反省を必要としないと主張した。…旧憲法によって協力したのであるから当然の事であるというのである』。武谷三男著『科学と技術』(勁草書房、1969年)にこんな記述がある。「国策だから自分たちの責任ではない」と戦争責任を回避する科学界で医師たちは主導的役割を果たした。こんな体質だからこそ「(子どもの被曝限度)年間100ミリシーベルトは国が決めたことだから日本国民は従う義務がある」(山下俊一・福島県立医大前副学長)という暴言も生まれたのだ。彼らには原発事故の責任はもちろん、戦争責任もきちんと負わせる必要がある。今からでも遅すぎるということはない。

こうした恥ずべき医学界に対し、私たち市民はあるべき科学の姿をどのような対案として示すべきであろうか。その答えは明確だ。一貫して反核・反原発の立場から行動し続けた市民科学者・高木仁三郎はこのような言葉を私たちに遺している。

『科学者が科学者たりうるのは、本来社会がその時代時代で科学という営みに託した期待に応えようとする努力によってであろう。…社会と科学者の間には本来このような暗黙の契約関係が成り立っているとみるべきだ。としたら、科学者達は、まず市民の不安を共有するところから始めるべきだ』。

子どもたちの健康に不安を抱える母親たちを笑い飛ばし、まじめに向き合わなかった医学界のとどまるところを知らない腐敗。選挙で勝利はしても、医学界を覆う問題は何一つ解決されていない。御用科学・エセ科学を徹底的に批判し、新たな市民科学の姿を提示することこそ、私たちに課せられた義務である。

(2013.7.24 黒鉄好)

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参議院選挙の結果を受けて~前進する市民、後退する政治

2013-07-23 22:04:16 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に発表した原稿を掲載しています。なお、掲載に当たり、一部誤字脱字を修正しました。)

 参院選が終わった。公示前から自公与党の圧勝予測が流され、最後まで盛り上がりを欠いたままの選挙だった。インターネット利用の解禁も注目を集めたが、これも思ったほどの盛り上がりにならなかった。投票率は52.61%と史上3番目の低さに終わった。民主党政権崩壊後、各級選挙のたびに最低記録の更新が続いてきた流れを、今回の参院選も押しとどめることはできなかった。

 ●衆参ねじれから「民意と国会のねじれ」へ

 自公与党は過半数を確保。参院の全常任・特別委員会で委員長を出し、過半数を確保できる絶対安定多数に達した。自公のみで改憲の発議に必要な3分の2の議席は確保できなかったが、96条先行改憲派である日本維新の会、みんなの党とあわせれば3分の2を確保した。

 2007年参院選以来続いてきた衆参「ねじれ」を筆者は悪いことだとは思っていなかった。むしろ「市民にとって悪いことが次々と決まっていくよりは何も決まらない方がベター」だという新たな民意のあり方として、筆者は「ねじれ」を肯定的に評価してきた(「決められない政治からの脱却」を争点化したがっていたのが主に「1%」の側であったことがこれを物語っている)。そのねじれが解消するということは、要するに「1%」が「99%」の多数派を無視して何でも思い通りに決められるような体制が整ったことを意味する。しかし衆参ねじれは解消しても、別の形で「ねじれ」は残る――民意と国会の「ねじれ」として。今後3年間は自覚ある市民にとって正念場になるだろう。この間、脱原発、反TPP、反改憲の動きを議席に結びつけられなかったことについては総括が必要だと筆者は考える。

 しかし、総体としては、自公は報道されているほど強くなかったというのが筆者の率直な感想だ。事前報道を見る限り、自公はもっと勝つと思っていたし、現に某週刊誌の事前予測は、自民だけで70議席を超えるとしていた(実際には自民は65議席)。自公の提灯持ちに終始したメディアの責任を追及しなければならない。

 確かに、自公に過半数を許した今回の選挙は結果として大変厳しいといえる。自民党は、現制度になってから最大の議席数を確保したが、非改選と合わせた単独過半数(改選72議席以上)には達しなかった。参議院で自民が単独過半数を確保したのは中曽根内閣当時の1986年が最後。このときは衆参同日選という特殊事情が大きく作用していた。

