安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集(緑風出版)

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●安全問題研究会政策ビラ・パンフレット
こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策
私たちは根室線をなくしてはならないと考えます
国は今こそ貨物列車迂回対策を!

ストライキ決行中の業務スーパー2店舗を取材

2024-07-21 23:49:44 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人がレイバーネット日本に投稿した記事をそのまま掲載しています。)

店舗閉鎖に対抗する形で、昨年決行された西武池袋店のストライキは、小売業界としては実に61年ぶりということで、大きな社会的注目を集めました。「経営者によるどんな理不尽にも、解雇を恐れて黙って耐えなければならないのだ」という、日本人に染みついた奴隷根性を転換する一大事件だったと思います。

そして今回、エス・インターナショナル(「株式会社ケヒコ」)経営陣による会社財産の私的流用や偽装倒産攻撃に対抗して、北海道内の労働者がストライキに決起したという情報を聞き、こんな至近距離でこのような出来事が起きているなら、取材しない手はないと思い、21日、ストライキにより休業中の苫小牧市内2店舗(苫小牧店、苫小牧東店)を見てきました。

両店とも、照明が消された店内は無人で静まりかえっていました。労働者の姿もありませんでした。ただ、店舗裏面に回ってみると、大きな室外機が普段通り大きなうなり声をあげて動いていました。冷蔵品・冷凍品はいつでも営業再開できるように保存しておかなければならないので、考えてみれば当然のことです。

「月間特売」のチラシとスト決行中の張り紙が並んで張り出されていました。ストライキ期間は「7月18日(木)13:00~未定」と書かれており、組合側としても経営側との妥結の見通しは立っていないように見えました。



張り紙にはこのように書かれています。「現在、労働組合と会社側で労働争議が行われております。組合側は、代表取締役である菅井麻貴氏による会社資産の私的流用をやめさせ、経営陣による放漫経営の責任を問い、私たちの労働条件悪化を防ぐこと、雇用の安定を求めて闘っております。また菅井氏によるパワハラや不当労働行為に抗議しています。このまま放置すれば、私たち従業員の労働条件の悪化、さらには雇用も失われかねません。お客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解とご支援のほどよろしくお願い申し上げます。全国一般東京東部労働組合エス・インターナショナル支部」

市民・顧客の支持を得るため、きちんと自分たちの主張の正当性、経営側の不当性を張り紙で顧客に伝える組合側の姿勢には好感を持ちました。西武百貨店のストにも共通していますが、小売業界のストライキは利用客の支持を得られるかが重要な鍵を握っていると考えるからです。

経営者による会社財産の私的流用で、会社の経営状態は極限まで悪化しており、このまま座して見ていても死を待つだけ。それなら立ち上がって勝負に出るべきだというかなり切羽詰まった状況が今回のストライキの背景にあるように感じました。この点も西武百貨店のストライキと共通しています。市民・顧客からの支持は必ず得られるし、そうなるように訴えていくことも支援者の役割だと思います。

店舗閉鎖となっているのは、「業務スーパーすすきの狸小路店」「業務スーパー苫小牧店」「業務スーパー苫小牧東店」「業務スーパー室蘭店」「業務スーパー岩見沢店」「業務スーパー滝川店」「業務スーパー旭神店」の7店舗です。どの店舗もストライキの影響は大きいと思いますが、その中でも圧倒的に大きな影響を与えているのはすすきの狸小路店でしょう。いうまでもなく、業務スーパーがここに店舗を構えている理由は、日本三大歓楽街の1つといわれるすすきのの飲食店街に、良質な食材を大量に安く提供することです。

札幌一極集中が強まり、北海道中の若者を札幌が飲み込んでいく中、週末ともなると、すすきのは深夜0時を過ぎても若者の列が横断歩道を渡るため、車が右左折もできないほどです。巨大歓楽街の「夜間経済」を陰で支える業務スーパーすすきの狸小路店の閉店が長引けば、歓楽街へもじわじわと影響が及んでくるでしょう。

利潤獲得が目的の民間企業とはいえ、経済活動を担う企業は社会的存在です。そこにはルールがあり、資本主義経済の下では企業は私的に所有されていますが、私的な所有形態であることと経営者の私物であることは必ずしもイコールではありません。会社のカネを自分のカネのように思っている経営陣が退陣し、労働組合と労働者の望む形で早期に争議が収拾されることを、一道民として望みます。

(取材:文責/黒鉄好)

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【転載記事】東京東部労組:「業務スーパー」7店舗で無期限ストライキに突入!

2024-07-19 22:37:00 | その他社会・時事
経営者一族による会社資金の私的流用と、それを覆い隠す目的での「偽装倒産」を狙う会社側に対し、労働組合が無期限ストライキを行っている関係で、「業務スーパー」の北海道内の一部店舗が閉鎖されるという事態になっています。以下、レイバーネット日本からの転載です。

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東京東部労組:「業務スーパー」7店舗で無期限ストライキに突入!(レイバーネット日本)

全国一般東京東部労組の須田です。 以下、エス・インターナショナル支部の無期限ストライキ突入の報告です。

【東部労組エス・インターナショナル支部】「業務スーパー」7店舗で無期限ストライキに突入!

全国一般東京東部労組エス・インターナショナル支部は7月18日午後1時から、菅井麻貴社長らによる会社破産の策動に対抗し労働者の雇用を守らせるための無期限ストライキに突入しました。これによってエス・インターナショナルの子会社(株式会社ケヒコ)が北海道で運営している「業務スーパー」7店舗が臨時休業になりました。

ストライキによって休業になったのは「業務スーパーすすきの狸小路店」「業務スーパー苫小牧店」「業務スーパー苫小牧東店」「業務スーパー室蘭店」「業務スーパー岩見沢店 」「業務スーパー滝川店」「業務スーパー旭神店」の7店舗です。いずれも午前から営業中でしたが、午後1時を期して店舗入口に組合員が「ストライキ決行中」の貼り紙を掲示して休業となりました。

今回の無期限ストライキは前回6月29日に業務スーパー6店舗で決行した時限ストライキに続くものです。菅井社長は時限ストライキ後も自らの会社資産の私的流用などの放漫経営を反省しないどころか、会社弁護士と結託し会社の破産と労働者の解雇を策動しました 。組合側はすべての労働者の雇用継続を前提とする「自主再建」を要求しましたが、これに対しても社長が全面拒否する不誠実な対応を取ったため、組合は敢然と無期限ストライキに突入しました。

お客さまや関係各所の皆さまには大変ご迷惑をおかけしますが、すべての責任は上記のとおり経営陣の不誠実な対応にあることをぜひご理解ください。自らの私腹を肥やすために犯してきた様々な経営ミスを労働者になすりつけ、最後まで労働者の雇用と生活を犠牲にしようとしている菅井社長の策動をわたしたちは断じて許すわけにはいきません。

経営陣が誠意ある態度で解決を図るのであれば、ただちにストライキを解除する用意はありますが、経営陣が不誠実な対応を続けるのであれば、当労組も闘いを断固として継続していく決意です。

みなさんからの菅井社長への抗議ならびに組合へのご支援をよろしくお願いします!

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【転載記事】飛幡祐規 パリの窓から:フランスの総選挙 予測を覆した「新人民戦線」の勝利

2024-07-11 22:23:47 | その他社会・時事
パリ在住の日本人・飛幡祐規(たかはたゆうき)さんによるレイバーネットの名物連載「パリの窓から」で、フランス総選挙が取り上げられています。左翼「新人民戦線」が第1勢力に躍り出るという予想だにしなかった結果について、現地の目でレポート。

以下、全文を転載しますが、リンク先のレイバーネットには写真も豊富にアップされています。写真を含めてご覧になりたい方は、リンク先に飛んでください。

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飛幡祐規 パリの窓から:フランスの総選挙:予測を覆した「新人民戦線」の勝利(レイバーネット日本)

 7月7日の夜、フランス各地で歓声が上がった。総選挙の決選投票の結果、すべてのメディアと世論調査の予測を覆し、左派連合の新人民戦線NFPが1位(議席数)を獲得したのだ。マクロン与党連合が2位、第1回投票で得票率1位になった国民連合RN(と保守共和党一部の共闘)は3位にとどまり、極右による政権掌握は免れた。「極右を通すな」と奮起した左派の市民の呼びかけと行動が実を結び、フランス民主主義の一大危機はしばらくのあいだ遠ざかったのだ。50年生きたフランスで最も嬉しくほっとした瞬間だった。

 577議席のうち新人民戦線は182、マクロン与党は163、極右は143、その他に保守共和党、少数派候補がいるので、最終的な力関係はまだ定かでない。前回2022年の国会でもマクロン与党は過半数をとれなかったが、今回はさらに大幅に後退し、三つの陣営のうち左派と極右が議席を伸ばした。この状況でどのような政府を組織できるのか、現時点ではわからない。

極右を阻んだ市民

 投票率は67%で近年では記録的に高い。第五共和政下(1958年以来)の最初の30年間、フランスの国民議会選挙の投票率は7〜8割に及ぶほどフランス人は政治的国民と言われてきたのだが、1980年代の末から棄権が増え続け、マクロン大統領が当選した2017年以降はなんと過半数が棄権するようになっていた。棄権の増加は、ネオリベラル経済政策が進行した時期と重なる現象である点に注目したい。左翼が保守とほとんど変わらないネオリベ政策を行うと、「右も左も変わらない、暮らしは悪くなった」「政治(家)に期待しても無駄」という政治不信と諦めが、庶民階層(労働者や低所得従業員、失業者の層)に広がるのだろう。ところが、今回の電撃総選挙の第1回投票で2割近くも投票率が増えたのには、何か変えたい(マクロン政治への拒否、制裁)という国民の意思が表されている。マクロン与党の大幅な後退は、6月9日の欧州議会選挙でも示されていた(投票率は51,5%だが近年では高い)。

 501議席がたたかわれた決選投票も高い投票率だった。左派の市民は「極右を通すな」と呼びかけ、集会を催し、これまで政治活動をしたことがなかった人たち(とりわけ若い層)が大勢、ビラ配りや戸別訪問など選挙キャンペーンに参加した(前回のコラム参照)。また、マクロン与党陣営でも、極右を脅威だと考える人たちは投票所に出向いた。前回述べたように、極右に対抗するために、国民連合が1位になった選挙区で、次点ではなく3位になった新人民戦線の候補は(決選投票を闘う権利はあるが)候補を取り下げた(全部で132人)。マクロン陣営では「極右と極左の双方を拒む」という立場から退くのを拒んだ候補もいたため、取り下げたのは82人だった。三候補者による選挙区が89に減り、二候補一騎打ちが409選挙区に増えた状況で、この戦術のおかげで極右の議席の大幅な増加が抑えられた。同時に、マクロン陣営も左派の取り下げのおかげで、多くの議席を確保できたのである(それがなければ50議席以下だったと推算されている)。

 選挙後の世論調査によると、新人民戦線の支持者は極右を阻むために、支持しないマクロン陣営の候補に72%が投票した(極右には3%)。それに対し、マクロン陣営支持者は候補者が「服従しないフランスLFI」以外のNFP候補の場合は54%(極右に15%)、LFIの候補には43%(極右に19%)が投票し、極右を阻もうという意識がより低いことがわかる。保守の共和党支持者ではさらに低く、LFI以外のNFP候補に29%(極右に34%)、LFIの候補者には26%(極右に38%)だった。つまり、左派の市民は極右を堰きとめる役割をかなり忠実に果たしたが、マクロン陣営では15〜19%が極右を選び、その割合は保守では3分の1を超え、左派より極右を選ぶ人が優勢だった。

 それにもかかわらず、マクロン陣営やメディアは早速、新人民戦線は過半数を取ったわけではないから政府を任せるわけにはいかないというシナリオを展開している。NFPの右派(社会党内など)の人を引き抜き、共和党からも少し引き抜いて、マクロン陣営中心の「大連立」政府をつくるアイデアだ。ドイツなど他のヨーロッパの国では、互いに相容れない政党も含む複数の党で連立政府をつくることがあるが、フランスの第五共和政でその例はない。欧米の主要メディアは、フランスの政治状況は今後不安定さが続くだろうと推測している。一方、新人民戦線は選挙で1位になったから政権に就くのが当然だと主張。短期、中期、長期に分けて支出とその融資方法も考えた政策プログラムがあるから、すぐに政府をつくれると指摘する。選挙の翌日の7月8日、アタル首相は辞任を提出したが、マクロンは次の政府が成立するまで現政府を続行することに決めた。

極右の浸透を招いたメディア

 この歴史的な選挙に居合わせて、極右勢力の増長に主要メディア(とりわけ極右の億万長者ボロレが所有する24時間テレビ、ラジオ、新聞・雑誌)と世論調査がいかに寄与したかを痛感した。ジャン=マリー・ルペン(マリーヌの父)が1972年に創始した「国民戦線FN」(2018年から「国民連合RN」に変名)が唱える排外主義と差別思想(すべての悪は移民・外国人のせい)は、1980年代半ばからしだいに社会に浸透していった。マリーヌ・ルペンが大統領選に出馬した2012年以降は、彼女が父親ほど極端な言い方をしなくなったからと、多くのメディアはこの極右政党(ナチスとヴィシー政権協力者を創立メンバーに含み、国務院も「極右」と認定している)をしだいに普通の政党のように扱うようになった。

 なかでも、ボロレが所有する24時間テレビCNews, C8などでは反移民・反イスラムの差別的発言を頻発するジャーナリストのゼムール(後に政党を作って2022年の大統領選に出馬)をはじめ、多くのコメンテーターが反移民の差別的言説を四六時中述べるようになった。とりわけ2015年のイスラム過激派による連続テロ以降は、移民が多い地区でイスラム原理主義の影響が増大しているという「やらせ」ルポなども作られ、国内のイスラム教徒を原理主義者やテロリストと混同して疑い、移民系フランス人を敵視する論調が主要メディアにも広がった。オランド社会党政権とマクロン政権はこの風潮に呑まれたかのように、たとえば移民系の若者たちが頻繁に受ける警察の不当な暴力に対して公平に対処せず、マクロンは差別的な治安法と移民法まで可決させた。

