人生チャレンジ20000km~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

公共交通と原発を中心に社会を幅広く考える。連帯を求めて孤立を恐れず、理想に近づくため毎日をより良く生きる。

当ブログのご案内

当サイトは列車の旅と温泉をメインに鉄道・旅行を楽しみ、また社会を考えるサイトです。

「あなたがすることのほとんどは無意味でも、あなたはそれをしなくてはなりません。それは世界を変えるためではなく、あなたが世界によって変えられないようにするためです」(マハトマ・ガンジーの言葉)を活動上の支えにしています。

<利用上のご注意>

当ブログの基本的な運営方針

●当ブログまたは当ブログ付属サイトのコンテンツの利用については、こちらをご覧ください。

●その他、当サイトにおける個人情報保護方針をご覧ください。

●当ブログ管理人に原稿執筆依頼をする場合は、masa710224*goo.jp(*を@に変えて送信してください)までお願いします。

●当ブログに記載している公共交通機関や観光・宿泊施設等のメニュー・料金等は、当ブログ管理人が利用した時点でのものです。ご利用の際は必ず運営事業者のサイト等でご確認ください。当ブログ記載の情報が元で損害を被った場合でも、当ブログはその責を負いかねます。

●管理人の著作(いずれも共著)
次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する(緑風出版)
地域における鉄道の復権─持続可能な社会への展望(緑風出版)
原発を止める55の方法(宝島社)

●管理人の寄稿
ローカル鉄道に国・自治体・住民はどう向き合うべきか(月刊『住民と自治』 2022年8月号掲載)
核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

関西地方2路線に乗車

2024-08-26 21:39:52 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
所要のため、8月24~25日の日程で関西方面に行ってきた。この際、以下の通り乗車。

【8月24日】北大阪急行 千里中央~箕面萱野〔奪還〕
【8月25日】神戸新交通 住吉~マリンパーク

昨年は、新年目標とした5路線を上半期で早々と達成し、かなりの超過達成が見えていたが、今年は超スローペースとなっており、未乗車路線の完全乗車は今回の2路線が初めてである。このうち、北大阪急行線は奪還(延長開業で失った完全乗車のタイトルを、延長区間に完全乗車して奪還すること)である。

今年の新年目標は5路線だが、年内にあと3路線乗車できるかは微妙な状況。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

じわり広がる「令和の米騒動」 これは日本の「暗い未来予想図」か

2024-08-23 23:01:43 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2024年9月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ●始まった「令和の米騒動」

 大手メディアではなぜかほとんど報じられないが「日本農業新聞」等の専門媒体、またインターネットをここ数か月来、賑わせているキーワードがある。ずばり「令和の米騒動」だ。実際、スーパーやホームセンターなどの量販店では、早いところでは今年春頃から、購入数量を1人1袋に制限するなどの動きが出始めていた。6月頃からこの動きはさらに加速、7月に入ると、ついに流通業者から米が入荷しないため販売を取りやめざるを得ない店も出てきた。

 米の「欠品」は、まず東京都内など生産地から遠い大消費地で始まり、最近は大生産地である北海道、東北、北陸といった地域でも購入数量制限の動きが広がっている。20~30年くらい前までの農業界では、1等米比率の最も高い米どころといえば東北や北陸というのが常識だったが、10年くらい前から1等米比率の最も高い地域は北海道に移っている。今や日本一の米どころとなった北海道で、さすがにそのようなことはあり得ないだろうと思っていたら、先日、スーパーの店頭で実際に1人1袋の購入制限が行われていて衝撃を受けた。北海道でさえこんなことになっているとは……。事態は私たちの考えている以上に深刻だと考えなければならない。



 メディアが食料品高騰などを取り上げる際、取材に気軽に応じることで知られる都内のスーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長は「ここまで米がないというのは、僕の記憶でも30年ぶりくらいだ」と話す。30年前といえば、私と同年代かそれ以上の読者には今なお記憶に残る「平成の米騒動」(後述)であり、今年の米不足はそれ以来だというのである。

 ●米不足の背景に気候変動

 今年の深刻な米不足の原因として、私から大きく2点、指摘しておきたい。

 第1点は、2023年夏の記録的な猛暑の影響である。昨年産米が「作況指数に表れない隠れた不作」だったことを多くの農業関係者が指摘している。どういうことか。

 農林水産省が公表した2023年産米の作況指数(確定値)は平年を100とした数値で101であり「平年並み」だ。数字だけを見れば悪くないが、米作りの現場の実感は数字とはまったく異なっていた。

 気温35度以上の「猛暑日」が1か月近く続く地点もあった昨年の記録的な猛暑により、主力のコシヒカリを中心に「白濁」現象などが多発。歩留まり(精米した際に白米として残る部分の比率)の良い1等米の比率は近年になく低かった。作況指数は「10a当たり平年収量に対する10a当たり収量の比率であり、都道府県ごとに、過去5か年間に農家等が実際に使用したふるい目幅の分布において、最も多い使用割合の目幅以上に選別された玄米を基に算出」(注1)した数値であるというのが公式の説明であり、作況指数に歩留まりは反映されていないことに注意を要する。玄米段階では平年並みの収量が上がったが、白米に精米する過程で平年以上に小粒になってしまうことによる「隠れた不作」だったというのが農業関係者の一致した見方だ。

 1993年は、東北地方の太平洋側ではほとんど日照がなく、「やませ」と呼ばれるオホーツク海高気圧からの冷たい風が吹き続けた。作況指数がゼロとなる地域も出るなど壊滅的な作況となり「100年に一度」「父母はもちろん、祖父母も経験したことのないほどの大冷害」といわれた。日照不足が続くと、稲が穂をつけないまま白く濁って倒伏する「いもち病」が発生することがある。この年、私は就職活動のため全国を回っていたが、面接先へ向かう列車の窓から見た水田の光景は今も忘れることができない。いもち病のため、白く濁った稲穂が折り重なるように倒伏した光景は、自分の生きているうちには二度と見たくないと思うほど悲惨なものだった。

 翌、1994年の春先には米不足の噂が広がり始め、人々が先を競うように米を買いだめに走る悪循環が始まった。6月頃になるとどこに行っても米が買えない事態となり、政府は史上初の外国産米の輸入に踏み切った。米の生産、流通を政府と農協が一手に取り仕切る食糧管理制度に、戦後初めて穴が空いた瞬間だった。

 冷害に弱いという重大な問題があるにもかかわらず、食味が良いことから全国で作付けされていたササニシキを見直す動きも出た。コシヒカリを中心に、冷害に強い品種への植え替えがこの年以降、進んだが、皮肉なことに、この年を最後に温暖化の進展で冷害は減った。私の記憶では、明確に冷害に分類できるのは東北地方で梅雨明けが特定できないまま終わった2003年、2009年くらいだろう。

 2010年代に入ると、猛暑の年が急激に増え、今度は暑熱対策が米農家最大の課題となった。1993年の大冷害の記憶もまだ残る中で、暑熱対策は道半ばなのが現状だが、気候変動は農家の対策を越えるスピードで進んでいる。

 2023年産米の不作が起きた原因は猛暑であり、1993年産米の冷害とは正反対だが、今年の米不足が当時と大きく違うのは、作況指数がほとんど崩れていないため、農水省など農政の現場に隠れた不作だという認識がほとんどないことかもしれない。そのせいか、農水省はメディア取材に対しても「在庫は大きく減っておらず、現在の米不足は一時的で、早場米が市場に出始める8月下旬頃から徐々に沈静化する」との回答を繰り返している。

