安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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福島第1原発事故で検察審査会が起訴議決、勝俣元社長ら強制起訴へ

2015-07-31 22:34:57 | 原発問題/一般
すでに各メディアで報じられているとおり、福島原発告訴団による2012年の告訴・告発を受け、その後の東京地検による不起訴処分の是非を巡って審査を続けてきた東京第5検察審査会が、7月31日、勝俣恒久元社長、武黒一郎元フェロー、武藤栄元副社長の旧東京電力経営陣3名について、起訴すべきとの2回目の議決をしたことを公表しました。(サムネイル写真=検察審査会掲示板に貼り出された議決書)

これにより、3人の元東電役員は、裁判所が指定する検察官役の弁護士によって、業務上過失致死傷罪で強制起訴され、刑事裁判が始まることになります。

この決定は、「これほどの大事故を起こし、社会的影響を及ぼしながら、誰ひとりとして裁かれず、責任もとらないのはおかしい」として、刑事処分を求める活動を続けてきた福島原発告訴団と市民の巨大な勝利であり、2012年6月の第1次告訴から福島原発告訴団に加わってきた当ブログ管理人にとっても大きな喜びです。

以下、福島原発告訴団の団長声明です。(福島原発告訴団サイトより:検察審査会の議決書もこちらからダウンロードできます)

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起訴議決を受けての団長声明

2015年7月31日
福島原発告訴団 団長 武藤類子

 私たち福島原発告訴団が2012年に14,716人で行った告訴・告発事件について、東京第五検察審査会は本日7月31日、被疑者勝俣恒久、武黒一郎、武藤栄の3名について起訴議決としたことを発表し、3名は強制起訴されることとなりました。

 未だに11万人の避難者が自宅に戻ることができないでいるほどの甚大な被害を引き起こした原発事故。その刑事責任を問う裁判が開かれることを怒りと悲しみの中で切望してきた私たち被害者は、「ようやくここまで来た」という思いの中にいます。

 この間、東電が大津波を予見していながら対策を怠ってきた事実が、次々に明らかになってきています。これらの証拠の数々をもってすれば、元幹部らの罪は明らかです。国民の代表である検察審査会の審査員の方々は、検察庁が不起訴とした処分は間違いであったと断じ、きちんと罪を問うべきだと判断したのです。今後、刑事裁判の中で事故の真実が明らかにされ、正当な裁きが下されることと信じています。

 福島原発告訴団は、この事件のほかにも汚染水告発事件、2015年告訴事件によって原発事故の刑事責任を追及しています。事故を引き起こした者の刑事責任を問うことは、同じ悲劇が二度と繰り返されないよう未然に防ぐことや、私たちの命や健康が脅かされることなく当たり前に暮らす社会をつくることに繋がります。その実現のために、私たちは力を尽くしていきます。これからも変わらず暖かいご支援をどうぞ宜しくお願い致します。

写真=検察審査会掲示板の前で、議決書を確認する報道陣

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今も昔も嘘、デマ、ペテンの自民党~国鉄「改革」詐欺の証拠

2015-07-26 21:27:10 | 鉄道・公共交通/交通政策
フェイスブックで話題になり、私の元にも回ってきた画像をご紹介する。



国鉄分割民営化が狙われていた1985~86年頃の新聞に掲載された自民党の意見広告だ。これを見ると、自民党というのはいつの時代もウソ、デマ、ペテンしか言っていないことがわかる。こんな政党が、なぜ60年も1党支配を続けているのか。日本人はそろそろ決起すべきではないか。

検証するのも面倒だが、後世のために検証しておこう。

・全国画一からローカル優先のサービスに徹します。

→ウソ。ローカル線は廃止され、残った路線も収支は悪化の一途をたどっている。どこの地方に行っても割引の恩恵にあずかれた国鉄時代の周遊券はなくなり、トクトクきっぷは地方から東京に行く人向けのものばかりになった。

・明るく、親切な窓口に変身します。

→一部ウソ。駅員の言葉遣いは丁寧になったが業務知識のない係員が増え、待たされることが多くなった。国鉄時代から生き残ったベテランは、業務知識は豊富だが、言葉遣いが丁寧だったのは民営化後の数年間だけで、今はまた客にタメ口を利いている。

・楽しい旅行をつぎつぎと企画します。

→デスティネーションキャンペーンなどは次々企画されているが、JR社員が自ら参加する「自爆営業」も数知れず。

・会社間をまたがっても乗りかえもなく、不便になりません。運賃も高くなりません。

→見え透いたウソをつくな! 熱海、米原などではほとんどの列車が乗りかえ。運賃も、九州、四国、北海道では値上げされた。

・ブルートレインなど長距離列車もなくなりません。

→ふーん(棒)。

・ローカル線(特定地方交通線以外)もなくなりません。

→ふーん(棒)。

インターネット民もテレビも、日本人は民主党政権の3年間に、いくら彼らが公約破りをしてきたかばかりにこだわっているが、60年間ウソばかりつき続けてきた自民党に比べれば民主党政権のウソなんておままごとレベルでかわいいものだ。それだけ政権交代への期待が大きかったことの裏返しともいえる。

