安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

●安全問題研究会が、JRグループ再国有化をめざし日本鉄道公団法案を決定!

●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

【本の紹介】「福島からあなたへ」

2012-01-31 22:53:29 | 書評・本の紹介
「福島からあなたへ」(著・武藤類子、写真・森住卓)

著者の武藤類子さんは、「ハイロアクション・福島原発40年」のメンバー。当ブログでも紹介した昨年9月19日、東京・明治公園での6万人脱原発集会で感動的なスピーチをした人である。本書にはそのスピーチも収められている。

写真提供者の森住さんは、反戦写真家の大家ともいえる人で、アフガニスタン・イラクなどで戦争の被害を受けた住民の写真を撮り、その犯罪性を問い続けてきた。

著者の武藤さんには何回かお会いした。うまく感情をコントロールしながら、自分の主張を最大限、押し出していける人。電気に頼らない暮らしを福島県三春町で実践しながら、私たちの豊かな生活を支えている電気の背後に何があるのかを今も鋭く洞察し続ける。その行動力と人望とで、個性派揃いの「原発いらない福島の女たち」をまとめてきた。

原発をなくすために何をすればよいか、理論ではなく実体験から導き出されたエッセンスにあふれるこの本は、また武藤さんの生きざま、人生が詰まった本でもある。彼女のようなライフスタイルを送る人が多数になれば、戦争・貧困・原発をはじめとするあらゆる困難は、新たに生まれる共生と共助を基本とした社会の中で解消されるだろう。

文字数が少ない本なので、早い人なら30分程度で読破できる。この本は、大量生産・大量消費・大量廃棄の資本主義物質文明から循環・再生産・共生の社会への転換を迫られている人類にとって道しるべとなるに違いない。

この本がぜひ各国語に翻訳され、世界中の人に読まれることを願っている。

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山梨・富士五湖で震度5弱観測 富士山との関係は?

2012-01-30 22:47:28 | 気象・地震
平成24年1月28日07時43分頃の山梨県東部・富士五湖の地震について(気象庁報道発表)

最近、当ブログは気象庁の情報公開のあり方にかなり疑問を持っており、気象庁の報道発表を基に地震情報の解説をするのが果たして本当に適切なのかどうか、かなり悩んでいる(特に、昨年11月17日の長官記者会見のようなばかげたやりとりを見せつけられると、こんなところから発信される1次情報を基に地震の解説記事を書いてよいわけがないと思ってしまう)。地震を初めとして災害が相次ぎ、災害情報を扱うサイトはどこも注目度が高くなっているだけになおさらだ。

だが、一般商業メディアの報道が気象庁よりマシかというと全然そうではない。となると、当ブログとしてはやはり「1次情報」を元に解説を続けるしかない。

報道発表を見よう。震源地は富士山の裾野に当たる場所である。震源深さは約20kmだが、これは富士山の2つあるマグマだまりのうちのひとつとほぼ同じ深さだといわれるだけに心配になる。

群発地震が発生したときに、それが火山性地震かどうかを判定することは実はとても難しい。火山性地震だからといって発震機構(地震のメカニズム)に違いがあるわけでもなく、火山活動と群発地震の活動を照らし合わせて、その大部分において一致を見たときに「この群発地震は火山性のものだ」とようやく判断ができる、というのが現実である。それだけに、ろくに火山活動との関連を調べもせず、富士山の活動と「関連はない」とする気象庁の発表を額面通り受け取るわけにはいかない。

発震機構が逆断層型というのが気にかかる。震央の位置、富士山の位置から見て、富士山が膨張して外側に圧力がかかっていると、この地域では逆断層型となるはずだからである。動物の異常行動(コウモリが1カ所に集まる)、地割れと湧水の発生、永久凍土の減少など、昨日あたりから不気味な現象がメディアでも取り上げられ始めている。毎日、富士山を間近に見ながら過ごしている地元住民から「見た目の印象が変化した」という報告さえ寄せられ始めている(参考)。

富士山が噴火するにせよ、そうでなく終わるにせよ、皆さんに知っておいていただきたいのは、日本の山の8割は火山だという事実である。そのうちの大部分は休火山であり、死んでいるわけではない。どこの山がいつ火を噴いてもおかしくないという認識を持っておくことは、災害を未然に防止するためにとても重要なことである。

念のため、富士山が噴火した場合の影響をシミュレートしておこう。地球の自転により、北半球では西から東へのジェット気流が常に吹いている。冬場は北西の季節風も吹く。火山からの噴出物は、主に富士山の東から南東方面へ流れる。静岡・山梨県内よりも神奈川や東京のほうが影響は深刻になるだろう。千葉・埼玉も警戒すべきである。