 だが、私が足下の現場を見る限り、事態はそれほど楽観できなくなってきたといえる。農水省がデータを元に、必要な米の量は確保していると繰り返しても、消費者にとっては、馴染みのスーパーやホームセンター、米穀店の店頭で買えなければ「誰がなんと言おうと、ないものはない」ということになり、先を競うように買いだめが始まる。新型コロナ感染拡大期におけるマスクと同じように、長期保存が可能な米も「とりあえず自分が買っておけば、他者が買い占めに走っても走らなくても、自分が敗者になることはない」という事実は、すでにゲーム理論によって証明されている。

 事実ではなかったはずの「米不足」が、多くの人々の買い占めによって現実化する「予言の自己成就」のプロセスが進行しつつある。この段階になってから買い占めを沈静化させるのは、コロナ禍において、マスク転売業者に対して政府が実施したような手法を採らない限り難しいだろう。すなわち、罰則規定を持つ国民生活安定緊急措置法(1973年制定)や物価統制令(1946年制定)などの強制法規を発動することである(物価統制令はマスク転売業者には結局、適用されなかった)。

 今年の夏も、既に猛暑日が1か月以上続いている地点があるなど、昨年を上回る猛暑となりつつある。作況指数ベースではない「歩留まりを加味した真の作柄」が昨年から回復するかどうかは予断を許さない情勢だ。秋になっても米不足が解消せず、買い占め後、高値転売で荒稼ぎする業者が跋扈する事態になれば、マスクと違って主食の米だけに、前述の2法令の本格発動なども視野に入れた重大局面を迎えることになろう。

 新型コロナ感染拡大や、ウクライナ戦争以降の食料需給逼迫を受け、政府は今年、「食料・農業・農村基本法」を約30年ぶりに改定した。その際、関連法案として「食料供給困難事態対策法案」も可決、成立したが、この法律には政府の食料供出命令に従わなかった農業者に対する罰則規定のみが盛り込まれ、食料の買い占め、高値販売を行う事業者に対しては罰則が科されないことになった。販売業者に対しては、前述の2法令により対処可能だという判断に基づいているが、ここで重要な事実を指摘しておく必要がある。

 主食の米をめぐっては、敗戦直後の深刻な食料不足に対処するため、必要と認められる場合に政府が農家から米を強制徴発できる「食糧緊急措置令」(注2)が1946年に制定され、食糧管理法とともに廃止される1995年まで、形式的には存続していたという事実である。それから30年、食糧緊急措置令と名称も内容も酷似した法律が、装いを改め、再び登場することになるとは夢にも思わなかった。これがどれほど重大な意味を持つか、賢明な本誌読者のみなさんにこれ以上説明する必要はなかろう。

 ●真の原因は減反政策~「インバウンドが食べ過ぎ」はメディアの「論点ぼかし」

 大手メディアは、コロナ禍で入国が禁じられていたインバウンド(外国人旅行客)が急激に回復したことによって米の需要が急拡大したことも米不足の背景にあると報道しているが、これは誤りである。インバウンドによる米の消費量は1万トン前後と推計されており、これを日本における米の年間生産量(650~700万トン)と比べると1%にも満たない。統計上は誤差の範囲であり、無視できる数字と言っていい。もちろん米の需給全体に影響を与えるほどのものでもない。明らかに米不足への不満、政府の農業政策の失敗に対する批判を排外主義へ流し込む危険な動きである。

 むしろ、多くの農業専門家が口を揃えるのが国の農業政策の失敗だ。元農水官僚で、キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、半世紀にわたって続けられてきた減反政策こそ、米の生産基盤弱体化を通じて米不足を引き起こした主因だと指摘する。

 もちろん、現在政府が行っている減反政策は、かつての食糧管理制度の下で行われてきたものと同じではない。食管制度の下では、国が買い上げる「政府米」の他、政府が指定した民間2団体――農協及び「全集連」(全国主食集荷協同組合連合会)――が買い上げる「自主流通米」だけが正規米とされ、これ以外のルートで出荷される米は「非正規流通米」(俗に言う「ヤミ米」)扱いだった。減反に従わず、非正規流通米として出荷した米の数量分は翌年の減反数量に上乗せされることになっていた。認められた数量を超過した分は国にも農協、全集連にも買い上げてもらえないため「誰にも売れない」恐れがあり、減反は事実上強制力を持つ仕組みといえた。

 食管制度廃止後は、国が地方自治体を通じて生産目標数量を農業現場に降ろす形となり、さらに安倍政権下では、政府が「生産目安数量」を示す形にまで弱められた。いわば「これ以上作ると米価暴落のおそれがありますよ」というものだが、戦前の小作制の反省の上に生まれた戦後農業は自作農主義だから、米価はそのまま農家の所得に直結する。そのような制度下で「手取り収入が暴落してもいいから政府が示した目安数量を超えて作りたい」「他の農業仲間などどうでもいいから、自分だけ目安を大幅に超過した数量を生産して出荷し、同業者を出し抜いて儲けたい」などという「勇気ある」行動を取れる農家は多くない。結局は、米消費量が戦後、一貫して減り続ける情勢の中で、手取り収入を維持するため、農家ができることは「生産を減らすこと」だという減反の本質はそれほど変わらなかったと言っていい。

 このようにして生産を減らし続けた結果、最盛期には年間1500万トンも生産されていた日本の米は、現在では700万トンを切るところまで来ている。最盛期の半分以下の生産量にまで減らしたことになる。前述した「平成の大凶作」の年、1993年の米の生産量が、それでも783万4千トンあったことを知れば、たいていの読者は仰天するだろう。ここ最近の米の年間生産量はそれより少ないのだ。数字だけ見れば、もはや米が日本人の主食の地位を維持できるかどうかも危ういところまで来ているのである。

 これほどまでに米を食べなくなった日本人は今、何を食べているのか。それを解き明かすデータがある。総務省「家計調査」によれば、1世帯あたり年間支出額は1985年には米7万5302円に対し、パンは2万3499円で、3倍以上の差があった。それが2011年、米2万7777円、パン2万8371円とついに逆転する。2012~13年には米が一時的に上回ったが、2014年に再び逆転。以降ずっとパンが米を上回っている。

 注意していただきたいのは、パンに対する支出額が1985年と2011年でほとんど変わっていないことである。すなわち日本人が米消費を減らす代わりにパン消費を増やしたわけではないということだ。日本人の人口減少が本格化したのは2010年代に入ってからで、2011年の時点ではまだ人口減少は本格化していないから、米消費量の長期的な減少トレンドを人口減少で説明するのも適切とはいえない。

 日本人の米消費量の長期的減少トレンドを説明できる要因として、当てはまらないものを順に消していくと、最後まで消えずに残るものがある。ラーメン、パスタ、うどんなどの麺類である。日本人は、米消費量を減らした分を、麺類、つまり小麦の消費量を増やすことで補ってきたといえる。

 米と異なり、日本は小麦を自給できない。大半を輸入に頼っている小麦の消費が一貫して上昇トレンドにあることは、食料自給率の低下と直結している。実際、1980年代にはカロリーベースで50%を超えていた食料自給率は今、38%にとどまる。

 農水省は、生産額ベースでの食料自給率が6割近くに達したことを公表している。だが、食料生産が質・量の両面で増えていなくても、今までより高く売ることによって生産額ベースでの食料自給率はいくらでも引き上げることができる。高くなった農産物を食べたからといって、質・量が増えていなければお腹の膨れ方は変わらない。生産額ベースでの食料自給率の数値は、日本の農産物がどれだけブランド化されているかを知る上での指標として、参考程度に留めてほしい。

