安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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関東鉄道に全線乗車 20年来の希望果たす

2023-02-26 21:21:48 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
国交省への要請行動を行った2月24日が連休の谷間だったため、そのまま週末を利用して、長年乗りたかった関東鉄道に行くことにした。もともと未乗車だったが、2004年公開の映画「下妻物語」でモデル舞台になって以来、ずっと行ってみたかった。深田恭子さんが芸能界で地位を確立するきっかけともなった作品の公開以来、20年来の希望だった。

2月25日朝9時過ぎ、都内のホテルをチェックアウトし出発。東京駅から、常磐線快速で龍ケ崎市へ。隣接する関東鉄道佐貫から11:35発、龍ケ崎行で11:42、龍ケ崎へ。折り返しとなる11:50、龍ケ崎発佐貫行きで戻る。

竜ヶ崎線キハ0・310系


キハ0・310系に掲げられた「関東鉄道開業100周年記念」ヘッドマーク


龍ケ崎市から常磐線で取手へ。取手からは、常総線に乗ることにする。構内に入り、1992年に衝突事故があった取手駅構内を見る。



12:29取手発下館行き列車は、2018年に登場した関東鉄道では最新の5020系だ。5010系とよく似ているが、前照灯が従来型(非LED)で下部にあるのが5010系、LEDで上部にあるのが5020系というところで見分けられる。

関東鉄道は、ローカル私鉄では大変珍しく、取手~水海道(17.1km)が非電化ながら複線だ。常総線全体(51.1km)からすると3分の1程度だが、日本の鉄道では複線化するほど列車密度の高い路線はたいてい電化されるので、非電化・複線自体が珍しい。JRであれば、北海道の函館本線(新函館北斗~東室蘭)、室蘭本線(三川~沼ノ端)、九州の筑豊本線(折尾~若松)あたりがあるが、ローカル私鉄ではかなり珍しいと思う。

だが、複線化が必要である理由はすぐにわかった。取手~水海道間では反対列車と次々にすれ違う。ほとんどの列車が1~2両編成だが、列車本数がとにかく多いのだ。乗客も、発車直後の西取手で大勢が降り、大勢が乗ってくるなど、めまぐるしく短区間での利用が繰り返される。これは大都市近郊に見られる利用形態で、取手~水海道に関する限り、幹線と言っていい。

編成を短くする代わり、列車頻度を高めていつでも乗れるようにすることで新たな需要を喚起する(フリークエンシーサービス)。関東鉄道は、これに見事に成功している。



常磐線は、取手~藤代間に交直切替のためのデッドセクションがあり、事実上、取手までが直流区間。心理的にも「ここまでが首都圏の北限で、ここから北は東北」という意識があり、東京への通勤圏の北限となっている。地域住民の生活実態がどうであれ、取手を首都圏の北限と見なせるならば、取手発の常総線と、取手より北の龍ケ崎市駅に隣接する佐貫駅発の竜ヶ崎線を持つ関東鉄道は、関東と東北にまたがる営業エリアを持っていることになる。

途中、つくばエクスプレスとの乗換駅・守谷を経由し、水海道へ。ここでは12:58から13:06まで8分停車する。水海道を出ると単線になり、乗客もその乗降も一気に減り、ローカル線然とした姿になる。幹線とローカル線の2つの顔を持つという点でも、常総線は興味深い路線だと思う。

「下妻物語」の舞台になった下妻駅でも13:34から13:38まで4分停車。この4分を利用し、下妻駅を撮影する。「下妻物語」の痕跡らしきものを探したが、さすがに19年も前の映画にまつわるものは見られなかった。最近は「聖地巡礼」をする人もほとんどいないのかもしれない。



2023.2.25関東鉄道常総線 下妻~大宝


下妻を出ると、残りはあと少しだ。終点・下館には定刻通り13:58着。1時間30分の旅が終わった。

<全線完乗達成>関東鉄道竜ヶ崎線・常総線

ここまでで、私鉄全体の完乗達成率は78%を超えた。2023年は久しぶりに「新規完乗5路線」の目標を掲げている。達成のため幸先のよいスタートを切った。

<参考>1992年6月2日  関東鉄道取手駅列車衝突事故当時のニュース映像


<事故当時のニュース記事>
常総線暴走事故30年 被害者、今も祈る安全 関東鉄道、教育と対策徹底(「茨城新聞」2022.6.2付け)