逆に言えば、自民党が60年間、これだけウソをつき続けているのに政権を追われないのは期待されていないからだろう。自民党なんて所詮この程度のサギ集団、得体の知れない新しい悪を迎え入れるくらいなら、60年間慣れ親しんだサギ集団の方がましという日本人の深層心理を表しているような気がする。

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ついにJR北海道崩壊が始まった~「選択と集中」提言で噴出する赤字ローカル線問題

2015-07-25 22:23:11 | 鉄道・公共交通/交通政策
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2015年8月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 国鉄分割民営化とJR発足から28年が経過した。国交省・JRグループが弥縫策を積み重ね、民営6社体制の矛盾をなんとか覆い隠そうとする中で、2013年、JR北海道で積年の矛盾が一気に噴出するように安全問題が顕在化。相次ぐ脱線・発煙事故、衝撃的な元社長2人の自殺、そしてJR会社法(旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律)に基づく史上初の「監督命令」と続いてきたJR北海道の崩壊がとうとう始まった。今度はローカル線廃止問題が急浮上したのだ。

 きっかけは、去る6月26日、JR北海道内に設置された「JR北海道再生推進会議」(以下「再生会議」)が島田修JR北海道社長に対して行った提言だった。再生会議は、JR北海道に監督命令が出された後の昨年6月に8人の社外有識者(注1)を集めて設置されたもので、1年間にわたってJR北海道「再生」のための検討を続けてきた。その検討結果をまとめたものが、「JR北海道再生のための提言書」と題されたA4版で34ページの文書(以下「提言」)である(注2)。

 ●JRの怠慢棚に上げ「選択と集中」提言

 予想されてはいたことだが、提言はJR北海道に対し、「事業範囲の選択と集中」を進めるよう求めた。路線名の明示こそ避けたものの「鉄道特性を発揮できない線区の廃止を含めた見直し」を進めるべきである、とした。「選択と集中」が、不採算部門を切り捨てる際に民間企業が用いる常套句であることに注意する必要がある。

 この提言の発表とタイミングを合わせるように、JR北海道幹部が留萌本線沿線自治体と「非公式に接触」し、同線の部分廃止〔留萌~増毛、16.7km〕をほのめかしていることが「北海道新聞」により報道された(6/27)。同紙の報道その他の情報を総合すれば、JR北海道が廃止を検討している路線は留萌本線のほか、日高本線〔146.5km〕、札沼線〔北海道医療大学~新十津川、47.6km〕、石勝線〔新夕張~夕張、16.1km〕、根室本線〔滝川~富良野、54.6km〕。廃止が検討されている5路線・区間の営業キロの合計は281.5kmで、JR北海道全体〔2,499.8km〕の11%にも及ぶ。

 『国鉄最後の時期にJR北海道は経営が厳しいだろうということで新しい設備を大量に入れた。そのため、会社発足当初はメンテナンスの必要があまりなく、これまで対前年主義の予算措置で設備投資や修繕を行ってきたことに問題があった』(注3)。再生会議の中で、JR北海道は設備の修繕について、みずから委員に向けこのように説明している。

 線路や駅などの設備には、古くなればなるほど維持費がかかり、また列車本数の繁閑によって路線・区間ごとに老朽化の度合いには当然、差がつく。それにもかかわらず、JR北海道は、路線・区間ごとに設備の老朽化の実情を点検し、メリハリのきいた維持費の配分を行うなどのきめ細かな対応をせず、対前年主義によって修繕費の配分を決めるなど、官僚主義的な対処を続けたことをみずから告白しているのだ。

 そもそもJRでは、公社制度が採られていた旧国鉄時代から企業会計制度が導入されていた。設備、車両などほぼすべての資産に減価償却の考え方が取り入れられていたから、資産は老朽化すればするほど帳簿上の価値が低下し、民間企業でいう利益が増える仕組みだった。JRになってからもこの仕組みは維持されており、設備の老朽化によって増える利益を計画的に維持費、修繕費に充てる体制を構築していなければならなかった。しかし、JR北海道は、激化する航空機や高速バスとの競争の中で、ほとんどの費用を高速化に充ててしまい、安全投資や路線維持に注意を払わなかった(『高速道路網の道内整備計画に対抗するため、限られた財源を都市間高速事業に重点配分したこと等により、結果的に今日の老朽設備の更新不足を招くこととなった』との会社側の発言(注4)もある)。

 こうしたJR北海道の発言は、他の議題と同列に並べる形で、議事概要の隅にこっそりと記載されるようなものではなく、まさにJR北海道自身がやるべきことをきちんとやってこなかったという重大な「告白」である。

 2013年に安全が崩壊して以降、JR北海道が安全・修繕投資に要する経費として2600億円が見込まれる中で、再生会議は「限られた経営資源をまず安全に集中させ、配分できない事業分野については見直しを行う選択と集中」が必要と主張する。しかし、JR北海道みずから説明しているように、現在の安全崩壊の原因が会社側の怠慢にあることは明らかだ。それにもかかわらず、今になって「金がないから安全か路線維持かの二者択一だ」と沿線地域・住民に迫るJR北海道のやり方は、安全神話にどっぷり浸かったあげく、福島原発事故が起きるとみずからの怠慢を棚に上げ「料金値上げか原発再稼働か」と迫る電力会社と同じであり、断じて容認できない。

