安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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最近、日本が開発途上国のように見えませんか?

2018-03-25 13:41:12 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2018年4月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 昨年1年間だけで1千万人を超える外国人観光客が訪日し、インバウンドというカタカナ用語が説明もなしに通用するようになるなど、すっかり観光立国の名をほしいままにしている日本。だが、そんな観光地の隆盛とは裏腹に、外国人観光客から「日本って先進国ですか?」と尋ねられても「はい」と答える自信が最近、次第になくなってきた。安倍政権成立後5年を経過した日本社会が、先進国としてのあるべき姿からあまりにかけ離れていると感じることが多くなってきたからだ。

 「経済一流、生活二流、三四がなくて政治五流」――そんなふうに言われていたのは1970~80年代だったと記憶する。エコノミック・アニマルと評せられ、経済だけは一流だった日本も、GDP(国内総生産)ではすでに中国の後塵を拝し、日本の「新階級社会」化を指摘する本まで出版されるほど貧富の差は拡大した。

 しかし、なんといってもこの間、最も劣化が進んだのは、ただでさえ五流といわれていた政治だろう。国民を「ダチ」と「敵」に峻別し、「ダチ」には徹底的な政治的分配で報いる一方、「敵」は体育館の裏に呼びつけて「ヤキ」を入れる安倍首相の手法は、70~80年代によく見られた田舎の不良中学生のようで、もはや政治の名に値しない。国家行政に日常的に介入する安倍首相の一部の「お友達」や取り巻き、インフォーマルで不透明な権力の行使を日常的に続ける首相夫人らの姿にしても、20~30年も前に打倒されてとっくに歴史の彼方に消えたフィリピンのマルコス政権や、インドネシアのスハルト政権の末期のようだ。

 ●いまや金正恩体制以下の日本

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の政治体制について、日本のメディアは「金日成主席、金正日総書記から金正恩委員長へと継承された3代世襲、朝鮮労働党一党独裁」と報道しており、日本人の多くもそう思っている。もちろんその評価は間違っていない。だが、安倍首相だって岸信介元首相、安倍晋太郎元自民党幹事長に次ぐ世襲の3代目。自民党一党独裁なのもお互い様だ。

 こんなことを言うと「ちょっと待て。日本では一応、民主主義的な“自由”選挙が行われている。朝鮮なんかと一緒にするな」という声が聞こえてくる。だが、朝鮮の名誉のために書いておくと、朝鮮でも立候補の自由は認められている(ことになっている)し、旧ソ連などの共産圏諸国でも立候補の自由は(形式的には)認められていた。

 ただ、その自由を実際に行使しようとするとどのようなことが起こるかについては、80年代に毎日新聞社モスクワ特派員の手によって執筆、刊行された「モスクワの市民生活」という本に紹介されている。同書によると、お上の選んだ候補者が気に入らないため、共産党推薦候補に対抗して立候補を届け出ようとモスクワ市選挙管理委員会に出向いた男性は、選管職員から「お前、気は確かか。寝ぼけているなら顔を洗ってこい」と言われ、立候補届が受理されなかったという。

 こうして、選挙は官選候補に対する信任投票となるが、信任票が限りなく100%に近くなるよう選挙制度にも「工夫」が凝らされている。投票用紙に何も書かずに投票箱に入れた場合、官選候補への「信任」として扱われるのである。お上が選んだ候補が気に入らないへそ曲がりの有権者だけが記入所に入り、わざわざ×をつけるわけだが、こうしたへそ曲がりの有権者は、投票所の出口で選管職員に呼び止められ、精神科への入院を勧められるのが常だった。

 しかし、こうした旧ソ連の選挙制度でさえ、官選候補「個人」に対して意思表示ができるだけまだいいほうで、最も極端だった旧ドイツ民主共和国(東ドイツ)に至っては、官選候補とそれ以外の候補への議席の割当内容が記載されたリストに対し、承認か不承認かの意思を表示できるに過ぎなかった。候補者の当落が、官選候補となれるかどうかによって投票前に事実上決まってしまう――旧共産圏の一党独裁体制における選挙制度とはこのようなものだった。

 日本の選挙制度を、こうした旧共産圏の選挙制度と同一視すれば、日本が民主主義国家だと信じている純粋な読者諸氏からはお叱りを受けるかもしれない。だが日本でも、自民党公認となれるかどうかによって、候補者の当落が投票日を待たずに事実上決まってしまうという旧共産圏のような現実がある。ウソだと思う方は、昨年起きた出来事を思い出してみるといい。秘書を大声で「このハゲー!」と罵る議員、沖縄選出でありながら「基地のことはこれから勉強します」と発言して周囲を慌てさせた挙げ句、その後も基地問題の勉強より不倫に忙しい元アイドルグループ出身議員、「イクメン」を演出しながら身重の妻を置き去りにして不倫にいそしんでいた議員――議員以前に人間として失格と言わざるを得ない人物でも自民党公認の看板が付くだけで続々と当選してきた。当選後も所属議員の関心は政策ではなく、政府を通じた利益分配と政権維持にのみ向けられている。このような事実を列挙すれば、旧共産圏の一党独裁政党も自民党も似たようなものだという筆者の見解に大半の読者諸氏から同意していただけるだろう(もっとも日本では自民党以外の候補に投票しても、選管職員に入院を勧められることはないが)。

 権力行使のあり方に目を向けると、日本の病状はさらに深刻といえる。森友学園問題では、安倍昭恵首相夫人が法令を無視した国有地の払い下げを官僚に事実上強行させた。あらゆる行政機関や公的機関が、昭恵夫人の動向に注意を払い、それに沿うように活動している。先日の国会では、一私人に過ぎない昭恵夫人の名前が国有地払い下げを決める改ざん前の公文書になぜ記載されていたのかと問う野党議員の質問に対し、財務省理財局長が「首相夫人だからです」と率直に答弁して日本中を驚かせた。

 身内を重用しているという点では米トランプ政権も金正恩政権も同じではないかという反論もあるかもしれない。だが、トランプ大統領は娘のイヴァンカ氏を正式に補佐官に登用している。金正恩委員長ですら、平昌五輪に派遣した妹の金与正氏を対外宣伝担当の朝鮮労働党第一副部長の役職に就けることによって身内の権力行使を正当化できる態勢を整えている。これに対し、昭恵夫人だけがいかなる公職にも党の役職にも就かず、インフォーマルかつ恣意的で不透明な権力行使を日常的かつ無自覚に続けている。この点に限れば、安倍政権の無法ぶりはもはや金正恩政権すら超えているというべきだろう。

