7月1日付記事「7月・・・「予言の日」迫る 当たるも八卦、当たらぬも八卦」で取り上げた「7月5日」を過ぎたが、「祭り」の余波はまだ残っているように見える。何よりも、この「予言」に沿うように動いてきたトカラ列島での群発地震がいっこうに収まる気配を見せないからだ。
トカラ列島での地震回数はすでに震度1以上のものだけでも1500回を超え、最も揺れの激しい悪石島からは、もともと76人しかいない島民のうち、第1陣で13人が島外避難をした(参考記事:「十島村で2度の震度5強、2度目の島外避難も…気象庁「地震が休みなく起こっている」」2025.7.6付け「読売」)。第2陣の島外避難が終わった後に島に残っているのは20人というから、56人が避難したことになる。全島民の3分の2を超える数に当たる。
この種の「予言」についての当たり外れに言及すること自体、どれほど意味を持つかはわからないし、賛否両論あろう。しかし、少なくとも7月を前後して、悪石島の全島民の3分の2を超える人たちが、一時的にせよ島外避難を余儀なくされるほどの群発地震が現実に起きたのだから、的中したと主張する人が一定数、出ることはやむを得ないと言えるだろう。
予言されていた形と違うから外れだと主張する人も多いが、この手の予測・予言が「そのまま」の形では再現されないことはいうまでもない。私が関わっていた福島原発事故の刑事訴訟でも「東電が予測したとおりの形で津波は襲来しなかった」という理由で経営陣全員の無罪が確定してしまったが、津波の形や大きさ、襲来形態まで「1mmのずれもなく、寸分違わない予測でなければ罪を問えない」などという寝言に最高裁までが加担しているから、この国では事故や災害への「備え」が事実上まったく機能しなくなってしまったのである。
少なくとも私は、「災害への謙虚な恐れ」を持っているという意味において、今は気象庁や最高裁などの公的機関よりも、オカルト板の住人のほうを信頼する(そうはいっても、分析の際にデータは気象庁のものを使用せざるを得ないが・・・)
そればかりではない。トカラ列島群発地震の陰に隠れる形であまり報道されていないが、九州本土から南西諸島にかけ、6月下旬から、特に火山関係でかつてないほどの異常事態が起きているのである。
・福岡管区気象台 2025年6月11日付報道発表「口永良部島の噴火警戒レベルを3へ引上げ」
・気象庁 2025年6月23日付報道発表「霧島山(新燃岳)の噴火警戒レベルを3へ引上げ」
・気象庁 2025年7月4日付報道発表「阿蘇山の噴火警戒レベルを2へ引上げ」
口之永良部島、新燃岳の噴火警戒レベル3は「入山規制」に当たる。噴火警戒レベルは5段階あり、阿蘇山の2は日常茶飯事レベルで驚くほどのことではないものの、問題は、トカラ列島での群発地震が収まる気配を見せないなかで、同時期に、近接地域でこれだけ同時に火山活動が活発化しているという事実である。
トカラ列島の地震に話を戻そう。この地域では、過去にも数年おきに群発地震が続いたことは何度もある。だがその多くは1週間から、長くても10日程度で収束していた。6月21日に始まった群発地震から今日でちょうど半月経過するが、なお収束の気配が見えないのは異例といえる。
震度6強~5弱の地震もたびたび起きているが、地震の規模を見るとすべてがM5台である。京大総長も務めた地震学者・尾池和夫さんによると、日本とその周辺ではM6台の地震でも月に1回、M5台の地震となると週1回は起きているという(参考:日本地震学会 一般公開セミナー「関西の地震と防災」レポート、2003年10月5日)。震央が悪石島に近く、また震源も浅いために地表で強い揺れが観測されているものの、驚くことに、今回の群発地震でこれまでM6台は1度も発生していない。要するに、これらの地震はまだ「本震」ではないかもしれないのである。
・令和7年6月30日18時33分頃のトカラ列島近海の地震について(北西―南東方向に張力軸を持つ正断層型)
・令和7年7月2日04時32分頃のトカラ列島近海の地震について
・令和7年7月2日15時26分頃のトカラ列島近海の地震について(南北方向に張力軸を持つ正断層型)
・令和7年7月3日16時13分頃のトカラ列島近海の地震について(北北西―南南東方向に張力軸を持つ横ずれ断層型)
・令和7年7月5日06時29分頃のトカラ列島近海の地震について
・令和7年7月6日14時01分頃及び14時07分頃のトカラ列島近海の地震について
これまで起きた地震で、気象庁が地震のメカニズムに当たる「発震機構解」に言及している報道発表は3回ある。気になるのは、張力軸の方向が3回とも異なっていることだ。一般的に、震源が近い場所での張力軸、圧力軸の方向は同じであることが多いが、今回は異なっており、しかも正断層型と横ずれ断層型がある。
現時点で確定的なことはまだ言えないが、今回の群発地震は活動領域が広範囲にわたっており、地震の「巣」は1つではないかもしれない。ユーラシアプレート内側で、太平洋プレートとの境界に近く、それほど離れていない複数の地震の「巣」が、互いに連動し合いながら活動を続けている可能性がある。
気象庁や、権威ある公的機関は南海トラフ地震との関連性を否定している。しかし、これほど大規模な地震活動が、来たるべきプレート境界型地震の「前兆」でないと言うのであれば、いったいどこまで大規模になったら前兆と認めるかの見解を示さなければもはや一般市民は納得しないだろう。
私は、そう遠くない将来(おそらく2020年代のうちに)南海トラフ地震は起きると思っているし、そうなった場合、今回の南海トラフ群発地震が「今思えば、あれほどはっきりした長期的「前兆」活動もなかった」と振り返られる象徴的地震活動になることは間違いないと思う。