人生チャレンジ20000km~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

今年も1年、お世話になりました。

2017-12-31 21:18:52 | 日記
今年も残り数時間となりました。当ブログ管理人は携帯回線を使ってインターネットにアクセスしており、年越し前後は回線が混雑するおそれもありますので、少し早いですがここでご挨拶を申し上げます。

内外ともに激動の2017年も終わろうとしています。トランプ政権が発足し、国際情勢はかつてなく不透明さを増した1年でした。当ブログ管理人にとっては、JR北海道のローカル線問題に全精力を集中させた年でした。しかし事態は膠着状態のまま動かず、昨年末とほとんど変わらない状態で2018年を迎えます。来年も、基本的に大きな動きはないものと予想しており、当ブログ管理人は、長期戦を見据えています。

原発に関する問題も、当時に膠着状態のまま長期戦となるでしょう。安倍政権の原発再稼働をめざす動きと、市民を中心に原発停止、廃炉を目指す動きのせめぎあいが続くと思います。

JR、原発いずれも当ブログ管理人は今まで同様、ぶれずに闘い抜く決意です。

米朝両国は核の力を背景ににらみ合ったまま緊張は新しい年に持ち越します。2018年は、年明け早々、米朝の政治的、軍事的緊張が緩和に向かうか衝突に向かうかの分岐点を迎えるでしょう。良い方向に進むよう、市民の立場でできる努力を続けるしかありません。

当ブログ管理人は、今年は2年ぶりに実家に帰省しており、帰省先で新年を迎えます。年末年始はお酒の誘惑も多い時期ですが、断酒の誓いを立てた私は一滴もお酒を口にせずに過ごしています。入院前、あれほど飲んでいたアルコールに、ほぼ未練はありません。

では、みなさま、よいお年をお迎えください。

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2017年 当ブログ・安全問題研究会10大ニュース

2017-12-30 15:42:54 | その他社会・時事
さて、2017年も残すところあとわずかとなった。例年通り今年も「当ブログ・安全問題研究会 2017年10大ニュース」を発表する。

選考基準は、2017年中に起きた出来事であること。当ブログで取り上げていないニュースも含むが、「原稿アーカイブ」「書評・本の紹介」「インターネット小説」「日記」「福島原発事故に伴う放射能測定値」「運営方針・お知らせ」カテゴリからは原則として選定しないものとする。

1位 北朝鮮の核開発が「新段階」に移行、核危機が進行する一方で核兵器禁止条約が採択、ICANがノーベル平和賞<社会・時事>

2位 「のぞみ」の台車に破断寸前の大亀裂、新幹線初の重大インシデント。東急電鉄の渋谷地下線区間でトラブルが相次ぐなど鉄道安全非常事態<鉄道・公共交通安全問題>

3位 リニア建設工事で入札談合、大手ゼネコン4社が東京地検の捜査を受ける<鉄道・公共交通政策>

4位 伊方原発差し止め訴訟で広島高裁が運転差し止め命令。高裁では初、火山を理由とするものとしても初の画期的決定<原発問題>

5位 福島原発事故めぐる民事訴訟で前橋、千葉、福島(生業訴訟)いずれも東電に賠償命令、国の責任は前橋、福島で認定。強制起訴された勝俣恒久元東電会長ら3被告の刑事裁判も始まる<原発問題>

6位 米国トランプ政権発足。「米国第一」主義強まり国際社会に波乱要因も<社会・時事>

7位 東京都議選で自民惨敗、小池都知事率いる「都民ファースト」躍進も秋の衆院解散総選挙では与党が3分の2維持。安倍政権の目指す改憲案の取りまとめは越年へ<社会・時事>

8位 JR北海道の赤字路線問題、進展せず。「北海道の鉄道の再生と地域の発展を目指す全道連絡会」が設立され市民レベルで路線維持への動きも<鉄道・公共交通政策>

9位 日本原子力研究開発機構大洗研究開発センターで「国内最悪の内部被曝」事故発生<原発問題>

10位 何度も廃案を繰り返してきたいわゆる「共謀罪法」が強行採決により成立。市民監視体制への不安高まる<社会・時事>

【番外編】
・水樹奈々さん、自身初のミュージカル「ビューティフル」で主演務める<芸能・スポーツ>

・当ブログ管理人、11月に北海道日高町講演で講師を務めるなど引き続きJR北海道路線廃止反対の取り組み強化<鉄道・公共交通政策>

・当ブログ管理人、断酒を宣言

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改めて振り返ってみると、トランプ政権発足と北朝鮮の核・ミサイル開発の急激な進展によって米朝関係の危機がかつてなく高まった1年だった。国内では、安倍政権の反動・反市民ぶりが際立っているにもかかわらず、政府与党の勢力を減らすこともできない野党側の分裂・無策ぶりが浮き彫りになった1年だった。

また、JRでローカル線、安全、リニアどの面をとっても問題噴出が目立ち、民営7社体制の見直しが不可避の危機的局面に来ていることをはっきりと示した。来年以降、JRグループを中心に、日本の鉄道政策全体の危機はさらに深刻化するとともに、当ブログと安全問題研究会に課せられる役割はますます大きくなるだろうと思っている。

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2017年 鉄道全線完乗達成状況まとめ

2017-12-30 15:29:39 | 鉄道・公共交通/趣味の話題
さて、年内に鉄道の未乗区間に乗車する予定はないので、ここで例年通り今年の鉄道全線完乗達成状況をまとめる。

1)完乗達成路線

【4月】可部線(奪還)
【8月】相模鉄道本線、いずみ野線

2)完乗記録を喪失した路線……該当なし

達成は2社3線。現廃新の別では、現路線2の他、可部線については新規開業線に含めるべきか、延長開業区間の奪還に含めるべきか迷ったが、ここでは一応奪還に含めておく。過去乗車した路線がいったん廃止となった後、復活した区間への再乗車である。今年の新年目標では、5線以上を目標としていたが、昨年同様、達成は難しいと思っていた。2年連続、未達成である。

昨年に引き続き、日帰り圏内に完乗達成可能な路線がないことを考慮すると、やむを得ないと思っている。なお、2018年の新年目標は、改めて年明けに発表する。

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今年を象徴する漢字は「核」 朝鮮半島危機と核兵器禁止条約が同時進行した2017年 来年は分水嶺に?