 ●トップは自分のためにルールを変え、政府に異を唱える女性は「亡命」

 先日、中国では最高意思決定機関である全国人民代表大会が開催され、これまで2期10年までに制限してきた国家主席の任期を撤廃する憲法改正案を可決。習近平氏が「終身国家主席」となる道が開かれた。安倍首相も、2期までとされていた自民党総裁の任期を3期までに延長する党則改正を実現している。そもそも国のトップによる法律や制度の改正は国民のためであるべきだし、逆に、国のトップのためのルール変更の場合、それは下からの市民の総意によって行われるべきものである。わかりやすく言えば、ルールとは自分ではなく他人を幸せにするために変えるものであって、自分のために変えるものではないが、安倍首相も習近平国家主席もそのことがまるでわかっていない。

 安倍政権発足以降の日本では、なぜその政策が採用され実行されているのか皆目見当がつかないケースが以前の政権と比べても増えている。合理性、経済性、過去に採られた政策との整合性や継続性、いずれの面から見ても不合理で説明できないのだ。だが、誰が安倍首相と友達か、提案した政策がよく採用される人のバックに誰がいるのかといった人的つながりに視点を移した途端、政策の採用理由をクリアに説明できる場合が多い(例えばリニア新幹線に財政投融資として3兆円もの巨額な資金が投じられる理由は、葛西敬之JR東海名誉会長が安倍首相のお友達であることで説明できる)。これは安倍政権下の日本がかつての法治主義から人治主義に後退しつつあることを示している。

 安倍政権が女性活躍推進を声高に叫べば叫ぶほど、実態は目標から遠ざかりつつある。世界経済フォーラムが毎年取りまとめ公表している女性の地位に関する国際的順位でもともと下から数えたほうが早かった日本は、安倍政権成立後はさらに右肩下がりで底に近づいている。子どもを預ける保育所が見つからないため復職をあきらめなければならない女性があふれている。安倍首相のお友達の元記者・山口敬之氏から受けた性暴力を告発している伊藤詩織さんや、右翼からの根拠のないテロリスト呼ばわりを告発した辛淑玉さんは、報復を恐れて国外に「亡命」を余儀なくされた。

 国のトップの首相が自分のためにルールを変え、首相夫人はインフォーマルで不透明な権力行使を無自覚に続ける。為政者に都合の悪い公文書は白昼公然と改ざんされる。首相の一部の取り巻きたちが、自分たちの政治的分配が最大になるように国家行政に介入し、逆らう者には公然と圧力をかける。女性は2級市民扱いされ、国に異を唱えたり、指導的地位にある男性からの性暴力を告発したりすれば亡命せざるを得なくなる。選挙で政権を変えたくとも、一党独裁政党からの公認が得られた候補者の当選が投票日を待たずに事実上決まってしまう選挙制度のためお手上げだ。20世紀のどこの共産圏や開発途上国の話かと笑い出しそうになってしまうが、これが私たちの国、日本のまぎれもない現状である。

 これでもまだ日本を先進国だと胸を張って言えるか、改めて筆者は読者諸氏に問いたいと思う。政治も経済も市民生活も朽ち果て劣化の一途をたどる日本。先の敗戦の時のように、今のこの状況を第二の敗戦と認めた上で、潔くゼロから再出発する以外に復活の道はないのではないだろうか。

(黒鉄好・2018年3月25日)

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福島からの「自主」避難者・森松明希子さんの国連人権理事会スピーチ

2018-03-21 16:08:15 | 原発問題/一般
原発事故に伴い、福島から大阪に避難した森松明希子さんが3月19日、国連人権理事会でスピーチをした。スピーチは国際的な環境保護団体、グリーンピースの発言枠を使って行われた。わずか2分あまりだったが、福島の置かれている現状や、日本政府の福島における非人道的な行動についてよくまとめられたスピーチだった。

以下、動画をご紹介するので、福島の置かれた状況をぜひ認識していただければと思う。なお、この森松さんも、当ブログ管理人は2012年頃から長い交流がある。

3月19日 スイス・ジュネーブ 国連人権理事会での森松明希子さんの演説

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【管理人よりお知らせ】当ブログ・安全問題研究会の拠点移転、その他について

2018-03-19 00:47:00 | 運営方針・お知らせ
管理人よりお知らせです。

1.当ブログ及び安全問題研究会は、4月から活動拠点を札幌市に移します。

当ブログ管理人は、4月1日付で札幌市に転勤することになりました。これに伴い、当ブログ及び安全問題研究会も、4月から活動拠点を札幌市に移すことになります。詳細は移転後に改めてお知らせします。

なお、当ブログは現在、インターネット光回線サービスのない地域で活動しているため、Youtube「タブレットのチャンネル」への新規動画のアップロードを中止していますが、札幌移転後は料金定額制の高速光回線サービスとなる可能性が高く、Youtube「タブレットのチャンネル」の更新再開を検討しています。

2.3月26日、gooブログシステムのメンテナンスのため、当ブログが一時、閲覧できなくなります。

gooブログシステムを運営するNTTレゾナント社より、2018年3月26日(月)の8:30~12:00にメンテナンス作業を行うことが告知されています。このため、同時間帯において、当ブログを含むgooブログが一時、閲覧できなくなります。詳細はgooスタッフブログの告知記事をご覧ください。

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京都、東京原発訴訟 相次いで国の責任認める 京都は画期的内容も

2018-03-18 11:47:54 | 原発問題/一般
<原発避難訴訟>国と東電の賠償責任認める 京都地裁(毎日)

<原発避難訴訟>東京地裁も国と東電に賠償命令 国は4例目(毎日)

3月15日(京都地裁)、16日(東京地裁)で相次いだ原発事故避難者の賠償請求訴訟で、国の責任を認める判決が出された。記事にもあるように、東京電力はもちろんのこと、国の責任を認める判決は4例目。国の責任が認められなかったのは昨年春の千葉訴訟のみ。その千葉の訴訟も、実質的に国の責任を認めたに等しい高額の賠償が示されたことを考えると、国の責任を認める流れはほぼ定着したといえよう。

