安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

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月刊『住民と自治』 2022年8月号 住民の足を守ろう―権利としての地域公共交通
核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

今年も1年、お世話になりました。

2016-12-31 18:17:08 | 日記
今年も残り数時間となりました。当ブログ管理人は携帯回線を使ってインターネットにアクセスしており、年越し前後は回線が混雑するおそれもありますので、少し早いですがここでご挨拶を申し上げます。

内外ともに激動の2016年も終わろうとしています。国内情勢については相も変わらずの安倍自民1強、国際情勢は英国のEU離脱決定、トランプ氏の大統領当選など、予想外の出来事が相次いだ1年でしたが、その厳しさの中にも、JR問題での講演、要請行動など、引き続き当ブログと安全問題研究会のこれまでの活動が評価され、またそれをしっかりと未来に向け、つなげる一歩を記すことのできた1年でした。

昨年同様、多忙の中にも充実の1年でしたが、2月には凍結路面でスリップ事故、8月には病気で入院と、「遅れてきた厄年」ともいうべき年でもありました。人生も折り返し点を過ぎる中で、いかに自分の身体とうまくつきあっていくべきかを考えさせられた1年でもあったように思います。

来年も引き続き厳しい年であり、そして内外ともに先行きの見通せない不安定な情勢が続くと思います。2016年は、それでも消費増税の凍結、参院選での与党勝利などそれなりに予測を的中させましたが、来年はトランプ政権の動向など不確定要素が多すぎて、国際情勢に関しては予測すらできません。

JR北海道の赤字問題は、自治体と沿線住民の動向次第といえるでしょう。国がどこまで救済に動くかは、与党内にこの問題をどれだけ認知させられるかにかかっていると思います。

当ブログ管理人は、手術の後遺症でいまだ長期外泊は不可能な状態です。このため、今年は帰省せず、北海道の自宅で年越しを迎えます。来年に備え、心も身体もしっかり休んでおきたいと思っています。

では、みなさま、よいお年をお迎えください。

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2016年 当ブログ・安全問題研究会10大ニュース(今年は20大ニュースに拡大します)

2016-12-30 18:43:02 | その他社会・時事
さて、2016年も残すところあとわずかとなった。例年通り今年も「当ブログ版 2016年10大ニュース」を発表する。

選考基準は、2016年中に起きた出来事であること。当ブログで取り上げていないニュースも含むが、「原稿アーカイブ」「書評・本の紹介」「日記」「福島原発事故に伴う放射能測定値」「運営方針・お知らせ」カテゴリからは原則として選定しないものとする。

ただし、今年は歴史の転換点ともいうべき大事件・ニュースが内外ともに続き、10では枠がとても足りない。そのため、2011~12年に続く措置として、今年は枠を拡大し「20大ニュース」とする。なお、ニュースタイトルの後の< >内はカテゴリを示す。

1位  JR北海道が「自社単独で維持不可能な13線区」を公表、ローカル線切り捨てを本格化。留萌線が廃止、日高本線廃止方針の発表を地元との協議が整わないまま強行<鉄道・公共交通政策>

2位  JR北海道の貨物列車脱線事故におけるレール検査データ改ざん問題で、札幌区検がJR北海道幹部社員3人と法人としてのJR北海道を起訴、第1回公判開かれる<鉄道・公共交通安全問題>

3位  福島原発告訴団による告訴・告発~東京第1検察審査会の起訴議決を受け、検察官役の指定弁護士が勝俣恒久・元東京電力会長ら旧経営陣3人を強制起訴<原発問題>

4位  北海道新幹線・新青森~新函館北斗間が新規開業<鉄道趣味>

5位  高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決定。日本の核燃料サイクル政策、実質的破たんへ<原発問題>

6位  福井県・関西電力高浜原発3、4号機に対し、大津地裁が住民の訴えを認め運転差し止めの仮処分命令。再稼働したばかりの高浜3、4号機が再び停止。川内、伊方原発は再稼働を強行<原発問題>

7位  長野県軽井沢町でスキーバス転落事故、乗客15人が死亡。一方、違法ツアーバス業者に対する罰金の上限を100万円から1億円に引き上げる改正道路運送法成立。規制強化へ前進<鉄道・公共交通安全問題>

8位  参院選で、自公・維新など「改憲勢力」が3分の2を確保。衆参両院で改憲勢力が3分の2を占め、戦後初めて改憲発議が可能に<社会・時事>

9位  昨年強行採決された安保関連法施行。南スーダンへ、自衛隊が「駆けつけ警護」含む新任務に派遣<社会・時事>

10位  沖縄・高江で異常な警備体制の下、オスプレイパッド強行建設。地元住民の抵抗運動も続く<社会・時事>

11位  西日本で大規模地震相次ぐ。熊本では史上初めて震度7を2回記録。鳥取でも大地震<気象・地震>

12位  米国大統領選で「暴言不動産王」ドナルド・トランプ氏が当選<社会・時事>

13位  EU離脱をめぐる英国の国民投票で、離脱派が多数を占め勝利<社会・時事>

14位  天皇が「生前退位」の意思を表明するビデオメッセージを公表<社会・時事>

15位  女性労働者の過労自殺問題で、東京労働局が電通を強制捜査、書類送検<社会・時事>

16位  電力小売り事業が全面自由化。一般家庭が電力会社を選ぶ時代に<原発問題>

17位  ベルギー、フランス(ニース)など欧州でテロ相次ぐ。国内でも、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で障がい者を狙ったテロ発生。世界は憎悪とテロの時代へ<社会・時事>  

18位  東京都知事選で初の女性、小池百合子氏当選。築地市場の豊洲移転が延期に<社会・時事>

19位  SMAPが年内限りでの解散を表明<芸能・スポーツ>

20位  大黒摩季、6年ぶり活動再開<芸能・スポーツ>

【番外編】
・当ブログ管理人、JR北海道ローカル線問題に関連し日高町、苫小牧市、様似町、浦河町で4回にわたり学習会講師を務めるなどローカル線廃止反対運動を昨年に引き続き強化<鉄道・公共交通政策>

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改めて今年を振り返ってみると、内外ともに時代の転換点というべき年だった。10年後に「歴史の転換点だったのは何年か」と問うと、多くの人が2016年と答えるようになるだろう。しかも、その変化がよい方向ではなく悪い方向(テロと憎悪、ポピュリズムの台頭)という意味で、強い印象を残した年だった。