 ●「日本人は世界で最初に飢える」「コオロギを食え?」

 「日本人はいずれ雑草や昆虫しか食べる物がなくなる」――そんな衝撃的な予言をして日本中を慌てさせたのはフランスの経済学者ジャック・アタリ氏だ。ウクライナ戦争によって世界の食料需給が急速に逼迫の度合いを強める中で、「現代欧州最高の知性」(もちろん半分皮肉だが)の発言は飛び出した。だが、この発言を「日本政府とも日本人とも利害関係を持たないフランス人のエスプリの類」に過ぎないと軽視してはならない。日本政府がこのまま食料自給率の低下を放置し、亡国的農政を続けた場合、確実に訪れるであろう「暗い近未来予想図」である。

 アタリ氏が日本人に向かって「コオロギを食べる」よう勧告したかのような言説も散見されるが、アタリ氏は前述のように発言しただけであり、コオロギとは言っていない。アタリ氏の名誉のために付け加えておきたいと思う。

 いずれにせよ、ここまで本稿を読み進めてきたみなさんは、現在進行形の「令和の米騒動」が今年限りの一過性の出来事でなく、構造的な原因によって引き起こされたことをご理解いただけたと思う。円安の進行で輸入購買力も以前に比べて落ちつつある日本に、いつまでも食料を提供し続けてくれる国や地域があるとも思えない。

 世界の食料事情は、多くの日本人が想像しているよりもずっと厳しい状況にある。日本の政治家、官僚、経済人の多くが危機感も持たないまま、大部分の食料を輸入に頼ってきたこれまでと同じ世界が今後も続くと、根拠もなく信じ続けていることのほうが、私にはとても信じ難く、恐ろしい。

注1)「令和5(2023)年産水稲の作柄について」農水省

注2)食糧緊急措置令、物価統制令はいずれも1946年に制定されたが、当時はまだ日本国憲法の施行(1947年5月3日)より前だったため、旧帝国憲法が効力を持っていた。食糧不足への対処は一刻を争うにもかかわらず、帝国議会を召集できなかったため、両令は、帝国憲法第8条に基づき、本来であれば法律によらなければ制定できない内容(罰則規定等)を、天皇の裁可によって制定する緊急勅令としての施行だった。

 なお、緊急勅令は、直後に召集される帝国議会に提出が義務づけられており、可決されればそのまま法律として存続する一方、否決された場合には制定時にさかのぼって失効することになっていた。両令は可決され、本文にあるとおり、食糧緊急措置令は1995年の廃止まで存続した。物価統制令は廃止されておらず、現在も有効である。

(2024年8月20日)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【管理人よりお知らせ】9月3日、運輸審議会主催のJR北海道の運賃値上げに関する公聴会で、安全問題研究会代表が公述します

2024-08-21 22:55:50 | 鉄道・公共交通/交通政策
この件は、本来であれば事前発表せず、終了後に報告のみ行う予定にしていましたが、北海道内をメインに活動している鉄道系Youtubeチャンネルによって事前報道されてしまったことから、この際、安全問題研究会としてやむを得ず発表に踏み切ります。

JR北海道が2025年4月からの実施を目標として、現在、鉄道事業法に基づく運賃上限の変更認可申請を国土交通省に対して行っています。この運賃上限変更認可申請を審議する運輸審議会(国土交通大臣の諮問機関)が主催して、一般市民の意見を聴くための公聴会が、9月3日、札幌市内で開催されます。

北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会の開催概要について(国土交通省)

この公聴会で、安全問題研究会代表を含む4人の公述人が意見公述を行います。

4人の公述人の公述書は国土交通省ホームページにおいて既に公表されています(北海道旅客鉄道株式会社からの鉄道の旅客運賃の上限変更認可申請事案に関する公聴会の公述書について)。お読みいただくことでご理解いただけると思いますが、今回の意見公述において、安全問題研究会は、島田修JR北海道会長及び綿貫泰之JR北海道社長に対し、公式に辞任を求めます。

この間の経緯や、公聴会の概要、当研究会代表を含む4人の公述人の意見公述内容については、以下のYoutubeチャンネル「【北海道】乗り物大好きチャンネル」が報じています。

JR北海道の島田会長・綿貫社長の辞任要求へ!国交省主催の公聴会で異例の展開へ・・・一連のJR北海道の経営姿勢に疑問の声が続々!


運輸審議会主催の公聴会には、申請内容を説明するため、申請した鉄道事業者の代表が出席するのが通例となっています。前回、2019年の運賃値上げに先だって行われた公聴会では、JR北海道から島田修社長(当時)が出席しました。今回も綿貫社長が出席するものと考えられます。ただし、島田会長は出席しない可能性もあります。

当研究会が、今回の公聴会の場で、JR北海道会長・社長の「経営ツートップ」に対し、本人(特に綿貫社長)が出席している面前で辞任要求を突きつけたいと考えるようになったのは、根室本線・富良野~新得の廃線が強行された今年3月のことでした。北海道民共有の交通ネットワークである鉄道網を破壊し続けるJR北海道の経営陣には潔く職を辞していただき、同社が新体制で解体的出直しを行う以外に、北海道の鉄道が復活する道はありません。

なお、以下、当研究会代表の公述書全文を掲載します。当日の意見公述も、この通りの形で実施する予定です。

--------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 北海道旅客鉄道株式会社(JR北海道)が申請した鉄道旅客運賃・料金の上限変更認可申請に対し、意見を公述します。

 私は前回、2019年のJR北海道の運賃値上げの際にも公述し、反対いたしました。それから5年が経過し、電気代・燃料費の値上がりや人件費の増加など、JR北海道側にとって斟酌すべき新たな状況変化も生じています。しかし、一部容認という選択肢がなく賛成・反対から選ばざるを得ない以上、5年前と同様、反対の立場を表明せざるを得ません。

 今回の私の公述内容は主に3点あります。1つ目は、定期運賃割引率の縮小についてです。2つ目は、JR北海道のこの間の経営姿勢についてです。3つ目は、繰り返しになりますが、5年前のこの公聴会でも指摘したJRグループをめぐる諸問題についてです。以下、順に述べます。

1.定期運賃割引率の縮小について

 私が最も強く反対せざるを得ないのは、定期運賃の割引率の縮小です。

 旧運輸省鉄道総局時代の1948年に制定された国有鉄道運賃法第5条は「定期旅客運賃は、・・・普通運賃の百分の五十に相当する額をこえることができない」と定めていました。この法律は国鉄分割民営化によるJR発足とともに失効していますが、それでもJR北海道を含むJR各社は、定期運賃を普通運賃の半額以下に抑えてきました。

 私鉄各社における定期運賃の割引率は、普通運賃に対して3割程度の会社が多い中、JR各社が高い定期運賃割引率を維持してきたことは、国民の鉄道といわれた旧国鉄が持つ公共性をも引き継いだものであり、特にJR北海道が経営難に陥りながらも、この高い割引率を維持してきたことを私は高く評価しています。この割引率は今後も維持されるべきであると考えます。

 特に、通学定期運賃の1割近い大幅引き上げは、ただでさえ学校の統廃合が進み、子どもたちの通学時間が延びる中で、地域にとって大きな痛手となります。通勤定期の値上げも痛手ではありますが、多くの企業が通勤手当を支給しています。定期運賃が値上げされても、大人が受ける影響が限定的であるのに対し、子どもたちが値上げの影響を、緩和措置もないまま直接かつ全面的に受けるような手法は、社会的に弱い層により大きな負担を強いるという意味でも認めることはできません。