 得票率は自民34.7%、公明14.2%(いずれも選管確定)で合計しても48.9%。筆者の記憶では、参院選の得票率で自民が単独50%を超えたのは1983年が最後であり、今回も得票率単独過半数には遠く及ばなかった。自民党は世間で言われているほど強くはなく、依然として長期的低落傾向にある。勝利はひとえに「野党のだらしなさ」が原因である。

 ●暗闇に差した希望の光

 それでも筆者は、今回の選挙結果に多くの希望を見いだす。第1に、日本共産党が12年ぶりに選挙区で議席を確保。全体でも改選前3議席から8議席と東京都議選に続く躍進を見せたこと。第2に、明確な改憲勢力(自民・維新・みんな)の3分の2確保を阻止したこと(改憲派が公明・民主の一部と連携する可能性は残っているが、改憲派も1枚岩ではないという状況を作り出したこと)。第3に、沖縄で県民の反基地の意思を受けた野党統一候補(糸数慶子・沖縄社会大衆党委員長)が自民候補を退けたこと。そして第4に、東京で、日本共産党公認候補(吉良佳子候補)に加え、脱原発・反被曝の意思を明確にしている山本太郎候補が当選したことだ。

 吉良さんは、首都圏反原発連合が主催する金曜官邸前行動に欠かさず参加してきた。山本太郎さんも、福島に居住し続けることの危険性と福島からの住民避難、内部被曝からの住民保護を一貫して訴え続けた。この2候補が揃って当選したことは、官邸前金曜行動を初めとする反原発の市民の闘いを大いに励ますものだ。

 この間の反原発・反基地の闘いの中で、市民が当選させたいと願っていた候補者の多くが当選を果たしたことは暗闇に差した一筋の光といえる。フラフラして使えない民主党議員より、市民と連携して政治のあり方をともに考え、行動できる議員を多く生み出せたことは、この間の多くの集会・デモなどによって培われてきた「草の根民主主義」が国政レベルに与えたよい影響として肯定的に評価すべきものだ。組織戦に強い自民、公明、共産各党に混じって、市民が力を増しつつあることを明らかにしたのが今回の選挙だった。

 山本太郎さんに対しては、「週刊新潮」や「自称経済学者」池田信夫氏などによるネガティブ・キャンペーンが行われたが不発に終わった。昨年の衆院総選挙出馬という実績があるとはいえ、66万票という山本太郎さんの得票数は驚愕すべきものだ。新党大地(52万3000票)、緑の党(45万7000票)、みどりの風(43万票)の各政党・政治団体の比例区得票数をも上回っている。

 今回、国政初挑戦の緑の党は、巷間噂されているところによれば、みどりの風との共闘の話も一時、持ち上がったようだ。双方の票は合計約90万。比例区で125万5000票の社民党が1議席を確保しており、共闘が実現していれば議席に手が届いた可能性がある。共闘が実現しなかったことがあらためて悔やまれる。

 ●象徴的選挙区での自民敗北

 大手メディアは自民党が岩手、沖縄以外の全1人区で勝利したことを華々しく伝えている。もちろんその事実は否定しないが、支配層の代弁機関である大手メディアは最も大切なことを伝えなかった。東日本大震災の被災地である岩手、米軍基地のほとんどが押しつけられている沖縄。象徴的な2つの場所で自民党公認候補が敗れたことは、震災復興と基地問題という「最も鋭い対決点」において自民党の政策が拒否されたことを意味する。争点隠しは通じなかったのだ。

 現在、東北被災地では「復興格差」が広がりつつある。巨大都市・仙台市を擁し独り勝ちの様相を強めつつある宮城、後れを取る岩手、原発事故のため復興どころかスタートラインにすら立てない福島の格差が明確になっているのだ。勝ち組の宮城にしても、潤っているのはゼネコンなど一部業界のみ。中小企業、自営業者、労働者には恩恵は及んでいない。村井知事が漁協の反対を押し切ってまで強行した「水産業特区」のせいで、漁業の支配権が漁民から企業に移ろうとしている。沖縄でも、普天間基地の県内たらい回しが認められる状況ではなくなっているが、自民党は県民の頭越しに県内「移設」を持ち出そうとしている。

 岩手と沖縄での自民党敗北は、他の地域とは政治的意味合いが異なる。犠牲の一方的押しつけを拒否する地方の民意が示された点において、この2つの野党勝利は画期的な意味がある。