3.11前の原発行政は、およそ規制行政の名に値しないひどいもので、福島原発事故後の2012年に国会事故調査委員会がとりまとめた報告書で「規制する立場とされる立場の“逆転”が起き、規制当局が電力会社の虜(とりこ)になっていた」と指摘されるほどだった(関連記事)。今さら「原発を運転していたのは電力会社」などという言い訳が通じるほど国民世論は甘くないことを政府は知るべきだ。

京都訴訟の判決骨子、判決文などの詳細な資料は、「原発賠償訴訟京都原告団を支える会」のサイトに掲載されている(資料ページはこちら)。

判決文は400ページを超える膨大なもので、当ブログもまだ検討に入れていないが、8ページの「判決要旨」であれば20~30分で読んでおおむね理解できるだろう。国側は、津波予測が不可能だったことの根拠として、2002年に政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が公表した地震に関する「長期評価」を「数ある予測のひとつに過ぎない」と主張してきた。だが、これまでの過去の裁判と同様、京都地裁もまた国側のこうした無責任な主張を退けた。

『(原発に関して)監督権限を有している経済産業大臣は,常に最新の知見に注意を払い,現在の原子力発電所の安全性について,万が一でも事故が発生しないといえる程度にあるのかどうか,常に再検討することが求められている。

 ここでいう最新の知見は,統一的通説的見解でなければ採用することができないというわけではない。長期評価は,地震に関する調査,分析,評価を所掌事務とする被告国の専門機関である地震本部が,地震防災のために公表した見解であり,地震又は津波に関する学者や民間団体の一見解とは重要性が明らかに異なり,単に学者間で異論があるという理由で採用に値しない,少なくとも検討にも値しないということはできない。』

京都地裁は明快に断じている。そもそも被告の国(経産省)が、国自身(地震本部)によってまとめられた見解さえ原発の安全対策に採用できないということになれば、その後に何が残るというのか。

今回の京都判決では、国の避難指示によらない避難者、いわゆる「自主避難者」の避難について、きわめて注目すべき見解が示された。

『低線量被ばくに関する科学的知見は,未解明の部分が多く,LNTモデルが科学的に実証されたものとはいえず,1mSvの被ばくによる健康影響は明らかでないことに加えて,国内法において年間1mSv等の線量の基準が取り入れられることとなったICRP勧告も,線量限度を設けることは政策上の目安であるなどというものであるから,空間線量が年間1mSvを超える地域からの避難及び避難継続は全て相当であるとする原告らの主張を採用することはできない。

 一方,年間追加被ばく20mSvという基準は,政府による避難指示を行う基準としては,一応合理性を有する基準であるということができるが,政府による避難指示を行う基準が,そのまま避難の相当性を判断する基準ともなり得ない。

 避難指示による避難は,当然,本件事故と相当因果関係のある避難であるといえるものの,そうでない避難であっても,個々人の属性や置かれた状況によっては,各自がリスクを考慮した上で避難を決断したとしても,社会通念上,相当である場合はあり得るというべきである。』

判決要旨は『避難の相当性』についてこのように結論づけている。注目すべきなのは最後の段落(『避難指示による避難は,~あり得るというべきである』の部分)だ。

京都地裁の今回の判決は、一見すると原告が求めてきた「安全基準としては一般市民の被曝の上限を1ミリシーベルトとすべき」との主張を退け、被曝の危険性を低く見積もる「御用学者」側の主張である「20ミリシーベルトを超える場合のみ何らかの対策をすればよい」に沿った内容になっている。このこと自体は批判すべきだと当ブログは考えるものの、一方で「個々人の属性や置かれた状況によっては」自主的な避難が「社会通念上,相当である場合はあり得る」と明快に判示し、自主避難者にも賠償を認めたことである。

これまで、自主避難をめぐっては「危険だから避難の権利を認めてほしい」「危険でないから認める必要はない」の見解が鋭く対立し、双方の間に激しい非難の応酬、叩き合いが続いてきた。当ブログも、自主避難を認めようとしない立場の論者は、それが誰であろうと徹底的に批判してきたとの自負を持っている(自主避難者に「自己責任」「裁判でも何でもすればいい」と言い放った今村雅弘元復興相に対する徹底的な批判はその一例である)。しかし一方で、氷点下50度の屋外に1日中立ち続けたとしても、死ぬ人と死なない人がいるように、外部環境に対する感受性は人によって違う。それを「自分は平気だったから他の人が危険だというのはおかしい」「自分が危険な目に遭ったから平気だなどという奴は絶対に許さない」というのでは、論争は1万年経っても終わらない。国はそのことを理解しており、わざと両論併記に持ち込んで、政府に異を唱える人たちが疲弊するのを息を潜めて待っているのだ。

今回の京都訴訟は、むしろ避難の合理性の議論を危険性/安全性の議論と切り離したところにこそ意味がある。平たくいえば「放射能汚染された場所に自分が住みたくないと思う人は、危険か安全かに関わりなく住まないことを自己決定すればいいし、それは権利である。そうした権利を行使する人も賠償の対象になり得る」という論理展開になっていることだ。避難する側がいちいち放射能汚染地の危険性を証明しなければならなかったこれまでの不合理から解放される。憲法が保障する「居住・移転の自由」に沿った判決ともいえるだろう。

福島では、国や県の公式統計では避難者として扱われないものの、被害者視点で見るならば避難者の1類型に加えてもよいと考えられるような「広義の避難者」と呼ぶべき人たちも無数にいる。最も典型的な一例を挙げれば「原発事故によって事業所が避難指示区域に入ったり、あるいは顧客の避難などで勤務先の経営が悪化して倒産。失業したが、福島県内に再就職先がなく、遠く離れた西日本や北海道などで就職が見つかったため、一家揃って福島から再就職先に移住」したようなケースである。

こうした人たちまで「避難者」として公式統計に加えることは、国や県には無理な相談だろう。しかし「原発事故がなければ、その会社が経営破たんせずに済んだ」とある程度客観的に考えられるようなケースでは、こうした移住も避難の1類型に加えていいように、当ブログには思われるのである。自己決定権による避難、すなわち「自分が住み、生きる場所を自分で決定する権利の行使としての自主避難」にも賠償適用の余地がある、と判示した今回の京都判決は、危険安全論争を一気に飛び越え、こうした広義の避難者の救済にまで道を開き得る、あらゆる可能性を持った判決であるとの評価も可能なのである。