 5年前の公聴会における島田修社長(当時)の発言内容を私は今もはっきり覚えています。「通勤通学のお客様への定期運賃の割引率は、従来通り維持しますので、どうか、運賃引き上げをお認めくださいますようお願い申し上げます」と、島田社長は公述しました。

 冒頭にも述べたように、電気代・燃料費の値上がりや人件費の増加など、JR北海道側にとって斟酌すべき新たな状況変化はあるとしても、定期運賃の割引率を引き下げる今回の申請内容は、5年前、島田社長がこの公聴会の場で約束したことを覆すものであり、この点からも認めることはできません。

2.JR北海道のこの間の経営姿勢について

 1986年11月28日、国鉄改革関連8法案が参議院国鉄改革に関する特別委員会で可決された際の附帯決議では、国とJRグループ各社に対し「経営の安定と活性化に努めることにより、収支の改善を図り、地域鉄道網を健全に保全し、利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持に努めるとともに、輸送の安全確保のため万全を期すること」が求められています。最近のJR北海道は「経営の安定と活性化」「収支改善」「地域鉄道網の健全な保全」「利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持」のうち1つでも達成できたものがあるでしょうか。惨憺たる状況と言わなければなりません。

 駅の廃止はJR北海道の春の恒例行事になっていますが、鉄道会社は客商売であり、多くのお客様にご利用いただくためには出入口の数は多いに超したことはありません。魅力的な商品が棚に陳列されていても、お客様が店内に入れないのでは売上げを上げることはできません。新型コロナ発生以降、日本の鉄道は新幹線を除いて低落傾向にありますが、そうなったのは「出入口」である駅を粗末に扱ったからです。みどりの窓口の営業時間縮小や列車の減便も相変わらず続いています。

 「地域鉄道網の保全」に関してはさらに事態は悲惨です。1981年の石勝線開通まで、札幌と釧路・根室を結ぶ大動脈であり、北海道の中央部に位置する根室本線・富良野~新得を、災害から復旧させないまま断ち切ったのは、日本鉄道史に残る愚行と言わざるを得ません。また、新幹線札幌延伸後、並行在来線となる函館本線小樽~長万部間(通称「山線」)のうち小樽~余市間は輸送密度が2千人を超えています。廃止後の転換バスの運行を、人手不足を理由にバス会社が拒否しているにもかかわらず、JR北海道が廃止の既定方針を変えないのは、地元住民の生活の足を守るべき公共交通事業者として失格です。

 今年春のダイヤ改正から、「カムイ」「ライラック」を除く全列車から自由席車がなくなり、全車指定席化されました。自由席割引切符(Sきっぷ)も廃止された結果、割引がなくなり運賃・料金が2倍近くに跳ね上がったケースもあります。JR北海道は、事前予約すれば割引になる「えきねっとトクだ値」サービスの利用を盛んに呼びかけていますが、出張では行きの時間は予測できても帰りの時間は予測できないことが多く、またお葬式など急に利用が必要になることもあります。JR北海道はお客様のニーズをまったく把握できていないと言わざるを得ません。

 駅の窓口だけでなく駅そのものも、列車も、自由席も、割引制度も、ローカル線もすべて減らす。このような不便をお客様に強いた上で、なぜ値上げでさらなる負担をお客様に求めなければならないのでしょうか。

 綿貫泰之社長は、特急「すずらん」がガラガラ状態であることに対し、記者から質問が出ると、全車指定席化からまだ半年であるにもかかわらず「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいい」と発言し、快速格下げを示唆しています。すべてが行き当たりばったりのその場しのぎです。JR北海道が鉄道会社として、自分たちの鉄道事業をどうしたいのかという将来展望もビジョンもまったく見えず、これでは会社の将来を悲観して多くの社員が辞めていくのももっともだと思います。綿貫社長就任(2022年6月17日)からわずか2年なのに、これだけ短期間に失態が続いているのは、島田会長-綿貫社長体制が経営能力を欠いていることの最も象徴的な現れです。私は、サービス低下と負担を一方的に押しつけられる全道民・利用者を代表して、島田会長と綿貫社長に対し、今すぐこの場で出処進退を明らかにするよう望みます。

3.5年前のこの公聴会でも指摘したJRグループをめぐる諸問題について

 5年前の公聴会において、私は、JR旅客会社6社間に大きな経営格差が存在し、JR北海道の値上げのたびにその格差が拡大していること、北海道で生産された農産物の多くが鉄道貨物を通じて全国に運ばれ、その恩恵は全国にあまねく及んでいるにも関わらず、冬の除雪費用をはじめとする線路維持のための費用を、北海道民のみが日本一高い運賃料金収入を通じて負担していること、国土交通省の指針で定められている「アボイダブル(回避可能)コストルール」により、JR旅客会社6社がJR貨物に対し、貨物列車が走ることにより新たに発生する最低限度の費用以外を請求できないこと、このため、特に新型コロナ発生前に100億円の利益を上げていたJR貨物を、483億円の赤字を計上しているJR北海道が支えなければならないことなどを指摘しました。JR北海道の経営を苦境に追い込んでいる、このような矛盾だらけの前提条件を改めるよう、私は5年前のこの公聴会でも求めましたが、抜本的改善は行われていません。これが、今回の運賃値上げに私が反対せざるを得ない3つ目の理由です。

 これらはいずれも国鉄分割民営化当時に行われた制度設計によるものであり、JR北海道には何らの責任もありません。JR北海道ではどうすることもできない不利な外的要因により、北海道民だけが負担を押しつけられる不公平が、この先、いつまで放置され続けるのでしょうか。

 大型バスやトラックの運転手が不足し、人も物も運べなくなるといわれる「2024年問題」が注目を集めているのに、全物流に占める鉄道の比率はわずか5%にすぎません。鉄道をもっと物流に活かす道はないのでしょうか。世界中からインバウンドが日本に殺到する中で、観光客と鉄道との共生をはかる手段がもっとあるのではないでしょうか。新しい時代に即した鉄道の役割を議論しないまま、安易に値上げ、減便、廃止でいいのでしょうか。

 旧国鉄は、1949年6月に発足し、1987年3月まで38年間の歴史でした。JRも1987年4月に発足し、今年で37年です。JRグループ発足から、すでに旧国鉄時代と同じ時間が流れました。日本にとっての鉄道はどのような姿であるべきか、鉄道は誰のために、何を目的として走るべきか、再び基本に立ち返って全国民的に議論すべき時を迎えていると考えます。

 安全問題研究会は、2021年1月、全国JRグループ6社を、旧国鉄時代のように全国1社制に戻すための「日本鉄道公団法案」を発表しています。さらに、大塚良治・江戸川大学教授は、JRグループ6社を、日本郵政グループやNTTグループのように持株会社の下に再編することを通じて、利益を上げている会社が赤字の会社を支える新たな制度設計について提案しています。

 運輸審議会が、運賃値上げを論議する諮問機関の役割にとどまることなく、鉄道をはじめとする交通政策、総合交通体系についても議論することによって、新しい時代の公共交通のグランドデザインを描く役割をも担う場として機能していくよう、委員各位にお願いを申し上げ、私の公述を終わります。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さまざまな課題残し……「南海トラフ地震臨時情報」呼びかけ期間終了

