ツアー2日目。朝5時には目覚める(最近、ストレスのせいか眠りがものすごく不規則で困る)。起床ついでに、昨日かなわなかった温泉に入浴。
この日は名水百選にもなった「竜ヶ窪池」見学から開始。柱状節理(サムネイル写真)、見玉不動尊を回り、国道(というより「酷道」)405号線を走りながらガイドさんの案内を聞く。信濃川という呼称は新潟県側だけで、同じ川が長野県側では千曲川と呼ばれることまでは知っていた。だが、旧「信濃国」側の長野で信濃川と呼ばれず、「信濃国」でない側の新潟県内で信濃川と呼ばれるのはなぜか。私が長い間持っていたそんな疑問に対する回答もガイドさんの案内の中にあった。「古来、川は上流から下流への恵みであるとの考えから、上流に当たる国の名を冠するのが一般的でした」。それで、信濃に源流のあるこの川は、上流ではなく下流地域で信濃川と呼ばれるようになったらしい(念のため付け加えておくと、この説は確定的ではなく、諸説あるようだ)。
秋山郷結東温泉かたくりの宿で昼食を摂る。ついさっき裏山で店主みずから採集してきたという山菜が料理され、テーブルいっぱいに並べられる。自然と共生する里山の最も幸せな形がそこには展開していた。ここは元小学校の廃校を利用した施設で、きちんと今あるものの再利用をしているのも嬉しい。宿というくらいだから宿泊もできるのにここに泊まらないなんてもったいないと思う。「酷道」405号線が閉鎖される冬季はここも休業となるようだ。
思えば、原発事故が起きるまで、私も福島でこのようなスローライフ、ロハスな生活を楽しんでいた。3.11ですべてが暗転、自然との共生は断ち切られた。これがどれほど残酷なことか。「カブトムシはデパートで買うもの」だと思っている都会民には決してわからないだろう。
いよいよ、ここでの昼食が終わればエコツアーは解散となる。各自、解散に当たって一言ずつ述べよ、というので、私はこのような感想を話した。「原発事故以降、失われてしまった自然との共生、自然の恵みに感謝しながらそこで採れたものを食べる、という生活を久しぶりに取り戻すことができ、この2日間は自分の身体に久しぶりに血が通ったような気がしました。同時に、日本がこれから進んでいくべき新たな社会の姿がはっきり見えた、きわめて意義深いツアーだったと思います」
エコツアーはここで解散、以降はオプショナルツアーとして東電の西大滝ダム、そしてJR東日本信濃川発電所を回る。西大滝ダムに向かう途中の国道117号線は安定した広い道路で気持ちよく、3桁「酷道」の405号とは雲泥の差だ。飯山線が並行しており、鉄道ファンの私は線路が気になって仕方ないが、あいにくこの路線は1日数本しか列車がない超閑散路線。特定地方交通線によくぞ選定されなかったものだと感心する。
車は新潟県から長野県に入る。新潟県は東北電力(50Hz)だったのが、長野県に入ると中部電力(60Hz)のエリアだ。東北電力から東電の管轄区域を経ず、いきなり中部電力の管轄区域になってしまう新潟・長野県境は興味深いエリアだと思う。そう言えば、昨夜の宴会で気炎を上げる人がいた。「こんな狭い国の中に50Hz、60Hzと2つの周波数があるなんて恥ずかしい。こと電力に関する限り日本は最低最悪で、これから電力開発をする途上国にすら全くお手本にならない。そもそも同じ国の中で周波数の統一すらできないような連中に原発なんて扱わせてたまるか!」
当ブログはこの見解にほぼ全面的に同意する。大局を見ず狭い了見しか持ち得ない、自分の周囲の小さな利益の維持に汲々とする人々が決定権を持つ不幸が、新潟では川の破壊、福島では放射能汚染として罪無き人たちに襲いかかったのだ。