風上に当たる静岡や山梨は、西・北西の風が吹いているとき火山灰の心配は少ないが、富士山から近いだけに火山弾など大きな物が飛んでくる可能性がある。新燃岳が噴火した際、地元の観光ホテルのガラス窓が火山弾で割れるなどの被害を出した。こうしたことは、静岡・山梨では起こりうる。

最も恐いのは、噴火の規模そのものは小さくても、火山灰などがもたらす物流・交通への影響である。噴煙が上空高く舞い上がれば、ジェットエンジンへの影響があるため航空機は近くを飛べない。場合によっては成田・羽田を使えなくなる可能性がある。風向きによっては中部国際空港も使えないかもしれない。

火山灰が降り積もり、新幹線や東名・中央道も通行止めになる。この結果、西日本と東日本を結ぶ交通の大動脈が絶たれる。最も恐いのは、日本海側で記録的大雪が続いているこの1~2月に富士山噴火が起きることである。新幹線・東名・中央道が使えなくなり、物流のトラックが日本海側を迂回しようとしても、日本海側も大雪で通行できない。この場合、日本海側で雪が溶ける3月中旬頃まで1ヶ月~1ヶ月半の間、東西の物流が途絶することを覚悟しなければならないであろう。

このような事態に備え、我が家では今日、レトルト食品・ミネラルウォーターなどの物資を念のため買い揃えることにした。我が家のこの対策が杞憂に終わることを願っている。

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JR株主訴訟、提訴へ~見えてきた福島と同じ構造 これは東京と地方の関係を問う裁判だ

2012-01-28 18:10:17 | 鉄道・公共交通/交通政策
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2012年2月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 2011年12月、JR東日本の株主ら3人が、会社を相手取って株主代表訴訟の提訴に踏み切ったことが一部メディアで報じられた。株主らは、「信濃川からの不正取水によりJR東日本が沿岸自治体に対して支払った57億円は経営陣の怠慢が原因であり、支払いの責任は経営陣が負うべきだ」としてこの57億円の会社への返還を求めるという。

 ●信濃川不正取水とは

 JR東日本による信濃川からの不正取水は2009年に発覚した。JR東日本は、首都圏を初め、自社管内で列車運行に充てるための電力の約6割を自営電力によりまかなっている。この自営電力の大きな基盤となっているのが信濃川に設けられた水力発電だ。信濃川発電所は新潟県小千谷市と十日町市にまたがっており、その発電量は最大で45万キロワットと、電力会社の小さな発電所と比べても遜色のない発電量となっている。

 この発電所で、JR東日本は国土交通省から許可を受けた取水量に対し、長年にわたって大幅な超過取水を続けてきた。当時の報道を改めて読み直すと、「1998年から2007年までの10年間に合計約2億6000万トン」(新潟中央テレビ)、「2002~2008年に合計約3億1千万トン」(朝日新聞)など超過取水量には諸説あるが、いずれにしても年間で2600~4000トン近い膨大な量が不正取水されていたことになる。手口も悪質で、ダムの取水口にある流量測定装置のプログラムを改ざんし、国土交通省から許可された取水量以上の数値を示さないようにしていた。その上、国土交通省が行った調査に対して「不正取水はない」と虚偽の説明をしていたこともわかっている。

 事実の発覚を受け、国土交通省(北陸地方整備局)は2009年2月、JR東日本に対して水利権停止(=取水禁止)というきわめて重い行政処分を行った。これほどの処分となったのは、膨大な不正取水量に加え、流量測定装置の改ざんや、国土交通省の調査に対して2度も虚偽の報告をしたことを重視したからだという。

 日本で1、2を争う大河であるはずの信濃川は、JR東日本による恒常的な不正取水にさらされてきた結果、場所によっては川底が完全に露出し、干上がった川から腐臭が漂うほどの荒廃に陥った。「信濃川をよみがえらせる会」の顧問・樋熊清治さんは「あの堤防からこの堤防までいっぱいに水が流れていいはず。一番立派なはずの川ですよ。魚は住めない、メダカも住めない」と憤った。

 国土交通省による水利権停止処分は、2010年6月に解除されるまで1年4ヶ月の長期に及んだ。この間の2009年11月には、JR東日本が取水を停止した千曲川(長野県側ではこう呼ばれる)でそれまで確認されていなかったサケの遡上が見られ、川の自然を破壊していたのがJR東日本であることが浮き彫りとなった。

 JR東日本は、水利権停止の処分期間中、地元に対する謝罪と「賠償」、再発防止策の決定などの対応に追われた。このとき、流域自治体に対して「寄付」(事実上の賠償)として会社から57億円が支出されたが、「この支出は不正行為を見過ごした経営陣に責任があるのだから、その費用を経営陣は会社に返還せよ」と求めたのが今回の訴訟というわけである。