当ブログ管理人としては、2月に凍結路面でスリップ事故を起こし、車を買い換えに追い込まれたのに続き、8月には胃がんのため入院、手術を受けるなど、個人的にも最低の年だった。だが一方で、JRローカル線問題で4回もの講師を務めるなど、これまでの当ブログと安全問題研究会の活動が評価された年でもあった。総じて、JR北海道問題にかかりきりの1年だった。

来年こそはよい年に……と願いたいが、今年の20大ニュースを見ていると、とても来年がよい年になるとの展望は持てない。今より悪くならないようにすることもほぼ不可能だろう。悪くなっていくスピードをどのくらい緩和できるかが、内外ともに焦点だ。世界のディストピア(絶望郷)入りがよりはっきり見えて来る年になると思う。

こんな時こそ私たちの真価が問われる。未来世代に、先行世代の恥ずかしくない姿を見せることから地道に取り組む以外にないような気がする。なんとも心重い年の瀬だ。

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2016年 鉄道全線完乗達成状況まとめ

2016-12-29 21:21:21 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
さて、年内に鉄道の未乗区間に乗車する予定はないので、ここで例年通り今年の鉄道全線完乗達成状況をまとめる(ちなみに、今年、6月末に上半期の完乗達成状況をまとめるのを忘れていたことに秋頃になって気付いたが、お許しいただきたい)。

1)完乗達成路線……【4月】北海道新幹線

2)完乗記録を喪失した路線……該当なし

なんと、わずか1線だけだった。ちなみに、現廃新の別では、新規開業路線で1のみである。今年の新年目標では、JR線3線を含む5線以上を目標としながらも、「正直、達成はかなり厳しい」と思っていたが、その予感通り、目標未達成となった。

近年になく悪い成績だったといえるが、日帰り圏内に完乗達成可能な路線がないことに加え、2月に凍結路面でスリップ事故を起こし、外出をおっくうに感じる時期もあったこと、JRローカル線問題に関し、地元での講演会で4回も講師を務めたこと、8月に半月間入院したことなども重なり、今年は鉄道に乗ること自体、ほとんどできずに終わった。実質、4月の北海道新幹線乗車が唯一の乗車活動だったといえる。

なお、2017年の新年目標は、改めて年明けに発表する。

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昨夜の茨城県北部地震(最大震度6弱)について

2016-12-29 20:38:26 | 気象・地震
「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」について(第80報) -平成28年12月28日21時38分頃の茨城県北部の地震-(気象庁報道発表)

年の瀬の茨城を襲った久しぶりの震度6弱だった。

気象庁報道発表を見よう。震源は茨城県北部、地震規模はM6.3、深さ11km、発震機構(地震のメカニズム)は東北東-西南西方向に張力軸を持つ正断層型(速報)である。福島県沖に津波警報が発表された11月18日の地震(気象庁報道発表はこちら)はM7.4だったので、マグニチュードで約1小さい。つまり、地震のエネルギーは11月のこの地震の32分の1だったことになる。

東日本大震災が起きるまでは、北米プレート内部の地震(三陸沖のプレート境界より西側)はほぼすべて逆断層型だったが、ここ最近は流れが変わり、正断層型の地震が多い。11月の福島県沖地震も張力軸の方向こそ違うものの、やはり正断層型だった。太平洋プレートによって引きずり込まれていた北米プレートが反転する東日本大震災以降の余効変動はまだ続いていると見てよく、この地震を東日本大震災とする気象庁の見解に大きな異論はない。

気になる動きを指摘しておきたい。報道発表のPDFファイル8ページ「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震余震の発生状況」資料を見ると、2011年の東日本大震災直後は宮城、福島県沖を震源とする地震が目立ったが、特に2014年以降、震源が次第に茨城県まで南下すると同時に、内陸に近づいていることである。要するに、東日本大震災直後と比べ、震源域が次第に南西に移動してきている様子がうかがえる。東日本大震災の長期的影響が首都圏に近づいていると見ることもできる。茨城県沖と岩手県沖の「両端」が東日本大震災で揺れ残ったエリアであるということを考慮すると、今後、今回と同程度のやや強めの地震の中心域が福島県南部~茨城県のエリアに移ってくることは十分考えられる。今回の地震が発生したエリアでは、余震に注意することはもちろん、今後数年にわたって、地震活動が活発化する恐れもあり、その面からも注意したいところだ。

最後に、今回の地震では茨城県高萩市で震度6弱、日立市で震度5強を記録した。東海第2原発のある東海村は、日立市の南にある。新聞・テレビなどの報道では、東海村は震度4で、原子力施設に影響はないとのことだった。だが、NHKの映像が映しだしていた日立市の揺れを見ると、とても震度5強の揺れには見えない。瞬間的にはもっと強い揺れがあったように思えた。

福島第1原発のメルトダウンを5年も隠蔽していた原子力ムラの発表など信用できない。念のため、茨城県沿岸部から福島県浜通りにかけての地域で、簡易線量計をお持ちの方は、年内いっぱい、時折、空間線量を測定し、変化を見ておいたほうがいいように思う。ただし、簡易線量計で0.1~0.2μSv程度の数値の変動に一喜一憂してはならない。0.5μSvを超える変化があったときには警戒すべきだ。

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歴史の転換点となった2016年~ディストピアの時代に希望を紡げるか?

2016-12-25 22:18:59 | その他社会・時事
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2017年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 この号が読者諸氏のお手元に届く頃には、新年の足音が聞こえていることと思う。年末年始にゆっくりと読まれることの多いであろう新年号を、私はとりわけ重視している。過ぎゆく年に起きた様々な出来事を踏まえて新しい年はどのように動くか、またどのように希望をつなぎ、展望を持つべきかの考察に充てることが多いからだ。そのような意味で言えば、2016年という、ある意味では「特別だった1年」の出来事をきちんと回顧しておくことは、例年にも増して重要な課題である。

 ●歴史の転換点、2016年

 相変わらず無意味な停滞と閉塞感が続く日本国内はともかく、国際情勢に目を転じれば、2016年が歴史の転換点であったという評価に異論は少ないだろう。相次ぐテロと難民の大量発生、世界を驚かせた英国の国民投票におけるEU(欧州連合)離脱の意思表示、そして泡沫候補扱いされていた究極のポピュリスト、ドナルド・トランプの米大統領当選――。その背景、底流に共通するものを読み解いていけばいくほど、20世紀終盤における最大の歴史的転換点であった1989年――中国における天安門事件と東欧における社会主義圏の崩壊が連続した年――に匹敵する世界史的大変動の年であったことがはっきり見えてくる。それらひとつひとつを分析するだけでも本が1冊書けるほどの出来事を詳細かつ個別に分析することは、本誌の限られた紙幅の中ではできそうにないが、それでもいくつかのポイントをここで述べておくことにする。