2017-12-25 22:04:54 | その他社会・時事
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2018年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 歳月の流れは速いものだ。新年早々、トランプ大統領が就任したのはついこの間のことだと思っていたのに、この号がお手元に届く頃には2018年の足音が聞こえていると思う。

 毎年この時期の恒例行事に「今年の漢字」がある。日本漢字能力検定協会が市民から募集した投票において、その年を象徴する漢字として1位となったものを京都・清水寺の森清範・貫主が揮毫するというものだ。

 その漢字に2017年は「北」が選ばれた。確かに、「北朝鮮」とその最高指導者・金正恩朝鮮労働党委員長の動向に世界が翻弄された1年ではあったように思う。しかし、そもそも朝鮮民主主義人民共和国の国名に「北」の文字は使われていないし、朝鮮政府もみずからを北朝鮮とは自称していない。南北「赤化統一」の野望も捨てていないし「北朝鮮」の呼称が通用するのも日本だけだ。いかにも内向きの論理で選ばれた「今年の漢字」だと思うが、そもそも日本の民間団体が国内向けのイベント兼パフォーマンスとして実施しているに過ぎないものにいちいち目くじらを立てるのも大人げないと言うべきであろう。

 朝鮮がどのような国であり、その指導者・金正恩が何をめざしているかについては、本誌先々月号(11月号)で詳しく分析しており、今号で改めて繰り返すことはしない。興味を覚えた向きは11月号を参照していただきたいが、朝鮮は、故・金日成主席の時代から一貫して核・ミサイル開発を志向しており、建国以来、天才少年少女を幼少時から選抜して特別待遇を与え、特別教育を施しては核・ミサイル開発に従事させてきた。その長年の「努力」の結実が現在のミサイル「乱射」状況につながっており、金日成主席時代から長年のウォッチャーとしてこの国を見つめ続けてきた筆者にとって驚くには値しない。要するにこの国は、指導者が「偉大な建国の父」から2代目、3代目と替わっても基本路線に変化はまったくないのだ。

 それにもかかわらず、なぜ今年になって急激に朝鮮半島危機が深刻化したのか。その理由はやはりトランプ大統領の就任をおいて考えられない。朝鮮は変わっていないのに、周辺環境が変わったために危機が引き起こされたのである。

 世界の科学者グループが発表している「世界の終末時計」。世界を1日24時間になぞらえ、「終末」の午前0時まであと何分あるかを示すこの時計は、東西冷戦時代にはしばしば話題に上ったものの、最近は忘れられかけていた。その終末時計がここに来てまた注目されるようになった。1953年、米ソ両国が相次いで水爆実験に成功した後、この時計はあと2分まで進められた。1991年のソ連崩壊による冷戦終了で時計は17分前まで巻き戻され、危機は去ったかに見えた。その後、途上国に核が拡散するにつれて再び終末時計は進められ、福島第1原発事故でも1分進んだ。トランプ氏の大統領就任前、3分だったこの時計は就任後30秒進み、終末まで2分30秒となった。1962年、世界を滅亡の淵に立たせたキューバ危機の時でさえ終末まであと7分あったこの時計が、今やその3分の1の時間しか残されていないというのだ。

 ●東京は生き残れるか

 トランプ大統領就任後、東京への核攻撃が、それまでの荒唐無稽なSF映画の中の話ではなく、現実にあり得る可能性のひとつとして取りざたされるようになった。キューバ危機当時と比べ、トランプ・金正恩の両指導者の行動がともに予測不能である点が大きく違っている。もちろん、キューバ危機当時の指導者だったケネディ米大統領、フルシチョフ・ソ連共産党第1書記の2人も理性的とは言いがたかった。ケネディは「もしどこかの社会主義国から西側諸国に核ミサイルが発射された場合、それをソ連から米国への核攻撃とみなす」と再三にわたって警告したし、フルシチョフも「もし愚か者が我が国や社会主義国を攻撃すれば、我々はその国を地上から抹殺できる。戦争は侵略者ばかりでなく資本主義をも滅ぼすだろう」と強気の姿勢を変えなかった。当時、米ソ両国の間で繰り広げられた「口撃合戦」を振り返ってみると、今、トランプ・金正恩両トップの間で行われている罵り合いと少しも変わらない。

 だが、全米の商店から買い占めのためあらゆる物資が消えたキューバ危機では結局、最後はかろうじて理性が勝った。「何の罪もない子どもたちが核のため、米国で、ソ連で、世界で次々と死んでいく幻影はケネディをひどく苦しめた」(側近ロバート・ケネディの回想)し、世界を何十回も滅亡させられるほどの核を持つ米ソ両国の首脳間に、電話のホットラインさえ整備されていない事実を知らされ、愕然としたフルシチョフは「もしあなたがお望みなら、キューバに配備した核をいつでも撤去する用意がある」との長文の電報をケネディに送った。フルシチョフが言葉だけでなく実際にキューバに配備済みの核兵器を撤去したため、ついに危機は去ったのである。

 トランプ・金正恩の2人にこのような理性ある対応が可能だろうか。「トランプはビジネスマンであり、損得に見合わないことはやらない」「さすがの金正恩も、自国が地図から消えることになる米国との全面戦争には踏み切れないだろう」との楽観論が日本社会を支配している。だがトランプは、既存のエスタブリッシュメント(支配層)に不満を抱き、失うもののないラストベルト地帯の労働者によって大統領に押し上げられた。故・金正日総書記が長男の金正男でも次男の金正哲でもなく三男・正恩を後継者に選んだのも「3人のうち一番気が強く、米国相手でも怯まない」からであり、また「朝鮮のない地球はあり得ない。我が国がもし滅びるならば、地球を道連れにすればよい」との金正日総書記の教えを最もよく理解しているからだとされる。創造より破壊を得意とする米国大統領と、兄弟のうちで一番気が強いが故に指導者の地位を射止めた金正恩のせめぎ合いは、今度こそ偶発的な米朝間の戦争に発展するかもしれないのだ。

 改めて確認しておかなければならないのは、国際法上、米韓と中朝は今なお戦争状態にあるということだ。すでに朝鮮戦争の休戦(1953年)から64年経過したが、あくまで休戦に過ぎない。米中両国はいずれも国連安保理の常任理事国であり、いざそのときが来たとしても国連や安保理が機能するとはとても思えない。先ごろ発生した朝鮮人民軍兵士の亡命事件のような偶発的事態をきっかけに南北間で戦端が開かれればどうなるだろうか。
北緯38度の軍事休戦ラインからソウル中心部まではわずか30キロメートル。日本で言えば東京~横浜間の距離とそれほど変わらない。朝鮮領内から戦車でも1時間で到達してしまう距離だ。反撃の間もなくソウルは瞬く間に占領され、韓国政府も機能しなくなってしまうだろう。こうした危険があるにもかかわらず、韓国の人口の4割がソウル首都圏に集中する状況を放置してきたのも、歴代韓国政府が本当は朝鮮戦争の再開などあるわけがないと高を括っていたからだろう。

 朝鮮対米韓で戦端が開かれた場合、初めからいきなり核ミサイルが使われることはない。朝鮮人民軍はソウルを占領し、最初の数時間は優位に戦いを進めるとみられるからだ。問題は米韓軍が体制を立て直し、反撃に転じたときだ。「朝鮮がもし滅びるときは、地球を道連れにすればいい」との父の教えを、もし金正恩が忠実に実行するならば――?

