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滅び行く「巨象」~トランプ復活で欧米の時代は終わった 日本は「脱欧入亜」で新時代に備えよ

2025-04-20 13:51:28 | その他社会・時事

(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2025年5月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ここしばらく、当誌の私の原稿では公共交通、原発、「令和の米騒動」などの国内問題に注力する一方、国際情勢に関してはほとんど取り上げてこなかった。だが、今年1月にドナルド・トランプが再びホワイトハウスの「主」となって以降、世界がトランプの「自国第一主義」政策に翻弄され続けており、この問題を避け続けることはもはやできない。

 多くの識者が、トランプ復活によって、米国のみならず欧米全体の没落を予想している。私としてもそれに異論はまったくないが、そうした識者の論考を紹介するのは必要最小限にとどめ、ここでは「トランプ復活」の背景にありながら、これまであまり語られることのなかった問題を中心に述べることにする。

 米国の「病巣」が私たちの想像以上に根深いことをご理解いただけるだろう。それは、少なく見積もっても1世紀以上にわたって続いた「パックス・アメリカーナ」(米国支配の時代)の終わりを告げる材料としては十分すぎるものになる。

 ●民主党の「自滅」と変質

 第1次政権の4年間で、米国と世界を混乱に陥れたトランプを、米国民が、しかも第1次政権のときを上回る圧倒的な票差をもって再びホワイトハウスに戻したことに、大半の本誌読者は怒りや驚きとともに「なぜ?」という疑問を持っていることだろう。

 そもそも今回の大統領選に限っていえば、民主党陣営の自滅の側面も見逃すことができない。第2次政権が成立すれば、在任中に80歳を超えるトランプに対して、民主党が若い候補者を擁立して高齢批判に焦点を絞る作戦を初期の段階から打ち出していれば、その後の流れはまったく変わっただろう。

 だが、80代に突入している現職ジョー・バイデンでもトランプに勝てると踏んだ民主党陣営は有効な手を打てなかった。予備選挙でバイデンを大統領候補に選出後、あまりの旗色の悪さに慌てて現職副大統領カマラ・ハリスに候補者を差し替えたがすでに手遅れだった。現職副大統領とはいえ、予備選挙で民主党員の信任を受けないまま候補者となったハリスを挙党一致で支えようとする機運は盛り上がらないまま投票日を迎えることになった。

 大統領候補になってからのハリスも、そのイメージと裏腹に内向きだった。米国人女性の妊娠中絶の権利に演説時間の多くを割いたが、党内リベラル派からは「イスラエル軍によって、パレスチナ・ガザ地区で万単位の女性が殺されているときに、米国人女性の妊娠中絶の権利ばかりに時間を割いているのはおかしい」という批判を受けた。政治家にとって最も重要な「今、何を最優先課題とすべきか」を完全に見誤っていた。国際社会から、一致してイスラエルにとっての最大の後ろ盾と見られている米国にとっての最重要課題は、イスラエルの後ろ盾をやめると宣言すること以外になかったはずだ。

 民主党は、広がる一方の経済格差にも何ら有効な政策を提示できなかった。民主党内最左派グループ、DSA(アメリカ民主主義的社会主義者)に属するバーニー・サンダース上院議員は、次のような声明を出し、民主党執行部を批判した。「労働者階級の人びとを見捨てた民主党が労働者階級から見捨てられたことに気づくのは、さほど驚くべきことではない。民主党指導部が現状維持に努める一方で、アメリカ国民は怒り、変化を求めている。そして彼らは正しい」。

 「これからの正義の話をしよう」などの著書が日本でもブームを呼んだハーバード大学教授マイケル・サンデル氏もこのように指摘する。「(1930年代の)ニューディール政策にさかのぼる民主党の伝統は、労働者の代表であり、権力者に対抗する人民の代表であり、経済権力の集中に対する牽制(けんせい)の代表であることでした。これが2016年以降は逆転しました。共和党は富裕層を支える政策を手がけてきたにもかかわらず、大学教育を受けていない人々や労働者がトランプに投票しました」。

 さらに「中道左派が労働者の支持を失い、権威主義的なポピュリストがそうした層へのアピールに成功しているのは、英独仏など多くの民主主義国家で見られる現象です。今日の不平等をもたらした、金融主導で市場寄りのグローバル化を、中道左派が受け入れたからです」とサンデル教授は続ける。

 これまで左派を支持してきた人たちが、自分たちの要求に応えようとしない左派に「お灸」を据えるため、あえて自分たちの思想・信条から最も遠いはずの右派に投票する――最近の日本共産党の退潮と「れいわ新選組」の躍進を見れば、残念ながら日本でも同じ現象が起きていると推測できる。日本共産党支持者のうち、党員除名など非民主的な体質に不満を持つ層から、れいわ新選組が「右旋回できるギリギリのライン」として選ばれたとしても、特段不思議なことではない。

 ●トランプが進める「ブルジョア“文化反革命”」

 サンダースが指摘した民主党の「富裕層政党」化はいわばトランプ復活の間接的理由であり「外部要因」だが、それは共和党とトランプ陣営の内部要因とも密接に関連している。トランプがこの間、語り続けてきた「アメリカを再び偉大に」運動だ。

 共和党は右派、富裕層、白人を支持基盤とする一方、民主党が左派、貧困層、マイノリティを支持基盤としていることは米国政治にとっての常識だったが、Make America Great Againの頭文字を取り、MAGAと呼ばれるトランプ陣営のこの運動が、従来の常識を掘り崩し、米国政治の流動化をもたらしているとする識者は多い。

 黒人やヒスパニックなど、従来であればトランプのみならず共和党自体に絶対に投票しなかった層から、トランプが多くの票を得たことが確認されている。「『労働者の党』だった民主党は今や、金持ちのための政党になりつつある。だから人種を問わず、労働者の党離れが起きている」。米ヤングスタウン州立大学教授のポール・A・スラシック氏の指摘は、前述したサンダースの声明やサンデル教授の主張とも重なる。

 共和党は、2016年の大統領選をトランプで戦いヒラリー・クリントンに勝利した。2020年大統領選ではバイデンに敗れたが、2024年の大統領選でカマラ・ハリスに勝利しホワイトハウスに戻ってきた。つまり、共和党は、過去3回、12年間の長きにわたってトランプ以外の候補者で大統領選を戦っていないことになる。

 この12年間で、かつての共和党は大きく変質し「トランプ党」化しつつあるとの指摘も多い。スラシック教授は第2次トランプ政権を「革命的」と評し、その理由として「過去のいかなる共和党政権でも指名されなかったような人々が閣僚や高官に起用されている」ことを挙げる。旧ツイッター(現X)の創業者であるイーロン・マスクを新設の「政府効率化省(DOGE)」トップに指名する人事はその最たるものであろう。事実に基づいているかどうかには関心がなく、みずからが信じたものこそが「真実」なのだと主張して、白昼堂々とフェイク情報を流す人物の政府高官への起用は、米国が病魔に蝕まれていることの最もわかりやすい一例である。

 トランプ政権が発足し、はや3か月。独裁国家の「王」さながらに気まぐれな朝令暮改の命令を繰り返すトランプを見て、トランプ関税の最大の標的とされる中国では、経済界を中心に多くの人々が米国を文化大革命当時の中国になぞらえていると伝えられている(「ニューズウィーク」日本版2025年4月22日号)。トランプが「お友達人事」で独裁体制を敷き政敵を次々と排除、政治・経済・社会のあらゆる領域を破壊している様子が、かつて毛沢東・中国共産党主席が紅衛兵を使って政敵を引き回した「文革」に似ているというのだ。

 毛沢東政権下の中国で繰り広げられたのがプロレタリア文化大革命であるならば、トランプが展開しているのは、さしずめ「ブルジョア“文化反革命”」とでも呼ぶべき政治運動だろう。スラシック教授は「(米国と取引や交渉関係にある)企業や外交官にとっては難題」だが、それでも日本人は「新しい人々と新しい現実を知る必要がある。MAGA運動の灯は簡単に消えない」と、変質した米国は今後、かなり長期間続くと警告する。

 ●「お前の体、俺の選択」~トランプが組織化に成功した「女性差別」票

 第1次トランプ政権成立の立役者として、米中東部の衰退した工業地帯(いわゆる「ラストベルト」)の白人労働者たちが注目された。女性や非白人などのマイノリティによって「簒奪」された(と思い込んでいる)みずからの地位の復権を彼らがトランプに託したことが勝利の要因とされたからだ。

 しかし、今回の第2次トランプ政権の成立に当たっては、彼らは前回ほどには注目されなかった。代わって今回のトランプ復権の隠れた立役者とみられているのが、「マノスフィア」によって組織化されたZ世代(30歳以下)の男性だというのである。

 この問題については、同志社大学大学院准教授の三牧聖子さんが継続的に追っている。マノスフィアとは、インターネット上の特定のサイト名ではなく、若い男性向けコンテンツ及びそれを発信するインフルエンサーの総称で、man(男性)とsphere(場所)を合成した造語だという。女性差別的だったり、女性への憎悪をあおり立てる目的で制作されたりしたコンテンツや、その発信者がそう呼ばれるようだ。人気ユーチューバーの中には、女性差別的な内容のコンテンツ配信で、1千万回もの再生回数を記録した者もいた。その差別的なニュアンスまで含めて日本語に翻訳するのは難しいが、強いて訳すなら「マッチョ男性空間」あたりが適切だろうか。

 トランプによって最大限利用され、その再選後さらに勢いを増したマノスフィアでは、「お前の体、俺の選択」(your body,my choice)というスローガンが拡散された。フェミニストたちが自分の身体に関する自己決定権を求めて掲げてきた「私の体、私の選択」(my body,my choice)をもじったものだという。妊娠、出産または中絶など自分の身体に関する最も基本的なことに関する決定権さえ、女性から奪い去ろうとするおぞましい女性差別的スローガンである。

 Z世代全体では、トランプ支持よりハリス支持の方が4ポイント上回ったが、男女別で見ると、Z世代女性ではハリス支持が17ポイント上回ったのに対し、Z世代男性ではトランプ支持が14ポイント上回った。Z世代の若い男性の多くがこのスローガンを支持していると知ったとき私は衝撃を受けた。

 実は、このような傾向は先進各国で共通に見られる現象である。特に20~30歳代の若者世代で、政治意識における男女分断の傾向が強まっている。男性はより右派的に、女性はより左派的になる傾向が、韓国などでも報告されている。日本でこのような調査が行われた例を私はまだ知らないが、例えば、男性では原発推進が反対を10%程度上回る一方、女性は反対が推進を10%以上、上回ったとする過去の世論調査結果もある。傍証となりそうなデータはすでに得られている。