『被災者生活支援等施策は、被災者一人一人が第八条第一項の支援対象地域における居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことができるよう、被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない。』

今ではすっかり忘れ去られてしまった感があるが、2012年、超党派の議員立法によって成立した「原発事故子ども・被災者支援法」は高らかにこう謳う。京都地裁の判決は、「子ども・被災者支援法」の精神を活かしたものだとの評価もできるのだ。

もうひとつ画期的なのは、千葉県松戸市、柏市からの自主避難者にも賠償を認めたことだ。松戸や柏の放射線量が高いことは原発事故直後から判明しており、特に柏市は、当ブログ管理人が北海道移住前に住んでいた福島県白河地域さえ上回るほどの放射線量を観測している。都内でも江戸川区、江東区といった地域の放射線量が特に高いことは知られており、東京からの自主避難者にも大きな希望を与えるものだ。

一方で、京都地裁が認めた原告への賠償は、これまでの裁判と比べてもあまりに低額すぎる。174人の原告中、64人がまったく賠償を認められなかったことも不満だ。原告は直ちに控訴を表明しており、当ブログもこの判断を支持する。

ちなみに、京都訴訟で中心的な役割を果たしてきた郡山市からの自主避難者、萩原ゆきみさんとは、当ブログは事故直後からの長い付き合いになる。福島敦子さんとも面識があるほか、訴訟事務局を務める方とは原発事故前から10年以上の長い付き合いだ。それだけに、原発賠償訴訟の中でもとりわけ京都訴訟は実質的に当ブログ自身の訴訟といえる。これからも、控訴審に向け、当ブログは最大限の支援をしていく予定だ。

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【質問主意書提出活動報告】バス事業の安全問題及び地方路線問題に関する質問主意書

2018-03-17 22:08:48 | 鉄道・公共交通/交通政策
安全問題研究会では、2014年以来4年ぶりに、国会議員による質問主意書提出活動を行った。提出は、前回と同じ山本太郎議員から。3つ目は「バス事業の安全問題及び地方路線問題に関する質問主意書」を政府からの答弁書と併せてご紹介する。

昨日及び一昨日にご紹介した鉄道関係の2件の質問主意書は、国交省の中でも鉄道局が担当であるのに対し、バスに関しては自動車局が担当している。両者を読み比べてみると、「お尋ねの○○の意味するところが必ずしも明らかではないが、~」「お尋ねの趣旨が明らかではない」「いずれにせよ、~~との御指摘は当たらない」等の慇懃無礼な言い回しや表現が、鉄道局関係の答弁書では多用されているのに対し、この記事で取り上げた自動車局関係の答弁書では一切使われていない。

また、この記事で取り上げた自動車局関係の答弁書では、各地方運輸局ごとに監査官の人数やバス・トラック・タクシー事業者の数を問う質問、国交省や独立行政法人からバス事業「適正化機関」への天下りの有無を問う質問にも、きちんと問い合わせの上人数を回答している。

国鉄分割民営化のどこで「効率的で責任のある経営ができる体制が整えられた」のかについて、具体的な根拠も示さないまま「全体としてサービスの信頼性や快適性が格段に向上した」と強弁している鉄道局の答弁書に比べて、はるかに誠意ある回答といえるだろう。

現代日本において、自動車は陸上交通の中心であるのに対し、鉄道は傍流。これを反映するように、国交省の中でも優秀な人材は自動車局に集まっており、鉄道局の人材は払底していてやる気もまったく感じられない。質問主意書を提出する活動を長く続けていると、各省庁や同じ省庁内でも部局ごとの状況が見えてくる。こうしたことがわかるのも、この活動のおもしろさだと思う。

安全問題研究会としては、バスに関してはある程度誠意ある回答が示されたと考えており、質問主意書提出行動はここでいったん打ち止めにしたいと考えている。一方、鉄道関係は誠意をまったく感じないことから、追加質問を行う予定だ。

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バス事業の安全問題及び地方路線問題に関する質問主意書

 平成二十八年十二月に道路運送法の一部を改正する法律(平成二十八年法律第一〇〇号。以下「道路運送法改正法」という。)が施行されバス事業の安全対策における大きな一歩を踏み出したが、まだ十分とは言えない。また路線バス事業への参入に係る規制緩和により地方のバス路線(以下「地方路線」という。)の維持も大きな問題となっている。こうしたことを踏まえ、以下質問する。

一 観光バス運転手などで構成する全国自動車交通労働組合総連合会(以下「自交総連」という。)関係者の証言によれば、全国でバス・タクシー・トラック事業者(約十二万社)を監査する国土交通省の監査官の平成二十七年度の定員は全国で三百七十一人しかいないとされる。単純計算で、監査官一人が担当すべきバス・タクシー・トラック事業者数は約三百二十社であるが、平成二十七年度当時から二年以上が経過した現在、国土交通省の監査官の人数及び監査対象となっているバス・タクシー・トラック事業者の数を地方運輸局ごとに示されたい。

二 政府は、現状における国土交通省の監査官の人数でバス・タクシー・トラック事業者に対する実効ある監査ができると考えているのか。

三 道路運送法改正法によって、民間の一般貸切旅客自動車運送適正化機関が一般貸切旅客自動車運送適正化事業を行うこととされたが、本制度で実効ある貸切バス事業の適正化が可能と考えているのか。国土交通省の監査官の増員ではなく、本制度により貸切バス事業の適正化を図ることとした理由を明らかにされたい。

四 一般貸切旅客自動車運送適正化機関の数を地方運輸局ごとに示されたい。また、同機関に役職員として再就職した国家公務員(独立行政法人の役職員を含む。)がいる場合には、その数も地方運輸局ごとに併せて示されたい。

五 平成二十四年十月に国土交通省に設置された「バス事業のあり方検討会」において、運転手の立場を代表する労働組合関係者で同検討会の委員に選ばれたのは、全国交通運輸労働組合総連合軌道・バス部会事務局長、日本私鉄労働組合総連合会交通政策局長及び日本鉄道労働組合連合会自動車連絡会顧問の三名であった。国土交通省の監査官の少なさを指摘した自交総連等の労働組合の代表は含まれていないが、国土交通省は同検討会における労働組合関係者の委員をどのような基準で選んだのか。

六 道路運送法は、一般乗合旅客自動車運送事業の許可基準について、同法第六条において、当該事業の計画が輸送の安全を確保するため適切なものであること、当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること、当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであることと規定しているのみである。