 国民連合を支持する人に話を聞くと、「テレビで見た、聞いた」と言う。そしてRNの政策内容は知らず(難民・移民への援助金をやめ、追い出すこと以外は)、時には候補者が誰かも知らないが、彼らに投票すれば「変わる」と言う。RNが国会で最低賃金の引き上げに反対票を投じたと指摘しても、「外国人や働かない人を援助しなければ暮らしはよくなる」と思っている。経済学者のステファノ・パロンバリーニによれば、フランスでもここ40年来、ネオリベラル思想が支配的になったため、労働者層の人にも社会の進歩(公平なより良い社会)を信じず、「企業(会社)」は階級闘争の場ではなく競争力が重要だと思う人が増えた。彼らに向けて極右は庶民層を分断し、「フランス人のあなたを安全に守ってあげる、移民・難民、イスラム教徒への援助をやめればあなたの税金を減らせる」と語りかけるのだとパロンバリーニ言う。そして、この間違った論理を受け入れる人には差別意識があると指摘する。フランス社会に構造的なレイシズムは昔からあったが、かつては人前で差別発言をすることは憚れた。近年の現象は、ボロレ所有のテレビなどで平気で言う人が増えたので、開き直るようになったことだと。

 極右は欧州議会選挙以来、ブルジョワ陣営にも支持者を獲得した。マクロンの政治のやり方がひどくて人気を失い、弱体化したのを感じたブルジョワ陣営にとって、ネオリベラル政策との決別を掲げる左派(新人民戦線とくに服従しないフランス)は増税をもたらすから危険なため、ネオリベ政策にもEUにも反対しなくなった極右に投票する人が出てきたのだ。

 国民連合(共闘した共和党含む)は今回の選挙で55議席も増やしたが、577人の候補者のうちレイシズム、LGBT差別発言、暴力、陰謀説などの問題がある人が100人以上もいることが、極右取材専門のジャーナリストたちと市民の協力によって判明した(多くは落選)。これまでも差別発言をしたRNの議員がいたが、メディアはそれを特に重大な問題としては報道しなかった。その一方、服従しないフランスのメランションや議員、候補についての事実無根の中傷やデマ(反ユダヤ主義、テロリズム誘発、プーチン支持など)を多くの政治家やジャーナリストが検証せずに語り、訂正もされない。これまで2件、メランションに対する暗殺計画が未遂に終わり、極右の首謀者2人は9年と18年の有罪になったが、それも大きなニュースにはならなかった。現在もLFIの議員複数が極右から脅迫を受け続けている。極右の暴力や差別主義を大目にみる一方で、「ネオリベラル政策との決別」を掲げる左派勢力を不当に悪く言い続ける状況は、民主主義にとってとても危ういものに感じられる。

 新国会は7月9日に開催されたが、マクロンは新人民戦線の勝利をいまだ認めず、この陣営から首相を選ぶことを拒否している。市民が発揮しためざましい民主主義のほとばしりが踏みにじられずに、新人民戦線政府が誕生することを願う。

・コラム第91回 欧州議会選挙での極右の勝利とフランスの「新人民戦線」
・コラム第92回 フランスの総選挙前夜:極右による権力掌握の危機に対抗する「新人民戦線」の希望
・コラム第93回 フランスの総選挙決選投票前夜:極右、新人民戦線、マクロン陣営

服従しないフランスの政策プログラムの日本語訳『共同の未来 <民衆連合>のためのプログラム』がもうすぐ出版されます。

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【転載記事】国連人権理事会「ビジネスと人権に関する作業部会」報告書の日本語仮訳が公開されました

2024-07-08 23:00:08 | その他社会・時事
管理人よりお知らせです。

国連人権理事会「⼈権及び多国籍企業並びにその他の企業の問題に関する作業部会」(通称:ビジネスと人権作業部会)は、これまで特別報告者による訪日調査などを行い、日本企業のビジネスと人権に関する実態を明らかにする作業を続けてきました。

この問題については、国連や、日本国内の人権団体が問題にしたかったのとはまったく異なる方向から注目を浴びました。その経緯を含め、当ブログでは過去に一度、取り上げています(当ブログ2023年9月22日付け記事「問題は本当にジャニーズだけか? 日本企業に「行動変容」迫る「ビジネスと人権」の大波」参照)。

この作業部会の報告書がこのほどまとまり、国連ホームページに英語で公表されました。人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」関係者による日本語仮訳が同団体のホームページに掲載されましたので、ご紹介します。

なお、当ブログの文字数制限を超えるおそれがあるため、全文の転載はしません。見たい方は、「ヒューマンライツ・ナウ」ホームページの該当コンテンツへ、直接飛んでください。

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衰退・凋落加速する日本 反転攻勢の目はあるか?

2024-06-30 22:37:55 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2024年7月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ●混迷都知事選は凋落の象徴

 東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)がかつてない混迷の中にある。本誌が読者諸氏のお手元に届く頃はちょうど選挙運動も終盤に入っていると思う。立候補者は過去最高の56人に上るものの、その9割以上は政策実現のためでも「選良」を目指すためでもない。

 公営掲示板のポスター枠を売買する政治団体や、公序良俗に反する卑わいなポスターを貼り出し、都選管から注意を受け即日はがした陣営さえある。これがG7の一員である日本の首都で起きている出来事だとは思いたくもない。目を覆わんばかりの惨状だ。

 「迷惑系ユーチューバー」として悪名を馳せた「へずまりゅう」氏でさえ、宣言していた立候補を取りやめ、恐れをなして撤退したところを見ると、もはや都知事選は「売名」の場としてすらまったく機能していない。市民には重い負担を課しながら、自分たちだけ裏金をつくって私腹を肥やす政治にはもはや何を言っても無駄、それなら徹底的に選挙を荒らして憂さ晴らしでもしようという「終末思想」が都知事選全体の通奏低音になっていると言っても決して過言ではない。

 泡沫候補の大量立候補に伴い、供託金の没収額も1億円を超え過去最高になりそうだとする報道もある。都知事選の供託金は300万円。法定得票数(有効投票数の1割)を確実に超えられそうなのは、現職・小池百合子知事の他、最有力対抗馬・蓮舫前参院議員(立候補に伴い参院議員を失職)、石丸伸二・前広島県安芸高田市長まで。田母神俊雄・元航空幕僚長にも法定得票数突破の可能性があるが、残る52人にはまずない。仮に52人が供託金没収となる場合、その額は1億5600万円にもなる。

 ●円安ドル高の背景にあるもの――思い出した「杜海樹さんの昔のコラム」

 政治、経済、社会、あらゆる分野で日本の凋落が加速している。特に、外国為替市場の円安ドル高は円の「全面崩壊」と形容できるほどの状況にある。2020年6月1日時点で1ドル=107円92銭だった為替市場は、1年後の2021年6月1日時点でも111円10銭とほとんど下落しなかったが、2021年以降は急速に下落が加速。2022年6月1日には135円73銭と約2割も下落した。さらに、2023年6月1日には144円32銭(対前年同月比6%下落)、2024年6月1日にはついに159円79銭と、対前年度比で1割、2021年6月1日時点との比較では31%も下落した。わずか3年間でこれだけの下落率である。

 円相場は、2024年1月1日時点では146円88銭だったから、今年に入ってからの5ヶ月間で8%も下落したことになる(ここまで、いずれも終値)。下半期もこのペースで円安ドル高が進んだ場合、今年の年末には年始から16%も円が下落することになる。食料・エネルギーの大半を輸入に頼る日本でこれだけ急激な円安ドル高が進めば、経済がおかしくなって当然だ。

 本誌のバックナンバーを保管している読者諸氏に、ぜひ読み返していただきたい記事がある。2021年4月号掲載の杜海樹さんのコラム「通貨の相対的価値という問題」だ。日経平均株価がバブル期を上回る4万円台をつけるなど(この記事掲載の段階では4万円台はまだ記録していなかったが)、記録的に進んでいる株高について、多くのエコノミストが「株が高くなったのではなく日本の通貨が相対的に下落した結果」だと指摘しているというもので、興味深く読んだ。

 経済を専門に学習していない読者にとっては、もう少し詳しい説明が必要かもしれない。そもそも「物価とは何か」と聞かれたら、皆さんはなんと答えるだろうか。経済学の教科書的に言えば物価とは「通貨と財・サービスの交換価値」のことをいう。一般的に、企業の価値は株式会社の場合、株価で示されるが、実体経済の中で企業の価値は変わらないのに通貨の価値が下落しているなら、その企業の価値を表す株価には、通貨が下落した分だけ以前より高い数字を使わなければならなくなる。要するに、起きているのは円安ドル高と同じ「円安株高」現象だというのが「杜海樹説」のポイントである。3年前は「まあ、そういう説もあるよね」的な感覚で、私も正直なところ半信半疑だった。今になって改めて記事を読み返してみると、この説が正しかったことが浮き彫りになる。

 今年5月の大型連休中、東京・高島屋で開催された金製品の展示会会場から金の茶碗が盗まれる事件が世間を騒がせた。その他にも、外国人を中心とする窃盗団による高級時計盗難事件などが報道されている。強盗犯や窃盗犯のほとんどが「物」を盗む一方で、最近は現金が盗まれる犯罪がほとんど報道されていないことにお気づきの読者もいるかもしれない。

 こんな話をすると驚かれるかもしれないが、実は、経済のことを最もよく勉強しているのは強盗、窃盗、詐欺などの犯罪を働く集団である。これらの人々にとっては、逮捕・服役などのハイリスクを取ってまで行動に踏み切る以上、ハイリターンでなければ割に合わないから、何を盗むのが最も費用対効果が高いかを「熱心に勉強」しているのである。そうした犯罪集団にとって、1年で8%、3年で3割も価値が下落する日本円のような現金はハイリスクを取ってまで盗む価値もないというのが実感なのだろう。これに対して、財物の価値は変わらないから、現金の価値が下落トレンドにあるときは、財物を盗む方が「割に合う」のである(投機筋の間では「有事の金」と言われ、戦争などの有事には金の価格が上がることが多い。しかし厳密にいうと、金は、量も財物としての価値も常に不変だから、実際には金が上がっているのではなく、通貨のほうが下がっているのである)。要するに、現金ではなく財物が盗まれるのは、政府が与えた通貨の信認が低下していることを示しており、「途上国型」の犯罪なのだ。

 こうした事実を裏付けるように、今年に入ってからこの問題を特集する経済専門紙誌が増えている。例えば、週刊「エコノミスト」2024年6月4日号「円弱~国際収支の大変貌を追う」と題する特集記事では、途上国化する日本経済に警告を発している。日本経済は現在、年間5兆円近いデジタル赤字を、同じく年間5兆円近いインバウンド(海外からの訪日客)消費の黒字で埋める構造になっているというのだ。

 デジタル赤字とは、日本が海外から受け取るデジタル部門での稼ぎから、海外に対するデジタル部門での支払額を差し引いた収支のマイナスのことをいう。日本人が使っているインターネットサービス(特にSNS=ソーシャル・ネットワーク・サービス)は、X(旧ツイッター)、Amazon、Facebookなどほとんど米国製であり、これらサービスからの課金を日本人がオンラインで支払うたびに、日本から米国へ資金が流出している。日本人が使うその他のデジタルサービスを見ても、LINEは韓国発、若者に人気のショート動画投稿サービス「tiktok」は中国発のサービスであり、中韓両国へも資金が流出している。これに対し、日本製のデジタルサービスで海外から利用されるものはほとんどないから、収支が大幅なマイナスになっているのである。

 一方、インバウンド消費についても説明が必要だろう。海外からの訪日観光客が日本国内で買い物をし、それを自国に持ち帰る場合、貿易統計上は輸出として取り扱われる。こうした行為は、それが観光客個人によって行われる点が違うだけで、日本企業が、例えば車や電気製品などを海外へ輸出し、海外から代金を受け取る行為と変わらないから輸出に当たるのだ。この「観光収支」が日本は大幅な黒字になっており、デジタル赤字の大部分をここから埋めることができているという。

 日本は、デジタル時代への対応が大幅に遅れ「デジタル敗戦」ともいわれる現状を招くに至った。日本経済は、デジタルでの赤字を、インバウンドに対する「おもてなし」というアナログで稼いで埋める経済構造になっている。目下の円安ドル高は、このような日本経済の構造的要因から発生しているため、一時的な現象ではなく長期的な(おそらく数十年スパンの)トレンドとなる可能性が高い。

 「エコノミスト」誌は、「デジタル赤字を前提にどう稼ぐか」を議論しなければならないとする専門家の発言を掲載しており、日本がデジタル敗戦から脱出する道は描けていないようだ。新型コロナが猛威を振るっていた2020年当時、台湾政府が閣僚に任命したオードリー・タン氏がデジタルを活用して迅速な対策を打ち出したのに対し、日本はコロナ感染者数を医療機関から保健所にFAXで送付する態勢を続け大きな批判を浴びた。日本がデジタル敗戦から復活できるようには、私にはとても見えない。

 ●人心荒廃で日本はどこに行く?