 当然のことだが、この訴訟は単なるJR東日本という私企業の「経営上の過誤」を問うものではない。羽越線事故を生み出した強権的な企業体質やJR不採用問題など数々の不正をあぶり出し、企業体質の改革、そしてその先には国鉄分割民営化の犯罪性を問うていくことまで視野に入れている、というのが本稿筆者の理解である。その意味では、この裁判は利益優先・安全軽視、ガバナンス(企業統治)不在のJR体制にメスを入れるためのほんの突破口に過ぎないものだ。

 ●「十日町市だけが栄えればいいというものではない」

 不正取水発覚後の2009年6月、筆者は「JRに安全と人権を!市民会議」(略称:JRウォッチ)の一員として現地を訪れた。一行は、元十日町市議会議員・根津東六さんらの案内で十日町市役所を表敬訪問することができた。一行は、克雪維持課(現・建設課維持係)課長補佐など数名の役場職員と会談。役場側から不正取水問題の経過について説明を受け、「JRウォッチ」側からはJR不採用問題や羽越線事故などについて説明を行った。筆者は、この際の克雪維持課課長補佐の言葉が今も印象に残っている。「…私たちは、十日町市を良くするために役場で働く職員ですが、だからといって十日町市だけが栄えればいいとは思っていません。首都圏の皆さんのために電力を供給し、その生活を支えていくことも十日町市役所職員としての大切な仕事だと思っています」

 筆者はこのときの彼の言葉を聞いて、(市民運動的という意味ではなく、公務員的という意味で)バランス感覚に優れた、実直で有能な人物との印象を持った。そして、東京という大都市の下支えをすることに対して、地方がある意味で「誇り」を持って仕事に当たっているという事実も、このときに知ったのである。

 ●東京が一番苦しいときに助けてくれた十日町市

 3.11、東日本大震災の発生で東京は未曾有の大混乱の中にあった。続く余震、大量の帰宅難民、流通の混乱による生活必需品の不足と買い占め…。さらに、福島原発1号機で水素爆発が発生し、東京にも大量の放射能が飛来するとの観測が広がり始めていた。その混乱に拍車をかけたのが、東京電力による「計画停電」だった。「計画」と銘打ってはいるものの、その実態は無計画そのもの。東電が発表する停電計画はころころ変わり、朝令暮改どころか朝令「昼」改の状況だった。首都圏の鉄道各社はこの直撃を受け、震災翌日の3月12日から13日頃まで、首都圏の鉄道各線は終日運休に近い状況に追い込まれた(注)。

 ところが、14日に首都圏のJR各線は突然、運行再開にこぎ着ける。計画停電の混乱が続いている最中の急な運行再開を不思議がる人々も多かったが、このとき、電力不足で苦しんでいるJR東日本に救いの手を差し延べる人たちがいた。他ならぬ新潟県十日町市だった。

 十日町市のホームページに掲載された「信濃川・清津川の取水に関する提案について」と題された文書を、本稿執筆(2012年1月20日)の時点でもなお見ることができる。そこには紛れもなく次のように書かれている――『十日町市も震度6弱の地震に見舞われ、各地域で大きな被害が出ているところですが、東北地方太平洋沖地震の甚大なる被害を報道で目の当たりにし、日本全体に影響する危機的事態に鑑み、当市として、下記の内容を関係機関に提案しました』。その上で、信濃川ダム(JR東日本)については『最大取水量の上限を設けないこと(現状では316.96㎥/s)、維持流量を7㎥/sまで減量すること』とある。電力不足が収束するまでの間、信濃川に流す水を1秒あたり7立方メートルまで減らしてもよいので、JR東日本に対し、発電のための取水を無制限に認めるという十日町市からの雅量ある提案だった。

 このニュースを聞いたとき、筆者は前述した克雪維持課課長補佐の言葉がすぐに頭に浮かんだ。東京都民、そしてJR東日本が最も苦しんでいるときに彼らは約束を果たしてくれたのだ、と感謝でいっぱいになった。一方、JR東日本はといえば、3月11日の震災当日、首都圏各線の運行再開を早々にあきらめ駅を閉鎖、気温8度の寒風の中に利用客を放り出したことが厳しい批判を受け、社長が謝罪に追い込まれていた。東京と地方の、あまりにも大きすぎる落差だった。

(注)ちょうどこの頃、JR首都圏各線が軒並みストップしているのに対し、東海道新幹線がほぼ平常通り運行していたことから、インターネットを中心に「JR東海が新幹線を動かしているのは、妊婦や子どもが大量流出した放射能から西日本に避難できるようにするためだ」とする噂が飛び交っていたことをご記憶の方も多いかもしれないが、こうした噂に根拠はない。