 ●地域社会に不利益押しつけ

 7月に入ると、JR北海道は「経費節減」を理由として、芦別、赤平(いずれも根室本線)、鷲別(室蘭市・室蘭本線)の3駅の無人化(10月予定)を突然提起してきた(ちなみに芦別・赤平の両駅は、北海道新聞が「廃止を検討」と報じた根室本線・滝川~富良野間にある)。これとは別に、JR北海道が金華(かねはな、石北本線)、小幌(室蘭本線)の両駅について廃止の意向を持っていることも報道された。地元自治体との合意はおろか事前協議もなく、赤字を理由に一方的に路線や駅の廃止、無人化が打ち出される状況は国鉄末期より悪い。国鉄末期には、廃止対象路線ごとに地元との協議の場として「特定地方交通線対策協議会」が設置されていたからである。

 路線ももちろんだが、駅とはそんなに軽々しく廃止や無人化が決められてよいものなのだろうか。そもそも、駅とは単に旅客が乗降するためだけの場所ではない。地域の拠点であり、顔であると同時に、鉄道側にとっては安全・安定輸送のための基地の役割も果たすものである。北陸新幹線(長野新幹線)東京~長野間が1997年に開業したとき、安中榛名駅は「全列車通過ではないか」「乗客はタヌキだけ」などと言われたが、それでもJRがここに駅を作った理由は、事故やトラブルが発生した際に、駅間距離があまりに離れていると回復作業に支障を来しかねないからである(実際、新幹線でも隣接する駅同士が100km以上離れている区間は日本には1カ所も存在せず、すべて「隣の駅は100km以内」にある。旧国鉄の規程には明文化されていなかったようだが、事故や災害の際に「復旧や救助活動のための拠点を置きやすいよう、駅間は100km以上離れないようにしている」との話を聞いた記憶がある)。駅とは緊急事態に係員が参集したり、資材を集めたりすることのできる拠点なのだ。

 1990年代前半だったと記憶するが、JR北海道が「利用者減」を理由に4つの駅を廃止したときの出来事だ。4駅のうち最も乗降客の少ない駅は1日の利用者数が乗車0.5人、降車0.3人との記録があった。2日間で1人乗り、3日間に1人降りる計算になる。さすがに駅としての機能を果たしていないと判断したJR北海道は、地元に「廃止の打診」をしようとしたが、打診すべき「地元」が存在しない、という信じられない過疎の駅だった。JR北海道は問題ないとして4駅を廃止した。

 ところが、その後問題が起きた。駅が廃止されたため、地元のお年寄りが列車で通院できなくなったのだ。このお年寄りは「週に1、2回列車に乗っていた」らしく、「乗車0.5人、降車0.3人」はこのお年寄りだった可能性もある。地元自治体はJR北海道に駅廃止の撤回を求めたがJRは応じず、結局、役場がこのお年寄りを病院まで送迎することで決着している。

 1日当たり利用客数が小数点以下の駅ですら、廃止すればこのような問題が起きる。ましてや路線廃止となれば、その影響は北海道内にとどまらず、日本経済全体への打撃となろう。北海道で生産された農産物の大部分は、JRの貨物列車を通じて「内地」(北海道から本州を指す用語)へ輸送されているからだ。各路線・区間の旅客輸送人員の問題とは分けて議論する必要がある。実際、再生会議でも『(北海道のJRの鉄道路線は)北海道で作った農産物等を全国に輸送する役割を持っているわけで、ある意味では国家的な経済の中にこの問題(貨物輸送問題)はある』との発言が委員から出ている(注5)。

 ●「日高線問題を考える会」開催

 このような中、6月27日、北海道新ひだか町内で「JR日高線問題を考える会」主催の集会が、安全問題研究会も参加して開催された。日高本線は、高波による土砂流出の影響で今年1月から不通に陥っており、復旧のめどは立っていない。JR北海道は、応急工事でもいいからとにかく復旧を急いでほしいとの沿線の要望には応えず「抜本的な高波対策として26億円の工事費が必要」として不通を続ける方針を崩していない。一方、沿線自治体・住民には「鉄道のない生活に沿線を慣れさせ、廃止に持って行くための“社会実験”ではないか」として、こうしたJR北海道の姿勢に対する不信が生まれつつある。

 集会では、当コラム筆者が講師を務め、(1)JR6分割体制の問題、(2)1987年、国鉄改革関連8法案の可決成立の際に参院で行われた「安全安定輸送の確保」を求めた国会決議が無視されたこと――等を指摘した上で、線路の維持管理部門をJRから分離し、国などの公共セクターに移す「上下分離」や再国有化を含めた抜本的改革の方向性を提起した。参加者は20名程度と小規模なものだったが、後半のグループ討議では、ローカル線活性化のため地元として取り組むべき課題や、路線維持・復旧のあり方について活発な討議が交わされた。