関東鉄道では過去、このような事故も起きている。忘れないようにしたい。

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安全問題研究会が国土交通省へ要請行動を実施(その2;船舶の安全問題/海事局)

2023-02-25 22:50:34 | 鉄道・公共交通/安全問題
安全問題研究会は、昨日掲載したJRローカル線問題に続き、2月24日、船舶の安全問題についても国土交通省に要請行動を行った。こちらもアポ取りはできなかったが、「担当者の都合がつかずどうしても設定できない。請願書には後日、文書回答する」との連絡があった。鉄道局とはまったく異なる対応であり、後日の文書回答を求めることとしたい。

なお、こちらも印刷に適したPDF版を安全問題研究会ホームページに掲載している。

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                       2023年2月24日

国土交通大臣 斉藤 鉄夫 様

           平和と民主主義をめざす全国交歓会(ZENKO)
           安全問題研究会

   船舶の安全問題に関する請願書

 2022年4月23日に発生した知床遊覧船「KAZU I」沈没事故から10か月となります。これまでに、乗客・乗員26人のうち20人の死亡が確認され、6人が行方不明のままとなっています。

 この事故は、船体の不備を放置し、記録簿を整備せず、船舶無線も故障したまま、地上と遊覧船との連絡手段に趣味用のアマチュア無線や携帯電話を使用していた等、数多くのずさんな実態が明らかになっています。これらは運行会社に最大の責任がありますが、同時に、こうした状況を見逃したまま定期検査に合格させた日本小型船舶検査機構及びその監督機関である国土交通省の責任も大きいと考えます。

 このような事態を踏まえ、死亡した20名の乗客・乗員の無念に応える上でも本請願が不可欠と判断しました。貴職におかれましては、本請願の趣旨をご理解の上、文書により回答を行われるよう要望いたします。



《請願内容》
1.船体重量20t未満の船舶に対し、日本小型船舶検査機構が行う検査の体制に関する問題を洗い出すとともに、抜本的に見直すこと。

2.船舶安全法及び海上運送法に違反した場合の罰則が軽すぎて実効あるものとなっていないことから、両法律を改正し、罰則を1億円に引き上げること。

【説明】

 船舶安全法により、船体重量20t未満の船舶については、国土交通省所属の船舶検査官による直接検査を受けず、これに代わるものとして、同法に基づいて設立された日本小型船舶検査機構(JCI)が定期または臨時の検査を行うよう定められています。今回、沈没した「KAZU I」は船体重量19tであり、国交省の直接検査を逃れるための設計であったことは明らかです。

 「KAZU I」に関しては、①経験豊富な船長を解雇し操船未経験者を後任にしたこと、②船体の亀裂をきちんと修理しないまま2022年シーズンの運行に入っていたこと、③波高を測定せず毎日同じ数値を記載していたこと、④故障した船舶無線を修理せずアマチュア無線や携帯電話を連絡手段としていたこと―等々のずさんな実態が明らかになっています。

 このうち①は、船長の要件を操船経験3年以上とした海上運送法に違反するほか、④は「無線電信等ノ施設ヲ要スル船舶ヲ其ノ施設ナクシテ航行ノ用ニ供シタルトキ」は違法(船舶安全法第18条1項6号)とされており、これに該当する疑いがあります。また、アマチュア無線の用途を趣味用に限定、人命救助の場合を除いて業務上の使用を禁じた電波法にも違反しています。こうした実態がありながら、毎年の検査で見逃していたJCIは検査機関としての役割を果たしていないと言わざるを得ません。

 JCIは、国土交通省に設置された知床遊覧船事故対策検討委員会において、2022年7月に行われた中間取りまとめを受け、「合理的な理由なく国と異なる方法で行われているものを総点検で洗い出し、全て変更又は廃止する」ことを2022年9月30日付で公表しています。検査基準の見直しは当然行われるべきものですが、ずさんな実態がありながら見逃していたJCIの検査体制のあり方についても抜本的見直しが必要です。