 英国国民投票は、そもそも小さなボタンの掛け違いの連続だった。自由経済と所得再分配のどちらをより重視するかをめぐって、日頃は「剣線」(注)を挟んで激しくやり合う保守、労働の2大政党は、それでも最後までEU残留を主張したし、残留派の労働党女性議員が投票日直前に殺された事件も、残留派に同情が集まって勝利するだろうとの説に根拠を与えていた。福岡市出身で、1996年から英国に在住する保育士、ブレイディみかこさんによれば、投票日前日、郵便配達に来た顔見知りの郵便労働者はこう言っていたという。「俺はそれでも離脱に入れる。どうせ残留になるとはわかっているが、せめて数で追い上げて、俺らワーキングクラス(労働者階級)は怒っているんだという意思表示はしておかねばならん」と。

 また、英国のコラムニスト、スザンヌ・ムーアは「ガーディアン」紙上で次のように述べている。

 『「古いワインのような格調高きハーモニー」という意味での「ヨーロッパ」の概念はわかる。が、EUは明らかに失敗しているし、究極の低成長とむごたらしい若年層の失業を推し進める腐臭漂う組織だ。ここだけではない。多くの加盟国で嫌われている組織なのだ。それに、自分なりのやり方でグローバル資本主義に反旗を翻すためにも、私は離脱票を投じたくなる。が、2つの事柄がそれを止める。難民の群れに「もう限界」のスローガンを貼った悪趣味なUKIP(英独立党)のポスターと、労働党議員ジョー・コックスの死だ。……中略……だが、ロンドンの外に出て労働者たちに会うと、彼らは全くレイシストではない。彼らはチャーミングな人びとだ。ただ、彼らはとても不安で途方に暮れているのだ。それなのに彼らがリベラルなエリートたちから「邪悪な人間たち」と否定されていることに私は深い悲しみを感じてしまう』。

 「自分なりのやり方でグローバル資本主義に反旗を翻す」有権者たちの行動で、離脱派は勝利した。開票日の朝、ブレイディみかこさんは「おおー! マジか!」という連れ合いの一言で目を覚ました。件の郵便労働者に「まさかの離脱だったね」と言うと、彼は「おお」と笑ったという。離脱という投票結果に最も驚いたのは当の英国民自身だったのだ。

 ●実はあまり影響がない英国のEU離脱

 スザンヌ・ムーアから「多くの加盟国から嫌われ、究極の低成長とむごたらしい若年層の失業率を推し進める腐臭漂う組織」とまで酷評されたEUの基礎は、英国が離脱を決める前からすでに大きく揺らいでいた。反グローバリズム、反緊縮財政を掲げたギリシャでのSYRIZA(急進左翼連合)の政権獲得、イタリアにおける新興政党「五つ星運動」の台頭など、その兆候はいくつも指摘することができる。しかし、実際のところ、英国の離脱がEU諸国の経済に何らかの危機をもたらすかといえば、それほどでもないような気がする。

 EUの危機が、とりわけギリシャやイタリアなど、経済力の弱い国で最初に起きたことは、事の性質をよく物語っている。そもそも物価とは、貨幣と財・サービスとの交換価値を示すものであり、アダム・スミスが述べたように、重要と供給の力関係によって市場で決定される。ドイツのような経済力の相対的に強い国と、ギリシャやイタリアのような経済力の相対的に弱い国とでは、生産力にも大きな違いがあるのだから、本来は経済力の違いに応じて別々の通貨が使われるのが当然だ。各国の国内で、財・サービスと貨幣の交換価値である物価が市場を通じて適切に調整され、国と国との経済力の格差は通貨と通貨を交換する外国為替市場で調整される――現代世界の、それぞれの国民国家の内部において、財・サービスに適正な物価をつけることを可能にしてきたのはこのような二重の調整システムである。

 EUによるユーロへの通貨統合は、それまでの世界で常識であったこの二重の調整システムに真っ向から挑戦するものであった。経済力も、その基礎をなす生産力もまったく違う国同士が共通の通貨を使用することは、この二重の調整システムを否定するという根本的で重大な矛盾をはらんでいた。加盟国間の経済力の格差を放置したまま通貨だけを統合すれば、物価をどの水準に置いたとしても、「ある国では経済力と比較して物価が安すぎ、別のある国では経済力と比較して物価が高すぎる」という問題が発生する。この問題は、EU加盟国ごとに中央銀行を置き、それらが独自に通貨供給量を決められるようにすれば解決できるが、このような形で各国が発行する独自のユーロは、同じ名称でも米ドルと香港ドルがまったく別通貨であるように、もはや共通通貨ではなくなってしまう。ユーロ圏において通貨供給量を決めるのがブリュッセルの欧州中央銀行だけという状態では、この問題を根本的に解決することはできないのである。

 EU発足と通貨統合のためのマーストリヒト条約に署名した各国首脳もそのことは理解していたが、加盟国間の国境をなくし、ヒト、モノ、カネの移動を活発化させることを通じて、経済力の格差もいずれは解消すると期待して、積極的に問題を将来世代に先送りしたのだと思う。

 しかし、その期待、希望的観測は見事に外れた。国境が消え、ヒト・モノ・カネの移動が活発化しても、そのことだけで民族、言語、宗教、生活習慣などの違いが消えてなくなるほど世界は単純ではない。実際の経済は、こうした要素をはらんだ人々の意識の中で、従来の国民国家の枠組みをある程度残したまま動く。EUの制度設計をした人たちがそのことに対し、あまりに無頓着すぎたことがこの問題の根源にある。その意味で、ユーロ圏の経済危機は当初から予想されていたのであり、起こるべくして起きた出来事であった。

 英国が結果的に賢明だったのは、通貨統合に参加せず、独自通貨ポンドを捨てなかったことである。EU残留、離脱いずれの道を選択しても、前述した二重の調整システムを通じて財・サービスに適正価格をつけられるシステムを英国は温存していたからである。ポンドとユーロの間の格差は、これまで通り外国為替市場のレートを見るだけでよいのだ。