 今年5月14日の定例記者会見で、島田社長は「(日高線復旧の前提となる海岸保全工事費について)鉄道会社が本来負担すべきものか」との疑問を表明している。当研究会が見るところ、現状の大きな問題点は、鉄道が公共交通機関として国の政策の中にしっかりと位置づけられていないことにある。道路や空港が国や自治体の予算で建設され維持されているのに対し、鉄道は、建設はともかく維持や修繕のほとんどが鉄道会社に任せられていることはその象徴だ。同じ公共交通として、鉄道は道路・空港と同じスタートラインに立つことさえ許されておらず、あまりに不公平ではないか。

 当研究会は、2013年11月、参院議員を通じて提出した「JR北海道で発生した連続事故及び日本国有鉄道改革の見直しに関する質問主意書」で、次のように政府の見解を質している。

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 道路の維持管理は政府や地方公共団体などの公共セクターが実施しており、空港もほとんどが公共セクターによる維持管理が行われている。しかしながら、鉄道に関しては線路の維持管理は原則として鉄道事業者に委ねられている。同じ公共交通である以上、道路や空港と同様、鉄道線路の維持も国や地方公共団体により行われることが必要と考えるが、政府の見解を明らかにされたい。
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 これに対し、政府が閣議決定した答弁書の内容は以下の通りだった。

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 我が国の鉄道事業については、一般的に、鉄道事業者がその運営及び鉄道施設の維持管理等を一体として行っており、国土交通省としては、輸送の安全の確保等のため、鉄道事業者に対し、補助金等により支援を行っているところである。
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 この答弁書に示されているように、政府は「これまでもそうだったから」という以外にまともな回答を示せておらず、鉄道を公共交通として維持発展させていくという信念を持っているとはとても思えない。線路はおろか、護岸工事までなぜJRの負担で実施しなければならないのかという疑問を、島田社長でなくとも抱いて当然だろう。

 それと同時に、私たちが今後に向け乗り越えなければならない課題は、公共交通を重要な公共財的存在と位置づけ、沿線住民の合意があるものについては採算にかかわらず維持するというコンセンサスを作り上げることである。経済学上、鉄道は、共同消費性(注6)、排除性(注7)を持っており、道路や図書館などと同様「準公共財」に位置づけられる。そうした鉄道事業の特性をしっかりと社会に訴え、発信していくことが重要である。

 7月14日、日高本線の土砂流出箇所を視察した高橋はるみ北海道知事は、「早期復旧に向け国とJR北海道に働きかける」意向を表明した。今年春の統一地方選で、道政史上初の4選を果たした高橋知事に対しては「他の関係者に要望する、あるいは他の関係者の動向を見て判断すると繰り返すだけで、知事としての自身の考えが見えない」との批判も就任以来つきまとっており、道議会野党のみならず与党(自民・公明)の一部にも同様の声がある。当コラムとしても、道としてどのように対応するかが見えない高橋知事の姿勢にはもどかしさを禁じ得ないが、一方で道が主体的に復旧に動くと表明すれば、応分の費用負担を求められる可能性もあり、難しい舵取りを迫られていることも事実だろう。

 今後は、沿線住民と自治体の動向が鍵を握るとみられることから、日高本線沿線を中心に、廃止が検討されている他の路線・区間の沿線にも働きかけ、廃止に反対する住民運動体を立ち上げることが重要と考えられる。当研究会としても、このような動きに積極的に関わっていきたいと考えている。


※「JR日高線問題を考える会」主催の集会で、当研究会が報告に使用した資料(レジュメ)は、当研究会サイトで見ることができる。


注1)宮原耕治日本郵船会長を議長とし、高橋はるみ北海道知事や弁護士など7人の委員で構成。国土交通省から本田勝国土交通審議官、瀧口敬二鉄道局長がオブザーバーとして参加している。

注2)JR北海道サイト。提言の「別紙」もJR北海道サイト

注3)再生会議第1回会議(2014.6.12)議事概要

注4、注5)いずれも再生会議第2回会議(2014.7.3)議事概要

注6)1970年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、ポール・サミュエルソンが提唱したもの。ある人がその財やサービスを消費しても、別の人の消費可能分が減少しない性質を持つとき、これを「共同消費性を持つ」という。例えば、ある食料品を消費者Aが半分食べてしまった場合、別の消費者Bが食べることのできる量は半分に減少するから、食料品は共同消費性を持たないが、道路はこれと異なり、消費者Aがその半分を歩行したからといって、別の消費者Bが歩行できる分が半減するわけではないから、共同消費性を持っている。

注7)共同消費性と同様、サミュエルソンによるもの。使用料を設けることによって、その支払を行わない者を使用から排除できる性質を持つとき、その財やサービスが「排除性を持つ」という。例えば美術館などの公共施設はこれにあたる。一方、警察・消防・防衛などの公共サービスは、使用料を設定し、これを支払わない者を排除することが不可能であることから、排除性を持たないとされる。なお、共同消費性・排除性を根拠に財を公共財、準公共財、価値財、その他に分類するサミュエルソンの考え方に対しては、反新自由主義派の宇沢弘文などによる有力な批判がある。