 経済の凋落も深刻ではあるが、目下の日本にとってそれ以上に深刻なのは人心荒廃なのではないだろうか。店舗従業員や鉄道の駅員など、反論権のない相手を見つけ出しては長時間、執拗なクレームを続ける「カスタマーハラスメント」はその最たるものだろう。それだけのエネルギーがあるならなぜ政府・自民党・経団連など「上」に向けないのか。

 愚かな行動を取る層は昔から一定数存在していたが、最近、そうした事例が騒ぎになる原因として、インターネット普及で誰もが発信者になれる時代が到来したという側面はあるかもしれない。しかし、そうした発信者たちが集会、デモなどの「発信」に務めている姿は見たことがない。発信の対象になるのはあくまで個人的で、どうでもいい「私怨」のような事例ばかりだ。インターネットは、むしろ政府や権力者に異議を唱える人々に対するバッシング以外には使われなくなりつつある。

 歴史家・半藤一利氏(2021年没)は、欧米列強が江戸幕府に開国を迫った1865年を起点として、日本は40年周期で興亡を繰り返すとする説を唱えた。日露戦争に勝利し日本が列強の仲間入りをした1905年を頂点、敗戦の1945年を底とし、バブル経済を直前に控えた1985年を頂点とした。半藤説が正しければ、来年、2025年は日本にとって1945年に匹敵する「どん底」となる。

 もちろん日本史は世界史と連動しており、ウクライナ・ガザで2つの戦争が同時進行する世界には確かに終末感がある。このような「底」から這い上がるために、日本は社会、経済の両面で何をすべきか。経済に限っていえば、インバウンドへの「おもてなし」以外の新たな有力産業を育成することは急務だろう。問題は、その有力産業の候補が思い当たらないことである。当面は「おもてなし」を続ける以外になさそうだ。

(2024年6月23日)

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イスラエル軍関係者の宿泊を拒否した京都のホテルに連帯を表明します

2024-06-23 23:13:57 | その他社会・時事
6月11日、京都市東山区のホテルが、イスラエル人男性の宿泊客を「軍関係者の可能性がある」として拒否したことがニュースになっている。

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京都市のホテル、イスラエル人の宿泊拒否 市が運営会社を行政指導(毎日)

 京都市東山区のホテルが、イスラエル国籍の男性の宿泊を断っていたことが21日、明らかとなった。市は旅館業法に基づき、ホテルの運営会社を行政指導した。

 市によると、イスラエル国籍の男性が宿泊拒否されたという投稿が、SNS(ネット交流サービス)で拡散しているとの情報が17日に寄せられた。ホテル側に事実関係を確認したところ、男性をイスラエル軍の関係者であるとみなし、パレスチナ自治区ガザ地区への侵攻も踏まえ、宿泊予約をキャンセルするよう求めたという。

 同法は、賭博などで風紀を乱すおそれがある場合などを除き、宿泊を拒んではならないと定めている。市は、ホテルによる説明は、宿泊を拒否できる理由には該当しないと判断した。

 イスラエル大使館はホテル側に「明らかな差別事件だ」とする抗議の書面を送った。【南陽子】
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日本のメディアは、イスラエルに対して何を忖度しているのか知らないが、最も重要なことを(おそらく意図的に)無視している。旅館業法は、確かに正当な理由のない宿泊拒否を禁止している。しかし一方で、「宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき」(旅館業法第5条1項2号)は宿泊拒否できることを定めている。「その他の違法行為」と旅館業法に規定されているにもかかわらず、毎日新聞はなぜ意図的にそこだけをぼかすのか。

イスラエル軍が行っている行為は明確な違法行為に当たる。日本も批准しているジュネーブ条約追加第一議定書第41条1項は、「戦闘外にあると認められる者又はその状況において戦闘外にあると認められるべき者は、攻撃の対象としてはならない」と明確に定めている。今、ガザで行われていることが非戦闘員への攻撃でないとすれば一体何なのか。攻撃正当化のためイスラエル政府が使っている「ガザ地区に住んでいる者は全員がハマスの戦闘員である」などという屁理屈を信じる者は、イスラエル国民の中にさえそれほど多くないだろう。

ガザで行われている人類史上最悪レベルの戦争犯罪に比べれば、イスラエル人宿泊客の宿泊拒否など取るに足らないものだ。宿泊拒否によって誰かが死んだり飢えたり傷ついたりしているわけでもない。旅館業法が定める違法行為には、当然、ジュネーブ条約に基づく戦争犯罪も含まれており、京都市の解釈は間違っている。ガザでの停戦が実現するまで、むしろイスラエル国籍者全員の宿泊を拒否すべきだと当ブログは考える。当ブログはこのホテルに断固として連帯を表明する。次の関西遠征時にはぜひ宿泊して応援したいと思っている。

<参考法令>
旅館業法
1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(略称:ジュネーブ条約追加第一議定書)

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ウクライナ・パレスチナに平和を! 2.24札幌集会開催

2024-02-25 00:31:31 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)

ウクライナ戦争開始から2年となる24日午前11時から、札幌駅前で「ウクライナ・パレスチナに平和を! 2.24札幌集会」(主催:戦争をさせない北海道委員会)が開かれ約100人が集まった。

主催者あいさつの後、清末愛砂・室蘭工業大学教授(憲法学;「戦争をさせない北海道委員会」呼びかけ人)がスピーチ。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」との日本国憲法前文を引用し「時間が経つほど戦争への関心が薄れていくのを感じる。ガザは平和的生存権の適用除外対象ではない。私たちがジェノサイドを見逃せば見逃すほど、同様の行為が繰り返される。イスラエル軍は、南部ラファに住民を押し込めておいてから攻撃を加えようとしている。こうした卑劣な行為を私たちが見逃さないことが大切だ」と述べた。また、最近も国連安全保障理事会で停戦を求める決議に拒否権を発動した米国を批判した。

事の本質を見極めず、ハマスの攻撃がこのような事態を招いたとする主張が、イスラエル支持の根拠として今も根強くある。清末さんはそのような表面的な見方を否定。長く続いたイスラエルのガザ占領が今日の事態を招いた歴史を正しく理解するよう、市民に訴えた。





集会は30分間で終了し、11時30分からは引き続き「戦争をさせない市民の風・北海道」主催のスタンディングが行われた。動画撮影をしているだけで手がかじかむ氷点下3度の寒風の中だったが、これでも札幌の平年と比べると暖かいほうだ。ウクライナ各地では札幌と同等かそれ以下の寒空の中、市民が死の恐怖に直面している。集会参加者は私語もせずスピーチに聞き入っていた。

ウクライナ戦争開始から2年を迎える中、メディア報道も開戦当初の「ロシアの侵略に負けるな」一色から、一般市民の犠牲の増加を憂えるもの、両国での徴兵拒否の増加を伝えるものが多くなっているのは良い方向への変化といえる。平和と引き替えにウクライナがロシアによる占領地をあきらめなければならない可能性に言及する報道も出てきている。

1967年の第3次中東戦争でシナイ半島はイスラエルに占領されたが、エジプトは1980年代に入り、イスラエルとの交渉で返還を実現させた。武力で奪われた領土を、後日、交渉により平和的に回復した実例は、歴史をひもとけばいくらでもある。罪のない市民の犠牲をこれ以上増やさないため、ウクライナでもガザでも直ちに停戦を実現し、領土の帰属は国際社会を交えた話し合いで決める必要がある。

2024.2.24 ウクライナ・パレスチナに平和を! 2.24札幌集会


(取材・文責:黒鉄好)

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【転載記事】ICJ(国際司法裁判所)によるイスラエルに対する「ジェノサイド防止命令」の日本語訳(その2;判決部分)

2024-02-20 18:47:42 | その他社会・時事
86. 以上を根拠として、当裁判所は、次の各号の仮保全措置を提示する。

(1) 15対2によって、イスラエル国は、ジェノサイド条約に基づく義務に従い、ガザのパレスチナ人との関係において、特に以下の行為を含めこの条約の第2条の範囲内のすべての行為の実行を防止するために、その権限内にあるすべての措置をとるものとする:

(a) 集団構成員を殺すこと;
(b)集団構成員に対して重大な身体的または精神的な危害を加えること;
(c)全部または一部に身体的破壊をもたらすことを意図する生活条件を集団に対して故意に課すること;
および
(d)集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。

賛成票:ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ裁判官、アブラハム裁判官、ベニューナ裁判官、ユーセフ裁判官、シュエイ裁判官、バンダーリ裁判官、ロビンソン裁判官、サラーム裁判官、イワサワ裁判官、ノーテ裁判官、チャールスワース裁判官、ブラント裁判官、モセヌケ特任裁判官
反対票: セブティンデー裁判官、バラク特任裁判官

(2) 15対2によって、イスラエル国はその軍隊が上記(1)のいかなる行為も行わないことを直ちに確保するものとする。

賛成票:ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ裁判官、アブラハム裁判官、ベニューナ裁判官、ユーセフ裁判官、シュエイ裁判官、バンダーリ裁判官、ロビンソン裁判官、サラーム裁判官、イワサワ裁判官、ノーテ裁判官、チャールスワース裁判官、ブラント裁判官、モセヌケ特任裁判官
反対票: セブティンデー裁判官、バラク特任裁判官

(3) 16対1によって、イスラエル国は、ガザ地区のパレスチナ人集団のメンバーに関しジェノサイドの実行を直接的かつ公然と扇動する行為を防止および罰するために、その権力の及ぶ限りあらゆる措置をとるものとする。

賛成票:ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ裁判官、アブラハム裁判官、ベニューナ裁判官、ユーセフ裁判官、シュエイ裁判官、バンダーリ裁判官、ロビンソン裁判官、サラーム裁判官、イワサワ裁判官、ノーテ裁判官、チャールスワース裁判官、ブラント裁判官、バラク特任裁判官、モセヌケ特任裁判官
反対票: セブティンデー裁判官

(4) 16対1によって、イスラエル国は、ガザ地区のパレスチナ人が直面する不利な生活状況に対処するため、緊急に必要とされる基本的サービスと人道支援の提供を可能とする即時かつ効果的な措置をとるものとする。

賛成票:ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ裁判官、アブラハム裁判官、ベニューナ裁判官、ユーセフ裁判官、シュエイ裁判官、バンダーリ裁判官、ロビンソン裁判官、サラーム裁判官、イワサワ裁判官、ノーテ裁判官、チャールスワース裁判官、ブラント裁判官、バラク特任裁判官、モセヌケ特任裁判官
反対票: セブティンデー裁判官

(5) 15対2によって、イスラエル国は、ジェノサイド条約第2条および第3条の範囲内の、ガザ地区のパレスチナ人集団の構成員に対する行為について、申し立てに関する証拠の破壊防止と保全確保のための効果的な措置をとるものとする。

賛成票:ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ裁判官、アブラハム裁判官、ベニューナ裁判官、ユーセフ裁判官、シュエイ裁判官、バンダーリ裁判官、ロビンソン裁判官、サラーム裁判官、イワサワ裁判官、ノーテ裁判官、チャールスワース裁判官、ブラント裁判官、モセヌケ特任裁判官
反対票: セブティンデー裁判官、バラク特任裁判官

(6) 15対2によって、イスラエル国は、この決定の日付から1カ月以内に、この決定を実現するためにとられたすべての措置に関する報告書を当裁判所に提出するものとする。

賛成票:ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ裁判官、アブラハム裁判官、ベニューナ裁判官、ユーセフ裁判官、シュエイ裁判官、バンダーリ裁判官、ロビンソン裁判官、サラーム裁判官、イワサワ裁判官、ノーテ裁判官、チャールスワース裁判官、ブラント裁判官、モセヌケ特任裁判官
反対票: セブティンデー裁判官、バラク特任裁判官

ハーグの平和宮において、2024年1月26日に、英語とフランス語で作成され、英語版が権威を持つ。作成された3部のうち1部は当裁判所文書施設に保管され、他の2部はそれぞれ南アフリカ共和国政府とイスラエル国政府とに送付される。

(署名) ジョアン・E・ドナヒュー、裁判長
(署名) フィリップ・ゴティエ、書記官
シュエイ裁判官は当裁判所の決定について宣言書を提出、セブティンデー裁判官は当裁判所の決定について反対意見を提出、バンダーリ裁判官とノーテ裁判官はそれぞれ当裁判所の決定について宣言書を提出、バラク特任裁判官は当裁判所の決定について個別意見書を提出。

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【転載記事】ICJ(国際司法裁判所)によるイスラエルに対する「ジェノサイド防止命令」の日本語訳(その1)

2024-02-20 18:15:15 | その他社会・時事
1月26日、国際司法裁判所(ICJ)は南アフリカ共和国の提訴に基づき、イスラエルに対しジェノサイド(大量虐殺)を防止するために必要な措置を取るよう命令を出した。ICJは警察や軍などの「暴力装置」を持たないため、この判決をイスラエルに対し物理的に強制することはできないものの、国際法としての法的拘束力を持つことになる。

この判決文の日本語訳が待ち望まれていたが、小倉利丸さんによる日本語訳が完成したので、以下、全文をご紹介する。国際社会がイスラエルの行動を「犯罪、蛮行」と認めた画期的な文書を、このまま埋もれさせるわけにいかない。なお、当ブログの文字数制限を超えるため、2回に分けて掲載する。

また、印刷用PDF版も公開されている。

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小倉利丸 : 国際司法裁判所による保全措置命令の日本語訳全文を公開(JCA-NET)

国際司法裁判所

2024年1 月 26 日 付託事件リストNo.192

ガザ地区におけるジェノサイド犯罪の防止と処罰に関する条約適用の申立て

(南アフリカ対イスラエル)

仮保全措置の提示要求

決定

出席者
ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ裁判官、アブラハム裁判官、ベニューナ裁判官、ユーセフ裁判官、シュエイ裁判官、セブティンデー裁判官、バンダーリ裁判官、ロビンソン裁判官、サラーム裁判官、イワサワ裁判官、ノーテ裁判官、チャールスワース裁判官、ブラント裁判官、バラク特任裁判官、モセヌケ特任裁判官
ゴティエ書記官

国際司法裁判所は上記で構成され、審議の結果裁判所規程第41条および第48条、ならびに裁判所規則第73条、第74条および第75条を考慮して、以下に示す通り決定する:

1.南アフリカ共和国(以下「南アフリカ」)は2023年12月29日、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約(以下「ジェノサイド条約」または「条約」)に基づく義務のガザ地区における違反の疑いに関し、イスラエル国(以下「イスラエル」)に対する申立手続を開始するこの申立書を当裁判所書記官に提出した。

2.この申立書の最後で、南アフリカは、以下のように述べた。
「謹んで裁判所に以下の判断を下すとの宣言を求める、すなわち、
(1)南アフリカ共和国およびイスラエル国はそれぞれ、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約に基づく義務に従い、パレスチナ人集団の構成員との関係において、ジェノサイドを防止するために、その力の及ぶ範囲内であらゆる合理的な措置を講じる義務があり、
(2) イスラエル国にあっては、
(a)ジェノサイド条約に基づく義務、特に第1条とともに、第2条、第3条(a)、第3条(b)、第3条(c)、第3条(d)、第3条(e)、第4条、第5条および第6条に定める義務に違反し、かつ、違反し続けており、
(b)ジェノサイド条約、特に第1条、第3条(a)、第3条(b)、第3条(c)、第3条(d)、第3条(e)、第4条、第5条および第6条に定める義務を完全に尊重し、パレスチナ人を殺害しもしくは殺害し続けることができるような行為もしくは措置、パレスチナ人に身体的もしくは精神的に重大な危害を与えもしくは与え続けることができるような行為もしくは措置、またはパレスチナ人の集団に故意に危害を与えるような行為もしくは措置を含めて、これらの義務に違反する行為もしくは措置を直ちに中止しなければならず、
(c)第1条、第3条(a)、第3条(b)、第3条(c)、第3条(d)、第3条(e)に反してジェノサイドを犯した者、ジェノサイドを謀議した者、ジェノサイドを直接かつ公に扇動した者、ジェノサイドを企図した者およびジェノサイドに加担した者が、第1条、第4条、第5条および第6条の要請に従って、権限のある国内審判所または国際審判所によって処罰されることを確保しなければならず、
(d)上記の目的のために、また、第1条、第4条、第5条および第6条に基づく義務を促すために、ガザから避難した集団のメンバーを含め、ガザのパレスチナ人に対して行われたジェノサイド行為の証拠を収集し確保しなければならず、直接的または間接的なその証拠を収集し、保存することを確保することを許可するとともに、これを阻害してはならず、
(e)パレスチナの犠牲者の利益のために、賠償の義務を果たさなければならず、これには、強制的に避難させられたり、拉致されたりしたパレスチナ人の安全で尊厳ある帰還、完全な人権の尊重、さらなる差別や迫害、その他の関連行為からの保護、および第1条のジェノサイド防止義務に合致した、ガザでイスラエルが破壊したものの再建のための提供などが含まれるが、これらに限定されず、
(f)特に第1条、第3条(a)、第3条(b)、第3条(c)、第3条(d)、第3条(e)、第4条、第5条および第6条に規定された義務におけるジェノサイド条約違反が繰り返されないよう保証と確約が提示されければならない。」

3.南アフリカはこの申立書において、裁判所規程第36条第1項およびジェノサイド条約第9条に基づき、当裁判所の管轄権の確認を求めている。

4.この申立書には、規程第41条および裁判所規則第73条、第74条、第75条に基づき提出された仮保全措置の提示を求める請求が含まれていた。

5.南アフリカは申立書の最後で、以下の仮保全措置を提示するよう裁判所に求めた。

(1)イスラエル国は、ガザ内およびガザに対する軍事行動を直ちに停止しなければならないこと。
(2)イスラエル国は、自国の指示、支援または影響を受けている軍隊または非正規武装部隊並びに自国の管理、指示または影響を受ける可能性のあるすべての団体および個人が、上記(1)の軍事作戦を助長するような措置をとらないことを確保すること。
(3)南アフリカ共和国およびイスラエル国は、それぞれ、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約に基づく義務に従い、パレスチナの人々との関係において、ジェノサイドを防止するため、その権限内にあるすべての合理的な措置をとるものとすること。
(4)イスラエル国は、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約により保護される集団としてのパレスチナの人々との関係において、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約に基づく義務に従い、特に同条約第2条の範囲内の下記の一切の行為の遂行をやめるものとする。
(a) 集団構成員を殺害すること、
(b)集団構成員に対して重大な身体的または精神的な危害を加えること、
(c)全部または一部に身体的破壊をもたらすことを意図する生活条件を集団に対して故意に課すること、
(d)集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
(5)イスラエル国は、上記(4)(c)に従い、パレスチナ人との関係において、下記の事項を行うことをやめ、その権限内で下記の事項を防止するために、命令、制限、および/または禁止事項を撤回することを含め、あらゆる手段を講じなくてはならない。
(a) 住居からの追放と強制移住、
(b) 以下の剥奪、
(i) 十分な食料と水へのアクセス、
(ii)十分な燃料、避難所、衣服、衛生、下水設備へのアクセスを含めた、人道支援へのアクセス、
(iii) 医療の供給と医療支援、
(c) ガザのパレスチナ人の生活破壊。
(6)イスラエル国は、パレスチナ人との関係において、その軍隊ならびにその軍隊の指揮、支援またはその他の影響を受ける非正規の武装部隊または個人、およびイスラエルの管理、指示または影響を受ける可能性のある組織および個人が、上記(4)および(5)に掲げる行為を行わないこと、またはジェノサイドを行うことを直接かつ公然と教唆しないこと、ジェノサイドの実行を共謀しないこと、ジェノサイドの実行を企てないこと、ジェノサイドの実行もしくはジェノサイドに加担することに関与しないことを確保するものとし、それらの行為に関与した場合はジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約の第1条、第2条、第3条および第4条に従ってその処罰に向けた措置がとられることを確保する。
(7)イスラエル国は、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約第2条の範囲内の行為の申立てに関連する証拠の破壊を防止し、その保全を確保するための効果的な措置をとるものとする。そのため、イスラエル国は、当該証拠の保全とその継続を確保することを支援する事実調査団、国際委任団、その他の機関によるガザへのアクセスを拒否または制限するような行為を行ってはならない。
(8)イスラエル国は、この決定を実現するためにとられたすべての措置に関する報告を、この決定の日から1週間以内に裁判所に提出するものとし、その後、裁判所がこの事件に関する最終決定を下すまで、裁判所が命じる定期的な間隔で報告書を提出するものとする。
(9)イスラエル国は、裁判所に提起されている紛争の悪化または拡大、あるいはその解決を困難にするようないかなる行動も慎み、かつ、当該行為が行われないことを確保するものとする。」
6.副書記官は、裁判所規程第40条第2項および裁判所規則第73条第2項に従い、仮保全措置の提示の請求が含まれる本申立書をイスラエル政府に直ちに通告した。同書記官はまた、南アフリカがこの申立ておよび仮保全措置の提示を求める要請を提出したことを国際連合事務総長にも通知した。

7.裁判所規程第40条第3項により規定された通知期間内に、副書記官は2024年1月3日付の書簡により、当裁判所に出廷する権利を有するすべての国に対し、この申立ておよび仮保全措置の提示が請求されたことを通知した。

8.同裁判所は、裁判席にいずれの当事国の国籍を有する裁判官も含んでいなかったため、各当事国は、裁判所規程第31条によって与えられている、この裁判に特任裁判官を選任する権利を行使した。南アフリカはディカン・アーネスト・モセヌケ氏を、イスラエルはアーロン・バラク氏を選択した。

9.2023年12月29日付の書簡により、副書記官は裁判所規則第74条第3項に従い、裁判所が仮保全措置の提示請求に関する口頭手続の期日として2024年1月11日と12日を定めたことを当事国に通知した。

10.公聴会では、仮保全措置の提示に関する口頭陳述が次の各人により行われた:

南アフリカを代表して ヴシムジ・マドンセラ氏、ロナルド・ラモーラ氏、アディラ・ハシーム氏、テンベカ・ンガトゥビ氏、ジョン・デュガート氏、マックス・デュ・プレシー氏、ブリン・ニ・グラーレー氏、ヴォーン・ロウ氏
イスラエルを代表して タル・ベッカー氏、マルコム・ショー氏、ガリット・ラジュアン氏、オムリ・センダー氏、クリストファー・ステイカー氏、ギラト・ノーアム氏

11.南アフリカは口頭意見陳述の最後に、以下の仮保全措置を提示するよう裁判所に求めた。

「 (1)イスラエル国は、ガザ内およびガザに対する軍事行動を直ちに停止しなければならないこと。
(2)イスラエル国は、自国の指示、支援または影響を受けている軍隊または非正規武装部隊並びに自国の管理、指示または影響を受ける可能性のあるすべての団体および個人が、上記(1)の軍事作戦を助長するような措置をとらないことを確保すること。
(3)南アフリカ共和国およびイスラエル国は、それぞれ、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約に基づく義務に従い、パレスチナの人々との関係において、ジェノサイドを防止するため、その権限内にあるすべての合理的な措置をとるものとすること。
(4)イスラエル国は、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約により保護される集団としてのパレスチナの人々との関係において、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約に基づく義務に従い、特に同条約第2条の範囲内の下記の一切の行為の遂行をやめるものとする。
(a) 集団構成員を殺害すること、
(b)集団構成員に対して重大な身体的または精神的な危害を加えること、
(c)全部または一部に身体的破壊をもたらすことを意図する生活条件を集団に対して故意に課すること、
(d)集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
(5)イスラエル国は、上記(4)(c)に従い、パレスチナ人との関係において、下記の事項を行うことをやめ、その権限内で下記の事項を防止するために、命令、制限、および/または禁止事項を撤回することを含め、あらゆる手段を講じなくてはならない。
(a) 住居からの追放と強制移住、
(b) 以下の剥奪、
(i) 十分な食料と水へのアクセス、
(ii)十分な燃料、避難所、衣服、衛生、下水設備へのアクセスを含めた、人道支援へのアクセス、
(iii) 医療の供給と医療支援、
(c) ガザのパレスチナ人の生活破壊。
(6)イスラエル国は、パレスチナ人との関係において、その軍隊ならびにその軍隊の指揮、支援またはその他の影響を受ける非正規の武装部隊または個人、およびイスラエルの管理、指示または影響を受ける可能性のある組織および個人が、上記(4)および(5)に掲げる行為を行わないこと、またはジェノサイドを行うことを直接かつ公然と教唆しないこと、ジェノサイドの実行を共謀しないこと、ジェノサイドの実行を企てないこと、ジェノサイドの実行もしくはジェノサイドに加担することに関与しないことを確保するものとし、それらの行為に関与した場合はジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約の第1条、第2条、第3条および第4条に従ってその処罰に向けた措置がとられることを確保する。
(7)イスラエル国は、ジェノサイド罪の防止および処罰に関する条約第2条の範囲内の行為の申立てに関連する証拠の破壊を防止し、その保全を確保するための効果的な措置をとるものとする。そのため、イスラエル国は、当該証拠の保全とその継続を確保することを支援する事実調査団、国際委任団、その他の機関によるガザへのアクセスを拒否または制限するような行為を行ってはならない。
(8)イスラエル国は、この決定を実現するためにとられたすべての措置に関する報告を、この決定の日から1週間以内に裁判所に提出するものとし、その後、裁判所がこの事件に関する最終決定を下すまで、裁判所が命じる定期的な間隔で報告を提出し、裁判所はそれを公表するものとする。
(9)イスラエル国は、裁判所に提起されている紛争の悪化または拡大、あるいはその解決を困難にするようないかなる行動も慎み、かつ、当該行為が行われないことを確保するものとする。」

12.イスラエルは口頭意見陳述の最後に、当裁判所に対し次のように要請した。

「 (1) 南アフリカが提出した仮保全措置の提示要求を却下すること。
(2) 本案件を付託事件リストから削除すること」。

I. 緒言
13.当裁判所はまず、本件が提起された直接的な背景を想起することから始める。2023年10月7日、ハマースをはじめとするガザ地区に存在する武装集団がイスラエルで攻撃を行い、1,200人以上が死亡、数千人が負傷、約240人が拉致され、その多くが人質として拘束され続けている。この攻撃の後、イスラエルは陸・空・海による大規模な軍事行動をガザで開始し、大規模な民間人の死傷者、民間インフラの大規模な破壊、ガザの圧倒的多数の民間人の避難を引き起こしている(下記のパラ46を参照)。当裁判所は、この地域で生じている人間の惨事の大きさを痛感し、人命の損失と人的被害が続いていることに深い懸念を抱いている。

14.ガザで進行中の紛争は、国際連合の複数の機関や専門機関の枠組みで扱われてきた。特に、国際連合総会(2023年10月27日に採択された決議A/RES/ES-10/21および2023年12月12日に採択された決議A/RES/ES-10/22を参照)および安全保障理事会(2023年11月15日に採択された決議S/RES/2712(2023)および2023年12月22日に採択された決議S/RES/2720(2023)を参照)では、紛争の多くの側面に言及する決議が採択されている。しかし、南アフリカはジェノサイド条約に基づき本手続を提起したため、当裁判所に提出されている本件の範囲は限定的である。

II. 一応の管轄権

1. 予備的所見

15.当裁判所は、その管轄権を基礎づける根拠が申請者の依拠した規定により一応のところ与えられると見られる場合に限り仮保全措置を提示することができるが、本件の本案に関して管轄権を有することを確定的に満足させる必要はない(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)、仮保全措置、2022年3月16日の決定、I.C.J.Reports 2022 (I), pp.217-218,パラ24参照)。

16.本件において南アフリカは、裁判所規程第36条第1項およびジェノサイド条約第9条(上記パラ3参照)に基づき、当裁判所の管轄権の確認を求めている。従って、当裁判所は、これらの規定が本件の本案に関する管轄権を当裁判所に一応のところ付与し、他の必要条件が満たされた場合には仮保全措置を提示することを可能にするものであるかをまず判断しなければならない。