 ●エリート支配への怒りを組織できない左派

 まだ記憶に新しい、米国のトランプ勝利にも言えることだが、従来の常識を覆すこのような「番狂わせ」の背景には、エリート、エスタブリッシュメント支配に対する非エスタブリッシュメント層の反乱がある。「支配層がいいように政治を私物化し、自分たちを疎外している」という怒りが、うねりのように既成政治を倒したのである。ドナルド・トランプ個人の資質も「政権担当能力」も、そこで問われた形跡はない。

 歴史に仮定は許されないが、もし民主党がヒラリー・クリントンでなくバーニー・サンダース上院議員を大統領候補としていたら、大統領選はまったく違った結果になっただろうという論評は多くの人々の共感を得ている。実際、トランプとサンダースの支持層はかなりの程度、重複していたし、サンダースが民主党予備選に勝てず、大統領候補となれなかったことで、トランプに鞍替えしたり棄権したりした非エスタブリッシュメント層もかなりの数に上るとされる。

 『ドナルド・トランプは支配勢力の左右する経済・政治・メディアにあきれて嫌になった没落する中流階級の怒りと響きあった。人々は、低賃金が嫌になり、然るべき支払いのある仕事口が中国などの外国に行くのを見ているのが嫌になり、億万長者が連邦の所得税を支払わないのに嫌になり、そして子供たちが大学へ行く学費の余裕もないのに嫌になっている。それにも関わらず、大富豪はさらにリッチになっているのにあきれているのだ。

 トランプ氏が、この国の労働者家族の生活をよくする政治に誠実に取り組むならば、それに応じて私と、この国の先進的勢力は協力する用意がある。人種主義者、性差別主義者や外国人ヘイト、そして反環境主義の政治の道を行くならば、我々は精力的に彼に反対して行動するだろう』。

 これは、トランプ勝利を受け、サンダースが発表した声明である。これを見ても明らかなように、サンダースは移民排斥政策以外でほとんどトランプに批判らしい批判をしていない。それどころか、トランプが移民排斥をやめ、上流階級以外のための政治をするなら協力するとまで述べている。一方で、民主党予備選期間中のサンダースは、クリントンに対しては、次のように厳しい批判を加えているのだ。

 『クリントン長官は、上院議員だった2002年10月に対イラク開戦承認決議案に賛成した。北米自由貿易協定(NAFTA)や環太平洋経済連携協定(TPP)の支持者でもある。その上、自身のスーパーPAC(政治資金管理団体)を通じてウォール街から1500万ドルももらっている人に、大統領になる資格があるとは思わない』。

 今回の米大統領選がどのような構図で戦われたかを、これら一連のサンダースの発言はよく物語っている。これではどちらが自党の候補者で、どちらがライバル政党の候補者かわからないほどだ。

 既成政党が左右を問わずエリート支配に堕し、貧困層の受け皿でなくなっている状況が、英国だけでなく米国でも共通の課題であることが浮き彫りになった。選挙の対立軸がかつての左右から「上下」に移っていることが示された。『レイシストではなくチャーミングで、不安で途方に暮れている労働者層が、リベラルなエリートたちから「邪悪な人間たち」と否定されていることに深い悲しみを感じる』というスザンヌ・ムーアの指摘はここでも完璧に当てはまる。上から目線で大衆蔑視のイメージを払拭できなかったクリントンは、旧態依然としたエスタブリッシュメント層を代弁する候補者として強く忌避されたのである。

 翻って日本ではどうだろうか。次第に米英両国に近づいてきている印象を筆者は受ける。自民、民進両党の指導部(末端の議員や党員全体を指すのではなく、あくまで指導部)がどちらも貧困層軽視、グローバリズムと原発推進であること、党対党の対立よりも、党内部における指導部と末端議員・党員との対立のほうが先鋭化して見えることなど、実によく似ている。そもそも、米英両国を範として「政権交代可能な保守2大政党制」を目指してきたのが55年体制崩壊後の日本政界であった。その意味で、日本の政界風景が米英両国に似てくるのは必然といえよう。

 篠田徹・早稲田大教授は、米国では組織の枠組みを超え、地域で雇用政策などの新しい動きが生まれているとの山崎憲氏(労働政策研究・研修機構主任研究員)の指摘を受け「関係者をすべて横でかき集めるという「ステークホルダー」という考え方。関係者がみんな集まって解決していくというのは世界的流れになりつつある」としている(「労働情報」誌第949号より)。日本でも、左右対立を軸とした従来の政治感覚をそろそろ抜本的に見直して、上下を軸に政治を展望することが必要な状況になってきている。

 ●飯も食えないグローバリズムより食えるナショナリズムへ

 英国のEU離脱とトランプ勝利にはもうひとつ、避けて通ることのできない重大な共通点がある。「飯も食えないグローバリズムに殺されるくらいなら、飯を食わせてくれるナショナリストに国を委ねた方がましだ」という非エスタブリッシュメント層の意思を、新たな国際的潮流として確定させる効果を生みかねないことである。

 トランプが「米国は世界の警察官から降りる」と宣言し、国際社会に権力の空白が生まれつつある。巨大な資本主義戦争マシーンである米国が世界のあちこちに軍事介入をしてきたこれまでのやり方を見直すことは、反戦運動を戦ってきた諸勢力にとって確かに歓迎すべき出来事だろう。だが、筆者には、この権力の空白が第2次大戦直前期に似ていて、そこに一抹の不安を覚えるのである。

 米国がモンロー主義(非介入主義)を唱えた第1次大戦後、世界には現在と同じように権力の空白が生まれた。そのような権力の空白に加え、第1次大戦敗戦の結果としての天文学的な負債、そして失業者が700万人に上る未曾有の経済危機がナチスとヒトラーを政権の座に就けた。ユダヤ人を排斥する一方、アウトバーン(高速道路)建設を中心とした公共事業を通じて失業者を600万人から50万人に激減させた。ヒトラーは、当時の貧困層には決して手の届かなかった自動車保有の夢をかなえるため、ポルシェに命じて大衆車フォルクスワーゲンを開発させた。ある元社会民主党員の女性は「少しでもナチスに異議を唱えると、『ヒトラーが成し遂げたことをぜひ見てほしい。我々はまた以前のようにたいしたものになっているのだから』と決まって反論された」と当時を振り返っている。