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【転載記事】「戦争法案」強行採決に抗議する各団体声明(その2)

2015-07-17 22:28:02 | その他社会・時事
政府・与党が行った戦争法案強行採決に関する各団体の抗議声明を、昨日に引き続きご紹介する。

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<日本ペンクラブ声明>

日本ペンクラブ声明 「本日の衆議院特別委員会での強行採決に抗議する」

 日本ペンクラブは、本日、衆議院特別委員会で強行採決された、安全保障法案に強く抗議し、全ての廃案を求める。

 集団的自衛権の行使が日本国憲法に違反することは自明である。私たちは、戦争にあくまでも反対する。

 2015年7月15日
 一般社団法人日本ペンクラブ
 会長 浅田次郎
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<日本弁護士連合会(日弁連)決議>

安全保障法制改定法案に反対し、衆議院本会議における採決の強行に抗議する理事会決議

本日、衆議院本会議において、平和安全法制整備法案及び国際平和支援法案(以下併せて「本法案」という。)の採決が強行され、可決された。

当連合会は、本法案が、集団的自衛権行使の容認をはじめ、その多くの内容において、日本国憲法が定める立憲主義の基本理念、恒久平和主義及び国民主権の基本原理に違反していることを繰り返し指摘し、反対してきた。

本年6月4日の衆議院憲法審査会における与党推薦者を含む参考人3名の憲法学者の指摘が契機となり、これまでの国会審議を通じて、本法案の違憲性が一層明らかになりつつある。また、報道機関の世論調査においても、国会における政府の説明は不十分であり、今国会での成立に反対であるとの意見が多数を占めている。

本法案は、戦後70年間維持してきた平和国家としての日本の国の在り方を根本から変えてしまう内容であり、これまでの審議時間を踏まえてもなお、更に十分な説明と徹底した議論が必要不可欠である。本日、衆議院において採決が強行されたことは、世論調査にも示されている民意を踏みにじるものであり、到底容認できない。

よって、当連合会は、本法案の採決の強行に対し強く抗議するとともに、本法案が成立することのないよう、今後も引き続き、国民と共に全力を挙げて取り組む所存である。

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【転載記事】「戦争法案」強行採決に抗議する各団体声明(その1)

2015-07-16 22:00:39 | その他社会・時事
政府・与党は、昨日の衆院安保法制特別委員会に続き、今日は衆院本会議でも、野党側退席の中で「戦争法案」採決を強行した。当ブログは、憲法も国民主権も立憲主義もすべて破壊する安倍政権によるこの暴挙に対し、最大級の怒りを持って抗議し、厳しく糾弾する。その上で、安倍政権を打倒するまで、たとえ何十万年かかっても闘い抜くことを宣言する。

なお、この強行採決に対する各団体の抗議声明をご紹介する。

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<全労連の声明>戦争法案の強行採決を糾弾し、廃案を求める声明

 安倍政権と与党は本日、国民の強い反対の声を無視して、戦争法案(安保法案)の衆議院本会議採決を強行した。一片の道理もない暴挙であり、とうてい許されない。

 全労連はこの暴挙を厳しく糾弾するとともに、組織の総力をあげて運動と共同をいっそう強化し、最悪の違憲法案である戦争法案の廃案を勝ちとる決意である。

 安倍政権と与党は「委員会審議が100時間を超えた」などと、審議が尽くされたかのようにいうが、安倍首相や両大臣の答弁は二転三転し、あるいは具体的な説明を欠き、審議がたびたび中断するなど、その論拠は総崩れとなっている。

 審議がすすめばすすむほど、国民の懸念や反対意見が深まっていることは、各種世論調査が示すとおりであり、安倍首相も「国民の理解がすすんでいる状況ではない」と答弁した(7月15日、衆院安保特別委員会)。

 憲法を真っ向から蹂躙し、日本をアメリカなどと一緒に海外で戦争する国につくり変える最悪の違憲法案であることが、国民多数の共通認識になりつつある。

 違憲の法案は撤回・廃案しかあり得ない。それが民意である。

 全労連はこの間、憲法共同センターや総がかり行動実行委員会の一翼を担い、戦争法案の廃案を求めて全力でとりくんできた。共同の輪が大きくひろがり、国会はいま、連日のように草の根の市民に包囲されている。全国で連鎖的な集会や行動が沸き起こっている。

 SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)をはじめ、若者の自発的な行動が全国各地に大きくひろがり、その鮮烈な訴えが人々の心を揺り動かしている。「安全保障関連法案に反対する学者の会」のアピールへの研究者の賛同が短期間に1万人を超え、多くの学者・研究者が国会前行動やデモに繰り出している。安保闘争以来といわれるような状況が現実につくられつつある。

 こうしたもとでの強行採決は、追い詰められた安倍政権が60日ルールにしがみつき、何としても今国会での成立をはかろうというあがきにほかならない。行動の輪をさらにひろげ、圧倒的な世論で安倍政権と与党を立往生させることがいま求められている。