 朝鮮が開発中のミサイルは、まだ核弾頭を積んで大気圏内に再突入し、米本土を攻撃できるまでにはなっていないが、朝鮮がその能力を手に入れるのはもはや時間の問題だろう。だが、日韓を攻撃できるノドンミサイルを朝鮮はすでに手に入れている。SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)が実用化レベルにあるとの一部報道もある。その場合、大気圏内再突入の技術さえ必要ない。潜水艦で朝鮮のどこかの港を出港、潜航した潜水艦から日韓のどこかの都市に向けて核ミサイルが発射されれば、Jアラートなどの警報発動さえかなわず、多くの市民がいきなり閃光を見てそのまま終わりということさえあり得るのだ。

 いざというとき東京は果たして生き残れるのだろうか? 2020年東京五輪はこのまま無事に開催できるのだろうか? 政府や御用学者たちは「Jアラートが鳴って5分以内に地下街に逃げ込めば助かる」などと根拠のない楽観論を振りまいているが、もちろん信じてはならない。70年前の広島、長崎より核技術は格段に進歩している。朝鮮が開発しているとみられる10キロトン程度の核でも、爆心地では200メートルの巨大な火球ができるとの試算もある。あらゆるものを飲み込む火球の中心温度は最悪の場合、太陽の表面より少し低い摂氏4000~5000度にも達すると見込まれる。地下街でも数百度には達するだろう。これで生き残れるなどと考える方がどうかしている。仮にそれほどの強い威力の核でなくても同じことだ。「御用学者」たちが福島第1原発の事故当時なんと言っていたか思い出してみるといい。「プルトニウムは飲んでも安全」「100ミリシーベルト以下の被曝量で健康被害など出るはずがない」。だが6年半後の今日、194人もの子どもたちがすでに甲状腺がんを発症しているのだ。

 事態が今のまま推移すれば、筆者は、東京が朝鮮の核で滅亡する可能性が3割くらいはあると考えており、来年以降、東京へ出かける機会をできる限り減らしたいと思っている。ひょっとするとこの年末年始が、対話か戦争かの分水嶺になるかもしれないが、そんなときに朝鮮との対話を否定し「圧力強化」一辺倒の安倍首相しか持てない日本の不幸さを思わずにいられない。

 ●突破されたNPT体制

 いずれにせよ、朝鮮に核開発を思いとどまらせることはもはや不可能だ。望むと望まざるとに関わらず、朝鮮を核保有国リストに加えなければならないときが目前に迫っている。朝鮮による公然たる核武装は、もはやNPT(核不拡散防止条約)体制がまったくの虚構に過ぎないことを見せつけている。現在の核保有国以外に新たな保有国が出現しないようにするといえば聞こえはいいが、NPTは実際には「俺は核を持ってもいいがお前はダメだ」という究極の不平等条約である。それでも非核保有国は、核保有国がいつかはその愚かさに気づき、みずから核保有数を減らす努力をするものと信じて耐えてきた。だが、いつまでも核を減らさず、手放そうともしない核保有国を前に、非核保有国の中からNPTへ挑戦するものが現れた。初めはイスラエル、次いでインドやパキスタン。イランと朝鮮がそれに続こうとしている。NPT体制を崩壊させたのは核保有国の裏切りであり、挑戦者の出現はその結果に過ぎないことを、私たちは今後のためにしっかり認識しておく必要がある。

 ●核兵器禁止条約採択で巨大な前進

 一方で今年、核をめぐってきわめて大きな前進があった。核兵器禁止条約の採択だ。今年7月に国連総会で採択された条約は「核兵器の開発、実験、製造、備蓄、移譲、使用及び威嚇としての使用の禁止ならびにその廃絶に関する条約」が正式名称で、2007年、コスタリカ、マレーシア両国が共同提案していたもの。2017年7月7日、122か国・地域の賛成で正式に採択された。最初の段階の開発から最終段階である使用に至るまで、すべての局面で締約国に核兵器との関わりを禁じていることが大きな特徴だ。中心となって交渉を推し進めたオーストリアのハイノッチ大使は採択後の演説で「被爆者の証言が私たち(推進側)を鼓舞してきた。この惑星を核兵器のない、より安全な場所にしていきましょう」と呼びかけた。

 被爆者からも喜びの声が上がった。広島県原爆被害者団体協議会(県被団協)の坪井直理事長(92)は「『核兵器のない世界』の実現という私たち被爆者の長い間の念願がやっと具体的な形に表れた」と評価。「条約が実際に効力を持つまでには困難が横たわっている」とも指摘し「被爆者はもちろんのこと、核兵器を拒絶する世界中の市民の力によって、条約の実効を目指していかなければ」と訴えた。長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会議長、川野浩一さん(77)は「122の国々が賛成したことは意義がある。条約で明確に禁止することは重みがある」と歓迎した上で「核保有国も加えて、実効性のあるものにしていくかが重要」と指摘した。

 それにしても情けないのは、条約に賛成しなかった日本政府だ。これでは「被爆者の苦しみが最もよくわかっている国は日本のはずなのに、参加しなかったのは腹立たしい」(川野さん)と言われても仕方ない。