 鉄道ファンとして解説しておくと、このとき東海道新幹線だけがほぼ平常通り運行できたのは、同線が周波数60Hzの西日本区間から給電されており、東京・東北電力管内の電力不足の影響を受けなかったからである。旧国鉄は、東海道新幹線が山陽新幹線と連結され、博多まで延長されることを見越して東海道新幹線の建設に着手しており、東京~博多間でみれば、その大部分が60Hz区間となることは着工の時点でわかっていたから、東海道・山陽新幹線の全線を60hzとしたほうがよいと判断し、このような形態での建設としたのである。

 仮に、東海地域で大地震が発生し、今回と逆の状況になれば、東京電力管内の50Hz区間である首都圏各線が早々に運行を再開しているのに、東海道新幹線だけがいつまでも運行再開できないという状況が発生する可能性がある。

 ●見えてきた「福島と同じ構造」

 「この株主訴訟の目的は何か」と聞かれたら、筆者は「地方の尊厳と誇りを取り戻すことだ」と答えたいと思う。察しの良い読者の皆さんはすでにお気づきであろう。この信濃川問題をめぐる構造が福島とそっくりだということに。「東京の豊かな生活のためのエネルギー源として収奪される地方」という構造がうりふたつである。

 山田孝男・毎日新聞編集委員は「内外ともに、エリートと大衆、富者と貧者、都市と田舎、大人と若者が背き合い、憎み合い、亀裂が広がっている。社長とヒラ社員の年収差が5倍程度まで広がった日本と、数百倍のアメリカでは事情が違うにせよ、社会が引き裂かれていくという感覚、方向は同じだ」と述べている(2012.1.10付け毎日新聞「東奔政走」より)。そのような政治的雰囲気が一部に漂っていることを否定はできないが、福島に住んでいて思うことは、状況はこのような二分法で語れるほど単純ではないということである。放射能汚染という過酷な事態の中でも福島には様々な思いが交錯しており、首都圏に対する電力供給の役割を拒否する声が大勢ではないということも指摘しておく必要がある。もとより、首都圏が電力を自給できないことは明らかであり、福島や新潟が拒否したとしてもその仕事は結局誰かがやらなければならない。それならばその役割は自分たちが引き受ける。その代わり我々に誇りを与えてほしい。「自分たちは胸に矜持を抱いて、首都圏の皆さんのために役目を果たしています」といえる状況を作ってほしい…福島や新潟の人々の思いはこのあたりにあるのではないだろうか。

 不正取水で最も苦しめられた十日町市が、3.11による計画停電で苦しむ東京に対し、過去の経緯を越えて救いの手を差し延べた――確かに美しい話ではある。だがこれを単なる美談に終わらせてはならない。首都圏の皆さんにはこの恩義に報いる義務がある。そしてその恩義に報いることは福島の苦しみに寄り添うことでもある。

 かつて横浜勤務時代、首都圏で豊かな暮らしを享受した者として。信濃川現地を見ながらその雄大さと人々の度量の大きさ、そしてふるさとの川を破壊されたことに対する静かな怒りに触れた者として。今、原発事故でかつてない困難に直面する福島のひとりとして。そのすべての立場でこの訴訟に関われることは、ある意味でとても幸せなことというべきなのかもしれないと今は思う。帰宅難民を駅から追い出し、新潟や福島の住民が環境破壊と引き換えに送ってくれた電気を使って役員室でぬくぬくとしているJR東日本の幹部たちは今、何を思っているのだろうか。

 彼らを改心させることは千里の道より遠いかもしれない。だが黙っていても何も始まらない。今はただ、新潟や福島の思いをぶつけ、地方に尊厳と誇りを取り戻すための場として、精一杯この訴訟に取り組みたいと思っている。

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経産省前「脱原発テント」に退去命令、市民が集まり跳ね返す

2012-01-27 23:44:31 | 原発問題/一般
枝野経産相「危険ある」、脱原発テントに退去令(読売)の記事の通り、経産省は脱原発テントでの「ぼや騒ぎ」を理由に退去命令を出した。

冗談ではない。ぼやは確かに起きたかもしれないが、それより危険な爆発を起こし、放射能を世界中にばらまいている東電に「原発の撤去」を求める方が先ではないのか。

それに、こんな言い方をしてはなんだが、このテントは単に国有財産法と「経産省庁舎管理規程」に違反しているに過ぎない。この規程は単なる内部訓令だ。それに対し、東電は原子炉等規制法に違反している。「比較の問題ではない」といわれるかもしれないが、どちらがより重罪かははっきりしている。問題なのは、東電と一緒に原発推進してきた経産省が撤去命令を出しているということだ。殺人犯が傷害犯に「退去しろ」と言っているに等しい。しかも、枝野経産相は東電によるパーティ券購入金額が民主党で上位3位以内に入っている。電力マネーまみれのお前にだけは言われたくない。