 トランプが立候補した過去3回の大統領選の結果については前述の通りだが、注意深く見てみると、トランプが2016年、2024年の大統領選で勝ったのはいずれも女性候補だったのに対し、2020年に敗北したときの民主党の候補者は男性のバイデンだった。これを単なる偶然で片付けてしまっては事態の本質を見抜くことはできない。実際にはトランプは、女性や非白人などのマイノリティによって「割を食った」(と勝手に逆恨みしている)ラストベルトの白人男性労働者からの支持に加え、新たに獲得したZ世代男性の「ミソジニー(女性嫌悪)」感情を、マノスフィアによって組織化することで大統領選に勝利したのである。

 こうしたミソジニー感情は、実は日本でも若年男性層に広がり始めており、実際の選挙結果に影響を与えたと思われるケースもあるが、紙幅も限られているため、これについては別の機会に譲りたい。

 ●トランプ関税は失敗する

 トランプ復活の要因に、ラストベルトの白人男性労働者や、新たに獲得したZ世代男性の間に広がるミソジニー感情の組織化の成功があることはすでに述べた。彼らが不利な立場に追い込まれたのは、製造業中心から情報・サービス業中心へ、米国の産業構造が変化したことによるものであり、女性やマイノリティのせいでないことは言うまでもない。

 しかし、こうした産業構造の変化を、他ならぬトランプ自身が認識していないのではないかと思われる政治的風景が私には見えている。20世紀どころか、重商主義だった19世紀を思わせる「関税」政策にトランプが極端に傾斜していることだ。トランプは、同盟国か敵対国かにかかわらず、ほとんどの国の製品に高率の関税を課し世界を揺さぶっている。

 しかし、多くの有識者が指摘するように、私もこの関税政策が成功することはないと考える。そもそも関税は、「物」が輸入される際、通関手続の中で課税されるものであり、税関を通過しない無形サービスには課税できない。米国外からGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)を通じて、税関を通過せず国境を越える「情報」にどうやって課税するつもりだろうか。日本を訪れる米国人観光客が購入し、持ち帰った「物」には米入国の際に課税できるが、今、日本を訪れる外国人観光客のほとんどは物よりも「体験型消費」に比重を移している。食事、宿泊、観光など現地で消費される無形サービスに対しても関税を課することはできない。

 トランプ関税が、米国外に流出してしまった製造業を米国内に呼び戻すことを目的としているとする有識者の指摘はおそらく正しい。だが、情報業・サービス業中心に産業構造が転換した今、GAFAなどの情報産業は世界のどこにいても同じように事業展開できる。むしろ、タックスヘイブン(租税回避地)にでも本社を移した方がよほど節税になる。

 サービス業にしても、例えば中国に進出している米国の飲食店があるとして、「明日から米国に店舗を戻すので、顧客のみなさんは飛行機に乗ってお食事に来てください」などというわけにはいかない。無形サービスを現地で提供することが前提の、日本でいう「第三次産業」は、お客様を見捨てて勝手に米国に回帰することなどできないのだ。

 政権に復帰してみて、初めてこのことに気づいたのか、トランプは高率関税の発動を90日間延期すると言い出した。お友達人事が過ぎて「裸の王様」になったトランプには、もはや適切なアドバイザーすら不在のようだ。毛沢東逝去後、中国共産党はプロレタリア文化大革命を「中国に10年の災厄をもたらした」と総括したが、トランプによる「ブルジョア“文化反革命”」もいずれ後世の歴史家によって同じように評されるに違いない。

 ●日本は「脱欧入亜」目指せ

 ウクライナ戦争が始まる2022年を境に世界はがらりと変わったと思う。それまでの私は、人権・環境保護・脱炭素を掲げ、理想の未来に向け燃える欧州を羨ましく思うとともに、選択的夫婦別姓のように自明と思われる政策ですら遅々として進まない日本に毎日苛立ちを募らせていた。

 しかし今はどうだろう。米国による後ろ盾を失ったEU(欧州連合)は、今年3月、フォンデルライエン委員長が「欧州の安全保障は非常にリアルな形で脅かされている」と述べ、軍拡を強化することを表明した。独力でロシアに対抗できるだけの軍事力を整備するという。第三次世界大戦を引き起こし、人類を滅亡に導きかねない極めて危険な賭けである。これだけ短期間に急激な軍事費の増大を実現すれば、そのしわ寄せで福祉・教育などの市民生活は必ず破壊される。欧州の今後は極めて厳しいものになる。

 欧州とともに自由・人権・民主主義という価値観を共有してきたはずの米国の惨状はすでに見てきたとおりだ。米国の歴史学者アルフレッド・W・マッコイ氏は、1950年に世界の半分を占めていた米国の経済力が、2010年の段階ですでに世界の4分の1にまで低下していることなどを根拠に、米国の衰退が2025年に始まると予想していた。だが「穏やかな帝国の衰退が(2期目の)トランプ政権に圧縮した形であらわれ、世界での米国のリーダーシップは予想よりもずっと早く終焉を迎える」と予測している。

 「アメリカを再び偉大に」というスローガンとは裏腹に、後世の歴史家は「米国を決定的に壊した男」とトランプを評するだろう。あらゆる指標、データがパックス・アメリカーナの終わりとともに、その復活の日が永遠に来ないであろうことを示唆している。やはり世界は、私が本誌で何度も述べてきたとおり、より小さな「俺たちの正義」同士がそこかしこで衝突しては紛争を繰り返す不安定な時代に入ったと考えるほかはない。このような時代、日本に求められるのは、世界地図には米国以外にも様々な国、地域、そして人々の生活があると知ることである。米国一辺倒だった外交政策から脱却することである。

 封建時代から近代に向かう過程で、日本は脱亜入欧をスローガンに「欧米列強」の仲間入りを目指した。しかし今、日本がかつて目標とした欧米諸国は急坂を転がり落ちるように沈没の速度が加速している。社会の底が抜けたといわれる日本も緩やかに沈んでいることに違いはないが、荒れ狂う大海原に浮かんでいられる時間的猶予は、少なくとも欧米よりはありそうに思える。先の見通しのない欧米を追うことはやめ、かつてとは逆に脱欧入亜を目指すことが、これからの日本の外交政策には必要だ。トランプ復活を機会に、在日米軍にはお引き取りいただく。アジアのことはアジアの中で平和的に解決する新しい価値観を身につけ、実践してゆく。日本が生き残る道はここにしかない。

(2025年4月20日)


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韓国憲法裁、尹錫悦大統領「罷免」決定~現地レポート他

2025-04-04 23:27:46 | その他社会・時事

尹錫悦大統領の弾劾・罷免を認めるかどうかを審議していた韓国憲法裁判所は、今朝11時から始まった法廷で、大統領を罷免とする決定を言い渡した(参考:【詳細】韓国ユン大統領が罷免・失職 60日以内に大統領選挙へ/NHK)。

判決は8人の裁判官全員一致の結論だ。韓国嫌いのネトウヨは、韓国の司法を「世論にすぐに流される」などと批判しているが、民主主義国家では、法律は主権者である国民の名で制定され、国民の意思に沿って運用されるのが原則だから、韓国の司法のほうが健全である。むしろ、国民世論から超然としていることをもってみずからの矜持とする日本の司法のような腐ったエリート主義のほうが異常だといえる。

以下、「レイバーネット日本」運営委員・白石孝さんによる現地レポート、及びこの間、大統領退陣運動を続けてきた「尹錫悦即退陣・社会大改革非常行動」の声明を紹介する。

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ソウルレポート:ユン大統領弾劾支持の大集会開かれる(「レイバーネット日本」白石孝さんの現地レポート)

現地レポート 白石孝(ソウル/2025年4月4日午後1時半)

 いま、ユン大統領弾劾支持の集会の場で、憲法裁判所の審判のテレビ中継を見ました。3万人くらいと思いますが、喜んでいます。でも、意外と冷静に受けとめていて、涙を流していたのが、不肖私も含めて、若い女性3人グループくらい。皆さんは勝利を確信していた感じです。

 現場に来て分かったことがいくつか。まずは、「動員」らしき団体はほとんど見当たらなく、せいぜい労組くらいか。あとは、個人、2人、数名のグループ。こういう「個人」が自らの意思で来ているのがすごくよく分かる。

 礼儀正しいこと。会場整理のスタッフが、通路の確保に何人も動いていたが、真ん中エリアはみな、きちんと座り、周囲も通行の邪魔にならないようにしている。ゴミも数か所の集積ポイントにきれいに捨てられている。みな「やさしい」。

☆午後は、友人と合流して、「民主労総」の集会、夜は全国的なネットワーク組織の「社会大改革非常行動」の集会とデモに参加する予定。

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【声明】尹錫悦罷免、民主主義の勝利だ 内乱を終えて社会大改革に進もう
 
内乱首魁尹錫悦が罷免された。大韓民国を驚愕と恐怖に陥れた「真夜中の非常戒厳」を宣布してから123日ぶりのことだ。憲法裁判所の全会一致の決定が出たが、すでにかなり前に行われるべき決定だ。内乱首魁「尹錫悦」の罷免は、主権者市民の勝利であり、数多くの市民の犠牲と民主抗争で築いてきた憲法と民主主義の力を再確認したものだ。
 
尹錫悦の12.3非常戒厳は、要件も手続きも備えていない明白な不法であり違憲だ。布告令には違憲的な内容が盛りだくさんで、これを根拠にした国会封鎖も、憲法機関である中央選挙管理委員会を侵奪したこともすべて違憲違法な措置だった。国憲を乱し、暴動を起こした内乱だった。さらに、非常戒厳宣言のために戦争を企画し、挑発したことまで確認された。
 
しかし、主権者の市民たちは軍と警察を動員した国会封鎖を素手で阻止した。汝矣島に200万市民が集まり国会の弾劾訴追案議決を引き出し、ナム・テリョンと漢南洞闘争を通じて尹錫悦を逮捕した。尹錫悦が脱獄すると数千万の市民が光化門に集まり、結局尹錫悦を罷免させた。 
 
尹錫悦の罷免は終わりではなく始まりだ。まず、尹錫悦と内乱一党に対する司法処理が厳重に行われなければならない。内乱・外患特検の導入を含め、外患容疑や警察、検察の内乱加担の有無に対する捜査も、強力に進められなければならない。憲政を蹂躙するすべての犯罪者の末路がどうなのかをはっきりと残し、第2、第3の内乱を防がなければならない。 
 
憲法裁の尹錫悦弾劾審判決定を妨害するために、憲法裁の違憲決定にもかかわらず、裁判官任命を拒否した韓悳洙(ハン・ドクス)、崔相穆(チェ・サンモク)に対する法的・政治的責任も問わなければならない。内乱を庇護し、同調した国民の力に厳重な責任を問い、民主主義を脅かし、暴動と混乱を助長した人々に対する処罰も必要だ。さらに、4ヵ月間の憲法破壊を容認した憲法裁判所と内乱のリーダーを釈放した検察と裁判所の強力な改革も必要だ。
 
何よりも重要なことは、尹錫悦と内乱勢力が威嚇した憲政秩序の弱点を補完し、内乱の再発を防ぐことだ。時代錯誤的な非常戒厳を憲法から削除しなければならない。憲法裁判所の無力化を防ぐための制度的補完も伴わなければならない。
 
主権者市民が広場で叫んだのは「尹錫悦罷免」だけではない。尹錫悦政権が退行させた改革の価値を復元し、人権と民主主義、平和と平等、生命と生態、世話と労働が尊重される持続可能な社会のために社会大改革を完成しなければならない。他の諸政党も党利党略を離れて協力しなければならない。
 
昨年の冬、広場に集まったパンライトと旗の精神を私たちは忘れないだろう。内乱の終息と新しい社会のための市民の熱望を私たちははっきりと見て、共に共有した。いつのまにか春だ。芽生える新芽の力で、冬の間広場を守った主権者市民の力で社会大改革を完成させよう。私たちは去年の冬のように疲れたりあきらめたりしない。
 
内乱首魁罷免、主権者市民が勝利した!
内乱勢力を断罪して内乱を終わらせよう!
主権者市民の力で社会大改革を完成させよう!
 