 ●民主党の復権はあるか

 民主党政権が崩壊してから既に半年が経過、民主は昨年12月の衆院総選挙で既に十分すぎる審判を受けており、6月の都議選、そして今回の参院選と続く一連の敗北をどう評価すればいいのか。

 世間では、民主党の惨敗を歴代民主党政権の失政に求める意見が強く、インターネットを中心に「反日外交で国益を損ねた」(右派)、「大飯原発を再稼働するなど市民の要求にことごとく背いた」(左派など)と、左右両極から攻撃を受けている(筆者には「反日外交」の意味するところは理解できないが)。もちろん、それも一因には違いないが、そうした民主党政権の「失政批判」に対しては、「自民党政権に過去一度も失政はなかったのか」「地震国・日本に54基の原発という時限爆弾を仕掛けた自民党はなぜ失政批判を受けないのか」という疑問を容易に提起できる。民主党の敗因を単なる「失政批判」だけに求めることには無理がある。

 むしろ民主党の真の敗因は、主な支持基盤の中産階級が没落し富裕層と貧困層に2極化する日本社会そのものの中に潜んでいるように思われる。今回、自民党はブラック企業の代名詞である渡辺美樹・ワタミ前社長を比例区で公認するなど、かつての包括的国民政党の看板を投げ捨て、なりふり構わず「1%の党」を前面に打ち出す選挙戦を展開した。経営者政党の代表格・自民と労働者政党の代表格・共産が揃って躍進したことは、グローバル資本主義の深化によって2極化する日本社会の反映である。筆者のこの推測が正しければ、支持基盤である中産階級そのものが掘り崩される中での民主党再生の可能性はきわめて低いように思われる。

 ●選挙でのインターネット解禁の影響は?

 インターネット使用の解禁は選挙の大勢にほとんど影響を及ぼさなかった。解禁といっても、別にネット上から投票が可能になるわけではなく、単に政党・候補者が選挙期間中もネット上で政策を訴えられるようになったことと、政党・候補者以外でもメールを除くネット、SNS上で特定候補への支持を訴えることが可能になったという程度だからだ。ネット選挙の解禁でお祭りムードを盛り上げようとする動きも一部にあったが、プロブロガーやITジャーナリストなど、どちらかと言えば「盛り上がってくれないと困る」立場の人が職業的に煽っているのが中盤頃から見えてきた。

 ネット選挙が盛り上がらなかったのには理由がある。やや古くなるが、昨年9月、スイスに本部を置くインターネット普及推進団体「World Wide Web Foundation」が世界各国におけるWebの影響や充実度などを測定してランク付けした「Web Index」を発表している(参考記事)。その結果は大変興味深いもので、英語版のみだがこちらもネット上に掲載されている。

 調査結果を見ると、日本は総合点で20位。他の指標は上位の国々と比べても遜色がないのに、唯一"Political"(政治;ネットの政治への影響)という指標だけが際だって低く、全体の足を引っ張った。社会的・経済的にはネットが広く利用され、特に「コミュニケーション」の分野では80.19点という高得点をあげている(14位)のに対し、「政治」は42.62点。調査対象61カ国のうち30位と目立って悪くなっている。SNSやツイッター等、ネットを活用しての市民レベルでの交流は非常に活発でありながら、それが全く政治力に結びついていない日本のネットの特性を反映しており、筆者はこの調査結果をきわめて信頼性の高いものと考えている。日本では、インターネットが現実政治に影響力を行使できない勢力の隔離場所として機能しているような気がする。

 日本で現実政治に強い影響を与えているのは、地方の土建屋のオヤジ、企業経営者、信念も政策も空っぽなのに選挙にはやたら強い田舎首長などのグループで、典型的既得権益層だ。議員と握手したり、後援会長を務めたり、自分の業界にカネを落とすよう役所に陳情したり、自分の息子をどこそこの会社に入れろ、と政治家に要求したりするのが政治だと思っている。世の中が次第にネット時代になってきていることはうすうす感づいているものの、「そんなものはオレの仕事ではない」し、秘書か事務員を雇ってやらせるものだという感覚だ。このような層は強い政治力を持っているにもかかわらず、それがネットに表出することはほとんどない。こうした日本政治の実情を考えれば納得できる調査結果といえる。