 坪井理事長が「発効までに困難が横たわっている」と述べているのには理由がある。すべての核保有国含め、日本やドイツ、韓国など米国の「核の傘」の下にある諸国、NATO(北大西洋条約機構)加盟国が参加していないからだ。条約は世界50か国・地域が批准して90日後に発効することになっているが、現在、批准はガイアナ、タイ、バチカンの3か国にとどまっている。だが、賛成国の半数程度の批准でよいのだから、そう遠くない将来発効にこぎ着けるだろう。人類を絶滅させられる最終兵器でだれも使用などできないとわかっているのだから、核兵器だけは全面禁止にしなくてもよいなどという愚かな理屈が成り立ちうるだろうか。様々な紆余曲折を経ながらも、人類は生物化学兵器もクラスター爆弾も最後は国際条約で禁止に追い込んできた。核兵器だけが例外ではあり得ない。

 ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞受賞もこうした流れを後押しする画期的出来事だ。これまで長年核廃絶運動に取り組んできた日本の被爆者団体が受賞できず、外国の新しい団体による新しい活動が受賞したことに対し違和感を訴える声があるが、そうしたことが起こるのも、国際社会からの日本の評価の低下が背景にあるのかもしれない。

 しかし、被爆者団体やそのリーダーは、ICANの受賞に好意的だ。坪井理事長は「同じように核兵器廃絶を訴え行動してきたICANの受賞をうれしく思う。私たち被爆者はICANはじめ幅広い皆さんと共に命ある限り核兵器のない平和な世界の実現を訴え続けていきたい」とのコメントを発表した。

 世界の終末時計を30秒も進めてしまうような危険な核開発の動きと核兵器禁止を求める市民の闘い。NPT体制に挑戦しみずからも核保有国になろうと策動する国々と、その前に立ちはだかり核兵器禁止条約を生み出した被爆者・市民たち。悪いこともあったが未来へ向けた画期的出来事もあった2017年「今年の漢字」を筆者が選ぶなら、やはり「核」以外にあり得ないように思う。世界を正反対の方向へ導こうとする2つの潮流は来年も激しく衝突するに違いないが、核廃絶を確実なものにするためには、これまで交わることのなかったこの2つの潮流に誰かが橋を架けなければならない。その役割を果たすのは、核兵器と核の「平和利用」による被害の両方を経験した日本以外にないように思われるが、核廃絶への意思も能力もなく、いたずらに朝鮮との緊張激化だけを煽り立て、福島第1原発による被害を認めるどころか、避難区域を解除、自主避難者を裁判まで起こして避難先の住宅から追い出し、カネまみれの「復興」を演出することにしか興味のない安倍政権ではダメなことだけははっきりしている。来年こそ核兵器と原発の廃絶を実現するため、市民の敵・安倍首相を政権から追い出し、平和を志向する政権に変えていく。2018年に向けた筆者の決意だ。

(黒鉄好・2017年12月16日)

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周到に準備されていた「談合」への道~リニア入札談合の真犯人は政府ではないのか?/安全問題研究会

2017-12-19 21:52:59 | 鉄道・公共交通/交通政策
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」に寄稿した原稿をそのまま掲載しています。)

2014年10月、全国新幹線鉄道整備法に基づいて事業計画が認可されたリニア中央新幹線建設工事は、大林組、鹿島、清水建設、大成建設の大手ゼネコン全4社関係者が東京地検特捜部から任意の事情聴取を受けるとともに、ゼネコン各社も強制捜査を受ける事態に発展した。

だが、認可以前からリニアの問題点を追ってきた安全問題研究会は「やはり来たか」という思いであり驚きはない。それどころかこの事態は起こるべくして起きたものだといえる。大手ゼネコン4社すべてに均等に仕事を割り振ることは事業認可当初からの既定路線であり、むしろこの談合はそれに沿って政府が周到にお膳立てした官製談合なのではないだろうか。もちろん現時点で確証があるわけではない。だが単なる憶測では片付けられない官製談合の「状況証拠」ともいうべき情報を当研究会は得ている。今日は、その驚愕すべき情報を皆さんにお伝えしておきたい。

●WTO「政府調達協定」からの突然のJR離脱

1995年、それまでのGATT(関税と貿易に関する一般協定)に代わる国際間貿易ルールとして、各国間合意によってWTO協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定)が発効した。そのWTO協定に基づいて締結された関連協定のひとつに「政府調達に関する協定」がある。加盟国の中央政府や地方政府、政府関係機関などが基準額以上の高額の契約を締結する場合、外国企業の参加も可能となるような形で国際競争入札により業者選定しなければならないことを定めたものだ。協定の内容を詳述する余裕はないが、基準額は物品調達・役務調達・工事など契約の種類ごとに決められており、工事の場合、それは日本円で20億円である。協定の適用対象となる「政府関係機関」も、加盟国間で紛争にならないよう、協定の附属書に名称を列挙する形で具体的に取り決められている。言うまでもないが、JR各社は旧国鉄を引き継いだ企業であり、民営化後もしばらくは国が全額を出資する国鉄清算事業団(その後の日本鉄道建設公団~現在の独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が全株式を保有していたことから、政府関係機関として協定の適用対象になっていた。

このうち、JR東日本、東海、西日本の本州3社に関しては、2001年までに鉄建公団が保有していた全株式を放出し、完全民営化された。政府関係機関でなくなった本州3社は、本来であればこの時点で政府調達協定の適用から除外されるはずだった。だが、国内(域内)企業の日本の鉄道工事への参入を狙っていた米国、カナダ、EU(欧州連合)がWTOに対して異議を申し立てたため、JR本州3社は完全民営化後も政府調達協定からの離脱ができない事態に陥った。米国とカナダは2006年に異議を撤回するものの、EUはその後も撤回しなかった。異議申立の撤回に向けた日本政府からEUへの再三にわたる働きかけも実らず、JR本州3社の政府調達協定からの離脱交渉は暗礁に乗り上げたかに見えた。

ところが事態は急転する。2014年10月28日になって、EUが異議申立の撤回に同意したのだ。完全民営化から13年も経過して、ようやく「純粋な民間企業」と認められたJR本州3社は政府調達協定の適用から除外。20億円以上の大規模工事を発注する場合であっても、外国企業の参加も可能となるような形での国際競争入札により業者選定を行う必要がなくなったのである。総額9兆円ものビッグプロジェクトを推進する政府・JR東海にとって最大の障害が取り除かれたのだ。

日本政府はこれを「EUに対する長年の外交上の働きかけが結実した結果」(2014年10月28日付け外務大臣談話)と自賛した。だが、ここでもう一度皆さんには思い出してほしい。リニア中央新幹線計画が事業認可されたのは2014年10月17日。EUによる異議撤回の、わずか11日前の出来事だ。