 問われているのは、この国のあり方、日本社会の未来そのものである。全労連幹事会は、すべての組合員と家族、国民のみなさんに、今を生きるものとして戦争法案を廃案に追いこむ悔いなき行動を心から呼びかける。

 ・強行採決への怒りを胸に、直ちに街頭に繰り出し、戦争法案NOの声で列島騒然という状況をつくりだそう。

 ・連日とりくまれている総がかり行動実行委員会などの国会行動に、これまで以上の結集をつくりだし、怒りの唱和で安倍政権を包囲しよう。

 ・「安倍政権NO!0724大行動」と総がかり行動実行員会の「7・26国会包囲」を当面する最大の結節点に位置づけ、これまでの規模をさらに大きく上回る空前の参加者で国会と官邸を何重にも大包囲し、安倍政権を立往生させよう。

 ・「戦争法案を廃案に追いこむために、やれること、やるべきことをすべてやりきろう」という議論を職場や地域で巻き起こし、みんなで行動を具体化しよう。

 2015年7月16日
 全国労働組合総連合・第8回幹事会

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<日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)の声明>

MIC声明「世論無視の強行採決に強く抗議する」

2015年7月15日
日本マスコミ文化情報労組会議
議長 新崎 盛吾

自民、公明両党が15日の衆院特別委員会で、自衛隊の海外活動拡大を可能にする安全保障関連法案(戦争法案)の強行採決に踏み切ったことに、日本マスコミ文化情報労組会議は「平和を願う国民の声を無視した暴挙だ」として、強く抗議する。

法案は、衆院憲法審査会に自民党推薦で出席した学者や内閣法制局長官経験者までが「憲法違反」と指摘し、さまざまな立場から「廃案にすべきだ」「慎重な審議が必要」などと、与党側の拙速な対応を疑問視する声が上がっている。審議が進むにつれて法案の曖昧さが浮き彫りになり、閣僚の間で見解や答弁が食い違うケースもたびたび見られた。憲法学者に「違憲」と指摘されれば「合憲という学者もいっぱいいる」と答え、「合憲とする学者の名前をいっぱい挙げて」と言われて3人しか挙げられなかったのに「数の問題ではない」と言い訳するありさまは、まるで下手な漫才か茶番劇を見ているかのようだった。

新聞やテレビ各社の世論調査では、法案への「反対」が「賛成」を圧倒的に上回り、安倍晋三内閣の支持率も審議時間と反比例するかのように落ち込み、ついには不支持率が支持率を上回るまでになった。審議時間を重ねてアリバイ作りをしただけで数の論理を押し通した強行採決は、「十分な説明が尽くされていない」との国民の疑問にまったく耳を傾けず、「戦争ができる国づくり」に盲進する愚行だ。安倍首相が米議会で表明した対米公約を果たすためならば、沖縄・辺野古への新基地建設と同様、対米従属の政治姿勢をあらわにしたともいえるだろう。

さらに看過できないのは、自民党若手議員の勉強会(文化芸術懇話会)に講師として出席した作家の百田尚樹氏が「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」と主張し、参加した議員から「マスコミを懲らしめるべきだ」などと、報道の自由を軽視した発言が相次いだことだ。民主主義の根幹の一つである報道の自由、言論・表現の自由を全く理解せず、上から目線で世論操作を図ろうとする議員の資質は問題にせざるを得ない。

私たちメディアに関わる者は、権力による言論封殺につながる動きを許さず、平和と民主主義を守るために、今後も憲法違反の「戦争法案」に反対の声を上げ、廃案を目指して運動を続けていく。

日本マスコミ文化情報労組会議:新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘

広告労協、音楽ユニオン、電算労

この件に関する問い合わせはMIC事務局・山下(070-5010-7156)までお願いします。

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最近の地震について

2015-07-13 19:15:33 | 気象・地震
先日の岩手県沿岸北部地震の解説記事も書かないうちに、今度は大分県で震度5強を記録する地震があった。ここでまとめて解説する。

平成27年7月10日03時33分頃の岩手県沿岸北部の地震について(気象庁報道発表)

この地震自体は、M5.7とそれほど規模が大きくないが、気味悪いのは、この地震に連動するように東日本大震災の震源を挟んだ栃木県でも震度4の地震があったことだ。

今年2月にも、東日本大震災の震源の三陸沖と岩手で、同じ日に連続して地震が起きているので十分注意してほしい。

平成27年7月13日02時52分頃の大分県南部の地震について(気象庁報道発表)

そして、今日未明の地震。大分県と聞いて、珍しいと思った方もいるかもしれない。だが、今回の震源地は中央構造線のやや南で、地震の回数自体は多くないものの、大きな地震は比較的起きやすい場所である。

この中央構造線も、3.11後は活動が明らかに活発化しており、和歌山県南部など、局地的に地震が明らかに増えた地域もある。この中央構造線のほぼ真上にあるのが、伊方、川内の両原発だ。安倍政権は、よりによってその川内を再稼働のトップバッターにしようとしており、8月にも再稼働の方向と言われる。ここまで来ても原発が安全と思える安倍首相の頭の中が私には全くわからない。