これに対し、27日夕方、市民750人が急きょテント前に集まり、強制撤去の動きを跳ね返した(報告:レイバーネット日本)。ネットで集まろうと呼びかけがされれば、それに呼応してすぐに数百人単位が集まる。3.11以降、明らかに日本は変わってきている。

さすがにこうした市民の動きに経産省は焦りを深めている。枝野経産相が「いかなる状況でも電力使用制限令をせずに乗り切りたい。それが出来る可能性は相当程度ある」「日本の産業に大きな影響を与えることなく(今夏を)乗り切るための検討は進めている」と記者会見で述べた、とのニュースも伝わってきた(参考記事)。

さすがの厚かましい経産省も、原発全面停止を覚悟し始めたようだ。ただ、これは反原発運動に向けた「陽動作戦」の可能性もある。今、大切なのは、こうした市民の動きを一過性のものに終わらせることなく、永続的動きにしていくことだ。

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廃止直前の十和田観光電鉄に乗る

2012-01-27 21:56:55 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
本日、年休を取って青森に行くことにした。3月改正で廃止となる十和田観光電鉄、寝台特急「日本海」、そして廃止対象ではないが未乗である大湊線に乗るためである。十和田観光電鉄と大湊線に乗り、日本海で大阪に抜ける計画だった。

…が、大雪で結局この計画は頓挫してしまった。日本海側の記録的な大雪で、ここ数日ずっと運休している「日本海」の運休は覚悟していたが、さすがに大湊線まで運休になるとは予想していなかった。

新幹線で八戸下車。青い森鉄道に乗り換え、三沢まで来たところで日本海の運休を知る。大湊線は、午前中は運休で午後から運転見込みとの紙が掲示板に張られている。

とりあえず、十和田観光電鉄は通常通り運転しているとのことだったので行くことにした。十和田観光電鉄の場合、この程度の雪で運休していたら1年の半分は運休になるだろう。

大雪の中、十和田観光電鉄・三沢駅まで歩く。駅舎に入るとおいしい香りがすると思ったら、立ち食い蕎麦のスタンドからだった。ここは駅舎の中だが味の良い店として知られている。硬券入場券を買い求め、列車へと急ぐ。

わずか14.7kmしかない十和田観光電鉄を、東急のお下がりの車両がゆっくり進む。約30分かけて十和田市に着く。沿線には農業高校、北里大学獣医学部など意外に学校が多い。

十和田市に着くと、スーパーが撤退し、入居者が見つからない駅ビルは閑散としていた。再び十和田観光電鉄で三沢まで戻る。

青い森鉄道三沢駅まで戻ってくると午後2時を回っていた。改めて大湊線の状況を確認すると、午後から回復するはずだったのにまだ運休のまま。それどころか、青い森鉄道の列車まで雪で遅れ始めた。これでは大湊線どころではないと思い、ここで引き返す決意をする。鉄道乗車はある意味、登山と同じだ。無理だと思ったら、捲土重来を期するため潔く退くことも必要である。なによりも東日本大震災の惨劇を生き残った私が、こんなつまらないことで命を危険にさらすなんてあり得ないと思う。

青い森鉄道に乗り、八戸を目指す。残念だが天気には勝てない。氷の固まりを踏みつぶすようなゴトッゴトッという音が聞こえている。このままではいずれ青い森鉄道さえ運休になりかねない。引き返す決断は正解だったと思う。八戸から再び新幹線で帰宅。

【完乗達成】十和田観光電鉄

今回、なんとか十和田観光電鉄だけは完乗を達成したが、「日本海」乗車、大湊線乗車、八戸~新青森間乗車による東北新幹線「奪還」はいずれも成らなかった。新幹線は、意識しなくても何らかの形で達成できるだろうと思うが、問題は大湊線である。過去、2回の青森訪問の際に乗車しようと思ったものの、いずれも実らず、今回、3回目の挑戦も大雪で散った。

明文化していないが、当ブログ管理人の完乗ルールには、暗黙の事項として「3回挑戦して乗車できなかった路線は延期」というものがある。東日本大震災の巨大な余震がそろそろ訪れそうな気配もするし、大湊線はしばらく延期せざるを得ない。