 また、事故当時のJCIの理事長及び理事1名は国土交通省出身者であり、斉藤英明理事は事故後も2023年2月2日付で理事に再任されています。検査機関への国土交通省出身者による天下りは市民の不信を招くもので中止すべきと考えます。また、こうした人事に関し、国土交通省として責任を感じないのか、その見解を求めます。

 現在、船舶所有者や運行事業者に対し、法律の規定に違反した場合に科せられる罰金の上限は、船舶安全法が50万円、海上運送法が100万円です。このような罰則では「船体の維持や修理に高い経費をかけるより、検査で発覚したときだけ罰金を払った方が安い」と考える遵法精神の低い事業者の出現を防止することは困難です。

 高速ツアーバスに関しても、道路運送法に違反した場合の罰金の上限は当初、100万円でしたが、2010年代に相次いだ事故を受け、罰金上限を1億円に引き上げるとともに、運行会社の代表者に懲役刑を併科できる法改正が2016年に行われた結果、事故は大幅に減少しました。一度の事故で会社が倒産するという危機感を経営者に持たせてこそ、罰則は実効あるものとなります。高速バスの例に倣い、船舶の分野に関しても、船舶安全法、海上運送法に違反した事業者に対する罰金上限を1億円に引き上げるよう求めます。

(以  上)

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安全問題研究会が国土交通省へ要請行動を実施(その1;JRローカル線問題/鉄道局)

2023-02-24 22:50:34 | 鉄道・公共交通/交通政策
安全問題研究会は、2月24日、国土交通行政の重要課題をめぐって、国土交通省に要請行動を行った。とはいえ、要請行動のアポ取りを拒否されてしまったので、以下、要請内容のみ掲載する。コロナ禍も収まりつつあるというのに、市民の意見すら聞く場を設けないとは、改めて鉄道局の「三流」ぶりがわかるというものだ。

なお、印刷に適したPDF版を安全問題研究会ホームページに掲載している。

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                       2023年2月24日

国土交通大臣 斉藤 鉄夫 様

           平和と民主主義をめざす全国交歓会(ZENKO)
           安全問題研究会

  JRローカル線問題に関する請願書

 当会は、各公共交通機関の安全確保や維持・発展のための活動を行う団体です。これまで、国内各地の公共交通をめぐる安全問題、事故原因調査、ローカル線廃止問題などに関する活動を行ってきました。その結果を受け、本日、下記のとおり請願を行うこととしました。

 貴職におかれましては、本請願の趣旨をご理解の上、文書により回答を行われるよう要望いたします。



《請願内容》

1.国鉄分割民営化以降、最大の危機的状況にあるJRローカル線については、旧国鉄の全国鉄道ネットワークを引き継いだJRグループの公益性を踏まえ、国としてほとんど関与してこなかったこれまでの政策を根本的に転換するとともに、これを全面的に維持し発展させるための政策の方向性を示すこと。

2.昨年7月に公表されたモビリティ検討会の提言が示したような「地域」に対する費用負担の押しつけではなく、国が地方鉄道を全面的にバックアップする体制を整えること。特に、鉄道線路の保有・維持管理、災害復旧については費用を国の全面負担とすること。

3.政府として、JR旅客6社間に巨大な格差を生んだ国鉄分割民営化の誤りを全面的に認め、鉄道をはじめとする公共交通の役割を社会的共通資本として位置づけること。

【説明】
 昨年7月に公表された「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」による「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」は、もともと利用の長期低落傾向が続いていたところにコロナ禍が加わり、危機的状況に陥っているJRローカル線のうち、輸送密度が1000人未満のものについて地元地域とJRとの協議会を設け、その存廃について3年以内に結論を出すよう求めるものとなっています。この協議会とその決定に法的強制力を与えるための地域公共交通活性化再生法の「改正」案が今国会に提出されることを、国土交通大臣みずから記者会見で明らかにしています(1/23大臣会見)。