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【転載記事】ギリシャ国民投票:反対票のみごとな勝利

2015-07-07 22:44:10 | その他社会・時事
EUから求められた財政緊縮策に、圧倒的大差でノーの民意を突きつけたギリシャ国民投票。この国民投票は、ギリシャ国内において与党・急進左翼連合(SYLIZA)の政治的立場を強化したものの、ギリシャ国民の経済的苦境を直ちに解消することにはならないだろう。

それでも、グローバリズム推進の立場の大手メディアが繰り出す「賛成しなければギリシャが破綻する」との脅しをはねのけ、ギリシャ国民が自分たちのこれからの生き方を、民主主義に基づいて、主体的に決めたことには大きな意義がある。進むも地獄、退くも地獄なら、せめて誇りある生き方を選びたいと、反対票を投じたギリシャ国民の気持ちを、当ブログはよく理解できる。

この国民投票に対する反グローバリズム団体、アタック・ジャパンの声明をご紹介する。

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エリック・トゥサン

ギリシャ公的債務真実委員会の科学コーディネーター
CADTM[第三世界債務帳消し委員会]国際ネットワーク代表世話人

 「反対」票のすばらしい歴史的な勝利は、ギリシャの市民が債権者からの恐喝を受け入れるのを再び拒否したことを示すものだ。ギリシャ議会が創設した公的債務真実委員会の予備的報告が示したように、不法であくどく正統性のない債務に対し、国家が一方的に支払いを猶予したり、拒絶したりすることを認める法的論拠が存在している。

 ギリシャのケースでは、こうした一方的行為は以下のような論拠に基づいている。

●国内法や、人権に関する国際的義務を違反するようギリシャに強制した債権者側の背信

●前政権が債権者やトロイカ(EU、欧州中央銀行、IMF)との間で調印したしたような協定に対する人権の優越

●その抑圧性

●ギリシャの主権や憲法を無法にも侵害する不公正な用語

●そして最後に、故意に財政的主権に損害を与え、あくどく不法で正当性のない債務を引き受けさせ、経済的自己決定権と基本的人権を侵害する債権者の不法行為に対して国家が対抗措置を取る、国際法で認められた権利

返済不可能な債務について言えば、すべての国家は例外的な状況において、重大で差し迫った危機に脅かされる基本的利害を守るために必要な措置に訴える権限を、法的に有しているのである。

こうした状況の中で、国家は未払い債務契約のような危険を増大させる国際的義務の履行を免除されうる。最後に諸国家は、不正な行為に関与せず、したがって責任を負わない場合には、自らの債務の支払いが持続不可能な時に一方的に破産を宣告する権利を持つのだ。

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【転載記事】「本当は津波対策が必要」と知っていた東京電力

2015-07-01 22:35:51 | 原発問題/一般
福島第1原発事故については、福島原発告訴団による粘り強い立証・責任追及活動が続いているが、このたび、東京電力が事故前から福島第1原発で「実際には津波対策が必要」と認識していたことを示す決定的な資料が見つかった。

この点について、ウェブマガジン「マガジン9」のサイトで、小石勝朗さんが詳しい解説記事を執筆している。長くなるが、全文を引用する。

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小石勝朗の「放浪記」第52回~「津波対策は不可避」と東京電力は認識していた

 「想定外」という言葉が流行のように語られたのは、2011年3月に福島第一原子力発電所で未曽有の事故が起きた後のことだった。「高さ15.5メートルの津波が原発を襲うとは到底予測できなかった」と釈明するために、東京電力がしきりに使っていた。自らへの責任追及をかわすための論法だった。

 しかし、2002年には政府の地震調査研究推進本部(推本)が、福島第一原発の沖合海域を含む三陸沖から房総沖の日本海溝沿いで「マグニチュード8級の津波地震が30年以内に20%の確率で起きる」との長期評価をまとめている。これをもとに事故の3年前に当の東電社内で、同原発を15.7メートルの津波が襲う可能性があるとの試算がなされ、08年6月には経営陣に報告されていたことがわかっている。

 それでも東電は「15.7メートル」について「あくまで試算であり、設計上の想定を変更するものではなかった」と詭弁ともとれる釈明を続けてきた。

 そんな中、東電が津波の危険を把握していたことを示す新たな「証拠」が出てきた。

 東電の社内会議で配られた内部文書である。事故の2年半前に作成されたその文書には「津波対策は不可避」とはっきり記されていた。福島第一原発に津波対策を講じなければならないという認識が、東電社内で共有されていたことを意味している。しかも、それは経営陣にも伝えられていた可能性が高く、原発事故の責任を追及するうえで重要な資料になりそうなのだ。

 この内部文書が明らかになったのは、東京地裁で係争中の「東電株主代表訴訟」である。東電の脱原発株主が勝俣恒久・元会長ら現・元の取締役27人を相手取り、原発事故で同社が被った損害を個人の財産で会社に賠償するよう求めている。請求額は、国内の訴訟で過去最高額の5兆5045億円。