 安倍首相は、麻生元首相に指摘されるまでもなく、すでにナチスの手法をじゅうぶんに真似ている。アベノミクスを通じて大規模な公共事業をオリンピックの名の下に興すことで、実際、失業者を減らした。ヒトラーが、自由市場経済の原則をものともせず、企業に命じてフォルクスワーゲンを作らせたように、安倍首相も企業に命じて賃上げや残業減らしに躍起となっている。メディアを総動員した“ニッポン凄い”キャンペーンによって「我々をまた以前のようなたいしたもの」にしようとする姿は、まさにヒトラーと二重写しだ。

 一度は政権を投げ出した安倍首相を再び政権に返り咲かせた要因は単に野党のふがいなさだけにあるのではない。「飯も食えない国際協調とグローバリズムから食えるブロック経済とナショナリズム」への国際的潮流の変化を抜きにしてそれを語ることはできないだろう。野党のみならず、自民党内からも安倍首相の対抗勢力が現れない理由、国際的には死んでしまった新自由主義にいまだ指導部がしがみついたままの民進党が凋落の一途をたどっている理由について、このように考えると納得がいく。安倍首相が権力を奪取したというより、時代が安倍首相を捜し当てたのである。その意味でも2016年は、10年後の世界から歴史的転換点として、はっきり記録される年になると思う。

 この他、英国のEU離脱やトランプ当選の過程において、インターネットがもたらした「負の役割」についても述べる予定だったが、紙幅以前に筆者の気力が尽きたようだ。これらは新年早々に改めて論じることにしたい。

 読者諸氏にとって、新年が安穏な年となることを願っている。

注)英国議会では、正面から見て右側に与党、左側に野党が座る形で向き合って議論する。両者の真ん中には1本の線が引かれていて、互いにどんなに議論が白熱してもその線より前に出てはならないとされる。かつて、議員が剣を身につけていた時代にこの線が引かれたことから、この線が“Sword Line”(ソードライン、剣線)と呼ばれるようになったとの俗説がある。余談だが、英語には“Live by the sword, die by the sword.”(剣によって生きる者は剣によって滅ぶ)ということわざがある。

(黒鉄好・2016年12月17日)

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日高本線鵡川~様似間の廃止を提起~半数の町長が欠席の中でJRが「説明会」を強行

2016-12-25 21:42:55 | 鉄道・公共交通/交通政策
JR北海道は、12月21日、浦河町内のホテルで「説明会」を開き、日高本線鵡川(むかわ)~様似(さまに)間(116.0km)について、災害からの復旧を断念し、廃止としたいとの意向を沿線市町村に伝えた。日高本線は、2015年1月の高波により不通となったまま、年明けには不通2年を迎える。



この日の説明会には、JR北海道側から島田修社長、瀧本峰男取締役・総合企画本部副本部長(線区経営改善担当)が出席。沿線自治体から川上満平取(びらとり)町長、三輪茂日高町長、小竹國昭新冠(にいかっぷ)町長(日高町村会会長)、竹中喜之むかわ町長の4町長が出席した。説明会会場のホテルがある浦河町をはじめ、新ひだか、様似の3町長は、JR北海道の一方的な廃線通告に抗議の意思を示すため欠席。えりも町長も「体調不良」を理由に欠席し、沿線8自治体首長のうち半数が欠席する異例の事態の中で行われた。

島田社長は、高波に今年夏の台風10号による被害も加わり、復旧費が86億円に上ると見込まれること、復旧費と別に「海岸浸食対策費」も必要で、これらを合わせると100億を超える費用が必要との社内試算を示した。また、JR側が沿線自治体に求めた13.4億円の費用負担に、沿線自治体側が難色を示したこと等、廃止を提案するに至った経緯を淡々と説明した。

廃止の提案をする島田社長


もともと、この説明会は沿線自治体側が望んだものではなく、JR北海道が一方的に設定したものだ。むかわ町を除く沿線7自治体は、日高本線が不通となって以降、6回にわたって継続してきた沿線自治体協議会の場での協議続行を望んでいた。沿線自治体協議会のメンバーでないむかわ町長に至っては、今日の説明会にいわば呼びつけられた形になる。それだけに、この一方的で乱暴な説明会の強行に、沿線自治体側から次々と怒りの声が上がった。とりわけ、説明会終了後、ぶら下がり会見に応じた三輪町長、小竹町長の2人は怒りを隠さなかった。

三輪町長「これは私たちが求めていない説明会だと思っている。(JRからの回答は)沿線自治体協議会で求めていきたい。今日はそれについてはコメントしない。社長の話を聞き置くだけだ。(他の町長の)皆さんもそうだと思う。もう1回、第7回の(沿線自治体)協議会開催を求めていく」

小竹町長「大変厳しい説明内容だったと受け止めている。(バス転換では)利用者に負担がかかる。(バス転換は)想定しておらず、今日は説明を聞いただけだ。なぜ協議会の場で提案しないのか。今日はその旨を申し上げた。協議会がそのスタートになる」

この上で、小竹町長は「あくまで復旧を求めていく方針に変わりはないか」との記者の質問に、「初めからその気持ちであり、現在もそれは変わらない」「協議会はあくまでも復旧のためのもの。(再開されれば)復旧を目指していくことになる」と答え、あくまでも日高本線の復旧を求めていく方針に変わりはないと明言した。「JR北海道は今日の(説明会の)日程をあらかじめ決めていたのではないか。急に決めたようには思えない」とも述べ、初めに廃線通告ありきのJR北海道の姿勢に対し、不信感をあらわにした。

この日の説明会には、筆者もレイバーネット報道部として取材参加したが、「運輸交通記者クラブの加盟社ではない」という理由で質問は禁じられた。その場で「善処」を要望したが、JR北海道広報部は「記者クラブとの関係もあり、当社の一存で決められない」と回答。一方「会見終了後の個別取材には応じる」と譲歩してきたため、今後に向け、引き続き非加盟社の会見場での質問を認めるよう、改善を求めてゆくことにしたいと考えている。

会見終了後のレイバーネットの取材に対し、JR北海道広報部は以下のように答えた。

Q.過去の鉄道路線廃止では、沿線自治体の同意を得ずに廃止届を提出した例はないものと理解している。今回の提案をもって「協議打ち切り、廃止届提出」でないと確約願いたい。

A.(鉄道事業法では、廃止届の提出は事業者の判断であり、沿線自治体の同意が条件とされていないため)手続上は可能だが、現実問題として、それ(廃止届の強行提出)はできないものと考えている。いずれにしても、沿線自治体と相談させていただくことになる。