 しかし、ローカル線の利用が長期的に低落した原因は、極端な東京一極集中政策を進めてきた政府にあります。国鉄分割民営化によって、全国で83線ものローカル線が旧国鉄~JRグループの経営から「地方」に移管され、または輸送力の小さいバス転換とされたことも地方衰退の原因として見逃すことができません。

 国鉄改革関連8法案の1つとして制定された鉄道事業法では、鉄道事業の開設に当たって事業収支見積書の提出を求め、採算が取れる見通しがなければ事業認可を行わないことを定めています。道路や医療・福祉・教育などと同様の公共サービスであり、社会的共通資本である鉄道をここまで極端な形で市場原理に委ねたまま、政府が何らの関与もせず放置している国は世界でも日本だけです。鉄道を社会的共通資本として位置づけ、政府が全面的に関与する政策への転換を求めます。

 国鉄改革関連8法案が可決・成立した際の附帯決議(1986年11月28日、第107国会 参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会)では「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと」「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社は、地方公共団体に対し、地方財政再建促進特別措置法第二十四条第二項の趣旨を超えるような負担を求めないこと」を政府に対し求めました。政府はこの附帯決議の趣旨を尊重し努力する旨、答弁しています。

 現在、JR各社が、財政力の弱い沿線自治体にローカル線維持や災害復旧のための巨額の負担を求め、応じない場合に廃線を迫っていることは、これら決議に明確に反しています。政府は、JRによる沿線自治体へのこうした姿勢を直ちに改めさせなければなりません。

 現在、少子高齢化の中で、トラック運転手の高齢化が進んでいます。2019年の労働基準法改正による「年間残業時間960時間制限」の適用が、トラック業界には5年間猶予されていますが、この猶予期間が終わる2024年にはトラック輸送がさらに危機的状況に陥ることが懸念されています。こうした情勢の中で、定時性に優れ、大量輸送に適した鉄道貨物輸送の価値を正当に評価しないまま、目先の旅客輸送密度だけを基準に鉄道を次々と廃止することは、市民生活の安定と日本経済の発展の可能性をも閉ざしてしまいます。

 JR6社のうち4社までが、現在、国との間に一切の資本関係を持たない完全民営化企業となっています。利益の出ない鉄道線路の維持を、これ以上民間企業に委ね続ける政策は限界に達しています。道路・港湾・空港と同様、鉄道を社会的共通資本に位置づけ、国が全面的に関与して、維持する政策への転換が必要です。さしあたり、緊急的課題として、全国の鉄道線路を国または公的法人(鉄道・運輸機構など)が保有し、日常の管理や災害復旧を行うための制度の確立を求めます。

 現在のローカル線の危機は、国鉄分割民営化、とりわけ旅客事業を地域6社に分割したことに端を発しています。北海道から九州まで、各路線・線区にはそれに応じた役割があります。前述した貨物輸送のほか、観光輸送、環境対策など、鉄道以外の交通モードでは代替不可能なものです。麻生副総理兼財務相や、森昌文首相補佐官(元国土交通事務次官)などからも、国鉄改革の誤りを認める見解が示されるようになっています。政府として、その誤りを公式に認めるよう求めます。

(以  上)

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レイバーネットTV179号:N0!新宿御苑に放射能汚染土

2023-02-20 23:07:19 | 原発問題/一般
今、東京都民にとって「憩いのオアシス」である新宿御苑をめぐってこんな問題が起きています。約1時間の番組ですので、ぜひご覧ください。

レイバーネットTV179号:N0!新宿御苑に放射能汚染土

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<地方交通に未来を(9)>日本共産党のローカル線再建案

2023-02-16 23:33:05 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が長野県大鹿村のリニア建設反対住民団体「大鹿の十年先を変える会」会報「越路」に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 2022年2月、国土交通省に設置された「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が同年7月に出した「提言」で、輸送密度(1日1kmあたり輸送人員)が1000人未満の線区について、存廃協議のための法定協議会を設置し、3年以内に結論を出すよう求めている。この提言に基づいて、法定協議会設置を盛り込むための地域公共交通活性化再生法改定案が、この通常国会に上程されるとの報道が年末頃から数度にわたって「赤旗」紙上で行われた。事実なら重大事態と思った筆者は2022年末、国交省に電話取材を行った。国交省は「調整中としか答えられない」(鉄道局鉄道事業課地域鉄道支援室)として否定しなかった(その後、2023年2月10日付けで閣議決定)。