2025年4月4日
尹錫烈即退陣·社会大改革非常行動

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【訃報】経済評論家・森永卓郎さん 舌鋒鋭く「財務省批判」最後まで貫く

2025-01-31 22:02:34 | その他社会・時事

経済アナリストの森永卓郎さん死去 67歳 がん公表後も活動(朝日)

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 経済アナリストとして格差社会を鋭く批判し、テレビやラジオでも活躍した独協大学教授の森永卓郎(もりなが・たくろう)さんが28日、原発不明がんで死去した。67歳だった。家族葬を執り行う予定。

 東大卒業後、1980年に日本専売公社(現JT)に入り、経済企画庁(現内閣府)出向などを経て、91年に三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)に。2001年に就任した自民党の小泉純一郎首相による構造改革に異を唱え、非正規雇用の拡大などを批判した。「年収300万円時代を生き抜く経済学」はベストセラーになった。

 デフレ脱却に向けて、早くから金融緩和と財政出動が重要だと主張。自民党の安倍政権による「アベノミクス」でそうした政策が推し進められたが、実質賃金が減ったことなどを問題視し、内部留保をため込む大企業や、消費税の増税を進めた財務省への批判を強めた。

 富裕層がさらに豊かになって貧困層がふくらむ経済のあり方に、警鐘を鳴らし続けた。多数の著作やテレビでの軽妙な語り口を通して、「モリタク」の愛称でお茶の間にも親しまれた。

 ミニカーなどの収集家や牛丼研究家としても知られた。23年末にがんを公表後も精力的に活動を続けていた。

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森永卓郎さんが死去した。最近は経済アナリストと呼ばれることも多く、引用した「朝日」も森永さんの職業をそのように表現しているが、私は、適切な日本語があるものについては、日本のメディアはいたずらに横文字に流されるのではなく、きちんと日本語で表現すべきだと考えている。よってここでは経済評論家とお呼びする。

ステージ4のがんが全身に転移しており、「来年(2024年)の桜は見られないかもしれない」と医師に告げられたのが2023年秋だったという。それが、2024年のお花見どころか、2025年のお正月も迎えることができたのだから、医師の宣告よりはずいぶん長く生きたことになる。

森永さん最大の功績は、なんと言っても「ザイム真理教」(私が執筆を担当したレイバーネット日本の書評コーナー「週刊 本の発見」でも紹介)を世に送り出し、財務省批判に対するタブーを日本から取り払ったことだと思う。私は、財務省批判がタブーだったとは必ずしも思っていないが、「失われた30年」の背後に緊縮財政と増税政策があるという見解に一定の納得感を与えた。

リンク先の書評でも記したとおり、私は「ザイム真理教」に書いてあることを全面的に盲信しているわけではない。むしろ「通貨発行権を持つ政府が、紙切れに1万円と書いて印刷すれば、それが1万円として通用し、引き替えに1万円相当の財物が転がり込んでくる。それが通貨発行益である」と堂々と述べている第3章~第4章に関しては批判もしている。通貨と財・サービスの交換価値を表現したものが物価だというのは経済学のイロハのイであり、経済的に立ち遅れた途上国でも、通貨をジャンジャン刷って流通させれば豊かになれるというのはさすがに飛躍しすぎである。経済が発展するためには、実際には生産力が発展することが必要であり、生産力の伴わない通貨発行量の増大は貨幣価値の低下を招くだけである(参考:「よくわかる社会主義のおはなし」レッドモール党ホームページより)。

もちろん、一流の経済評論家としての名声をほしいままにした森永さんが、その程度の基本を理解していないとは考えられないから、これは積極財政政策に対する読者からの支持を取り付けるための彼なりの表現技法だろう。森永さんが信奉し、某政党が一時は基本政策にも掲げていたMMT(現代貨幣理論;国債のほとんどが国内で消化されている限り、いくら発行しても経済財政は破綻しないという説)が成立するには、国債発行で調達された財源が、国民生活に関係の深い部門で有効に使われることなど、いくつかの前提条件がある。

それでも、「緊縮財政や増税よりは国債発行の方がマシ」「それを許さない財務省こそ『失われた30年』の戦犯である」というムードを日本社会に一定程度、作り出すことに成功した功績は評価されていい。当ブログ読者のみなさんにも「借金してでも、どうしても今、この瞬間に手に入れたいもの」があるだろう。同様に政府にも、社会を維持し、崩壊させないために、借金してでも実行しなければならない政策というものがある。子どもの教育や医療・福祉、農業や公共交通への投資などはその最たるものだろう。

森永さんは、日本専売公社の主計課で働いていたと、みずからの生い立ちを告白している。40代以下の若い読者の方には、そもそも日本専売公社についての説明からしなければならないが、ひとことで言えば、現在のJT(日本たばこ産業)の前身に当たる公共企業体である。戦時中からの統制経済の名残で、たばこや塩の流通は国家管理されており、日本専売公社はその統制管理を担うため、全額政府出資で職員は国家公務員の身分を与えられていた。同様に、全額政府出資で職員が国家公務員だった国鉄(JRの前身)や電電公社(NTTの前身)とともに「三公社」と呼ばれていた時代がある。

その中でも、日本専売公社の「主計課」は、財務省で各省庁の予算査定を行う主計局を、公共企業体向けにひとまわり小さくした組織で、日本専売公社の各部署から上がってくる予算要求を「査定」し、縮小・削減するための部署である。当然、他の部署からは嫌われる。森永さんは、主計課時代のご自身を「今よりずっと嫌な奴だった」と自虐も込めて述懐していた。ご自身が「財務省主計局の専売公社版」組織である主計課にいただけに、財務省の手の内もわかる。この専売公社主計課時代の経験が、財務省批判のベースにあったことは間違いない。

経済評論家に転身してからは多忙を極める毎日だった。雑誌の記事だったか、インターネットの記事だったか定かでないが「起きているときは講演しているか、原稿執筆しているか、新幹線や飛行機などで移動しているか」のどれかだったという。がんの告知を受けてからも、大好きな煙草も続け、いわゆる健康上の節制はほとんどしなかった。むしろがん告知を受けてから「ザイム真理教」「書いてはいけない」などタブーに挑戦する著書を猛烈な勢いで出版した。

いかなる権力にも忖度せず、気骨ある言論活動を最後まで貫いた。その評論内容には賛否両論があると思う。だが、単なる金融評論や「相場読み」的な薄っぺらな言論活動しかしていない人たちと「経済アナリスト」として同列に扱われることは私には我慢ができない。この記事の冒頭で、森永さんをアナリストと呼ぶ風潮に与せず、経済評論家と呼ぶことにしたのにはそのような理由もある。テレビに出ている経済・金融専門家の中で、私がアナリストではなく「経済評論家」と呼ぶに値すると思う人は、森永さん亡き今、荻原博子さんくらいだろうか。

67歳での訃報は、人生80年時代の現在、もちろん早世ではある。それでもこれだけやりたいことをやりきっての人生なら、周りが思っているほど本人に悔いはないのではないか。「太く短く」を絵に描いたような、ある意味では理想とも言える見事な生き様だった。

実は、森永さんに関し、当ブログ・安全問題研究会にはひとつの計画があった。私が運営委員を務めている「レイバーネット日本」には独自のインターネットテレビ(レイバーネットTV)がある。そこで、1985年のJAL123便墜落事故から40年の節目となる今年、国の航空機事故調査委員会(当時。現在の運輸安全委員会)が出した「後部圧力隔壁崩壊説」を覆す番組を作る予定で企画を進めていた。「事件」の可能性が高いこの事故を取り扱う特別番組に、ゲストとして森永さんをお迎えする。困難を承知の上で、私自身が出演交渉にも当たるつもりでいた。しかし、今回のご逝去で、永遠に叶わぬ幻となった。


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2024年 安全問題研究会10大ニュース(今年は20大ニュースに拡大します)

2024-12-30 22:06:49 | その他社会・時事

さて、2024年も残すところあとわずかとなった。例年通り今年も「安全問題研究会 2024年10大ニュース」を発表する。ニュースタイトルの後の〔 〕内はカテゴリーを表す。

選考基準は、2024年中に起きた出来事であること。当ブログで取り上げていないニュースも含むが、「書評・本の紹介」「日記」「運営方針・お知らせ」カテゴリからは原則として選定しないものとする。

・・・なのだが、今年は本当にいろいろなことがあり過ぎた。鉄道系ブログとしてはどうしてもランクインさせなければならないはずの北陸新幹線敦賀開業や、根室本線・富良野~新得廃止といった重要ニュースが、まさか10位以内にすら入れないとは思ってもいなかった。

だからといって、これらのニュースを選外にするわけにもいかず、熟慮の末、今年はやむを得ず、20大ニュースに枠を拡大する。ニュース枠の拡大は、2016年(20大ニュースに拡大)以来8年ぶりである。なお、この拡大のため、例年、選外となったニュースでどうしても残しておきたいものを取り上げている「番外編」の公表は、今年は行わない。