2024-08-17 15:16:42 | 気象・地震
●ビーチ閉鎖、電車減速…どこまで必要だった? 南海トラフ臨時情報、対応は「受け手まかせ」の大問題(東京)

----------------------------------------------------------------------------------------
●南海トラフ臨時情報が終了 観光業界は悲鳴、医療機関は課題に直面(毎日)

 南海トラフ巨大地震への備えを促す注意の呼びかけが終わった。宮崎県沖の日向灘で発生した最大震度6弱の地震をきっかけに、お盆休みを直撃した初の臨時情報から1週間。万が一の事態にどう備えるのか。対応に追われた観光業界は悲鳴を上げ、自治体や医療機関は課題に直面した。

 15日午前、紀伊半島の南西部に位置する「白良浜海水浴場」(和歌山県白浜町)は臨時情報の終了に先立って閉鎖が解除され、海水浴客が戻ってきた。

 白浜温泉旅館協同組合の菊原博・事務局長(73)は「ひとまず良かった。ただ、地震を恐れたお客さんが本当に元通り戻ってきてくれるのか心配だ」と語った。

 白浜町は海水浴や温泉が楽しめるほか、レジャー施設「アドベンチャーワールド」では複数のパンダを観覧できる。一帯にはホテルや旅館がひしめき、関西屈指のリゾート地として人気が高い。

 お盆休みは書き入れ時だが、気象庁が8日に「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表すると状況は一変した。

 白浜町は地震が起きた場合、最大で高さ16メートルの津波が押し寄せてくると想定されている。最悪の事態に備え、協同組合や観光協会の関係者らは8日夜に町役場に集まり、白良浜を含む町内4カ所にある全ての海水浴場の閉鎖を決定。10日に予定された花火大会も中止された。

 臨時情報の発表に加え、町の対応を公表した頃からホテルや旅館の予約のキャンセルが相次いだ。23施設が加盟する協同組合によると、約1万9000人分の予約が既に取り消され、現時点で損失額は5億円超に上っているという。

 菊原事務局長は「町全体では10億円以上の損失になるかもしれない。地震大国として備えはもちろん必要だが、今回の発表で観光地が受けた被害も災害並み。国は支援を検討してほしい」と訴えた。

 徳島の夏を彩る風物詩「阿波踊り」は徳島市内で予定通り開催されたが、実行委員会は急きょ作成した津波発生時の避難誘導マップを踊り手にメールで通知したほか、観覧席など会場の至る所に張り出す対応を迫られた。

 2017年の運用開始以降、初めて発表された今回の臨時情報。対象になった沖縄県から茨城県まで29都府県の707市町村は、日ごろの備えの再確認や避難の準備を住民たちに呼びかけたが、教訓を残した自治体も少なくない。

 津波の想定が国内で最も高い最大34メートルとされている高知県黒潮町。臨時情報の発表を受けて災害対策本部を立ち上げた町は、町内全域に「高齢者等避難」を出し、計32カ所の避難所を開設した。延べ8人が身を寄せたという。

 巨大地震の発生に備え、町役場は24時間態勢で警戒にあたり、職員が交代で泊まり込んだ。担当者は「この1週間、通常業務を続けながら防災対応もこなすのは心身ともにきつかった。態勢や注意の呼びかけ方も含めて対応を検証していく必要がある」と語った。

 最大13・5メートルの津波が想定される大分県佐伯市は21年、臨時情報が出た場合の対応方針を定めた。巨大地震注意が発表された際は「状況に応じて高齢者等避難を発令」としていたが、今回は発令しなかった。担当者は「どのタイミングで避難の指示を出すのかが難しく、今後の課題だ」と明かした。

 医療機関も課題を突き付けられた。高知市の基幹災害拠点病院「高知医療センター」(620床)は、災害対応マニュアルに臨時情報が出た際の具体的な行動を規定していなかった。

 センターでは臨時情報の発表後、一部の職員が「帰宅して家族の状況を確認したい」と希望した。患者のみならず、病院運営に欠かせないスタッフへの対応も重要になるということが分かったという。

 臨時情報に特化した具体的な取り扱いは厚生労働省から示されていないが、センターはこの1週間の課題を整理したうえでマニュアルを見直すことを決めた。

 取材に応じた山中健徳・事務局次長(46)は「仮にもう1段階上の巨大地震警戒が出たら避難指示が出る可能性もあり、さらに心配する職員が増えるはずだ。災害発生時の手順を再確認するとともに、今回の経験を生かして臨時情報への対応方法を考えていきたい」と語った。【矢追健介、砂押健太、森永亨】
----------------------------------------------------------------------------------------
●宮崎県内の主要ホテルで1.9万人キャンセル 日向灘地震が影響(毎日)

 宮崎県は16日、同県沖の日向灘を震源に発生した最大震度6弱の地震や「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)が発表された影響で、県内主要ホテルなどで少なくとも約1万9000人分のキャンセルが出たと明らかにした。県は関係団体と意見交換しながら対策を検討するとしている。

旅行需要喚起へ対策検討

 同日、県庁で開かれた災害対策本部会議で明らかにした。県によると、スポーツ合宿の中止が17件、花火大会の中止が2件あった他、10〜12日の連休中の観光客入り込みが宮崎、日南、串間の3市で大きく減少した。えびの市や高千穂町など5市町村でもやや減少したという。県はホテル、旅館への影響を軽減したり、旅行需要の喚起を図ったりする対策を検討していく。

 また会議では、京都大防災研究所宮崎観測所の山下裕亮助教が今回の地震を解説。「1996年10月の震源域の割れ残りがある可能性がある」と指摘し、「タイミングは予測不可能だが、いずれマグニチュード(M)7程度の地震が再び発生する可能性が高い」と注意を呼び掛けた。

 県は16日、災害対策本部を情報連絡本部に移行し、24時間の監視態勢を継続することを決めた。河野俊嗣知事は「県民のみなさんに理解を求めながら、地震、津波への備えを改めて徹底を図っていきたい」と述べた。【下薗和仁】
----------------------------------------------------------------------------------------

8月8日発生した宮崎県日向灘沖地震に伴って発表された「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)の呼びかけ期間(1週間)が、8月15日17時をもって終了した。何も起きることなく経過したのは幸いだったが、地震の危険は常に存在する。呼びかけ期間は1つの目安であり、これを機会に「備え」のあり方を見直したという方も多いだろう。その備えが「次」に活かされることを願ってやまない。

今回の「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)の発表は、紹介した記事にあるようにさまざまな課題を残した。巨大地震「注意」では住民避難は強制ではないが、巨大地震「警戒」が発表された場合、避難が困難な高齢者、障害者にどう対応していくか。観光業などが「キャンセル」によって受けた被害にどう対処するか。そもそも確率論に基づいて発表される「臨時情報」にひとりひとりがどう向き合えばよいのか、等である。

臨時情報への向き合い方でいえば、私は8月8日の記事で降水確率を引き合いに、「30%であれば傘を持って出かけない人でも、60%になったら傘を持って出かけるだろう」と説明したが、その考えは今も変わっていない。野球でも、ピンチで打席に入った相手チームの選手が1割打者なら「まず打ち取れる」と思う投手でも、3割打者が打席に立てば「打たれるかもしれない」と思って警戒するだろう。しかし、3割打者であっても「打たれない確率のほうが高い」ことには変わらず、対策をきちんとすれば「打ち取れる」(地震で言えば「被害を最小限に食い止められる」)のである。私は、「起きない確率のほうが高い」と見て、念のため家具の固定や非常持ち出し品の確認をしたが、結局、その程度だった。