 ちなみに、リンク先の調査結果を改めて見ると、日本と逆に、他の指標はそれほど高くないのに「政治」の項目だけ突出して得点が高いのがエジプトである。なるほど、フェイスブックでムバラク政権が倒れたといわれるだけのことはある。その後成立したモルシ政権がクーデターで倒れるなど、政情は落ち着かないが…。

 結果的に、ネット選挙を当選に結びつけられたのは、山本太郎さん1人ではないかと思われる。

 ●自民1強時代の中で

 自民党が「1強」として君臨し、それ以外はドングリの背比べのような弱小野党が並ぶ参院選後の政治風景のことを考えていて、筆者はふと、中国の政治体制を想起した。支配党の立場を保証されている巨大な中国共産党の他に、共産党では代表できない労働者階級内部の特殊な利害を代表するため、中国には共産党を補完する8つの衛星政党が認められており、民主諸党派と呼ばれる。参院選後の野党は、民主諸党派のような立場で巨大な支配党と対峙しなければならない。その困難な仕事を果たせる野党が日本共産党以外にあるだろうか。

 すでに何人かの識者が指摘しているように、今回の選挙は、民主党結党以来、支配層が目指してきた「保守2大政党体制」の終わりを告げるものとなった。55年体制に続く「96年体制」とでも呼ぶべきものの終わりとして、歴史に転換点を刻印した選挙と総括してよいだろう。再びよみがえった自民党による事実上の1党支配は、今後おおむね10年程度続くと筆者は予測している。

 私たちに課せられた最大の課題は、改憲を阻止し民主主義の基盤を守り抜くことである。改憲が現実の日程に上った場合、自覚した市民は今取り組んでいる運動を一時中断してでも改憲阻止の1点で共闘しなければならない。市民派議員が登場し、日本共産党が躍進したとしても、全体から見ればそれはほんの一部である。55年体制当時も自民1党支配だったが、当時は社会党など強力な野党が存在していた。それさえも存在しない中での自民1党支配の復活で、私たちを襲う苦難がどれだけ大きいか考えるだけでため息が出るが、そうとばかりも言っていられない。

(2013年7月22日・黒鉄好)

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参院選の不在者投票を初体験

2013-07-15 18:29:44 | その他社会・時事
参院選の不在者投票に行ってきた。誤解のないように繰り返しておくが、期日前投票ではなく不在者投票だ。

北海道に引っ越して3ヶ月。私はてっきり北海道選挙区で投票できるものと思っていた。しかし、3月まで居住していた福島県内某村からの通知で、不在者投票となることを知った。

どのような場合に不在者投票になるかは、公職選挙法でその要件が決まっている。こちらに詳しく解説されているが、地方自治体は、常に選挙人名簿(有権者名簿のこと)を備え、3月、6月、9月、12月に内容を更新するほか、選挙が行われる際に臨時更新も行われる。選挙人名簿は「その自治体の住民のうち誰に選挙権があるか」を示す最も基本的な台帳で、公選法が適用されるすべての選挙の基礎になる(地域によっては、農業委員会委員(公選)、海区漁業調整委員会委員(公選)などの選挙で有権者資格を持つ農民、漁民もいるが、これらの選挙は公選法を便宜的に「準用」して行われるものなので異なる要件がある)。もちろん、この名簿に載っていない人が投票できるということは決してない。

選挙人名簿への登録は、住民基本台帳に引き続き3ヶ月以上登録されている人を対象に自治体が職権で行うもので、住民がいちいち届け出る必要はない。定期更新は3月、6月、9月、12月の2日、臨時更新は告示日の前日が基準とのこと。

今回の参議院選挙は7月4日に告示されたから、慣例通りなら基準日は7月3日。この時点で3ヶ月以上現在の自治体に住民票があれば、現在の住所地で投票ができる。期間の計算方法は、通常、民法143条の例(暦に従って計算し、初日は算入しないが、事実の発生が午前0時であるときは初日を算入)によるので、今回の参院選の場合、現住所に住民票を置いてから基準日時点で3ヶ月を経過しているためには、4月3日までに現住所に転入していなければならないということになる。思い出せば、私が現住所に転入したのは4月4日だった。北海道への転入があと1日早ければ、こちらで投票できたと思うと、なんとも惜しい。