1位 能登半島で震度7の大地震 関連死含め500人近く犠牲に〔気象・地震〕

2位 羽田空港でJAL機と海保機が衝突、乗客全員脱出成功も海保機5人死亡〔鉄道・公共交通/安全問題〕

3位 日本被団協にノーベル平和賞 長年の反核運動実る〔原発問題/一般〕

4位 自民党総裁選で石破政権発足、衆院解散総選挙で自公過半数割れ〔その他(国内)〕

5位 改定エネルギー基本計画から原発「可能な限り低減」削除。福島の教訓忘れ露骨な原発回帰へ〔原発問題/一般〕

6位 東海道新幹線保線車両衝突、東北新幹線「はやぶさ・こまち」分離など新幹線トラブル相次ぐ〔鉄道・公共交通/安全問題〕

7位 米大統領選でトランプ氏返り咲き。民主ハリス氏大差で破る〔その他(海外・日本と世界の関係)〕

8位 中央リニア新幹線開業と北海道新幹線札幌延伸「延期」発表相次ぐ 計画の無謀さ明らかに〔鉄道・公共交通/交通政策〕

9位 女川・島根原発再稼働相次ぐ 敦賀2号機は規制委審査「不合格」で原電窮地に〔原発問題/一般〕

10位 NUMO(原子力発電環境整備機構)が寿都・神恵内での「核のごみ」最終処分場文献調査報告書を公表〔原発問題/一般〕

11位 根室本線・富良野~新得、無念の「廃止」 地元住民団体は復活運動へ〔鉄道・公共交通/交通政策〕

12位 北陸新幹線、金沢~敦賀間延長開業〔鉄道・公共交通/交通政策〕

13位 JR各社が相次いで値上げを発表。JR北海道をめぐっては当研究会代表が公聴会で意見公述。「みどりの窓口」削減など大幅なサービス低下も相次ぎ、利用者からの不満表面化〔鉄道・公共交通/交通政策〕

14位 知床遊覧船事故をめぐり、海保が桂田精一・同社社長を逮捕・起訴〔鉄道・公共交通/安全問題〕

15位 バスの深刻な運転手不足により全国的に減便・廃止相次ぐ〔鉄道・公共交通/交通政策〕

16位 「令和の米騒動」発生。8~9月にかけ全国で米が品薄に〔その他(国内)〕

17位 宮崎県沖でM7の地震。初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」発表〔気象・地震〕

18位 JR九州高速船日韓航路「クイーンビートル」で浸水隠し発覚。JR九州が日韓航路撤退へ〔鉄道・公共交通/安全問題〕

19位 「国内避難民の人権に関するダマリー国連特別報告者による訪日調査報告書」日本語訳が公開〔原発問題/一般〕

20位 東京、兵庫の知事選でSNSが影響力。フェイク、デマ情報の制限が課題に〔その他(国内)〕

【当研究会関連(上記以外)】

・当研究会代表、羽田事故問題、原発問題で「レイバーネットTV」に2回出演

・羽田事故問題で国交省の責任を連続追及。航空管制官の増員実現

・当研究会代表執筆論文「開業150年の節目に危機が顕在化した日本の鉄道」が月刊「日本の科学者」に掲載

・「リニアが通る村」長野県大鹿村で当研究会代表がリニア問題の報告

・「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4・27集会」で当研究会代表が記念講演

10大ニュースには、例年、鉄道関係カテゴリーから3つ程度、原発関係カテゴリーから3つ程度を選ぶこととしているが、今年は鉄道・公共交通関係の重要ニュースが多かった。しかも、事故・トラブル、廃線・減便、工事難航に伴う開業時期延期など、「鉄道・公共交通衰退」を感じさせるニュースばかり。明るい話題は新幹線敦賀開業くらいだが、いずれも今後の鉄道の帰趨を占う重要ニュースと判断した。

一方、原発関係は、今年は反/脱原発という観点からはまったくいいニュースがなく、10月までは9位「女川・島根原発再稼働相次ぐ 敦賀2号機は規制委審査「不合格」で原電窮地に」の1つだけでもいいと考えていた。

だが、11~12月にかけ、日本被団協のノーベル平和賞受賞、エネルギー基本計画改悪、NUMOによる文献調査報告書の公表などの重要ニュースが続いた。これらも、数年後に振り返ったとき「いま思えばあそこが転換点だった」と振り返られることになるのは確実な重要ニュースばかりであり、結局、原発関係も5つと例年を上回った。

それにしても・・1位の能登地震が元日、2位の羽田空港事故が1月2日の出来事であり、「新年の2日で今年の10大ニュースのツートップは決まったようなものだ」と新年早々思ったが、結局、この2つを凌駕するような重要ニュースは、当ブログ的にはなかった。

地震関係のニュースが2つもランクインするなど、とにかく今年は地震に翻弄された年だった。震度5強以上を記録した地震は、東日本大震災が起きた2011年以降としては、最も多い年になった。

もう1点、上記のランキングを見ていて思うのは、1つの事件がドミノのように連鎖的に他の事件を引き起こしていくケースが今年は非常に目についたことだ。例えば、2位の羽田事故は、能登に救援に向かおうとしていた海保機がJAL機と衝突したものであり、元日の能登地震が起きていなければ発生していなかった。また、16位「令和の米騒動」も、米不足の傾向自体は今年春からはっきりしていたものの、「最後のダメ押し」になったのが17位の「南海トラフ地震臨時情報の発表」だったことは疑いがない。

これらは連鎖的に発生したが、それ自体は別の出来事であるため別のニュースとして扱わざるを得なかった。枠を20に拡大しなければならないほどニュースが多かったのは、重要なニュースがドミノ的に連鎖発生した影響も見逃すことができない。

いずれにせよ、今年は本当に騒々しい1年だったし、安全問題研究会にとってもかつてなく忙しい年だった。少なくとも、公共交通をめぐっては、2025年は平穏な年であってほしい。


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2025年、日本人は覚悟せよ!どん底からの復活を賭けた年になる

2024-12-25 23:08:47 | その他社会・時事

(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2025年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 年末年始にかけて読者諸氏のお手元に届く新年号を、私はとりわけ重視している。みんなが今年1年をどんな年にしようかと考え、あるいはどんな年になるだろうかと前途を想像する。年末年始以外の時期は日々の雑事に紛れがちで、この手のことを考える余裕はほとんどないからだ。

 正直に告白すると、来年、2025年がどんな年になるか予測したいという気にはとてもなれない。今年より良くなる要素がほぼなく、悪くなるという予測しかできないからだ。

 とはいえ、2020年代がどんな10年間になるかを占ったのがつい最近のことのように思っていたのに、もう2020年代も中盤に入る。このあたりで、2020年代初頭に当たって私が占ったことがどれほど的中しているか「中間点検」するとともに、外れた予測は撤回または必要な修正を加えた上で、今後に備えたいと思っている。

 ●外れた予測と「半分だけ外れた予測」

 「国際社会において世界の覇権はアメリカから中国へ移る」(「時代の転換点に起きた新型コロナウィルス大流行~「ポスト・コロナ」後の世界を読む」本誌2020年4月号拙稿)の予測は残念ながら外れた。新型コロナの封じ込めに一定程度成功した中国の経済が、これほど大きく減速するとは予測していなかった。

 日本の高度成長は1950年の朝鮮戦争を契機に始まり、1973年の石油危機まで23年間続いたが、中国の経済成長は1992年から始まり、コロナ直前の2020年まで28年続いた。年率10%近い経済成長率をこれほど長く維持できたのは世界史的にも異例の事態だ。日本の先例に倣うなら、年率10%近い経済成長率が20年を過ぎたどこかの段階で減速の予測をすべきだった。そんな簡単な予測すらできなかったことはひとえに私の認識不足である。

 「日本国内では、東京五輪が開催できず韓国、台湾との差が決定的になる」との予測に関しては半分だけ外れた。新型コロナで無観客になったとはいえ東京五輪は開催されたからである。

 だが、新型コロナ対応の圧倒的な差を見せつけられた結果『東アジアで韓国・台湾が先進国、日本は「衰退途上国」との評価が確定する時期を2020年代末期と予測していたが、日本のこの体たらくを見ていると、その時期は大幅に早まることになろう』(前記記事)とした予測については、見直す必要はないと考えている。日本では弱者へのあらゆるハラスメントが横行し、今では自国を先進国だと思う日本人はほぼいなくなった。韓国で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による「非常戒厳」発令によるクーデターを未遂に終わらせ、逆に大統領を弾劾に追い込んだ韓国の市民民主主義の底力を見ると、その差を思い知らされる。

 ●的中した予測

 一方で、私が立てた予測の多くが的中していることに驚かされる。「コロナ禍を経験した世界経済は緩やかに「大きな政府」へ向かう」「構造転換に失敗した日本経済はますます観光依存を強める」(前記記事)との予測について、これ以上の説明は不要だろう。

 『「私の人生をめちゃくちゃにしたあの人に、どんな手を使っても復讐してほしいんです」「わかりました。そのご依頼、お引き受けしましょう」――テレビドラマや映画、小説ではおなじみのワンシーンであるが、国家が罰すべき者をきちんと罰していない、法と正義が実行されていないと多くの市民が感じれば、2020年代の遠くない時期、これがフィクションではなく現実となるおそれがある』(「2020年代の大胆(?)予測~向こう10年の世界はこうなる」本誌2020年2月号拙稿)との予測は、統一教会に「人生をめちゃくちゃにされた」中年男性による安倍晋三元首相殺害事件という最悪の形で現実となった。

 『IT技術の面では、ネットの「フェイク」化が進行する。SNSによる社会分断が加速。SNSでの不毛な「闘争」や情報の真偽の見極めに疲れ、ネットから「降りる」動きは2020年代を通じて加速する。「ネット上の情報を自由に操作して支持を集めることができるごく一部の強者」と、ネットに展望がないと見て、みずからの意思で能動的に「降りる」決意をした人――この両極端の行動を取れる人が2020年代の勝者となる』(前記記事)。私自身、5年前にこの予測を立てる際には迷いもあった。だが、米大統領選でのトランプ氏や、兵庫県知事選で、議会から不信任決議を受け失職したはずの斉藤元彦氏の「まさかの復活」当選に至る経緯を見ていると、この予測は身震いするほど正確だった。

 「逃げるは恥だが役に立つ?~離脱、脱出が2020年代のキーワードかもしれない」(本誌2020年3月号拙稿)で予測したこともほとんどが事実となっている。この記事を執筆した時点では盤石だと思われていたジャニーズ事務所が解体し、拘束性が非常に強い事務所から、ほとんどの所属タレントが「脱」を実現することになるとは夢にも思っていなかった。

 旧来型組織・団体にとって、構成員からの忠誠心を調達することが困難になっており、これに取って代わるべき新しい組織モデル(とりわけ若い世代を長期継続的に惹きつけておけるような新組織モデル)も登場していない。旧来型組織からの構成員の「脱」の動きは、2020年代後半も止まることはないであろう。

 ●2025年、日本は覚悟の年になる

 フランスの歴史家エマニュエル・トッド氏は「第三次世界大戦はすでに始まっている」と評したが、私は当初、日本に核武装を勧めるような「三流歴史家」の寝言だと考え相手にしていなかった。しかし、世界地図をひもといてみると、ウクライナとガザ、2地域での戦争が、南北から挟み込むように中間地域に拡大していることがわかる。トッド氏の予測通りに進んでいるように見える。