観光業に関していえば、浮沈、栄枯盛衰は世の習いとはいえ、気の毒な感じはする。4年近くにわたる長い「コロナ禍」が5類引き下げによって明け、通常の社会活動がようやく戻ってくると思ったのもつかの間、昨年(2023年)のGWは2023年5月5日に発生した能登半島地震によって潰れ、2023年末~2024年始のかき入れ時も、またも能登地震(2024年1月1日発生)でチャンスが潰れた。そしてお盆の繁忙期、また今回の地震……

年末年始、5月GW、お盆という観光・旅行業界の最繁忙期をまるで「狙い撃ち」するように巨大地震が起きているのは不運というしかなく、つくづく日本の観光・旅行業界は(運を)「持っていない」と思う。しかし、「南海トラフ地震臨時情報」への備えといっても、南海トラフ地震発生時に30mを超える巨大津波が予想される太平洋沿岸と、その心配がない日本海沿岸が同じ対策をする必要まではないし、北海道の観光業界が静岡県と同じように自主休業までする必要があるかというと、さすがにそこまでの反応は不要だと思う。「いつでも来る可能性がある通常の大地震」への備えを怠りなくしながら、通常通りお客さんを迎えるというのが、あるべき姿ではないか。

漫画家・倉田真由美氏が、「地震の前に人間は無力という諦観が必要」なんとかできるは「おこがましさの現れ」(日刊スポーツ、2024年8月16日)と私見を述べ論議を呼んでいる。倉田氏も、ホリエモンこと実業家・堀江貴文氏などとともに最近は「リバタリアン」(公権力による一切の規制を受けず、動物のように本能の赴くままに行動することを望む「自由至上主義者」)化が著しく、非常時にこうした人たちの意見にいちいち耳を貸していたら対策は何もできなくなってしまうので、非常時には放置でよいと思う。私としては、多くの人々が「備え」と社会経済生活を両立させながら、被害を最小限に食い止められる日本社会に発展してほしいと思っている。

こうした残念な人たちの反応を見ていると、改めて思うのは非常時にこそ「日本人の弱点」が浮かび上がるということである。平たくいえば「形のあるもの」や「危機がはっきり目に見える形を取っているとき」の対策、対処はそれなりに得意だが、「形のないもの」や「危機がはっきりとは見えていない」段階での対策、対処がとにかく苦手ということである。世界経済が「ハード」(物作り)中心から「ソフト」(デジタル、データなどの「無形」サービス)中心に変わってから日本経済が凋落の一途を辿っているのも、案外、こうした国民性にも起因しているように思われる。

東京電力が津波の危険を何度も指摘されながら、対策を取らず福島第一原発事故を起こしたのも、結局は「すぐそばに危険が迫っていない段階では、目先の決算のほうが大事」だと思ってしまう日本人の国民性があるのではないだろうか。私が関わっている東電刑事訴訟も、東電旧経営陣が1審、2審とも「無罪」判決となり、困難に直面している。東電の企業体質との闘いと思っていたのが、次第に「日本人の精神性」との闘いに変わってきているからだ。79年前の敗戦の時のように、日本人が「何に負けたのかわからないまま一億総懺悔」するだけで、責任追及も再発防止も実現せず、なし崩し的に新社会への「復興」という路線に流し込まれてしまうのではないかという危惧は、私の中で以前よりもむしろ強まっている。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【転載】<JAL被解雇者労働組合(JHU)声明>JAL123便(御巣鷹の尾根墜落)事故から39年にあたって~日本航空は負の歴史を繰り返してはならない~

2024-08-12 23:41:03 | 鉄道・公共交通/安全問題
JAL123便御巣鷹事故から39年目を迎えた12日、JHU(JAL被解雇者労働組合)が声明を発表しました。レイバーネットからの転載です。

なお、安全問題研究会では、JHU構成団体の1つ、ジャパンキャビンクルーユニオンが呼びかけている「客室乗務員を航空従事者に位置付け、全ての脱出扉に乗務員の配置を義務化する請願」に引き続き取り組んでいます。8月31日が第1次集約ですが、その後も継続して取り組みます。みなさんのご協力をお願いします。

-----------------------------------------------------------------------------------------------
<声明> JAL123 便(御巣鷹の尾根墜落)事故から39年にあたって~日本航空は負の歴史を繰り返してはならない~

 1985年8月12日JAL123便が群馬県御巣鷹の尾根に墜落し、乗客乗員520名の尊い命が奪われた事故から39年が経過した。改めて亡くなられた方々に哀悼の意を捧げます。

 単独機として世界最悪の事故を起こした日本航空は、経営陣が刷新され、「絶対安全の確立」「現場第一主義」「公正明朗な人事」「労使関係の安定融和」の4方針が掲げられた。「機長の組合活動の自由」が認められ、「組合所属による客室乗務員の昇格差別の見直し」が行われたのは、労働組合が長年要求してきた“差別のない自由にモノが言える職場”の重要性が認識されたからであった。

 2005年に「事業改善命令」を受けた日本航空は、安全アドバイザリーグループ(座長: 柳田邦男氏)を立ち上げ、経営破綻直前の2009年に2回目の提言書「守れ、安全の砦!」 が提出された。その内容は、「コスト削減より安全の層を厚くすること。ベテラン社員の技術・ノウハウは無形の財産であり、次世代に継承していく日常的な生身の接触が重要である」など、今日そして未来に生かすべき空の安全にとって普遍的なものである。

<利益第一主義では安全は守れない>

 しかし、2010年の経営破綻後、日本航空の最高経営責任者となった故・稲盛和夫氏は「安全、安全と御巣鷹事故がトラウマになっている。利益なくして安全なし」と公言し、公共交通機関の使命とは相容れない「最少の費用で最大の利益を求める」経営理念を導入した。 結果、安全を守る基盤である職場環境の悪化は進み、整備の現場や客室乗務員の職場では中途退職者が後を断たず、人手不足は逼迫した状況になっている。

 JALは昨年末から続いている不安全事例(滑走路への誤侵入、飲酒問題、機体接触など)で国交省から「厳重注意」を受けた。これに対し、日本航空が報告した安全対策は、上意下達の管理強化と精神論であり、真の再発防止策とは言えない内容となっている。

 特に、1月2日に5名の犠牲者を出した海保機との衝突事故について、「何故、回避できなかったのか?」について社内での調査・分析は全く行われず、それどころか、日本航空は事故後の対応で被害者の如く振舞っている。

 私たちは30年以上の乗務経験があり多くの事故を社内で経験して来た。不安全事例が相次いでいる現状が、1970~80年代の連続事故当時の状況と酷似していることから、重大な危惧を抱いている。経営破綻を口実に“モノ言うベテラン乗務員”を中心に165名を解雇したことで、経験を尊重する風土がなくなり、連続事故の教訓が活かされていない今日の状況は、“いつか来た道”を辿ることになるのではないかと憂慮する。

 日本航空は負の歴史を繰り返してはならない。私たちは、日本航空が直ちに解雇争議を解決して、自由にモノの言える健全で明るい職場を取り戻し、安全運航を支える基盤を再構築することを強く求める。私たちは本日決意を新たに、解雇争議の早期全面解決に向け運動を更に強化していく。

2024年8月12日
JAL不当解雇撤回争議団・JAL被解雇者労働組合(JHU)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今度は神奈川県西部で震度5弱 「巨大地震注意」発表中の南海トラフとの関係は?

