保守車両衝突 「命預かる責任あるか」 JR西、連日の謝罪 利用客「夏休み台無し」(毎日新聞)
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西日本の大動脈がストップした。山陽新幹線のトンネルで保守点検車両が22日未明に事故を起こし、JR西日本は新大阪-姫路間で始発から運転を見合わせた。同社では、仕事への不満から電車のヒューズを抜き取った疑いで車掌が大阪府警に逮捕されたばかり。JR西は会見して謝罪したが、駅で足止めされた利用客らは「仕事に間に合わない」などといらだちを募らせた。
◇運転士「砂煙で前見えず」
事故を受け、JR西日本は22日午前10時過ぎから大阪市北区の本社で緊急の記者会見を開いた。真野辰哉・鉄道本部新幹線統括部長は「夏休みに入って、多くの方がお出かけになるのに新幹線が走らない状況になり、大変申し訳ない」と深く頭を下げ、謝罪の言葉を繰り返したが、事故原因については「調査中」と述べるにとどまった。
真野統括部長らによると、夜間の保守作業では保守車両を効率的に動かすため、決められたダイヤに従って車両基地から複数の車両が集団で出発し、それぞれ別の場所で作業した後、所定の場所に集合して基地に戻る。今回事故現場となった須磨トンネルは集合場所で、追突された車両はほぼ時間通りトンネル内で作業を終えて待機していた。兵庫県警の調べに追突した車両の運転士が「砂煙で前方が見えなかった」と話していることについて、真野統括部長は「作業でレールの削りカスや土ぼこりが上がるのは通常のことだ」との見解を示した。
真野統括部長は保守車両の運行について、「安全確認はオペレーター(車両の運転士)の目視が基本」とした上で、各車両に衝突防止装置が設置されていることも説明した。「脱線車両が機材を積むなどして重く、クレーンで動かすことができないため、分断して運び出す必要がある」と撤去に時間がかかる理由を述べた。
JR西本社はこの日早朝から報道陣が詰めかけ、社員が対応に追われた。ある社員は「安全にかかわるトラブルが続けざまに起こり、世間に迷惑をかけてしまった。残念で仕方ない。再発防止策をしっかり考え、信頼回復に努めるしかない」と肩を落としていた。
◇各駅で怒りの声
運転見合わせとなったJR新神戸駅では、事故や運行状況を伝えるアナウンスが繰り返し放送され、午前7時ごろには利用客70~80人が切符売り場前などにあふれた。
夏休みで高知県に旅行するため、岡山まで乗車する予定という神戸市西区の会社員の男性(58)は「旅行の日程が変わってしまうかもしれない。ヒューズが抜き取られる事件もそうだが、JR西日本の安全面は大丈夫なのかと心配になる」と表情を曇らせた。
JR姫路駅では、岡山方面からの新幹線や大阪方面からの在来線が到着するごとに、乗り換える数百人の乗客で改札が混雑した。
仕事で広島から名古屋に向かう途中の男性会社員(30)は「在来線に乗り換えるべきか迷っている。仕事に支障が出るので早く復旧してほしい」。家族4人で東京に旅行に行く途中だった岡山市の女性(26)は「せっかくの旅行が台無し。ベビーカーがあるので、混雑しそうな在来線に乗り換えるのはためらってしまう」と話した。
JR新大阪駅の新幹線改札口では、運行状況を確かめるサラリーマンや家族連れが目立った。孫と宮崎に旅行に向かう大阪府寝屋川市の主婦、前田フヂ子さん(66)は「復旧見通しが立たないなら、飛行機に乗り換えようと思っている」と話し、JR西日本の車掌逮捕にも触れ「人の命を預かっている以上、責任を持ってちゃんとやってほしい」と話した。
JR博多駅の新幹線中央改札口には通勤客ら約20人が集まり、改札口前に張られた「復旧作業は正午ごろまでかかる見込み」と書かれた張り紙を不安そうに見つめていた。駅員に復旧のめどを問いただす男性客らの姿もあった。
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保守作業車の運行中の事故を、一般の営業車両と同列に論ずることはできない。営業車両は高速で、ATC(自動列車制御装置)の制御を受けて走るのに対し、保守作業車はATC制御を受けず、ほとんどが30km/時程度の低速で運転されるからだ。
運転速度が遅いこともあり、作業車の安全確認はほとんどが乗務員による目視で行われる。最高速度が40km/時以下に制限されている軌道線(路面電車等)で、目視による安全確認が認められていることから、このこと自体は事故に大きな影響を与えたとは考えられない。
別の新聞記事によれば、事故を起こした作業車には衝突防止用の安全装置が設置されていたが、作動しなかったという。このようなとき、現場ではどのような対応をすべきか?
2000年、英国で列車走行中に線路が破断し列車が脱線、乗客4名が死亡したハットフィールド事故では、その直前、保線作業でミスが起こり、レール運搬車からレールの積み卸しができない事態となった。線路保守に当たっていたレールトラック社は、保線作業を延期し、通常通り営業列車の運行を続けたが、延期後の保線作業が行われる前にレールが破断して事故が起きてしまった。
営業列車であれば、車両が故障した場合、執るべき措置については「故障車両は運転を中止。故障車両を除去するまで該当線区の運転を再開してはならない」が一般的な正解となる。だが、保守作業車の場合、事はそう単純ではなく、「保守作業を中止する」が必ずしも正解とはいえないことは、このハットフィールド事故の先例から明らかであろう。営業列車に事故が起こることを防止するため、保守作業の現場では、安全装置が作動しない場合でも、別の防護措置を講じた上で保守作業を続行しなければならないことのほうが現実には多いのである。
もちろん、保守作業車の安全装置の不具合を事前に察知できず、そのまま作業現場に投入したJR西日本の車両検査体制の見直しを要求する必要はあるだろう。しかし、事前検査で異常のなかった保守作業車に現場で急に不具合が発見されることもあり得る。そのような場合の対処法として、別の防護措置を講じた上で作業を続行させることは必ずしも間違いとはいえないのである。
むしろ、今回の事故の最大の問題点は、作業終了時の保守作業車の集合場所を長大トンネル内に設定したことにあると当ブログは考える。JR西日本の鉄道本部新幹線統括部長が、「作業でレールの削りカスや土ぼこりが上がるのは通常のことだ」と、なかば開き直りに近い会見をしているが、新幹線運行部門トップの要職を占める幹部がそこまで実態を認識していながら、空気の対流がなく、レールの削りかすや土ぼこりが充満しやすいトンネル内に集合場所を設定するのは、いったいどういうことなのか。
これは、安全装置が故障している場面において「別の防護措置」、具体的に言えば作業員の目視による安全確認が機能しないような状況をJR西日本みずからが作り出してしまったという意味において、今回の事故の決定的な原因といえる。ことに、「レールの削りかすや土ぼこりが充満しやすい」という保守作業の現場実態を知っていながら、トンネル内に保守作業車の集合場所を設定するような作業計画に、最終的なゴーサインを出した新幹線統括部長の責任は免れないといえよう。
JR西日本は、今後、少なくとも作業開始時および終了時における保守作業車の集合場所がトンネル内となるような作業が計画されているなら見直すべきだし、そのような作業計画はそもそも策定すべきでない。保守作業は、営業列車以上に「待ったなし」の改善が求められるだけに、JR西日本は、作業車の集合場所、配置場所や目視による安全確認がきちんと機能し得るような視界確保対策を直ちに行わなければならない。