Q.JR北海道は、維持困難13線区の発表の際、地元に上下分離の提案を行っているが、自治体とりわけ市町村にとって鉄道の下を負担することは財政上、不可能に近い。JR北海道として、「下」の保有を行うべき事業体として、どのような形のものを想定しているのか。また、国に下を保有するよう働きかける考えはないのか。

A.「下」は自治体を想定しているが、それは絶対ではなく、過去に(他地域で)そのような例があったためそうしているだけ。JR北海道から「下」を保有するよう国に求めていく考えはない。国は第三者に過ぎない。

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島田社長は、「(不通が2年近くになる日高本線については)そろそろ「現実的な解決策」を提示する時期」だと繰り返したが、廃線提起をすることが鉄道事業者として責任ある態度とはとても思えない。それは沿線町長らの声にも現れている。

北海道では、国鉄分割民営化の際、全体の3分の1にも及ぶ鉄道を失っており、沿線地域の衰退は加速した。今回、JR北海道が「単独では維持困難」とした路線はJR北海道全営業キロの半分にも及ぶ。この問題は分割民営化に端を発しており、北海道全体の総合交通計画を作成する責任は道にある。にもかかわらず、国も道もこの問題に主体的な関わりを避け、逃げている。こうした国や道の姿勢に対しても道民の不満は高まっている。「JR北海道から「下」を保有するよう国に求めていく考えはない」とする回答からは「当社の仕事ではない」という意識が透けて見えた。

原発と同様、責任の所在が曖昧な「国策民営」の弊害が噴出していることが、取材を通して見えてきた。JR北海道の100%株主である国も鉄道運輸機構も、総合交通計画を作成する責任を負う道も、会社の存在が法律(JR会社法)に規定され、決定権を持たないJR北海道も、全員が「自分の責任ではない」と考え、責任を押しつけ合っている構図だ。国交省も当事者意識がなく、やはり今後はJR北海道問題を中央での政治案件に引き上げてゆくことが必要だ。それなくしてこの問題の根本的解決はあり得ないというのが、会見場を取材しての感想だった。

この日の説明会は、沿線自治体側が「JR北海道側の説明を聞いただけ」で廃止、バス転換への同意でないことはもちろん、今後も日高本線の復旧を求めていく方針に変わりはないと明言したこと、筆者の取材に対してもJR北海道広報部が「廃止届の強行提出はできない」としたことは大きな成果である。浦河町など4町長が欠席したことも、この日の説明会を廃止同意の場にさせない上で大きな効果を発揮した。

「日高本線は維持困難13線区とは別」との島田社長の回答とは裏腹に、JR北海道がこの説明会を「維持困難線区各個撃破作戦」の第1弾と考えていたことは明白であり、ここで安易に沿線自治体が廃止や地元負担を受け入れれば、13線区沿線が総崩れになる恐れがあった。第1弾の日高本線をめぐって、JR北海道の思惑通りに事を運ばせなかったことで、今後の路線維持に大きな望みをつないだといえよう。

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なお、廃線提案後の記者会見におけるメディアと島田社長とのやりとりは、以下の通り。

(朝日新聞)
 バス転換のめどはいつ頃か。

(島田社長)
 現時点においては申し上げられる段階にない。

(毎日新聞)
 過去1年の協議会の中で、(自治体側からJR北海道に対し)費用負担が難しいとの回答があったが、協議会でなく説明会となった理由は。

(島田社長)
 責任ある回答を示してほしいとの自治体側からの依頼を受け、社内検討を経てこの形となった。4自治体の首長が代理出席ということもあり、今日は説明をする場だ。協議会を再開してほしいとの要望もあり、道とも相談の上、今後のご相談をさせていただきたい。しかしながら、1日も早く現実的な解決策を出すべき時期に来ているとの強い思いを持っているので、年明け以降、協議会などの場で話し合いが行われることを期待したい。

(NHK)
 廃止に至るまで、全自治体の同意が条件なのか。

(島田社長)
 本日は厳しい意見をいただいたので、正式の協議会の場で丁寧に説明させていただき、日高地域の公共交通をどうすべきか、合意を得る努力をしていきたい。まずは、私どもの提案にご理解をいただきたい。

(NHK)
 今日は、維持困難13線区公表後初めて(JR北海道が廃止の)方針を示した場と捉えてよいか。

(島田社長)
 日高線については、台風被害があり、協議会での協議経過もあるので、13線区公表スケジュールとは異なると理解いただきたい。

(NHK)
 今後もこのような形になるのか。

(島田社長)
 合意形成が整ったところから、個別線区について話し合いの場を持ちたい。一斉にということではない。

(北海道新聞)
 むかわ町長を呼んだ理由、4町長が欠席された理由は。

(島田社長)
 むかわ町長にも参加してほしいとこちらからお声がけした。4町長が所用または体調不良で欠席されたことは残念。年明け以降、首長が欠席した自治体には説明していきたい。

(北海道新聞)
 仮定の話になるが、高波被害だけなら日高線は復旧していたと考えるか。

(島田社長)
 復旧していたとしても、台風でまた被災していたと考えられる。自然災害対策は頭の痛い問題だ。

(読売新聞)
 繰り返しになるが、廃止のめどは決まっていないということか。

(島田社長)
 協議会のこともあり、現時点では申し上げられる段階にない。

(共同通信)
 協議会は今後も行われるのか。

(島田社長)
 協議会の場で正式に回答してほしいとの意見があったので、そのようにしたいが、その後どのような場で協議すべきかは話し合っていきたい。

(STV―地元民放テレビ局)
 沿線自治体首長は復旧を求めている。協議は難航すると思われるが。

(島田社長)
 台風被害を受け、1日も早く現実的な解決策を出す時期に来ている。当社提案を検討いただきたい。

(STV)
 バス転換に関しての費用負担は。

(島田社長)
 協議会で議論することであり、金額は出ていない。
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●当日の動画はこちら。

161221JR北海道 日高線鵡川~様似間廃線提案(その1/島田社長記者会見)


161221JR北海道 日高線鵡川~様似間廃線提案(その2/三輪茂・日高町長ぶら下がり会見)


161221JR北海道 日高線鵡川~様似間廃線提案(その3/小竹國昭・新冠町長ぶら下がり会見)