 世界大戦の時代の特徴は、ひとつひとつは局地的紛争に過ぎないように見えても、それらが相互に作用し合い、連動してドミノのように既存の社会秩序を破壊していく点にある。その中から、紛争、戦乱の「目的意識的拡大」を狙う勢力が登場する。その野望が成功すれば局地的紛争は世界大戦となる。第2次世界大戦当時、その役割を担ったのはナチスドイツだった。そのナチスドイツによって徹底的なホロコーストを受けたユダヤ人の国家・イスラエルが現在、当時のナチスドイツと同じ役割――局地的紛争の目的意識的拡大――を意図しているように見える。なんという歴史の皮肉だろうか。

 軍事力の質と量の両面で中東諸国を圧倒し、米国の強固な庇護を受けているイスラエルを止められる意思と能力の両方を備える国家は現在、世界地図の上に存在しない。2025年は世界がその存亡を賭けた正念場となるだろう。2025年に起きるいくつかの出来事が、向こう半世紀すなわち21世紀後半の世界の潮流を決めることになるかもしれないとの予感が私にはある(21世紀後半まで世界人類が滅亡せず生き延びられればの話だが)。

 国力衰退過程にあり、国内問題に忙殺されている日本が、国際社会で何かの役割を果たせるようには見えない。それどころか2025年こそが日本にとって「どん底」の年となる可能性がある。

 2021年に死去した歴史家の半藤一利氏は「昭和史」の中で日本は40年周期で繁栄と衰退を繰り返すと述べた。「昭和史」を2011年に読破したブロガーの「ちきりん」さんは、半藤氏の説を基にこんな図(2011年現在)を作っている。

 

 半藤氏は、米占領統治時代(1945~1952年)を期間計算から除き、2032年をどん底だとしており、いつがどん底かについては諸説ある。占領時代を含めるなら、1945年からちょうど80年となる2025年は、1945年に匹敵するどん底の年だということになる。このことは「衰退・凋落加速する日本 反転攻勢の目はあるか?」(本誌2024年7月号記事)でも取り上げているが、人心荒廃が著しい日本に復活の目はあるだろうか。

 なんだか新年早々、おめでたくない予測ばかりになってしまったが、これが偽らざる日本の現状だと思う。

(2024年12月22日)


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【転載記事】国連人権理事会「ビジネスと人権に関する作業部会」報告書の日本語仮訳が公開されました

2024-07-08 23:00:08 | その他社会・時事
管理人よりお知らせです。

国連人権理事会「⼈権及び多国籍企業並びにその他の企業の問題に関する作業部会」(通称:ビジネスと人権作業部会)は、これまで特別報告者による訪日調査などを行い、日本企業のビジネスと人権に関する実態を明らかにする作業を続けてきました。

この問題については、国連や、日本国内の人権団体が問題にしたかったのとはまったく異なる方向から注目を浴びました。その経緯を含め、当ブログでは過去に一度、取り上げています(当ブログ2023年9月22日付け記事「問題は本当にジャニーズだけか? 日本企業に「行動変容」迫る「ビジネスと人権」の大波」参照)。

この作業部会の報告書がこのほどまとまり、国連ホームページに英語で公表されました。人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」関係者による日本語仮訳が同団体のホームページに掲載されましたので、ご紹介します。

なお、当ブログの文字数制限を超えるおそれがあるため、全文の転載はしません。見たい方は、「ヒューマンライツ・ナウ」ホームページの該当コンテンツへ、直接飛んでください。

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衰退・凋落加速する日本 反転攻勢の目はあるか?

2024-06-30 22:37:55 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2024年7月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 ●混迷都知事選は凋落の象徴

 東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)がかつてない混迷の中にある。本誌が読者諸氏のお手元に届く頃はちょうど選挙運動も終盤に入っていると思う。立候補者は過去最高の56人に上るものの、その9割以上は政策実現のためでも「選良」を目指すためでもない。

 公営掲示板のポスター枠を売買する政治団体や、公序良俗に反する卑わいなポスターを貼り出し、都選管から注意を受け即日はがした陣営さえある。これがG7の一員である日本の首都で起きている出来事だとは思いたくもない。目を覆わんばかりの惨状だ。

 「迷惑系ユーチューバー」として悪名を馳せた「へずまりゅう」氏でさえ、宣言していた立候補を取りやめ、恐れをなして撤退したところを見ると、もはや都知事選は「売名」の場としてすらまったく機能していない。市民には重い負担を課しながら、自分たちだけ裏金をつくって私腹を肥やす政治にはもはや何を言っても無駄、それなら徹底的に選挙を荒らして憂さ晴らしでもしようという「終末思想」が都知事選全体の通奏低音になっていると言っても決して過言ではない。

 泡沫候補の大量立候補に伴い、供託金の没収額も1億円を超え過去最高になりそうだとする報道もある。都知事選の供託金は300万円。法定得票数(有効投票数の1割)を確実に超えられそうなのは、現職・小池百合子知事の他、最有力対抗馬・蓮舫前参院議員(立候補に伴い参院議員を失職)、石丸伸二・前広島県安芸高田市長まで。田母神俊雄・元航空幕僚長にも法定得票数突破の可能性があるが、残る52人にはまずない。仮に52人が供託金没収となる場合、その額は1億5600万円にもなる。

 ●円安ドル高の背景にあるもの――思い出した「杜海樹さんの昔のコラム」

 政治、経済、社会、あらゆる分野で日本の凋落が加速している。特に、外国為替市場の円安ドル高は円の「全面崩壊」と形容できるほどの状況にある。2020年6月1日時点で1ドル=107円92銭だった為替市場は、1年後の2021年6月1日時点でも111円10銭とほとんど下落しなかったが、2021年以降は急速に下落が加速。2022年6月1日には135円73銭と約2割も下落した。さらに、2023年6月1日には144円32銭(対前年同月比6%下落)、2024年6月1日にはついに159円79銭と、対前年度比で1割、2021年6月1日時点との比較では31%も下落した。わずか3年間でこれだけの下落率である。

 円相場は、2024年1月1日時点では146円88銭だったから、今年に入ってからの5ヶ月間で8%も下落したことになる(ここまで、いずれも終値)。下半期もこのペースで円安ドル高が進んだ場合、今年の年末には年始から16%も円が下落することになる。食料・エネルギーの大半を輸入に頼る日本でこれだけ急激な円安ドル高が進めば、経済がおかしくなって当然だ。

 本誌のバックナンバーを保管している読者諸氏に、ぜひ読み返していただきたい記事がある。2021年4月号掲載の杜海樹さんのコラム「通貨の相対的価値という問題」だ。日経平均株価がバブル期を上回る4万円台をつけるなど(この記事掲載の段階では4万円台はまだ記録していなかったが)、記録的に進んでいる株高について、多くのエコノミストが「株が高くなったのではなく日本の通貨が相対的に下落した結果」だと指摘しているというもので、興味深く読んだ。

 経済を専門に学習していない読者にとっては、もう少し詳しい説明が必要かもしれない。そもそも「物価とは何か」と聞かれたら、皆さんはなんと答えるだろうか。経済学の教科書的に言えば物価とは「通貨と財・サービスの交換価値」のことをいう。一般的に、企業の価値は株式会社の場合、株価で示されるが、実体経済の中で企業の価値は変わらないのに通貨の価値が下落しているなら、その企業の価値を表す株価には、通貨が下落した分だけ以前より高い数字を使わなければならなくなる。要するに、起きているのは円安ドル高と同じ「円安株高」現象だというのが「杜海樹説」のポイントである。3年前は「まあ、そういう説もあるよね」的な感覚で、私も正直なところ半信半疑だった。今になって改めて記事を読み返してみると、この説が正しかったことが浮き彫りになる。

 今年5月の大型連休中、東京・高島屋で開催された金製品の展示会会場から金の茶碗が盗まれる事件が世間を騒がせた。その他にも、外国人を中心とする窃盗団による高級時計盗難事件などが報道されている。強盗犯や窃盗犯のほとんどが「物」を盗む一方で、最近は現金が盗まれる犯罪がほとんど報道されていないことにお気づきの読者もいるかもしれない。

 こんな話をすると驚かれるかもしれないが、実は、経済のことを最もよく勉強しているのは強盗、窃盗、詐欺などの犯罪を働く集団である。これらの人々にとっては、逮捕・服役などのハイリスクを取ってまで行動に踏み切る以上、ハイリターンでなければ割に合わないから、何を盗むのが最も費用対効果が高いかを「熱心に勉強」しているのである。そうした犯罪集団にとって、1年で8%、3年で3割も価値が下落する日本円のような現金はハイリスクを取ってまで盗む価値もないというのが実感なのだろう。これに対して、財物の価値は変わらないから、現金の価値が下落トレンドにあるときは、財物を盗む方が「割に合う」のである(投機筋の間では「有事の金」と言われ、戦争などの有事には金の価格が上がることが多い。しかし厳密にいうと、金は、量も財物としての価値も常に不変だから、実際には金が上がっているのではなく、通貨のほうが下がっているのである)。要するに、現金ではなく財物が盗まれるのは、政府が与えた通貨の信認が低下していることを示しており、「途上国型」の犯罪なのだ。

 こうした事実を裏付けるように、今年に入ってからこの問題を特集する経済専門紙誌が増えている。例えば、週刊「エコノミスト」2024年6月4日号「円弱~国際収支の大変貌を追う」と題する特集記事では、途上国化する日本経済に警告を発している。日本経済は現在、年間5兆円近いデジタル赤字を、同じく年間5兆円近いインバウンド(海外からの訪日客)消費の黒字で埋める構造になっているというのだ。

 デジタル赤字とは、日本が海外から受け取るデジタル部門での稼ぎから、海外に対するデジタル部門での支払額を差し引いた収支のマイナスのことをいう。日本人が使っているインターネットサービス(特にSNS=ソーシャル・ネットワーク・サービス)は、X(旧ツイッター)、Amazon、Facebookなどほとんど米国製であり、これらサービスからの課金を日本人がオンラインで支払うたびに、日本から米国へ資金が流出している。日本人が使うその他のデジタルサービスを見ても、LINEは韓国発、若者に人気のショート動画投稿サービス「tiktok」は中国発のサービスであり、中韓両国へも資金が流出している。これに対し、日本製のデジタルサービスで海外から利用されるものはほとんどないから、収支が大幅なマイナスになっているのである。

 一方、インバウンド消費についても説明が必要だろう。海外からの訪日観光客が日本国内で買い物をし、それを自国に持ち帰る場合、貿易統計上は輸出として取り扱われる。こうした行為は、それが観光客個人によって行われる点が違うだけで、日本企業が、例えば車や電気製品などを海外へ輸出し、海外から代金を受け取る行為と変わらないから輸出に当たるのだ。この「観光収支」が日本は大幅な黒字になっており、デジタル赤字の大部分をここから埋めることができているという。

 日本は、デジタル時代への対応が大幅に遅れ「デジタル敗戦」ともいわれる現状を招くに至った。日本経済は、デジタルでの赤字を、インバウンドに対する「おもてなし」というアナログで稼いで埋める経済構造になっている。目下の円安ドル高は、このような日本経済の構造的要因から発生しているため、一時的な現象ではなく長期的な(おそらく数十年スパンの)トレンドとなる可能性が高い。

 「エコノミスト」誌は、「デジタル赤字を前提にどう稼ぐか」を議論しなければならないとする専門家の発言を掲載しており、日本がデジタル敗戦から脱出する道は描けていないようだ。新型コロナが猛威を振るっていた2020年当時、台湾政府が閣僚に任命したオードリー・タン氏がデジタルを活用して迅速な対策を打ち出したのに対し、日本はコロナ感染者数を医療機関から保健所にFAXで送付する態勢を続け大きな批判を浴びた。日本がデジタル敗戦から復活できるようには、私にはとても見えない。

 ●人心荒廃で日本はどこに行く?