あまりにも出来すぎたタイミングといえる。これを偶然の一致と思えるほど当研究会はお人好しではない。どこをどう見ても、外国企業を排除し日本企業だけで「談合」できるよう、日本政府が政府調達協定からのJR東海の離脱を待ってリニア中央新幹線の事業認可をしたと勘ぐられても仕方のないタイミングだ。談合へのレールは最初から敷かれていたのではないか。

李下に冠を正さずということわざもある。もしそうではないと言うのであれば、なぜ政府はわざわざ痛くもない腹を探られるような時期を選んで事業認可に踏み切ったのか。政府にはそのことに対する説明責任がある。そうでなくても、当研究会の活動拠点である北海道では、JR北海道が10路線13線区を「自社単独では維持困難」と公表、上下分離や路線廃止~バス転換も含めた地元との協議が始まろうとしている。実際のところ、JR北海道が維持困難と表明している路線を守るためには年に数百億程度の国の支援があれば足りる。地方の生活のための路線が危機を迎えているのに見向きもせず、それより2桁も多い金額をリニアに投入、今でも十分便利なところをさらに便利にして地域間格差を広げた挙げ句、ゼネコンが談合でつり上げたリニアの建設費のツケを利用者が支払わされるのでは踏んだり蹴ったりだ。当研究会は、推進派からの反発も覚悟で今こそはっきり言う。「こんな馬鹿げたリニアはいらない」と。

<参考資料>
世界貿易機関(WTO)政府調達協定の対象からのJR本州3社の除外について(2014.10.28 国交省プレスリリース)

世界貿易機関(WTO)政府調達協定の対象からのJR本州3社の除外に際しての国土交通大臣談話

(文責:黒鉄好)

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安全問題研究会がJR路線見直し問題で国交省要請を実施

2017-12-16 22:58:20 | 鉄道・公共交通/交通政策
安全問題研究会は、JR北海道の路線見直し問題に関して、12月15日に国交省要請を行いました。

その際の要請書をアップしました。なお、印刷に適したPDF版は安全問題研究会サイト内の「安全問題研究会が行った政府への要請・申し入れ」コーナーに掲載しています。

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2017年12月15日

 国土交通省鉄道局長 藤井 直樹 殿

安全問題研究会

JR北海道の路線廃止問題に関する要請書

 当会は、各鉄道の安全や地域公共交通の存続及び利便性向上のための活動を行う鉄道ファンの任意団体です。これまで、国内各地の鉄道を初めとする公共交通に乗車して点検を行う活動、鉄道事故の原因調査や学習会などを通じて安全問題や地方ローカル線問題の検討を行ってきました。その結果、日本の鉄道や公共交通を巡る政策について、改善を要するいくつかの事項が認められるに至りました。

 本日は、そのような改善を要する事項のうち、特に緊急を要し、影響も特に深刻なJR北海道の路線存廃問題に絞って、下記のとおり要請を行うこととしました。

 当会としては2015年以来の要請となりますが、貴職におかれましては、このような切実な事情及び本要請の趣旨をご理解いただくとともに、本要請書に対して、文書による回答を行われるよう希望いたします。

 なお、JR北海道が「自社単独で維持困難」と発表した道内10路線13線区について、同社は「上下分離」方式(沿線市町村が線路を保有し維持管理に当たる方式)の導入を地元に対して求めていますが、地方交付税法の規定により、現状では鉄道の線路を自治体が保有している場合であっても、道路等と異なり地方交付税の交付対象となっていません。当会としては、こうした制度の不備も上下分離が進まない原因のひとつと考えており、地方交付税制度の鉄道への適用を求める要請を、去る11月14日付け総務大臣及び総務省自治財政局長宛て要請書(別添)のとおり併せて実施していますので、念のため申し添えます。



【要請事項】
1.国鉄改革当時の国会決議等を踏まえ、JR北海道が検討しているローカル線の廃止を行わせないようにすること。


【説明】
 JR北海道が昨年11月、鉄道路線の廃止~バス転換または沿線市町村が線路を保有する上下分離方式による運営に切り替えたいと提案した路線(10路線13区間)の合計は1,137.2kmであり、JR北海道の鉄道全路線(2,499.8km)のほぼ半分に及んでいる。

 国鉄改革関連8法案が審議されていた参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会が、1986(昭和61)年11月28日、同法案の可決・成立に当たって行った附帯決議は、「(JR各社の)経営の安定と活性化に努めることにより、収支の改善を図り、地域鉄道網を健全に保全し、利用者サービスの向上、運賃及び料金の適正な水準維持に努めるとともに、輸送の安全確保のため万全を期すること」「各旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社の輸送の安全の確保及び災害の防止のための施設の整備・維持、水害・雪害等による災害復旧に必要な資金の確保について特別の配慮を行うこと」を国に対して求めている。この附帯決議の採択に当たり、国鉄改革関連8法案の担当である橋本龍太郎運輸大臣及び葉梨信行自治大臣(いずれも当時)が「その御趣旨を尊重」し、政府として努力・善処する旨答弁している。

 国鉄再建監理委員会における当時の議論やこうした歴史的経緯を踏まえ、経営が厳しくなると予想されたJR北海道・四国・九州の3社は国が設けた経営安定基金の運用益で持続的な経営を維持することとされたが、当初、7.3%と見込んだ金利が低下したため、期待通りの運用益が得られず、今日の事態を招くことになった。今日の事態は政府の責任と考える。

 国鉄再建監理委員会参事官や運輸事務次官を務めた黒野匡彦氏は、北海道新聞に対し「30年も前に作った仕組みは事情の変化に応じて変わるのは当たり前。現役の行政官が政策を変更しては先輩のメンツをつぶすなどと遠慮する必要はない。国鉄改革の仕組みにとらわれず、新しい政策を展開すれば良い」と、社会情勢の変化に応じた政策の柔軟な変更を促している。また、JR東日本第2代社長を務めた松田昌士氏も「JR北海道の株主は国であり、今も国家機関」だとして、国が主体となりJR北海道の経営改善を行うよう求めるなど、国鉄改革を推進した関係者からも、この間の社会情勢の変化を踏まえた国鉄改革見直しの声が上がっている。ローカル線の廃止を避けることは、地域衰退を防止し公共交通を守るため急務の課題である。

2.国鉄改革以降30年間の社会情勢の変化を踏まえ、JRグループの枠組みを見直すこと。とりわけJRグループが列車運行に専念できるよう、全国JRグループ全線の線路及び施設を国が保有し一元的に管理する仕組みを作ること。