 一方、日本共産党は2022年12月、田村智子政策委員長が「全国の鉄道網を維持・活性化し、未来に引き継ぐために~日本共産党の提言」を公表。2022年12月13日付け「赤旗」紙面にも掲載された。政府・JRの姿勢は、財政力の弱い地方自治体に「廃線か財政破綻かの悪魔の二者択一を迫るもの」だとして政府・JRを批判。地方再生、気候危機への対処のため環境に優しい鉄道を全面維持すべき、としている。その上で、(1)北海道、四国、九州は、もともと分割に経営上の無理があり、国が路線維持のために必要な財政支援を行う (2)巨額の内部留保をもち、黒字回復が見込まれるJR本州3社の鉄道路線を維持する (3)鉄路廃止を届け出制から許可制に戻す、と共産党の基本姿勢を説明。対案として、(1)JRを完全民営から"国有民営"に改革する――国が線路・駅などの鉄道インフラを保有・管理し、運行はJRが行う上下分離方式に (2)全国鉄道網を維持する財政的な基盤を確保する――公共交通基金を設立し、地方路線・バスなどの地方交通への支援を行う (3)鉄道の災害復旧制度をつくり、速やかに復旧できるようにする――を打ち出している。

 基本姿勢(1)~(3)については、いずれも筆者が国鉄分割民営化当時から40年近く主張してきたことと同じであり、評価できる。ただし(3)については、許可制当時も鉄道会社による路線廃止を運輸省が覆した例はほとんどない。許可制が歯止めになるとは考えにくく、廃線の前段階で住民投票を必須とするなど、より強い歯止め措置が必要だ。

 対案のうち(2)(公共交通基金の設立)と(3)(災害復旧制度)については、国鉄改革法成立当時の国会の附帯決議で、政府が約束したにも関わらず実行されていない項目であり、指摘はむしろ遅すぎるくらいだが、国会に議席を持つ公党から提案されたことに重要な意味がある。附帯決議を踏まえ、政府に40年前の約束の実行を迫っていかなければならない。

 また、対案の(1)(上下分離の導入)では、全国の鉄道線路を国が一元的に所有、管理する上下分離導入を提唱している。国による上下分離案は、1982年に小坂徳三郎運輸相の国鉄改革“私案”として作成された。国鉄を、列車運行を行う日本鉄道運行会社(上)と、線路や施設を保有・管理する日本鉄道保有公団(下)に分割するとの内容で、鈴木善幸首相も当初はこの案を支持したが、“自民党運輸族のドン”三塚博氏などの分割民営派に覆されたとされる。また、鉄道を一時完全民営化した英国でも、2000年の脱線事故後、線路保有が政府出資のレールトラック社に移されている。共産党の提案は英国型上下分離の「輸入版」とも呼ぶべきものだ。上下分離導入は、鉄道会社の経営基盤の安定化に寄与する。

 この提言には一方で問題点もある。最大の点は現行JR6社をそのまま維持するとしたことだ。コロナ前の各社の経営状態を見ると、JR本州3社で最も経営基盤が弱い西日本の黒字額(約1242億円)だけで、北海道、四国、九州、貨物4社の赤字額合計(741億円)を上回っており、3島会社と貨物の救済にはJR西日本だけでも足りる。JR6社の経営格差がこれほど拡大しているにもかかわらず、この部分に手をつけないのではせっかくの再建案も道半ばで終わりかねない。

 共産党が、JR6社を現行のまま維持するという不完全な再建案を出してきた背景について、筆者は年末年始を使って詳細な分析を試みた。その結果判明したのは、この再建案を実行する上で、現行の鉄道・JR関係の諸法令に抵触する部分がまったくないことである。つまり、1本の法律も改正せず、直ちに実行可能ということだ。

 立憲が維新との共闘を進めるなど、共産党が孤立を深めるなかで、国会での法改正が当面、不可能とみて「法改正できなくても政策を総動員することによって実現可能な最大限」を提案し、政府に実行を迫るつもりではないかというのが現時点での筆者の評価である。