当ブログは鉄道全線完乗の記録をするために生まれた。その生い立ちからして、未乗路線に乗ればそれを記事にすることは当然だが、十和田観光電鉄を取り上げたことにはもうひとつ理由がある。この小さな鉄道がたどった運命が、今後、並行在来線転換第三セクター鉄道のたどる運命の先駆けになりかねないと思ったからだ。

十和田観光電鉄にとどめを刺したのは新幹線の新青森延伸である。この延伸により、十和田観光電鉄は全区間が新幹線と並行することになった。この延伸がなくても、十和田観光電鉄はいずれ消える運命にあったのかもしれない。しかし、新幹線延伸がその死を早めたことは間違いないと思う。

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本日の放射能測定値

2012-01-26 23:37:25 | 福島原発事故に伴う放射能測定値
・計測年月日、時間
 2012年1月26日 午後8時25分~8時35分

・計測場所
 福島県 JR新白河駅西口(高原口)

・計測時の気象条件(晴/曇/雨/雪の別及び風向、風速)
 天気:曇
 風向・風速:西 2m

・計測結果(単位:マイクロシーベルト/時)
(1)新白河駅西口バス停横の土壌地
  大気中(高さ100cm)   0.49
  土壌(高さ10cm)    0.52

(2)新白河駅西口駐車場
  大気中(高さ100cm)   0.52
  舗装路面(高さ10cm)  0.54

<放射線量測定に関するお知らせ>
次の定期測定は、2012年2月2日(木)に実施する。

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私たちはJRへの雇用をあきらめない!被解雇者がマラソン・ハンストに取り組みます

2012-01-25 22:36:23 | 鉄道・公共交通/交通政策
JR不採用問題は、JRに1人の職場復帰も果たせないまま昨年6月、「終結」となったが、JRへの雇用を求めている人たちがまだ存在している。

そうした人たちが、JRへの雇用を国会議員にアピールするため、1月27日(金)から国会前でマラソン・ハンストに取り組む。本人たちの「決意表明」と併せてお知らせする。

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以下、レイバーネット日本より

●JR不採用問題は終わっていない!
政府・JRの責任を追及する国会前マラソン&ハンスト宣言             

 2012年1月5日

元鉄建公団訴訟原告(元国労東京闘争団)  佐久間 忠夫             元鉄建公団訴訟原告(元国労佐賀地区闘争団)猪股 正秀              元鉄建公団訴訟原告(元国労北見闘争団)  中野 勇人

中曽根康弘元首相が「国労を崩壊させ、総評・社会党を解体させる」というあからさまな不当労働行為意思を持って国家政策の舵を切り国鉄「分割・民営化」を推進しました。それに対して、私たちは「安全で安心な国民のための足」という鉄道本来の理念を守り、職場と家族を養う雇用を守るため、国鉄「分割・民営化」反対という人間として当たり前の要求をし、一鉄道労働者・国労組合員として行動しました。そのため「分割・民営化」の結果生まれた民間会社JRに採用されませんでした。JRでは、利益を優先して安全を軽視し、列車遅延・トラブルは日常化し、JR西日本の尼崎列車転覆事故では多くの死傷者を生み出しました。現在、私たちが働き、生活している今の社会では、人として当たり前のことを言い、人としての正義をあらゆる職場で貫くことが困難になっています。

国鉄労働者1047名の闘いは、一昨年6月28日に最高裁での「一括和解」が成立し、「年金・解決金」に相当する「金銭」部分について決着しました。それ以降、残された最大の問題である「雇用問題」について政府の責任による解決を求めてきました。しかし、JR7社は昨年6月13日、政府が取り次いだ3党の雇用要請に対して連名で「雇用希望者の採用を考慮する余地はない」などとして、即日拒否しました。これを受けて、原告団など4者4団体も四半世紀に及んだ国鉄闘争に一定の区切りをつけることとなりました。そして、当事者である原告に雇用問題を残したまま、各闘争団・原告団は「解散」となりました。

しかし、私たちは「雇用を断念せざるを得ない」ことはどうしても納得できません。政治合意を受け入れる際、私たちも含め各原告・団体も裁判上の和解を行うことで承諾書に署名・押印して政府に提出しました。これは、単なる人道的な合意ではなく、政府と四党が責任を持って署名・押印した文書ですから、政府による雇用実現の努力の約束が果たされるべきものです。しかし、政府のこの約束は果たされていません。

これまでJRへの採用に関して、私たちは、自民党政権時代から約束を反故にされ続け、人生を狂わされ続けてきました。また、「自分たちはこの問題の当事者ではなく関係がない」とでもいうような態度をとり続けているJRを許すことは絶対に出来ません。

政府の約束不履行責任、JRの責任は消えることはありません。したがいまして「国鉄闘争」は私たちの中では終結していません。私たちは、「不採用問題は終わっていない!」として、政府・JRへの責任を追及し続けていくことを申し上げ、闘争宣言と致します。