途中、「面白い場所があるのでご案内しましょう」と案内人が車を止める。そこに鎮座しているのは世にも不思議な「
横向き地蔵」。お地蔵様が6体、見事に横を向き、行列を成して歩いているように見えるが、元々このお地蔵様は正面を向いていた。それが、東日本大震災の翌日の2011年3月12日に当地(長野県栄村)を襲った震度6強の巨大地震のため、一斉に90度、横を向いてしまったのだという。珍しい現象には違いないが、地震のエネルギーのかかり方が6体とも同じであったためにこのような現象が起きたに違いない。
「もうひとつの大震災」と呼ばれたこの長野県の大地震で、栄村ではひとりも犠牲者が出なかった。地元の人たちは、このお地蔵様が住民を守ってくれたと信じ、元に戻すのをためらっている。「元に戻すと天罰があるのではないか」と話す住民もいるとのことだ。
西大滝ダムは初めて訪れたが、JR信濃川発電所同様、どちらが本流でどちらが支流かわからないほどの凄まじい取水量で川を枯らしていた。「復権の会」のメンバーが怒るのも当然だ。
(参考:
西大滝ダム取水後の信濃川 宮内ダム取水後の信濃川)
信濃川発電所は「JRに安全と人権を!市民会議」(JRウォッチ)として訪れて以来、3年ぶりだ。改ざんが発覚して問題化した件の流量計を見ようと思い、現地に近づいたが・・・
ない! なくなっている!
代わりといってはなんだが、発電所の事務所前の壁面に新たな
流量計が設置されていた。毎秒43.6立方メートルと表示されていたが、JR東日本は改ざんの「前科一犯」だけに本当にこれが正しいかどうかは見定める必要がありそうだ。JRや東電のせいで私はずいぶん疑い深くなってしまった。
ダムを見た後は、休憩も兼ねて国道117号線の「
道の駅信越さかえ」に立ち寄る。ソフトクリームが名物だという案内人に従い、食する。味はなかなか濃厚だ。
地元・栄村産のキノコ類などを買い込む。キノコ類は、福島では危なくて食べられないものの代名詞になってしまった(私が運営に関わっている白河の市民放射能測定所で、地元・白河産のキノコから9000Bq/kgの放射性セシウムが検出された例がある)。愛知県産のイチゴが並んでいるあたり、中部地方文化圏に入ったことをうかがわせる。「このあたりはなめこなどのキノコ類を作る農家が多いんですよ」と、案内人の説明があった。
道の駅を出発、十日町駅に向かう。到着後、案内人に丁重に謝意を伝える。十日町からは北越急行(ほくほく線)で越後湯沢へ。越後湯沢からは新幹線で帰宅。
「復権の会」の根津共同代表は、東電の株主代表訴訟で、本来あるべき水の姿とともに、東電の責任を問い続けている。私もまたJR株主として、信濃川のあり方を問う闘いに踏み出す。根津代表のグループが原発廃炉も争点にすれば面白い闘いになるだろう。
こうなれば共闘だ。新潟の「復権の会」が福島原発廃炉を含めて東電と闘い、福島の私が信濃川のためにJRと闘うというのも面白い。どのみち敵はひとつである。「恵みと災いの非対称性」(鬼頭教授)、「犠牲のシステム」(高橋哲哉さん)を問う闘いの先には、必ず真の敵、経団連が見えるはずだ。
今年もJR東日本、西日本の株主総会には会社提案に抗して株主提案が行われる。週刊「東洋経済」誌の報道によれば、野村ホールディングスの株主総会でも「東電・関電への融資・投資は行わない」よう定款変更を求める株主提案が個人株主から行われるという(
関連記事)。社会的強者が弱者を踏みつけ、その悲鳴には聞こえないふりをして「シャンシャン総会」の茶番劇を演じていれば済む時代は終わりを告げた。傍若無人に環境を破壊し、命の持続可能性をも奪い尽くす者たちに対する異議申し立てが、いま、静かに、しかし確実に広がっている。
そのことを確認できただけでも、有意義な2日間だった。