 JR6社は国鉄改革法に根拠をおいて設立されており、その統合・経営形態の見直しには国鉄改革法の改正が必要である。そこに踏み込めない不完全さは共産党も理解しており、公共交通基金を通じてJR6社の収益を調整、格差是正につなげていくのが現状では精いっぱいだと考えているのだろう。

 公共交通基金の設立は単年度会計を採る国では難しいが、例えば、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)に「災害復旧・路線維持勘定」を設け、国が資金交付するなどの手法で実施できる。

 上下分離は、国または鉄道・運輸機構がJRから線路を買収すればよいが、より簡便な方法として、線路はJR保有のまま、JR各社が負担している保線費用を国や自治体が肩代わりすることで、上下分離と同様の効果をもたらすことができる「みなし上下分離」と呼ばれる手法もある(上毛電鉄(群馬県)が日本で最初に導入したことから「群馬方式」と呼ばれることもある)。津軽海峡線・瀬戸大橋線に関しても、保線作業はJR北海道・四国両社に任せたまま、鉄道・運輸機構が費用を負担するという形で2021年から導入された。ただし、このときは国鉄清算事業団債務等処理法の改正も行われている。

 「みなし上下分離」の利点としては、保線を今まで通り鉄道会社が行うため、上下分離の場合に比べ、列車運行部門とも連携を取りやすく安全上の心配が少ないことだ。欠点としては、上下分離が国や自治体の財政支援によって擬似的に実現しているだけのため、制度として不安定であり、財政支援がなくなれば直ちに上下一体の従来型経営に戻ってしまうことである。その場合、再び鉄道会社が経営危機に陥ることが予想される。

 安全問題研究会が提案しているJR全面再国有化(日本鉄道公団の設立)案については、夢物語との声をよく聞くが、筆者はそうは思わない。何よりも日本の鉄道は40年前まで実際に公共企業体(国鉄)により運営されていたのだ。国鉄失敗の要因を分析し、同じことが起きないようリニューアルした上で、公共企業体制度復活が提案されるのは自然なことだと思っている。共産党案と比較検討の上、切磋琢磨し改革実現をめざしたい。〔文中の肩書きや組織名はいずれも当時〕

(2023年2月12日)

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「避難者が賠償金で豪遊」という物語

2023-02-13 23:28:51 | 原発問題/一般
(この記事は、当ブログ管理人が脱原発福島ネットワーク会報「アサツユ」2023年2月10日号に寄稿した原稿をそのまま掲載しています。)

 原発事故発生以降、インターネットを中心に語られてきた「物語」がある。避難者らが東京電力からの賠償金で「パチンコに行っている」「高級外車を何度も乗り換えた」「家を建てた」等々。私が見た中で最も酷いのは「家を10軒建てた」というものだ。こうした避難者への攻撃は、それこそこの12年、1日も休むことなく続けられてきた。

 これらが無根拠なデマであることはこの会報読者なら言うまでもないだろう。相手をするのも面倒だが、デマを吹聴している連中にはひとことだけ言っておく。「賠償金で豪遊する避難者」がそんなにうらやましいなら、ぜひあなた自身が原発のそばに住みなさい、と。それもできるだけ事故の起きそうな危険な原発であるほど願いがかなう日は早く来る。今ごろ各地の原発立地自治体は賠償金を当て込んで、事故を心待ちにする移住者でごった返しているはずだ。

 もちろんそんなことがあるはずもない。大飯原発の地元・福井県おおい町出身のお笑い芸人、村本大輔(ウーマンラッシュアワー)は2019年末の漫才グランプリで「おおい町は原発だらけなのに、夜になったら人も歩かず、街灯もなく真っ暗。こんなに原発で電気を作っているのに、電気はどこ行った!」と会場を笑わせている。

 悲しいことに、人には誰しも自分の信じたいものだけを信じるという習性がある。世間には、避難者は賠償金で遊んでいるはず、いや遊んでいなければならないのだという「確固たる信仰心」が存在する。その心の隙間につけ込み、カルト新興宗教「避難者は遊んでいなきゃいけない教」の布教活動で小金を稼ぐ連中も見てきた。