【説明】
 現在、日本国内で上下分離方式が論じられる場合、「沿線市町村による線路保有」を前提としたものとなっているが、2000(平成12)年8月1日付け運輸政策審議会答申第19号「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策について」においては「運行事業者とインフラの整備主体が原則として別人格であって、インフラの整備に公的主体が関与する場合」を上下分離と定義しており、インフラの整備の主体を市町村に限定するものとはなっていない。また、欧州連合(EU)でも「共同体の鉄道の発展に関する閣僚理事会指令」(1991年EU指令)によりインフラ事業と輸送事業を分離する改革が行われたが、国家や州政府など、市町村よりも大きな行政単位によって鉄道が運営されている例が多い。社会資本として整備に巨額の資金を必要とする鉄道の整備や維持を財政力の小さな市町村主体で行うことは困難であり、国や都道府県の関与が必要である。

 また、2016(平成28)年12月30日付け「北海道新聞」は、旧国鉄の経営悪化が深刻化した1982年、国が「日本鉄道保有公団」を設立して国鉄の線路・施設の保有管理をこの公団に移管、国鉄は列車運行に専念するという上下分離方式の導入が運輸大臣私案として旧運輸省で作成されたことを報じている。国が線路・施設を保有管理する形態の上下分離案が、私案とはいえ政府部内で作成されたことはこの手法の有効性を示している。

 北海道内の路線廃止を防ぐため、早急にJR北海道の線路維持管理に関する負担を軽減する必要があるが、仮に日本鉄道保有公団方式を参考として国が線路・施設の保有管理を行うとしても、全営業路線が赤字である北海道内だけをその対象とした場合、効果は限定的なものとなる可能性が高い。効果を最大限にするためには、列車本数の多い路線や収益性の高い路線から徴収する線路使用料によって北海道の線路保有管理の仕組みを支える必要があり、そのためには全国JRグループ全線を対象に国が線路・施設の保有管理を行う形態の上下分離方式を導入することが望ましい。

3.JR旅客各社がJR貨物に対して設定している線路使用料について、いわゆるアボイダブルコスト(回避可能)ルールを見直し、貨物列車の走行実態に応じた線路使用料を設定できるようにすること。

【説明】
 国鉄改革により旅客と貨物が別会社に分離されて以降、JR旅客各社がJR貨物から徴収する線路使用料については、「新会社がその事業を営むに際し当分の間配慮すべき事項に関する指針」(平成13年国土交通省告示第1622号。以下「指針」という。)II-1-2により「貨物会社との協議を経て、貨物会社が当該鉄道線路を使用することにより追加的に発生すると認められる経費に相当する額を基礎として」定めることが規定されている。

 国鉄改革の契機となった国鉄財政悪化の原因が、1970年代中盤以降の国鉄における貨物輸送の急激な業績悪化を原因としていることから、国鉄改革に際してこのようなルールが設けられたものと考えられるが、トラック輸送分野における昨今の極端な運転手不足はJR貨物の業績にとって追い風となっており、JR貨物は2016年度決算で5億円の黒字決算となった。この結果、路線廃止を検討しなければならないほどの経営状態に追い込まれているJR北海道が黒字決算のJR貨物を支えなければならないという看過しがたい事態となっている。

 石勝線列車火災事故以降、JR北海道は安全対策に集中的に投資した結果、年間200億円程度の資金が不足している状態にあるが、JR貨物からの線路使用料を、貨物列車の走行実態に応じて適正化した場合、全列車キロの半分以上が貨物列車の北海道では、現在、16億円程度の線路使用料が100~200億円に上昇するとの試算もある。この試算通りであれば、線路使用料の適正化によってJR北海道は資金不足をほぼ解消できるとともに、必要な安全対策を十分実施しながら、現行通り路線を維持することも可能になる。

 国鉄改革から30年を経過、この間の社会情勢の変化によりアボイダブルコストルールも時代に合わなくなっている。JR旅客各社がJR貨物からの線路使用料を適正化できるよう、「指針」見直しが必要である。

 なお、この見直しを行った場合、今度はJR貨物が少なくとも100~150億円近い赤字決算となり、同社の経営に重大な影響を及ぼすことが確実である。整備新幹線開業時にJR旅客各社から経営分離された並行在来線を運営する第三セクター鉄道(以下「並行三セク」という。)に準じ、国が貨物調整金を支給することでこの問題は解決できるが、現在、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備機構法(以下「機構法」という。)附則第11条の規定により、貨物調整金の支給対象が並行三セクに限定されている。「指針」見直しと併せ、機構法附則第11条も併せて改正する必要がある。

4.地方交付税制度を鉄道にも適用できるような制度改正の要望を総務省に対して行うこと。

【説明】
 国鉄改革によって、旧国鉄の新幹線(東海道・山陽、東北(盛岡以南)、上越各新幹線)を新幹線鉄道保有機構(既に解散)に継承させるとともに、JR東日本・東海・西日本各社を列車運行に専念させるため上下分離方式が導入された。

 この上下分離方式が、地方路線を維持する上でも有効であることが認識されたため、近年、地方路線を上下分離方式で運営する例が徐々に増えている。しかし、地方路線の上下分離方式では線路・施設の保有管理主体は沿線市町村であることがほとんどであり、現行の地方交付税法では道路・空港・港湾と異なって、鉄道が地方自治体による線路管理であっても地方交付税の交付対象とならないことから、鉄道に上下分離方式を導入した地方自治体は全面的かつ長期的にその保有管理費用を負担しなければならない。

 当会は、このことが上下分離方式の全国的かつ大規模な普及が進まない原因のひとつであると考えており、先般、鉄道に対しても地方交付税の交付対象とするよう、総務大臣及び総務省自治財政局長宛て要請を実施したところである。

 この際、総務省自治財政局からは、「地方交付税はもともと国の金ではなく、地方から集めた金を各自治体の財政力の調整のために再交付するものであり、線路を持っている自治体の事例がちらほら出てきているに過ぎない現段階でそうしたものを地方交付税の交付対象に含めることは制度の趣旨にそぐわない」との説明を受けるとともに、(1)鉄道政策の制度設計をするのはあくまで国交省であり、総務省は、線路を持つ沿線自治体にも地方交付税を交付できるような制度を考えてくれるよう国交省から相談があれば知恵を出す立場ではあるが、メインで動くということにはならない、(2)将来、鉄道政策や地方交付税制度が大きく変わるようなことがあれば、考えないわけではない、(3)第三セクター鉄道に出資している地方自治体には、地方交付税を交付できる制度も一部ある――との回答を得た。