2024-08-10 22:37:08 | 気象・地震
令和6年8月9日19時57分頃の神奈川県西部の地震について(気象庁報道発表)

「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表され、緊張が高まっているところ、今度は神奈川県西部を震源とする地震があった。報道発表の通り、震源深さは13km、地震の規模はM5.3、発震機構解(地震のメカニズム)は南北方向に圧力軸を持つ逆断層型である。

気象庁の会見で、南海トラフ地震との関係を問われた平田直・東大名誉教授(南海トラフ地震評価検討会/「地震防災対策強化地域判定会」会長)は、即座に「無関係」と回答した。だが私はあえて、「あるともないとも言えない」と曖昧にしておきたいと考える。今後、本当に南海トラフ地震が起きたとき、無関係と答えていたらメンツが丸つぶれになりそうだからだ。

もうかなり古い話になるが、今から21年も前の2003年10月5日、私は、京都市内で開催された一般公開セミナー「関西の地震と防災」(主催:日本地震学会)に参加したことがある。その概要はホームページに掲載しているが、地震学者でもある尾池和夫・京都大学総長(当時)がこう述べたことが印象に残っている。「日本とその周辺では、M5クラスの地震は週に1回、M6でも月に1回は起きており、たいして珍しいことではない」。

昨日の神奈川県西部の地震は、直下型だったこともあり、最大震度こそ5弱と大きかったが、規模から言えばM5.3で、それこそ「毎週起きている程度の地震」に入る。ありふれた地震か、珍しいかで言えば「ありふれた地震」に入ることは間違いない。M7.1だった一昨日の日向灘地震と比べると、エネルギーもマグニチュードが2小さいから1000分の1に過ぎない。平田会長が「無関係」と即答したのも、「この程度の地震までいちいち南海トラフと関連づけていたらキリがないよ」という思いがあったからかもしれず、そう言いたくなる平田会長の胸中は私にはよく理解できる。

ただ、それでも・・私にはなんだかモヤモヤが残るのである。確かに規模もありふれているし、南海トラフ地震の想定震源域からもわずかながら外れている。しかし、その外れ方は大自然からすれば「誤差の範囲」のように思えるし、「この時期に」「この場所で」起きること自体が不気味すぎる。そもそも、「巨大地震注意」が発表されるきっかけになった日向灘地震が起きていなかったらこの地震ははたして起きていただろうか。そう考えると、無関係と言われて「ああ、そうですか」と納得するほど私はお人好しではない。

加えて言うと、この日の地震の震源地は1923年に起きた関東大震災の震源地にきわめて近い。関東大震災という名称から、私たちはつい首都直下地震を連想してしまうが、実際には神奈川県西部を震源としていたのである。

さて、おとといの記事では書ききれなかった重要なことをいくつか、書き加えておきたい。

南海トラフ地震臨時情報に「巨大地震警戒」(事実上の警戒宣言)と「巨大地震注意」の2種類があることはおとといの記事ですでに触れた。その際、「注意」は「警戒」より1ランク下の情報で、天気予報で言えば注意報に当たり、いわゆる警戒宣言ではないから、降水確率30%の時には傘を持って行かない人でも、それが60%と言われたら傘を持って出かけるのと同じように、社会活動を維持しつつ適切な準備行動を取るよう呼びかけた。

おとといの段階では深く考える余裕がなかったが、社会活動を大規模に止めなければならない「巨大地震警戒」の臨時情報を、本当にそれが必要とされる局面が訪れたとしても、この国の政府が本当に出せるのか、という疑問が私の中に芽生えたのである。

5年前なら、その可能性に私たちが疑問を抱く余地はなかっただろう。しかし、社会経済活動を一定程度の期間、まとまった形で止めることがいかに難しいかを私たちは新型コロナ感染拡大によって思い知ることになった。「三密」回避などの行動変容や、マスク着用に対し頑強に抵抗する勢力がこれほどの規模で存在しているとは思っていなかった(マスク着用強制反対、ワクチン反対で国政政党が1つできるほど抵抗勢力は大規模だった)。しかもそれら抵抗勢力は、どちらかといえばこれまで自民党政権の支持基盤と思われていた保守派に多かったのである。

重症化や、死亡する感染者という形で目の前に危機がはっきり見えていた新型コロナですらこうなのだ。ましてや、巨大地震は確率論の世界である。「来る可能性があるけれど、来ない可能性もある」不確実な段階での社会活動の制限など、いくら巨大地震であっても到底、国民の理解は得られそうにない。もし政府が踏み切れば、「警戒宣言の『空振り』による行動制限、営業制限で損害を被った」として、訴訟の数十件や数百件は覚悟しなければならないかもしれない。

つまり「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」は、法制度としては存在していても、現実問題としては発動できない「張り子の虎」かもしれないということである。そして、そのことは同時に、社会活動を止めないですむ「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が、現実的に発動可能な宣言としてはギリギリのラインかもしれないということでもある。

そのように考えると、今回「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことの意味合いはまったく変わってくる。多くの国民が思っているよりも事態はずっと深刻かもしれないと考える必要が出てきている。いずれにしても、8月15日までの1週間は、何が起きても不思議ではないものと考え、最大限の警戒を怠りなくしてほしい。

そして、いうまでもないことだと思って前回は書かなかったがもう1つ重要なことがある。やはり原発は止めるべきだということだ。南海トラフ地震の想定震源域に完全に含まれている中部電力浜岡原発(静岡県)の運転は論外だが、幸いなことにここは現在止まっている(止まっているから安全ではないことは、東日本大震災当時、停止中だった福島第一原発4号機を見れば明らかだが、止めていないよりはいい)。

特に、想定震源域からわずかに外れているだけで、実質的には誤差の範囲内にある四国電力伊方原発(愛媛県)は決定的に危ない。今すぐ止めるべきことは論を待たない。想定震源域ではないが、強い揺れが見込まれる九州電力川内原発も停止させておくべきだろう。

冷房需要のピークに当たり、1年で最も電力需要が高まる真夏にそんなことをして電力需給は大丈夫なのかと不安に思う人もいるだろう。実際、私も不安を感じて調べてみると、思いがけない事実が判明した。冷房がフル稼働するこの時期は、年間電力需要のピークのはずなのに、川内原発に2基ある原子炉のうち1基(1号機)は定期点検で停止しているのだ(川内原子力発電所運転状況/九州電力ホームページ)。

今や、昼間電力のかなりの部分が太陽光などの再生可能エネルギーで賄われるようになり状況は劇的に変わった。冷房稼働のピークに当たり、年間で最も電力需要が高まるはずのこの時期にすら、九州電力は川内原発2基のうち1基でのんきに定期点検中らしい。今、この時期に動かす必要もないのであれば、もう原発など必要ない。私たちが望むのは、地震が起きるたびに原発は大丈夫かと肝を冷やさなければならない愚かな状況から脱却することなのだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【速報】宮崎県日南市で震度6強 初の南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について

2024-08-08 20:55:50 | 気象・地震
1.令和6年8月8日16時43分頃の日向灘の地震について(気象庁報道発表)

今日午後4時43分頃、宮崎県沖(日向灘)を震源とする地震があり、宮崎県日南市で震度6弱を記録した。この地震により、本記事執筆(午後20時55分)時点では、太平洋宮崎県沿岸に津波注意報が発令されている。夜になり、この時間まで海水浴をしている人は少ないと思うが、すでに1m近い津波が観測された沿岸もある。30cm程度の津波であっても、成人男性が立っていられないほど津波の威力は強い。今後も津波注意報解除までは海のレジャーは中止してほしい。