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市民に支持された「安全問題」でのストライキ

2016-12-11 18:04:54 | 鉄道・公共交通/安全問題
サムネイル写真=スト決行を予告する労働組合の掲示(クリックで拡大)


なぜ臨港バスは36年ぶりのストに踏み切ったのか(神奈川新聞)

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【文化部=齊藤大起】最長16時間に及ぶ勤務の「拘束時間」の軽減を求め、川崎鶴見臨港バス(川崎市川崎区)の運転士らが36年ぶりのストライキに踏み切ってから1週間。その訴えは、バス業界全体で長時間勤務や休日出勤が常態化している厳しい労働環境を浮き彫りにした。

■6時間の「中休」

 「カネじゃない、安全のために訴えている」。同社の労働組合幹部は話す。労働条件を巡る「秋闘」の一環で12月4日、組合は24時間の時限ストを実施、横浜市鶴見区を走る一部路線を除き、全ての運行を止めた。

 会社に求めたのは、労働時間外の休み時間である「中休」を減らすことだった。バスは朝夕のラッシュ時間帯に運行が集中し、日中は間隔が空く。そのため、中休を挟んで1人が早朝から夜まで担当することが多い。

 以前は早朝から午後早くまでの「早出」と、午後から深夜までの「遅番」を別々の運転士が担当することが多かったが、同社は「2人を要していた仕事を1人に担当させれば効率よく走らせられる」との理由で、中休の必要性を説明する。

 だが、6時間ほどもある中休は「拘束時間」には含まれるものの労働時間とは見なされず、若干の手当が付くほかは無給。街中へ出たり、いったん帰宅したりできる自由時間とはいえ「夕方からの乗務に備え緊張状態は続く」と労組は主張する。営業所の仮眠室で休憩する社員もいるという。帰宅が遅いことで家族と過ごす時間も削られる。

 中休を含む勤務は、組合の話では総数の約4割に上り、5年ほど前は週1回程度だった頻度が週2、3回に。会社側は「営業所ごとに異なり、一概に割合は示せない」とするが、組合員の一人は「人命を預かる重大さを分かってほしい」と訴える。

■実効性薄い基準

 「そもそも、運転士を守るべき規制が脆弱であることに問題がある」。労働経済学が専門で、バスやタクシーなど運輸業界の実態に詳しい北海学園大の川村雅則教授は指摘する。

 実際、同社が「法令の範囲内で勤務を組んでいる」と強調する通り、16時間に及ぶ「拘束」は、厚生労働省の基準に収まっている。

 同省は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)でバス運転士の拘束時間を1日16時間、週71時間半まで許容。同基準の意義を「バス運転者の労働条件を改善するため」としつつも「労働実態を考慮して基準を定めた」と、むしろ長時間拘束を容認している形だ。

 その上、睡眠不足への対策も十分でない。労働後の休息を11時間と定めた欧州連合(EU)に比べ、同基準は8時間。例えば、午後11時までハンドルを握った運転士に、翌朝7時からの運転を命じることができるのだ。

 川村教授は調査で「十分な睡眠時間がとれない」と訴える運転士が半数近くを占め、健康や安全に影響を与えている現状を指摘。「自動車には鉄道や飛行機のような自動制御装置がなく、運転者の状態が安全を左右する」として、規制強化を訴える。

 しばしば、バス会社に寄せられる「運転士が無愛想」「運転が乱暴」といった苦情にも、川村教授は着目。「背後に長時間労働による疲労があるのでは、と想像してほしい」と話す。

■背景に規制緩和

 だが、現実は真逆だ。2000年以降の規制緩和のあおり受け、バス事業は過当競争の渦中にある。運転士の給与にも反映している。

 厚労省の統計を基にした川村教授の分析によると、かつて全産業平均を上回っていたバス運転士の平均年収は同年に逆転し、15年は427万円と全産業平均の548万円の8割未満に。15年にわたり120万円以上も下がり続けている計算だ。

 そもそも、かつて全産業平均を上回っていたのも、バス運転士の総労働時間が一貫して長いためで、給与水準が高いからではなかった。川村教授は、運転時間の長さが収入を左右する給与体系自体が、望まない超過勤務や休日出勤を強いられる「強制性と自発性がないまぜになった長時間労働」を生じさせていると指摘。「基本給で生活できる社会を築くべきだ」と話している。
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神奈川県川崎市を営業区域とする「川崎鶴見臨港バス」の労働組合(臨港バス交通労働組合)が、12月4日(日)、1980年以来、実に36年ぶりの24時間ストライキに踏み切った。会社側は、表向き、組合側との協議を続けているようにホームページ上では説明していた。だが、誠意のある姿勢とはとても言えなかったらしく、結局、労使交渉はまとまらないまま、組合側は24時間ストを打ち抜いたようだ。

公共交通機関のストが頻発していた1980年代まで、これらのストに対する市民感情は、賛否相半ばしていた。支持する声ももちろん強かったが、交通機関利用者からは迷惑だとして組合側を批判する声も多かった。こうした批判を気にして、交通機関の労働組合から、いつしか戦術としてのストライキは消えていった。

その結果、記事にあるように、人命を預かる重要な仕事であるにもかかわらず、バス運転手の待遇は全産業平均を下回るようになった。公共交通企業の人員削減と、生活に必要な賃金を確保するための両面から、運転手は長時間労働を受け入れざるを得なくなった。過酷な勤務実態が社会問題化した夜行高速ツアーバスはもちろん、最近は一般の路線バスでも、以前なら考えられなかったようなお粗末な事故が起きるようになってきている。

川崎鶴見臨港バスの、6時間の「中休」を間に挟んだ16時間拘束の勤務形態は、バス労働者の労働条件悪化の象徴例だろう。「中休があるからいいじゃないか」という声もあるだろうが、それは現場実態を知らないからだ。6時間後にまた勤務が控えていると思うと気が休まらないし、仮眠を取ったところで熟睡もできず、疲れも取れないのは当然だ。実質的には拘束時間と言ってよい。「カネじゃない、安全のために訴えている」という労働組合幹部の発言からは、ひしひしとした危機感が伝わってくる。

驚いたのは、インターネット上でこのストライキを「支持」する声が相次いだことだ。例えば、スト決行を伝える臨港バス交通労働組合関係者と見られるツイッターや、ニュースサイトのコメント欄には、次のような感想が書き込まれている。

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・労働者には不当搾取に抵抗する権利がありますからね。ストライキに踏み切った鶴見臨港バスの労働者の皆様には敬意を表すとともに、全面的に支持したいと思います。