 提訴から3年が経ち、被告の取締役が「津波による原発事故を予見できる可能性があったか」「事故を回避できる可能性があったか」をテーマに審理が続いている。ここに来て、取締役を支援するため訴訟に補助参加している東電が、裁判所の勧告に応じて証拠として提出したのが、その文書だった。

 で、原告弁護団は6月18日に開かれた口頭弁論で文書の概要を明らかにした。

 東電がこの文書を配ったのは、2008年9月10日に福島第一原発で開かれた「耐震バックチェック(安全性評価)説明会」だった。

 文書には、こういうくだりがあるのだ。

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「地震や津波に関する学識経験者のこれまでの見解や、推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると、現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され、津波対策は不可避」
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 当時の福島第一原発の津波想定は「5.7メートル」である。繰り返しになるが、15.7メートルの津波の試算が経営陣に報告されたのは、この会議の3カ月前だった。

 これに対して、東電はこの内部文書の「意味」を東京地裁に提出した準備書面でこう説明している。

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「当時の安全性評価や津波対策によって発電所の安全性は確保されているものの、安全性の積み増しという観点から、将来的に何らかの津波対策が必要となる可能性は否定できないという状況にあった」

「将来的に一定の津波対策を実施する場合には、発電所の職員らにも一定の作業負担がかかるなど、様々な影響が及ぶ可能性があることから、その旨を前もって伝えておくために記載された」

「この記載は、津波が現実的に襲来する危険性が存在するということを意味するものではなく、そもそも津波対策として特定の内容を前提としたものでもなかった」
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 内部文書は「今後の予定」として、津波評価の改訂を「2~3年間かけて検討する」と記し、それを受けて原発の「バックチェック(安全性評価)を実施」するとしている。「対策は不可避」と認めながら、すぐには取らないというのだ。

 実際、東電は翌年の09年2月に津波想定を「6.1メートル」に上げたものの、抜本的な津波対策には着手せず、同年6月に電力業界と関係が深い土木学会に津波評価の検討を委託しただけだった。しかも、検討の期限は「2012年3月」だった。

 原告弁護団によると、08年6月に15.7メートルの津波の試算を報告された東電上層部は、いったんは具体的な津波対策の立案を指示したそうだ。ところが、翌月には「推本の見解は採り入れず、従来の津波評価に基づいて原発の安全性評価を実施する」と方針を転換する。今回明らかになったのは、その2カ月後の文書だ。原告弁護団は「原発の運転を停めないために、不可避の対策を先送りしたことを自白している」と読み解いている。

 いずれにせよ、当時の東電の対応や、それについての説明には、納得しがたいものがある。従来の想定を10メートルも上回る津波の可能性が試算されたならば、何らかの対策を取ろうとするのが、危険な原発を運転する事業者の責務ではないだろうか。

 勝俣氏ら幹部3人を「起訴相当」とした昨年7月の検察審査会の議決は、分電盤の移設、小型発電機や水中ポンプの高台への設置、建屋の水密化、電源車の高台への配置、緊急時マニュアルの整備・訓練など、比較的時間のかからない対策を取っておけば「被害を回避し、少なくとも軽減することができた」と指摘。東電の対応は「時間稼ぎだったと言わざるを得ない」「対策にかかる費用や時間の観点から、津波高の数値をできるだけ下げたいという意向もうかがわれる」と言及していることを紹介しておく。

 さて、この内部文書をめぐる今後の焦点は、ここに書かれている内容を東電幹部が知っていたか、ということだろう。

 東電によると、文書が配布された会議には福島第一原発の小森明生所長が出席していた。小森氏は原発事故当時の常務で、株主代表訴訟の被告になっており、この訴訟で賠償責任を認定される可能性が高くなったと言えるかもしれない。

 東電は「この会議に(当時の)役員は出席していない」と説明している。だが、この文書の1枚目の「議事概要」には、津波に対する検討状況が「機微情報のため資料は回収、議事メモには記載しない」と記されている。原告弁護団は「機微情報とは、秘密性の高い情報という意味。であるなら東電の体質からしても、文書に示された認識が会社の最高幹部にただちに知らされ共有されたことは明らかだ」と主張している。

 取締役の個人責任を追及していくうえでは、個々の幹部にどんな報告がなされ、どんな指示があったかを、さらに具体的に解明する必要がある。

 東電が提出した文書には個人名などが隠されている箇所があるそうで、原告弁護団は原本の提示を求めている。同時に、文書の疑問点や不明点について、東電に説明を求める書面を裁判所に出している。事故の真相究明に不可欠という公益の要請に鑑みて、東電はこれらに真摯に応じるべきだ。また、関連する文書類があれば、積極的に裁判所に開示していくように望みたい。

 福島第一原発の事故では、あれだけ甚大な被害や影響を引き起こしながら、これまで誰も個人として民事・刑事上の責任を取っていない。「人災」とも指摘される事故であればこそ、誰に責任があったのかをはっきりさせ、相応の法的責任を負わせることは、社会の要請だろう。ましてや、そこを曖昧にしたままの「無責任態勢」で原発を再稼働させるのでは危険極まりない。

 事故の原因解明と責任追及がリンクして進むこの裁判の行方に、引き続き注目したい。

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