 同条において地方路線も含めた公共交通全体の持続的な維持が許可基準として考慮されていないことは、当該事業への参入に係る規制緩和の最も典型的な弊害である。当該事業への新規参入を希望する者がいる場合、地方路線も含めた公共交通全体を持続的に維持できることを許可基準とするよう、同法の改正が必要と考えるが、政府の考えを明らかにされたい。

  右質問する。
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参議院議員山本太郎君提出バス事業の安全問題及び地方路線問題に関する質問に対する答弁書

一について

 旅客自動車運送事業者及び貨物自動車運送事業者に対する監査を実施する国土交通省地方運輸局の職員の数(本年二月末日時点)並びに旅客自動車運送事業者の数及び貨物自動車運送事業者の数の合計数(平成二十八年三月末日時点)を地方運輸局別にお示しすると、次のとおりである。

 北海道運輸局 三十八名 一万二千九百二
 東北運輸局 四十二名 一万六千九百八十七
 関東運輸局 百六名 十万六千三十九
 北陸信越運輸局 三十名 一万二千三百七十三
 中部運輸局 四十四名 二万四千八百五十七
 近畿運輸局 五十八名 四万六千百六十三
 中国運輸局 三十四名 一万七千百三十三
 四国運輸局 二十四名 八千八百九十八
 九州運輸局 四十四名 二万七千七百九十五

二及び三について

 御指摘の道路運送法の一部を改正する法律(平成二十八年法律第百号)においては、旅客自動車運送事業者への巡回指導等の適正化事業を行うことにより国の監査機能を補完する役割を担う民間団体である適正化機関(道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第四十三条の二第一項に規定する適正化機関をいう。以下同じ。)として指定された者が貸切バス事業について存在していなかったことから、貸切バス事業についての適正化事業の実施が図られることとなるよう、貸切バス事業に係る適正化機関である一般貸切旅客自動車運送適正化機関が貸切バス事業者から負担金を徴収し、適正化事業の実施に必要な経費に充てることができることとする等の措置を講じたものである。

 その結果、昨年六月までに、全ての地方運輸局の管轄区域内において一般貸切旅客自動車運送適正化機関が指定されており、これにより、一般貸切旅客自動車運送適正化機関が貸切バス事業者への巡回指導を行い、その法令の遵守状況を確認し、悪質な法令違反が認められた貸切バス事業者について国に報告する体制が整備されたところであり、実効ある貸切バス事業の適正化が図られるものと考えている。

 国土交通省の職員による旅客自動車運送事業者及び貨物自動車運送事業者に対する監査については、監査を実施する職員を平成二十九年度に五十四人増員したほか、一般貸切旅客自動車運送適正化機関、タクシー事業に係る適正化機関並びにトラック事業に係る地方貨物自動車運送適正化事業実施機関及び全国貨物自動車運送適正化事業実施機関と連携し、悪質な事業者に対し、重点的な監査を実施しているところであり、引き続き監査の実効性の確保に努めてまいりたい。

四について

 お尋ねの一般貸切旅客自動車運送適正化機関の数は、各地方運輸局の管轄区域内にそれぞれ一である。

 また、お尋ねに関し、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第百六条の二十四第二項の規定により再就職先の届出を行った国家公務員の退職者については、一般貸切旅客自動車運送適正化機関に役員として再就職した者はおらず、職員として再就職した者は、北陸信越運輸局を退職し、適正化事業巡回指導員として一般社団法人北陸信越貸切バス適正化センターに再就職した者の一名である。独立行政法人の退職者については、国土交通省が一般貸切旅客自動車運送適正化機関に対し確認したところによると、当該機関に役職員として再就職した者はいない。

五について

 御指摘の「バス事業のあり方検討会」における労働組合関係者の委員については、全国的な組織であって多数の運転者を構成員とするものの代表者を選定したものである。

六について

 御指摘の「地方路線も含めた公共交通全体」の維持については、我が国において人口減少や高齢化が進む中、重要な課題であると考えており、各地域における乗合バス事業の状況を把握し、検証しつつ、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成十九年法律第五十九号)の枠組みを活用した地域の取組を支援することを始め、地域公共交通の維持のための政策を進めてまいりたい。

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【質問主意書提出活動報告】国土及び海岸保全と鉄道復旧の関係に関する質問主意書

2018-03-16 22:02:18 | 鉄道・公共交通/交通政策
安全問題研究会では、2014年以来4年ぶりに、国会議員による質問主意書提出活動を行った。提出は、前回と同じ山本太郎議員から。2つ目は「国土及び海岸保全と鉄道復旧の関係に関する質問主意書」を政府からの答弁書と併せてご紹介する。

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国土及び海岸保全と鉄道復旧の関係に関する質問主意書

 JR北海道の日高本線は、平成二十七年一月の高波災害を受け鵡川から様似間が三年以上にわたって不通となっているが、相次ぐ高波災害の背景として海岸の長年にわたる浸食を指摘する声があることを踏まえ、以下、質問する。

一 自然災害による海岸線における土地の浸食を防ぐことは、我が国の領土の逸失を防ぐ観点から大変重要であるとともに、国防上の要請でもある。しかしながら、日高振興局管轄区域の海岸線は長年にわたる土地の浸食の結果、国道二百三十五号線や住民の居住地域にまで迫っている。海岸に沿って延びる国道二百三十五号線の沿線には陸上自衛隊静内駐屯地があるが、このまま事態を放置した場合、国道二百三十五号線も浸食されて使用不能となり、静内駐屯地への物資や兵員の輸送もできなくなることが確実である。

 政府の基本的な責務は国民の生命及び財産を守ることにある。我が国を攻撃しようとする勢力の日高沿岸からの上陸を阻止するため自衛隊の駐屯地を置きながら、一方では高波によって日高沿岸の土地が浸食され、海岸線が主要国道や住民の居住地に近づくのを放置したままにしていることは国防の観点からも問題であると考えられるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 海岸法第二条第二項及び同法施行規則第一条の三によれば、鉄道事業法第二条第一項に規定する鉄道事業の用に供されている土地は、国又は地方公共団体が所有する公共海岸から除かれることになっている。同様に、軌道法第三条に規定する運輸事業の用に供されている土地、道路法第十八条第一項の規定により決定された道路の区域の土地、空港法第四条第一項各号に掲げる空港及び同法第五条第一項に規定する地方管理空港の用に供されている土地も公共海岸から除外されている。