17. ジェノサイド条約第9条は次のように規定する:

「本条約の解釈、適用または履行に関する締約国間の紛争は、ジェノサイドまたは他の第3条に列挙された行為のいずれかに対する国の責任に関するものを含め、紛争当事国のいずれかの要求により国際司法裁判所に付託する。」

18.南アフリカとイスラエルはジェノサイド条約の締約国である。イスラエルは1950年3月9日に批准書を寄託し、南アフリカは1998年12月10日に加盟書を寄託した。いずれの締約国も、条約第9条またはその他の規定に対して留保を付していない。

2. ジェノサイド条約の解釈、適用、履行に関する紛争の存在

19.ジェノサイド条約第9条は、条約の解釈、適用、履行に関する紛争が存在することを当裁判所の管轄権の条件としている。紛争とは、当事者間の「法律上または事実上の見解の相違、法的見解の対立または利害の対立」である(マブロマチス特許事件、決定No.2, 1924, 常設国際司法裁判裁判所P.C.I.J., Series A, No.2, p.11)。紛争が存在するためには、「一方の当事者の主張が他方の当事者によって積極的に反対されていることが示されなければならない」(南西アフリカ(エチオピア対南アフリカ、リベリア対南アフリカ),暫定抗議,決定, I.C.J. Reports 1962, p.328)。両当事国は「特定の」国際的義務の履行または不履行の疑問に関して、明らかに反対の見解を持っていなければならない(カリブ海の海域における主権侵害の申立て(ニカラグア対コロンビア),暫定抗議, 決定, I.C.J. Reports 2016(I)、p.26,パラ50、これはブルガリア・ハンガリー・ルーマニア和平条約の解釈,第1段階、助言的意見,I.C.J. Reports 1950, p.74を引用する)。本件において紛争の存否を判断するために、当裁判所は、締約国の一方が条約の適用を主張し、他方がそれを否定していることを指摘することのみに制約されない(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定,I.C.J. Reports 2022 (I), pp. 218-219,パラ 28参照)。

20.南アフリカは当裁判所の管轄権の根拠としてジェノサイド条約の仲裁手続条項を訴求しているため、手続の現段階において当裁判所はまた申立国が訴えている作為ないし不作為が事項的管轄としてその条約の範囲に含まれ得ると見られるものかを確認しなければならない。(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定,I.C.J. Reports 2022 (I)、p.219、パラ29)。

21.南アフリカは、ジェノサイド条約の解釈、適用、履行に関してイスラエルとの間に紛争が存在すると主張する。この申立ての提出に先立ち、南アフリカは、イスラエルによるガザでの行為がパレスチナ人に対するジェノサイドに相当するとの懸念を、公式声明や国連安全保障理事会および総会を含むさまざまな多国間の場で繰り返しかつ緊急に表明したと主張する。特に、南アフリカ国際関係協力省が2023年11月10日に発表したメディア向け声明に示されているように、同省の長官は2023年11月9日に駐南アフリカ・イスラエル大使と会談し、南アフリカは「ハマースによる民間人の攻撃を非難」する一方、10月7日の攻撃に対するイスラエルの対応を違法とみなし、パレスチナ情勢を国際刑事裁判所に付託し、イスラエルの指導者層を戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドの容疑で調査を要請する意向であることを伝えた。さらに、2023年12月12日に再開されイスラエルが代表出席した第10回国連総会緊急特別会議では、南アフリカ国連代表が「ガザにおける過去6週間の出来事は、イスラエルがジェノサイド条約の観点からその義務に反して行動していることを物語っている」と具体的に述べた。申立国は、両当事国間の紛争がその時点ですでに具体化していたと考えている。南アフリカによると、[イスラエルの]外務省が2023年12月6日に発表し12月8日に更新した「ハマースとイスラエルの紛争2023:FAQ」と題する文書において、イスラエルはジェノサイドの非難を否定した。その中で特に、「イスラエルに対するジェノサイドの非難は、事実と法律の問題としてまったく根拠がないだけでなく、道徳的に嫌悪すべきものである」と述べている。申立国はまた、2023年12月21日に南アフリカ共和国の国際関係協力省がプレトリアのイスラエル大使館に公式書簡を送ったことにも触れている。この公式書簡の中で、ガザにおけるイスラエルの行為はジェノサイドに相当し、南アフリカはジェノサイドが行われるのを防ぐ義務があるという見解を繰り返したと主張している。申立国はイスラエルが2023年12月27日付の公式書簡で回答したと主張する。南アフリカはしかし、イスラエルがその公式書簡において南アフリカの提起した問題に対処できなかったと申立てた。

22.申立国はさらに、2023年10月7日の攻撃をきっかけにイスラエルがガザで行った行為は、すべてではないにせよ少なくとも一部がジェノサイド条約の規定に該当するという意見を述べている。申立国は、同条約第1条に反してイスラエルは「同条約第2条で特定されたジェノサイド行為を実行し、実行中」であり、「イスラエル、その当局者および/または代理人は、ジェノサイド条約で保護される集団の一部であるガザのパレスチナ人を意図的に破壊する行動に及んだ」と主張している。南アフリカによれば、問題となっているこれらの行為には、ガザのパレスチナ人を殺害し、身体的・精神的に深刻な危害を加え、身体的破壊をもたらすような生活条件を与え、ガザの人々を強制移住させる行為が含まれる。南アフリカはさらに、イスラエルが「ジェノサイド条約第3条および第4条に反して、ジェノサイド、ジェノサイドの謀議、ジェノサイドの直接的および公然の扇動、ジェノサイド未遂、ジェノサイドへの加担、の、いずれをも防止ないし処罰をしなかった」と主張している。

23.イスラエルは、南アフリカがジェノサイド条約第9条に基づく当裁判所の一応の管轄権を証明していないと主張する。まず、イスラエルは、南アフリカがこの申立てを行う前に、ジェノサイドの申立てに応答する合理的な機会をイスラエルに与えなかったため、当事国間に紛争は存在しないと主張する。イスラエルは、一方では、南アフリカがイスラエルをジェノサイドで公然と非難し、パレスチナ情勢を国際刑事裁判所に付託すると公言したこと、他方では、イスラエル外務省が公表した文書は、直接、あるいは間接的にも南アフリカに宛てたものではなく、当裁判所の判例が要求する見解の「積極的対立」の存在を証明するには不十分であると述べる。2023年12月21日付の南アフリカ共和国の公式書簡に応答する2023年12月27日付の在プレトリア・イスラエル大使館から南アフリカ共和国国際関係協力省への公式書簡において、南アフリカ共和国が提起した問題を協議するための両当事国間の会合をイスラエルが提案していたこと、この対話の試みは南アフリカ共和国によって相当時間無視されたと被申立国は強調する。イスラエルは、この申立ての提起前に両国の間で二国間交流がなかったにもかかわらず、南アフリカがイスラエルに対して一方的に主張したことは、紛争の存在をジェノサイド条約第9条に従って立証するには不十分であると考えている。

24.イスラエルはさらに、パレスチナ人の全部または一部を破壊する必要かつ特定の意図が一応の根拠に基づいても証明されていないため、南アフリカが指摘した行為がジェノサイド条約の規定には当てはまらないと主張する。イスラエルによれば、2023年10月7日の残虐行為の後、ハマースによるイスラエルへの無差別ロケット攻撃に直面したイスラエルは、自国を防衛し、自国に対する脅威を終結させ、人質を救出する意図を持って行動した。さらにイスラエルは、民間人の危害を軽減し人道支援を促進する施策の実施によってジェノサイドの意図がないことが示されていると付け加えた。イスラエルは、本戦争の勃発以来、イスラエルの関係当局が行ったガザ紛争に関する公式決定、特に国家安全保障問題閣僚委員会および戦時内閣、ならびにイスラエル国防軍の作戦本部が行った決定を注意深く検討すれば、民間人への危害を回避し、人道支援を促進する必要性に重点が置かれていることがわかると主張する。そのためこれらの決定にはジェノサイドの意図がなかったことが明確に示されているとの見解を有する。

25.
当裁判所は、この申立ての提起時に両当事国間の紛争の存否を判断する目的で、両当事国間で交換された声明または文書、および多国間でのそのような交換を特に考慮することを想起する。その際、声明または文書の作成者、意図された宛先または実際の宛先、およびその内容に特に注意を払う。紛争の存否は当裁判所が客観的に判断する問題である。すなわち、実質を問題にするのであり、形式や手続の問題ではない(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定,I.C.J. Reports 2022 (I), pp. 220-221,パラ 35 参照)。

26.当裁判所は、この申立ての提起時に両当事国間の紛争の存否を判断する目的で、特に南アフリカが多国間および二国間のさまざまな場で公式声明を発表し、その中でガザにおけるイスラエルの軍事行動の性質・範囲・程度に照らして、イスラエルの行動はジェノサイド条約の下での義務違反に相当するとの見解を表明したことに留意する。例えば、イスラエルが代表として出席して2023年12月12日に再開された第10回国連総会緊急特別会期では、南アフリカ国連代表は、「ガザにおける過去6週間の出来事は、イスラエルがジェノサイド条約の観点からの義務に反して行動していることを物語っている」と述べた。南アフリカは、プレトリアのイスラエル大使館に宛てた2023年12月21日付の通知で、この声明を想起した。

27.当裁判所は、この申立ての提起時に両当事国間の紛争の存否を判断する目的で、特に、イスラエルが、イスラエル外務省による2023年12月6日発表の文書で、ガザ紛争に関連するジェノサイドの非難を退けていることに留意する。この文書はその後更新され、2023年12月15日にイスラエル国防軍のウェブサイトに「ハマースとの戦争、あなたの最も切実な疑問に答える」というタイトルで掲載され、そのなかで、「イスラエルに対するジェノサイドの非難は、事実と法律の問題としてまったく根拠がないだけでなく、道徳的に極めて不快なものだ」と述べている。この文書でイスラエルはまた、「ジェノサイドという非難は、...法的にも事実的においても支離滅裂であるだけでなく、非常識である」とし、「ジェノサイドというとんでもない非難には、事実上も法律上も正当な根拠がない」と述べている。

28.以上のことから、当裁判所は、イスラエルがガザで行ったとされる特定の作為または不作為が、イスラエルのジェノサイド条約に基づく義務に対する違反に相当するか否かについて、両当事国が明らかに正反対の見解を持っているように見えると考える。当裁判所は、ジェノサイド条約の解釈、適用、履行に関する両当事国間の紛争の存在を一応確立するには、現段階では上記の要素で十分であると判断する。

29.申立国が主張する作為または不作為がジェノサイド条約の規定に該当する可能性の有無に関して、当裁判所は、南アフリカが、イスラエルはガザでのジェノサイドの実行、およびジェノサイド行為の防止と処罰を怠った責任を負うと考えていることを想起する。南アフリカは、イスラエルがジェノサイド条約の下で、「ジェノサイドを犯すための共同謀議、ジェノサイドへの直接かつ公然の教唆、ジェノサイドの未遂、ジェノサイドの共犯」に関する義務を含む他の義務にも違反していると主張している。

30.本手続の現段階では、ジェノサイド条約に基づくイスラエルの義務違反の有無を確認する必要はない。かかる確認は、本件の本案審査の段階においてのみ、当裁判所が行うことができる。すでに示しているように(上記パラ20参照)、仮保全措置の提示請求に対する決定を発する段階で当裁判所の任務は、申立国によって提起された行為および不作為がジェノサイド条約の規定に該当する可能性の存否を確認することである(cf.ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定,I.C.J. Reports 2022 (I), p. 222,パラ43)。当裁判所の見解では、イスラエルがガザで行ったと南アフリカが主張する行為および不作為の少なくとも一部は、条約の規定に該当する余地があると思料する。

3. 一応の管轄権に関する結論

31.以上のことから、当裁判所は、ジェノサイド条約第9条に基づき、本件を受理し管轄権を有する裁判所であると一応の結論を得た。

32.以上の結論から、当裁判所は、本件を付託事件リストから削除するというイスラエルの要請に応じることができないと思料する。

III. 南アフリカの原告適格

33.当裁判所は、被申立人が本件手続において申立人の原告適格を否認していないことに留意する。当裁判所は、ジェノサイド条約の申立て(ガンビア対ミャンマー)に関してジェノサイド条約第9条が同じく提起されていた事件について、同条約のすべての締約国が、同条約に含まれる義務を履行するよう努めることによって、ジェノサイドの防止、抑制および処罰を確保する共通の利益を有することを認めたことを想起する。このような共通の利益が意味するところは、当該義務が当該条約のいかなる当事国もその他すべての当事国に対して負うのであって、各当事国がいかなる事件においても義務を遵守するに当たって利害を有するという意味において、あらゆる当事国を拘束する義務であるということである。ジェノサイド条約における当該義務を遵守することにあたって共通の利害は必然的に、いかなる当事国も、区別なく、あらゆる当事国を拘束するその義務の違反があると主張して、他の当事国に責任があると訴える権限があることを意味する。したがって、当裁判所は、ジェノサイド条約のいかなる当事国も、同条約に基づくすべての当事国を拘束する義務を履行することを怠ったと主張して、その有無を決定し、かつ、そのような懈怠を解消することを目的として、当裁判所に訴えを提起することを含めて、他の当事国に責任があると訴えることが許されることを認めている(ジェノサイド条約の適用申立て(ガンビア対ミャンマー)予備的異議申立て、判決、I.C.J.Reports 2022 (II), pp. 516-517,パラ 107-108 and 112)。