現住所に住民票を置いてからの期間が3ヶ月に満たない場合、現在の住所地では投票ができないが、国政選挙に関しては転出した市町村の選挙人名簿には転出後4ヶ月間は残ったままになっているので、転出した自治体で投票できる。既に住所でなくなってしまった場所が投票対象選挙区になるというのは、一見するとおかしく感じるが、現住所地で投票できない以上、どこかで投票権を認めなければ憲法で認められた投票権の侵害になってしまうから、あくまで便宜上の措置だろう。それに、よく考えてみると、引っ越してきたばかりで事情がわからない土地よりも、既に転出してしまったとはいえ「ついこの前まで住んでいて事情を熟知している場所」で自分たちの代表者を選ぶ方が選びやすいはずだから、その意味では合理的なやり方ともいえる(当然ながら、地方選挙は別)。

選挙は民主主義の基本中の基本であり、投票できるべき人ができなかったことに伴う裁判はこれまで数多く行われてきた。一時的に海外派遣中の日本人が(国内に生活の基礎がないという理由で)比例区しか投票できないのはおかしいと国を訴え勝訴、選挙区でも投票できるよう公選法が改正された例がある。最近では、成年被後見人に対し一律に選挙編を剥奪している公選法の規定が違憲とされ、今回の選挙から成年被後見人が投票できるようになったことは記憶に新しい(総務省の法令データ検索サービスで公選法を検索すると、今日現在、公選法11条(選挙権及び被選挙権を有しない者)の1項に「成年被後見人」が残ったままになっているが、法改正を反映させる作業が追いついていないのだろう。後日、おそらく反映されると思う)。

2003年に現在の期日前投票制度ができるまでは、投票当日に投票所に行けない人は、不在者投票によるしかなかった。不在者投票では、まず不在者投票したい旨を自治体に連絡し、所定の方法で宣誓書に記載した上で投票用紙を事前に取り寄せる。投票用紙が届いたら現住所地の投票所で投票するという2段階の手続が必要だった。しかも、宣誓書には当日投票できない理由を書かなければならないが、旧不在者投票の時代には「レジャー・買い物」等の曖昧な理由は認められなかった。旧不在者投票のハードルが高いといわれるゆえんであり、そのため期日前投票制度がない時代には、当日投票所に行けない人が棄権してしまうことも多かった。これに対し、期日前投票制度は「レジャー・買い物」等の理由でも認められるため、投票率を上げる効果をもたらした。

一方、不在者投票も、住所地の自治体を長期にわたって離れる人や、転居後間もないため新住所地で投票できない人など、やむを得ない人のための制度として残ったが、依然として多くの問題がある。転勤のため、正式に住所を移して引っ越した私のような人には、転居前の自治体から請求しなくても不在者投票の案内が届き、自分がその対象だと知ることができる。しかし、住所を移さず引っ越した人は自分から請求しなければ不在者投票を利用することは困難だろう。住所を移さないまま親元を離れて下宿している学生のように同情の余地があまりないケースがある一方、原発避難者、DV(ドメスティック・バイオレンス)からの避難で現住所地を秘密にする必要があるなどのやむを得ないケースもある。こうした人たちにとってあまりにも不便すぎる不在者投票制度はさらに改善の必要があるが、それがなかなか進まないのは(うがった見方をすれば)政府・与党に不利だからではないか。そのような社会的弱者がどう考えても与党に投票するとは思えないからだ。

私が福島で投票するのは最後になると思うので、補足しておこう。参院福島選挙区は、今回の選挙から定数が削減され4→2となる(非改選含む。改選議席でいえば2→1)。興味深いのは主要政党(自民・民主・共産・社民)の候補者が全員女性であることだ。こんな選挙区はおそらく全国でも福島だけだろう。原発事故以降、福島では長く抑圧されていた女性が「原発いらない福島の女たち」などの形で闘いの先頭に立った。一方、長く惰眠をむさぼってきた男性はこの重大局面でもほとんど役に立たなかった。全員がそうだと言うつもりはないが、多くの男性が行動せず、知恵もカネも出さず、出すのは口だけ。こんな醜態を見せつけられれば、どんな政党であれこんな男性たちを公認などしたいとは決して思わないだろう。その意味では、主要政党の候補者が全員女性になったのは必然の成り行きだったような気がする。もし、このブログを見ている福島の男性がいたら、私ごときに言われたことに対し憤慨する前に、知恵と行動力を見せてほしい。

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【管理人よりお知らせ】北海道、福島での反原発関係行動のお知らせ