・ストライキを馬鹿にしたり、うざいとか迷惑って言ってる奴らは何なの? 条件さえ守ればストライキは労働者の権利なんだよ。ストライキを起こさせたり、ストライキが起こってもある程度は対応出来る仕組みを作ってない企業に文句を言うべき。

・最近落ち込むことも多かったけど、朝バスがストライキ起こしたニュースを見て少し元気になった。ストライキ起こせるあたり日本もまだ捨てたもんじゃないね。労働環境に関する暗いニュース多いから尚更。

・ストライキしてるバス会社があるのか。労働者がものを言える社会は健全だと思う。

・ストライキ権が認められない世の中になったら、ブラック企業がやりたい放題になるよ。ストライキって、世の中に多大なる影響が出るからこそ、やる意味が出るんじゃないのかね。何の影響もないストライキやったとこで、意味ない気がするんだけど。

・この問題を放置しておくと、大きな事故が増える気がする。既に、東急バスで運転士が運転中に眠くなって電柱に激突なんて事故も起きたし…

・バスの運転士は高い運転技術と責任感そして緊張を強いられる。そういう職種の人が安月給で長労働時間っていうのはおかしな話。

・命を預けるわけだから、運転手さんにはベストな状態で働いてもらいたい。
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相次ぐ公共交通の事故とブラック企業の蔓延で、今、明らかに潮目は変わった。ストを支持する多くの声を聞くと、川崎鶴見臨港バス労働者でなくとも元気が出てくる。これらの声が、ストを打ち抜いた労働者に届くよう願っている。

今回、ストライキが市民に支持された理由としては、安全問題を基軸に据えたことが大きいと思う。通勤ラッシュへの影響が最も少ない日曜日をスト決行日に選んだことも、敵に回す市民・利用者を最小限にとどめたいという執行部の判断によるものだろう。こうした柔軟な戦術も、市民の支持を得るために重要なことだと思う。

安全問題研究会は、先のコメントに見られるように、バスの安全問題にも重大な関心を持っている。国交省は、ツアーバス事故で命と将来を奪われた犠牲者たちに謝罪もしないまま、バス事業の規制強化に舵を切ったが、これは2000年の道路運送法改正による規制緩和を事実上、誤りと認めるに等しい。引き続き、当研究会は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の改正など、実効ある法制度の整備を求めて行動を続けていきたいと考えている。

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<安全問題研究会コメント>法令違反高速バスへの罰則強化する改正道路運送法成立~実効ある規制と監査体制の充実求める~

2016-12-05 22:53:14 | 鉄道・公共交通/安全問題
1.法令違反を犯した悪質な高速バス会社に対する罰則強化を盛り込んだ道路運送法改正案が、12月2日、参院本会議において全会一致で可決、成立した。この改正法では、国が行った改善命令に違反した場合にバス会社に課せられる罰金を、これまでの100万円から1億円に引き上げたほか、バス会社の経営者に対し、初めて懲役刑も新設。また、これまで無期限であったバス事業の免許を5年ごとの更新制とし、定期的に悪質業者を排除できる体制を整備した。安全問題研究会は、今回の法改正を高速バス事業の安全強化への第1歩として歓迎する。

2.今回のバス制度見直しは、今年1月、長野県で起きたスキーバス事故を踏まえたもので、遺族から厳罰化を求める声が高まったことを受けたものである。従来、国交省は「支払能力の低い中小業者への配慮」として罰金を100万円としてきたが、相次ぐバス事故の原因となった2000年の道路運送法「改正」(バス車両を5台所有していれば誰でもバス事業に参入できる)に合わせた実効性を欠くものであり、また鉄道や航空機における安全配慮義務違反の罰金1億円と比べてもあまりに低額であった。

3.人命を預かる公共交通の分野から法令違反を繰り返す悪質業者を排除するためには、一度の違反行為で会社が倒産するほどの厳しい罰則でなければならない。今回の罰金上限の引き上げは、悪質バス会社の大半を占める中小業者にとっては厳しいリスクを伴うものになろう。同時に、法令を守っていては運行ができないほどの無理な旅行計画を押しつけてくる旅行業者に対し、バス会社が罰則を理由に拒否しやすくなることが期待される。さらに、中小業者の淘汰が進んでバス会社の数が減れば、旅行業界に対するバス業界の発言力が増すことにつながる。

4.国土交通省に設置された「バス事業のあり方研究会」の報告を受け、2013年、国は「新高速バス制度」に移行。(1)ツアーバスにも道路運送法を適用し、旅行業者が責任主体となって貸切バス事業者に運行を委託するツアーバスの業態を廃止、(2)自社でのバス車両保有、バス停の設置、運行の事前届出を義務づけ、(3)ワンマン運転について上限規制を導入――などの対策を講じたにもかかわらず、2014年の北陸道バス事故と今回のスキーバス事故が発生している。あずみ野観光バス事故(2007年2月、27人死傷)、関越道バス事故(2012年4月、7人死亡)が発生した2013年の規制強化直前の5年間と比べても、死亡事故の発生ペースに変化はほとんど見られない。

5.原因として、国による規制強化の実効性が担保されていないことを指摘しなければならない。国交省には、全国に約12万社もあるバス・タクシー・トラック業者の監査官をわずか330人しか置いていない。今回の法改正では、バス会社を巡回指導する民間機関を設立するとしているが、国交省の監査官を増員しないまま、民間機関への「業務丸投げ」で実効性あるバス事業の監督ができるわけがない。当研究会は、引き続き、国に対し、国交省監査官の増員など抜本的な安全対策を強く求めてゆく。

6.また、相次ぐバス事故の背景に、旅行業者による無理な運行計画の押しつけがあるにもかかわらず、旅行業者に対する規制措置が盛り込まれなかったことに対して、当研究会は強い不満を表明する。事故原因を作った旅行業者にも、一定期間、業務停止や旅行業免許取り消しを行えるような強い罰則を設けなければ、せっかくの規制強化も中途半端なものに終わりかねない。

7.悲劇的なバス事故が相次ぐ中で、今回の法改正を後押ししたのは、抜本的な対策を求める事故遺族やこれを支援する市民の声と闘いの力である。当研究会は、「闘いなくして安全なし」との教訓を改めて心に刻み、公共交通の安全向上のため、今後もあらゆる努力を続ける。

 2016年12月5日
 安全問題研究会

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