【中野勇人 国会前マラソン行動 佐久間忠夫・猪股正秀 連帯ハンスト・座込み】
2012年1月27日(金)~2月16日(木)9:00~17:00予定

 衆議院第二議員会館前*マラソン、ハンスト・座込み支援カンパや支援行動にご協力ください。

*1月27日午後、国土交通省要請・JR九州・四国申入れ行動を予定しています。

スタート集会 1月26日(木)18:30~ 日本弁護士会館1002号会議室
集約集会   2月17日(金)18:30~ 未定

主催:JR不採用問題は終わっていない!元国労闘争団3人を応援する実行委員会(3人を応援する会)
【連絡先】佐久間 忠夫 090-5539-5955
【呼びかけ】むさん法律事務所(大口昭彦・長谷川直彦) 首都圏なかまユニオン 松原明(ビデオプレス)松岡宥二(運転者ネット)丹羽良子(解雇争議当該)三一書房労組 佐藤昭夫(弁護士)萩尾健太(弁護士) 他

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●決 意 表 明
2012年1月元鉄建訴訟原告団、元佐賀地区闘争団 猪俣 正秀

1987年の「分割・民営化」実施に伴い、組合間差別による国家的不当解雇が実施され、JRが発足した。その後3年間に及ぶ清算事業団から解雇された。「JR復帰・解雇撤回」を要求し、解雇された当事者・家族と支援者は、24年間のながきに渡って闘ってきた。当然、敵側も同じ年月を必要とした。誰某の責任でなく、その時点での力関係で判断せざるを得ない緊迫した水面下での情勢下にあっただろうと想定していた。鉄建原告、国労闘争団の一員として判断し、裁判上での和解のため「承諾書」に署名・捺印した。それはあくまで、私が求めてきた最も重要な「雇用」(JR九州・西日本)に関する「政治合意」を政府はJRに対して何ら具体的な指導と接触を明らかにしてこなかったのである。政府・当時の中曽根内閣が意識して行った不当労働行為は明らかにもかかわらず、JRに対する指導権限の活用も積極的になされていない。ただ単なる人道的立場での解決では済まされない国家的な不当労働行為である。政府は、公害や薬害問題等事件では、政府として解決してきた前例がある。そのことからすれば、JR不採用問題について「雇用ゼロ」の回答に対し、雇用要請がなされることへの期待権を政府として約束を破った、約束不履行と言える。

私たちが働き生活している社会構造の矛盾による失業者群の中で、労働者同士が対立しあい、賃金奴隷化し、人間らしさを奪われている。そういう意味でも、被解雇者である私としては、1047名問題を共に闘って頂いた仲間の皆さんへ、闘いの火種を継承するためにも、政府の違法行為である約束不履行に対し、政府、JR等へ責任追及することを宣言し、闘いの決意とする。

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本日の放射能測定値(臨時測定)

2012-01-24 21:18:14 | 福島原発事故に伴う放射能測定値
・計測年月日、時間
 2012年1月23日 午後7時00分~7時05分

・計測場所
 福島県 JR新白河駅西口(高原口)

・計測時の気象条件(晴/曇/雨/雪の別及び風向、風速)
 天気:曇
 風向・風速:北東 2m

・計測結果(単位:マイクロシーベルト/時)
(1)新白河駅西口バス停横の土壌地
  大気中(高さ100cm)   0.35
  土壌(高さ10cm)    -

(2)新白河駅西口駐車場
  大気中(高さ100cm)   0.45
  舗装路面(高さ10cm)  -

<測定結果についてのコメント>
昨日発生した地震を受けて臨時測定を行った。結果はご覧の通りで影響は出ていない。白河では、先週末から30cmの積雪となっており、測定場所(1)での放射線量が低くなっているのは積雪が1つの理由だと考えられる。

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【速報】福島県川内村で震度5弱

2012-01-23 21:26:33 | 気象・地震
先ほど、福島県川内村で震度5弱を観測する地震があった。福島県内で震度5弱以上を観測したのは、いわき市で震度5強を観測した昨年9月29日以来、4ヶ月ぶりである。この地震については、詳細がわかり次第追記する。

なお、この地震に伴い、明日、臨時に放射線量測定を実施する。ただし、測定は大気中(高さ100cm)のみとする予定である。

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【尼崎事故】無罪判決の一番の問題点は?