 当会としては、総務省の上記説明内容は十分理解できるものの、鉄道と同じ公共輸送目的の施設であり、またすべての自治体が保有しているわけではないにもかかわらず既に地方交付税の交付対象となっている空港や港湾の例もあることから、鉄道だけを地方交付税の交付対象から除外する積極的な理由もないものと考える。国交省と総務省との協議の進め方によっては、鉄道を地方交付税の交付対象とする方向での制度改正も十分可能と考えられることから、国交省に対し、総務省との協議を行うよう要望するものである。

(以  上)

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伊方原発3号機訴訟で広島高裁が運転差し止め命令

2017-12-14 22:26:30 | 原発問題/一般
すでに報道されているとおり、広島県内の住民らが対岸にある伊方原発(愛媛県・四国電力)3号機の運転差し止めを求めて起こしていた仮処分申請の抗告審で、広島高裁は13日、住民側の訴えを退けた1審・広島地裁決定を変更し、四国電力に運転差し止めを命ずる決定を行った。

これまで、原発の運転差し止めを求めて各地の住民が起こした訴訟で、差し止めを認める判決・決定はすべて地裁のものだった。高裁での控訴審・抗告審ではすべて覆され、結局は再稼働させられてきた。高裁段階で運転差し止めの決定が出たのは初めて。また火山噴火の危険性を認めて運転差し止めを命じたのも初めてであり、画期的出来事だ。一般訴訟の判決と異なり、仮処分決定は係争中でも直ちに効力が生じる。ただ、この決定は期限付きで来年9月30日までとなっている。

伊方原発3号機は現在、定期点検で停止しており、来年1月の定期点検終了後、この決定が覆るか、9月を終えるかしない限り再稼働ができなくなる。

福島原発事故以降、反原発の活動を続けてきた当ブログにとって、原発の歴史を勉強すればするほど、現在までの腐敗し、歪んだ原発行政の出発点は伊方にこそあると考えるようになった。1990年代に相次いで行われた伊方原発での2つの差し止め訴訟で起きた出来事が、原子力ムラの腐敗の象徴であるとともに、その後の原発訴訟の行方をも決定づけるものになったからだ。

伊方原発1号機を巡る訴訟では、住民側の主張に理解を示していた裁判長が、判決直前に突然交代させられた結果、住民敗訴になった。この裁判の上告審(1992年)でも最高裁が原発を容認し、住民の訴えを退ける判決を出したが、この判決に関わった味村治・最高裁判事が、退官後なんと原発メーカー・東芝に天下りするのである(この件については2011年にMy news Japan週刊金曜日で相次いで報じられている)。

ついでにいえば、このときの最高裁判決には、後に最高裁長官となる三好達判事も加わっているが、三好元判事は退官後日本会議の会長を務めた。現在も名誉会長の職にある(日本会議役員名簿より)。民主主義を否定する改憲派と、人権無視の原発推進派は底流でつながっていることがよくわかる。

当時はまだ住民による原発訴訟は少なかったこともあり、この伊方の判決がその後の流れを作った。チェルノブイリ原発事故(1986)年からわずか6年しかたっていなかったこの時代に、日本の裁判所は原発の危険性とまともに向き合わなかったのである。もしこのとき、裁判所が原発の危険性ときちんと向き合っていたら福島第1原発の事故はなかったかもしれないのだ。

だからこそ当ブログは、日本の原発訴訟の悪い流れのスタートラインになった伊方でだけはどうしても勝たなければならないと思っていた。そうした意味で、今回の勝利を大変うれしく思っている。

例によって、判決文をいち早くテキストでアップしてくれる「NPJ訴廷日誌」に決定要旨が掲載されている。以下全文を引用する(文字化けのおそれがある丸数字、丸文字のみ括弧付き数字、文字に改めた)。PDF版は脱原発弁護団全国連絡会サイトの13日付記事に掲載されている。

決定要旨
弁護団声明(広島高裁決定を受けて)

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NPJ訟廷日誌より

【速報】 伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立事件 広島高裁決定要旨

平成29年レ)第63号伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立(第1事件,第2事件)却下決定に対する即時抗告事件(原審・広島地方裁判所平成28年(ヨ)第38号,同年(ヨ)第109号)


決 定 要 旨

主   文

1 原決定を次のとおり変更する。

 (1) 相手方は,平成30年9月30日まで,愛媛県西宇和郡伊方町九町字コチワキ3番耕地40番地の3において,伊方発電所3号機の原子炉を運転してはならない。

 (2) 抗告人らのその余の申立てをいずれも却下する。

2 手続費用は,原審及び当審を通じ,各自の負担とする。

理 由 の 要 旨

1 事案の概要
 (1) 本件は,四国電力伊方原発3号機(伊方原発)のおよそ100km圏内(広島市,松山市)に居住する住民(抗告人ら)が,四国電力(相手方)に対し,伊方原発の安全性に欠けるところがあるとして,人格権に基づき,伊方原発の運転差止めを命じる仮処分を申し立てた事案である。

 (2) 本件の争点は, (1)司法審査の在り方, (2)新規制基準の合理性に関する総論, (3)新規制基準の合理性に関する各論として, (ア)基準地震動策定の合理性, (イ)耐震設計における重要度分類の合理性, (ウ)使用済燃料ピット等に係る安全性, (エ)地すべりと液状化現象による危険性, (オ)制御棒挿入に係る危険性, (カ)基準津波策定の合理性, (キ)火山事象の影響による危険性, (ク)シビアアクシデント対策の合理性, (ケ)テロ対策の合理性, (4) 保全の必要性, (5)担保金の額である。

 (3) 原審は,原子力発電所の安全性審査に関する新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとの原子力規制委員会の判断も合理的であるから,抗告人らの申立ては被保全権利の立証(疎明)を欠くなどとして,申立てを却下した(原決定)ところ,抗告人らが即時抗告した。

2 司法審査の在り方(決定175頁~184頁)

 (1) 抗告人ら住所地と伊方原発との距離(広島市居住者につき約100km,松山市居住者につき約60km)に照らすと,抗告人らは,伊方原発の安全性の欠如に起因して生じる放射性物質が周辺の環境に放出されるような事故によってその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける地域に居住する者ないし被害の及ぶ蓋然性が想定できる地域に居住する者といえる。