 道路、空港の大部分は国又は地方公共団体が所有し管理しているから、海岸法に基づいて公共海岸から除外されていたとしても、その保全上何らの問題も生じないが、鉄道及び軌道(以下「鉄軌道」という。)はその大部分が民間鉄軌道事業者の所有地に敷設されているから、これを公共海岸でない旨規定している海岸法及び同法施行規則が現状のままである限り、原則として民間鉄軌道事業者による保全を待つしかないことになる。JR日高本線の線路が敷設されている用地もJR北海道の用地であるから同様である。鉄軌道だけこのような扱いになっていることは法令の不備であるとともに、道路や空港と比べて著しく均衡を欠くと考えられるが、政府はこれをどのように考えているのか。

 また、海岸における土地の浸食から国土を保全するのは国の役割である。鉄軌道が海岸線を走行している場合であっても、海岸法及び同法施行規則の規定にとらわれず、浸食された土地の復旧は国が責任を持つべきと考えるが、政府の考えを明らかにされたい。

  右質問する。
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参議院議員山本太郎君提出国土及び海岸保全と鉄道復旧の関係に関する質問に対する答弁書

一及び二について

 御指摘の「国防の観点」、「法令の不備」、「道路や空港と比べて著しく均衡を欠く」及び「海岸法及び同法施行規則の規定にとらわれず」の意味するところが必ずしも明らかではないが、海岸法(昭和三十一年法律第百一号)第三条の規定に基づき、都道府県知事は、海岸を防護するため海岸保全施設の設置等を行う必要があると認めるときは、一定の区域を海岸保全区域として指定することができることとされているとともに、同法第五条の規定に基づき、都道府県知事等は、海岸保全区域の管理を行うこととされているところ、御指摘の「日高振興局管轄区域」においても、これらの指定や管理が行われているものと承知しており、また、海岸保全区域以外の区域(同法第二条第二項に規定する一般公共海岸区域を除く。)については、当該区域内の土地を事業の用に供する鉄道事業者等の民間企業等において、その事業を行うために、その所有する施設の管理が行われているものと承知しており、いずれにせよ、「このまま事態を放置した場合、国道二百三十五号線も浸食されて使用不能となり、静内駐屯地への物資や兵員の輸送もできなくなることが確実である」及び「高波によって日高沿岸の土地が浸食され、海岸線が主要国道や住民の居住地に近づくのを放置したままにしている」との御指摘は当たらない。

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【質問主意書提出活動報告】鉄道事業法における鉄道事業の許可と列車運行義務及び被災した鉄道の復旧に関する質問主意書

2018-03-15 21:52:14 | 鉄道・公共交通/交通政策
安全問題研究会では、2014年以来4年ぶりに、国会議員による質問主意書提出活動を行った。提出は、前回と同じ山本太郎議員から。まず初めに「鉄道事業法における鉄道事業の許可と列車運行義務及び被災した鉄道の復旧に関する質問主意書」を政府からの答弁書と併せてご紹介する。

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鉄道事業法における鉄道事業の許可と列車運行義務及び被災した鉄道の復旧に関する質問主意書

 JR北海道の日高本線は、平成二十七年一月の高波災害を受け鵡川から様似間が三年以上も不通となっているが、このうち鵡川から日高門別間はまったく被災しておらず、直ちに運行を再開できる状況にある。また、沿線の住民団体も再三にわたって運行再開を求めている。それにもかかわらず、JR北海道が多額の復旧費がかかることを理由として運行再開を拒んでいるのはきわめて不当である。また、根室本線も東鹿越から新得間が台風災害で被災し不通となった後、復旧が行われないまま、JR北海道はこの区間を含む富良野から新得間についてバス転換を含めた地元との協議を行いたい旨を表明している。こうしたJR北海道の姿勢は鉄道事業者、公共交通事業者としての責任放棄と言える。よって以下質問する。

一 鉄道事業法に基づく鉄道事業の許可は、鉄道事業を経営しようとする者の申請に基づき国土交通大臣が行うこととしている。JR各社においては、日本国有鉄道改革法の施行の際、国鉄が現に運営していた事業を引き継ぎ、当時でいう第一種鉄道事業の免許を受けたものとみなされたという事情があるものの、前記許可制度と基本的な考え方は同じである。すなわち、鉄道事業の許可は列車を運行する意思と能力を持つ者からの申請に対し国が与えるものであるから、許可後は特段の事情がない限り、当然に列車の運行義務を負っていると解するのが相当であり、国鉄の事業を引き継いだJR各社も同様に列車の運行義務を負っていると考えられる。

 このような考え方に立つならば、路線が実際に運行可能な状態にあり、かつ同法に基づく休廃止の届出も行われないまま運行がなされていない日高本線の現状は、同法の立法趣旨に反しているものと言わざるを得ない。

 JR北海道に対しては、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律に基づく勧告を出してでも日高本線(当面は鵡川から日高門別間)の運行を再開させるべきであると考えるが、政府の見解を明らかにされたい。

二 前記一の許可を受けた事業者が、当該許可を受けた路線において列車の運行を行わないことができる正当な理由に「赤字路線であること」は含まれないと考えられるが、政府の見解を明らかにされたい。

三 札幌から釧路方面へ向かう貨物の輸送は、昭和五十六年に石勝線が開通するまで、現在不通となっている区間を含む根室本線を使用して行われていた。根室本線の富良野から新得間では、現在、貨物輸送は行われていないが、釧路方面への貨物輸送を行っている石勝線が災害等で不通となった場合、同区間経由で貨物輸送を行わなければならない事態も十分考えられる。東日本大震災時に貨物輸送ルートの確保が問題となったことに鑑みると、過去に貨物輸送の実績を持つ同区間を廃止することは、災害時に食料、燃料等の生活物資の輸送ルートを確保することを通じて国民生活を守る観点から好ましくないと考えられる。この点について、政府の見解を明らかにされたい。

 また、JR北海道が旅客輸送密度だけを尺度として、災害時における重要な貨物輸送ルートまでバス転換を含めた地元との協議を進めようとしていることは、線路を保有する旅客会社が貨物輸送の重要性に配慮した経営を行うことができていないことを意味している。これは、旅客と貨物とを別会社に分離した国鉄分割民営化の弊害であると考えられる。平成二十九年二月八日の衆議院予算委員会において、麻生副総理兼財務大臣がJR北海道の経営について、根本的なところでの対処が必要である旨答弁するなど、JRグループの現状の見直しを必要とする考えは安倍内閣の一部閣僚からも示されている。政府として、国鉄分割民営化から三十年が経過したJRグループの組織再編を検討する考えはないのか。