2013-07-12 21:54:29 | 原発問題/一般
管理人よりお知らせです。

【北海道の方へ】
●「やめて再稼働 なくせ泊原発 7.13岩内行動」が開催されます。

7月13日、泊原発に近い北海道岩内村で、「やめて再稼働 なくせ泊原発 7.13岩内行動」が開催されます。

原子力規制委員会による新「規制基準」が7月8日に施行されたのを受け、北海道電力は、泊原発の再稼働に向けた「安全審査」の請求をしています。

福島原発事故の原因究明どころか、地下水の汚染がますます深刻化するなど事態は悪化の一方です。このような状態のままの再稼働申請など言語道断です。当行動は、北海道での再稼働反対の意思を表示する重要な場ですので、ぜひお集まりください。

なお、詳細は再稼働阻止全国ネットワークのサイトをご覧ください。

【福島の方へ】
●「チェルノブイリ原発事故被害者の話を聞く会」が開催されます。

7月24日、「チェルノブイリ原発事故被害者の話を聞く会」が福島県白河市で開催されます。
南相馬市からの避難者が「原発民衆法廷」(原発の犯罪性を市民法廷で裁く模擬裁判運動)について講演するほか、ウクライナからチェルノブイリ事故の被災者が来日し、講演します。

詳細は、原発災害情報センター作成のチラシをご覧ください。

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JR北海道、特急でまた火災

2013-07-07 20:56:07 | 鉄道・公共交通/安全問題
特急北斗、またエンジン付近から出火…乗客避難(読売)
JR北海道・特急火災 窓越しに炎、パニック 乗客「必死に逃げた」(北海道新聞)
<特急北斗>エンジン穴から油? 過去2回と同型車両(毎日)

JR北海道プレスリリース

特急「北斗」でまた火災が起きた。4月と同じくエンジンからの出火である。JR北海道では、従来、特急列車のトラブルはキハ283系に集中していたが、4月以降、キハ183系でもトラブルが起き始めた。

「北斗」に使われているキハ183系の基本設計は国鉄時代のもので、1990年代に入ってから「スーパー北斗」にあわせて130km/h運転できるよう改造が行われている。従来は120km/hが最高速度だったものを130km/hに引き上げたのだから、エンジンがさぞかし無理をしていたのだろう、と思われる方もいるかもしれない。しかし、キハ183系のエンジンはDD51形ディーゼル機関車のものの出力を落として気動車向けに改造したものだから、もともとの性能には余裕があり、この程度の改造で無理がたたるとは思えない。それに、スピードアップのための改造が原因なら、なぜこれまではトラブルが起きていないのにここに来て急にトラブルが起き始めたのかの説明がつかない。

これまで、キハ183系より古いキハ181系が事故・トラブルなく運用できていたのだから、それより車齢の若いキハ183系に老朽化が原因のトラブルなどあり得ないと考え、当ブログは老朽化原因説を否定してきた。しかし、キハ183系も登場から25年が経ち、そろそろ老朽化を指摘すべき時期に来ているのかもしれない。

北海道の特急車両の過酷な運転条件については、すでに過去の記事で明らかにしている。2015年に北海道新幹線が函館に延びてくると、北海道の輸送体系は大きく変わる。現状はほぼすべて新幹線の開通待ちであり、それまでは新型車両への置き換えをせず、現有車両をだましだまし使い続けるしかないのかもしれない。

しかし、それももう限界のように思う。今すぐ抜本的な対策を講ずる必要がある。特急気動車のエンジンはいま一度総点検すべきだと思う。

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【管理人よりお知らせ】「読者になる」機能の設置について

2013-07-02 23:52:31 | 運営方針・お知らせ
管理人よりお知らせです。

すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、gooブログの仕様が変更され、7月1日から「読者になる」機能が新たに追加されました。PCでご覧の方は画面左のプロフィール欄にボタンが新設されています。残念ながら、この機能が使えるのは、gooブログを開設している読者の方だけです。

gooブログを開設されている読者の方が、このボタンをクリックして、当ブログの「読者登録」をすると、自分のブログの管理用画面にログインした際、当ブログの更新情報が表示されるようになります。

もちろん登録は自由ですし、当ブログの更新情報をわざわざ知りたい、という方はごく少ないと思いますが、興味のある方は登録してみてはいかがでしょうか。

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