 経済の凋落も深刻ではあるが、目下の日本にとってそれ以上に深刻なのは人心荒廃なのではないだろうか。店舗従業員や鉄道の駅員など、反論権のない相手を見つけ出しては長時間、執拗なクレームを続ける「カスタマーハラスメント」はその最たるものだろう。それだけのエネルギーがあるならなぜ政府・自民党・経団連など「上」に向けないのか。

 愚かな行動を取る層は昔から一定数存在していたが、最近、そうした事例が騒ぎになる原因として、インターネット普及で誰もが発信者になれる時代が到来したという側面はあるかもしれない。しかし、そうした発信者たちが集会、デモなどの「発信」に務めている姿は見たことがない。発信の対象になるのはあくまで個人的で、どうでもいい「私怨」のような事例ばかりだ。インターネットは、むしろ政府や権力者に異議を唱える人々に対するバッシング以外には使われなくなりつつある。

 歴史家・半藤一利氏(2021年没)は、欧米列強が江戸幕府に開国を迫った1865年を起点として、日本は40年周期で興亡を繰り返すとする説を唱えた。日露戦争に勝利し日本が列強の仲間入りをした1905年を頂点、敗戦の1945年を底とし、バブル経済を直前に控えた1985年を頂点とした。半藤説が正しければ、来年、2025年は日本にとって1945年に匹敵する「どん底」となる。

 もちろん日本史は世界史と連動しており、ウクライナ・ガザで2つの戦争が同時進行する世界には確かに終末感がある。このような「底」から這い上がるために、日本は社会、経済の両面で何をすべきか。経済に限っていえば、インバウンドへの「おもてなし」以外の新たな有力産業を育成することは急務だろう。問題は、その有力産業の候補が思い当たらないことである。当面は「おもてなし」を続ける以外になさそうだ。

(2024年6月23日)

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2023年 安全問題研究会10大ニュース

2023-12-31 22:40:39 | その他社会・時事
さて、2023年も残すところあとわずかとなった。例年通り今年も「安全問題研究会 2023年10大ニュース」を発表する。ニュースタイトルの後の<>内はカテゴリーを表す。

選考基準は、2023年中に起きた出来事であること。当ブログで取り上げていないニュースも含むが、「書評・本の紹介」「日記」「福島原発事故に伴う放射能測定値」「運営方針・お知らせ」カテゴリからは原則として選定しないものとする。

1位 ガザ地区からイスラム原理主義勢力「ハマス」がイスラエルを越境攻撃。イスラエル軍がガザ地区に侵攻し2万人以上死亡<その他社会・時事>

2位 福島原発事故の汚染水(いわゆる「処理水」)の海洋放出を政府・東京電力が漁業者の反対押し切り強行。漁民らが差し止め求め国・東電を提訴<原発問題/一般>

3位 宇都宮ライトレール開業。路面電車の国内での新規開業は75年ぶり<鉄道・公共交通/趣味の話題>

4位 ローカル線存廃に関し、国主導で「特定線区再構築協議会」が設置できるようにする改定「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」が成立・施行。ローカル線問題が重大局面に<鉄道・公共交通/交通政策>

5位 岸田政権が原子力基本法などの原発推進関連束ね法案を、市民の抗議の中成立させる。原発による電力供給を「国の責務」とした究極の悪法も、原発再稼働は見通せず<原発問題/一般>

6位 「STOP!リニア訴訟」で、東京地裁が国・JR東海の主張を丸のみし事業認可を有効とする不当判決<鉄道・公共交通/交通政策>

7位 知床遊覧船事故をめぐり、違法運航を行った船舶事業者への罰則を従来の最高100万円から1億円に引き上げるよう求めた安全問題研究会の請願が、海上運送法の一部改正により実現<鉄道・公共交通/安全問題>

8位 福島原発事故刑事訴訟、勝俣恒久東京電力元会長ら旧経営陣3人に対し、2審・東京高裁も無罪の不当判決<原発問題/福島原発事故刑事訴訟>

9位 新型コロナの取り扱いが感染症法上の「5類」に移行。日常回復へ<その他社会・時事>

10位 ジャニーズ性加害問題の広がりによりジャニーズ事務所が分社化、「ジャニーズ」の名称が消滅<芸能・スポーツ>

<番外編/当研究会関連>安全問題研究会代表が執筆に加わった著作第2弾「次世代へつなぐ地域の鉄道——国交省検討会提言を批判する」が刊行

10大ニュースには、例年、鉄道関係カテゴリーから3つ程度、原発関係カテゴリーから3つ程度を選ぶこととしているが、今年は鉄道関係が4つとやや多めだった。昨年は鉄道開業150年という節目に反して暗いニュースが多かったが、今年は海上運送法改正で船舶の違法運航に対する罰則が引き上げられたり、宇都宮ライトレールが開業したりと、それなりに明るいニュースも多かったのが特徴だ。

もっとも不幸だったのは、昨年の1位(ウクライナ戦争)に続き、2年連続で戦争勃発をトップニュースにせざるを得なかったことだ。世界が悪い方向に向かっていることがひしひしと伝わってくる。来年こそこの流れを断ち切り、良い方向に向かわせるようにしなければならない。

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支持率17%の衝撃~「政権交代前夜」ムードで国内政局大動乱 2024年、自公政権倒し政治転換へ

2023-12-17 21:04:03 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2024年1月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 師走の声を聞いてから、自民党各派閥によるパーティー券収入問題が燎原の火のように拡大し続けている。11月に「しんぶん赤旗」日曜版が報じ、政治資金問題に詳しい上脇博之神戸学院大教授による告発に端を発している。清和政策研究会(安倍派)を中心に、政治資金集めのためのパーティー券収入の大半が政治資金収支報告書に不記載のまま処理され、その額は最も多い議員で1000万円、派閥全体では過去5年間で5億円近くに達するとの報道もある。

 清和研の場合、派閥が課した集金ノルマは閣僚・党役員・一般議員など立場によって異なるが、一般議員の場合、100万円。各議員がノルマ分だけ派閥に金を「上納」する。各議員が個々に政治資金パーティーを開催し、上納金を上回る金を集められればそれが収入になる。逆にノルマに満たなかった場合は各議員の「持ち出し」となる。平たく言えばそんなシステムといえよう。衆参両院で99人の議員を擁するとはいえ、自民党の一派閥に過ぎない清和研が毎年1億もの政治資金を集めるとは驚きのひとことだ。

 事件は清和研のほか、宏池会(岸田派)、志帥会(二階派)にも広がる気配を見せている。政治資金収支報告書への不記載は政治資金規正法違反に当たるため、現在、東京地検特捜部が捜査に乗り出している。本稿執筆時点(2023年12月16日現在)では議員秘書などに対する任意の事情聴取が行われており、臨時国会が閉幕(12月13日)した今後は議員本人への聴取や強制捜査が行われる模様だ。

 国会開会中の議員には不逮捕特権がある。議員本人の容疑が固まり立件するとしても、1月の通常国会招集後にずれ込めば、検察当局は議員の所属する院に対し、逮捕許諾請求を行うか、在宅のまま起訴するかの判断を迫られることになる。1月の通常国会開会までが立件に向けた勝負となる。東京地検特捜部は現在、全国から応援検事を集め、50人態勢で捜査に臨んでいる。本気で立件するつもりなら、事実上正月返上となるであろう。

 ●「リクルート事件に似てきた」

 政治記者の間では、今回の政治資金問題がリクルート事件に似てきたという声が上がっている。田中角栄という1人の政治家が巨額の賄賂を受け取ったロッキード事件と異なり、リクルート事件では多くの自民党議員が江副浩正リクルート社長から、関連会社リクルートコスモスの未公開株を受け取っていた。検察は、国会に「手の内」を晒さなければならない逮捕許諾請求を避け、国会議員側を在宅起訴で立件。藤波孝生元官房長官、池田克也元衆院議員に対し、受託収賄罪による有罪判決が確定している。

 ジャーナリスト青木理さんは、今回の政治資金問題を「巨悪はおらず、小悪が群れている感じ」だと評する。「ひとりひとりが手にした金額は多くないが、対象が広範囲」という点、また派閥政治への批判が集まっていることがリクルート事件と似ており、「令和のリクルート事件」との評価は間違っていないと思う。

 今後の焦点は、この事件がどこまで広がり、どのように展開するかだ。リクルート事件では、あれだけ広範囲に未公開株がばらまかれたにもかかわらず、政治家の立件は2名にとどまり、国民には肩すかしの印象が残った。政治不信は高まったが、それでも何となく世間が収束ムードに向かったのは、折からのバブル景気で国民生活も経済もそれなりにうまくいっていたという背景事情を見逃すことができない。

 今回の政治資金問題による市民の怒りは現時点ですでに当時に近づきつつある。長い日本経済の低迷で市民生活が苦しくなっている局面での問題発覚だという点が当時と大きく異なっており、今後の展開次第では当時を上回ることになるかもしれない。

 経済低迷の背景には、コロナ禍、ウクライナ戦争によるエネルギーや食品価格の高騰というここ数年のトレンドがある。生活必需品ほど値上げ率が大きく、30数年ぶりといわれる賃上げ幅も物価上昇率にはまったく届かず、特に中間層以下を直撃している。こうした問題は、支持率低下という形で歴代政権の基礎体力を奪い、少しずつ蝕んできた。そこに安倍元首相暗殺事件が起き、日本政界でのパワーバランスが大きく変わったことで、この十数年間、覆い隠されてきた諸問題が噴出してきているというのが筆者の情勢認識である。

 ●1993年型政権交代の可能性も

 インターネット世論では、政権交代を求める声が日増しに強まっている。ネットに書き込んでいるのは「特定の層」が多く、現実世論との乖離も大きいため、これが本当の市民の声かは慎重に見極める必要がある。それでも、岸田政権の支持率17%(時事通信、12月実施)という数字は驚きをもって迎えられた。自民党支持率が2割を切るのも、2012年、自民の政権復帰以降では初めてであり、2009年、民主党に政権交代する直前の麻生政権以来見たことがないような低いものだ。