四 国鉄改革関連法案が審議されていた参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会において、昭和六十一年十一月二十八日、「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと」を含む日本国有鉄道改革法案外七案に対する附帯決議が可決されるとともに、当時の橋本龍太郎運輸大臣、葉梨信行自治大臣が「附帯決議の趣旨を尊重する」旨を表明している。国民の公共交通機関としての国鉄を引き継いだJR各社の路線の災害復旧に国が責任を持つことは国権の最高機関たる国会からの要請であり、鉄道路線の災害復旧のための予算を大幅に増やす必要があると考える。

 私は「JR北海道の安全問題、ローカル線問題及びリニア中央新幹線に関する質問主意書」(第百八十七回国会質問第七四号)において、鉄道路線の災害復旧に対する国庫補助に関して、鉄道軌道整備法を改正する必要性の観点から質問しているが、前記附帯決議を踏まえ、改めて鉄道路線の災害復旧のための予算を拡充する必要性に関する政府の見解を明らかにされたい。

  右質問する。
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参議院議員山本太郎君提出鉄道事業法における鉄道事業の許可と列車運行義務及び被災した鉄道の復旧に関する質問に対する答弁書

一について

 お尋ねの「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律に基づく勧告」の意味するところが必ずしも明らかではないが、北海道旅客鉄道株式会社日高線鵡川・様似間については、平成二十九年二月に、北海道旅客鉄道株式会社より沿線自治体に対して、復旧の断念とバス等への転換が提案されたことを受けて、これまで、沿線自治体において、バス等への転換の可能性も含めた検討が進められてきているものと承知している。引き続き、地域における検討及び協議を進めていく必要があるものと考えている。

二について

 お尋ねの趣旨が明らかではないため、お答えすることは困難である。

三について

 北海道旅客鉄道株式会社根室線富良野・新得間の在り方については、将来にわたって持続可能な交通体系を構築するため、地域における検討及び協議を進めていく必要があるものと考えている。なお、災害時における生活物資の輸送ルートの確保については、鉄道による輸送だけでなく、自動車や船舶による輸送を含め、総合的に検討すべきものと考えている。

 また、御指摘の「国鉄分割民営化の弊害」の意味するところが必ずしも明らかではないが、北海道旅客鉄道株式会社、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社、九州旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社においては、日本国有鉄道の分割民営化によって、効率的で責任のある経営ができる体制が整えられた結果、全体としてサービスの信頼性や快適性が格段に向上したものと認識している。

 御指摘の「JRグループの組織再編」については、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社及び九州旅客鉄道株式会社は完全民営化された企業であり、その経営判断の問題に関わることから、政府として見解を示すことは差し控えたい。

四について

 政府としては、鉄道の災害復旧に対する国庫補助のため必要な予算の確保に引き続き努めてまいりたい。

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【福島原発事故刑事裁判第4回公判】事故後に「後付け」で作られた証拠

2018-03-03 19:19:35 | 原発問題/福島原発事故刑事訴訟
福島原発事故をめぐって、強制起訴された東京電力旧3役員の刑事訴訟は2月28日、第4回公判が行われた。前回に引き続き、科学ジャーナリスト添田孝史さんの傍聴記が寄せられたので、福島原発告訴団の了解を得て掲載する。

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事故3年後に作られた証拠

 2月28日の第4回公判は、傍聴希望者187人に対し傍聴できたのは62人で、約3倍の倍率だった。

 この日の証人は東電設計の久保賀也氏。東電設計は東電が100%の株を持つ子会社で、原発など電力施設の調査、計画、設計監理などを担っているコンサルタント会社だ。久保氏は、同社の土木本部構造耐震グループに所属し、津波計算などの技術責任者を務めていた。

 今回の公判では、東電設計が計算した、以下の三つの津波シミュレーション関連を中心に尋問が進められた。

1)政府の地震調査研究推進本部が2002年に予測した津波地震が福島沖で発生したら、福島第一原発にどんな津波が襲来するか。また、どのような対策が考えられるか

2)もし1)にもとづいて対策を実施していたら、2011年の東北地方太平洋沖地震の時、津波はどのくらい福島第一に浸水したか

3)東北地方太平洋沖地震の津波を防ぐには、防潮壁の高さはどのくらい必要だったか

 証人尋問では、最初に指定弁護士の石田省三郎弁護士が、1)のシミュレーションの経緯について明らかにしていった。東電設計は、東電からの依頼や打ち合わせの内容、資料、出席者等を品質マネジメントシステムISO9001の定めにしたがって詳細に記録していた。検察が持っていたその記録が、事故の経緯を明らかにする上でとても役立つことが、この日の証人尋問で見えてきた。

 久保氏は、2001年11月から2002年夏にかけて、どんな考え方で1)のシミュレーション作業を進めて高さ15.7mの津波想定を求めたか、また10mの防潮堤を設置する対策案の位置づけなどを証言した。津波を低くするために、東電が「摩擦係数の見直しができないか」と依頼し、東電設計が断わっていたことも明らかにした。

 一方、弁護側の宮村啓太弁護士が強調してきたのは、2)や3)のシミュレーション結果だ。

 1)のシミュレーションで、東電設計は海抜10mの福島第一原発敷地の上を、ぐるりと全部取り囲む形で高さ10m(海抜20m)の防潮壁を設置する案を示していた。

 2)のシミュレーションは、いくつかの仮定にもとづいている。1)で提案されていた敷地全部を取り囲む防潮壁のうち、海抜10m以上の津波が打ちつける部分「だけ」に、ピンポイントで防潮壁を作る。具体的には、敷地南部、北部と、中央のごく一部だけだ。その他の大部分の区間には防潮壁は設けない。

 そのような、櫛の歯が欠けたような状態の防潮壁の配置のもとで、東北地方太平洋沖地震の津波が襲来したらどうなるかを計算すると、敷地の広範囲に浸水する、というのが2)の結果だ。「対策をとっていても事故は避けられなかった」という東電側の主張を支えるものである。

 これに対して石田弁護士は、2)について、「敷地の一部だけに防潮壁を作るという対策が、工学的にありうるのか」と久保氏に尋ねた。久保氏は「弱い」と返答。「あまり考えられないのでは」という念押しに、「そうですね」と認めた。

 2)のシミュレーションは、40以上計算した津波地震の発生パターンのうち一つに絞り、それへの対策をピンポイントで実施する仮定にもとづいている。断層の位置、傾きなど地震の起こり方が少しずれるだけで、敷地のどこが一番高い津波に襲われるかというパターンも異なってくる。その不確かさを久保氏も認めた形だ。

 3)のシミュレーションは、東北地方太平洋沖地震の津波が全く敷地に遡上しないようにするためには、高さ何mの防潮壁が必要だったか試算。その結果、最大で高さ23m以上が必要だったことがわかったとしていた。

 これについては、シミュレーション結果を詳しくみると、高さ23m以上の防潮壁が必要となるのはごくわずかの区間だけであることが石田弁護士から示された。高さ10mで全周を覆っていれば「(事故防止に)一定の効果があった」と久保氏も証言した。

 そもそも、2)3)のシミュレーションは、勝俣・元会長ら3人に対し、検察審査会が「起訴相当」(起訴すべきだ)という1回目の議決を出した2014年7月の後で実施されたことも尋問の中で明らかにされた。事故から3年以上も経過したそのタイミングで2)3)のシミュレーションを実施した理由について久保氏は「わからない」と答えた。

 しかしこの時期のシミュレーションは、「対策を取っていても事故は避けられなかった」という東京地検の不起訴判断を補強するために、東電や検察の意向に沿って実施されたように見える。そもそも、千万円単位にのぼるシミュレーション費用を誰がどういう名目で負担したのかも気になる。

 弁護側が重視する2)3)のシミュレーション結果に、どれだけの意味があるかについては、4月以降の証人尋問で、さらに詳しく明らかにされることだろう。

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【福島原発事故/東電役員強制起訴刑事裁判】東電がコンサル子会社に「津波予測の改ざん」依頼の証言! 東電「有罪」に大きく前進

2018-03-02 23:26:30 | 原発問題/一般
東電旧経営陣 試算数値「小さく」 東電が打診と証言(毎日)

「津波想定小さくできないか」 強制起訴公判、東電が子会社依頼(福島民友)

詳報 東電刑事裁判 原発事故の真相は~第4回公判(NHK)

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(以下、福島民友の記事より転載)

 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久元会長(77)ら旧経営陣3人の第4回公判は28日、東京地裁(永渕健一裁判長)で開かれ、福島第1原発に最大15.7メートルの津波が来る可能性があると事故前に計算した東電子会社の男性社員が証人として出廷した。男性は、東電が計算結果を受け「解析方法の変更で(津波高の)数値を小さくできないか」などと再計算を依頼していたことを明らかにした。

 男性は原子力施設の設計・調査などを行う子会社「東電設計」で、第1原発に関する津波試算の責任者を務めた。東電側は初公判で「計算結果はあくまで試算にすぎなかった」と主張したが、男性は2008(平成20)年3月に結果を東電側に報告した際、「(東電とのやりとりで)何らかの対策は必要との話題は出た」と証言した。

 検察官役の指定弁護士はこの計算結果が、東電が大津波を予測できた証拠の柱とみており、同社の計算結果の取り扱い方が注目されそうだ。

 男性によると、東電は07年7月の新潟県中越沖地震を受け、本県沖の津波の高さについて東電設計に計算を委託。同社が、津波地震に関する政府見解(長期評価)で採用された明治三陸沖地震(1896年)をモデルに計算すると、最大15.7メートルの津波が第1原発に来るとの結果が出た。

 結果を報告した男性は08年5月に東電から〈1〉数値が小さくなるよう摩擦係数などの条件を変更〈2〉沖合に防波堤を設置―した場合での再計算を依頼された。男性は「係数の変更は計算の前提が崩れる」として、明治三陸沖地震とは違う大地震をモデルに再計算。その結果も第1原発1~4号機の敷地高(海抜10メートル)を超す大津波になったという。

 護岸を防潮壁で囲う想定では、被告の一人の武藤栄元副社長(67)が出席した08年6月の社内会議の資料と同じく、敷地への浸水を防ぐには10メートルの壁が必要との結果が出たとした。男性は「自分は津波の高さや広がりを計算したが、壁の厚さや実際に建設できるかどうかを考慮したものではなかった」と述べた。

 次回は4月10日午前10時から証人尋問を行う。
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勝俣恒久・東電元会長ら3役員の強制起訴を受けた刑事訴訟は、2月28日、東京地裁で第4回公判が開かれた。今回は、東電のコンサル子会社であり、東電の依頼で福島第1原発事故の3年前(2008年)に津波予測をまとめた東電設計の社員、久保氏に対する証人尋問が行われたが、そこで東電3役員の「有罪」を勝ち取る上で決定的な証言が飛び出した。東電設計がまとめた津波予測(高さ15.7メートル)を「従来の計算方法を変えてでも小さくするよう、東電から再検討の依頼を受けた」というのだ。

東電が、資金のかかる津波対策をしなくてすむよう、津波予測の数値を操作しようとしていたことが暴露されたことは、今後の訴訟の行方に計り知れない影響を与えるだろう。

結果的に東電はその後、この試算を採用せず、土木学会(実際には電力会社、JRなどの企業で構成された業界の親睦団体)に改めて津波試算を依頼することで時間稼ぎをしようとしていたことがすでに判明している。久保氏がなぜ、親会社でもある東電にとって不利になるような証言をしたのか。久保氏の心中を察する術は当ブログにはないが、東電設計で津波予測をまとめた技術者たちは、自分たちの試算に絶対の自信を持っていたはずだ。それにもかかわらず、親会社に自分たちの試算を否定されたことに対して、内心、忸怩たる思いを抱えていたとしても不思議ではない。また、自分たちは親会社に不利となるような試算であっても確実に報告したと証言することで、東電設計に「火の粉」が飛ばないようにしておきたいとの思いもあるかもしれない。

いずれにしても、この証言が出たことで訴訟は検察官役の指定弁護士側にとって有利な展開になったと思う。3月は公判は開かれず、次回、第5回公判は4月10日となる。

なお、科学ジャーナリスト添田孝史さんの傍聴記が発表された場合には、改めて掲載したい。

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