 原子力ムラ界隈には、これ以外にも「放射能は飲んでも安全教」「汚染水は垂れ流しても安全教」など様々なカルト宗教が存在する。福島原発刑事訴訟支援団が闘っているのも「津波は予見できない教」というカルト宗教一派である。それを信じたくて仕方ない連中がいて、裁判官までが信者になっている。病気が治ると吹聴し、高額な壺を売りつける連中と変わらないが、信者でない人にまで被害を及ぼしてしまうだけ「原発安全教」の悪質さは際立っている。

 カルトを信じやすいお人好しの日本人を「原発安全教」から解脱させる手段はあるのだろうか。今、元首相殺害事件を契機に、壺を売りつける宗教団体に解散請求をする方向で遅まきながら政府が動き出している。危険なカルトを布教している原子力ムラにも解散請求が必要だ。

 こうした「邪教の布教活動」の場となっているインターネット(特に素人が誰でも書き込めるSNS)にも規制を考えるときだろう。ヤフーニュースのコメント欄やツイッターは原発事故避難者に限らず、貧困層、女性、性的マイノリティなどの弱者をバッシングする場と化している。「ネットは悪くない。おかしな使い方をする人間が悪いだけだ」と、時折これらを擁護する連中が現れるが、こうした主張は「悪いのは殺人をする人間であって銃に罪はない」と銃規制に反対する全米ライフル協会と同じだ。銃と同じく、建設的な使用方法を想像するのが難しい道具であれば、もはや「それ自体」を規制対象としていく議論も開始すべきだと考えている。

 ヤフー日本語版は2022年4月以降、英国とEU域内からは接続拒否の処分を受け見られなくなっている。EU一般データ保護規則違反に当たると再三の警告を受けたが従わなかったことが理由とされる。ルールも守れない企業に同情など不要である。

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JR根室線富良野-新得間を存続させる署名にご協力ください!

2023-02-11 18:23:55 | 鉄道・公共交通/交通政策
安全問題研究会では、現在、根室本線の災害復旧と存続を求める活動を行っていますが、このたび、オンライン署名「JR根室線富良野-新得間を存続させ、北海道観光の未来のために、「ぐるっと道東・道北周遊鉄道観光」の創出を求めます!」が始まりました。

コロナ禍の影響も次第に小さくなり、観光など徐々に復活の機運が出てきています。復旧後の北海道観光に、この区間はぜひとも必要です。ひとりでも多くの方の署名をお願いします。


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【転載記事/訃報】宮里邦雄弁護士/労働者のための弁護ひとすじ

2023-02-10 21:03:24 | 鉄道・公共交通/交通政策
国労弁護団の中心として、JR不採用問題に関わり、裁判闘争・政治解決の両面からご尽力いただいた宮里邦雄弁護士が、2月5日に死去した。労働運動業界で彼の名を知らない人はモグリと言ってもいいほどで、日本の労働運動に残した数々の功績は、永遠に輝き続けるだろう。

私自身は直接面識はなく、故人に関するエピソードなどは書けないので、レイバーネットに掲載された記事を転載することで、宮里さんを偲ぶことにしたい。

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(以下、レイバーネット日本より転載)
訃報:宮里邦雄弁護士/労働者のための弁護ひとすじ

 当事務所の代表であり日本労働弁護団の会長を長く務めた宮里邦雄(みやざと・くにお)弁護士が、去る2月5日、逝去しました。一昨年8月から病を得て闘病中でした。享年83歳でした。

 葬儀・告別式は家族・親族のみで行うというご連絡をご遺族からいただいておりますので、ご遺族へのご連絡などはお控えください。後日、当事務所と日本労働弁護団が主催して偲ぶ会を開催する予定です。日時場所等が決定しましたら、当事務所のホームページ等にてご案内いたします。

東京共同法律事務所
代表 弁護士 山口 広

東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5階
電話03-3341-3133

本件に関するご連絡・お問い合わせは当事務所あてにお願いいたします。
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宮里邦雄(みやざと くにお)Kunio MIYAZATO