34.当裁判所は、一応のところ、南アフリカがイスラエルに対して、ジェノサイド条約に基づく義務違反があると主張することについて原告適格があると結論する。

IV. 保護が求められている人の権利および当該権利と請求される措置との関係

35.当裁判所が規程第41条に基づいて仮保全措置を提示する権限の対象は、ある事件において当事者の主張するそれぞれの権利の功罪を判断するまでの間、その権利を保全することである。したがって、当裁判所が関与するのは、そのような措置によって、いずれかの当事者に属するとされる権利の保全に関わるものに限られる。それゆえ、当裁判所によるこの権限の行使が許されるのは、そのような措置を求める当事者が主張する権利が少なくとも存在の可能性がある場合に限られる(たとえば、ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定、I.C.J.Reports 2022 (1), p. 224,パラ 51)。

36.しかしながら、この段階において、当裁判所に求められていることは、南アフリカが保護されることを希望する権利が存在するかどうかについて最終的に決定することではない。当裁判所が求められているのは、南アフリカがその存在を主張し保護を求めている権利が一応確かに存在するかどうかを決定することだけである。さらに、保護を求めれている権利と請求されている仮保全措置との相関関係がなければならない(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定、I.C.J.Reports 2022 (1), p. 224,パラ 51)。

37.南アフリカが主張していることは、ガザのパレスチナ人の権利およびジェノサイド条約に基づくその固有の権利を保護することである。南アフリカの主張は、ガザ地区におけるパレスチナ人の権利が、ジェノサイド、ジェノサイドの未遂、ジェノサイドの直接かつ公然の扇動、ジェノサイドの共犯およびジェノサイドの共謀などの行為から保護されることに及ぶというものである。本件申立ては、ジェノサイド条約がある集団またはその一部の破壊を禁止していると主張し、ガザ地区のパレスチナ人が、「ある集団に属するがゆえに、ジェノサイド条約によって保護される」と述べている。南アフリカはまた、ジェノサイド条約の遵守を保証する権利があり、その権利の保護を求めるという主張もしている。南アフリカは、当該権利が、ジェノサイド条約の「可能な解釈に基づく」ものであるから、「少なくとも一応存在する」と主張している。

38.南アフリカは、当裁判所に提示した証拠が「ジェノサイドの行為の相応な程度の主張を正当とする行為および関連する故意の一連のパターンを議論の余地なく示すものである」と主張している。その主張によれば、とりわけ、ジェノサイドの故意をもって次の行為が実行されているとし、すなわち、殺害、重大な肉体および精神的な傷害を生じさせること、集団の全部もしくは一部の身体的な損傷を生じさせることを意図した生活状態を集団に課すこと、および集団内における出生を妨げる意図をもった措置を課す行為がこれである。南アフリカによれば、ジェノサイドの故意は、イスラエルの軍事攻撃を行うやり方、イスラエルのガザにおける行動の明白なパターンおよびガザ地区における軍事作戦行動に関するイスラエル将校が行った発言から判断して明白である。本件申立てはまた、「イスラエル政府がこのようなジェノサイドの扇動を断罪したり、防止したり、処罰したりすることを意図的に怠っていること自体が、ジェノサイド条約の重大な違反に当たる」と主張する。南アフリカが強調するのは、被申立人がハマースを破壊するという発言をしたことは、その意図にかかわらず、ガザにおけるパレスチナ住民の全部または一部に対するジェノサイドの故意を没却するものではないことである。

39.イスラエルの主張は、この仮保全措置の段階では、当裁判所はある事件において当事国が主張する権利が一応確かに存在することを証明しなければならず、「単に主張された権利が一応確かに存在すると宣言するだけでは不十分である」という点にある。被告によれば、当裁判所はまた、相当する文脈において事実の主張を考慮し、主張される権利の侵害の可能性の問題も含めて考慮しなければならないことになる。

40.イスラエルは、ガザにおける紛争のための適切な法的な枠組みは国際人道法の枠組みであって、ジェノサイド条約の枠組みではないと主張する。都市における戦闘では、民間人の死傷は軍事目標に対する適法な武力の行使から生じた意図せざる結果である可能性があり、ジェノサイド行為に当たらないと主張する。イスラエルは、南アフリカが根拠において事実を誤って表現していると思料して、作戦行動を取る場合にガザにおける人道的な活動を通じて被害や苦痛を軽減するように努めていることが、ジェノサイドの意図があるといういかなる主張をも退ける――少なくとも、これを否定する方向で作用する――と述べている。被申立人によれば、南アフリカが提示するイスラエル士官の発言は、「せいぜいのところ誤解を生む程度のもの」であって、「政府の政策に合致するもの」ではない。イスラエルはまた、「とりわけ、民間人に対する意図的な危害を呼びかけるいかなる発言も、……教唆罪を含む犯罪行為に当たる」ものであって、かつ、「現在のところ、いくつかのそのような案件は、イスラエルの法執行当局によって審査されている」という司法長官の最近の発言に留意するよう求めた。イスラエルの見解においては、ガザ地区におけるこれらの発言も行動パターンも、ジェノサイドの故意の「想定される推定」を生じさせるものではない。いずれにせよ、イスラエルは、仮保全措置の目的が両当事国の権利を保全することにあるから、当裁判所は本件において南アフリカおよびイスラエルのそれぞれの権利を考慮し、バランスを取らねばならないと主張する。被申立人は、2023年10月7日に発生した攻撃の結果として捉えられ拘束されている人質を含むイスラエルの市民を保護する責任を負っていることを強調している。したがって、イスラエルは、その自衛の権利が本状況のいかなる評価にとっても必至であると主張する。

41.当裁判所は、条約第1条に従って、その締約国はすべて、ジェノサイド犯罪を「防止し、かつ、処罰する」ことを取り組んできたことを想起する。第2条は次のとおり規定する。

「ジェノサイドとは、民族的、人種的、種族的または宗教的な集団を全部または一部破壊する意図をもって行われた次の行為のいずれをも意味する。
(a) 集団の構成員を殺すこと、
(b)集団の構成員に対して重大な身体的または精神的な危害を加えること、
(c)全部または一部に身体的破壊をもたらすことを意図した生活条件を集団に対して課すること、
(d)集団内における出生を妨げることを意図する措置を課すること、
(e) 集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。」

42.ジェノサイド条約第3条に従い、次の行為もまた同条約によって禁止される:ジェノサイドの共謀(第3条(b))、ジェノサイドの直接かつ公然の扇動(第3条(c))、ジェノサイドの未遂(第3条(d))およびジェノサイドの共犯(第3条(e))。

43.ジェノサイド条約の規定は、民族的、種族的、人種的または宗教的な集団を第3条に列挙するジェノサイドまたはその他いかなる可罰的な行為から保護することを目的としている。当裁判所は、ジェノサイド条約の下において保護される集団の構成員の権利とこの条約の締約国に課される義務およびいかなる締約国の他の締約国によってこれらの義務を遵守することを求める権利との間には相関関係があると思料する(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ガンビア対ミャンマー)仮保全措置、2020年1月23日の決定、I.C.J.Reports 2020, p. 20,パラ 52)。

44.当裁判所は、行為がジェノサイド条約第2条に当たるためには、

「特定の集団のすくとなくとも相当な部分を破壊することを意図したものでなければならない。このことは、ジェノサイド犯罪の本質そのものによって必要とされる。というのも、この条約の目標かつ目的は、全体として、集団の意図的な破壊を防止することになるので、目標となる部分は、全体としてその集団に衝撃を与えるのに十分な程度に意味あるものでなければならない(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ボスニア・ヘルツェゴビナ対モンテネグロ)判決、I.C.J.Reports 2007(1), p. 126,パラ 198)。」

45.パレスチナ人は、はっきりとした「民族的、人種的、種族的または宗教的な集団」を構成するように思われ、したがってジェノサイド条約第2条の意味における保護される集団を構成するように思われる。当裁判所は、国際連合の情報源に従って、ガザ地区のパレスチナ住民が200万人を超えるものであることを認める。ガザ地区のパレスチナ人は、保護される集団の実質的な部分を構成する。

46.当裁判所は、2023年10月7日の襲撃に続いてイスラエルによって実行された軍事作戦行動が、大量の死傷者、並びにホームの大規模な破壊、住民の大多数の強制移住、民間施設の広範な損害をもたらしたことに注目する。ガザ地区に関する被害数を独立して検証することはできないが、最近の情報によれば、2万5700人のパレスチナ人が殺害され、6万3000人を超える人が負傷したと報道されており、36万の住居が破壊もしくは部分的に損壊され、ほぼ170万人が地域内で移住させられた(国連人道問題調整部(OCHA)、ガザ地区およびイスラエルにおける敵対行為――伝えられる衝撃、109日間(2024年1月24日)参照)。

47.当裁判所は、この点に関して、人道問題担当国連事務局次長兼緊急救助調整官マーティン・グリフィス氏による2024年1月5日になされた声明に留意する。

「ガザは死と絶望の場所となった。
……気温が急激に下がる中、複数の家族が露天で寝ている。民間人が安全のために移動するよう命じられた区域は、爆撃にさらされている。医療施設は容赦ない攻撃にさらされている。部分的に機能しているわずかばかりの病院も、外傷を受けた人々の対応に忙殺され、あらゆる物資が欠乏して危機的な状態にあり、安全を求めてやってきた死に物狂いの人々であふれかえっている。
公衆衛生の大惨事が広がっている。下水溝があふれかえっているので、超満員のシェルターの中では感染症が広がっている。このような混乱した最中でも、180人ほどのパレスチナ女性が毎日出産している。人びとは、これまで記録した中で最も高いレベルでの食糧危機に直面している。飢餓が差し迫っている。
とりわけ子どもたちにとって、これまでの12週間は衝撃的な経験であった。すなわち、食料はなく、水もなく、学校もなく、来る日も来る日も、恐ろしい戦争の足音だけしかない状態である。
ガザはまさに人が住めない状態にある。人びとは毎日、生存すらも脅かされる脅威に直面している。世界が見守っている中で。(OCHA「国連救援責任者:ガザでの戦争は終止すべきだ」マーティン・グリフィス氏による声明、人道問題担当国連事務局次長兼緊急救援調整官、2024年1月5日)」

48.ガザ北部への派遣の後、WHOは、2023年12月21日現在、次のように報告している。

「例を見ない数であるが、ガザにおける住民の93%が危機的なレベルでの飢餓に直面しており、食料が不足し、栄養不良が高いレベルで存在している。少なくとも4世帯に1世帯が『破滅的な状態』に直面しており、食料の極度の欠乏と飢えを経験しつつ、食べ物を得るためだけに身の回りのものを売却し、その他非常手段に頼らざるを得ない状態にある。明らかに飢餓、貧困、死がそこにある。」(WHO「飢えと疾病の致死的な組み合わせによってガザではさらに死者が増える状態になっている」2023年12月21日。また世界食糧計画「4人に1人が極度の飢餓状態にあってガザは崖っぷちにある」2023年12月20日も参照)。

49.当裁判所はさらに、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ氏によって2024年1月13日に発せられた声明に留意する。

 「この荒廃をもたらしている壊滅的な戦争が始まってから100日になる。イスラエルの人々に対してハマースおよびその他の集団が実行した恐ろしい襲撃に続いて、この戦争はガザの人々を殺害し、移住させている。捕虜になった人々とその家族にとって、試練と不安の100日であった。
 これまでの100日間において、ガザ地区を縦断して休みなく続く爆撃は、住民の大量移住を引き起こし、その住民たちは、絶え間ない流れの中にあって、絶えず土地・建物を失わされ、夜通し退去を強制され、移動してもそこも安全ではないという状態にある。これは、1948年以来、パレスチナ住民の最も大規模な移住である。
 この戦争によって影響を受けた人は200万人を超える。つまりガザの全住民が影響を被っている。多くの人は、一生残る傷を、身体的にも精神的にも、負うことになる。その大部分の人たちは、子どもも含めて、深く傷ついている。
 UNRWAの超満員で不衛生なシェルターは、今や、140万人の人々の「ホーム」となっている。彼らは、あらゆるものが不足しており、食料から衛生やプライバシーに至るまでないものばかりである。人びとは非人間的な状態で生活しており、そこでは、子どもも含めて、病気がまん延している。彼らは、生活できない状態で生活しており、時計は急速に飢餓に向かって時を刻んでいる。
ガザにおける子どもの窮状は、とりわけ心が痛む。子どものあらゆる世代は、心に傷を負い、治癒するには何年もかかる状態にある。数千人の子どもが殺され、障害が残るほどの重傷を負い、孤児になった。数十万人の子どもが、教育を受けられないでいる。彼らの将来は危ういものであり、どこまでも続き、かつ、いつまでも続く悪い結果が予想される(「ガザ地区:死と破壊と移住の100日間」UNRWAフィリップ・ラザリーニ事務局長声明2024年1月13日)。」

50.UNRWAの事務局長はまた、ガザにおける危機は「人間性を奪う言葉によっていっそうひどくなっている」と述べている(「ガザ地区:死と破壊と移住の100日間」UNRWAフィリップ・ラザリーニ事務局長声明2024年1月13日)。

51.この点について、当裁判所は、イスラエルの高官らが発出した多数の声明に留意する。当裁判所はとりわけ、次の例に注意を喚起する。

52.2023年10月9日、イスラエルのヨアフ・ガラント国防大臣は、「ガザ市」の完全な包囲を命じたこと、またそこでは「電気もなくなり、食料もなくなり、燃料もなくなる」こと、並びに「すべてが封鎖(された)」ことを発表している。翌日、ガラント大臣は、ガザとの境界地帯にいるイスラエルの軍隊に向かって次のように述べた。

「私はあらゆる制限を解除した…。諸君は、我々が誰と戦っているのかを見た。我々は人間の顔をした動物と戦っているのである。これはガザのイスラム国である。これが、我々が戦っている相手である…。ガザは以前のような状態には戻ることはない。ハマースはなくなるであろう。我々はすべてせん滅するであろう。1日で成し遂げられないなら、1週間かかるであろうし、数週間あるいは数カ月かかるかもしれないが、我々はあらゆる場所に行くであろう。」
2023年10月12日、イスラエル大統領イツハク・ヘルツォグ氏は、ガザに触れて、次のように述べた。