 経済低迷、安倍~菅政権を支えてきた「岩盤保守」層の離反、統一協会問題など支持率低下には複合的要因があり、「これをすれば劇的に支持率が回復する」という特効薬もなさそうだ。岸田政権の瓦解が視野に入る最終局面に来たといえるだろう。

 政権交代が今後、起きるかどうかの予測は筆者にも難しい。自民支持率の低下が野党の支持率上昇にほとんど結びついていないからだ。あらゆる世論調査が、離反した自民支持層のほとんどが「支持政党なし」に移行したことを示している。「支持政党なし」が3分の2に迫る世論調査の結果は与野党を超えた「政党全体に対する不信拡大」と見るべきである。

 しかし、それでも希望を捨ててはならないと筆者は考える。1989年のリクルート事件発覚から、4年後の1993年に起きた細川非自民連立政権発足までの流れに現在が非常によく似ているからである(この意味でも、今回の政治資金問題に対し、令和のリクルート事件とする評価には首肯できる)。リクルート事件発覚当時も、自民党は許せないが、野党第一党・日本社会党に政権を託せると考える日本人はほとんどいなかった。1989年、政府・自民党にとって最悪のタイミングでめぐってきた参院選では、政権選択選挙ではない参院選独特の「気楽さ」もあってか、社会党が地滑り的に大勝し、参院は自民党が過半数を割る与野党逆転状態となった。竹下内閣によってこの年4月、3%の税率で導入されたばかりだった消費税を廃止する法案(野党提出)が参院で可決されるという事態も生んだ。結局、この廃止法案は自民党が多数の衆院を通過せず、消費税廃止は幻に終わった。だが、このときの与野党逆転状態が、1993年の政権交代を準備することになる。

 1991年には、バブル崩壊が次第に市民の目にも明らかになり、日本経済は下り坂に入った(日本経済がこの後「失われた30年」に突入するとは、この時点では誰も思っていなかった)。そこに、1992年、タレント桜田淳子さんの「合同結婚式」参加がスクープされる。統一協会問題をめぐって報道合戦状態となり、日本社会は大揺れに揺れた。

 1993年、小沢一郎議員らが自民党を割り、新生党を結成。宮沢喜一内閣不信任決議案が提出され、新生党も賛成して可決されると、宮沢首相(宏池会出身)は衆院を解散。総選挙で自民党は過半数を大幅に割り込んだ。

 日本共産党を除く全野党の議席数を足してみると、自民党を上回ることが判明。細川護煕(もりひろ)日本新党代表を首相とする非自民政権が成立。1955年に結党した自民党は初めて下野した。自民党が半永久的に単独政権を担う55年体制の終わりと評されたことは、一定年齢以上の読者ならご記憶の方もいるだろう。



 ここで紹介した図は、日本の経済成長率と政権交代の関係を示したものである。インターネット上に公開されていた経済成長率の推移を示す折れ線グラフに、筆者が政権交代の起きた年を入れてみると、一定の傾向が見えてきた。93年の政権交代はバブル崩壊直後、2009年の民主党への政権交代はリーマン・ショックの直後であり、いずれも日本経済が大きく傾いた直後に起きている。

 「自民党以外に政権が渡ると経済が悪くなる」として自民党を擁護する保守系評論家、文化人は多いが、こうした議論は原因と結果を取り違えている。実際には経済が悪くなり、利益配分にあずかれなくなった自民党支持層による反乱が過去2回の政権交代につながったとみるべきなのだ。当然、非自民政権はいつも、最悪の経済状態を自民党政権から引き継ぐ形で発足するのだから、そのような批判はそもそも的外れである。

 2009年の政権交代時には、受け皿となるべき民主党の支持率が20%を超えていた。そのため小選挙区制下で民主党が自民党を圧倒した。野党第1党でも支持率が10%に満たない現在、2009年のような政権交代劇はそもそも起こりえない。

 だが、1993年のような形での政権交代であれば、筆者は起きる可能性はそれなりにあると考えている。折しも、当時以来30年ぶりに統一協会問題がくすぶり続けており、解散命令請求を出された統一協会が自由自在に自民党の選挙運動に動き回れる状況にはない。加えて、11月には創価学会も池田大作名誉会長を失っている。自公政権のバックにいた二大宗教勢力がこれまでのような集票力を発揮できるかわからない。2009年当時もなかったような日本の政治的地殻変動が足下で大きく進んでいる。物価高に怒れる保守層、無党派層が大挙して「自民党への制裁」に出れば、事態は大きく動く可能性がある。

 野党各党は、とりあえず政権交代に備え、候補者数だけは確保すべきだと思う。候補者の質はそれほど高くなくていい。少なくとも「同じ選挙区の自民党候補よりまし」程度で十分である。今こそ有権者に自民党以外の選択肢を示すときだ。

 その際、細かな政策まで野党各党間で詰めすぎると選挙協力が難しく、かといっておおざっぱな政策での合意にとどまるならば、政権獲得後に不一致が表面化し、過去2回の非自民政権のように瓦解するおそれがある。各党が政権をともに運営する上での基本政策、基本理念について合意の下、選挙協力するとともに、連立政権となった場合には「連立を維持するために、他党と妥協する可能性があるライン」まであらかじめ示した上で選挙に臨むのが、過去2回の失敗を踏まえると適切なのではないだろうか(この意味では、日本共産党が過去何度か公表してきた「民主連合政権構想」はもっと評価されていい)。

 ●清和研の時代の終わり

 話を戻そう。今回の清和研を中心とした裏金問題から「長く続いた清和研時代の終わり」を予測する政治記者が多い。筆者もこの見解におおむね同意する。リクルート事件によって、長く我が世の春を謳歌してきた旧経世会(竹下派)支配が終わりを告げた過去の歴史があるからだ。その後、自民党の中では傍流に過ぎなかった清和会が、小泉純一郎首相(当時)の個人的人気による「小泉旋風」に乗り一躍、主流派に躍り出た。それ以降、今日までのほぼ20年にわたる自民党政権の歴史は、そのまま「清和会支配」の歴史だった。

 清和会は、自民党の中でも最も右派的、新自由主義的な一派で、この20年間、自民党を右へ右へと牽引する役割を果たしてきた。国家主義と新自由主義が車の両輪となり、当時、就職適齢期だった「氷河期世代」は徹底的に切り捨てられた。今に続く日本経済の「失われた30年」が、この世代の切り捨てと関係していることを疑う日本人は、今ではいないであろう。それほどまでに、20年の清和会支配が日本に残した傷跡は大きい。今回の裏金問題を契機に「清和会政治の総決算」を行うべきである。

 清和会にとって想定外だったのは、安倍元首相が後継者を育てないまま凶弾に倒れ世を去ったことであろう。清和会にとっての安倍元首相は、2009年の下野によって、民間企業でいえば倒産状態にあった自民党を政権復帰で再建した「オーナー経営者」的立場にあったというのが筆者の評価である。民間企業のオーナー経営者には強烈な個性を持つ人物が多い。たとえば柳井正社長が不在のユニクロや、孫正義会長が不在のソフトバンクグループの姿を想像するのは経営の専門家でも難しいであろう。創業者である父親を引退に追い込み、娘が経営権を奪取したものの、あっという間に傾き、他社の子会社として吸収された大塚家具を見るまでもなく、オーナー経営者の存在が大きすぎると、後継者選びは得てしてうまくいかないというのが、大組織の人事を長年見つめてきた筆者の感想である。

 一方で、清和会は民間企業と異なり、戦後日本のほとんどを与党として支配してきた巨大政党内部に結成された政治集団である。衆参で99人もの議員を擁する大所帯でありながら、安倍首相殺害後の清和会は、後継会長すら決められず、今回の裏金問題で失脚した「5人衆」を中心とする集団指導体制という異例の形での運営が続いてきた。

 本誌読者の中には、過去さまざまな形で左翼政治党派に関わってきた人、現在も関わっている人もいるであろう。そのような人々にとって、自民党の派閥は「どれも大同小異で興味もない」という人も一定程度いるかもしれない。だが、政策や人間関係の微妙な違いによって左翼政党内部にもしばしば存在する「フラクション」(政党内部の「政党」)と同じ性質、機能を持つと説明すれば、少しは興味を持ってもらえるのではないだろうか。自分たち以外の人たちが多数派を形成して自分の所属する政党の執行部を握っており、自分たちのフラクションがそれに対抗していかなければならないときに、トップも決められないというのでは、それが今後どのような末路をたどるかは想像に難くないであろう。今回、清和会が内閣・党役員からの一掃という事態に追い込まれたことは確実に今後、遠心力として働くことになる。

 20年もの長きにわたって続いた清和会支配が解体後、どのような政治風景がこの国に現れるか予測するのは難しい。自民党内部から新たな勢力が台頭するのか。清和会以外の現有勢力が合従連衡するのか。自民党は分裂するのか否か。野党との間での政権交代は起こりうるのか。筆者にはどれも同程度の可能性があるように読める。

 とりあえず私たち市民にとって重要なことは、停滞、閉塞状況が長く続いてきた国内政治を、2024年は久しぶりに大きく動かすことができるかもしれないということを意識して行動することである。特に、自民党に阻まれて長く日の目を見ないでいる政策(たとえば選択的夫婦別姓、同性婚)などを実現するにはこの先5年間程度が勝負とみるべきだろう。

(2023年12月16日)

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第二次大戦後のスキームが完全に終わった2023年 機能不全となった日本と世界はどこへ向かうのか?