紹介

 宮里邦雄弁護士は、1939年7月1日に大阪に生まれ、沖縄・宮古島で育ちました。米軍占領下の琉球政府立宮古高校を卒業し、琉球政府の国費留学生として東京大学に進学して司法試験に合格し、1965年に弁護士に登録して以来、労働事件ひとすじに、労働者のための弁護活動に取り組んできました。

 一昨年の8月に病を得て、昨年1月から闘病生活に入られましたが、その直前まで、解雇、雇い止め、労働条件の不利益変更、パワハラ、労災、不当労働行為など多くの労働事件を、熱心に担当していました。また、多くの労働組合の法律顧問として、集団的労使関係上の諸問題や組合員の生活問題について相談を受けてきました。総評弁護団・日本労働弁護団の活動にも積極的に取り組み、2012年まで10年にわたり、日本労働弁護団会長を務めました。

 担当した労働事件は数え切れず、労働者の権利闘争の歴史を刻んだ重要事件も多数に及びます。その一端は、近著「労働弁護士「宮里邦雄」55年の軌跡 」(2021年 論創社)にまとめられています。官公労働者の労働基本権や政治活動の自由が争われた事件や採用内定取消が争われた三菱樹脂事件、1970年代には沖電気整理解雇事件、1980年代には東芝府中人権裁判なども担当しました。1987年の国鉄の分割民営化をめぐる問題に国労弁護団の中心となって取り組み、全国で取り組まれた労働委員会での闘いとこれに続く裁判闘争を長期にわたって持続し、解決に至ったことは特筆に値する功績であったと思います。

 また、ビルメンテナンス労働者の夜間拘束時間の労働時間性が争われた大星ビル管理事件、オペラ合唱団員の労働者性が争われた新国立劇場運営財団事件、定年後再雇用者の労働条件が争われた長澤運輸事件など、新しい労働運動の課題に常に挑戦を続けました。

 他方で、沖縄出身者として、沖縄の米軍基地に関する問題にも関心を寄せ、とりわけ、国が沖縄県を訴えた代理署名拒否事件において、沖縄県を代理しました。

 また、2005年から2007年までの3年間、 東京大学法科大学院客員教授としてロースクール生の労働法と法曹倫理の教育に取り組み、近時は労働者の権利についての基礎的な法知識や権利意識の弱さを痛感し、労働者としての「権利教育」に力を注ぎ、全国の講演会・セミナーに力を入れていました。

主な経歴

1939年 大阪市生れ、沖縄宮古島育ち
1958年 琉球政府立宮古高校卒業(現沖縄県立宮古高校)
1963年 東京大学法学部卒業
1965年 弁護士登録。東京弁護士会所属。
1987年~1989年 中央大学法学部非常勤講師
1997年~2005年 日本労働法学会理事
2001年~2003年 早稲田大学法学部大学院非常勤講師
2005年~2007年 東京大学法科大学院客員教授(労働法、法曹倫理)
2002年~2012年 日本労働弁護団会長

主な著書

・「労働委員会-審査・命令をめぐる諸問題」(労働教育センター)
・「労働法実務解説12 不当労働行為と救済-労使関係のルール」(旬報社)
・「労働組合のための労働法」(労働教育センター)
・「ロースクール演習労働法」(共著)
・「労働法実務解説6 女性労働・パート労働・派遣労働」(共著、旬報社)
・「改訂版 労使の視点で読む最高裁重要労働判例」(共著、経営書院)
・「就活前に読む 会社の現実とワークルール」(共著、旬報社)
・「実務に効く労働判例精選(第2版)」(編著、有斐閣)
・「はたらく人のための労働法(上)、(下)」(労働大学出版センター)
・「憲法の危機をこえて」(共著、明石書店)
・「改訂版 労使の視点で読む最高裁重要労働判例」(共著 2013年 経営書院)
・「挑戦を受ける労働基本権保障――一審判決(大阪・京都)にみる産業別労働運動の無知・無理解 (検証・関西生コン事件1)」(共著 2021年 旬報社)
・「労働弁護士「宮里邦雄」55年の軌跡 」(2021年 論創社)

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