「我々は国際法のルールに従って動いており、軍事作戦行動を行っている。一点の疑いもない。あそこにいる全民族こそが責任を負う。民間人は何も知らないとか、関わり合いがないというレトリックは真実ではない。これはまったく真実ではない。彼らは蜂起したのだ。彼らは、クーデタでガザを占拠した邪まな政権に立ち向かって戦うこともできたのだ。しかし、我々は戦争の最中にある。我々は戦争の最中にある。我々は戦争の最中にある。我々は我々の故国を防衛しているのだ。我々は我々のホームを防御しているのだ。これが真実だ。そして、民族がそのホームを保護するときは、民族は戦う。そして我々はやつらの背骨をへし折るまで戦う。」
2023年10月13日、イスラエルのエネルギーおよび社会基盤担当大臣(当時)であったイスラエル・カッツ氏は、X(以前のツイッター)で次のように述べた。

「我々はテロリスト組織ハマースと戦うことになり、これを破壊することになる。ガザにおけるあらゆる民間人は直ちに退去するよう命じる。我々は勝利するであろう。彼らは、この世から去るまで、一滴の水も一個の電池も受け取ることはないであろう。」

53.当裁判所はまた、37名の特別報告者、独立専門家、国際連合人権理事会作業部会のメンバーによる2023年11月16日の記者発表に留意し、そこにおいて「イスラエルの高官らが発した明白にジェノサイド的で人間性を否定する修辞発言」について警告を発していることを留意する。加えて、2023年10月27日、国際連合人種差別撤廃委員会は、「10月7日以降、パレスチナ人に対して向けられた人種的なヘイトスピーチや人間性を否定する発言が著しく増加していることに高い懸念を持つ」という意見を述べた。

54.当裁判所の見解において、上記の事実および事情は、南アフリカによって主張され、かつ、保護を求めている権利の少なくともいくつかが一応存在が推定されると結論付けるのに十分である。これは、ガザにおけるパレスチナ人のジェノサイドの行為および第3条に定める関連する禁止される行為から保護される権利に関する案件であり、この条約に基づくイスラエルの義務の遵守を求める南アフリカの権利に関する案件である。

55.当裁判所は今や、南アフリカによって主張されている一応存在が推定される権利と求められている仮保全措置との相関関係の要件について検討することにする。

56.南アフリカは、保護を求めている権利と南アフリカが請求している仮保全措置との間に相関関係が存在すると思料する。南アフリカは、とりわけ、ジェノサイド条約に基づくイスラエルの義務についてイスラエルが遵守することを確保するために、最初の6項目の仮保全措置を請求したのであり、最後の3項目は当裁判所における手続の完全性を保護し、その主張が公正に裁定される南アフリカの権利を保護することを目的とするものであると主張する。

57.イスラエルは、請求されている措置は、暫定的な根拠に基づいて権利を保護するのに必要とされるものを超えるものであると主張し、したがって保護を求めている権利との相関関係はないと主張する。被告は、とりわけ、南アフリカが求める第1条および第2条の措置(上記パラ11を参照)を認めることが、これらの措置が「ジェノサイド条約に基づく裁判権の行使の根拠となりえない権利の保護のためである」となるので、当裁判所の先例法を覆すものであると主張している。

58.当裁判所は、すでに(前記パラ54を見よ)、少なくともジェノサイド条約に基づいて南アフリカによって主張された権利のいくつかは一応存在が想定されると判断している。

59.当裁判所は、まさにその性質上、南アフリカが求めている仮保全措置のうち少なくともいくつかは、本件においてジェノサイド条約を根拠として南アフリカが主張する存在が推定される権利の保全を目的とするもの、すなわちガザにおいてパレスチナ人が第3条に規定するジェノサイドおよび関連する禁止された行為から保護される権利および条約に基づいたイスラエルの義務をイスラエルが履行することを遵守することを求める南アフリカの権利の保全を目的とするものである。それゆえ、南アフリカが主張する権利で、当裁判所が存在が推定されると判断した権利と請求された仮保全措置の少なくともいくつかとの間には相関関係がある。

V. 回復不能な損害のリスクと緊急性

60.当裁判所は、裁判所規程第41条に従って、裁判手続の主題である権利に対して回復不能な損害が生じうる場合またはそのような権利が軽視されていると主張され、その軽視によって回復不能な結果が生じる可能性がある場合において、仮保全措置を提示する権限を有する(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定、I.C.J.Reports 2022 (1), p. 226,パラ 65)。

61.しかしながら、当裁判所のこの仮保全措置を提示する権限が行使されるのは、当裁判所が最終的決定を下す前に、主張されている権利に対して回復不能な損害が生じる現実かつ差し迫ったリスクが存在するという意味において、緊急性が存在する場合に限られる。当裁判所が本件において最終決定を下す前に、回復不能な損害を生じさせる可能性がある行為が「いかなる時にも行われる」可能性が存在する場合に、緊急性の要件が充足される(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定、I.C.J.Reports 2022 (1), p. 227,パラ66)。当裁判所は、それゆえ、本件手続のこの段階において、そのようなリスクが存在するかどうかについて考慮しなければならない。

62.当裁判所が求められていることは、仮保全措置の提示を求める請求についてその決定をするために、ジェノサイド条約に基づく義務の違反が存在することを立証することではなく、条約に基づく権利の保護のために仮保全措置の提示を必要とする事情が存在するかどうかを決定することである。すでに指摘したように、当裁判所は、この段階において、事実の最終的な認定を行うことはできず(上記パラ30参照)、その功罪に関して各当事国が議論を提出する権利は、仮保全措置の提示に関する当裁判所の決定によって左右されることはない。

63.南アフリカは、ガザにおけるパレスチナ人の権利に対する回復不能な損害の明白なリスクが存在すると述べている。その主張するところは、人間の生命またはその他の基本権に対して重大なリスクが生じている場合には回復不能の損害という要件が充足されていると当裁判所が繰り返し認定しているという点にある。申立人に従えば、平均して一日に247人のパレスチナ人が殺害され、629人が傷害を負い、3900のパレスチナのホームが損壊または破壊されているのであって、この毎日の統計は緊急性と回復不能な損害の明白な証拠である。さらに、ガザ地区のパレスチナ人は、南アフリカの見解においては、

「イスラエルによって継続されている包囲、パレスチナ人の街の破壊、パレスチナ住民に通過することが許された不十分な支援および爆弾が投下される最中においてこの限られた援助を配給することができないことの結果として、飢餓、脱水症状および疾病による死の差し迫ったリスクの状態にある。」
申立人はさらに、ガザに向けた人道的救済のアクセスをイスラエルがいかに拡大したとしても、仮保全措置の請求に対する回答にはまったくならないと主張する。南アフリカはさらに付言して、「(イスラエルによる)ジェノサイド条約違反がチェックされないままでいるなら」、本件手続の功罪の段階についての証拠を収集し保全する機会は、まったく失われるわけではないとしても、深刻な程度において損なわれるであろうと述べている。

64.イスラエルは、本件において、回復不能な損害の現実かつ差し迫ったリスクが存在することを否認する。その主張するところによれば、ガザにおけるパレスチナ人の生存する権利を認知し、かつ、確保することに特別に目的とする具体的な措置はすでにとられており――継続してとられており――、ガザ地区全体を通して人道的支援の提供が促進されてきている。この点に関して、被申立人が認めるところでは、世界食糧計画WFPの援助によって、10余りのパン屋が1日に200万個以上のパンを製造する能力をもって最近において再開された。イスラエルはさらに、2つのパイプラインによってガザへ自分たち自身の水を提供し続けていると述べ、大量の瓶に詰められた水の配給が容易になったと言い、イスラエルが給水のインフラストラクチャーを修繕し広げていると言う。イスラエルはさらに、医療品や医療サービスへのアクセスが増加したと述べ、とりわけ、6つの野戦病院と2つの水上病院の設立を容易にし、さらにもう2つの病院が建設されつつあると述べた。またイスラエルは、医療チームのガザへの入域が容易になっており、病人や負傷者がラファの境界検問所を通じて退避されていると述べた。イスラエルによれば、テントや避寒用具も配給されており、燃料や調理用ガスの配達が容易になってきている。イスラエルはさらに、2024年1月7日の防衛大臣の声明によれば、敵対行動の範囲や強度は低下していると述べた。

65. 当裁判所は、1946年12月11日の国連総会決議96(I)において強調されているように、

「殺人が個としての人間の生きる権利の否定であるように、ジェノサイドは、人間集団全体の人の生存の権利の否定である。このような生存の権利の否定は、人類の良心を震撼させ、これらの人間の集団によって表現されている文化やその他の貢献の形での人間性に対する重大な喪失という結果を生み出し、かつ、それは道徳の法および国際連合の精神と目的に反するものである。」
当裁判所は、とりわけ、ジェノサイド条約が、「一方におけるその目的が一定の人間集団の正に生存を保護することにあり、かつ、他方におけるその目的が道徳の最も基本的な原理を確認し、裏書きすることにある」ので、「純粋に人道的かつ文明化する目的のために明らかに採択された」ことを認める(ジェノサイド条約に対する留保、勧告的意見、I.C.J.Reports 1951, p.23)。

66.ジェノサイド条約によって保護される根本的価値の点からみると、当裁判所は、本件においてもっともと思われる権利、すなわちガザ地区におけるパレスチナ人のジェノサイドの行為およびジェノサイド条約第3条に同定される関連する禁止される行為から保護される権利並びにこの条約に基づくイスラエルの義務をイスラエルが遵守することを求める南アフリカの権利が、これらの権利に対する侵害が回復不能な害悪を生じさせ得るような性質であると思料する(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ガンビア対ミャンマー)仮保全措置、2020年1月23日の決定、I.C.J.Reports 2020, p. 26,パラ70)。

67.継続している紛争の間において、国際連合の高官は、ガザ地区における状態の更なる悪化のリスクに対して繰り返し注意を喚起してきた。当裁判所は、たとえば、2023年12月6日付の書簡に留意し、その中で国際連合事務総長が次の情報について安全保障理事会の注意を喚起したことに留意する。すわなち、

「ガザにおける健康管理システムは破綻している…… ガザにおいて安全な場所はどこにもない。
イスラエル防衛軍による絶え間ない爆撃の最中において、しかも生き残るためのシェルターまたは必需品もなく、私は、絶望的な状態のゆえに公秩序が完全に破綻することを予期し、限られた人道的支援さえ不可能になっていると思う。さらに悪い状況が生じる可能性があり、これには、疫病および近隣諸国への大量移動に向けた圧力の増加という事態が含まれていた。
私たちは、人道的なシステムの崩壊の重大なリスクに直面している。状況は、急速に悪化しており、パレスチナ人全体にとって、またこの地域における平和と安全にとって、潜在的に不可逆的な意味を持った破局に向かっている。このような結果は、いかなる代価を払っても、避けなければならない(国連安全保障理事会,doc. S/2023/962, 2023年12月6日)。

68.2024年1月5日、国連事務総長は再び安全保障理事会に向けて書簡を書いて、ガザ地区における最新の情報を提供し、「悲しいことに、破滅的なレベルで死と破壊が継続している」と述べた(安全保障理事会議長に宛てた事務総長の2024年1月5日付の書簡、doc.S/2024/26, 2024年1月8日)。

69.当裁判所はまた、ガザにおける現在の紛争の開始以来4度目の訪問から帰ったUNRWA事務局長によって発出された2024年1月17日付の声明に留意する。すなわち、「私がガザを訪れるたび、私が目撃するのは、人びとがさらに絶望の淵に埋没し、毎時間を費やして毎日生存のための闘争の状態にあることである」(「ガザ地区:死と極度の疲労および絶望の最中における毎日の生存のための闘争」UNRWAフィリップ・ラザリーニ事務局長声明2024年1月17日)。

70.当裁判所は、ガザ地区における民間人が極度に脆弱な状態にあると思料している。当裁判所が想起するのは、2023年10月7日以降におけるイスラエルによる軍事作戦行動がもたらしたものが、とりわけ、数十万人に及ぶ死傷者と家庭、学校、医療施設およびその他の生存に必要不可欠な社会インフラの破壊であり、並びに大量な規模での移動・移住であるという点である(上記パラ46参照)。当裁判所が留意していることは、この軍事行動が継続していること、およびイスラエルの首相が2024年1月18日にこの戦争が「もっと長く数カ月かかるであろう」と発言したことである。現在、ガザ地区における多くのパレスチナ人は、最も基本的な食料、飲料水、電気、必要不可欠な医薬品または暖房へのアクセスがない。

71.世界保健機構WHOは、ガザ地区において出産した女性のうち15%が合併症を起こしていると推計しており、母体および新生児の死亡率が医療ケアにアクセスすることができないことによって増加することが見込まれていると指摘している。

72.これらの状況において、当裁判所は、ガザ地区における破局的な人道的状況が、当裁判所が最終判決を下す前に、さらに悪化することの重大なリスクにあると思料する。

73.当裁判所は、イスラエルがガザ地区における住民が直面する状況に向けて、これを軽減するいくらかの措置を執ったというイスラエルの声明があることを想起する。当裁判所はさらに、イスラエルの法務長官による最近の、民間人に対する意図的な害悪を呼びかけるのは、扇動の罪を含む犯罪に当たる可能性があり、このような事件のいくつかはイスラエル法執行機関によって吟味されているという声明に注意を払う。これらのような手段が奨励されるべきである一方で、これらは、当裁判所が本件において最終判決を下す前に回復不能な損害が生じるリスクを取り除くには不十分である。