2012-01-23 21:10:16 | 鉄道・公共交通/安全問題
宝塚線脱線事故と無罪判決、一番の問題点は?(弁護士 猪野亨のブログ)

(1)国鉄分割民営化が生み出した営利企業としてのJRの企業体質がこの事故をもたらした、(2)国鉄分割民営化こそ構造改革の走りである、との猪野弁護士の見解に当ブログは全面的に同意する。これらのことは、当ブログと安全問題研究会もかねてから指摘してきた事実である。

しかしながら、結果責任に対する刑事罰ということに対しては、当ブログは猪野さんとは異なる見解を持っている。社会の公器である企業の経営者は、自分たちがこのような方針、戦略を採ったらどのような結果が起きるかをあらかじめ予想して行動しなければならない。経済活動と従業員の生活とを預かっている以上、それは当然のことだと思うのだが。

JR西日本は国鉄を(法的にではなく、実質的・道義的に)承継した企業としてこうした企業体質に対しても責任を負うべきである。現実的に国鉄は分割されJR各社となっている以上、国鉄末期に形作られた強権的な企業体質がもたらした事故の責任を、現在の枠組みの中でいかに償わせ、再発防止につなげていくかが検証されなければ建設的な議論にはならないだろう。

今、オリンパスなどいろんな企業でガバナンス(企業統治)のあり方が問われている。せっかくコンプライアンスや経理の適正化を目指して監査法人その他いろいろな内部統制を導入したのに、日本の企業は官僚と同様、結局何もかも骨抜きにしてしまった。もう一度企業統制を強化する方向で議論を始めるべきだ。

こうしたことを主張すると、企業擁護だかなんだか知らないが、「そんなことをすると誰も経営者のなり手がいなくなってしまう」というお決まりの反論がすぐに出てくる。こうした議論を吹っかけてくる輩に限って日本企業の実態を理解していない。

日本企業の問題点は、こうした輩の心配とは正反対のところにある。原発事故を起こして日本中を汚染させた東電は責任を問われる気配さえないし、20年間も粉飾決算を続け、問題を指摘した外国人取締役を追い出して責任も取らなかったオリンパスも結局、東証一部上場が維持され、経営者が生き延びそうな気配である。最近経営破たんしたコダック社がただちに上場廃止となった米国と比べても、日本がいかに経営者に甘いかよくわかるだろう。

誤解を恐れずいえば、当ブログは日本企業の経営者なんてサルでも務まると思っている。特に官公庁や大企業は、失敗した人から順に出世レースから脱落させる減点主義だから、失敗しないように何もしないで穴蔵に籠もり、会議では目立たないように可もなく不可もない意見を述べながらライバルが脱落するのを待っていれば年功序列で役員ポストが回ってくる。自分の在任中に何も起きないよう、部下には何もするなと指示し、不祥事が起きれば「部下が勝手にやりました」ととりあえずカメラの前で薄くなった頭を下げておけば国民・メディアは諺の通りに75日で忘れてくれて、責任を問われることもない。こんなだったら私だって明日から経営者をやりたいと思ってしまうほど楽な商売である。

こと日本企業の経営者に関する限り、「なり手がいなくなる」などという余計な心配はしなくていい。むしろ「誰でも務まるほどあらゆる法制度が彼らに対して甘すぎる」ことこそ日本企業をとりまく最大の問題なのだ。企業の内部統制というのは、経営者のなり手がいなくなるくらいでちょうどいいのである。

最近、日経ビジネスや週刊ダイヤモンドなどのビジネス誌を見ていると、こうした企業統治のあり方を真剣に憂う記事が増えてきている。一部の心ある経済人は強烈な危機感を抱いている。しかし、企業不祥事が起きてガバナンスのあり方が一時的に問われても、多くの経営者がなんとか自分たちだけは誰にも統制されることなく己の最大利益を追求できるようにしようと、小手先だけの改革でお茶を濁し、また同じことが繰り返されるというのが日本のこれまでの歴史だった。

日本の経営者の大部分は気付いていないであろうが、ガバナンス不在の日本企業は今、国際社会からも「ビジネスパートナーとして不適切な相手」との烙印を押されつつある。最近、日本企業の国際競争力が弱まっていると感じている人も増えていると思うが、国際競争力の低下はこうしたガバナンス不在の企業体質とも無縁ではない。意思決定は遅く、責任の所在は曖昧で、約束すらきちんと守らず、目の前で違法行為が行われていても見ないふりをして仲間と馴れ合う。こんな相手と一緒にビジネスをしたいと一体誰が思うだろうか。

JRも原発事故も、そしてオリンパスも根底に流れる問題は同じである。「誰が、どうやって企業を統制するか」が厳しく問われている。何から手をつけたらよいのかわからなくなるほどいろいろな問題が山積している現在の日本だが、2012年、何かひとつだけ最も重要な問題に集中的に取り組まなければならないとしたら、まさに企業統治のあり方ではないだろうか。

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