2023-11-22 23:54:29 | その他社会・時事
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2023年12月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 「本誌が読者諸氏のお手元に届いた時点で、2022年はまだ1ヶ月以上残っており、総括するのはまだ早いと思われる方も多いだろう。だが、半世紀を過ぎた筆者の人生の中で「こんな年、早く終わってしまえばいいのに」とこれほどまでに強く思った年はかつてなかった」――私がこんな書き出しで本誌原稿を執筆したのは昨年12月号でのことだった。今年、2023年も本稿執筆時点でまだ1ヶ月以上残っているが、2022年を2023年に変えるだけで、どうやら同じ書き出しで始めなければならないようだ。

 ●世界~国際機関も各国政府も機能不全に

 2011年3月の福島第1原発事故以降、日本政府が機能不全に陥り、一般市民はもちろん、彼らの支持基盤であるはずの保守層や経済界のための政治さえまともに行われていないのではないかという疑いを私はずっと抱いてきた。それでも機能不全は日本政府だけで、諸外国の政府や国際機関に対しては、まだそれなりに機能していると思っていた。

 その認識が怪しくなったのはウクライナ戦争以降である。国連安全保障理事会は常任理事国同士の拒否権合戦となりまともな決定はできなくなった。米国、中国を初め諸外国の政府も、迫り来る危機に対する有効な手を打てないまま漂流し続けているように思う。

 そうこうしているうちに、中東で新たな戦争が始まってしまった。「西側の裏切り」でNATO(北大西洋条約機構)入りしたウクライナが自国に核を向けるかもしれないから機先を制しておきたいというプーチン大統領の思惑には、納得はできなくても「相手側の立場からはそう見えても仕方がない」という程度の理解はできる。だがイスラエル軍は、まるで鼻歌でも歌いながらガザ地区を戦車で蹂躙し、ゲームでもするような感覚で子どもの殺戮を楽しんでいるようにさえ見える。ここまでの民族浄化、虐殺はまったく理解不能である。

 イスラエル政府の現職閣僚からガザ地区への核兵器使用を示唆する発言まで出た。極右政党リクード(保守連合)を率いるベンヤミン・ネタニヤフ首相もさすがにこの閣僚を無期限の職務停止にしたが、そのような事態になれば、ガザ地区を実効支配するハマスの後ろ盾であり「事実上の核保有国」のイランが核による反撃に出る事態もあり得る。このような事態を想定外だと笑い飛ばす人もいるかもしれないが、かつて湾岸戦争(1991年)の際、サダム・フセイン政権下のイラクがイスラエル第2の都市テルアビブを標的にスカッド・ミサイル攻撃を行ったことを考えると、十分想定しておかなければならないだろう。

 ナチスのホロコーストで殺害されたユダヤ人は600万人に及ぶとされるが、ガザ地区でイスラエル軍が殺害した人数はすでに1万人を超えた。ここまでくれば規模の大小はあったとしても「彼らがナチスとの違いをどうやって証明するのかという話になってくる」(ジャーナリスト木下黄太氏)のは当然で、イスラエル国内でも反戦デモが起きていることはその何よりの証拠であろう。

 世界が破局へのレールを一直線に走っていることはもはや疑いがない。このまま事態を傍観すれば、人類に2030年代は訪れないだろう。ここ数年間の国際情勢はそれほどまでに危機的で切迫の度合いを増している。

 ●現代と似ている両大戦間期~戦後世界の大きな転機

 現代と似ている時代を挙げるとすれば両大戦間期がある。第1次世界大戦終結とほぼ時期を同じくしてスペイン風邪が大流行し、各国政府が巨額の財政支出を強いられた。第1次世界大戦は、各国政府にとって国民生活とその資産(経済学用語でいうストック)を根こそぎ破壊する愚行であり、スペイン風邪対策は、国民の健康という未来に向けての大きな資産を残す代わりに巨額の紙幣を増刷しなければならない非常事態だった。この国民生活基盤の破壊と巨額の紙幣増刷、財政支出の拡大がハイパーインフレと恐慌に結びついた。そのハイパーインフレと恐慌の中からナチスが生まれ、世界は次の大戦に向かっていった。

 第1次世界大戦後に設立された国際連盟において日本が常任理事国であったことはあまり知られていない事実かもしれない。だが米国が不参加だった上、日本がアジア侵略を繰り返す中で脱退するなど機能不全に陥ったことも第2次世界大戦への引き金を引くことにつながった。国連安保理常任理事国の1つであるロシアが、すべての議案に対して拒否権を持つという有利な立場をみずからの愚行によって傷つけ、国連の権威を低下させていることも両大戦間期に似ている。

 United Nationsを国際連合と称するのは日本の外務省による「政策的・意図的誤訳」であり、本来の英語の語感としてはせいぜい「国家連合」としての意味しか持たない。これを連合国と訳している国が大半であることからもわかるように、日本政府が称するところの「国連」は第2次世界大戦の戦勝国が主導する国際秩序である。

 この国際秩序が成立してから、2025年には80年が経過する。80年がほぼ人の一生に相当することを考えると、この国際秩序の耐用年数がいよいよ切れ、世界が「次」を求める時代に突入したという程度のことは、断定しても差し支えないように思われる。

 ●日本国内~「長年の悪事」が次々露呈し次への希望も

 一方、日本国内に目を転じると、絶望の中にも一筋の希望が見えた年だったのではないか。長年に渡って隠されてきた「悪事」が次々と露呈する1年になった。そのすべてを論じる余裕も紙幅もないので、1990年代に続いて昨年再び社会問題となった「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)問題に続き、2023年に新たに明るみに出た「旧ジャニーズ事務所による性加害問題」のほか、宝塚歌劇団における団員のいじめ自殺問題を挙げておきたい。旧統一教会、旧ジャニーズ問題、宝塚歌劇団はいずれも極度に閉鎖的で多くの資本主義的利権にまみれた「ムラ」である。

 昭和の異物であるこうした「体育会的ムラ」の多くで長年の悪事が露呈した。犯罪・不正を告発しようとする被害者側と、隠蔽しようとする加害者側の闘争で、双方が傷つきながらも、そのすべてにおいて圧倒的世論の支持を受けた被害者側が勝ち、日本の「暗部」から大量の膿が出たのも2023年の特徴であると同時に、今後に向けた一筋の希望といえよう。

 旧ジャニーズによる所属タレントへの性加害問題を、最初、私は単なる芸能ニュースに過ぎず、本誌で取り上げるだけの価値はないと考えていた。それが、先々月号(2023年10月号)でこの問題を取り上げることになったのは、これこそが「ザ・ニッポンの人権問題」そのものであり、日本社会の立ち後れた人権感覚を象徴する事件なのではないかと思うに至ったからである。つい先日、執行猶予付き有罪判決が言い渡された歌舞伎俳優・市川猿之助による両親自殺ほう助事件など、今年は芸能界で重大ニュースが多かったが、これもまた梨園と称される独特の閉鎖社会の中で起きた事件である。

 社会のあちこちに風通しが悪く監視の及ばない「ムラ」が林立し、そこから犯罪が生まれ、大量の膿が流れ出たという意味で、この事件もまた「単なる芸能ネタ」で片付けられるようなものではなく、他のすべての問題と地続きである。文字通り「次」に向け動き始めた世界に日本が歩調を合わせたいのであれば、解決は避けて通れない課題だ。

 ●総崩れとなった新興宗教

 いわゆる新興宗教が総崩れとなったのも今年の特徴だ。数々の問題を起こし、安倍元首相暗殺事件で30年ぶりに社会的注目が集まった旧統一教会に対しては、文化庁が宗教法人法に基づく6回の意見聴取の末、史上初となる解散命令請求を行った(注)。請求が認められ解散命令が出された場合、旧統一教会は宗教法人格を失うが、権利なき団体としての活動は規制されない。

 旧統一教会以外を見ても、「幸福の科学」は創設者であり「教祖」でもあった大川隆法総裁が3月に死去。後継者はいないとされる。そしてこの11月18日には、創価学会の池田大作名誉会長の死去が報じられた。

 池田氏が表舞台から消えてすでに10年以上が経過し、創価学会は池田氏亡き後に向けた指導体制を確立しており、学会運営という意味では大きな影響はないというのが衆目の一致するところだ。ただ、表舞台から消えても池田氏の教えを教団の教えとして心の拠り所としてきた学会員は少なくない。これら学会員に対し、池田氏亡き後も学会がこれまでと同じような求心力を持てるかどうかは未知数というのもまた現実であろう。

 岸田政権成立後、東京での自公協力が一時は完全崩壊に至った時期もある。とりわけ東京の各級選挙において自民党系候補の敗北が続いている状況を見ると、「遺恨」がいまだに尾を引いているとする見方も一定の説得力を持っている。

 ●内政も激動の予感がする2024年

 『今回の事件は、山上容疑者の意図とは全く別として、日本政治の行方を大きく変える出来事になる可能性もあります』――「文藝春秋」2022年10月号誌上で、宗教学者の島田裕巳さんが発した不気味な「警告」を私が紹介したのはちょうど1年前、2022年12月号の本欄だった。「可能性としては高くないが、起こりうる展開のひとつ」と私はそこでは控えめに述べるに留めておいたが、2024年はいよいよ日本政治の行方が変わる年になりそうである。自民党にとって大きな集票力となってきた旧統一教会、創価学会という2大宗教勢力がいずれも時代の節目にさしかかり大きく揺らいでいるからである。これらは、自民党から民主党への政権交代(2009年)のときでさえ存在していなかった日本政界の根本的地殻変動といえる。長年癒着関係を続けてきた政治と宗教の関係をゼロベースで見直す上でかつてないチャンスが訪れている。

 保守層が自民党から離反し新たな受け皿を求めている。次回国政選挙は、日本の最大勢力である保守層が分裂したまま迎えなければならない久しぶりの選挙になる。この期に及んで、野党が小異を理由に団結できないでいるのは嘆かわしい。2024年こそ野党は自民党政権打倒のために団結できるか真価を問われる。解散総選挙が行われ、野党が団結できれば、10数年ぶりの与野党逆転や政権交代までもが視野に入る重大局面となるかもしれない。

 再び国外に目を転じると、2024年は米国、ロシア、ウクライナで大統領選挙が行われる。10月以降、パレスチナ情勢の陰に隠れる形で動向が伝えられることも少なくなっていたウクライナ戦争とその行方に再び注目が集まるであろう。これら3カ国の選挙の行方によっては停戦の動きになる可能性がある。無益な戦争に終止符を打たなければならない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は戦時中であることを理由に大統領選挙を延期するかもしれないと報じられているが、そんなことをすればそれこそロシアの思うつぼだ。「私は国民に選挙で信任を受けた。選挙をせず延期したゼレンスキー氏にウクライナ国民の代表を名乗る資格があるのか」とプーチン大統領が宣伝してくるのは目に見えているからである。私としてはできることならウクライナが正々堂々と大統領選挙を実施し、停戦に積極的な新たなトップが選ばれることを望む。

 米国大統領選挙は、いずれも80歳代のバイデン、トランプ両氏の争いになるとの見方もあるが、この世界的非常事態にそんなことでいいのか。若くて柔軟な指導者をトップに就けなければ国際社会における米国の地位のさらなる低下は免れないだろう。

 これだけの政治的要素を見るだけでも、2024年は今年とは比べものにならないほど激動の1年になると思う。私たちにとって最も大切なことは、機能不全に陥っている各国政府と国際機関に対し、人々の命と暮らしを尊重するよう強く要求していくことだ。2020年代後半がどのような時代になるかは、来年おそらく決まるだろう。

注)宗教法人に対する解散命令請求としては「アレフ」(旧オウム真理教)に対するものがあるが、こちらは破壊活動防止法に基づく団体としての解散命令請求であり、認められた場合、法人格の剥奪だけでなく、団体としても解散となり、個人としての宗教活動しかできなくなる点が異なっている。なおこの際は、公安審査委員会で解散命令請求が棄却されたため、いわゆるオウム新法を政府が新たに制定した。オウム真理教の後継団体(「アレフ」「山田らの集団」など)に対する公安調査庁による監視や聴聞などは、このオウム新法に基づくものであり、破防法に基づいて付与された権限ではない。

(2023年11月19日)

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