74.以上述べた考察に照らして、当裁判所は、当裁判所が最終判決を下す前に、存在することが推定されると当裁判所が認定した権利に対する回復不能な損害が生じる実体的かつ差し迫ったリスクがあるという意味において、緊急性があると判断する。

VI. 結論および採択すべき措置

75.前述の検討に基づき当裁判所は裁判所規程が仮保全措置の提示に要請する条件は満たされたと判断した。従って、最終判断の決定前に、南アフリカが指摘し存在することが推定されると当裁判所が認定した権利を保護するために当裁判所は特定の仮保全措置を提示する必然性がある(上記パラ54を参照)。

76.裁判所規程に基づき、仮保全措置の要請がなされたとき当裁判所が全部または一部に要請とは異なる措置を提示する権限をもつことを当裁判所は想起する。裁判所規則の第75条第2項は当裁判所のこの権限を特段に明示するものである。当裁判所はこれまでにもこの権限を複数の事件において行使してきた(例えばジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ガンビア対ミャンマー)仮保全措置、2020年1月23日の決定、I.C.J.Reports 2020, 28ページ、パラ77を参照)。

77.本申立においては、南アフリカが請求した仮保全措置の内容および本件の状況を考慮し、当裁判所は提示することとなる仮保全措置は請求されたそれらと同一である必要はないと判断した。

78.
当裁判所は、上記の状況に鑑み、イスラエルはジェノサイド条約の示す義務に従い、ガザ地区のパレスチナ人に関して、条約第2条の特に、
(a) 集団構成員を殺すこと、
(b)集団構成員に対して重大な身体的または精神的な危害を加えること、
(c)全部または一部に身体的破壊をもたらすことを意図する生活条件を集団に対して故意に課すること、
および
(d)集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること、
の各号で規定するすべての行為を防止するすべての措置を講ずるべきであると思料する。当裁判所は、これらの行為が当該集団の全部または一部を破壊する意図から発した場合は条約第2条の規定範囲に含まれることを想起する(上記パラ44を参照)。当裁判所はさらに、イスラエル各軍がここに示したいかなる行為をも行わないことをイスラエルは直ちに措置するべきであると思料する。

79.当裁判所はまた、ガザ地区のパレスチナ人の集団構成員に関して直接的かつ公然のジェノサイド扇動行為を防止しまた処罰するためイスラエルがその権限内であらゆる措置を講じるべきであるとの見解を有する。

80.当裁判所はさらに、イスラエルはガザ地区のパレスチナ人が置かれている不利益な生活条件に対処するため緊急の必要性をもつ基本的サービスおよび人道支援の到達を可能とする迅速かつ有効な措置を講じるべきであると思料する。

81.イスラエルは、ガザ地区のパレスチナ人集団に向けられているジェノサイド条約第2条および第3条で規定された行為の疑いに関する証拠の破壊防止と保全確保をなす有効な措置を講じなければならない。

82.当裁判所による決定の実効性を担保するためにイスラエルが講じたすべての措置について当裁判所へ報告を提出するとの南アフリカによる仮保全措置請求に関して、当裁判所は、裁判所規則第78条によって、裁判所が提示したあらゆる仮保全措置の履行に関連する一切の事項について当事者から情報を求める権限を有していることを想起する。当裁判所が提示を決定した本件仮保全措置について、当裁判所は、決定の実効性を担保するためイスラエルは講じたすべての措置について発令日から1か月以内に報告を提出するべきであると思料する。かかる報告は南アフリカへ通知され、よって南アフリカは当裁判所へかかる報告への意見を提出する機会が与えられる。

83.当裁判所は裁判所規定第41条による仮保全措置決定は拘束力があること、したがって仮保全措置の対象となるいかなる当事者も服するべき国際法上の義務が生じることを想起する(ジェノサイド条約に基づくジェノサイドの申立て(ウクライナ対ロシア連邦)仮保全措置、2022年3月16日の決定、I.C.J.Reports 2022 (I), 230ページ, パラ84)。

84.当裁判所は、本手続での決定事項が本案における当裁判所の管轄権に関するいかなる疑義についても予断するものでなく、また本申立ての有効性あるいは本案についての疑義についても予断するものでないことを再確認する。それら疑義について南アフリカ共和国政府の、およびイスラエル国政府の、主張を陳述する権利は影響されない。

85.当裁判所は、ガザ地区における衝突に関与するすべての当事者は国際人道法に拘束されることを強調しておく必要があると見なしている。当裁判所は、2023年10月7日の対イスラエル攻撃の際に拉致されそれ以後ハマースおよび他の集団らによって拘束されている人質らの命運に重大な懸念を持ち、人質らを直ちに無条件で解放することを要請する。

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「東アジア反日武装戦線」とその時代

2024-01-27 20:55:01 | その他社会・時事
指名手配の桐島聡容疑者?神奈川で入院 本人と認め、病院側が通報(毎日)

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 1974~75年の連続企業爆破事件で、爆発物取締罰則違反容疑で指名手配されている過激派「東アジア反日武装戦線『さそり』」メンバー、桐島聡容疑者(70)とみられる人物が神奈川県内の病院で見つかり、警視庁公安部が事情を聴いていることが捜査関係者への取材で判明した。公安部が桐島容疑者かどうか確認している。桐島容疑者は約50年にわたり逃亡を続けており、公安部は身元が確認でき次第、長年にわたる逃亡生活の実態解明を進める。

 捜査関係者によると、桐島容疑者とみられる人物は神奈川県鎌倉市内の病院に入院していた。当初は違う名前を名乗っていたが、25日に桐島容疑者本人と認める話をしたことから、病院関係者の通報を受けた神奈川県警が警視庁に連絡した。病状は重篤だといい、公安部は慎重に対応を進めている。

 公安部は、本人確認をDNA型鑑定などで進める方針だが、新たに親族から試料を採取するなどの対応が必要とみられ、捜査関係者は「時間がかかるのではないか」と話している。

 桐島容疑者は75年4月18日夜、東京都中央区銀座7のビル5階にあった韓国産業経済研究所の入り口ドアに手製爆弾1個を仕掛け、翌19日未明、時限装置で爆発させたとして指名手配されている。

 桐島容疑者の時効は、事件を共謀したとして逮捕・起訴された大道寺あや子容疑者(75)が、日本赤軍がインド上空で日本航空機をハイジャックした「ダッカ事件」(77年9月)で超法規的措置で釈放され、国外逃亡したことから停止している。共犯者の公判中は時効が停止するという刑事訴訟法の規定に基づくもので、公安部が行方を追っていた。

 桐島容疑者は広島県出身。事件当時は明治学院大の4年生だった。【木下翔太郎】

<連続企業爆破事件>

 反帝国主義や反植民地主義を掲げるテロ組織「東アジア反日武装戦線」が1974年8月~75年5月、三菱重工など旧財閥系やゼネコンなど海外進出する日本企業を標的に起こした事件。計12事件で8人が死亡し、多くの重軽傷者が出た。東アジア反日武装戦線には「狼」「大地の牙」「さそり」のグループがあり、桐島聡容疑者は「さそり」に所属していた。
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年明け早々、日本共産党で史上初の女性委員長が誕生したと思ったら、今度は「東アジア反日武装戦線」メンバーの桐島聡容疑者とみられる人物が末期がんを患い、神奈川県内の病院に重篤な状態で搬送されてきたことが判明したという。

「趣味者」の世界も、定期的にネタが投下され、唯一元気な「朝鮮クラスタ」(北朝鮮中心にウォッチしている趣味者)以外はネタにも乏しく、休業か廃業している人がほとんどだが、なぜかここに来て「趣味者」の本能を刺激する出来事が国内で相次いでいる。やはり時代は平穏から激動への転機なのか。

私が、東アジア反日武装戦線と聞いて最初に思い浮かべたのは「腹腹時計」(はらはらとけい)である。この言葉を知っているのは、当事者でなければ趣味者くらいだろう。普通の健全な人たちは知らなくて当然だし、世の中には知らないほうが幸せなこともある。たぶんこれもそのひとつに違いない。東アジア反日武装戦線のうち「狼」に属している人物、具体的には記事中に登場する大道寺あや子容疑者の夫、大道寺将司容疑者によって書かれたとされる爆弾製造法解説書である。単なる爆弾製造法の解説にとどまらず、都市におけるゲリラ戦術についても記載しているとされ、おそらく戦後日本で「球根栽培法」などと並ぶ「最危険文書」だといえる。

警察施設には桐島容疑者の指名手配写真が必ずと言っていいほど貼られているので、これまでも運転免許の更新などの際に何度も見てきた。他の指名手配容疑者は人相も悪く「いかにも」な感じを受けるが、桐島容疑者だけは学生時代の指名手配ということもあり「好青年」に映っている。こんな過激な左翼運動に身を投じず一般社会で普通に生きていれば、たぶん私なんかよりよほど女性にもモテていたんじゃないかと思うこともある。

東アジア反日武装戦線のことを歌ったと思われる曲がある。「おちめタンゴ2(ふたたび)」という曲である。検索した限り、リンク先のニコ動以外にはアップされていないようだ。Youtubeと違って当ブログへの埋め込み方がわからないので、気になる方はリンク先に飛んでほしい。

『腹腹時計に惑わされ ゲバ棒メットを投げ捨てて 模範市民を装って 爆弾仕掛けたこともある 目覚まし時計で足がつき/服毒自殺もできかねて 今じゃ時計の修理工』という一節は間違いなく、爆弾闘争に走った左翼を笑うものだ。「爆弾仕掛けた」の部分が聴き取れないように音声にボカシを入れたバージョンもある。

この曲を発表したのは「まりちゃんズ」という謎のグループである。1974~1976年の3年間しか活動期間がないが、世間に挑戦するような曲を次々発表したあげく、そのほとんどが要注意歌謡曲(いわゆる「放送禁止歌」)指定を受けた。そもそもデビュー曲のタイトルが「ブスにはブスの生き方がある」だから凄い。「戦後日本で最も強くなったのは靴下と女性」だといわれ、ウーマンリブ(女性解放)運動が最も華やかに展開されている時代にこれを発表したのだから、どれだけ命知らずなグループかわかるというものだろう。本人たちはパンクバンドと称しているが、コミックバンドに分類され、徹頭徹尾、悪ふざけを演じきったグループだった。

今の若い人には想像ができないかもしれないが、「ひろゆきや日本維新の会がバンドを組んだらこんな感じになるんじゃないか」といえばイメージできるかもしれない。ただ、まりちゃんズに比べたら、ひろゆきも維新も弱い者いじめが過ぎて少しも面白くない。悪ふざけという意味では同じだが、「理想実現」のためなら無差別に一般市民を巻き込むテロリストを笑うという意味では、まりちゃんズのほうがはるかに健全だ。

まりちゃんズは、1990年代に入って再結成され、「尾崎家の祖母(おざきんちのばばあ)」という曲がプチヒットした。私が彼らを知ったのもこの曲を通じてである。「KaraGen~湘南 から元気倶楽部 Cafe」というサイトの「スーパーパンクバンド ”まりちゃんズ”」というコーナーでこのバンドのことが紹介されている。あまりに詳しすぎる内容で驚かされるが、このサイトの管理人「静炉巌(せいろがん)」氏が「まりちゃんズ」のかつてのメンバー、尾崎純也氏ではないかというのが私の推測である(このサイトを詳しく見ていけば行くほど、そうとしか思えなくなってくる)。もし私のこの推測が正しいなら、「尾崎家の祖母」は尾崎純也氏の実在の祖母を歌った曲かもしれない。

最後はあらぬ方向に話が逸れてしまったが、桐島容疑者は半世紀近く、神奈川県内の土木会社で偽名を使って働いていたと報道されている。まりちゃんズが歌ったとおり「模範市民を装って」いたことになる。警察の任意の事情聴取に対し、「最期は本当の名前で迎えたい」との意向を示しているとされる。それならば、桐島容疑者には命あるうちにお願いしたいことがある。自分が若き青春時代を懸けた爆弾闘争について、ひとことでいいので謝罪してほしいのだ。

「東アジア反日武装戦線」が暴れ、「まりちゃんズ」がそれを腐していた時代まで、日本では左翼にもそれなりの支持があった。だが、連合赤軍による一連の事件や東アジア反日武装戦線に代表される爆弾闘争以降、左翼は坂道を転がり落ちるように支持を失っていった。それから半世紀経った今なお、左翼退潮は止まることなく続いている。

もちろん、過激なテロ・ゲリラ闘争のなかった諸外国でも左翼はおしなべて退潮しており、彼らだけにその原因すべてを求めるのも無理があろう。だが、海外で社会主義に復権の兆しが見えてきている中、日本でだけその兆しが見えない原因にこれらテロ・ゲリラ闘争を挙げたとしてもそれほど外れていないと思う。あの時代、爆破された企業ビルの中で働いていたのは、労働力を資本家に売る以外に生活のすべを持たないという意味で間違いなく「労働者」だった。「理想社会」が実現したあかつきには、ともに労働者として汗を流す「仲間」になるべき人だったはずである。それら罪のない労働者を無差別に巻き込むことは、いかなる理由があろうとも正当化することはできない。たとえあの頃が「そういう時代」だったとしても。

今、昭和の時代さながらの古い価値観から脱却できず、性加害・セクハラ・パワハラを続けてきた人物が、新しい時代の新しいルールに従って次々に告発されている。今を生きる人たちにとっては、「500年後の人類にも胸を張って正しいといえるかどうか」を確認してからでないと行動に移せない難しい時代になった。当然、社会変革も新しい時代にふさわしい形にリニューアルしていく必要がある。だが、そのために努力している多くの人たちが一般市民の支持を取り付ける上で「あの時代」が邪魔をしている。だからこそ、無差別に一般市民を巻き込むという取り返しのつかない過ちを犯した「桐島さん」(ここではあえてこう呼びたい)にとって「謝罪すること」が残された最後の役目だと私は思うのだ。

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