 (2) このような場合には,伊方原発の設置運転の主体である四国電力において,伊方原発の設置運転によつて放射性物質が周辺環境に放出され,その放射線被曝により抗告人らがその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)する必要があり,四国電力がこの主張立証(疎明)を尽くさない場合には,具体的危険の存在が事実上推定されると解すべきである。

 (3) もっとも,四国電力は,原子力規制委員会から,伊方原発が新規制基準に適合するとして原子炉設置変更許可を受けている。そして,原子力発電所の安全性審査の基礎となる基準の策定及びその基準への適合性の審査は,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであり,原子炉等規制法は,基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解される。

 このような観点からすると,四国電力は,前記(2)の主張立証(疎明)に代え,新規制基準に不合理な点のないこと及び伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)することができると解すべきである。

3 火山事象の影響による危険性以外の争点(決定184頁~349頁,367頁~398頁)火山事象の影響による危険性以外の争点(前記1 (2)(2)(3) (ア)ないし(カ),(ク)及び(ケ)については,新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的であると認められる。

4 火山事象の影響による危険性(決定349頁~367頁)

 (1) 原子力発電所の立地評価(設計対応不可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)につき,火山ガイド(原子力規制委員会が策定した安全性審査の内規)は,以下のとおり定めている。
   (1) 原子力発電所から半径160kmの範囲の領域(地理的領域)に位置し,将来の活動可能性がある火山について,原子力発電所運用期間中(原則40年)の火山の活動可能性が十分小さいかどうかを判断する。

   (2)(1) の火山の活動可能性が十分小さいと判断できない場合は,原子力発電所運用期間中(原則40年)に発生する噴火規模を推定する。

   (3)(2)の噴火規模を推定できない場合は,当該火山の過去最大の噴火規模を想定し,設計対応不可能な火山事象(火砕流)が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価する。

   (4)(3)の火砕流が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立地は不適となり,当該敷地に原子力発電所を立地することは認められない。

 (2) 本件では,伊方原発の地理的領域に位置し将来の活動可能性のある火山である阿蘇カルデラ(伊方原発から約130km)について,現在の火山学の知見では,伊方原発の運用期間中に(1)の火山の活動可能性が十分小さいと判断することはできず,(2)の噴火規模を推定することもできないから,(3) により阿蘇カルデラの過去最大の噴火である阿蘇4噴火(約9万年前)の噴火規模(火山爆発指数〔VEI〕7)を想定し,火砕流が伊方原発敷地に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価することになる。

  しかし,四国電力が行つた伊方原発敷地周辺の地質調査や火砕流シミュレーションからは,阿蘇4噴火の火砕流が伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできないから,(4)により伊方原発の立地は不適であり,伊方原発敷地に原子力発電所を立地することは認められない。

 (3) 原決定は,VE17以上の規模の破局的噴火については,そのような規模の噴火が原子力発電所運用期間中に発生する可能性が相応の根拠をもつて示されない限り,原子力発電所の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても,安全性に欠けるところはないと判示する。確かに,現在の火山学の知見では,VE17以上の破局的噴火の発生頻度は日本の火山全体で1万年に1回程度とされている一方,仮に阿蘇において同規模の破局的噴火が起きた場合には,周辺100km程度が火砕流のために壊滅状態になり,更に国土の大半が10cm以上の火山灰で覆われるなどと予測されているところ,わが国においては,このようにひとたび起きると破局的被害(福島第一原発事故の被害を遥かに超えた国家存亡の危機)をもたらす一方で,発生頻度が著しく小さい自然災害については,火山ガイドを除きそのような自然災害を想定した法規制は行われておらず,国もそのような自然災害を想定した対策は(火山活動のモニタリング以外は)策定しておらず,にもかかわらず,これに対する目立った国民の不安や疑問も呈されていない現状を見れば,前記のような発生頻度が著しく小さくしかも破局的被害をもたらす噴火によつて生じるリスクは無視し得るものとして容認するというのが我が国の社会通念ではないかとの疑いがないではなく,このような観点からすると,火山ガイドが立地評価にいう設計対応不可能な火山事象に,何らの限定を付すことなく破局的噴火(VE17以上)による火砕流を含めていると解することには,少なからぬ疑間がないではない。

  しかし,前述したとおり,原子炉等規制法は,原子力発電所の安全性審査の基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解されるから,当裁判所としては,当裁判所の考える社会通念に関する評価と,原子力規制委員会が最新の科学的技術的知見に基づき専門技術的裁量により策定した火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもつて,原決定のように火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを変更することは,原子炉等規制法及びその委任を受けて制定された新規制基準の趣旨に反し,許されないと考える。

 (4) なお,火山ガイドが立地評価の次に評価すべきと定める影響評価(設計対応可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)についても,現在の火山学の知見を前提とすると,伊方原発の運用期間中に阿蘇においてVE16(噴出体積10㎦以上)以上の噴火が生じる可能性が十分小さいと評価することはできないところ,VE16の噴火の最小の噴火規模を前提としても,噴出量は,四国電力が想定した九重第一軽石の噴出量(6.2㎦)の約2倍近くになるから,伊方原発からみて阿蘇カルデラ(伊方原発から約130km)が九重山(伊方原発から約108km)よりやや遠方に位置していることを考慮しても,四国電力による降下火砕物の層厚の想定(15cm)は過少であり,これを前提として算定された大気中濃度の想定(約3.lg/㎥)も過小であると認められる。

5 結論(決定398頁~399頁)

 (1) 以上によれば,火山事象の影響による危険性について,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理であり,抗告人らの生命身体に対する具体的危険の存在が事実上推定されるから,抗告人らの申立ては,被保全権利の立証(疎明)がなされたといえる。

 (2) 伊方原発は,現在稼働中であるから,差止めの必要性(保全の必要性)も認められる。もつとも,本件は,証拠調べの手続に制約のある仮処分であり,火山事象の影響による危険性の評価について,現在係属中の本案訴訟(広島地方裁判所平成28年(ワ)第289号,第902号)において,証拠調べの結果,本案裁判所が当裁判所と異なる判断をする可能性もあること等の事情を考慮し,四国電力に運転停止を命じる期間は,平成30年9月30日までと定めることとする。

 (3) 担保金の額については,事案の性質に鑑み,担保を付さないこととする。

 (4) よつて,以上と異なる原決定を変更し,主文のとおり決定する。

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