報道発表を見よう。発生場所は日向灘(宮崎の東南東30km付近)、震源深さは約30km。地震の規模はM7.1で、阪神・淡路大震災(M7.2)とほぼ同規模、今年1月1日の能登地震(M7.6)と比べると、意外にも今回の地震の方が少し小さい。発震機構解(地震のメカニズム)は、西北西-東南東方向に圧力軸を持つ逆断層型である。発生場所は、海溝側地震を引き起こすとされるプレート境界からわずかに西だが、事実上プレート境界で起きたとみていい。海溝型地震は、深さ20~30kmの場所で起きるとされており、この意味でも今回の地震は海溝型地震の特徴をよく備えている。

長い目で見れば、今後30年間の発生確率が70%とされる南海トラフ地震の長期的前兆活動の1つといえるものだ。前兆とはいえ阪神・淡路大震災とほぼ同規模であることから、そう遠くない将来、南海トラフ地震が起きたときに、「南海トラフ大地震の前兆としては最大規模」の地震として記録されることになる可能性が高い。

2.南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)について(気象庁報道発表)

そして、世間を驚かせたのはこの発表(南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意))であろう。地震発生直後から職場、移動の列車内、そして自宅で地震のニュースを見ていたが、発生直後の「判定会」の早い招集、NHKテレビの異例の報道体制から見て、何かが発表されるとの見通しを私が強めたのは午後6時半頃だった。

判定会は、正式には「地震防災対策強化地域判定会」という。石橋克彦・東大助手(当時)が、1978(昭和53)年に「極端に言えば、東海大地震は明日起きてもおかしくない」と発表し、日本社会は騒然となった。これを機会に、国会で「大規模地震対策特別措置法」(大震法)が成立し、東海地震の観測態勢が強化された。判定会は、大震法に基づいて、気象庁長官の諮問機関として置かれ、東海地震の「発生が切迫している」と判断される場合には、首相に対し、「警戒宣言」を出すよう勧告できるという巨大な権限を持っている。

警戒宣言が出されると、公共交通機関の運行停止や住民の強制避難などの強い権限が行政機関に与えられる。それだけに、この宣言発令のハードルは非常に高く、またいざ発出するかどうかの判断が必要とされる場面では、委員は迅速な招集に応じる必要もあることから、大震法制定以来、「判定会」委員は常に連絡を取れる場所にいなければならないとされ、携帯電話の普及以前は「気軽に旅行にも出かけられない」とぼやく委員もいたと伝えられている。現在でも「判定会」委員在任中は携帯の電波が届かない地域へは行かないよう求められているとの話もある。

その後、判定会が審査すべき震源域を、東海地震にとどまらず、東南海地震、南海地震にも拡大し、東海地震と合わせて「南海トラフ」と呼ばれる3地震の想定震源域全体を「警戒宣言」の対象とすることで現在に至っている。

1978年の大震法制定当時は「警戒宣言」と呼ばれていたが、現在の南海トラフ地震臨時情報には「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」の2種類がある。いわば天気予報の「警報」と「注意報」に当たるものと考えていただければよい。当然、警戒対象としては「警戒」(警報)のほうが上で、今回出されたものは注意報に当たるから、警報と比べれば1ランク下の情報ということになる。

南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の発出を受けて、先ほど、19:45から行われた気象庁の会見には、南海トラフ地震評価検討会会長(兼「判定会」会長)の平田直・東大名誉教授が同席した。通常、地震に関する気象庁の記者会見は、(1)最大震度が震度5弱以上である場合、(2)緊急地震速報が出された場合、(3)津波に関する警報、注意報が発表された場合ーーに限って行われるが、その場合も、気象庁の地震観測担当課の課長が単独で行い、通常、地震学者は同席させない。今回、平田会長が会見に同席したのも異例中の異例であり、大地震を長くウォッチしてきた私にとっても前例のないものだった。

平田会長の説明は、要約すると「通常でも地震はいつ起きるかわからないし、いつ起きてもおかしくないから警戒する必要があるが、今回は普通と比べて、南海トラフ地震の想定震源域における大地震の発生確率が『数倍』高くなっているから警戒せよ。ただし、この情報が出されたからといって、地震が必ず起きることを意味するものではない」というものだった。いかにも国会での「官僚答弁」のような回りくどい表現で、日頃から「霞ヶ関文学」に慣れ親しんでいない一般市民にとって「何が言いたいのか」「結局のところ、大地震は来るのか来ないのか」「来るとしたら、どのくらいの確率、規模なのか」「備えとして何をしたらいいのか。一時避難などは必要なのかそうでないのか」等「本当に知りたかったこと」については、肩すかしで何もわからなかったといいう方が大半だったのではないだろうか。

無理もないことだと思う。そもそもどんな状態を「普通」と定義するのかわかりやすい説明が行われてきたことは過去に一度もないし、地震予知も、もしできるようになったら「ノーベル賞が取れる」といわれるほど困難である。日本政府としてはすでに地震予知に関する予算は縮小するなど、事実上「予知」からはフェードアウトに近い状況になっているという最近の事情もある。今回の平田会長の説明ももちろん「予知」を念頭に置いたものではない。

では、結局この説明をどう読み解けばいいのか。一般市民の方にもわかりやすいように、日常生活において身近な天気予報を例に説明することにしたい。

たとえば、「降水確率」が30%の日があったとしよう。仮にこの状態を「普通」と定義すると、降水確率が60%と発表された場合、その日は「普通」に比べて「2倍雨の降りやすい」状態になったといえる。しかし、60%になったからといって、100%の場合と異なり、必ず雨が降ることが約束されたわけではない。もちろん、雨が降らないまま終わることも40%の確率でありうるということになる。

一方で、降水確率30%の予報だった場合、出かける際に「傘を持って行かなくてもよい」と考えている人も、降水確率が60%と発表された場合には「念のため傘を持って出かけようか」と考え、実際に多くの人が実行に移すだろう。結果的に雨が降らない確率(40%)のほうが的中し、一滴の雨すら降らないまま終わったとしても、大半の人は持ってきた傘が「荷物になっただけで終わったけれど、雨に濡れるよりはマシで、降らなくてよかったね」と思うに違いない。要するに、今回の宣言はこのように読み取ってほしい。普段なら「降水確率30%で、傘など持っていかなくてもたいしたことがない」のが、今回、降水確率が2倍になり、「念のため雨に備えて傘くらいは持って出かけた方がよい」という程度には警戒してほしい。それが長年、大地震ウォッチングを続けてきた私から皆さんへのメッセージである。

もちろん、想定震源域に住む人々に対してだけ私は警戒を呼びかけるつもりはない。なぜなら南海トラフ地震臨時情報は、大震法が想定震源域としている地域だけを対象とした「地域限定特別法」であり、その他の地域を対象としていないからだ。これも天気予報にたとえると、「自分の住む地域が天気予報の対象になっていない」からといって「雨が降る可能性がない」わけではないのと同じことである。このような臨時情報が出されているときは、想定震源域以外の地域でも地震の発生確率は高くなっていると考えるべきなのである。

いずれにしても、大震法が定める「警戒宣言」には当たらないが、それに準ずる情報が気象庁から出されたのは初めてであり、少なくとも今回、1978年の大震法制定以来45年間で最も深刻な事態を迎えていることに疑いの余地はないから、私は今回の臨時情報発表をきっかけに、日本全国各地域で、それぞれが地震発生に備えた最大限の準備をするよう訴える。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする