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上記、当ブログ10月9日付記事でお知らせした国連特別報告者セシリア・ヒメネス・ダマリーさんの「暫定版ステートメント」の日本語訳が完成、当ブログはその全文を入手したので、転載する。今回の訪日調査に関する正式な報告書は、2023年6月に国連人権理事会に報告される。
<注意>
・段落と段落の間の1行の空白は原文にはなく、当ブログが転載にあたり、読みやすくするために入れた。
・アンダーラインは、原文段階で引かれているものであり、原文に忠実に入れることにした。
・原文はA4で全10ページあり、注意を要する記述に関しては各ページの末尾に脚注が付されているが、省略した。
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調査終了後のステートメント
国内避難民の人権に関する特別報告者の日本国における調査 2022年10月7日
I.
はじめに
東京、2022年10月7日 –国内避難民(IDPs)の人権に関する国連の特別報告者としての私の立場で、日本国政府との合意の上、2022年9月26日から10月7日まで、日本国への公式訪問を実施することができたことを光栄に思う。私の訪問は、2011年の東日本大震災と津波の後に続いて発生した福島第一原子力発電所災害によって移動を余儀なくされたIDPs(日本国では「避難者」としても知られている)の人権状況を、国内避難に関する指導原則という国際的な法的枠組みと、国内避難民のための恒久的な解決策に関する機関間常設委員会枠組みの範囲内で調査し評価することを主な目的としている。
私の訪問期間中には、東京でミーティングの機会を持ち、その後、福島県、京都府、広島県に移動した。私は、国、都道府県及び市町村自治体レベルで、行政官や議員と面談した。また、被害者である国内避難民、この災害による影響を受けた福島県の地域社会、市民社会団体、これらの問題に関して専門知識を有する弁護士及び学術研究者とも面談する機会を得た。私は、IDPsから心を動かされる直接の証言を聴き、この災害とこの災害後の救済措置に関連する研究について聴き、またこれらに関連する文書を受け取った。さらに、日本国における自然災害及び人為的災害によって避難を余儀なくされた人々の保護と支援に対する権利に関連する法律を検討することができた。これらの法律には、特に、災害救助法、災害対策基本法、原子力損害の賠償に関する法律、福島復興再生特別措置法、及び東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律を含む。
私は、日本国外務省に対して、私の任務に優れた協力をし、国際的かつ綿密な調査に対する開放性を示し、及び任務に関する特別報告者の委任事項を尊重していただいたことに関して、謝意を表明する。私は、私の訪問に関連する報告を行い、情報を提供していただいたその他関係省庁にも感謝する。また、現地の状況の実態に関する詳細な情報を提供していただいた福島県、京都府、広島県の各県当局と、会津若松市、大熊町、双葉町、いわき市、京都市の各市町当局にも感謝する。私は、この問題に関する状況の概要を提供していただいたさまざまな市民社会団体、弁護士及び研究者の方々と、とりわけ母親、若者、高齢者、障害のある人を含む国内強制移動と今回の原子力災害の被害者の皆様、並びに今回の原子力発電所事故以来直面してきた困難に関する詳細を共有していただいた人権擁護者の皆様に感謝する。
このステートメントは、私の訪問に基づく予備的所見のみを示している。政府及び他のステークホルダーに対する私の完全な分析と勧告は今後数ヵ月間で作成され、2023年6月の人権理事会で報告される。
II.
強制移動の状況と背景
2011年3月11日の東日本大震災、津波及び原子力災害は、ほとんど前例のない三重の災害だった。日本国の東部沖で発生したマグニチュード9.0の地震(日本国における観測史上最大の地震)は、最大40メートルに及ぶ津波を発生させたことに加えて、非常に甚大な破壊をもたらした。この災害の結果、2万人を超える人々が亡くなったか、又は行方不明となった一方で、100万棟以上の建物が完全に又は部分的に破壊された。
津波は次に福島第一原子力発電所で原子力事故を引き起こしたが、同原子力発電所ではこの規模の自然災害の可能性に対応することができるような緊急事態のための準備や減災措置がなされていなかった。最大14メートルの波は福島第一原子力発電所の防波堤を越え、同原子力発電所のタービン建屋が浸水し、そのことにより電源喪失を生じさせた。初期の災害に続く数日で、同原子力発電所内で発生した一連の炉心溶融や水素爆発は放射能汚染の放出を引き起こした。この事態に対して、日本国政府は、約11万人の住民が居住する福島第一原子力発電所から20キロメートル圏内を強制避難区域とした。この初期の境界線は、道路を通って移動する必要がある人々の人数の観点から、運用上の考慮に基づいて決定された。なぜなら、この段階で避難区域を拡大することは、福島第一原子力発電所に最も近いところに居住する住民が迅速に避難する能力を制限する可能性があった交通渋滞を発生させていた可能性があったからである。結局のところ、この強制避難区域は高濃度の放射能の影響を受けやすいと考えられるこの半径の外側の地域を含むように拡大され、最終的に福島県の合計15万4千人の住民が避難した。
この原子力災害が放射線被ばくの観点から及ぼしうる影響の可能性は、事故後数週間から数ヵ月をかけてゆっくりとしか明らかにならないため、隣接県の住民や避難指示を受けていない福島県内に住む人々を含む、さらに多くの市民が彼ら/彼女らの自宅から避難した。災害が発生した区域から放射能がどのようにして広がるのかに関してははっきりしておらず、また放射線被ばくやそのような放射能のリスクに関する公的な情報も錯綜していたことを考慮すると、多くの日本国の市民、特に子どものいる人々は、この災害の影響に関するより信頼できる情報が利用可能になるまで、避難をすることが最も安全であると感じていた。この災害の最中には、少なくとも合計47万人以上の人々が避難を余儀なくされた。
IDPsに対する当初の政府による支援は災害救助法を通じて提供され、後にこの災害により特化した福島復興再生特別措置法(2011年)を通じて行われた。この法律は、医療、福祉、住宅支援、教育及びその他のサービスへのアクセスをIDPsに提供するための措置の概要を示している。また、文部科学省(MEXT)内に設置された原子力損害賠償紛争審査会は、東京電力(TEPCO)が被害者に対して提供すべき賠償に関する一連の指針や過程を2011年に策定し、その後、TEPCOはこの災害の被害者に対して賠償の支払いを開始した。これらの措置を初期に採用したことは称賛に値するが、その一方で、IDPsがこれらの給付を利用することができるのかという点に関して、特に避難が当局によって「自主的」と呼ばれる人々に対しては相当程度の差別が存在し続けていた。これらの措置は、その後、2012年に成立した被災者の生活に対する支援措置の推進に関する法律により補完された。この法律は、帰還か避難かに関して、被災者自身が選択をする被災者の権利も認めている。しかしながら、この法律の完全な実施は、10年が経過した今も実現していない。また、IDPsが受けた支援やサービスのレベルは、IDPsの保護と支援に対する一貫した国のアプローチが存在していたというよりは、IDPsが避難した都道府県の政策に大きく依存していた。
近年、IDPs自身の将来を決めるためにIDPsを支援することから転換し、IDPsを説得して帰還させるか、又はいかなる支援も失う事態に直面させる方向に向かっている。住宅支援は、福島県外に居住するIDPsに対しては打ち切られてきた。復興資金は、以前避難指示が出ていた町で物的な社会基盤施設の再建のために用いられることが多くなっている。他の復興の取り組みには、原子力発電所の廃炉のための作業や、福島県にハイテク産業基盤の構築を目指す福島イノベーション・コースト構想などの開発計画が含まれる。基本的なサービスや、IDPsが所在し続け居住している地域での地方自治体のサービスに関する照会先を提供するために、全国26ヵ所に福島ヘルプデスクを設置することは、特に強制移動の初期においては情報の普及を可能にする上で役に立ってきたし、良い実践であるが、サービスの照会だけではIDPsのすべてのニーズに対処することはできない。
一方で、全国で何百ものIDPの原告が提訴し、政府とTEPCOの双方に対して訴訟を続けており、民法と原子力損害の賠償に関する法律に基づいてこの災害に関する基本的な支援と賠償を求めている。また、多くのIDPsは、同時に裁判外紛争解決手続(ADR)も行っている。
III.
福島原子力災害における国内避難民の人権
国内避難に関する指導原則は、IDPsとは、「…特に自然災害若しくは人為的災害の影響の結果として、又はその影響を避けるために、自らの住居若しくは常居所から逃れ又は離れることを強制され又は余儀なくされている者、又はこのような人々の集団であり、国際的に承認された国境を越えていない者」であると規定している。
2011年の福島原子力災害においては、強制避難指示を理由として避難を余儀なくされたIDPsである「強制避難者」と呼ばれる人々も、避難指示はないものの、避難しなくてはならないと感じたIDPsである「自主避難者」と呼ばれる人々も、国際法の下でのIDPsである。災害を契機とする避難する権利は、移動の自由に基づく人権である。
さらに、IDPsに対して人道的支援、保護及び実現可能な恒久的な解決策を提供することにおいては、区別はない。また、私がこの点に関して強調したいことは、国際法の下では、IDPsは強制移動に関する彼ら/彼女らの地位にかかわらず、依然として日本国の市民であり、この国の他のすべての市民が持っている権利を有しているということである。したがって、IDPsの保護における国家の主要な責任を果たす上で、IDPsが彼ら/彼女らの人権を通常通り行使できる状況が促進されることが重要である。
IV.
強制移動におけるIDPsの権利
安全及び安心に対する権利と住居に対する権利
上記で述べたように、実際のリスク又は認識されているリスクからの安全を求める権利は、移動の自由と関連する権利である。この点は、福島原子力災害による多くのIDPsが経験してきた多様な強制移動という点を考慮すると、検討されなければならない重要な点である。統計調査は、福島県からのIDPsの大多数が安全と安心を探し求めながら、6ヵ月間で4回以上避難したことと、彼ら/彼女らが自分たち自身の権利行使に影響を与えたさまざまな状況を経験していることを示している。
幸いなことに、福島県と受け入れ側の他の都道府県及び市町村の計画を含む日本国のいくつかの政策は、可能な場合には仮設住宅を提供した。特にこの重要な支援は、仮設住宅、公的な住居施設の利用及び家賃補助などの形態を取っている。残念なことに、住宅支援の多くは打ち切られてきたが、この住宅支援の打ち切りが貧困な状態にある人々、生活手段のない人々、高齢者、障害のある人たちに特に深刻な影響を与えてきた。さらに、ある種の公営住宅に今も居住しているIDPsは、現在、彼ら/彼女らを相手取って提訴された立ち退き訴訟に直面している。IDPsがどこにいようとも、政府は、特に脆弱な状態にあるIDPsに対して住宅支援の提供を再開すべきであると勧告する。
家族生活に対する権利
家族生活に対する権利は、私的な場と公的な場の両方で安定性を提供するほとんどの社会において必要不可欠な権利である。特に強制避難指示を受けていないIDPsの間では、子どもを持つ母親が安全を求めることを可能にするために選択がなされたが、その一方で、夫などの従来の稼ぎ手は家計収入を確保するために残った。残念ながら、このような状況は家族に2つの世帯を維持することを余儀なくさせ、このことが経済的困難を生じさせている。さらに、そのようなIDPsの中では高い離婚率が見られる。
二世代以上の大家族は離散傾向があり、高齢者のIDPsは元の家族から離れて暮らし、自分たち自身で生活することを余儀なくされた。統計的研究は、家庭崩壊のすべての事案の中で30パーセント近くがこの地震の後に起こったことを示している。災害救助法に基づく緊急の仮設住宅の入居制限のために、避難の初期段階に制度的に離散された家族に関する多くの事例がある。将来に関する不透明さのために、この離散は解決されるよりもむしろ長期化する傾向にある。特に高齢者人口と心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された事例の中での高い不安のレベルは、そのような離散や支援制度の崩壊に端を発すると言われている。
特に地方レベルでの社会福祉計画は、避難において離散した家族の一員の脆弱性に特に注意を払うべきであると勧告する。
生活手段に対する権利
生活手段に対する権利は、いかなる文脈においても、IDPsの生計の中にある基本的人権である。この権利は、IDPsが尊厳を持って彼ら/彼女らの生活を再建することを可能にし、地域社会への帰属意識を提供することを可能にし、並びに経済的及び社会的な目的を持つことを可能にする。26ヵ所ある福島ヘルプデスクを通じた生活手段に関する機会の照会は、この点との関連で良い実践である。さらに、あるIDPsは避難先地域で中小企業を立ち上げ、避難者仲間や地元住民を雇用することができた。
それにもかかわらず、研究と統計調査は、IDPsの「生産年齢人口」(20〜60歳)の20パーセントが失業していることを示している。この数値は、ほんの3パーセント未満という日本国のかなり低い失業率と比べると、高い割合である。さらに、特に女性からのいくつかの証言は、女性としての彼女たちの重荷を明らかにした。これらの重荷は、女性たちが避難中にシングルマザーになったことや、彼女たちが育児の責任のバランスをとる助けとなった元の場所でのパートタイムの仕事と同様の仕事を見つけることができないことを理由としていた。したがって、仕事を通して生活手段を再建することは、依然として進展していない。また、多くの女性は元の場所で育児を家族のネットワークに依存していたが、このようなネットワークは避難先地域には存在しない。
IDPsが促進された企業資本を入手することができると同時に、情報を利用することができ、民間企業のプロモーションを行うことができる就職説明会やビジネスフェア、又は就職に関する仕組みのようなジョブマッチング制度で、生活手段のための既存のヘルプラインが強化されるべきであると強く勧告する。特にシングルマザーや働く母親のために育児の機会を拡大するための取り組みが至急実施されるべきであると勧告する。
健康に対する権利
IDPsの健康に対する権利への影響は、常にすべての国内強制移動の状況の結果の1つである。身体と心の健康の両方がIDPsに関わる。なぜなら、IDPsは、新しい環境や将来への不安、普段の生活の中にあった家族や地域社会の支援構造が崩壊してまったことに慣れようと日々挑戦する中で、新しい状況に慣れるために苦闘しているからである。さらに、高齢者や障害のある人々は特に脆弱であり、これらの人々が一人暮らしの場合には著しく脆弱である。今回も、IDPsの間で高いレベルのPTSDが見られることを研究が示したということはそれほど驚くものではない。専門的なモニタリングと治療が、避難を余儀なくされた結果PTSDで苦しんでいる人々に対して提供されるべきであると勧告する。
特に福島原子力災害は、住民とIDPsの両方の健康に対する放射線被ばくの影響に関して、とりわけ幼い子どもたちへの影響に関して、多くの問題を提起した。福島県は、例えば、甲状腺がんの無料スクリーニングを提供するという良い実践を実施したが、このような実践は定期的に継続されるべきであると勧告する。このような実践は、甲状腺がんを患う人々に対する集中した治療計画を確保するために、この問題の継続的なモニタリングを可能にし、経時的な健康上のリスクの変化を見るために必要とされる多くのデータを提供することになるだろう。
教育に対する権利
教育はすべての人々にとって不可侵の権利だが、避難を余儀なくされるという経験はしばしばこの権利の享受を妨げる。教育に対する権利は、IDPsの子どもたちが避難を余儀なくされた結果として経験する可能性がある挫折や不平等を乗り越えるために必要となる知識や技術を深めるために、きわめて重要である。
IDPの子どもたちは、慣れている学習環境から突然引き離されて、新しい状況に慣れることを強いられるときに、多くの場合、重大な課題に直面する。残念なことに、福島県から避難したIDPの子どもたちが、彼ら/彼女らの学習能力を実質的に危険にさらす可能性のある経験に心理的に挑戦しながら、クラスメートからのひどい非難やいじめに直面しているという多くの報告を受け取った。IDPの子どもたちは、彼ら/彼女らが離れるという「選択」をしたことや、彼ら/彼女らの親たちが避難者として多額の賠償金を不当に受け取っていると認識されたこと、又は避難者が放射能を「運んでいる」可能性があるというような放射能に関する誤った考えのために、いじめられてきた。福島原子力災害の被害者が直面するいじめをこの災害に関する副読本のような教材で認めることは、良い実践の1つである。2013年にいじめ防止対策推進法が成立したことは、この問題に広く取り組むための別の前向きな一歩であった。トラウマを抱えた子どもたちがこのような申立てを最初に行うことを待つのではなく、福島県から避難を余儀なくされた子どもたちや他の脆弱な集団が特に直面するいじめを監視し、いじめを積極的に根絶するためのより組織的な取り組みが、子どもたちの学習能力に悪影響を及ぼすこのような有害な行為を終わらせるために必要であると勧告する。
さらに、2013年に達成可能な最高水準の心身の健康の享受に対するすべての人の権利に関する特別報告者によって最初に指摘され、2019年の日本国の第4回及び第5回を合わせた報告における総括所見で子どもの権利委員会によって繰り返された点であるが、教材が、放射線被ばくのリスクと、子どもが放射線被ばくに対してより脆弱であることを正確に反映すべきであると勧告する。私の訪問期間中、私は、放射線に関連するリスクを最小限にするように見える放射線に関する副読本を示された。これらの教材は、特に放射線被ばくのリスクが高ナトリウム食や野菜の少ない食事のリスクと比較することができると示唆し、バックグラウンドの放射線量として受け取られる比較的低量の放射線と、放射能汚染の結果として受け取られる可能性のあるかなり高い放射線量とを十分に区別していない。また、これらの教材は、子どもたちへの放射線の特定の影響に関する詳細な検討も行っていない。
参加に対する権利
IDPsは、彼ら/彼女らに影響を及ぼす決定に参加する権利を有し、特に彼ら/彼女らの生活の保護と生活の再建に参加する権利を有する。IDPであることは、自分自身が通常の支援がない状態にあることを通常だと気づくことを意味する。私が受け取った多くの証言は、孤立と社会的排除を証明している。
非営利組織や支援団体が立案した計画を対象とする政府、福島県及び地方自治体が提供する支援は、IDPsの情報に関するニーズの一部に答え、特に特定の避難先においてはIDPsと地元住民との間に連帯感を一般的に生み出しながら、IDPs間におけるネットワークの構築に関連する非営利組織や支援団体の活動の実施を可能にしてきたという意味で、大いに賞賛に値する。NPOに対するそのような支援は継続されるべきであり、抑制されるべきではないと勧告する。なぜなら、これらの集団は、可能な場合には、IDPsに対していくらかの社会的安定性を提供しているからである。さらに、そのようなNPOの計画及び支援は、避難先地域でのIDPsの社会的統合という観点から強化されるべきであると勧告する。
これらの点に加えて、避難先の地方自治体を通じて、全国に離散したIDPsに故郷のニュースを発信するという福島県の実践は、確実に福島県に関する情報がIDPsに伝達されるようにしている。このようなニュースレターの適切性を確保するために、ニュースレターでIDPsが自分たち自身の話や意見を語ることによって、IDPs自身が参加することで、この良い実践が強化されるべきであると勧告する。また、このニュースレターは福島県の住民に対しても提供され、利用されるべきである。この方法をとることで、福島県に焦点を置いたいかなる復興及び復旧に関する構想も、住民とIDPs自身からの声で支えられ、福島県の市民の中の社会的一体性に貢献する理解と共感につながることが期待される意見交換を可能とする。
最後に、地方自治体の選挙過程への投票を通した政治参加という日本国の制度は、IDPsがどこにいようとも、またIDPsが彼ら/彼女らの住民票を変更するまで、IDPsの選挙権剥奪を避ける良い実践である。多くのIDPsが彼ら/彼女らの居住地に住民票を保持しているので、「不在者投票」手続きを簡素にすることによってこの制度を強化しなければならない。少なくとも、特に孤立している人々、又はこの方法で彼ら/彼女らの投票する権利を実施することが困難であると感じる人々に対して支援が行われるべきである。
V.
恒久的な解決策におけるIDPsの権利
国内避難民は、彼ら/彼女らの恒久的な解決策を探し求める中で、持続可能な帰還、持続可能な地域統合及び国内の他の地域での持続可能な定住という3つの選択肢がある。ここでのキーワードは「持続可能」であることであり、決定をする権利は、そのような「持続可能性」に関する完全な情報に基づいて、自由にかつ自主的に実施されるべきである。さらに、特に帰還に関するIDPsのための恒久的な解決策を策定する際には、IDPsに影響を与える決定に関する計画及び管理にIDPsが参加することができるように条件が整備されるべきである。言い換えると、IDPsの意見を聞かなければならない。
住居、土地及び財産の回復を含む十分な生活水準
特に持続可能な住居を通した住まいに対する権利は、十分な生活水準の中の必要不可欠な部分であり、帰還したいという願望に寄与する。残念なことに、福島原子力災害は、放射線だけでなく、物理的な破壊という点で、多くの私有財産を破壊した。私たちが受け取った統計的研究と証言は、IDPsの住居の破損とそれらの放射能汚染のために、多くのIDPsが帰還に大きな抵抗を感じているという事実を示している。私がインタビューをしたIDPsの一部は、たとえ彼ら/彼女らの家が除染されても、庭を含む家を直接取り囲む場所や地元の森林は多くの場合除染されていないということと、土壌の放射線レベルに関する情報は入手可能ではないということを伝える。それに加えて、避難指示解除のための許容可能な放射線レベルとしての年間20ミリシーベルトという基準は再検討されるべきである。この基準は緊急被ばく状態にある公人のみに適用されているが、これらの指針が長期的な状態にある私人に対して適用されてしまうことになるだろう。帰還するか他の場所に定住するかに関するIDPsの決定を導くための完全かつ科学的に正確な情報をIDPs に提供するために、この基準の適合性を再評価することは有益であるだろう。
さらに、たとえ帰還の意思が残っているとしても、帰還したいという意思はIDPsが経験してきた長期間避難を余儀なくされた状況に影響を受ける。十分な生活水準を可能にすることにつながる元の場所の居住地の損害を受けた財産の修理と除染の両方の促進に関して、特定の計画が立案されるべきであると勧告する。
特に帰還困難区域からの人々に対して代替の住宅が政府と福島県によって提供されていたことは、現在の良い実践である。しかしながら、この実践は、これらの重要な住宅事業計画が成功するためには、帰還を促す他のインセンティブが提供されることを示している。
雇用と生活手段へのアクセス
強制移動中のIDPsの権利と同様に、恒久的な解決策の一部としての働く権利は、人の尊厳、生産性及び包摂にとって必要不可欠である。経済復興における政府と福島県の取り組みを評価する上で、帰還するIDPsに対して確実に提供されることを目的とするより具体的な取り組みが、雇用と事業の観点からIDPsの生活の再開のための条件を容易にすべきであると強く勧告する。農業従事者や漁業従事者などの農業部門に従事する帰還するIDPsに特に注意を払うべきである。これらのIDPsの生活手段は、彼ら/彼女らの生活手段の性質に起因する放射線のリスクや、彼ら/彼女らの生産物に対する需要を抑制する世評の悪化のために、より脆弱である可能性がある。これらのIDPsの意見は聞かなければならず、またこれらのIDPsの意見に対して対応しなければならない。
賠償と侵害の原因に関する情報を含む強制移動に関連する侵害に対する効果的な救済
福島原子力災害に関連する強制移動の結果に関するもう1つの恒久的な解決策の基準は、効果的な救済の提供である。さまざまな日本国の法律がこれらの救済について定めており、現在、かなりの数の救済請求が裁判又はADRで行われている。
この件に関しては、多くのIDPsが、そのような訴訟に関わっているか否かにかかわらず、優先事項として彼ら/彼女らが災害の状況を十分に理解することが重要であると述べている。なぜなら、そのことが、居住の選択肢を選ぶ上で、IDPsの助けとなるからである。この点に関して、真の対話が開始されるべきであると強く勧告する。
VI.
予備的な一般的結論
私が日本国で実施した調査、インタビュー及び議論は、福島原子力災害に関連する多様な強制移動の原因に関するさまざまな視点、それらの軌跡、並びにIDPsの保護及び支援の現状の理解を可能にする上で、特に実りの多いものであった。日本国政府が取り組もうと努めている多くの問題が浮き彫りになった。さらに、対応が必要な問題もある。
現段階では、上記を考慮して、私の予備的結論をここに示す。
1. IDPs(避難者と呼ばれる)は、強制避難指示が執行されている指定された地域から来たかそうでないかにかかわらず、全員が国内避難民であり、日本国の市民と同じ権利と権限を有する。したがって、援助や支援を受けるという点での「強制避難者」と「自主避難者」という分類は、実際にはやめるべきである。人道的な保護と支援は権利とニーズに基づくべきであり、国際人権法に根拠のない地位に基づく分類に基づいて行われるべきではない。
2. 日本国政府によって実施されている現在進行中の取り組みや良い実践は、福島県の復興に対する地域に基づいたアプローチを包摂的な方法で可能にしながら、IDPsと福島県の住民の両方を共に含む権利に基づいたアプローチを確保することで強化されるべきである。このアプローチは、復興と復旧に対する社会的一体性に基づいたアプローチを実施するために、避難中のIDPs、帰還するIDPs及び現在の福島県の住民に対する完全な情報と参加を含むことを必要とする。このアプローチは、住居と住居の回復、土地、財産、健康、生活手段及び安全に関する地域戦略を含むべきである。
3. 避難生活を続けるIDPsに関しては、避難中には、受け入れ先の地域社会への社会的統合という観点を含む、特に脆弱な人々のための住宅と生活手段の状況に関する基本的な支援が継続されるべきである。IDPsの権利の実施を保障することは、避難先地域においても、最終的にIDPsが帰還することを選択する場合においても、その両方で社会的一体性に大きく寄与するだろう。